バイアリータークの左舷格納庫は、整備兵たちの怒号と金属音が渦巻く戦場と化していた。
「ボルト緩んでる!右肩装甲5番プレート、トルクレンチ持ってきて! 締め直しだよ!!」
「脚部サスペンションの調整が甘いです! マスケッティアの脚部がまだガタついてるじゃないですか! 急いで、再調整を!!」
整備兵たちは乱暴な言い回しの指示を大声で飛ばし、ボルトを締め、溶接の火花を散らしていた。
汗と油にまみれた顔は皆、疲労と苛立ちを隠さない。
ア・バオア・クー突入まで残りわずか。
誰もが「これが最後の整備になるかもしれない」という焦燥を胸に抱えていた。
整備班長のナガト・ケンジ中尉は格納庫の喧騒の中で声を張り上げた。
額に浮かぶ汗を拭いもせず、整備兵たちを睨みつける。
「先、渡したリストは持ったな!リストに記載した武装を全部持ってこい!例の作戦で使う!後の事は考えるな! これが天下分け目の戦いになるはずだ。あいつらにありったけの武器を持たせて、出撃させるぞ!!」
ケンジの指示を聞き、数名の整備兵が渡されたリストを持って、動き出した。
バイアリタークの中央ユニットの火器保管庫に向かう足音が響く。
そこには、オーガスタ基地で開発中だった機体の武装が保管されている。
連邦軍は一年戦争末期までに、いくつかの先進的なモビルスーツ開発計画を抱えていたものの、機体開発が間に合わず、実戦に投入できなかった機体が幾つかはあった。
しかし、その開発途中の機体から生まれた武装類だけは、オーガスタ基地を管理していたグレイブの手引きによって、バイアリタークの火器保管庫に納品されていたのだ。
それらを今、格納庫の兵士たちが一つ一つ運び出し、オリオン小隊の機体に取り付けようとしていた。
「ケン! 整備状況と頼んでおいた武装の方はどうだ?」
隊長のイーサン・ミチェル・オルグレン少佐が格納庫の喧騒を切り裂くように声をかけ、ナガトに近づく。
ナガトは作業の手を止め、イーサンの方に振り向いた。疲れた顔にわずかな笑みを浮かべ、報告を始める。
「お前のジム・ドミナンスは前の戦闘で大したダメージがなかったから、整備もすぐに終わったよ。だが、マスケッティアとヴァンガードは前回の戦闘で深刻なダメージを受けていたから、予備パーツのほとんどを使って、なんとか修復したよ。」
イーサンは眉を寄せ、すぐに尋ねた。
「残りの予備パーツはどれくらいあるんだ?」
ナガトはため息をつき、詳細を説明した。
「ヤザンのヴァンガードは右腕と右脚を損失したから、新しい右腕と右脚を取り付けた。損傷した装甲も出来る限り交換をしてみた。……だがな、一番酷かったのはソウヤのマスケッティアだ。駆動系のほとんどが過剰な稼働でパーツのほとんどが、おしゃかになってた。使えなくなった駆動系パーツを全て交換したせいで、駆動系のパーツの予備がほとんどないな。」
イーサンはそれを聞き、静かに頷いた。
思案げに言葉を続ける。
「……やはり、HADESのせいか?」
ナガトは肩をすくめ、苦い表情を浮かべた。
「そうだろうな…。機体に記録されていた稼働データを見たが、あんな動きをしたら、どんな機体だろうが悲鳴を上げる。まったく、恐ろしいシステムだよ。」
「ああ、パイロットと機体の負荷を無視してまで、戦闘での勝利を求めるシステムとは思ってもみなかった。ソウヤが奇跡的に蘇生し、軽傷で済んで本当に良かった。」
ナガトも頭をかきながら言う。
「学習型コンピューターが膨大な戦闘データから敵の行動を先読みし、その先読みした行動を行うために機体のリミッター解除をし、パイロットの負荷と操縦を無視した操縦介入をするシステムだとは……まったく、恐ろしいものだぜ。」
