整備兵たちが行き交い、工具の金属音とコンプレッサーの低いうなりが響き合う中、三機のモビルスーツがそれぞれのモビルスーツハンガーに固定されていた。
ジム・ドミナンス、ペイルライダー・ヴァンガード、そしてペイルライダー・マスケッティア。
模擬戦闘を控えた機体たちは、最終チェックのために外装パネルが外され、ケーブルが這い、整備兵の手が休むことなく動き回っている。
整備班長のナガト中尉がヘルメットを小脇に抱えながらベイを回っていた。
年齢より少し老けて見える顔に、いつもの渋い表情を浮かべている。
まずヴァンガードのハンガーに立ち寄ると、若い女性整備兵のミサキ上等兵が敬礼した。
「おやっさん! ペイルライダー・ヴァンガード、整備完了です! 推進器出力チェックも問題なし、武装の模擬弾装填も完了してます!」
「よし、了解。異常はないな?」
「はい! 万全です!」
ナガトは満足げに頷き、次に隣のマスケッティアのハンガーへ向かった。
そこでは、イヤン軍曹が最後の点検を終えたところだった。
少し汗ばんだ顔をタオルで拭いながら、ナガトに報告する。
「班長、マスケッティアも整備完了です。エネルギー充填率は満タン、模擬弾の装填も済ませてあります。いつでも出撃可能です。」
「異常は?」
「一切なし。問題なく飛べます。」
「よし、頼んだぞ。」
ナガト中尉が二人の報告を聞き終えた頃、格納庫の入り口付近に三人のパイロットが集まっていた。
イーサン、ソウヤ、ヤザン——オリオン小隊の面々だ。ノーマルスーツの上にジャケットを羽織った姿で、ブリーフィング用のタブレットを見ながら話をしている。
隊長のイーサンが、いつもの落ち着いた口調で説明を始めた。
「今回の模擬戦闘は先に出撃したスペース・ウィッチーズ隊が、この先の少しデブリが散らばる宙域で待機している。俺たちオリオン小隊は、そこに待ち構える彼女たちを攻める側だ。」
ソウヤが静かに頷き、ヤザンが腕を組んでニヤリと笑う。
「要するに、向こうは守り、こっちは攻め。シンプルでいいな。」
イーサンはタブレットを閉じ、二人に向き直ると、少し声を低めて続けた。
「相手の中で一番警戒すべきは、シイコ・カタギリ中尉だ」
その名を聞いた瞬間、ヤザンの目がわずかに輝いた。イーサンは淡々と説明を続ける。
「ルナツーのアグレッサー部隊でトップクラスの実力者だ。演習の筋書きでわざと負ける役を割り当てられない限り、負けた記録がない。まさに無敗のパイロットだ。高機動戦闘のエキスパートで、特に一対一の接近戦では厄介極まりない」
ヤザンがニヤリと笑い、拳を軽く握った。
「へえ……そいつと一度やり合ってみたいね。面白そうだ。」
戦闘狂の本音が漏れる。
イーサンは苦笑いを浮かべたが、無視して話を進めようとしたその時――静かに聞いていたソウヤが、珍しく口を開いた。
「オルグレン隊長。」
イーサンとヤザンが同時にソウヤを見た。いつも冷静で、指示に対しては無言で頷くか短く返事をするだけのソウヤが、自分から進言するなど極めて稀だった。
「カタギリ中尉は射手を狙います。……だから、自分を先に潰しに来るはずです。」
イーサンの眉がわずかに上がる。
「その相手を、私にさせてください。」
ヤザンが「おいおい」と小さく声を漏らした。
イーサンは一瞬言葉を失い、ソウヤの顔をまじまじと見つめた。
「……根拠はあるのか?」
ソウヤは視線を逸らさず、静かに答えた。
「まだ自信はありません。ただ……カタギリ中尉は自分に対して、執着しているような雰囲気を感じます。それに、もし向こうがオリオン小隊を相手にするなら、まず目障りな遠距離攻撃を迅速かつ確実に潰すのがセオリーです。その役に、カタギリ中尉を充てるはずだと。」
言葉は慎重だったが、確信に満ちていた。
ヤザンは少し不満げに唇を尖らせた。
「俺だって、あの中尉と戦ってみてえんだけどなあ……」
