宇宙世紀0079年12月25日
サイド6・リボーコロニーでの核攻撃危機を阻止したペガサス級強襲揚陸艦4番艦バイアリータークは、燃料と食料の補給を済ませると、その日のうちにリボーコロニーを離脱。
同じ25日、連邦軍は宇宙要塞ソロモンを完全に制圧下に置いた。
ティアンム中将率いる第2連合艦隊によるソーラ・システムの照射と、その後の総攻撃により、ジオン軍司令官ドズル・ザビ中将はビグ・ザムで殿を務めながら戦死。
宇宙要塞ソロモンは陥落し、ジオン公国の宇宙防衛ラインは決定的な打撃を受けることになる。
これにより、ジオン軍の残された主要防衛拠点は宇宙要塞ア・バオア・クーと月のグラナダのみとなった。
ジオン軍上層部はソロモン方面に神経を尖らせ、連邦の大艦隊が次にそこから進撃してくるものと警戒を強めた。
そのため、ソロモンとは正反対のベクトルから回り込むルートは比較的監視の目が薄いと判断され。
バイアリータークはまさにそのルートを選択。
表向きはサイド6宙域の治安維持活動の延長として補給を受けた後、暗礁帯宙域を縫うように航行し、ア・バオア・クー要塞の近傍に潜伏。
そこを拠点に敵要塞の防衛配置、スペースゲートの位置、艦艇の動向を探る偵察任務――それが、オリオン小隊とスペース・ウィッチーズ隊に課せられた任務だった。
バイアリータークはイーサン・ミチェル・オルグレン少佐のジム・ドミナンスに偵察用望遠カメラユニットを装備させ、12月26日から28日までの3日間にわたり、慎重な偵察活動を続けた。
暗礁帯の岩陰に身を潜め、ミノフスキー粒子を高濃度で散布しながらの長時間の偵察は乗員の神経をすり減らすものだったが、成果は確実に上がった。
ア・バオア・クーの外郭防衛ラインのモビルスーツ配置、主要スペースゲートの正確な位置と開閉サイクル、要塞周辺を巡回するムサイ級艦隊の航路パターン――攻略作戦を立案する上で不可欠な情報が、次々と収集されていった。
そして、宇宙世紀0079年12月29日。
オリオン小隊は、4回目の偵察任務に向かおうとしていた。
左舷格納庫に続く無重力の廊下で、ソウヤはゆっくりと浮かびながら、何かを思い耽っていた。
表情は明らかに沈み、眉間に深い皺が刻まれ、唇を固く結んでいる。
普段の冷静な顔とは別人のように、悲痛な色が濃く滲んでいた。
その様子に気付いたイーサンが、壁の手すりを掴んで体を止め、静かに声をかけた。
「……ソウヤ、どうした? その顔……何かあったのか?」
突然の呼びかけにソウヤはハッとして体を硬直させ、慌てて姿勢を正し、敬礼する。
「い、いえ! 隊長、何でもありません!」
しかし、その声はどこか上ずり、目がわずかに泳いでいた。
イーサンはソウヤの肩に軽く手を置き、穏やかに、だが真剣な眼差しで尋ねる。
「隠さなくていい。俺たちはずっと一緒に戦ってきた。お前がそんな顔をするのは、珍しい。……言ってみろ。何を気に病んでいる?」
ソウヤは唇を噛み、視線を逸らした。
言葉を絞り出すように、しかし結局は口を開けなかった。
「……本当に、何でも……」
イーサンは静かに息を吐き、ソウヤの目を見つめたまま、察しをついたように低く言った。
「……ルースのことだな。」
ソウヤの肩が、びくりと震えた。
「昨日、届いた。ジャブローからの各戦線の報告書だな?ルースが所属していた、改ペガサス級1番艦『サラブレッド』を旗艦とした第16独立戦隊が、グラナダから発進したア・バオア・クーの増援を防ぐために出撃。」
