ヘビィ・フォーク級陸上戦艦の主砲が火を噴く。
正面の三連装砲三門、左右の三連装砲六門――計九門。
大口径対空砲弾が弧を描き、空に死の雨を降らせた。
だが――。
その弾幕の中心を、青い機影が突き抜ける。
ドダイに乗ったグフタイプ。無傷。
火線をかいくぐり、まっすぐこちらへ向かってくる。
ソウヤは即座にセンサーを拡大し、映像を解析を行う。
「レオニダスの弾幕を回避したのか!?あの破片の雨の中を!?」
モニターに映し出される無傷のグフの姿を見て、私は信じられなかった。
対空砲弾は目標の直前で炸裂し、破片を浴びせて撃墜を狙う仕組みだ。
ましてヘビィ・フォーク級の砲弾ともなれば、破片の殺傷範囲は一面の地獄と化す。
それを――あのグフは、破片の嵐の中を泳ぐように抜けてきたのだ。
「こちら、ロングボウ1!敵は撃破されていない!敵は撃破されてない!」
隊長は敵が撃破されてないことを、レオニダスに喚くように報告していた。
その間にも、ドダイは高度を落とし始める。
あのグフは高度を維持したままでは対空砲弾の餌食になると判断し、対空砲弾の射線を避けるように地表スレスレを滑るように迫ってくる。
「こちら、レオニダス!敵が高度を下げたので艦砲射撃をすれば、ロングボウも巻き込むので援護射撃ができません!」
「……Shit!」
アロンソ大尉が悪態をつく。
その間にも敵は、まるで獲物を見定める鷹のように滑空を続ける。
「仕方ない!ロングボウ2、3!キャノンと頭部バルカンで迎撃するぞ!」
私は火器管制システムを操作し、キャノン砲と頭部バルカンをリンクを行い、トリガーを引いたら連動して発射できるようにした。
スイッチを入れた瞬間、ガンキャノンの駆動系が唸り、コクピットの床が震える。
「距離10キロのとこで一斉射する、引きつけろ!」
ガンキャノンはいつでも発砲できるように身構え、護衛で残っていた61式戦車部隊2個小隊も艦砲射撃で出来たクレータや森林に車体を隠すことで迎撃態勢を整える。
通信に混じる呼吸音。
油圧の軋み。
耳の奥で自分の心臓の鼓動が重く響く。
「敵の距離、残り20キロ!19、18、17、16、15…」
コルサコフ中尉がカウントを続ける。
声がかすれ、汗が頬を流れた。
そのたびに、モニターの中の影がわずかに大きくなる。
「13、12、11」
私はトリガーに指を掛け、ほんの少し指を引くと発砲できるようにする。
息を止め。
照準が定まる。
トリガーに指を力を加えた瞬間、鼓動が一瞬止まった。
「10!」
「撃ってぇぇーー!!」
――世界が閃光で塗り潰された。
キャノン砲が吠え、空気が押し潰されるような爆音が響く。
61式戦車の砲撃が地を穿ち、赤い光弾が軌跡を描く。
まるで夜を裂く雷光のように、火線がドダイを包み込んだ。
だが、敵は――。
機首を跳ね上げ、胴体下部を晒すように立ち上がった。
一瞬、空を切る鋭い風切り音。
そして、ドダイがくるりと宙を舞った。
風に翻る木の葉のように――。
「コブラマニューバ……!? そんなバカな!」
ロングボウ2は思わず叫んでしまう、それはそうだ。
元々は爆撃機でモビルスーツの運搬もできるようにした機体が戦闘機の高等操縦テクニックのコブラマニューバをして、一斉射撃を回避するなど狂気の沙汰だ。ましてや、モビルスーツを乗せた状態でするなんて。
くるくると舞うドダイは機首が地上の方になった瞬間に機体前面の8連装空対地ミサイルを放つ。
視界が一瞬で真っ白になった。
ミサイルはロングボウ小隊の前方、巨大なクレーターに着弾。
爆風が地表をえぐり、隠れていた61式戦車二両を飲み込んだ。
土砂が舞い、装甲の破片が宙を飛ぶ。
ドダイはその反動で再び上昇し、爆煙の中から姿を現した。
夕陽を背に、青い影が悠然と飛び去る。
その姿はまるで、獲物を仕留めた鷹だった。