彼の声には、畏怖の色が濃く滲んでいた。
イーサンはその言葉を聞き、拳を握りしめる。
「俺の判断ミスだ……。俺も残って、一緒に戦っていれば、ソウヤはあんな目に遭わなかった。あんなシステムを開発者どもは、何を考えているんだ。」
ナガトはイーサンの肩を叩き、熱く言い返す。
「パイロットの命を削るシステムを開発した者への、お前の怒りは正しいよ。だがな、自己嫌悪はほどほどにしろ。ソウヤが無事に生還したことを良しとしようぜ。」
イーサンはナガトの話を聞き、ゆっくりと息を吐き出す。
納得の表情を浮かべ、頷いた。
「……そうだな。ありがとう、ケン。」
ナガトは手に持っていたリストをイーサンに手渡した。
「お前が考案した戦術に使えそうな武装をピックアップした。今、部下達が火器保管庫から取りに行っている。目を通してくれ。」
手渡された書類を受け取り、イーサンは素早く目を通す。リストには、ガンダム5号機のジャイアント・ガトリング、ヘビーガンダムのフレーム・ランチャー、フルアーマーガンダムBタイプの大型複合ミサイル・ランチャー、ジーラインのオプションパーツのガトリング・スマッシャーとアサルト・キャノンなど、自分の戦術の要望通りの武装がリストの記載に並んでいた。
イーサンはリストを握りしめ、感謝を述べる。
「ケン、これで要塞の突破率が上がる。本当に助かるよ。お前の選定センスは抜群だ。」
ナガトは照れ臭そうに頭をかき、笑みを浮かべる。
「いやいや、俺達の上官のゴップ大将の手腕が良かったからだ。あの大将のコネと権力、決断力がなけりゃ、こんな開発中の武装を手に入れられなかったよ。さすがは連邦軍の補給線の全てを知っておられる方だ。」
イーサンは頷き、リストを脇に抱えながら続ける。
「ゴップ大将の手腕も確かだが……ケン、お前の功績も大きい。あの時、レナートに渡した新型ビームライフルにバックドアの細工をし、レナートのジム・スパルタンから、映像記録をバックドアからコピーできたおかげだ。あの映像を証拠にゴップ大将がレナートの上官の不正を明らかにし、そのおかげでバイアリーターク、ヴァンガード、マスケッティア、そしてこれらの開発中の武装を手に入れられた。本当に礼を言うよ。」
ナガトは肩をすくめ、苦笑する。
「まあ、俺のモビルスーツ開発のスキルが役立っただけさ。けど、あの不正を暴いたのはお前とゴップ大将だよ。」
「そうだな。さあ、作業に戻ろうか。ジオンの要塞は待っちゃくれない。」
二人の会話が終わると同時に、整備兵たちが火器保管庫から武装が入ったコンテナを運び入れてきた。
「さて、武装の仕上げよう。」
イーサンは笑みを返し、二人は運び込まれたコンテナへ移動する。
ナガトは運び込まれたコンテナを一通り見回し、声を張り上げて指示を出す。
「よし!リスト通りに用意した武装を装備する機体のハンガーの横に配置しろ!間違えるなよ!いいな!」
整備兵たちはナガトの指示に気迫のこもった返事をし、用意したコンテナをそれぞれのモビルスーツハンガーの横に素早く配置していく。
格納庫の開放型構造が、コンテナの重い音を反響させ、金属の軋みが戦場の緊張を増幅させるように。
コンテナの配置が終わると、ハッチが次々と開き、用意された武装が格納庫の照明の下で姿を現す。
最初に開けられた4つのコンテナから、ジーラインの円柱型の4連装機関砲『ガトリング・スマッシャー』が姿を露にした。
コンテナから出されたガトリング・スマッシャは格納庫の作業用のロボットアームに保持されると、ジム・ドミナンスとペイルライダー・ヴァンガードのバックパックのアタッチメントに取り付けられる。