だが、すぐに肩をすくめ、ソウヤの肩を軽く叩いた。
「まあいいや。相棒がそう言うなら任せるよ。お前ならやってくれるだろ。」
その言葉の裏には、先日のソウヤとの模擬戦闘で感じた変化があった。あの時、ソウヤはただの優秀な射手ではなく、確実に成長していた。
ヤザンはそれを肌で知っていた。
だからこそ、信じられる。
イーサンは二人を見て、わずかに口元を緩めた。
「……了解した。ソウヤ、カタギリ中尉の相手はお前に任せる。ヤザンと俺が残り二人の相手をする。」
ソウヤは静かに一歩踏み出し、イーサンの視線を真正面から受け止めながら言う。
「……オルグレン隊長。もう一つ、お願いがあります。」
その言葉に、イーサンとヤザンが同時に眉を寄せた。
いつもは指示を待つだけのソウヤが、立て続けに自分から口を開くなど、今日に限って異例だった。
イーサンはわずかに身を乗り出し、穏やかな声で促した。
「なんだ? 言ってみろ。」
ソウヤは一瞬だけ視線を落とし、それから静かに、しかしはっきりと告げた。
「出撃前に武装とポジションを……少し変更したいのですが、よろしいでしょうか?」
具体的な内容は口にせず、ただそれだけを伝えた。
ヤザンが目を丸くして、思わず声を上げた。
「おいおい、ソウヤ。お前がそんなこと言うなんて珍しいな。……なんか企んでんのか?」
ソウヤは答えず、ただ小さく首を振った。
イーサンはソウヤの顔をじっと見つめ、やがて口元に柔らかな笑みを浮かべた。
(……成長したな)
心の中でそう呟く。
これまでソウヤは、与えられた機体と装備を完璧に使いこなす優秀な射手だったが、自分から戦い方を変えようとする積極性はあまり見せなかった。
それが今、明確な意志を持って「変更」を申し出ている。
それは、ただの気まぐれではない。
ソウヤなりの覚悟が、そこにあるとイーサンは感じ取った。
イーサンは小さく息を吐き、苦笑いを漏らした。
「今からそんな急な変更を申請したら……ケンの奴が困惑するだろうな。あいつは急な予定変更が大嫌いだからな。」
ヤザンが「確かに」と肩をすくめて笑う。
それでもイーサンは、迷いなく頷いた。
「だが、お前の頼みだ。……了解した。俺からケンに話を通しておく。お前は直接イヤン軍曹に詳細を伝えてくれ。」
ソウヤの表情が、ほんのわずかに緩んだ。
「……ありがとうございます。」
ヤザンがソウヤの背中を軽く叩き、ニヤリと笑った。
「まあ、何企んでるかは知らねえけどよ……楽しみにしとくぜ、相棒。」
三人はそれぞれの機体へと歩き出す。
格納庫の喧騒の中で、ソウヤの背中がいつもより少し大きく見えた。
まず、ヤザンがペイルライダー・ヴァンガードのコックピットのハッチを開ける。
操縦席に体を滑り込ませると、すぐにコンソールが起動、ファンの低い唸りが響き始めた。
足場に立っていたミサキ上等兵が、ヘルメットを片手に声を上げる。
「ヤザン! ヴァンガードの整備状況は異常なし! 推進器バランスもバッチリだよ!」
ヤザンはヘルメットを被りながら、軽く手を振っただけで返事をする。
「ああ、わかったわかった。いつもありがとな。」
明らかに聞き流している。
ミサキは少し頬を膨らませたが、すぐに笑顔に戻って拳を握った。
「活躍してこいよ、ヤザンさん! 派手に暴れてきな!」
ヤザンはニヤリと笑い、親指を立てる。
「了解、任せとけ。」
ハッチが閉まり、ヴァンガードの目が青く光った。
次にイーサンがジム・ドミナンスの前に立ち、コックピットに乗り込む。
システムチェックを始めると、足場からナガト中尉の声が飛んだ。
「イーサン、ドミナンスは万全だ。……しかしなあ」
ナガトは小さく舌打ちし、ヘルメットを軽く叩いた。
「折角の模擬戦だから、マスケッティアのあの装備の貴重なデータが……急な変更でパーだ。」
イーサンはモニター越しに苦笑いを浮かべる。
「すまないな、ケン。俺も急なお願いで。」