その刹那、ソウヤのガンキャノンがビームライフルを構える。
「そこだー!」
確かにコブラマニューバで自分達の攻撃は全て回避されてしまった。
しかし、コブラマニューバを行うと大きく失速するので姿勢を立て直したら再加速をしなければならない。
だから、減速している今なら、亜光速で発射されるビームなら必ず命中するはず。
トリガーを引き、ビームを放つ。
ビームが空を裂き、目標へ直進する。
その時、私は勝利を確信をした。
亜光速で放たれるビームを避けることなど、不可能に近いのだから。
だが、その勝利の確信も目の前で起こる現実に否定されることになる。
奴はドダイの向きを少しだけ傾けた。
まるで、光弾の到達を読んだように。
わずか数度、旋回軌道を変えただけで、ビームはグフをかすめ、ドダイのエンジンブロックの一部を焼いただけだった。
私達を背にした状態で、ビームの発射など分からないはずだ。
「ほぼ、亜光速なんだぞ!?」
コルサコフ中尉の声が恐怖で震え、無慈悲な現実が私達に襲い掛かるのだった。
ドダイはエンジンの一部を溶かされながらも不安定に揺れ、黒煙を吐きながらも旋回を続ける。
まるで、死に損なった猛禽が再び獲物を狩りに戻るようようだ。
「また来るぞ!構えろ!」
ドダイは旋回を終えると、地上の獲物を狩る鷹のように高度を落としながら接近する。
ロングボウ小隊のガンキャノンはキャノン砲を向け、自分達を狩ろうとする捕食者を迎え撃とうとした。
しかし、キャノン砲を敵に向けた時、私は迫りくる捕食者に違和感を感じるのだ。先ほどとは何かが違う。相手はエンジンを片方失ったドダイで同じように接近しているのがおかしいと直感が囁く。
今度は、先ほどよりも高い角度で降下してくる。
機首が、わずかに下を向いている――嫌な予感が、背筋を冷たく走った。
「まさか……。」
その瞬間、理解した。
エンジンを片方失い、機首を下げたまま突っ込む――。
あれは、特攻だ。
「隊長!やつはドダイを特攻させるつもりです!」
私は〝やつ〟がこれから、どのようにして私達を狩るかを通信機に向かって喊声で訴えた。
「全機散開!全機散開!!」
3機のガンキャノンがフォーメーションを解き、散開する。
だが、砲撃支援機の鈍重な脚では、回避は間に合わない。
私はガンキャノンの足裏のスラスターを起動させ、スラスターの噴射でガンキャノンを加速させた。
「間に合えーーー!」
ペダルを全力で踏みつけ、後ろの塹壕に向かってスラスターを全開で吹かす。
ガンキャノンは塹壕の壁に擦りぶつけながら、塹壕の滑り込ませる。
次の瞬間、視界が真紅に染まり、爆風が全身を叩く。
コクピットが揺れ、腹の底まで響く轟音。
熱風が装甲を焦がし、地鳴りとともに塹壕が崩れ落ちる。
そして、少し遅れて――土砂の雨が降り注いだ。
土砂が装甲にぶつかる音がコックピットの中で響き渡る。
数秒後――轟音が途切れた。
砂煙がまだ舞い上がる中、私は慎重にガンキャノンの頭部を塹壕の外へと出す。
戦場はドダイの爆発で土煙に舞い上がっており、光学センサーは乱反射を拾い、映像はノイズ混じりで視界が白く滲む。
それでも、目を凝らせば分かる
――ドダイが、炎を上げながら地面に突き刺さっていた。
さっきまで空を切り裂いていた猛禽は、今や燃える鉄屑と化している。
「こちら、ロングボウ1。ソウヤ、ニコライ無事か?」
隊長の声が通信機に入る。
その声を聞いた瞬間、胸の奥がわずかに軽くなる。
「こちら、ロングボウ3。塹壕に入ったので無事です。」
「そうか、私も別の塹壕に入れたのでなんとか凌げた。ニコライ?そっちは?」
アロンソはまだ応答がない、ロングボウ2のニコライに連絡を入れる。
沈黙――。
ノイズが混じった通信がやっと返ってきた。
「こちr■、ロングb■■2、ダmージを受k■ました。」