「ガトリング・スマッシャー!取り付け良し!接続良し!」
ジム・ドミナンスとヴァンガードのアタッチメントに接続されたことを確認した整備兵が、確認の掛け声を上げた。
ナガトはその掛け声を聞き、次に取り付ける武装の指示を出す。
「よし!次はヴァンガードにジャイアント・ガトリングだ!」
次に取り付け作業が行われたのはガンダム5号機に開発された『ジャイアント・ガトリング』だ。
巨大な回転砲身の大型ガトリング砲がロボットアームに持ち上げられ、コンテナから姿を現した。
その回転砲身は高速弾幕を予感させる重厚な鋼鉄の輝きを放ち、空間制圧の威圧感を醸し出す。
「へえ、なかなかと乙な武器じゃあねえか。連邦軍にも浪漫が分かる奴がいるな。」
ナガトはジャイアント・ガトリングの姿を見て、感心したように呟く。その巨大な回転砲身は、90mm口径の砲口がずらりと並び、高速弾幕で敵陣を薙ぎ払う威圧的な存在感を放っていた。
ナガトの目には、連邦軍の開発陣がこんなものを秘蔵していたとは——浪漫を感じずにはいられなかった。
すると、ヴァンガードの整備責任者であるミサキ上等兵が、目を輝かせながらナガトに近づいてきた。
油と汗にまみれた作業服が彼女の細い体を包み、短く切り揃えた髪がヘルメットの下から覗いている。
普段は冷静で手先が器用な彼女だが、メカのことになると目が離せなくなるタイプだ。
格納庫の喧騒の中で、彼女の足音は興奮を抑えきれないように速く、ジャイアント・ガトリングを指差しながら駆け寄ってくる姿は、まるで子供が新しいおもちゃを見つけたようだった。
「おやっさん! おやっさん! あれをヴァンガードに装備するんですね! いやー! あんな、デカいガトリング砲をロボットに装備させるって、浪漫ですよねー!」
ミサキは興奮した様子で言う。
彼女の声は高く、目を細めてガトリングの砲身を眺め、手を振ってその大きさをジェスチャーで表現する。
こうした珍しい武装を見ると、抑えていた情熱が爆発するのだろう。
ナガトは興奮したミサキを見て、静かに嗜める。
「おいおい、興奮するのは良いが、ヤザン達が大事な戦いに行くんだ。興奮するのは、ほどほどにしとけよ。」
ミサキはナガトの言葉を聞き、慌てて頭を下げて謝る。
「す、すみません、おやっさん……つい。」
彼女の声は少し小さくなり、肩を落としてヴァンガードのジャイアント・ガトリングの作業に戻った。
しかし、まだ興奮していることが後ろ姿からでも、ナガトは分かるのだった。
ミサキの歩き方は普段より軽く、作業台に向かう背中が微かに震え、時折ガトリングに視線を投げかける様子が彼女の内なる熱を物語っていた。
ナガトはそんなミサキの後ろ姿を見て、静かに苦笑する。
自分も若い頃は同じようにメカに心を奪われていたのを思い出し、戦場での無常を思いながらも、こうした情熱がオリオン小隊を支えていると感じた。
ナガトはマスケッティアの横に配置された残りの武装の方に体を向けた。
残された、マスケッティアに装備させる武装の取り付けをするように号令を出す。
「よし! マスケッティアの武装も急げ! こいつに取り付ける武装が一番複雑だから、ミスは許されねえぞ!」
ナガトの声が格納庫に響き、マスケッティアの整備班たちが一斉に動き出し、ロボットアームも再び動き出す。
最初にロボットアームがコンテナから取り出したのはジーラインのオプションパーツであるキャノン砲の『アサルト・キャノン』。
バックパック装着型の重厚な砲身が照明の下で鈍く輝き、マスケッティアのバックパック右側のアタッチメントに接続される。
接続の瞬間、金属の嵌合音が鋭く響き、火花が一瞬閃く。
