機動戦士ガンダム オリオンの軌跡   作:浅片名羽馬

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第27話 この戦争の中の片隅で【上】

宇宙世紀0079年12月24日

 

 

地球連邦軍はジオン公国の防衛ラインを崩すべく、作戦名「チェンバロ作戦」を発動した。

連邦軍はジオン防衛ラインの要であるア・バオア・クー、グラナダ、そしてソロモンの三要塞のうち、まずソロモンを標的とした。

サイド4の残骸宙域から接近した第3艦隊は、パブリクによるビーム撹乱幕を展開しつつモビルスーツ部隊を先行させ、攻撃を開始。

この第3艦隊は囮に過ぎず、サイド1残骸に潜伏していたティアンム中将率いる第2連合艦隊は多数の小型ミラーパネルを展開して巨大な凹面鏡を形成する兵器――ソーラ・システムの配置を完了。

ソーラ・システムは、太陽光を反射・集束させて目標に超高熱を照射する戦略兵器であり、核兵器使用を禁じる南極条約下で開発された非核超兵器だった。

強大な太陽光を集束させた照射はソロモンの第6スペースゲートを一瞬で蒸発させ、繋留艦隊にも壊滅的被害を与え、

ソロモンの防御網に決定的な穴を開けた。

第2連合艦隊は直ちにモビルスーツを発進させ、ソロモン攻略の本格化へ移行。

対するジオン軍はドズル・ザビ中将の指揮の下、モビルスーツ部隊を後退させ水際作戦へ転換。ドズル自身は新型モビルアーマー・ビグ・ザムに搭乗して出撃し、連邦軍の進攻を阻止せんと奮戦した。

しかし、ソロモン内部への連邦軍侵入を許した時点で要塞放棄を決断。

ドズルは脱出部隊の殿を務め、第2連合艦隊旗艦タイタンを撃破する。

だが、ホワイトベース隊のガンダムによって、ビグ・ザムは撃破され、ドズル・ザビは戦死した。

ソロモン攻略は連邦軍の勝利に終わり、一年戦争の終盤を告げる大きな転機となった。

 

 

 

 

 

その頃、サイド6宙域をペガサス級強襲揚陸艦4番艦のバイアリータークが静かに航行していた。

表向きの任務は中立コロニー群であるサイド6の治安維持活動のためのパトロールだった。

ジオン軍は南極条約を無視し、サイド6宙域での戦闘、コロニー内部でのモビルスーツ戦闘を繰り返してきた。

そのため連邦軍は「治安維持」の名目でサラミス級巡洋艦を数隻派遣しており、バイアリータークはその支援という形で派遣されることになった。

しかし、バイアリータークの本当の任務は別にある。

サイド6宙域を経由し、ジオン公国の最終防衛ラインである宇宙要塞ア・バオア・クーへの偵察に向かうこと、それが真の目的だった。

中立を宣言するサイド6を通ることで、治安維持活動を理由にできるため、弾薬以外の燃料や食料などの補給はサイド6のコロニーから堂々と受けられる。

バイアリータークは表向きの任務であるパトロールをしながら、補給が受けられるサイド6のコロニーの一つ、リボーを目指していた。

バイアリータークの食堂は、ささやかなクリスマスの装飾が施されていた。

壁には手作りの紙製ガーランドが掛けられ、

テーブルには小さなプラスチック製のツリーが置かれ、

天井からは星形の飾りがゆらゆらと揺れている。

戦争中とは思えないほど穏やかな雰囲気だった。

出される食事も、今日は特別だ。

クリスマスを意識したメニューで、メインは黄金色に焼き上げられたチキンレッグ。

付け合わせにマッシュポテトと温野菜、

デザートには小さなケーキまで用意されていた。

その食堂のテーブルの一つにヤザンとソウヤは向き合うように座り、食事を楽しんでいた。

ヤザンのトレーには、チキンレッグが山積みになっていた。

6本、いや7本は軽くありそうだ。

ヤザンは豪快にチキンレッグを掴み、むしゃむしゃとがっつくようにかぶりついていた。

肉汁が口元に滴り、満足げに目を細めながら、次から次へと骨をきれいにしていく。

ソウヤはその様子を見ながら、自分のトレーから一本のチキンレッグを手に取り、肉をほおばっていた。

ヤザンが骨をトレーに放り投げながら、ニヤリと笑う。

 

