機動戦士ガンダム オリオンの軌跡   作:浅片名羽馬

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第31話 暗礁の悪夢╱ハーデスの覚醒【中】

暗礁帯の闇を、青白い光の筋が縦横無尽に走っていた。

ヤザンのヴァンガードとガトーのゲルググが、岩塊の間を縫うように激しく機動を繰り返す。

スラスターの噴射光が短く閃くたび、二機のシルエットが一瞬だけ浮かび上がり、すぐにまた闇に溶け込む。

ヴァンガードはハイパービーム・ライフルを連射し、赤い光の軌跡がゲルググを追いかける。

ガトーはゲルググの優れた機動性を活かし、岩陰を盾にしながら回避を繰り返す。

ビームが岩塊に当たるたび、無音の爆発が光の花を咲かせ、破片が四散する。

ヤザンは操縦桿を握りしめ、歯を食いしばった。

肉薄するたび、ゲルググのビーム・ナギナタが鋭く迫ってくる。

一瞬の隙も許されない緊張感が、コックピットを支配していた。

 

(くそっ……こいつは強い! 一瞬でも操作と判断をミスったら、死ぬ……!)

 

ヤザンはヴァンガードのアポジーモータを細かく調整し、ゲルググの死角を突こうとするが、ガトーは予測したように旋回し、ビームライフルで反撃を加える。

ガトーは冷静に距離を測りながら、ビーム・ナギナタを構え直した。

ヴァンガードの攻撃は苛烈で、一瞬でも隙を見せたら、仕留められる。

ゲルググのコックピット内で、ガトーの目が細める。

 

(……この連邦のパイロット……ただ者ではないな。だが、ソロモンの雪辱を果たすため!負けるわけには、いかん!!)

 

二機の戦いはさらに白熱し、暗礁帯の岩塊を盾にしながらの近距離戦へ移行した。

ヴァンガードのシールド・ヒートクローの鉤爪とナギナタの刃がぶつかるたび、火花が散る。

機体の振動がシートを通じて伝わり、コックピットは熱気で満たされる。

一方、後方から援護するソウヤのマスケッティアは、ハイパービーム・ライフルでリック・ドムの動きを封じ込めていた。

赤いビームが連続して放たれ、二機のリック・ドムを岩陰に追い込む。

戦場は、光と影の乱舞で埋め尽くされていた。

 

ガトーはヤザンのヴァンガードと激しく斬り結びながら、僚機の様子を窺った。

カリウスとルロイのリック・ドム二機が連邦のもう一機と交戦している。

二人掛かりで挑んでいるはずなのに、進展がない。

いや、それどころか苦戦している。

マスケッティアのハイパービーム・ライフルが放つ赤いビームは正確無比に二機の動きを封じ込め、岩陰を盾にしながらも隙を見せない。

リック・ドムがジャイアント・バズで反撃を試みても、射線を読まれ、岩塊に着弾するだけに終わっている。

 

(……あのパイロットも、並みの腕ではないな。)

 

ガトーは内心で舌打ちした。

もう一機のパイロットは、隙あらばこちらのゲルググを狙おうとしているのがわかる。

ヴァンガードとの一騎打ちに集中している自分に、援護射撃を加えようと虎視眈々と機会を窺っているのだ。

カリウスとルロイがなんとかその射手を抑え込んでいるおかげで、こちらへ致命的な一撃が飛んでこない。

 

(あっちは鷹視狼歩、こっちは狼貪虎視。連邦にも、こんなパイロットがいたとは…!……だが、このままでは埒が明かん。)

 

ゲルググのビームライフルが火を噴き、黄色いビームが正確無比にヴァンガードの胴体を狙う。

一発目は岩陰を盾に回避されたが、二発目、三発目と連続で放たれる射撃は、ヤザンの動きを完全に読んでいるかのように死角を突いてくる。

 

「くっ……!」

 

ヤザンはヴァンガードを急旋回させ、ビームをかわすが、ガトーの攻めは容赦なかった。

 

ガトーの射撃は冷静で、無駄な一発すらない。距離を保ちながら、ヴァンガードの機動パターンを分析し、確実に追い詰めていく。

 

(こいつの射撃の読み……正確すぎる! 動きを完全に読まれたら、終わりだ……!)