ナガトはため息をついたが、すぐに表情を緩めた。
「まあいいさ。最近のソウヤは違う。先日のヤザンとの模擬戦で積極的に動いてたし、今日も自分で武装変更を進言するなんて……成長してるよ、あいつは。」
イーサンは静かに頷いた。
「ああ。俺もそう思う。」
ナガトは少し照れくさそうに鼻を掻き、イーサンに向き直る。
「お前も、あまり無茶はするなよ。ドミナンスじゃあ、ペイルのフォローも限界がある。」
イーサンは軽く笑って返した。
「分かった分かった。心配性だな、お前は。」
ジム・ドミナンスのハッチが閉まる。
最後にソウヤがペイルライダー・マスケッティアのコックピットに乗り込み、操縦席に体を預けるとメインシステムを起動させ、モニターに格納庫の景色が広がる。
足場に上がってきたイヤン軍曹がヘルメットのバイザーを上げて声をかけた。
「タカバ少尉、武装変更完了です。指定通りにセッティングしましたよ。」
ソウヤは少し声を低めて答えた。
「……急なお願いで、申し訳ありません。」
イヤンはタオルで手を拭いながら、肩をすくめた。
「いいですよ。班長は口では文句言ってましたが、結局急いで仕上げてくれました。あの人、少尉のこと相当期待してるんですよ。」
ソウヤはモニター越しにイヤンを見た。
「……そう、ですか?」
「ええ。あなたが自分で考えた戦い方なんですよね? だったら、しっかり結果を出してください。」
イヤンは親指を立て、タラップを降りていく。
ソウヤは静かに目を閉じ、一度深呼吸した。
(……負けられないな)
ペイルライダー・マスケッティアの瞳が、静かに光輝いた。
最初に動き出したのはイーサンのジム・ドミナンスだ。
重厚な足裏が金属床をしっかりと捉え、ゆっくりとカタパルトに乗る。
拘束クランプが固定され、射出準備が整う。
ブリッジから、聞き慣れた女性の声が通信に入った。
「オリオン小隊、こちらバイアリーターク・オペレーターのナタリア・アルスター少尉です。」
イーサンは落ち着いた声で応答する。
「こちら、オリオン小隊長イーサン・ミチェル・オルグレン少佐、発進許可を申請する。」
「申請了承。カタパルトクリア。オリオン1、発進を許可します。」
カタパルトデッキのランプが緑に切り替わった。
「了解した!オリオン1、ジム・ドミナンス出るぞ!」
カタパルトが作動し、ジム・ドミナンスが一瞬で加速する。
艦の左舷格納庫から青白い推進光を残して宇宙空間へと飛び出した。
次にペイルライダー・マスケッティアがカタパルトに進む。
軽やかな足取りでレールに乗ると、ソウヤが通信スイッチを入れる。
「こちらオリオン2。発進許可の申請をお願いします。」
ナタリアの声が、少し柔らかい調子で返ってきた。
「オリオン2、発進を許可します。……それと、ハーツクライ艦長が『タカバ少尉に期待している』と伝えてくれっと。」
ソウヤは一瞬、モニターを見つめたまま沈黙した。
「……了解しました。」
心の中でわずかに動揺を覚えつつ、ソウヤは姿勢を正す。
「オリオン2、ソウヤ・タカバ少尉!ペイルライダー・マスケッティア発進します!」
マスケッティアが射出される。
細身の機体がカタパルトの加速を活かし、優雅に宇宙へと滑り出していった。
最後にペイルライダー・ヴァンガードがカタパルトに足を乗せた。
ヤザンは操縦席に深く体を預け、ニヤリと笑っている。
(初めての小隊同士の宇宙での模擬戦か……楽しめそうだぜ。)
通信を開き、気軽な口調で告げた。
「こちらオリオン3、発進許可をくれよ、ナタリアちゃん。」
「オリオン3、許可します。……ちゃん付けはやめてください。」
「ははっ、悪い悪い」
「オリオン3!ヤザン・ゲーブル!ヴァンガード行くぜ!」
ヴァンガードが激しい加速し、飛び出す。
推進器の光が一際強く輝き、すぐにドミナンスとマスケッティアに追いつく形で編隊を組んだ。
