機動戦士ガンダム オリオンの軌跡   作:浅片名羽馬

33 / 71
※注意・この話では、原作キャラが死亡します。



第32話 暗礁の悪夢╱ハーデスの覚醒【下】

マスケッティアが爆発的に加速し、スラスターは咆哮のような噴射光が青白く尾を引き、機体が岩塊の間を猛スピードで突き進む。

急激なGがソウヤの体をシートに押し付け、肋骨が軋み、視界の端が暗くなる。

肺が圧迫され、息が詰まるような痛みが走った。

 

(……っ! なんだ!?……この殺人的なGは…!)

 

リミッター解除されたマスケッティアの機動性は、ソウヤの想像を超えていた。

まるで機体が自分の神経を直接延長したかのような、異常な反応速度。

だが、その代償は容赦ない。

 

(これが…HADES!ペイルライダーの……本当の力…!)

 

痛みを堪え、ソウヤは歯を食いしばる。

ヤザンのヴァンガードが、モニターに映る。

損傷した機体が3機のゲルググに囲まれ、ビームの弾幕を必死に回避している。

 

(ヤザン……!頼む…! 間に合ってくれよ……!)

 

二機のリック・ドムはジャイアント・バズを乱射するが、マスケッティアは予測不能の軌道で回避しながら、猛スピードで3機のゲルググに迫っていく。

コックピットのモニターに、HADESの学習型コンピュータが追加表示を重ね始める。

敵の移動軌道が赤い予測線として描かれ、自動照準補正がリアルタイムで作動し、強調表示される。

ソウヤはそれを見て、息を呑んだ。

 

(……なんて高い……予測なんだ……! まるで、未来が見えてるみたいだ……!)

 

体に走る痛みと戦いながら、ソウヤはスコープバインダーを覗き込み、HADESの予測を信じて狙いを定め、マスケッティアのハイパービーム・ライフルが火を噴く。

二発の赤いビームが、先行している学徒兵のゲルググに向かって放たれた。

一発目はシールドに直撃し、シールドを焦がす。

二発目はゲルググの肩部装甲を削り取った。

学徒兵のゲルググ二機は突然の精密射撃に動きを完全に止め、慌てふためく。

ソウヤは相手が硬直したことを確認すると、さらにスラスターを限界まで噴射。

体に新たな痛みが走るが、構わず距離を詰めた。

サタケは学徒兵の硬直を見て、通信で怒鳴り声を上げた。

 

「何を止まっている! 弾幕を張れ! 弾幕を張って、奴を近づけるな! 撃破すればいいんだ!!」

 

紫のゲルググが先陣を切り、ビームライフルを連射する。

黄色いビームが連続して放たれ、闇を切り裂く。

学徒兵の二機も慌てて追従し、ビームライフルを乱射した。

三機からのビームの弾幕がマスケッティアを迫る。

だが、マスケッティアはHADESが予測した相手の射線を先読みし、高出力スラスターの推力を一瞬で爆発的に噴射して、スレスレで回避していく。

急激な加速と旋回が連続し、機体は予測不能の軌道を描く。

ソウヤの体に、殺人的なGが容赦なく襲いかかる。

視界が揺れ、肺が圧迫され、まるで殺人洗濯機の中に押し込まれ、高速で回転しているかのような激痛が全身を駆け巡った。

 

(……っ! 体が……!)

 

さらに、HADESが最短最速の最適解を演算し、操縦に介入してくる。

ソウヤの思考とは全く違う操作――正気の沙汰ではありえない、極限の機動を強制的に実行しようとする。

操縦桿が勝手に動き、スラスターが異常なタイミングで噴射される。

 

(このシステム……まともじゃない……!)

 

ソウヤは必死に耐えながら、HADESの介入を受け入れた。

HADESの演算は、敵の射撃タイミングそのものを先読みしていた。

学徒兵が引き金を引く前に、ソウヤの視界には赤い軌跡が複数浮かび上がり、どの攻撃がどの順番で飛んでくるかが既にモニターに表示される。

マスケッティアは、敵が撃つ前に回避軌道に入り、ビームが放たれる瞬間にすでに次の位置へ移っている。

サタケはコックピット内で目を瞠った。

 

「な……なんだ、あの動きは!? 弾幕を……全部避けている!?」

 