一人がボルトをトルクレンチで締め込み、もう一人が装備の損傷をチェックし、第三者がテストボタンを押して通電の確認する。
彼らの動きは訓練された連動性を見せ、汗を拭う間もなく次のステップへ移る。
「アサルト・キャノン! 取り付け良し! 接続OK!」
整備兵が確認の掛け声を上げ、マスケッティアの足元で整備責任者のイヤン軍曹がデバイスを操作する。
油汚れのついた作業服を着込んだ体躯が機体の影にしゃがみ込む。
デバイス画面に映るシステムログを睨み、接続ステータスをチェック。
「エネルギー供給ライン、正常。射撃制御同期完了。異常なし。」
イヤンの低く抑えた声が、格納庫の喧騒に溶け込みながらも、確かな安心感を周囲に与える。
彼はデバイスを素早くタップし、追加の診断モードを起動、機体のバランスデータを調整しながら、整備兵たちに「仰角テストを!」と短く指示を飛ばす。
兵士たちは即座に反応し、アームを動かして砲身の仰角テストを行う。
次にロボットアームが掴んだのは『大型複合ミサイルランチャー』、これはガンダム強化プランのFSWS計画で作られた兵装だ。
この武装は先端に対艦用のロングレンジミサイルが2発と上部にミサイルベイ5ヶ所に各2×2発ずつ、計20発を装填されている複合ミサイルランチャーである。
ロボットアームは大型複合ミサイルランチャーをマスケッティアのバックパック左側に取り付ける。
接続部のボルトが締め込まれ、ミサイルの装填確認ランプが緑に点灯する。
整備兵たちはランチャーの周りに群がり、一人がミサイルベイの蓋を開いて装填数を目視確認、もう一人が配線をテスターでチェックし、第三者がバランスウェイトを調整する。
彼らの手は素早く動き、互いに「ベイ1確認!」「ロングレンジ固定!」と短い言葉を交わしながら作業を進めた。
「大型複合ミサイルランチャー! 取り付け良し! 接続完了です!」
整備兵の掛け声が飛び、再びイヤン軍曹がデバイスを構える。
機体の足元で画面をタップし、ミサイルベイのステータスをスキャン。
「対艦用ロングレンジ2ミサイル確認、上部ベイ全20発装填完了。誘導システム同期、異常なし。」
イヤンの指が素早く動き、データをロック。
戦場の無常を知る彼の表情は厳しく、わずかなミスも許さない集中力が、整備の精度を支えていた。
そして、最後のコンテナから姿を現したのはヘビーガンダム専用武装として、開発された『フレームランチャー』。
6銃身のガトリング砲と4連装ミサイル・ランチャーを一体化させた複合火器システム。
FSWS計画の派生機のヘビーガンダムは、アムロ・レイが通常のガンダムで多大な戦果を挙げていた事が原因となって必要性を疑問視され、開発が中止になった機体だ。
しかし、フレーム・ランチャー自体は完成しており、グレイブの手引きによって、バイアリータークに積載されていたのだ。
ロボットアームはフレーム・ランチャーを掴むと、コンテナから出し、マスケッティアのモビルスーツハンガーの横に置いた。
置かれたフレーム・ランチャーに整備兵が集まり、整備を始める。
兵士たちは工具を手に取り、一人がガトリングの銃身を回転テストし、金属の低く唸る音が響く中、もう一人がミサイルランチャーの装填を確認、第三者が配線をテスターで点検する。
彼らの動きは連携し、互いに「ガトリング回転正常!」「ミサイルベイ装填確認!」と声を掛け合いながら作業を加速させる。
ナガトは格納庫全体を見渡し、満足げに胸を張る。
「これでオリオン小隊の大一番の出撃準備が完成だ。あいつらを、支える全ての武器が揃った……。これで、あいつらの生存率もぐっと上がるだろう…。」