イーサンは一度言葉を切り、静かに息を吐いた。
「ルースは敵艦隊を殲滅するためにガンダム4号機のメガ・ビーム・ランチャーを使用、敵艦隊の殲滅は成功したが、外部ジェネレーターが爆発を起こし、機体は大破。回収されたガンダム4号機のコックピットは完全に吹き飛んで、遺体すら残っていなかった……。」
ソウヤは目を伏せ、拳を強く握りしめた。
「……はい。あの人は……ジャブローで、引金を引く覚悟を教えてくれた人です。ガンダムを見せてくれて、仲間を信じることを教えてくれて……。メガ・ビーム・ランチャーの危険性も知りつつも、それでも引金を引いた。あの人が言ってた通り、自分の命を賭けて……。なのに、自分は……」
言葉が詰まる。
ジャブローで交わした会話、ガンダム4号機のコックピットで聞いた「仲間を信じろ」という言葉、そしてメガ・ビーム・ランチャーの不安定さを指摘した時のルースの覚悟が、今、胸を鋭く抉っていた。
イーサンは静かに頷き、ソウヤの肩を軽く叩いた。
「ルースは立派なパイロットだった。俺の数少ない、戦闘機時代からの戦友だ。あいつは最後まで、自分の信念を通したんだろう。……お前が悲しむのは当然だ。だが、ソウヤ。ルースが教えてくれた覚悟を、忘れるな。」
ソウヤはゆっくりと顔を上げ、イーサンの目を見た。
涙は浮かんでいなかったが、その瞳には確かな決意が灯り始めていた。
「……はい。隊長。……俺、ちゃんと戦います。ルース中尉が教えてくれたことを胸に刻んで。」
イーサンは小さく微笑み、背中を軽く押した。
「それでいい。さあ、行くぞ。今日の偵察を終えれば、本隊と合流だ。ルースの分まで、生きて帰ろう。」
ソウヤは深く息を吸い、はっきりとした声で答えた。
「了解しました。ルース中尉のためにも、生きて帰ります。」
二人は並んで格納庫へと進んだ。
格納庫のメンテナンスデッキでは、ヤザンが腕を組んで待っていた。
「お! 隊長もソウヤも、遅いですぜ。 偵察なんか、さっさと終わらせましょうや。」
ヤザンの軽口に、イーサンは苦笑しながら手を上げて制した。
「分かった分かった、ヤザン。落ち着け。……よし、全員機体に搭乗だ。」
3人がそれぞれのモビルスーツに乗り込むと、担当の整備担当者が機体のセッティング説明を始めた。
まず、イーサンのジム・ドミナンスのコックピットハッチの側に整備班長のナガト中尉が立ち、通信回線を開いてセッティングを説明する。
「イーサン、ジム・ドミナンスは今日も偵察用望遠カメラユニットをメイン装備。自衛用にブルパップマシンガンを腰に一本だけだ。……まあ、気休め程度の武装だから、敵に遭遇したら即離脱を優先しろよ。」
イーサンはコックピットから穏やかに応じた。
「了解した、ケン。いつもありがとう。」
次に、ソウヤのペイルライダー・マスケッティアにはイヤン軍曹が説明を始める。
「タカバ少尉、バックパックに小型ミサイルランチャーを二基、両腰にビームサーベルを一本ずつ。ハイパービーム・ライフルの軽装備だ。偵察任務、頑張ってください。」
ソウヤは静かに感謝の意を伝えた。
「ありがとう、イヤン軍曹。今日も無事に帰艦しますね。」
最後に、ヤザンのペイルライダー・ヴァンガードにはミサキ上等兵が通信で説明する。
「ヴァンガードはいつものセッティングだよ。右腕スタン・アンカー、左腕シールド・ヒートクロー、バックパックに小型ミサイルランチャー二基、両腰にビームサーベル一本ずつ。……偵察だけど、いつでも戦えるようにしといたから。」