三機のゲルググはビームを乱射しながらも、マスケッティアの異常な機動に翻弄され、接近を許してしまう。

赤く輝くデュアルセンサーのマスケッティアが、闇を切り裂いて迫る。

サタケの紫のゲルググが、ビーム・ナギナタを両手に持ち替え、マスケッティアへ猛然と斬りかかった。

黄色い光刃が闇を切り裂き、弧を描いて振り下ろされる。

だが、HADESはナギナタの軌道を完璧に予測していた。マスケッティアは常識外れの機動で応じる。

スラスターを逆噴射し、機体を横に滑らせながら急降下。

ナギナタの刃が空を切り、わずか数センチの差でマスケッティアの頭部をかすめる。そのまま機体を反転させ、背後を取った。

サタケは自分の目を疑った。

 

「な……なんだ、あの機動は!? 化け物か!?」

 

ソウヤはハイパービーム・ライフルを構え、引き金を引こうとした。

 

(今だ……!)

 

だが、その瞬間――

 

ガトーのゲルググが飛び出し、ビーム・ナギナタを振り降ろす。

 

「面妖な機体め……! 墜ちろぉー!!」

 

黄色い刃がマスケッティアのライフルを狙って閃く。

ソウヤは反射的に回避行動を取ろうとした。

スラスターを噴射し、機体を後退させようとする。

しかし、HADESが最適解を演算し、操縦に強制介入した。

 

一瞬の遅れが生まれた。

 

ソウヤの意図とHADESの計算がわずかにズレ、回避がコンマ数秒遅れる。

その隙を、ガトーは逃さなかった。

ナギナタの刃がマスケッティアのハイパービーム・ライフルを捉え、銃身部分を綺麗に切り落とす。

切り離された銃身が闇の中で回転しながら遠ざかっていく。

ソウヤはモニターに映る損傷状況を見て、焦りと困惑が胸を締め付けた。

 

(……ライフルが……!? 射撃手段を……失った……!?)

 

HADESの介入が、逆に仇となった瞬間だった。

ソウヤは機体を後退させ、敵との距離を離そうとした。操縦桿を強く引き、スラスターを逆噴射で制御する。

しかし、HADESはマスケッティアを前進させようとする。

システムが演算した最適解。

敵を迎撃するために、強制的に実行しようとするのだ。

ソウヤの操作とHADESの介入が衝突し、マスケッティアの動きがぎこちなくなる。

機体が一瞬前進しかけ、すぐに後退に切り替わり、左右にわずかに揺れる。

二系統の指令がぶつかり合い、スラスターの噴射が不規則に乱れ、機体がその場で痙攣するような動きを繰り返す。

 

(……っ! 動け……! 後退しろ……!)

 

ソウヤは必死に操縦桿を握りしめ、後退を強行しようとするが、HADESの介入がそれを許さない。

機体は前進と後退の間で膠着し、わずかに前へ進んでは止まり、止まってはまた前へ。

まるで二つの意志が機体を奪い合っているかのように、動きが不自然に断続する。

ソウヤはマスケッティアの操作に戸惑い、焦りが胸を締め付けた。

思うように機体が動かず、刻一刻と、敵が迫ってくる。

 

 

(このままじゃ……射撃もできない……ヤザンが……!)

 

振り切ったはずのリック・ドム二機も追い付いてきた。

手負いのヴァンガード、射撃手段を失ったマスケッティアに対して、敵はゲルググ4機とリック・ドム2機、合計6機の絶望的な包囲網。

戦闘開始から、だいたい8分は経過しているはずだ。

 

(隊長が……スラスター全開で離脱して、通信可能距離まで行ったとして……バイアリータークに連絡がつき、シイコ中尉たちのスペース・ウィッチーズ隊が発進したとしても……ここまで来るのに、少なくとも15分はかかる……)

 

敵はすでに2個小隊規模。

さらなる増援がア・バオア・クーから駆けつける可能性もある。

ソウヤは思考を必死に巡らせる。

 

(俺の判断が……間違っていたのか……?)

 

隊長と一緒に迎撃していれば、無事に生還できたかもしれない。

いや、3機でバイアリータークまで逃げ、艦と合流してから戦う方が良かったのか。

だが、目の前の現実は非情だ。

自分を「相棒」と呼んでくれるヤザンを、この危機に曝してしまった。

この状況は、ソウヤ自身が選んだ選択の結果だ。

深い後悔と罪悪感が、胸を抉る。

 

(俺のせいで……ヤザンが死ぬのか……?俺が正しい選択ができなかったから……守れなかったのか……?俺がこの結末を予期できなかったから……?)