「クリスマスってのに、戦場でチキンかよ。皮肉なもんだなあ。」

 

ソウヤは小さく苦笑し、フォークでマッシュポテトをすくいながら答えた。

 

「確かにな、こうでもしないと季節感を感じられないな。でも、生きてチキンが食えるだけで贅沢だよ。」

 

ヤザンは「ははっ!」と大笑いし、また新しいチキンレッグに手を伸ばした。

 

「まあ、そうだな。お前らしい言い方だぜ、ソウヤ。」

 

二人はしばらく、黙々と食事を続けた。

戦争の喧騒から離れた、ほんの少しの穏やかな時間。

その静けさも長くは続かないことを二人とも知っていた。

すると、2人が座っている席に誰かが近づいてきた。

足音が軽く、トレーを抱えた気配がする。

 

「ここ、空いてる? 相席、いいかしら?」

 

声の主は、シイコだった。

その隣には、ライラが少し緊張した様子で立っていた。二人はそれぞれ食事の乗ったトレーを持っている。

シイコは自然な笑みを浮かべながら、テーブルに視線を向けて尋ねた。

ソウヤはフォークを置く手を一瞬止め、少し戸惑いの色を浮かべた。

先日の模擬戦でのシイコの執念――あの異常なまでの自分に向けられた熱い視線を思い出し、

どう対応すればいいか、わずかに迷った。

ヤザンはチキンの骨をトレーに放りながら、ニヤリと笑って肩をすくめた。

そして、片手でテーブルを軽く叩いた。

 

「おう、構わねえよ。座れ座れ。」

 

その仕草は荒っぽい見た目とは裏腹にどこか丁寧で、相手を気遣うような優しさがにじんでいた。

ソウヤも、遅れて小さく頷いた。

 

「……どうぞ。」

 

シイコは迷わず、ソウヤの横の席に腰を下ろした。

トレーを置く動作も優雅で、自然とソウヤに近い位置を選ぶ。

ライラは少し躊躇いながら、ヤザンの隣の空いていた席に座った。

模擬戦で、ヤザンにボコボコにされた記憶がよほど鮮明だったのか、

視線を少し逸らし気味にトレーを置く手がわずかに震えていた。

シイコはチキンレッグを手に取りながら、

ソウヤの方を向いて微笑んだ。

 

「今日はクリスマスメニューね。艦内も少し華やかで、いい気分転換になるわ。」

 

ソウヤはマッシュポテトを口に運びながら、曖昧に頷いた。

 

「……ええ、そうですね。」

 

ヤザンは隣のライラに視線をやり、ニヤニヤしながらチキンをかじった。

 

「お嬢ちゃん、また俺の隣かよ。縁があるなあ。」

 

ライラは顔を少し赤らめ、小声で返した。

 

「……た、たまたまです。」

 

ヤザンはその様子を見て、笑いを漏らした。

 

「うん、苦手意識か?まあ、あの模擬戦じゃ俺も本気でお嬢ちゃんを狩ろうとしたからな。今はオフだぜ、そんな怖い顔しなくていい。」

 

ライラはトレーを見つめたまま、

さらに顔を赤くして俯いた。

 

「……そ、そういうわけじゃ……」

 

シイコはそんなやり取りを横目で見ながら、再びソウヤに視線を戻した。

その瞳には、穏やかな笑みの奥に熱い何かが確かに宿っていた。

ライラはトレーを見つめたまま、少し躊躇うように口を開いた。

 

「……シイコ中尉。あの、模擬戦の始末書……書き終わりましたか?」

 

突然の質問に、シイコはチキンレッグを置いて、

小さくため息をついた。

 

「ええ、ようやくね。ボカタにこっぴどく怒られて、『貴重な試作機を傷つけるリスクがある』だの、『ルールはルールだ』だの、散々言われたわ。結局、始末書三枚も書かされたのよ。」

 

少し愚痴っぽく言いながらも、どこか自嘲気味に笑う。ヤザンはそれを聞き、目を輝かせて身を乗り出した。

 