バイアリータークの艦影が背後に遠ざかっていく。
オリオン小隊の三機は、静かな宇宙空間を切り裂きながら、スペース・ウィッチーズ隊が待ち構えるデブリ宙域へと向かった。
デブリが散らばる宙域は、静寂に包まれていた。
巨大なコロニー外壁の破片や、過去の戦闘で散逸した金属片が無数に漂い、太陽光を不規則に反射している。
その影に、二機のジム・コマンドが息を潜めていた。
一機は、コロニーの外壁デブリにしっかりと張り付き、センサーを展開して監視態勢を取っている。
操縦するのはライラ・ミラ・ライラ准尉だ。
ライラはモニターを睨みながら、通信で隊長のボカタに報告した。
「ボカタ隊長、オリオン小隊がもうすぐ到達する時間です。もうすぐカメラで視認できる距離に入ります。」
僚機の位置にいるボカタの声が、落ち着いた調子で返ってきた。
「了解。距離は?」
「約2000……もう少しでカメラにも捉えられます。」
ボカタは小さく息を吐き、忠告するように続けた。
「相手は宇宙戦闘の経験がまだ浅い。特にヤザン・ゲーブルとソウヤ・タカバの二人はな。だが、先日の模擬戦を見ただろう。あの短期間で、二人とも宇宙での機動のコツを掴み始めている。油断はするな。」
ライラは少し鼻を鳴らした。
「隊長、相手がどれだけ成長しようと、私たちはルナツーのアグレッサー部隊ですよ? 筋書でわざと負ける役を割り当てられない限り、負けた記録なんてありません。負け知らずの私たちに、経験の浅い連中が勝てるはずないじゃないですか。」
通信越しにボカタの静かな溜息が聞こえた。
「ライラ准尉、慢心するな。」
その声は穏やかだったが、どこか鋭い響きを帯びていた。
「敵は常に、予想を超えてくるものだ。特に……シイコが狙っているあの射手は、ただのパイロットじゃない。あの『オデッサの新星』だ。」
ライラは一瞬黙り、それから小さく笑った。
「分かってますよ、隊長。でも、シイコ中尉が本気を出したら、あのオリオン小隊なんて一瞬で片付きますって。」
ボカタはそれ以上は何も言わず、ただ静かにセンサーの数値を確認した。
デブリの影の向こうから、三つの推進光が近づいてくる。
オリオン小隊の三機が、編隊を保ったまま宙域に侵入してきた。
スペース・ウィッチーズ隊の伏兵は、静かに牙を研いでいた。
ライラのジム・コマンドのメインカメラが遠くの闇を切り裂く三つのスラスター噴射光を捉えた。
最初は小さな光点だったが急速に大きくなり、モニターにぼやけた輪郭が浮かび上がる。
距離がまだ遠いため、ジム・コマンドの光学センサーとメインカメラでは機体の細部まではっきりと映らない。
それでも、陣形は明確だった。
前に二機、後方に一機。
典型的なVフォーメーション。
ライラはすぐに判断を下す。
「予想通りですね。後方に控えてるのが『オデッサの新星』のマスケッティア……あの射手を守る形の陣形ですね。」
通信でボカタに映像データを送信しながら、ライラは満足げに呟いた。
ボカタも送られてきたデータを確認し、静かに頷く気配が伝わってきた。
「やはりな。私たちの読み通りだ。」
自信が声に滲む。
ライラはもっと詳しく武装や機体識別を確認しようと、ジム・コマンドの姿勢をわずかに変え、コロニー外壁のデブリから上半身を少しだけ乗り出した。
スラスターを微調整し、カメラをズームアップする。
その瞬間――前衛の左側に位置する一機が突然ビームライフルの銃口をこちらに向けた。
ライラのモニターに赤い警告マークが点滅し、警報音がコックピット内に響く。
ボカタの声が急を帯びて割り込んだ。
「ライラ、隠れろ!」
ライラはしかし、すぐに反応せず、半ば呆れたように返した。
「あの距離じゃヤザンのヴァンガードじゃ当たら――」
その言葉は最後まで言い終わらなかった。
前衛の機体が、ビームライフルを発射した。
モニター上に、鮮やかな赤色のビームの軌跡がコンピューター処理で描画される。