 

ソウヤの脳裏に、血で真っ赤に染まったアスファルトの上に、力なく横たわる母の姿が鮮明に蘇った。

自分の不注意で母を死なせてしまった、あの日の光景。

冷たくなった、母の体を必死に揺すった、あの絶望。

 

(……いやだ……もう、誰も……俺のせいで死なせたくない……!)

 

強く、強く願った。

もう、誰も失いたくない、死なせたくない。

すると、ソウヤの視界が真っ白にフラッシュバックした。

目の前に広がるのは、あの不思議な夢の世界。

果てしなく広がる、水色の光の海。

水の重みも、息苦しさも、抵抗する冷たさもなく。

無重力の宇宙のように体が優しく浮かび、無数の色の楕円が光の粒となって、小魚の群れのように渦を巻き、一つの中心をめぐり、絡まり、離れ、再び寄り添い、静かに永遠に回り続ける世界。

美しく、優しく、どこか懐かしく、胸の奥が温かくなり、母の胎内に戻ったような、安らぎを覚える――あの、光景。

ソウヤは無意識に、光の渦の中心へ手を伸ばした。

もう、誰も自分のせいで失いたくない。

そう、強く願って。

伸ばした手が、光に触れる。

すると、水色だった光の海が、鮮やかなエメラルドグリーンに変わった。

色が変わった瞬間、温かさ、優しさ、安らぎが、さらに増したような気がした。

ソウヤはさらに手を伸ばそうとした。

 

「あああ、このキラキラの向こうの先に……何かが……」

 

そこで、ソウヤの意識は落ちた。

 

 

 

 

 

学徒兵のゲルググ二機は、ぎこちなく痙攣するような動きをするマスケッティアを見て、接近を始めた。

 

「あれ……?マシントラブルか?」

 

「さっきまであんな化け物みたいな機動してたのに、今は動かないぜ!」

 

二人は興奮を抑えきれず、ビームライフルを構えながら距離を詰める。

高機動戦闘の代償でトラブルを起こしたと思い、ラッキーだと胸を高鳴らせた。

ガトーはその様子を見て、即座に警告を発した。

 

「待て! 不用意に近づくな! あの機体はまだ――」  

 

だが、学徒兵たちは極度の緊張と興奮で、ガトーの通信を聞き逃していた。

ビームライフルを構え、射撃態勢に入る。

ガトーはスラスターを噴射して、二人の前に出ようとした。

 

「止まれ! 危険だ!」

 

しかし、その進路を塞ぐようにサタケの紫のゲルググが横から割り込む。

 

ガトーは怒りを露わに通信した。

 

「サタケ! 何のつもりだ! 学徒兵を止めるのを邪魔する気か!?」

 

サタケは冷たく笑いを含んだ声で応じる。

 

「ガトー大尉……まさか、我々の獲物を横取りするおつもりですか?」

 

ガトーは声を荒げた。

 

「横取りしたのは貴様の方だ! 私は学徒兵を止めるために動いた。あの面妖な機体は常識を逸脱した機動を――今はトラブルに見えるが、油断すれば――」

 

サタケはガトーの警告を遮るように、聞き入れず続ける。

 

「ご心配なく。あの痙攣している新型は、私の部下に任せます。学徒でも今なら十分倒せますから。私は……因縁のある手負いの機体に、しっかり止めを刺させていただきます。」

 

ガトーは操縦桿を握る手に力を込め、怒りを抑えきれなかった。

 

(……警告を聞き入れないとは……! あれは、ただのトラブルではない……!)