私は慌てて、光学センサーからサーモセンサーに切り替える。
ドダイから少し離れたところにコルサコフ中尉のガンキャノンが倒れているのをサーモセンサーで確認する。
「通信k、と片脚w■やr■まし■。」
「分かった!そっちにすぐ向かう!」
アロンソ大尉が塹壕から這い出し、コルサコフのもとへ機体を進める。
だが、その瞬間だった。
――赤い一つ目の眼光が、土煙の向こうで揺らめく。
「レーダーに反応!グフです!」
「ニコライ!」
私の叫びと同時に、戦場に機関砲の掃射音が鳴り響いた。
曇った空を貫く鋭い閃光。
連続する爆音。
ジャイアント・バズの炸裂音が大地を震わせ、塹壕の壁が土煙ごと崩れ落ちる。
「うわ■あ■ああ■あーー!?」
通信機からはノイズ混じりのコルサコフ中尉の絶叫が響き渡り、自分のコックピット内を埋め尽くす。
モニターに映っているのは、グフのガトリング・シールドの銃口から放たれる光弾の列――。
それが、ニコライのガンキャノンの装甲を貫き、火花を散らすたびに機体が震える。
そして、巨大な影がバズーカを構えた。
ロケット弾が命中。
ガンキャノンは爆風に包まれ、黒煙を吹き上げながら地面に叩きつけられる。
そして、私のコックピット内で響き渡っていた絶叫は聞こえなくなっていた。
グフは仰向けに倒れ込んだガンキャノンにジャイアント・バズをもう一発発射。
2発目のジャイアント・バズの直撃を喰らい、コルサコフ中尉のガンキャノンは体から赤い炎を吐き出しながら爆散するのだった。
「ニコライーーーーー!」
アロンソ大尉の怒号が戦場に響く。
彼はロケット・ランチャーを乱射するが、グフは後方に軽やかに跳び、弾道をすべて回避した。
爆煙を切り裂く青い影が、不気味な静けさを纏って迫る。
「戦車隊!森林地帯を利用して、側面から攻撃!ソウヤはビームライフルの狙撃だ!」
「ロングボウ3、了解!」
私は塹壕の縁にガンキャノンを押し上げ、上半身を出す。
ビームライフルを構え、グフをモニター越しに捉える。
照準が揺れる――震えているのは手か、それとも心臓か。
戦車2両がクレーターから飛び出し、走行射撃で牽制を始めた。
だが、グフはわずかに体をひねるだけで砲弾をかわす。
まるで、敵の弾道を“予知”しているかのように。
森林に潜む戦車小隊が砲撃を加えるが、グフは一歩後ろに下がるだけで全弾を回避。
そのままジャイアント・バズを4連射。
弾頭が木々を薙ぎ払い、爆風が空を突き上げる。
吹き飛んだ戦車の砲塔が宙を舞い、火の玉となって転がり落ちた。
「戦車部隊応答しろ!おい!…おい!!」
隊長が森林帯の戦車部隊に通信を試みるが返事が返ってこない。木々に隠れた状態のまったく姿が見えない戦車1個小隊を正確に攻撃したのかと戦慄する。
それは落ち葉の中に紛れた、コインを一発で指で掴むようなものだ。
「こんなの……人が操縦した動きじゃない……!」
ソウヤは呟いた。
だが、恐怖はすぐに現実に変わる。
グフはガトリング・シールドを回転させながら掃射を開始。
残った戦車2両が次々に被弾し、黒煙を上げて爆散した。
焦げた油と金属の匂いが、コクピットのフィルターを抜けて鼻を突く。
音が、どんどん消えていく。
風と炎の音だけが残った。
「……たった数分で、これだけ……やられたのか。」
アロンソ大尉は数分前までは戦車8両、モビルスーツ3機がいたのに、今はモビルスーツが2機しかいない状況をまだ呑み込めずにいた。
私もそうだ。たった1機で倍の戦力を覆すなんて、そのように筋書きが書かれたアニメや漫画ではあるまいし、と心の中で思う。
今は、目の前のグフがこの現実を作り出していると私は認識しなければならない。
モニターの中で、グフがゆっくりとこちらを向いた。
焦げた土煙の中で、その青が異様に映える。