ヤザンは軽い口調で笑いながら応じた。
「おう! いつもありがとな! だが、所詮は偵察任務だ。今日も戦闘なんて、ねーよ。」
整備担当者たちの声が格納庫に響き、オリオン小隊の3機は発進準備を始めた。
イーサンはジム・ドミナンスをゆっくりと動かし、カタパルトデッキへと移動。
コックピット内で通信回線を繋ぐと、艦橋のナタリア少尉の声が響く。
「オリオン1、こちらバイアリーターク。カタパルトはクリアです。発進許可を申請しますか?」
イーサンは落ち着いた声で応じた。
「オリオン1、イーサン・ミチェル・オルグレン。オリオン小隊、偵察任務のため発進許可を申請する。」
ナタリアの声が、少し柔らかく返ってきた。
「了解、オリオン1。バイアリータークはジャミングフィールドは最大出力で展開中。……隊長、今日も無事に帰ってきてくださいね。みんな、心配してますから。」
イーサンは小さく笑みを浮かべた。
「ありがとう、ナタリア少尉。任せてくれ。」
「オリオン1、発進許可。……どうか、ご武運を。」
イーサンは操縦桿を握り、静かに呟いた。
「オリオン1、イーサン・ミチェル・オルグレン。……行くぞ。」
カタパルトが起動し、ジム・ドミナンスが青白い推進光を残して虚空へ射出された。
次にヤザンのヴァンガードがカタパルトに足を乗せる。
「オリオン3、ヤザン・ゲーブル。発進許可をくれよ、ナタリアちゃん。」
ナタリアの声が、いつものように少しからかう調子で返る。
「オリオン3、了解しました。 ……ヤザン曹長、またそんな口調したら、ミサキ上等兵に言いつけますよ?」
ヤザンは一瞬、声を詰まらせた。
「ま、待て!ナタリア少尉!? ミサキに言いつけるのだけは勘弁してくれ! あいつ、スパナーで俺をボコボコにしようとするから、本当に勘弁してくれ!」
ナタリアはくすくすと笑いながら応じた。
「じゃあ、無事に帰ってきたら考えておきます。……発進許可どうぞ、ヤザン曹長。」
ヤザンは苦笑しつつ、返答した。
「はははっ、頼むぜ…。 ……オリオン3、ヤザン・ゲーブル!出るぞ!」
ヴァンガードが力強く射出され、闇の宇宙へ飛び出していった。
最後にソウヤのマスケッティアがカタパルトに収まる。
「オリオン2、ソウヤ・タカバ。発進許可を申請します。」ナタリアの声が、優しく、しかし心配げに響いた。
「オリオン2、許可します。……ソウヤ少尉、隊長もヤザン曹長も、みんな無事で帰ってきてください。あなたたちのデータが、戦争を終わらせる鍵なんです。……どうか、ご無事に。」
ソウヤは静かに頷き、胸の奥の決意を声に乗せた。
「ありがとうございます、ナタリア少尉。……オリオン2、ソウヤ・タカバ。……行きます!」
マスケッティアが優雅にカタパルトから射出され、オリオン小隊はバイアリータークから完全に離艦した。
暗礁帯の闇に溶け込むように進む3機。
イーサンの声が通信で静かに響く。
「全機、聞こえるか?偵察ポイントまで、慣性移動で向かう。スラスターの噴射光で敵に発見されないように気をつけろ。」
ヤザンがぼやく声が返ってきた。
「了解。また、この退屈な移動かよ……。」
ソウヤは静かに応じた。
「ヤザン、ボヤくなよ。いつもの通りに慣性移動で偵察ポイントに向かおう。」
3機は偵察ポイントの方向を正確に向けると、スラスターを短く一回だけ噴射。
青白い光が一瞬閃き、すぐに消えた。
その後、オリオン小隊は慣性に従って、静かに暗礁帯の奥深くへと滑り込んでいった。