 

学徒兵のゲルググ二機はビームライフルを構え、引き金を引いた。

二つの黄色いビームが、マスケッティアに向かって放たれる。

 

その瞬間――

 

マスケッティアは、放たれた二つのビームの間を紙一重で滑り抜けるように躱した。

機体がわずかに傾き、ビームの熱線が左右を掠める。

火花が散り、装甲が一瞬焦げるが致命傷には至らない。

高出力スラスターが爆発的に噴射。

機体が雷光のように前進し、学徒兵のゲルググとの間合いを一瞬で詰めていた。

間合いを詰められた学徒兵は、何が起きたかを理解できず、混乱した。

理解が追いつかない。恐怖が一気に噴き出し、喉から間抜けな声が漏れる。

 

「え……? な、なんで……!?どうしー」

 

その声が、まだ響いているうちに。

マスケッティアの右手が、右腰のビームサーベルを逆手で抜刀。

赤い刃が逆さに閃き、腹部のコックピットブロックを深々と突き刺す。

メガ粒子の高熱がコックピットを焼き尽くし、学徒兵は悲鳴すらあげられずに体は一瞬で蒸発する。

サタケはコックピット内で、その光景に呆気に取られ、言葉を失った。

 

(……一瞬で……!? 何が……起きた……!?)

 

マスケッティアは、突き刺したゲルググからビームサーベルを抜き、機体を蹴り飛ばす。

爆発寸前のゲルググが、ガトーとサタケに向かって猛スピードで飛来する。

もう一人の学徒兵は仲間が目の前で殺されたことで恐慌状態に陥り、がむしゃらにビームライフルを連射した。

至近距離からの乱射。

黄色いビームが、ほとんど触れそうな距離で連続して放たれる。

だが、マスケッティアは最低限の動きで、全弾を軽やかに回避する。

機体をわずかに動かし、ビームを数センチの差で避ける。

学徒兵は、至近距離で撃ったのに全て外れたことに絶望的な驚きを叫んだ。

 

「なんで……!? こんな近くで撃ったのに……当たらない……!?」

 

マスケッティアは背中のバックパックに装着されたミサイルランチャーから、二発のミサイルを放つ。

ミサイルはコックピットを貫かれたゲルググに命中し、ゲルググは大爆発。

火球が膨張し、衝撃波が戦場を揺らした。

ガトーは咄嗟に反応し、爆発を回避したが、サタケは反応が遅れた。

紫のゲルググはシールドを構えてガードするが、爆発の衝撃でシールドが大きく破損する。

マスケッティアは学徒兵のゲルググの方を向く。赤く輝くデュアルセンサーが、ゆっくりと照準を合わせた。

学徒兵はマスケッティアの異常な回避、赤く光るデュアルセンサー、そして仲間が一瞬で殺された光景に耐えきれず。

ゲルググのスラスターを全開にして、背を向けて逃げ出した。

逃げるゲルググは漂う岩石に何度もぶつかりながら、必死に逃げ続ける。

だが、マスケッティアは静かに、しかし確実に逃げるゲルググを追った。

ゲルググは必死に岩石を避けながら逃げ続けるが、マスケッティアは岩石を綺麗に縫うように高速で接近する。

学徒兵はこの暗礁帯を、あのスピードで減速せずに近づいてくるマスケッティアに、さらに恐怖した。

 

「来るな……! 来るなよぉ!死にたくない!死にたくねーーー!!」

 

叫び声が、通信に響く。

涙が溢れ、視界がぼやける。

すると、やっと追い付いたカリウスとルロイのリック・ドムが、追われている学徒兵のゲルググを助けるためにジャイアント・バズをマスケッティアに放つ。

だが、マスケッティアは弾の軌道、爆発のタイミングと範囲を知っているかのように、最低限の動きで減速せずに回避した。

カリウスは射撃では止められないと判断。

ルロイのリック・ドムに自分のジャイアント・バズを素早く渡すと、カリウスのリック・ドムは背中のヒート・サーベルを抜き、マスケッティアに接近戦を挑む。

カリウスはマスケッティアに接近すると、胸の目眩ましの拡散ビーム砲を放った。

強烈な閃光が戦場を白く染め、マスケッティアの視界を奪おうとする。

しかし、マスケッティアは額の狙撃用スコープバインダーを素早く下げ、目隠しのように使い、目眩ましの拡散ビーム砲の閃光を防いだ。

カリウスは目眩ましが防がれたことを知らずに接近し、ヒート・サーベルを振り下ろす。

だが、マスケッティアは右手の逆手持ちビームサーベルで、振り下ろされたヒート・サーベルを受け止める。

そして、左腰のビームサーベルを左手で逆手の抜刀。

カリウスは左手で抜かれたビームサーベルで斬られると覚悟する。

 

「させるかぁーーー!」

 

ガトーは叫びながら、カリウスを殺させないために、背後からマスケッティアにビーム・ナギナタで斬りかかった。

ガトーは勝ったと思った。

背後の死角からの攻撃、マスケッティアはカリウスのリック・ドムに集中しているので、背後から近づいているとは悟られていないと確信していた。

しかし、マスケッティアは左手に持ったビームサーベルを迷わずに動かし、背後から襲ってきたガトーのビーム・ナギナタを防いだ。

カリウスとガトーは驚愕する。

ガトーは、絶対に殺せると思ったタイミングで、マスケッティアに気付かれないように近づき、防がれたことに背筋が凍る。

 

(……防がれた……!? 背後からの……あの一撃を……!?)