 

「おお、スティグマ攻撃か!魔女さんの必殺技だろ?ソウヤに仕掛けるほど本気だったってことは、相当ヤバかったんだなあ!」

 

ニヤニヤと笑いながら、テーブルの下でソウヤの足を軽く小突いた。

ソウヤは少し照れくさそうにマッシュポテトをフォークで突きながら答えた。

 

「……いや、カタギリ中尉はシールドにしか掛けてなかった。本体を避けた配慮があったから、俺はそれを読んで対処できただけだ。もし、本来のやり方の機体本体にワイヤーを食い込ませる形で仕掛けられていたら、間違いなく負けていたと思う。」

 

シイコが驚いたようにソウヤを見た。

正確な分析。

そして、自分の実力を正当に評価し、謙虚に認める姿勢。

胸の奥が熱くなった。

 

(……あなたは本当に私のことをちゃんと見てくれていたのね)

 

シイコは小さく息を吐き、微笑みを深めた。

 

「……ありがとう、タカバ少尉。そんなふうに言ってもらえると、始末書を書かされた甲斐があった気がするわ。」

 

ヤザンは「ははっ!」と大笑いした。

 

「いやー、相棒が褒められてるの聞くと、こっちまで気分いい!魔女さんも、相当本気だったんだなあ。」

 

シイコはヤザンに視線を移し、ふと、ライラの方を見て、悪戯っぽく笑った。

 

「ライラ、素敵な話題を提供してくれてありがとうね。

お礼に後でみっちりシミュレーターで相手してあげるわ。私も、まだまだ練習が必要みたいだから。」

 

ライラは顔が一瞬で青ざめた。

 

(……しまった!?)

 

シイコのスパルタなシミュレーター訓練の記憶が脳裏に蘇る。

 

何時間も高機動戦を繰り返し、容赦なくスティグマ攻撃で死角から襲ってくる魔女の指導。

 

ライラは大きく首を横に振った。

 

「い、いえ! そんな、わざわざ……!」

 

ヤザンはそれを聞いて、さらに大笑いした。

 

「おいおい、お嬢ちゃん、顔真っ青じゃねえか!俺も付き合ってやろうか?三人でやれば、もっと面白くなるぞ?」

 

ライラは完全に狼狽え、トレーを見つめて俯いた。

 

(前門のカタギリ中尉!後門のヤザン曹長だと……!?)

 

シイコはくすくすと笑い、ソウヤに視線を戻した。

 

「タカバ少尉も、よかったら一緒にどうです?今度はシミュレーターで本当のスティグマ攻撃を披露しますよ。」

 

ソウヤは苦笑しながら頷いた。

 

「……検討しときますね。」

 

 

シイコは少し身を乗り出して、ソウヤの目をまっすぐに見つめた。

 

「約束よ。次は、私があなたを本気で狩る番だから。」

 

その声は穏やかだったが、どこか甘く、熱を帯びていた。

 

ソウヤはフォークを握る手がわずかに止まり、視線を逸らした。

 

ヤザンはニヤニヤとその光景を眺めた。

シイコは満足げにチキンレッグを一口かじり、さらに言葉を続けた。

 

「それに、オリオン小隊は本当に強いわ。タカバ少尉の読みとヤザン曹長の戦闘センスは、私たちが相手したルナツーのどの部隊よりも強かったわ。」

 

ヤザンは胸を張った。

 

「当たり前だ!俺たちオリオン小隊は、オデッサ、ジャブロー、キャリフォルニア・ベースの激戦を潜り抜けたんだ!そこらの部隊の連中と一緒にされたら、困るぜ!」

 

ライラはようやく顔を上げ、小声で呟いた。

 

 

「確かに、……オリオン小隊は強かったです……甘く見てました…。」

 

シイコは優しく、しかしどこか対抗心を滲ませて微笑んだ。

 

「でも、私たちスペース・ウィッチーズも負けないわ。次は本気でリベンジさせてもらうんだから。」

 

ソウヤは静かに口を開いた。

 

「……また模擬戦、やりましょう。その時は俺たちも全力です。」

 

シイコの瞳が輝いた。

 

「ええ、楽しみにしてるわ。」

 