ふっと、グフをよく見ると先ほど戦ったグフとはボディー形状が違うことに気付く。
胴体部がマッシブで、ノーズダクトもやや小さい、股間部分の動力パイプ接合部分がコンパクトになっている。
そして、胸部装甲の上に描かれた、ひとつのエンブレムに目が留まる。
――翼を広げた戦乙女。
「こいつ、エース仕様だ!」
オデッサ作戦で少数であるが確認されているグフの改修型モデルだ。ダブデ級陸戦艇やジオン軍にとって重要な要所などに配備されているエース仕様のグフだ。
それは、ただのグフではない。
――人間の技ではない何か。
血と鉄の戦場で、魂を宿した兵器。
そして今、その青い巨影が、再びこちらに照準を向けた。
グフ・カスタムはジャイアント・バズの砲門をこちらに向けようとしたが、何かに気付いたのか――突然、地を蹴り、砂塵を巻き上げて右へ跳んだ。
その瞬間、グフがいた場所にロケット・ランチャーの弾が着弾し、爆風が塹壕の壁を崩す。
「こちら、ナイト1!ロングボウ小隊!無事か!?」
オデッサに進軍していた、100mmマシンガンを装備した汎用のナイト小隊、ロケット・ランチャーを装備した対MSのビショップ小隊の2個小隊が戻って来てくれた。
救援の到着に一瞬胸をなで下ろすが、状況はあまりに不穏だ。
「こちらはロングボウ1、ロングボウ2と戦車2個小隊がやられた。オデッサ西部で確認されてるエース仕様のようだ。」
アロンソ隊長はナイト小隊の隊長のオルグレン少佐に被害報告をする。
「たった1機でか?信じられない…。ビショップ小隊は距離を取りながら、ロケット・ランチャーで確実に狙っていけ。」
「こちら、ビショップ1了解した。」
ナイト小隊の陸戦型ジムがビショップ小隊の前に移動し、前衛を担うようだ。
「ナイト小隊!前へ!」
オルグレン少佐の号令ともにナイト小隊の陸戦型ジムが前に出てマシンガンを連射する。
だが敵は――まるで重力を無視するかのように舞う。
ステップ、スラスター噴射、再びステップ。
青い機体が残像を引きながら回避するたび、砂と金属の破片が舞った。
「本当に芸達者なやつだ!」
ナイト1は相手のグフ・カスタムの高度な操縦テクニックに嫌々ながら称賛をする。
グフ・カスタムは滑るように前進しながら、ジャイアント・バズを撃つ。
砲弾は正確に見えたが、わずかにずれ、地面に命中。黒煙が立ちこめる。
「流石にあの機動をしながらの射撃は難しかったか?」
オルグレン少佐のその言葉が終わる前に、レーダーが警告音を発した。
「距離を詰めてます!やつは!」
相手のグフが先ほどの攻撃で発生した黒煙を目くらましに利用し、ナイト小隊との距離を詰めていたのだ。
グフ・カスタムはナイト小隊との距離を詰め、1機のジムに狙いを定めるとジャイアント・バズを発射する。
黒煙を突き抜け、爆炎の中から砲弾が飛び出す。
ジャイアント・バズが直撃し、ナイト3のジムの胸部装甲が爆裂した。
「ナイト3!」
オルグレン少佐は僚機を撃破され、悲痛な叫び声をあげる。
その隙をつき、グフ・カスタムは空になったバズーカを投げつけた。
鈍い金属音。ナイト1のジムが仰向けに倒れ込む。
青い機体は、その巨体をしならせて跳躍――ナイト1を踏み越え、ビショップ小隊の陣へ突入する。
「スコット!ヤザン!撃ってー!」
ビショップ小隊の隊長が発砲の合図をし、ロケット・ランチャーは3発同時に発射される。
三発のロケット弾が空を裂く。しかし、グフ・カスタムはまるで未来を知っているかのようにステップを刻み、スラスターで横へ飛ぶ。
弾丸はすべて外れ、グフは膝を沈めながら滑り込むと、左腕のガトリング・シールドを掃射。
無数の弾丸がロケット・ランチャーの弾倉を貫き、誘爆。
二機が同時に爆散。もう一機がランチャーを投げ捨て、退避。