 

マスケッティアの顔が180度旋回し、背後から斬りかかったガトーのゲルググの方に向く。

赤く光るデュアルセンサーが、まるでガトーを睨んでいるようだった。

 

(……何だ……このプレッシャーは……!?)

 

ガトーのゲルググに振り向いたマスケッティアは、頭部バルカンを連射。

ゲルググのモノアイにバルカンの弾が命中し、モニターの映像がノイズまみれになる。

ガトーは背後からの攻撃を防がれたショックと、マスケッティアの睨むような赤く光るデュアルセンサーに怯んだため、バルカンが命中してしまったのだ。

カリウスは隊長のガトーがダメージを受けたことに動揺する。

 

「大尉!?」

 

マスケッティアはその動揺した瞬間に、カリウスのリック・ドムの腹に蹴りを入れる。

リック・ドムは吹き飛ばされ、止めを刺そうとマスケッティアがスラスターを噴かす。

ガトーが叫ぶ。

 

「カリウス!!」

 

だが、ジャイアント・バズを両手に持ったルロイのリック・ドムがマスケッティアの進路に弾を放つ。

マスケッティアはルロイが放った弾を感知し、追撃をやめる。

 

「墜ちろぉーーー!!」

 

サタケの紫のゲルググがスラスターを全開に噴かし、マスケッティアに向かって突撃する。

左手に持っていた壊れたシールドは破棄し、代わりにビームナギナタを装備していた。

右手に持ったビームライフルを連射。

黄色い光線が連続して放たれ、闇を切り裂く。

だが、マスケッティアは動かない。

いや、その場から動く必要がなかった。

サタケが撃った瞬間、機体はわずかに左右に体を揺らすように動かし、二つのビームを紙一重で躱した。

サタケの瞳が動揺で揺れる。

 

「……なんだ……あの回避は!?だが、接近戦はどうだ!」

 

マスケッティアとの間合いを詰め。

左手のビーム・ナギナタにエネルギーを集中させ、片刃モードで長大な黄色い刃を形成。

巨大な光の刃が弧を描き、横一文字に薙ぎ払われる。

だが、マスケッティアは余裕で回避した。

機体が軽く下方に移動させ、刃が空を切る。

サタケは苛立ちを抑えきれず、連続でマスケッティアに攻撃を仕掛けた。

右手のビームライフルを乱射しつつ、左手ナギナタで突き、斬り、回転を加える巧みな連続攻撃。

しかし、マスケッティアは放たれたビームを全て回避し、ビームサーベルでナギナタの斬撃を全て受け切った。

 

「なんだと!?あの攻撃を全て凌いだのか!?ならば!!」

 

サタケは歯を食いしばり、ナギナタの双刃を展開させる。

黄色い刃が広がり、機体を捻じりながら回転斬りを繰り出す。

嵐のような刃の連撃が、マスケッティアを包み込むように襲いかかる。

 

「これで……終わりだ!!」

 

だが、マスケッティアは回転の中心を外し、わずかな隙間を滑り抜けるように回避。

 

刃の渦が空を切り、サタケの瞳が大きく見開く。

 

(……斬ったはずなのに……!? どうやって、避けたんだ……!?)

 

回転斬りの勢いが空回りし、ゲルググの姿勢が大きく崩れる。

マスケッティアはその隙を見逃さなかった。

左手の逆手持ちビームサーベルが閃き、サタケの右腕を一閃。ビームライフルが握られたまま、腕ごと闇に飛ぶ。

サタケは機体を後退させようとするが、時既に遅し。

マスケッティアの右手のビームサーベルが続き、ゲルググの左腕を根元から切断。

ナギナタが握られたまま、虚空に漂う。

サタケの絶叫が通信に響く。

「ぐあああ!!」

マスケッティアはさらに両脚を瞬時に斬り落とす。

ゲルググの四肢がすべて失われ、胴体だけが漂う。

サタケはコックピット内で息を荒げ、モニター越しのマスケッティアに怯える。

 

「……なんなんだ……なんなんだ!お前は……!?」

 

復讐の炎は恐怖によって、掻き消されていた。

マスケッティアはゆっくりと、戦闘不能のゲルググに近づく。

赤く妖しく輝くデュアルセン サーが、サタケの機体を捉える。

サタケはモニターに映るその光に、息を呑んだ。

 

(……来る……来る!止めを刺すつもりか ……!?)