 

ヤザンは歯を食いしばり、ハイパービーム・ライフルを連射で返す。

赤いビームがゲルググを追いかけるが、ガトーは軽やかに機体を傾け、すべてを回避。

頭部バルカンを追加で掃射し、バックパックの小型ミサイルランチャーからミサイルを四発放つ。

爆発の光が暗礁帯を照らし、ゲルググの視界を乱す。

 

「はははっ! どうだ! これで動きが止まるだろ!」

 

ミサイルが岩塊に着弾し、無音の爆発が連鎖する。

残骸と破片が四散し、ゲルググの進路を塞ぐ。

ヤザンはその混乱を活かし、ヴァンガードの機動性をフルに発揮して残骸を盾にしながら接近を図る。

スラスターを細かく噴射し、岩陰から岩陰へ跳躍するように移動。

ゲルググとの距離を一気に詰める。

ガトーはミサイルの爆発を冷静に回避し、ビーム・ナギナタに持ち替えた。

 

「甘い……!」

 

黄色い双刃が輝き、ヴァンガードの突進を迎え撃つ。

ナギナタの刃が残骸を薙ぎ払い、ヤザンのヴァンガードに迫る。

ヤザンはシールド・ヒートクローを赤熱化させ、ナギナタを受け止めた。

刃と爪が激突し、火花が散る。

 

「へっ……やっぱり、ナギナタかよ! 面白いぜー! お前みたいな強敵、地上以来だ!」

 

ヤザンの声は興奮に満ちていたが、額には冷や汗が浮かんでいた。

この距離での一撃は、致命的だ。

一瞬の油断が命取りになる。ガトーはナギナタを押し込みながら、低く応じた。

 

「……ふん。連邦の狗が、よく吠える!!」

 

二機の刃が火花を散らし、互いの装甲が軋む。

ヴァンガードのシールド・ヒートクローがナギナタの刃を弾き、ヤザンはその隙にスタン・アンカーを右腕から射出。

ワイヤー付きのアンカーがゲルググの肩を狙う。

ガトーは即座に機体を後退させ、アンカーを回避。

ビームライフルに持ち替え、至近距離で反撃のビームを放つ。

ヤザンはヴァンガードを急降下させ、ビームをかわす。

岩塊が蒸発する光が背後で広がる。

 

「はははっ! それで終わりかよ! お前の本気はこんなもんじゃないだろ!!」

 

ガトーの瞳が冷たく光った。

 

「……望むところだ。」

 

ガトーはゲルググのコックピット内で、ビームライフルのエネルギー残量を表示するメーターを一瞥した。

残りはわずか。

ヤザンとの激しい撃ち合いが、予想以上にエネルギーを消費していた。

 

(ビームライフルのエネルギー残量も残り僅か……、あと数発くらいか。)

 

ガトーは冷静にヴァンガードを観察する。

赤熱化したシールド・ヒートクローの二本の鉤爪が、わずかに歪んでいるのがわかった。

何度もビーム・ナギナタと刃を交えたために、鉤爪の強度に限界が近づいているようだ。

 

(あの鉤爪、ビームナギナタのダメージが蓄積されていると見た……。)

 

一方、ヤザンはヴァンガードのモニター越しに、遠くで戦うソウヤのマスケッティアを気にしていた。

ソウヤは宇宙に来てから目に見えて成長した。

射撃の精度、状況判断――すべてが磨かれている。

だが、今は二機のリック・ドムを相手に単独で食い止めているために負担は大きいはずだ。

 

(くそっ……ソウヤの奴、よくやっているが。……このままじゃヤバい。早くこいつを仕留めねえと!)