グフ・カスタムは左のシールドに格納していたヒート・サーベルを引き抜き、バックパックスラスターと脚部スラスターを噴射させて、一気にダメージを受けた陸戦型ジムに近づくとヒート・サーベルを振りかざした。
刃が白光を放ち、砂塵の中に紅い軌跡を残す。
残る一機がビームサーベルを振りかざすが――グフのショルダータックルが炸裂。
ジムは体勢を崩し、倒れ込む。
グフはそのコクピットへ、灼熱の刃を突き立てようとした。
「させない!!」
私はトリガーを引き、グフ・カスタムにビームを放つ。しかし、相手はこちらが見えていないはずなのに寸前で回避されてしまう。
回避行動――いや、“予知”に近い反応で、バックステップ。
爆炎の中で、赤い一つ目がこちらを見据えている気がした。
「くそっ……なんだあれは……!」
グフ・カスタムは私に狙いをつけたようで、私のガンキャノンに向かい始めた。
オルグレン少佐の陸戦型ジムが駆けつけるのと同時に、ナイト2――ジムのエリック少尉が前に出た。
彼の機体はマシンガンを連射しながら、グフ・カスタムとの距離を詰めていく。
「ナイト2、下がれ! 奴はお前の間合いを読んでる!」
オルグレン少佐の警告が飛ぶ。
だが、ナイト2のエリックは止まらない。
仲間を殺された怒りか、それとも恐怖に突き動かされていたのか。
グフ・カスタムの蒼い巨体に、火花を散らすように弾丸を叩き込む。
「このっ……化け物がぁぁっ!!」
咆哮。
砂煙の中で、マズルフラッシュが閃光のように瞬く。
グフ・カスタムは微動だにしない――と思った瞬間、姿が“滑った”。
否。
目の前から、消えた。
スラスターの音と、金属を擦る甲高い音が重なる。
私は反射的にセンサーを切り替える。
後方。
「後ろだ! ナイト2、後ろっ!!」
警告は間に合わなかった。
グフ・カスタムは背後に回り込み、左腕のガトリング・シールドをわずかに傾けた。
そこから放たれる弾丸が、ナイト2の背中を貫く。
「ぐっ……あ、ああ……!」
通信機にノイズ混じりの呻き声が走る。
ジムの装甲が削り取られ、バックパックが爆発。
スラスターの火が乱れ、エリックのジムはよろけながら片膝をつく。
それでも、彼は倒れなかった。
両腕を震わせながら、マシンガンを構え直す。
「……まだ、だ……!」
震える照準が、蒼い巨体を捉える。
だが、グフ・カスタムはすでに“次の動き”をしていた。
跳躍。
地を蹴る音が遅れて響く。
わずか数メートルの間合いを、一瞬で詰め――ヒート・ロッドが矢のように閃く。
青い光の線が夜気を裂き、ジムのマシンガンを絡め取る。
電撃。
エドガーの機体が硬直し、動きが止まった。
「エリック! 動け! 動けぇぇぇ!!」
オルグレン少佐の声と同時に、ヒート・サーベルが振り下ろされた。
灼熱の刃が、ジムの胴体を斜めに切り裂く。
一瞬の光。
そして、静寂。
グフ・カスタムの足元で、ナイト2のジムが崩れ落ちる。
機体の中から何かが爆ぜるような音がして、赤い炎が噴き上がった。
ナイト2の陸戦型ジムが動かなくなったことをグフが確認すると、シールドに装備されていたガトリング砲のアタッチメントをパージした。
私は息を呑んだ。
あのグフの動き――もはや人の操縦ではない。
機械の精度でも、反応でもない。
まるで“何か”が、その中に生きているようだった。
通信機から、またあの音がした。
「あああああああ……!」
鼓膜を撫でるような、かすかな震え。
私は息を飲む。
だが、その意味を理解する前に、グフ・カスタムのモノアイがこちらを向いた。
深紅の光が、暗闇の中で一瞬だけ揺れた。
まるで“見ている”。
その瞬間、背筋を氷の刃でなぞられたような感覚が走った。
あれはただの機械じゃない。
「ソウヤ!逃げろ!」
アロンソ大尉のガンキャノンが、前に出た。
グフ・カスタムの進行方向に向け、キャノン砲とロケット・ランチャーを立て続けに撃ち込む。