ナガトの声には、メカニックとしての長年の経験と、武装と機体の完成度への確信が満ちていた。
彼の目は格納庫の照明を反射し、静かな自信を湛え、拳を軽く握りしめて機体たちを睨むように見つめるのだった。
ヴァンガードのコックピット内は、狭い空間にモニターの光が青白く差し込み、ヤザン・ゲーブル曹長の愚痴が低く響いていた。
彼はシートに深く腰を沈め、モニターに映る武装調整画面を睨みながら、操縦桿を操作する。
装着されたガトリング・スマッシャーとジャイアント・ガトリングのシステムチェックが進む中、ヤザンの口から不満が漏れる。
「ちっ、なんだよこの重い装備。ヴァンガードの機動性を活かして、敵に肉薄してぶっ飛ばすのが俺のスタイルだってのに……ガトリング・スマッシャーだのジャイアント・ガトリングだの、弾幕張って遠くから撃つだけじゃ味気ねえよな。たくっ、モビルスーツ戦の華は近接戦闘だろうが…。」
ヤザンは画面をタップし、ガトリングの回転テストを繰り返す。
機体のバックパックに取り付けられたガトリング・スマッシャーの4連装砲身が仮想的に唸り、ジャイアント・ガトリングの90mm口径の重厚な砲口が弾幕を予感させる。
だが、彼の目には不服の色が濃く、近接戦闘の爽快感を求めるヤザンにとって、この火力重視の構成は枷のように感じられた。
突然、コックピットハッチが開く音が響き、ミサキ上等兵の顔が覗き込んだ。
彼女の表情は少し怒ったように眉を寄せ、ヘルメットを外した短い髪が汗で張り付いている。
ミサキはヤザンが乗るモビルスーツの整備責任者として、ヤザンとは長い付き合いだ。
戦場でのパートナーとして互いに信頼し、冗談を交わす間柄だが、今日は彼女の声に本気の苛立ちが混じっていた。
「ヤザン曹長、何をぶつぶつ言ってるんですか! 聞いたら、機動性活かして近接戦闘がどうとか……そんなの、今回の戦闘じゃ自殺行為ですよ!」
ミサキはハッチの縁に手をかけ、体を乗り出してヤザンを睨む。
ヤザンは彼女の方を向いて肩をすくめる。
「おいおい、ミサキ。お前もナガトや隊長の味方かよ? ヴァンガードは速いんだぜ、弾幕張って逃げ回るより、突っ込んで斬り込む方が性に合ってるよ。それが売りだろう?」
ミサキはため息をつき、指を一本立ててヤザンを指す。
「いい、ヤザン!多数の敵と大乱戦になる状況で近接戦闘なんてしたら、流れ弾に当たるリスクや孤立する危険が山ほどあるんだよ! それに、総弾数が多い装備にすることで弾切れのリスクを抑えて、長時間戦闘できるようにしたんだから。私の整備した機体で、無茶な戦い方して壊されたら困ります!」
ヤザンは鼻を鳴らし、操縦桿を軽く叩く。
「おいおい、ミサキ。いつも以上に心配性だな。俺のヴァンガードはそんなヤワな機体じゃねえだろう?もっと信用しろよ。」
ミサキは頰を膨らませ、「信用してるからこそですよ! 曹長の機動戦はカッコいいけど、生きて帰ってきてくれなきゃ意味ないんですから!」
二人のやり取りは、いつものように軽く漫才めいて、格納庫の喧騒に溶け込む。
ヤザンのからかうような口調とミサキの真剣な反論が、互いの信頼を裏打ちしていた。
しかし、ミサキの表情が急に曇り、声の調子が落ち込む。
「……曹長が強いことは、私が一番知ってるよ。私が整備した機体を一番強く使いこなしてくれるのはヤザンしかいないし、それは一番信頼してる。でも、今回の戦闘は今までの規模が違う。ジオンはレビル将軍の艦隊を葬った戦略兵器も持ってるし……もしかしたら、ヤザンが帰ってこないかもって、怖いんだよ。」
ヤザンはその言葉に、いつも明るいミサキがこんな風に自分を心配していることに驚き、目を見開く。