 

ヤザンは即座に手持ちの武器を確認した。

ハイパービーム・ライフルのエネルギーは残りわずか。バックパックの小型ミサイルランチャーはまだ4発残っており、頭部バルカンは弾薬に余裕がある。

 

「へっ……これだけあれば、十分だ!」

 

ヤザンは執念を燃やし、ヴァンガードのスラスターを限界近くまで噴射させた。

強引に距離を詰め、ゲルググへ突進する。

 

「てめえをぶっ倒して、ソウヤの援護に行かせてもらう!」

 

ガトーは冷静にシールドを構え、機動で回避を繰り返す。

ビームライフルで迎撃の射撃を加え、ヤザンの接近を何度も阻んだ。

黄色いビームがヴァンガードの側面をかすめ、装甲を焦がす。

 

「あと、もう少し!!」

 

ヤザンは頭部バルカンで牽制しつつ、ミサイルを二発放つ。

爆発がゲルググの進路を塞ぎ、強引に間合いを詰める。

 

「今だっ!」

 

シールド・ヒートクローを最大出力で赤熱化させ、ゲルググの胴体を突き刺そうと振り下ろす。

だが、ガトーはその動きを待っていた。

 

「甘いな!!」

 

ゲルググは右手に持っていたビームライフルを投棄し、素早くビーム・ナギナタを右手に持った。

ビーム・ナギナタのエネルギーを片刃だけに集中させ、

黄色い双刃が一瞬収縮し、膨大なエネルギーが凝縮された青龍刀のような単刃へと変化した。

 

「これで終わりだー!連邦の狗!!」

 

膨大なエネルギーの刃が閃き、シールド・ヒートクローの二本の鉤爪に直撃した。

爪と刃が激しく火花を散らし、ヴァンガードの左腕が軋む音がコックピット内に響く。

ヤザンは歯を食いしばり、左腕の出力を限界まで上げて押し返す。

だが、ガトーが片刃に集中させたエネルギーは圧倒的だった。

膨大な熱量が鉤爪を侵し、金属は溶け、わずか数秒で耐えきれなくなり、シールド・ヒートクローの爪が千切れ飛ぶ。

 

「くそくらえ!」

 

ヤザンはシールド・ヒートクローが耐えた僅かな瞬間に、右手に持っていたハイパービーム・ライフルをゲルググに向かって投げつけ、同時に頭部バルカンで投擲したライフルを射撃。

エネルギー残量の少ないライフルに被弾し、誘爆する。

ガトーは爆発を瞬時に察知し、ゲルググを急後退させた。

シールドを構えながら、爆風に巻き込まれないよう距離を取り、ナギナタの刃を構え直す。

 

ヴァンガードの右腕が焦げ、装甲が剥がれるが、致命傷は免れた。

ヤザンは息を荒げながら、獰猛に笑った。

 

「はははっ! まだ終わらねえよ!こんなところで、死んでたまるか!!」

 

ガトーは舌打ちし、ナギナタを構え直した。

 

「……しぶとい奴め。だが、次は逃さん!」

 

ヴァンガードは左腕の破損したシールド・ヒートクローをパージ。

ヤザンは腰の左右に装着されたビームサーベルを両手に抜き、瞬時に起動させる。

赤い二本の刃が輝きを放ち、コックピット内に反射する光がヤザンの獰猛な笑みを照らし出した。

 

「へっ……近接戦かよ。望むところだぜ!」

 

ヤザンはヴァンガードのスラスターを全開に噴射し、ゲルググへ突進した。

両手のビームサーベルを交差させ、二刀流の嵐のような斬撃を繰り出す。

右から左へ、左から右へ、連続で刃を振るい、ゲルググに刃を嵐のように振るう。

ガトーはシールドを構え、ビーム・ナギナタを巧みに操った。

最初は片刃だけにエネルギーを集中させた状態で、青龍刀のような長大な単刃を振るい、ヴァンガードの斬撃を弾き返す。

シールドで二刀の連撃を受け止め、ナギナタの刃で反撃を加える。

黄色い光の軌跡が闇を切り裂き、ヴァンガードの装甲をかすめるたび、火花が散る。

 