ヤザンはふと口を開いた。

 

「そういやよ。サイド6の治安維持活動って、なんかおかしくねえか?」

 

シイコとライラが、わずかに手を止めてヤザンを見た。ソウヤもフォークを置き、

静かに問い返した。

 

 

「おかしい?」

 

ヤザンは肩をすくめ、少し声を低めて続けた。

 

 

「ジオンが南極条約無視しするのは、いつものことだがよ。最初の騒ぎはホワイトベースがいたから仕方ねえとしてもだ。あれが去った後でも、リボーコロニー内で駐留部隊とドンパチやって、その後も同じ宙域で衝突、さらにコロニー内部でまた戦闘だぜ?」

 

ヤザンはチキンレッグを掴み、一口かじってから、

ぼそりと付け加えた。

 

「中立コロニーなのに、なんであいつらそんなに執着してんだ?何か、狙ってるもんがあるんじゃねえのか?」

 

テーブルの空気がわずかに重くなった。

 

シイコはチキンレッグを置いて、ソウヤの横顔をちらりと見てから発言した。

 

「……確かに、不自然ですよね。中立なのに、ジオンも連邦も……何か、大きな理由があるのかしら?」

 

ソウヤは静かに頷き、

穏やかな声で言った。

 

 

「確かに、不思議だと思ってる。ホワイトベースがいなくなった後も、サイド6が繰り返し戦場にする理由が……わからない。」

 

ヤザンはトレーのチキンレッグに手を伸ばしながら、軽く笑った。

 

「まあ、戦争ってのはそういうもんだろ。表向きの理由と、本当の理由が違うのが普通だ。」

 

その言葉にテーブルが一瞬静かになった。

ソウヤは小さく頷き、

呟いた。

 

「……そうだな。俺たちは、与えられた任務を忠実にこなすだけだ。」

 

シイコもチキンレッグを一口かじり、

穏やかに微笑んだ。

 

「ええ、そうね。上層部の思惑なんて、私たちには関係ないわ。」

 

ライラはトレーを見つめたまま、

小さく息を吐いて頷いた。

 

「……はい。」

 

不穏な話題は、そこで自然に終わった。

 

ヤザンはすぐにいつもの調子に戻り、新しいチキンレッグを豪快に掴んだ。

 

「まあ、考えすぎても腹が減るだけだぜ!クリスマスなんだ、食事を楽しもうぜ。」

 

シイコはくすくすと笑い、ソウヤは苦笑しながらもデザートの小さなケーキに手を伸ばした。

ライラもようやく顔を上げ、温野菜を口に運び始めた。

四人は、再び穏やかな会話に戻った。

ヤザンがこれまでの戦場のエピソードを大げさに語り、

シイコがそれをからかう、ソウヤが相槌を打ち、ライラが時折笑う。

トレーのチキンレッグは次々と減っていき、マッシュポテトも温野菜も、そして小さなケーキも、きれいに平らげられた。

食事が済む頃には、食堂のクリスマス装飾が少しだけ明るく感じられた。

4人はトレーを片付け、席を立った。

 

 

 

 

 

四人はトレーを返却し、食堂の出口へと向かった。

食堂を出ると、艦内の照明は普段通りの白い光で無機質な廊下が続いていた。

 

「腹いっぱいになったぜ。これで少しは寝られるな。」

 

ヤザンが伸びをしながら、軽く肩を回した。

 

「先まではオリオン小隊が緊急対応待機だったからな。

 

ソウヤは頷き、静かに言った。

 

「ええ、次は私達、スペース・ウィッチーズ隊の番ですね。2人ははゆっくり休んでくださいね。」

 

シイコはソウヤの横を歩きながら、自然に会話に加わった。

 

「任せてください。ウィッチーズがしっかり警戒しますから、安心して休んでください。」

 

ライラは少し打ち解けた様子で、控えめな口調で付け加えた。

ヤザンは振り返り、ニヤリと笑う。

 

「おう、頼んだぜ。魔女さんが緊急対応してくれるなら、ゆっくりと眠れそうだぜ。」

 

シイコはくすくすと笑い、ソウヤに視線を向けた。

 