 

マスケッティアは機体を加速させ、ゲルググの胴体へ突進する。

ビームサーベルの刃が、装甲を貫き、深々と突き刺さる。

メガ粒子の高熱がコックピットを焼き尽くし、サタケの体が蒸発する。

サタケの断末魔が、通信に一瞬だけ響いた。

 

「ぐあああ――……!!」

 

断末魔は途中で途切れ、真空の静寂に溶け込む。

紫のゲルググは制御を失い、ゆっくりと回転しながら闇に浮かぶ。

マスケッティアは刃を抜き、次の標的へ向き直る。

 

 

 

 

 

 

 

 

ガトーは目の前に起きている光景を信じられなかった。先ほどまで、リック・ドム二機とゲルググ四機、合計六機の圧倒的な有利な戦況だった。

しかし、あのモビルスーツが瞳を赤く輝かせた瞬間から、全てが覆された。

学徒兵のゲルググ一機は一瞬で撃破され、もう一機は恐怖に駆られて逃走。

自分の獲物を横取りしたサタケのゲルググも止めを刺された。

そして、自分のゲルググは頭部バルカンでモノアイを粉砕され、メインカメラが破壊されてしまった。

モニターは激しいノイズに覆われ、コンピューターが映像処理を正常に行えず、音声すら出力されない。

ただの静かな闇と、かすかな振動だけがコックピットを満たす。

残された戦力は自分の壊れたゲルググと部下のリック・ドム二機だけ。

ガトーは唇を噛み、低く呟いた。

 

「これは…悪夢か……連邦のモビルスーツ如きに、ここまでやられるは……」

 

マスケッティアはサタケのゲルググを戦闘不能にした後、ゆっくりと顔を旋回させ、ガトーのゲルググに向き直る。

赤く深く輝く眼が、ガトーを捉える。

次の瞬間、マスケッティアのスラスターが青白く噴射。

機体が矢のように加速し、ガトーに向かって迫る。

カリウスは咄嗟にリック・ドムを前に出し、ガトーのゲルググを庇うように立ちはだかる。

 

「大尉! 逃げてください!ここは私が!!」

 

ガトーは壊れたモニター越しに、かすかにカリウスの機体を視認し、声を荒げた。

 

「カリウス! 逃げろ! お前では……あの化け物は無理だ! すぐに離脱しろ!!」

 

その声は命令ではなく、懇願に近かった。

マスケッティアは容赦なく、二機に向かって距離を詰めていく。

すると、2発のジャイアント・バズの弾がマスケッティアの進路を塞ぐように炸裂した。

 

「ガトー大尉! カリウス軍曹! 逃げてください!」

 

両手にジャイアント・バズを抱えたルロイのリック・ドムが、必死の声で叫ぶ。

マスケッティアは向きを変え、赤く輝くデュアルセンサーをルロイに向けた。

ガトーは壊れたモニター越しに、かすかにルロイの機体を視認し、声を荒げた。

 

「ルロイ! 馬鹿者! お前一人で何ができる!? すぐに離脱しろ!!」

 

部下の無謀さを、誰よりも心配していた発言だった。

ルロイは左右二つのジャイアント・バズを交互に撃ち、弾幕を張る。

爆発の連鎖がマスケッティアの周囲を埋め尽くす。

 

「大尉! ここは俺が殿を務めます! カリウス軍曹、早く大尉を連れて離脱してください!」

 

カリウスは一瞬躊躇したが、渋々了承した。

 

「……了解しました!ルロイ中尉!」

 

カリウスはリック・ドムの腕を伸ばし、ゲルググの腕を掴む。

機体を反転させ、離脱を開始する。

ガトーは離脱するカリウスに叱った。

 

「離せ! 離脱などするな! ルロイが!!」

 