「ふん……二刀流か。だが、手数だけでは私を倒せん!」

 

ガトーは冷静に距離を調整し、ナギナタのエネルギーを両刃に戻す。

双刃が広がり、ヴァンガードの両サーベルを同時に受け流す。

シールドで突進を防ぎ、機体を回転させて死角から斬りかかる。

ヤザンの攻撃は苛烈だが、ガトーの防御と反撃は隙はなかった。

ヤザンは歯を食いしばりながら、斬撃を繰り返す。

 

「くそっ……固ぇな……。 だがよ……!」

 

ヤザンはヴァンガードのスラスターを細かく噴射し、岩陰を盾にしながら接近。

両サーベルを交互に振り、ゲルググのシールドを削り、ナギナタの柄を狙う。

ガトーは内心で驚愕した。

 

(……この男……急に動きが変わった。私のパターンを読んでいるのか!? )

 

ヤザンはさらに肉薄し、両サーベルをクロスさせてナギナタの刃を弾き、ゲルググの胴体にビームサーベルを走らせる。

ガトーはシールドでビームサーベルを防ぐが、衝撃で機体がわずかに後退する。

 

「はははっ! どうだ!お前の太刀筋、大分慣れてきたぜ!」

 

ガトーは苛立ちを抑え、ナギナタを片刃に戻して大振りの一撃を放つが、ヤザンはそれを予測し、ヴァンガードを急降下させて回避させた。

 

「今だっ!」

 

ヴァンガードは右腕のスタン・アンカーを射出。

ガトーは射出されたスタン・アンカーの杭に気付き、咄嗟に機体を横に滑らせた。

 

「ふっ!二度も同じ手に掛かるか!!」

 

だが、スタン・アンカーの杭はゲルググの背後に浮遊する巨大な岩石に突き刺さる。

アンカーのワイヤーを一気に巻き取り、横に全力で振り抜いた。

 

「わりぃな!こっちが本命なんだよ!!」

 

岩石は鋭い弧を描き、横一文字に空間を薙ぎ払うと、ゲルググのシールドに直撃。

衝撃でシールドは吹き飛ばされ、ガトーの体勢が一崩れた。

ガトーはコックピット内で一瞬、息を詰まらせた。

ヤザンの変則的な攻撃に完全に虚を突かれ、体勢が崩れたことに焦りが走る。

 

(こんな手で来るとは! くそ、体勢が……!)

 

スタン・アンカーは無茶な使い方をしたために、内部機構が破損し、使用不能になるが、ヤザンは構わずスラスターを噴射。

 

「これで、終わりだぁー!!」

 

一気に間合いを詰め、両手のビームサーベルを交差させてゲルググの胴体を狙う。

ヤザンは勝利を確信した。

 

 

しかし、次の瞬間――

 

 

黄色い閃光の群れが、ヴァンガードを襲う。

右前腕と右足にビームが直撃、命中した箇所は蒸発し、ヴァンガードは右前腕と右足を損失した。

 

 

 

 

 

ヤザンはなんとかバランスを崩した機体を操縦し、体勢を直す。

右前腕と右足を失った機体は推進が偏り、制御が難しい。

スラスターとアポジーモータを細かく調整しながら、ヤザンは歯を食いしばる。

 

(あと一歩……あと一歩で仕留められたのに……! 横から邪魔しやがって!)

 

怒りが胸を焦がす。

興奮と苛立ちが混じり、ヤザンの顔が歪んだ。

ガトーもコックピット内で顔をしかめた。

 

(……ここまで、追い込まれるとは……。だが、この勝負を横から奪われるとは……!)