オリオン小隊は、発進からおよそ一時間後に偵察ポイントへ到着した。
もし常時スラスターを全開で噴射していれば、わずか15分ほどで到達できた距離だ。
だが、オリオン小隊は慣性移動を選択していた。
いったん短い加速で速度を与えた後、スラスターを完全に停止し、真空の宇宙空間をただ漂うように進む方法だ。
宇宙には大気がないため、ひとたび速度を得れば、抵抗なく永遠にその速度を保ち続ける。
スラスターを噴射しなければ、推進光も熱放射も最小限に抑えられる。
ミノフスキー粒子が高濃度で散布された戦場では、センサー類はほとんど役に立たない。
敵がこちらを発見する手段は、主に目視か、ある程度の効果がある赤外線による熱源探知に限られる。
スラスターを噴射すれば、青白いプラズマの輝きが闇を切り裂き、数千キロ先からでも発見される可能性がある。
アポジーモーターを細かく調整したとしても、微かな熱放射が積み重なり、敵の赤外線センサーに引っかかるリスクは残る。
慣性移動は、文字通り「姿を消す」ための最良の手段だった。
機体はただの冷たい鉄の塊として、暗礁帯の無数の岩片や残骸に紛れ込む。敵の目には、ただの漂流物にしか映らない。
イーサンはジム・ドミナンスの姿勢制御アポジーモーターを最小限だけ噴射し、機体をゆっくりと回転させた。望遠カメラユニットがア・バオア・クーの巨大なシルエットを捉える。
「到着した。全機、予定位置に固定。……これまでで最も近いポイントだ。気を抜くな。」
ヤザンが低く唸る。
「へっ、ようやく着いたか。……しかし、こんなに近くまで来ちまったら、逆に戦闘になったら面白そうだぜな。」
ソウヤは静かに応じた。
「ヤザン、勘弁してくれ。……敵の哨戒機がいつ通るかわからない。もし、戦闘になったら、敵の部隊が沢山くるかもしれないだぞ。」
ヤザンは通信でニヤニヤと笑い、軽く肩をすくめるような仕草をコックピット内でした。
「ははっ、冗談だよ冗談! そんなに本気で受け取るなっての。……まあ、戦闘になったらなったで、俺は文句ねえけどな。」
3機は暗礁帯の岩陰に身を潜め、完全に静止した。要塞の外郭防衛ラインが、はっきりと視界に収まる距離。
このポイントは残留するミノフスキー粒子が濃く、モビルスーツを隠せるサイズの小惑星が漂っているので、偵察するに打ってつけの場所だ。
イーサンはジム・ドミナンスの右手に装備した偵察用望遠カメラユニットを慎重に構え、ア・バオア・クーの方向へ向け直した。
ミノフスキー粒子が濃密に散布された宙域では、通常のレーダーや赤外線センサーはほとんど機能しない。
粒子が電磁波を乱反射し、電子的な探知を無効化してしまうためだ。
そこで、連邦軍はアナログ方式の光学偵察を採用していた。
高性能望遠レンズと高解像度カメラを組み合わせたこのユニットは、粒子干渉を受けにくく、遠距離からでも鮮明な映像を記録できる。
まさに、ミノフスキー粒子下での偵察に最適化された装備だった。
望遠カメラユニットのレンズがア・バオア・クーの巨大な要塞シルエットを捉え、映像をリアルタイムで記録し始めた。
ジム・ドミナンスのコックピットモニターに、拡大された要塞の姿が鮮明に映し出される。
イーサンはモニターを睨みながら、冷静に敵の状態を分析し始めた。
「……これは……本格的だな。」
映像から見て取れる艦隊配置は明らかに徹底抗戦の構えだった。
ギレン・ザビ総帥がソロモン陥落後も降伏を拒否し、最後まで戦う意志を固めている証拠だ。