彼女の声には、普段の元気さがなく、目が少し潤んでいるように見えた。
ヤザンはふん、と鼻を鳴らし、シートから体を起こしてミサキの頭をわしゃわしゃと撫でた。
ミサキは急にヤザンに撫でられたことに驚き、「わっ、ヤザン! 何するの!?」と顔を赤らめて手を払うが、ヤザンは構わず続ける。
ヤザンは撫でるのをやめ、ミサキに言う。
「お前が整備してくれる機体はいつも、俺を気持ち良く戦わせてくれる。そんな、お前が整備した機体で俺はいつも生還したし、強敵も倒してきた。だから、お前はいつも通りに、俺が一番強いと信じろ。落ち込んだお前なんて見ていたら、調子が狂うぜ。」
ミサキはヤザンの言葉に、少し頰を緩め、頷く。
「……わ、わかったよ。ヤザン、絶対生きて帰ってきてよね。」
ヤザンは「当たり前だろ」と笑い、二人は互いに視線を交わす。
ミサキの整備がヤザンの命を守り、ヤザンの戦いがミサキの努力を報いる、そんなパートナーシップが、二人の絆を強くしていた。格納庫の喧騒の中で、その瞬間だけ静かな決意が共有される。
ソウヤが格納庫の扉が開くと、金属の軋みと整備兵たちの怒号が一気に耳を襲う。
汗と油の匂いが混じった空気が、ソウヤの鼻を刺激した。
格納庫に入ったソウヤは、まず自分の機体——マスケッティアの姿に視線を向ける。
普段の軽快なシルエットが、取り付けられた重装備によって一変していた。
バックパックの右側に装着されたキャノン砲、左側に取り付けられた大型のミサイルランチャー、そして、マスケッティアの右腕を覆うように装備された巨大なユニット、機体全体が圧倒的な火力の塊のように見えた。
ソウヤは足を止め、しげしげと機体を眺める。
マスケッティアは本来、高機動性を活かした射撃を行う、高機動射撃機体だ。
専用装備のメガ・ビーム・シューターやハイパービーム・ライフルで、敵をピンポイントで狙い撃つのがその真骨頂だ。
だが、今の仕様は違う。
ガトリングの回転砲身が弾幕を張り、ミサイルランチャーが広範囲を制圧し、キャノン砲が中距離を貫く——これは、多数の敵を火力で押し潰す重武装形態だ。
ソウヤの胸に、驚きと興奮が湧き上がる。
心の中で、マスケッティアのもう一つの可能性を感じ、拳を軽く握った。
「こいつがこんな姿で戦うとは……。これなら、ジオンのモビルスーツ3個小隊来ても、負けはしないな。」
すると、マスケッティアの足元から足音が近づいてくる。
整備責任者のイヤン軍曹だった。
彼はソウヤの姿を見つけると、急ぎ足で駆け寄った。
イヤンは30代後半のベテランで、インド系特有の褐色の肌と油汚れの作業服がトレードマークだ。
ソウヤとは階級の差を超えた信頼関係があり、イヤンはいつも丁寧な言葉遣いで接する。
「少尉、ご無事で何よりです。医務室の診察はどうでしたか? 体調は問題ないでしょうか。」
イヤンの声には、心配の色が濃く滲む。
ソウヤは苦笑し、肋骨のあたりを軽く押さえて応じる。
「イヤン軍曹、ありがとう。肋骨に軽いヒビが入ってるくらいで、鎮痛剤も貰ったよ。大丈夫だ、戦える。」
イヤンはそれを聞き、眉を少し緩めて頷く。
「そうですか……それなら安心です。ですが、無理はなさらないでください。少尉の機体は、私たちが全力で整備しましたから。」
彼の言葉は丁寧だが、仲間としての温かみが込められていた。
ソウヤはイヤンの肩を軽く叩き、「ありがとう。いつも頼りにしてるよ」と返す。
二人は互いに信頼する仲間として、言葉少なに視線を交わす。
ソウヤはイヤンから、マスケッティアに取り付けた武装の説明を受けながら、コックピットへ移動する。