同時に、カメラが捉えた光の変化から生成された「シュン」という高周波の射撃音がスピーカーから流れた。
次の瞬間、ライラのジム・コマンドの頭部からわずか数メートル離れた位置に、赤い命中マーカーが点灯。
模擬戦闘用の判定システムがデブリの表面に仮想のヒットエフェクトが薄く重ねられた。
「……!?」
ライラの目が見開かれた。
そして、間髪入れず二発目。
今度は明確に、ジム・コマンドの頭部を狙った軌道が描かれる。
コンピューターが再び射撃音を合成し、ビームの光線がモニター上を駆け抜ける。
「っ!」
ライラは慌ててスラスターを逆噴射させ、機体を横に滑らせる。
コックピット内で、ライラは困惑と動揺を隠せない。
(あの距離で……? いや、ヤザンのヴァンガードじゃ、あそこまで正確な射撃はできないはずだ!)
通信にボカタの怒りが交じった低い声が割り込んだ。
「ライラ……だから慢心するなと言っただろう。」
ライラは言葉を失う。
ボカタは静かに、しかしはっきりと続けた。
「後方にいるのはヤザンのヴァンガードだ。前衛の、あのビームを放った機体がタカバ少尉のマスケッティアだ。」
ライラはモニターを凝視し、ぼやけたシルエットをもう一度確認した。
確かに……ペイルライダーの二機はシルエットが似ている。
カメラ性能が低いジム・コマンドでは遠距離では判別が難しい。
しかも、ソウヤはいつも後方で射撃支援を担当する。
それがオリオン小隊の定石だった。
だからこそ、誰もが「後方がソウヤ・タカバ」と決めつけた。
慢心していた。
そして今、ライラが慌てて回避行動を取ったことで、ジム・コマンドのスラスターが青白く輝き、その噴射光が宇宙空間に鮮明に映った。
位置が完全に露わになってしまった。
ボカタの声が、再び響く。
「位置がバレた。シイコ、準備しな。……戦闘開始だよ。」
遠くで、オリオン小隊の三機が加速を強め、こちらに向かってくる。
オリオン小隊の三機は、Vフォーメーションを維持したまま加速を続けていた。
ペイルライダー・マスケッティアの頭部の精密射撃用のスコープバイザーがスムーズに額に移動し、隠されていたゴーグル型のデュアルセンサーが露わになった。
高倍率カメラが瞬時に焦点を合わせ、遠くのデブリに隠れるジム・コマンドのシルエットを鮮明に捉える。
ソウヤは静かに歯を食いしばった。
(……撃破できなかったか)
二発の射撃は相手の位置を炙り出すには十分だったが模擬判定での致命ダメージまでは与えられなかった。
通信が開き、イーサンの落ち着いた声が流れる。
「問題ない、ソウヤ。相手のアンブッシュを崩し、一機を炙り出せた。それで十分だ。」
続いて、ヤザンの楽しげな笑い声が割り込んだ。
「ははははっ! いきなり前衛からあんな正確な遠距離射撃食らったら、向こうは面食らっただろうよ。いつも後ろで大人しくしてるソウヤが前に出てぶっ放すなんて、予想外だからな。」
ソウヤはスコープ越しの敵機を追う。
イーサンは声を少し引き締めた。
「だが、待ち伏せを崩された相手は本気で仕掛けてくる。気を引き締めろ。」
ヤザンが即座に返事をする。
「了解しました。さて、狩りの時間だ。」
イーサンはモニターの戦術マップを確認し、素早く指示を出した。
「位置は特定できた。まずあのジム・コマンドを集中攻撃で仕留める。ヤザン、お前は周辺の警戒を頼む。」
「りょーかい!」
「ソウヤ、俺と一緒に攻撃だ。」
ソウヤは静かに応答した。
「了解しました。」
ジム・ドミナンスが二連ビーム・ライフルを構え、ジム・コマンドに照準を合わせる。
隣を並走するマスケッティアは、ハイパービームライフルを両手でしっかりと抱え、敵機をロックオンする。
二機がほぼ同時に射撃を開始した。モニター上に、赤色のビーム軌跡が複数描画される。
コンピューターが合成した「シュン、シュン」という連続射撃音がコックピットに響く。