要塞全体が連邦軍の本格的な総攻撃を想定した布陣を取っている。
ア・バオア・クーの防衛陣は太陽を基準に南とした東西南北の四フィールドに区分けされていた。
太陽とは反対方向――ジオン本国を正面に臨むNフィールドにムサイ級艦艇やモビルスーツ部隊が最も密集して配置されているのが見て取れた。
連邦軍の本隊がソロモン方面から進撃してくる可能性を最大視した布陣だ。
イーサンはカメラの倍率を上げ、さらに詳細な偵察を行った。
すると、要塞の背後に巨大な影が浮かび上がった。
独特のシルエット――それはジオンが誇る巨大宇宙空母ドロス級だった。
多数のモビルスーツを格納と発進できるその巨体が、要塞の防衛ラインをさらに強固にしている。
イーサンは低く息を吐いた。
「……ドロス級まで投入か。強硬な陣だ。ギレンは本当に、最後まで戦う気だな。」
この布陣は、単なる時間稼ぎではない。
連邦軍に大損害を与え、徹底した抵抗の意志を示していた。
ヤザンはヴァンガードのコックピット内で、肘をコンソールに置き、顎を手に乗せてぼんやりと虚空を眺めていた。
戦闘が生き甲斐の彼にとって、ただの護衛付き偵察任務など、拷問に近い退屈さだった。
スラスターも噴射せず、ただ慣性で漂うだけ。
敵の影すら見えず、装備したビームライフルも、シールド・ヒートクローを装着した左腕も、ただの飾り物のように感じられる。
「ったく……いつまでこの漂流物ごっこやってんだよ……」
低く呟きながら、ヤザンは欠伸を噛み殺した。
その時、コックピットに短い警報音が鳴り響いた。
「ん?」
ヤザンは即座に姿勢を正し、モニターに視線を走らせる。
接近警報――だが、敵機ではなく、ヴァンガードの掌サイズの小岩石がゆっくりと向かって漂ってくるだけだった。
暗礁帯ではよくあることだ。
「ちっ、岩かよ……」
反射的にアポジーモーターを噴射して回避しようとしたが、ヤザンはすぐに手を止めた。
(噴射光が出たら、敵にバレる可能性がある……この距離じゃ、少しマズいな…。)
代わりに、ヤザンはヴァンガードの右腕を慎重に伸ばし、接近してくる岩石を軽く払いのけた。機体がわずかに揺れるだけですみ、推進光も熱放射も一切出さずに済んだ。
岩石がゆっくりと軌道を変え、ヴァンガードから遠ざかっていくのを確認すると、ヤザンは再び肘をコンソールについて、深いため息を吐いた。
「……やれやれ、また退屈に戻ったぜ……」
コックピット内は、再び静寂に包まれた。
イーサンはジム・ドミナンスの望遠カメラユニットをゆっくりと旋回させ、要塞の反対側のエリアへ向けようとした。
「敵の主力配置は掴めた。次は反対側を……」
その瞬間、モニターの端に一瞬だけ青白い光が三つ、闇を切り裂くように閃いた。
「……!」
イーサンの背筋に電流が走る。
モビルスーツのスラスターの噴射光だ。
それも、三機分。
しかも、こちらの方向へ向かっているように見えた。
「全機、岩陰に身を隠せ! 敵だ!」通信で鋭く指示を飛ばす。
ヤザンとソウヤの機体が即座に暗礁の影へと滑り込む。緊張が三機を包んだ。
暗礁帯は再び静寂に戻った。
一分、二分……五分……十分。
光は再び現れなかった。
敵は通り過ぎたのか、それとも。
イーサンは息を潜め、望遠カメラを慎重に覗き込む。
「……やり過ごしたか?」
その瞬間だった。黄色い閃光が一筋、闇を裂いて飛来し、イーサンたちが隠れていた巨大な岩塊に直撃した。