だが、カリウスは手を離さなかった。

機体は加速し、引きずるように後退する。

ガトーはカリウスの苦渋の決断を察し、悔しさと情けなさが込み上げながら、震える声でルロイに詫びを言う。

 

「……ルロイ……すまん……」

 

ルロイは、静かに応じた。

 

「大尉が生きていれば……それでいいんです。」

 

その言葉に、嘘はなかった。

カリウスとガトーは離脱を続ける。

背後の方では、ルロイのリック・ドムが単身でマスケッティアに向き合う。

爆発の光が、闇を照らす中、赤く光る眼がゆっくりとルロイを捉える。

リック・ドムは両手に抱えていたジャイアント・バズを放棄した。

先ほどの弾幕で弾薬を全て撃ち尽くし、もはやデッドウェイトになるだけだった。

背中のヒート・サーベルを抜き放ち、赤熱した刃を構える。

ルロイの息が荒い。

 

「来い……! 俺が……お前を止めてやる!!」

 

その瞬間――マスケッティアは両手に逆手持ちで構えていたビームサーベルを、素早く順手持ちに切り替えた。

マスケッティアは爆発的に前進し、岩塊の間を切り裂くようにルロイのリック・ドムへ襲い掛かる。

距離が一瞬で詰まる。

ルロイはヒート・サーベルを振り上げ、迎撃を試みる。

 

「うおおおおお!!」

 

しかし、マスケッティアは左手のビームサーベルがルロイのヒート・サーベルを弾き飛ばし、右手の刃がリック・ドムの左肩を深く斬り裂く。

火花と装甲片が舞い散り、真空の中で無音の爆発のように広がる。ルロイの悲鳴がコックピット内で響いた。

 

「ぐっ……!」

 

 

マスケッティアは左手のビームサーベルを振り上げ、残されたルロイの胸部を狙って斬り下ろそうとする。

だが、ルロイは最後の抵抗を見せる。

左胸の拡散ビーム砲を至近距離で放つ。

強烈な閃光がマスケッティアのビームサーベルのIフィールドに干渉し、一瞬だけ刀身を失わせる。

赤い刃が揺らぎ、輝きを失う。

その隙に、ルロイは残された右腕でマスケッティアの胴体に組み付いた。

リック・ドムのスラスターを全開に噴射。

最大推力で機体を無理やり捻じり、目茶苦茶な軌道を描きながら回転する。

マスケッティアのバランスを崩そうとする、命を削るような抵抗。

機体が激しく揺れ、岩塊にぶつかりながら、無秩序に加速と減速を繰り返す。

衝撃波が周囲の岩を砕き、破片が飛び散る。

ルロイは歯を食いしばり、叫ぶ。

 

「この化物め!お前がニュータイプだと言うのか!?」

 

だが、マスケッティアの赤いデュアルセンサーは、揺らがない。

Iフィールドが再構築され、ビームサーベルの刃が再び輝きを取り戻す。

ゆっくりと、しかし確実に、ルロイのコックピットに向かって振り下ろされる。

ビームサーベルが振り下ろされた刹那の瞬間。

ルロイの視界は白い光が次々と輝き、宇宙の漆黒が波のように押し寄せ、世界が色を変えた。

紫色の光に包まれた光景――赤、白、黄色、緑、無数の色の楕円が光の粒となって渦を巻き、一つの中心を目指すように、静かに、永遠に回り続ける。

そして、自分が浮かんでいる位置よりも先に、一人の男が背中を向けて立っていた。

黒い髪の男は渦の中心を見つめているようだった。

ルロイもまた、男と同じように、渦の中心を見た。

中心から溢れ出す光がルロイの意識を飲み込んだ。

だが、ルロイは男の見ているものを知った瞬間に、それを拒絶した。

そして、現実に引き戻った。

ルロイは男が見ていた『おぞましい光景』を思い出し、唇が震え、掠れた声が漏れる。

 

「そんな馬鹿な……ジオンが負ける?私は……なんてことを……お前はなに――」

 

言葉はそこで途切れた。

ビームサーベルの赤い刃が、リック・ドムの胸部を貫いた。

メガ粒子の高熱がコックピットを焼き尽くし、肉体を一瞬で蒸発させる。

ルロイの断末魔は、通信に短く響き、すぐに途切れた。

 

「を……い………」

 

爆発が起こり、火球が膨張する。

リック・ドムの残骸は、ゆっくりと回転しながら宇宙に散った。

 