「任せて。でも、タカバ少尉は……休み時間に少しシミュレーターで宇宙戦闘の練習はどうかしら?」

 

ソウヤは苦笑し、首を軽く振った。

 

「……今日は、ちゃんと休みます。」

 

シイコは少し残念そうに唇を尖らせたが、すぐに微笑みに戻した。

 

「わかったわ。じゃあ、しっかり休んでね。次に会うときは、また全力で。」

 

4人は格納庫方面と居住区方面で分かれる通路に差し掛かった。

オリオン小隊のソウヤとヤザンは居住区へ、スペース・ウィッチーズ隊のシイコとライラは右舷格納庫方面へ。別れ際、シイコは振り返り、ソウヤに小さく手を振った。

 

「メリークリスマス、タカバ少尉。」

 

ソウヤは少し照れくさそうに、しかしはっきりと答えた。

 

「メリークリスマス、カタギリ中尉。」

 

二組はそれぞれの方向へ歩き去った。

ソウヤとヤザンは居住区まで移動し、

それぞれの部屋へと別れた。

ヤザンは自分の部屋のドアを開けながら、

軽く手を上げて言った。

 

「おう、ソウヤ。おやすみだぜ。

クリスマスだから、いい夢見ろよ。」

 

ソウヤは小さく頷き、

自分の部屋に入った。

部屋は狭く、

壁際にベッドと小さなロッカー、

デスクがあるだけだった。

艦内の居住スペースはパイロットといえども贅沢なものではない。

ソウヤは軍服を脱ぎ、ロッカーに掛けた。

シャツ一枚になり、ベッドに体を潜らせる。

疲れが、じわりと体に染みてきた。

先程までの食堂の賑やかさ、シイコの熱い視線、ヤザンの笑い声、ライラの狼狽えが遠い記憶のように感じられた。

ソウヤはそのままベッドに横たわり、天井の照明は自動で暗くなり、部屋は静寂に包まれる。

瞳を閉じると、すぐに眠気が訪れた。

 

 

ソウヤは不思議な夢を見た。

果てしなく広がる、水色の光の海。

最初は、深い海の底に沈んだと思った。

だが、水の重みも、息苦しさも、抵抗する冷たさもなかった。

ただ、無重力の宇宙のように体が優しく浮かび、漂うだけ。

その蒼い光の海を赤、白、黄色、緑――無数の色の楕円が光の粒となって渦を巻いていた。

小魚の群れのように一つの中心をめぐり、絡まり、離れ、再び寄り添い、静かに永遠に回る。

ソウヤはその光景に心を奪われた。

美しく、優しく、どこか懐かしく、胸の奥が温かくなる。

まるで、母の胎内に戻ったような、安らぎだった。

すると、ふと――視線を感じた。

誰かが、自分を見ている。

ソウヤは渦の中心へと目を向けた。

そこに、二つの人影が静かに立っていた。

 

その瞳は憤怒と憎悪、深い悲しみを宿しながら、それでも、かすかな感謝の光を湛えていた。

ソウヤは困惑した。

なぜ、そんな目で自分を見るのか。

その二つの人影に近寄ろうとした。

手を伸ばし、必死に進もうとした。

だが、体は動かない。

強い流れが、後ろへ、後ろへと、容赦なく押し流す。

流れは次第に激しくなり、この蒼い世界から、ソウヤを追い出そうとする。

光が遠ざかり、人影が霞み、渦が崩れていく。

 

息が詰まる、溺れる。

その瞬間、ソウヤは目を覚ました。

部屋は暗く、艦内の低い機械音だけが静かに響いていた。

額に冷たい汗が浮かんでいた。

 

(……夢か)

 

ソウヤは天井を見つめ、ゆっくりと息を吐いた。

あの二つの人影は誰だったのか。

 

なぜ、あんな視線を――

 

その疼きは胸の奥に静かに残った。

 

ベッドサイドのデジタル時計に視線をやった。

時刻は00:00を指していた。

日にちが変わり、

宇宙世紀0079年12月25日。

クリスマスを迎えていた。

 

(あと少しで、新しい年を迎えるな……)

 

そんなことをぼんやりと思った瞬間、艦内アナウンスが鋭く、

静寂を切り裂いた。

 