 

自分と強敵との一騎打ちに水を差されたことに、燻る怒りが湧き上がる。

プライドの高いガトーにとって、決着を付けられなかったのは耐えがたい屈辱だった。

その時、三つの青白い噴射光が急速に接近してきた。

3機のゲルググ――先頭の機体は、特徴的な紫色に塗装されている。

ヴァンガードの通信機から、聞き覚えのある声が響いた。

低く、粘つくような、笑いが混じった声だ。

 

「ハハハッ!久しぶりだな、三ツ星! オデッサとジャブローでの借り、ここで返させてもらうぞ!」

 

ヤザンはその声を聞き、即座に相手を悟った。

 

「ちっ! 忍者グフのパイロットか!? 生きてやがったのかよ、てめえ!」

 

サタケは、ヤザンに二度も敗北したことに屈辱を覚え、復讐の炎が燃え盛っていた。

 

「俺に、二度の屈辱を与えた借りをようやく返せる……! ここで討ち取らせてもらう!」

 

サタケは部下の学徒兵パイロットに指示を飛ばす。

 

「お前達! 手負いの奴を攻撃しろ! 今なら、お前達でも倒せる! 連邦の新型を撃破すれば、立派な戦果だ! 国のために、やってみせろ!」

 

学徒兵のゲルググ二機は興奮を抑えきれず、ビームライフルを構えて突進した。

若いパイロットたちの声が通信に響く。

 

「了解です、サタケ大尉! これで俺たちも……!」

 

「連邦の新型だ! 倒せば、僕らは英雄だ!」

 

二機は実戦で初めての戦果を上げられる興奮に震えながら、手負いのヴァンガードにビームライフルを撃つ。

ガトーは苛立ちを露わに通信で主張した。

 

「待て! そのモビルスーツの相手は私だ!」

 

だが、サタケは通信で、丁寧だがどこか含みを持った声で応じた。

 

「申し訳ありません、ガトー大尉。先ほどの一撃を見ていましたが、あと一歩で撃破されそうだったではありませんか。ゲルググの左手マニピュレーターも破損していますし、我々が援護に入らなければ危ういところでした。同じジオンの同胞として、お力になれたなら幸いです。」

 

一瞬の間を置き、サタケの声に冷たい笑みが混じる。

 

「それに……あの連邦のパイロットは、私にとっても因縁の相手です。オデッサ、ジャブローで二度にわたり屈辱を味わわされた借りを、ここで返したい。手負いの今こそ、確実に仕留められる絶好の機会です。どうか、この場は私どもにお任せいただけませんか。」

 

言葉は礼節を弁え、ガトーへの敬意を表しているが、その奥に潜む執念と復讐心は隠しようがなかった。

ガトーは唇を噛み、操縦桿を握る手に力がこもった。

 

(……同胞の援護と言われれば、拒むわけにはいかんか。だが、この勝負を横取りされたまま終わるのは……!)

 

プライドが傷つき、燻る怒りがガトーの胸に残った。

サタケはそう言うと、自らも紫のゲルググを前進させ、手負いのヴァンガードへの攻撃に加わった。

 

 

 

 

 

 

「ヤザン!?」

 

ソウヤは焦った。

2機のリック・ドムを足止めに専念していたために、敵の接近に気付けなかったことに。

マスケッティアのモニターに、損傷したヴァンガードが映し出される。

右前腕と右足を失い、推進が偏った機体が、3機のゲルググのビームライフルの射撃を必死に回避している姿が。

 

(ヤザン……! くそっ、俺のせいだ……!)

 

ソウヤは即座にスラスターを噴射し、ヤザンの元へ向かおうとした。

だが、2機のリック・ドムはジャイアント・バズを放ち、それを許さない。

放たれた弾は岩石に着弾し、爆発の光と飛び散った破片がマスケッティアの進路を塞ぐ。

ソウヤはハイパービーム・ライフルを連射し、リック・ドムを牽制するが、二機の連携は予想以上に堅い。

 

(このままじゃ……ヤザンが……!)