 

 

 

 

 

 

ヤザンは損傷したヴァンガードのコックピット内で、息を荒げながらモニターを凝視していた。

 

ゲルググ1機は瞬殺され、サタケの紫のゲルググは四肢を斬り落とされた後に止めを刺され、

殿を務めたリック・ドムも火球となって闇に散った。

ヤザンは喉を鳴らした。

 

「……なんだよ、あれは……」

 

手負いとはいえ、自分が手こずったガトーさえも追い払った。

ヤザンの視線がマスケッティアに注がれる。

マスケッティアのデュアルセンサーの赤い発光は、ゆっくりと消え。

胸部の排熱ダクトをはじめ、全身の排熱機構から、白い蒸気が大量に噴き出す。

機体はゆっくりと動きを止め、

岩塊の間に静かに浮かぶ。

まるで、

暴走していた獣が、ようやく疲れ果てて眠りについたかのように。

ヤザンは息を呑んだ。

 

「あれが……おやっさんの言ってた……HADESか……」

 

 

真面目で、几帳面で、

いつもルールを守ろうとするソウヤが禁じられたHADESを使ったことに。

驚愕と、複雑な感情がヤザンの胸に渦巻く。

ヴァンガードは損傷したスラスターを弱々しく噴射させ、マスケッティアの横に並ぶように近づいた。

残った左腕をゆっくりと伸ばし、接触回線を接続する。

 

「おい、ソウヤ! よくやったぜ、相棒!」

 

声は意気揚々として、いつもの獰猛な笑みが混じっている。

 

「お前のおかげで助かったぜ! あのガトーも忍者野郎も倒すなんて、すげえーな!」

 

ヤザンは息を弾ませながら続ける。

 

「いやーー、おやっさんが『絶対使うな』って禁じてたHADES……あんな力、初めて見たぜ! 敵の動きを全部先読みして……ほんとにすげぇよ!」

 

だが、返事がない。

いつもなら、ソウヤが小さく「ああ……」とか「ヤザン……」とか、控えめに返してくれるはずだ。

沈黙だけが、回線を埋める。

ヤザンの笑みが、少しずつ凍りつく。

 

「……ソウヤ? おい、ソウヤ!」

 

もう一度、呼びかける。返事はない。

ヤザンは慌てて接触回線のステータスを確認する。

 

「接続は……正常。回線は繋がっている……」

 

それでも、声が返ってこない。

ヤザンはマスケッティアのバイタルチェックデータをサブモニターを呼び出した。

サブモニターの画面に、冷たい数字が並ぶ。

 

 

【VITAL SIGNS】

❰心拍❱:0

❰脈拍❱:なし

❰呼吸❱:なし

❰脳波❱:あり

 

 

ヤザンの目が見開かれる。

 

「……嘘だろ……心拍が……止まってる?」

 

心臓が止まっている。

脈拍がない。

呼吸が、ない。

HADESの代償か、心肺が停止している。

 

何度も、何度も、名前を呼ぶ。

 

「ソウヤ!ソウヤ! おい、ソウヤ!! 返事しろ! ふざけんなよ!!」

 

声が震え、叫びに変わる。

 

「ソウヤァァァーー!!!」

 

返事は返ってこなかった。

マスケッティアは静かに浮かび、白い蒸気がゆっくりと消えていく。

戦場に、重く、冷たい静寂が広がった。




最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。
いやー、この話を作るときにヤザンとガトーは戦わせたいなと、ずーと思っており。
やっと戦わせることが出来ました!
ソウヤ達がソロモン攻略のチェンバロ作戦に参加しなかったのも、これが要因の一つですね。
ペイルライダーシリーズの象徴のHADESシステムも登場しました!
いやー、上手いことHADESシステムを描けたか、不安です(笑)
さて、感想にもありましたが、まさかの人物も参戦しております!
そして、ついに!次の話からは一年戦争の最終決戦である、星一号作戦のア・バオア・クーの話に突入!
ソウヤの一年戦争編のクライマックスに突入しますので、おたのしみにー!
ではでは、感想などありましたら、気軽にしてください。

【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?

  • 陸戦型ジム改
  • バイアリーターク
  • ペイルライダー・ヴァンガード
  • ペイルライダー・マスケッティア
  • ヴァルキリー
  • グフ・ノクターン
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。