爆風で空が揺れ、夜が赤く照らされる。
炎と煙の壁が戦場を裂き、私のすぐ前で土砂が弾け飛んだ。
「大尉、下がってください! 奴は――!」
叫ぶ間もなく、ガンキャノンの両肩から、さらに二連射。
まるで猛獣の進路を塞ぐように、弾幕を“張る”というより“築く”。
あれでは、流石のグフ・カスタムも突っ込めまい――そう思った。
しかし。
煙の向こうで、青い機影が動いた。
その軌跡は、炎の中でまるで生き物が呼吸するように揺れ――次の瞬間、姿を現した。
グフ・カスタムが右手のヒート・サーベルを逆手に持ち替え、大地を力強く踏みしめ、高く振りかぶる。
一瞬、背中のスラスターが唸った。
「嘘だろ……!」
逆手に持ったヒート・サーベルを槍投げのように振り下ろす。
衝撃波のような風が周囲を薙ぎ、砂煙の中で閃光が走った。
次に見えたのは――アロンソ大尉のガンキャノンの胴体に、深々と突き刺さったヒート・サーベルだった。
機体の胸部から火花が吹き出し、赤熱した刀身が内側から装甲を溶かしていく。
通信が途絶えた。
あの穏やかな声が、もう聞こえない。
「アロンソ大尉ぃぃぃーーーーーー!」
喉が焼けるように叫んでいた。
トリガーを引く。
だが、怒りに任せた射撃は無意味だった。
蒼い影は私の弾丸を滑るように避け、すでに目の前にいた。
右腕が閃く。
何かが射出された――反射的にビーム・ライフルを投げつける。
瞬間、火花が散り、轟音が耳を貫いた。
ビーム・ライフルが爆ぜる。
グフ・カスタムのヒート・ロッドが絡み、電流が走ったのだ。
センサーが一瞬で真っ白になる。
「あ、あああ……!」
視界が壊れていく。
この距離、この体勢――もう終わりだ。
(ここまでか……)
その時、通信が割れた。
「――諦めるんじゃねぇぇぇ!!」
ビショップ小隊の生き残りだ。
陸戦型ジムが、私とグフ・カスタムの間に割り込む。
爆風が舞い上がり、熱風が私の機体を叩いた。
グフ・カスタムは一瞬動きを止めた。
まるで、その行動を“理解した”かのように、じっとそのジムを見据える。
そして、ゆっくりと後退した。
アロンソ大尉のガンキャノンのもとへ。
突き刺さっていたヒート・サーベルを引き抜き、刀身を再び赤熱させる。
「二人とも、大丈夫か!?」
オルグレン大尉の声が入る。
彼の陸戦型ジムが駆けつけたのだ。
援護の射撃が飛び交い、私はようやく息をついた。
だが、その時。
通信機から、また――あの“ノイズ”が混じった。
「ああああああ………あああぁぁぁぁ!」
意味を成さない、しかし確かに“言葉のような”音。
耳の奥が震える。
だが、他の誰も反応しない。
「……今の、何だ?」
問いかけても、返ってくるのは沈黙だけだった。
戦場の煙の向こうで、グフ・カスタムのモノアイがゆっくりと光った。
それはまるで――“誰かの祈り”のように、深い紅に揺れていた。
「分散すると各個撃破されしまう!密集状態で攻めるぞ!ビショップ3は私と前衛!ロングボウ3はキャノン砲で攻撃!直撃ではなく、足元に着弾するように撃て!」
「了解しました!」
何故“足元”なのか、その意図は分からなかった。だが、考える余裕などなかった。
私は即座に照準を合わせ、指示に従った。
三機でV字のフォーメーションを取る。
私の量産型ガンキャノンを頂点に、ビショップ3とオルグレン少佐がその両翼につく。
地表の砂がスラスターの熱で巻き上がり、視界は霞んでいた。
前方、煙の裂け目から――奴が現れる。
グフ・カスタム。
蒼い巨影が、左腕の三連装ガトリングを発砲しながら突進してきた。
「来るぞッ!」
連射音が空気を裂く。火花が盾に弾け、装甲を叩く音が体を揺らす。
ナイト1とビショップ3が前に出て、盾を構える。
オルグレン少佐のジムがマシンガンを連射、弾丸がグフの装甲を叩くが――