 

「第一種戦闘配置! 全乗組員は戦闘配置に!バイアリータークの前方宙域で戦闘の光を確認!繰り返す、第一種戦闘配置!全乗組員は戦闘配置に!」

 

ソウヤは一瞬で眠気を吹き飛ばした。

ベッドから跳ね起き、急いで軍服を身に着ける。

 

靴を履き、部屋のドアを勢いよく開けた。

廊下はすでに赤い警報灯が点滅し、乗員たちの足音が慌ただしく響いている。

ソウヤは左舷格納庫へと全力で走り出す。

 

 

 

 

 

バイアリータークの艦橋は、慌ただしかった。

赤い警報灯が点滅し、オペレーターたちの声が交錯する。

観測班、整備班、機関室班からの報告が次々と飛び込んでくる。

その中心にオペレーターのナタリア・アルスター少尉がいた。

冷静な声で各部署と連絡を取り合い、

情報を整理し、

艦長席のクリフトフ・ハーツクライ艦長に報告する。

 

「艦長、前方宙域で確認された戦闘の光はジオン軍と思われる艦隊とモビルスーツ部隊が友軍と交戦しています。距離は約30,000です。」

 

ハーツクライ艦長は、ナタリアの正確で迅速な報告に小さく頷いた。

 

「よくやった、ナタリア。ありがとう。」

 

ナタリアは一礼し、次の指示を待つ。

 

ハーツクライは静かに力強く命じた。

 

「ジャミングフィールドを展開せよ。敵に位置を悟らせるな!」

 

「了解! ジャミングフィールド、展開開始!」

 

ナタリアの指がコンソールを高速で叩く。

艦体がわずかに振動し、ミノフスキー粒子が散布され、電子戦装備がフル稼働する。

モニターにジャミングフィールド展開の表示が点灯した。

ハーツクライはそれを確認すると、操舵手のタケシ・トヨタ上等兵に視線を向けた。

 

「タケシ、敵に気取られぬよう、最短距離で接近を頼む。君の腕に任せるよ。」

 

タケシはニヤリと笑い、操舵桿を握りしめた。

 

「了解です、艦長!このバイアリータークの機動性を見せてやりますよ!」

 

ハーツクライは小さく笑みを浮かべ、再びナタリアに尋ねた。

 

「オリオン小隊とウィッチーズ隊の状況は?」

 

ナタリアは即座に報告した。

 

「スペース・ウィッチーズ隊のジム・コマンド三機、全機ビーム・ガン装備で出撃準備完了。ボカタ大尉、カタギリ中尉、ライラ准尉、すでにカタパルト待機中です。」

 

「オリオン小隊は?」

 

「オルグレン少佐のジム・ドミナンス、ゲーブル曹長のペイルライダー・ヴァンガード、タカバ少尉のペイルライダー・マスケッティア、出撃準備完了。マスケッティアは専用武装、メガ・ビーム・シューターを装備しています。」

 

ハーツクライの表情が、明らかに明るくなった。

満足げに、いや、興奮を隠しきれぬ様子で頷く。

 

ナタリアはその変化に気づき、少し首を傾げて尋ねた。

 

「艦長……?」

 

ハーツクライは椅子に深くもたれ、遠くを見るような目で言った。

 

「ルナツーで負け知らずのアグレッサー部隊、スペース・ウィッチーズ隊。『不敗の魔女』と呼ばれるシイコ・カタギリ中尉。そしてオリオン小隊――『オデッサの新星』のソウヤ・タカバ少尉、キャリフォルニアベースで『キラー・ハーピー』を倒したヤザン・ゲーブル曹長、ブリティッシュ作戦を生き抜いたイーサン・ミチェル・オルグレン少佐。」

 

ハーツクライは静かに、しかし熱を込めて続けた。

 

「その精鋭たちが、このバイアリータークと共に同じ戦場を駆ける。これ以上の贅沢メンバーがあるかね?ナタリアくん?」

 

ナタリアは一瞬言葉を失い、それから小さく微笑んだ。

 

「……確かに、艦長。これは最高の布陣ですね。」

 

ハーツクライは満足げに頷き、モニターの戦場を睨んだ。

 