対するライラのジム・コマンドはデブリの影を巧みに利用して機体を滑らせる。
スラスターを短く噴射し、コロニー外壁の破片を盾にしながら、横方向へ急移動。
仮想ビームが次々とデブリの表面に命中マーカーを残すが、肝心の機体本体には当たらない。
一発、また一発。
ライラの回避は見事だった。
デブリの配置を熟知しているかのように死角を縫って移動し、射線を外し続ける。
イーサンは通信で、感嘆混じりに呟いた。
「流石はルナツーで最強と呼ばれるアグレッサー部隊のメンバーだ……簡単には落とせないか。」
しかし、その声には焦りはない。ソウヤのマスケッティアが、再びハイパービームライフルを構え直す。
スコープ越しのデュアルセンサーが、ライラのジム・コマンドの動きを追い、ロックオンを更新しようとしたその瞬間――コックピット内に、鋭い警戒音が鳴り響いた。
「っ!」
ソウヤは咄嗟にスラスターを横噴射させ、機体を急旋回させる。
ほぼ同時に、イーサンのジム・ドミナンスも左へ大きく機動した。
デブリの影から飛び出してきたのは、ボカタのジム・コマンドだった。
ビーム・ガンを構え、至近距離から連続で射撃を放つ。
モニター上に赤い光の軌跡が三本描かれ、コンピューターが合成した射撃音が連続して響く。
仮想命中マーカーがマスケッティアのシールドに一つ、ジム・ドミナンスの肩部に一つ点灯する。
イーサンが低い声で吐き捨てた。
「もう一機か……!」
ソウヤとイーサンは即座に機体を立て直し、ボカタのジム・コマンドに銃口を向け直そうとする。
だが――その瞬間。
ソウヤの頭に電流が走ったような鋭い直感が閃いた。
同時に、獲物の匂いを嗅ぎつけた獣のようにヤザンも頭上を見上げ、鋭く叫ぶ。
「真上だ!!」
漆黒の宇宙空間に、微かだが確かに残る青白いスラスター噴射の痕跡。
わずかに残った粒子が、かすかな軌跡を描いて消えかけている。
ヤザンのヴァンガードが、頭部のバルカン砲を即座に上方へ向けた。
ソウヤのマスケッティアもバックパックに装備された小型4連ミサイルランチャーから、素早く二発のミサイルを射出する。
バルカン弾の曳光とミサイルの推進光が一直線に直上へと駆け上がる。
次の瞬間、虚空に潜んでいた影が強制的に姿を現した。
青白い軌跡が鮮やかに描かれ、漆黒の宇宙に高機動で移動する機体が浮かび上がる。
バルカン弾が周囲を薙ぎ、ミサイルが至近で爆発判定を発生させ、相手の機体に複数の仮想命中マーカーを強制的に点灯させた。
ヤザンの声が通信機から響いた。
「ソウヤ、魔女が来たみたいだぜ。」
お待たせしましたー!
オリオン小隊VSスペース・ウィッチーズ隊の小隊模擬戦の回です!
ソウヤ達の本格的な宇宙戦が始まりました。
続きは明日の朝に投稿しますので、お楽しみに~♪
感想など、お待ちしております。
【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?
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陸戦型ジム改
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バイアリーターク
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ペイルライダー・ヴァンガード
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ペイルライダー・マスケッティア
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ヴァルキリー
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グフ・ノクターン