「く、効かないか……!」
蒼い装甲は、火花だけを散らして微動だにしない。
グフ・カスタムが地を滑るように接近、ヒート・サーベルが閃く。
ナイト1のジムに振り下ろされる刃――だが、ビショップ3がすかさず割り込み、ビームサーベルで受け止めた。
閃光が交錯し、空気が爆ぜた。
「少佐、今です!」
ビショップ3が押し返す。その隙にオルグレン少佐が側面へ回り込み、至近距離からマシンガンを叩き込む。
弾丸の一発が左肩のスパイクを砕き、蒼い塗装を削る。
だが、致命傷には程遠い。
グフはバックステップで距離を取ると同時に、スラスターを全開。
私はその動きを“読む”。
――あそこに着地する。
照準を足元に合わせ、トリガーを引いた。
キャノン砲が唸りを上げて発射され、地面を砕く。
爆炎が吹き上がり、グフが体勢を崩す。
「今のだ、ソウヤ!」
「了解!」
「それでいい! 続けろ!」
オルグレン少佐が叫ぶ。
三機の弾幕が一点に集中する。
マシンガン、キャノン砲が交錯し、砂塵が舞い上がる。
グフ・カスタムは盾を構えながら後退、ヒート・サーベルを横薙ぎに振るう。
だが、ビショップ3のジムが盾で受け止めた。
シールドが半分溶け落ちる――それでも耐えた。
「それでいい!そのまま続けろ!」
オルグレン少佐はそう言うとマシンガンを発砲しながら、グフ・カスタムとの距離を詰める。
ビショップ3もそれに合わせるようにナイト1と一緒に距離を詰め始めた。
グフ・カスタムはマシンガンの弾を盾で防ぎ、距離を詰めてきた陸戦型ジムを迎え撃つためにヒート・サーベルを横薙ぎに振る。
しかし、ビショップ3の陸戦型ジムがその横薙ぎの攻撃を盾で防御する、盾は半分まで溶断されてしまったが攻撃を防ぐことに成功した。
オルグレン少佐の陸戦型ジムは左手に持った盾をグフ・カスタムに叩きつけた。相手は踏ん張ることができずによろめいたのだ。
グフ・カスタムはよろめいた後、バックパックのスラスターを噴射させ後ろに下がった。しかし、着地した瞬間に少しふらついたのだ。
「そこ!」
私はすかさずトリガーを引き、キャノン砲を相手の足元に発射する。
私の砲撃に気付き、相手はジャンプで回避を行う。
しかし、キャノン砲の爆風が微かに当たり、グフ・カスタムの脚部スラスターから黒い煙が立ち上がる。
ジャンプしたグフ・カスタムは着地するとバランスを崩し、片膝をつく。
明らかに先ほどまでの圧倒的な機動性とパワーを失っていた。
それはまるで翼を怪我した鳥がもがいてるようだ。
「やはり、無理な操縦をしていたようだな。あんなアクロバットな動きをしたら、機体の脚部に相当な負荷が掛ってるはずだ。」
「だから、直撃ではなく。足元で爆風を起こして、脚部に負担を掛けるようにしたんですね。」
「直撃を狙った場合、砲弾を機体のボディーに直撃させなくてはならない。爆風なら、おおよその位置に発射するだけだから、直撃よりも命中率と脚部破損を狙えると思った。」
私はオルグレン少佐の指示の意図をやっと理解することができた。
グフ・カスタムはよろめきながら立ち上がろうとするが、脚部側面のスラスターから黒い煙が昇り、黒いオイルが血のように滴っていた。
「アイツはもう、脚部がダメみたいなようですぜ。」
ビショップ3はそう言うと左腕の半分ほどに溶断されたシールドを左手に持ち替え、前に構えるのだった。
「私が牽制射撃をする!ヤザン軍曹は近接格闘を頼んだ!」
「任されました!」
ナイト1の射撃と一緒にビショップ3はバックパックのスラスターを吹かし、一気に距離を詰める。
グフ・カスタムは盾でマシンガンを防ぐが完全に防ぐことができず、ボディーに数発命中。
ビショップ3は破損したシールドを相手のヒート・サーベルに押し付け、絡め取る。