 

損傷したヴァンガードは、3機のゲルググのビームライフルの射撃をなんとか回避していた。

右前腕を失ったため、ビームサーベルは左手一本だけ。右足の損失で機動性も低下し、スラスターの噴射が不安定になる。

ヤザンは操縦桿を握りしめ、歯を食いしばった。

 

「くそっ……こんな所で死ねるかよ!」

 

 

紫のゲルググ――サタケの機体が、ビームライフルを構えながら接近してくる。

 

「三ツ星……今度こそ、終わらせてやる!」

 

学徒兵の二機も興奮を抑えきれず、ビームを乱射する。

ヴァンガードは岩陰を盾にしながら、必死に動きを続けていた。

だが、損傷の影響は明らかで、徐々に動きが鈍くなっていく。

ソウヤの胸に焦りと絶望が渦巻き、戦死したルース中尉の言葉が脳裏をよぎった。

 

 

「ソウヤ、引金を引くってのはな、ただ敵を倒すことじゃない。そこには、必ず何かを賭ける覚悟が必要だ。」

 

 

ソウヤはその言葉を思い出し、ヴァンガードのシステム画面を操作。

マスケッティアのコックピット内に、警告音が低く響き始めた。

 

 

 

          【HADES】

  【Hyper Animosity Detect Estimate System】

        《!! CAUTION !!》

     ❰SYSTEM STATUS: STANDBY❱

 《 WARNING: LIMITER OVERRIDE DETECTED》

      【 RELEASE LIMITER?】

        《YES》《NO》

 

 

 

メインコンソールのサブディスプレイが赤く点滅し、黒地に白文字の警告画面が浮かび上がる。

その瞬間、格納庫で整備班長のナガト中尉が真剣な顔で言った言葉が鮮明に蘇った。

 

「ソウヤ、マスケッティアとヴァンガードにはHADESという戦闘用オペレーティング・システムが組み込まれている。機体に搭載された学習型コンピュータが膨大な戦闘データから敵の行動を予測し、場合によってはリミッターを解除したり、操縦に介入したりする半自律型のOSだ。反応速度は異常なまでに高くなるが……正直、危険すぎる代物だ。」

 

ナガトは資料をめくりながら、眉を寄せた。

 

「システムをフル稼働させると、殺人的なGが発生する。並みのパイロットじゃ追従できねえ。最悪、パイロットが死ぬ。だから俺達、整備班は2機のHADESにロックを掛けた。だが……万が一の危機に陥った場合に備えて、ロック解除できるようにしてある。ただし、使うなよ。万が一の保険だからな…。」

 

ソウヤの指が、操縦桿横のタッチパネルに伸びる。

 

(……覚悟、か)

 

再び、胸の奥でルースの声が響く。

 

「君が引金を引く時、ただ敵を狙うんじゃない。仲間を守り、未来を切り開くために引くんだ。その覚悟があれば、どんな恐怖も乗り越えられる。ソウヤ、君の戦う理由は何だ? その理由を胸に刻んで、仲間と共に戦え。それが、俺が君に伝えたい、引き金を引く覚悟だ。」

 

ソウヤは深く息を吸い、迷いなくカーソルを《YES》へ移動させた。

指が、確定ボタンを押し下ろす。

画面が一瞬白くフラッシュし、警告音が変化する。 

 

    

 

      【HADES ACTIVATED】

      

 

 

機体がわずかに震え、マスケッティアのデュアルセンサーが赤く発光する。

ソウヤの視界が広がっていき、敵の動きが予測線として浮かび上がる。

三機のゲルググのビームライフルの射線が赤い軌跡として視え、リック・ドムのジャイアント・バズの弾道さえ、予測線として浮かび上がる。

ソウヤの瞳が静かに輝き始めた。

 

「行くよ……。ペイルライダー!!」

 

ソウヤはペダルを深く踏み込んだ。

【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?

  • 陸戦型ジム改
  • バイアリーターク
  • ペイルライダー・ヴァンガード
  • ペイルライダー・マスケッティア
  • ヴァルキリー
  • グフ・ノクターン
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