真空では音は伝わらない。だが、カメラなどが捉えた映像から、放たれたビームと岩塊の崩壊をコンピューターが即座に解析し、コックピットスピーカーから重い爆発音が轟いた。
モニターに映る岩塊が白熱し、爆発的に砕け散る光景が鮮明に広がる。
直後、青白い推進光の筋が三本、はっきりとこちらへ向かって伸びてきた。
コックピット内はスピーカーから再生された、スラスターの唸るような低音が響き渡る。
「くそっ! 発見された! 全機、散開!」
イーサンの叫びが通信に響く。
ヤザンのヴァンガードとソウヤのマスケッティアは、即座にスラスターを噴射し、岩陰から飛び出した。
飛び出したヴァンガードとマスケッティアは、即座に戦闘態勢へ移行した。
ヤザンはハイパービーム・ライフルを構え、ソウヤもマスケッティアのスコープバインダーを下げ、照準を合わせる。
二人はスラスターの青白い噴射光を目で追い、敵機を捕捉しようとした。
だが、三つの光は暗礁帯の岩陰を巧みにすり抜け、まるでこちらの射線を読んでいるかのように移動し、照準が合わせられない。
わずかな隙に、敵は距離を保ったまま優位な位置を確保していた。
ソウヤは息を呑んだ。
(……この動き……ただの哨戒部隊じゃない。相当な腕だ)
三つの青白い噴射光は、ある程度距離を離した後、こちらに向かって大きく旋回した。
まるで獲物を睨み付ける猟犬のように。
その瞬間、オープンチャンネルに通信が入った。
男の声は低く、静かだが、抑えきれない怒りと決意が滲み出ていた。
「岩石の一つが逆方向に流れていると思い、探ってみれば。――連邦の鼠どもか。ソロモンでドズル閣下を守れなかった恨み……ここで晴らさせてもらう。」
声は一瞬だけ震え、すぐに鋼のように硬くなった。
「貴様らの偵察など、無意味だ!お前達はここで、このアナベル・ガトーに討たれるのだからな!この新しく受領したゲルググで!」
通信はそこで切れた。
ヤザンが獰猛に笑った。
「へっ……面白れー!ドズルの無念を背負ってるってか? なら、俺がその無念をぶち壊してやるよ!」
ソウヤはスコープ越しに、接近してくる三機のシルエットをようやく捉えた。
先頭の機体は、青い塗装が施されたジオン最新鋭機――ゲルググだった。
ヤザンのヴァンガードが先頭に立ち、ソウヤのマスケッティアが後方から追従する形で高機動戦を開始した。
暗礁帯の岩陰を盾にしながら、ヤザンはガトーのゲルググへ果敢に接近していく。
ハイパービーム・ライフルを構え、引き金を引く。
赤いビームが一筋、闇を裂いた。
だが、ガトーはヴァンガードの銃口のわずかな向きから射線を完全に読み取り、ゲルググを軽やかに回避させた。
放たれたビームはすべて空を切り、岩塊を削るだけに終わった。
回避行動を続けながら、ガトーは右手に持っていたビームライフルを腰部ラックに懸架。
背中のホルスターからビーム・ナギナタを引き抜き、瞬時に持ち替える。
一気に間合いを詰め、ビーム・ナギナタを起動。
黄色い双刃が輝きを放ち、ヴァンガードの胴体を目がけて振り下ろされた。
並みの反応では、急に現れたナギナタの刃に斬り裂かれていただろう。
しかし、ヤザンは超人的な反射神経で対応した。
左腕のシールド・ヒートクローを展開し、二本の鉤爪を赤熱化させる。
シールド・ヒートクローがビーム・ナギナタの刃を真正面から受け止めた。
刃と爪が激しく火花を散らし、両機の装甲が軋む振動がシートを通じて伝わる。
ガトーは一瞬、目を瞠った。
(……この反応速度……ただの連邦パイロットではない!)