ヒート・サーベルがシールドを串刺し、動きが止まる。
グフ・カスタムはシールドのせいでヒート・サーベルの重量が増してしまう。
そして、パワーダウンしている状態では剣を振るうことができなかったのだ。
「もらった!」
ビショップ3は右手に持ったビームサーベルを振りかざすが、相手は右手に持ったヒート・サーベルを手放し、ビショップ3が振りかざそうとする右腕を両手で受け止め、斬撃を阻止した。
「往生際が悪いやつだ!」
ビショップ3は相手の抵抗に悪態をついた。
「そのままの体勢を維持しろ!」
オルグレン少佐がそう叫ぶと、右手の武器をビームサーベルに持ち替えながらグフ・カスタムとビショップ3に近づく。
ビショップ3の右腕を抑えているグフ・カスタムの両腕をビームサーベルを突き刺し、両腕の破壊に成功したのだ。
「離れやがれ!」
ビショップ3はグフ・カスタムの腹に足を押しつけるとグフ・カスタムを蹴り飛ばした。
「もらったーーーー!」
蹴り飛ばされグフ・カスタムは脚部バランサーが限界に達し、転倒してしまう。私はその隙を逃さなかった。
トリガーを引き、グフの胴体にキャノン砲を発射する。
発射された弾は胴体に命中し、グフ・カスタムの胸部装甲を破壊。まだ、相手の一つ目に赤い光が灯っていることを確認すると私は躊躇わずにキャノン砲の二射目を放った。
放たれた二射目の砲弾は破壊され、黒い煙と赤き炎がチラつくコックピットブロック部分に命中する。
無慈悲なる死神は赤い炎をまとうように爆発するのだった。
『ああああああああああぁぁぁぁぁーーーー!』
爆発した瞬間、通信機からまた、悲鳴のようなノイズが響き渡った。
「なんなんだ?このノイズは?」
私はそのノイズから怒りと悲しみが入り混じったような感覚を感じるのだった。
「こちらナイト1、戦闘終了。被害甚大である。至急、応援を頼む。」
「レオニダスから、ナイト1、了解しました。周辺を警戒しながら待機してください。」
オルグレン少佐は後方のレオニダスと状況と連絡をしていた。
モビルスーツ6機、戦車8両をたった1機のモビルスーツにここまで蹂躙されてしまった。
胸の奥が、妙にざわめいた。
焼け落ちるグフ・カスタムの影を見つめながら、私は息を呑む。
燃え落ちる死神。
それでも、あの赤い眼光だけが、最後まで空を睨み続けていた。
いやー、絶対に書きたかったですよ。
グフカス無双。
やっぱり、単騎で次々と連邦のモビルスーツを血祭りに上げるグフカスは本当に爽快ですね。
やっぱり、グフ・カスタムは漢の機体です!
でも、ノリスのような戦闘をそのまま書くのも駄目だったと思ったので、別の作品の戦闘描写も混ぜて書きました。
今回のグフカスとドダイの組み合わせは、ある動画で「近接戦特化のグフをドダイに乗せても意味ないだろう」と、言われていたので。
ガトリング・シールドを装備しているグフカスなら、乗っても大丈夫だろうと思い、この組み合わせにしました。
あちらの世界では、坊やは生存していて、モビルスーツ開発の才能に目覚めるので楽しかったです。
ではでは、下に登場人物のプロフィールありますので、よろしくお願いいたします。
登場人物プロフィール
マイク・アロンソ大尉&ニコライ・コルサコフ中尉
ロングボウ小隊のソウヤの上司。
当時、最新鋭の量産型ガンキャノンを任されている。
ソウヤのことは可愛がっていた。
マイク・アロンソ大尉はアメリカ系黒人、ニコライ・コルサコフ中尉はロシア系白人。
?
機動戦士Ζガンダムに出てくる登場人物。
【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?
-
陸戦型ジム改
-
バイアリーターク
-
ペイルライダー・ヴァンガード
-
ペイルライダー・マスケッティア
-
ヴァルキリー
-
グフ・ノクターン