「よし!豪華メンバーのフルゲートだ!この勝負、勝ちに行くぞ。」

 

「了解しました、艦長。スペース・ウィッチーズ隊とオリオン小隊に発進指示を出します。」

 

 

ナタリアは回線を繋げ、モビルスーツ隊に発進指示を出す。

 

「オリオン小隊、スペース・ウィッチーズ隊、発進をお願いいたします。」

 

右舷格納庫のカタパルトデッキは赤い警報灯に照らされ、

整備兵たちの怒号と機械音が響き渡っていた。

まず、スペース・ウィッチーズ隊が出撃する。

最初にカタパルトに滑り込んだのは、ボカタ大尉のジム・コマンド。

 

「ウィッチ1、ボカタ・ポワチエ大尉。発進する!」

 

カタパルトが唸りを上げ、機体が猛然と射出された。

青白い推進光が闇の宇宙に伸びる。

続いて、シイコ・カタギリ中尉のジム・コマンドがポジションにつく。

シイコはコックピット内でヘルメットのバイザーを下ろしながら、静かに呟いた。

 

「ウィッチ2、シイコ・カタギリ中尉。……いくわよ。」

 

カタパルトが加速、機体が虚空へ飛び出す。

最後に、ライラ・ミラ・ライラ准尉のジム・コマンド。ライラは少し緊張した声で、しかしはっきりと告げた。

 

「ウィッチ3、ライラ准尉。出撃するよ!」

 

三機のジム・コマンドは整然と艦から離れ、すぐに減速に入った。

オリオン小隊との合流を待つためだ。

 

次に、左舷格納庫からオリオン小隊が出撃する。

 

最初は隊長機、イーサン・ミチェル・オルグレン少佐のジム・ドミナンス。

 

「オリオン1、オルグレン少佐。発進するぞ!」

 

二連ビーム・ライフルを構えた機体が力強くカタパルトから射出される。

 

続いて、ヤザン・ゲーブル曹長のペイルライダー・ヴァンガード。

ヤザンはコックピット内で獰猛な笑みを浮かべた。

 

「オリオン3、ヤザン・ゲーブル曹長。久しぶりの本番だ、楽しませてもらうぜ!」

 

ハイパービームライフルを右手に持ち、機体が宇宙へ飛び出す。

 

最後にソウヤ・タカバ少尉のペイルライダー・マスケッティア。

 

専用武装、メガ・ビーム・シューターを装備した機体が、静かにカタパルトに収まる。

ソウヤは深呼吸を一つし、落ち着いた声で告げた。

 

「オリオン2、ソウヤ・タカバ少尉。出撃します!」

 

カタパルトが起動、マスケッティアが優雅に宇宙空間へ滑り出た。

 

6機はすぐに集合、予定されたフォーメーションを組む。

 

前衛、ヤザンのヴァンガードとシイコのジム・コマンド。

中衛、イーサンのジム・ドミナンス、ボカタとライラのジム・コマンド。

後衛、ソウヤのマスケッティア。

 

通信が開き、イーサンの落ち着いた声が流れた。

 

「全機、フォーメーション確認。敵影は前方、距離20,000。慎重に接近する。」

 

シイコの声が少し楽しげに続いた。

 

「了解、オリオン1。前衛は私とオリオン3で切り込んでいくわ。」

 

ヤザンは低く笑った。

 

「へっ、魔女さんと並んで前線か。最高のクリスマスプレゼントだぜ。」

 

ソウヤは後衛から、静かに応じた。

 

「射撃に専念しますね。……皆さん、気を付けて。」

 

6機の推進光が闇の宇宙を切り裂き、戦闘の光が輝く宙域へと急速に接近していった。

 

 




お待たせしました!

第28話 [この戦争の中の片隅で] が出来ましたー。

この話を24日に投稿したかったです(泣)

さて、遂にソウヤ達の初の宇宙戦闘の実戦です。

ソウヤも本格的なってきました。

ではでは、続きは後日、投稿します。

【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?

  • 陸戦型ジム改
  • バイアリーターク
  • ペイルライダー・ヴァンガード
  • ペイルライダー・マスケッティア
  • ヴァルキリー
  • グフ・ノクターン
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