ヴァンガードとゲルググが互いの刃を押し合い、静止した瞬間――ガトーの僚機、二機のリック・ドムが左右からヴァンガードを挟撃しようとジャイアント・バズを構えて迫ってきた。
だが、そこに割り込んだのはソウヤのマスケッティアだった。
2機のリック・ドムにハイパービーム・ライフルを連射。
赤いビームが二筋、三筋と放たれ、リック・ドムの進路を塞ぐ。
二機のリック・ドムは急制動でビームを回避したが、挟撃のタイミングは完全に崩された。
ガトーは僚機の動きが阻まれたことを瞬時に察知し、ヴァンガードから距離を取るように後退した。
ビーム・ナギナタを構え直し、冷静に敵の動きを観察する。
(……この連邦の見慣れないモビルスーツ。あの射撃の精度と私の先の一撃を防いだ反射神経……、相当な腕のようだ。)
ガトーの瞳に、警戒と同時に闘志が燃え上がった。
ヴァンガードは後退し、マスケッティアの援護射撃が届きやすい位置へ移動。
先のゲルググの一撃は、ヤザンに冷や汗をかかせていた。
もし反応が一瞬でも遅れていたら、ヴァンガードは真っ二つにされていただろう。
だが、その危機が逆にヤザンの闘争心に火を点けた。
コックピット内で牙を剥くような笑みが浮かぶ。
(へっ……面白ぇ! 久しぶりに噛み応えのある強敵だ!)
ヤザンは獲物を見つけた猛獣のように、興奮を抑えきれずに体をわずかに震わせた。
一方、ソウヤは冷静に状況を分析していた。
敵に発見された以上、ア・バオア・クーから増援が駆けつけてくるのは時間の問題だ。
この位置から要塞までは、スラスター全開でも最速で30分はかかる。
だが、悠長に戦っていたら、確実に敵の部隊が到着する。
(3機でバイアリータークまで撤退するか……?)
一瞬考えたが、すぐに却下した。
敵に追跡されれば、バイアリータークの位置が露見する。
すると、要塞から大部隊が追撃を仕掛け、艦自体が危機に陥る可能性が高い。
偵察任務の意味が、すべて台無しになる。
ソウヤはイーサンに通信を繋いだ。
「隊長、バイアリータークに連絡は取れそうですか?」
イーサンの声が即座に返ってきた。
「無理だ。この距離じゃミノフスキー粒子が濃すぎて、通信は通らない。」
ソウヤは唇を噛んだ。
(バイアリータークを危険に晒すわけにはいかない。偵察データを無事に持ち帰らなければならない。そして、目の前のアナベル・ガトー……このまま撤退させてくれるわけがない)
ヤザンの闘争心が燃え上がっているのも、通信越しに伝わってくる。
ソウヤは決断し、イーサンに進言した。
「隊長、提案があります。私とヤザンでガトーを足止めします。隊長は単機で通信可能な距離まで離脱してください。」
イーサンの声が驚きに震えた。
「何を言ってる! 部下を見捨てて逃げられるか!」
だが、ソウヤは冷静に続けた。
「3機でバイアリータークへ戻ろうとすれば、敵に艦の位置を露見させてしまいます。3機でここに留まれば、増援が到着し、全滅の危険があります。それなら……ジム・ドミナンスがデータを抱えて離脱し、バイアリータークに応援を要請するのが最善です。最悪、私たちが撃破されても、隊長がデータを本隊に届けられれば……意味があります。」
通信に、短い沈黙が落ちた。
ヤザンの声が割り込んだ。
「へっ、ソウヤの言う通りだぜ、オルグレン隊長。俺はここで遊んでる方が性に合ってる。……データ持って、さっさと応援を呼んでくれよ。」
イーサンは苦々しく息を吐いた。
「……わかった。だが、絶対に生きて帰れ。二人とも。」
ソウヤは静かに応じた。
「了解しました。……隊長も、無事に戻ってください。」
ジム・ドミナンスがスラスターを噴射し、暗礁帯の奥へと離脱していく。
残されたヴァンガードとマスケッティアは、ガトー隊を迎え撃つ態勢を整えた。
ガトーは離脱するジム・ドミナンスを一瞥し、ビームライフルに持ち替えた。
「逃がさん……!」
ゲルググがスラスターを全開に噴射し、ジム・ドミナンスの背後を追撃する。
二機のリック・ドムもそれに続く。
だが、ヤザンのヴァンガードが横から割り込み、ハイパービーム・ライフルを連射した。
「行かすかよ! お前の相手は俺だぜ!」
赤いビームがゲルググの進路を塞ぎ、ガトーはアポジーモータを噴射させ、回避しながら反撃のビームライフルを発砲。
ソウヤのマスケッティアは僚機のリック・ドムを牽制し、ハイパービーム・ライフルで正確な射撃を加える。
「ヤザン、突っ込みすぎだ! 距離を取れ!」
ガトー隊の追撃は、ヤザンとソウヤの激しい抵抗によって阻まれた。
ジム・ドミナンスは暗礁帯の影を縫うように加速し、通信可能な距離へと遠ざかっていく。
ガトーは苛立ちを抑え、通信で僚機に指示を飛ばす。
「カリウス!離脱した奴を追え! 残りは私とルロイで片付ける!」
一機のリック・ドムがジム・ドミナンスを追撃し始めたが、ヤザンとソウヤはそれを許さない。
二人は連携を深め、ガトー隊をその場に釘付けにした。
ソウヤは通信で、静かにヤザンに声をかけた。
「……ヤザン、すまない。隊長を逃がすために、一緒に殿になってくれて……。死ぬ可能性があるのに、すまない…。」
ヤザンはヴァンガードのコックピットで、獰猛に笑った。
「ははっ、何言ってんだよソウヤ。お前、俺のことよくわかってるじゃねえか。目の前にこんな面白ぇ強敵がいるのに、逃げられるわけねえだろ?」
ヤザンの声は、興奮でわずかに震えていた。
「俺の闘争心に火がついたの、察したんだろう? だからこそ、あの提案したんだろ。……ありがとうよ。お前みたいな相棒がいてくれて、俺は嬉しいぜ。」
ソウヤは一瞬、言葉を失った。
恨み言の一つでも言われるかと思っていたのに――杞憂だった。
「……俺こそ、ありがとう。」
短く、だが心からの言葉を返した。
二人のモビルスーツ――ヴァンガードとマスケッティアは、見事な連携でガトーとその僚機二機を足止めしていた。
ヤザンが前衛でガトーのゲルググを引きつけ、ソウヤが後方から正確無比な射撃で僚機のリック・ドムを牽制。暗礁帯の岩陰を巧みに利用し、敵の攻撃をかわしながら反撃を加える。
ガトーは内心、二人の連携を称賛せざるを得なかった。
(……味方を逃がすために殿を買って出るとは、連邦の兵士にしては見事……だが)
同時に、自分自身に怒りを覚えていた。
(一機を離脱させてしまった……! 偵察データを抱えた奴を逃がすなど、許されん!)
ゲルググが再び加速する。
二対三の不利な戦いは、まだ始まったばかりだった。
明けましておめでとうございます。
今年も「機動戦士ガンダム オリオンの軌跡」をよろしくお願いいたします。
さて、遂に夢のドリームバトルの一つ、ヤザンVSガトーの最強オールドタイプの幕が上がりました!
いやー、本当に書くのが楽しみでした。
では、続きは書いているので、お楽しみに~♪
【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?
-
陸戦型ジム改
-
バイアリーターク
-
ペイルライダー・ヴァンガード
-
ペイルライダー・マスケッティア
-
ヴァルキリー
-
グフ・ノクターン