二人はタラップを上がり、モビルスーツデッキを渡る。デッキの床は金属の格子で、足音が響き、下方から上がってくる整備の音が耳を打つ。
マスケッティアの胸部ハッチが開き、ソウヤはコックピットに乗り込む。
シートに座り、HUDが起動するのを待つ間、イヤンはハッチの外から説明を始める。
「少尉、まずバックパック右側に装着されているキャノン砲は、ジーラインのオプションパーツの『アサルト・キャノン』です。装填されている弾薬は散弾にしており、メインシステムと同期済みです。」
ソウヤは画面で確認し、頷く。
「了解。キャノン砲の扱いはガンキャノンで慣れているので、感覚で撃てそうですね。」
イヤンは続けて言う。
「次に大型複合ミサイルランチャー、ガンダム強化プランのFSWS計画の産物です。先端に対艦用ロングレンジミサイル2発、上部ベイに計20発装填。左側バックパックに装着し、中規模攻撃に対応します。最後にフレーム・ランチャー、開発中止になったヘビーガンダムの専用武装を流用してます。6銃身ガトリングと4連装ミサイルの一体型で、弾幕と爆撃の両方をこなせます。」
ソウヤはモニターに映る武装アイコンを操作し、仮想テストを実行する。
コックピットのディスプレイが瞬時に切り替わり、フレーム・ランチャーのガトリングの回転数が数字で表示され、予想弾道が赤い曲線として投影される。
大型複合ミサイルランチャーの対艦用ミサイルの加速シミュレーションは、グラフが急上昇する様子をリアルタイムで示し、武装の切り替え時の展開時間が秒単位で計測される。
ソウヤの指は操縦桿を軽く握りしめ、画面をスクロールしながら入念に確認する。
格納庫の喧騒がハッチの外から微かに聞こえ、機体の振動がシートを通じて伝わる中、ソウヤは一つ一つのデータを睨むように見つめた。
(ガトリングの総弾数もかなりあるし、口径も大きいからザクⅡの装甲くらいなら、貫通できそうだな。大型複合ミサイルの加速は5秒で最高速度か、対艦用だけあってパンチがある。武装切り替えの展開時間は1秒……悪くない。だが、使える手数が増えたことは良いが、火器管制システムの操作性が悪くなったな。)
ソウヤは心の中で呟きながら、テストを繰り返す。手数が増えた事と、戦艦級の火力を手に入れたことを嬉しく思う。
マスケッティアは元々精密射撃機だったが、これだけの武装が加われば、単独で敵陣を崩壊させる可能性が広がる。ジオンのモビルスーツ群を弾幕で封じ、ミサイルで一掃し、キャノンで仕留める——そんな戦術が頭に浮かび、興奮が胸を熱くする。
しかし、同時に武装が増えたことで火器管制コントロールが難しくなったことと、機動性が落ちたことを懸念する。
重装備の重量が機体のバランスを崩し、高速機動時のレスポンスが鈍くなるリスクがある。
こうした変化は戦場で命取りになりかねない。
イヤンはハッチの外からソウヤの表情を見守り、静かに声を掛ける。
「少尉、仮想テストの結果はどうでしょうか。武装の同期は完璧ですが、何か気になる点はありますか。」
ソウヤはモニターから目を上げ、イヤンに視線を向ける。
「イヤン軍曹、ありがとう。火力は申し分ないです。ただ、手数が多すぎて管制が複雑になってますね。機動性が落ちているのが怖いです。」
イヤンはデバイスを片手に、機体のバックパックを指差しながら応じる。
「確かに重量が増えましたね、少尉。しかし、今の少尉ならこれだけの武装を扱いきれるはずです。マスケッティアの駆動系を調整してバランスを取っていますし、少尉の射撃精度があれば、火力を最大限に活かせますよ。私たちが全力でサポートしますから。」
イヤンの言葉は丁寧だが、信頼の深さが込められ、ソウヤの懸念を和らげる。
「そうだな……ありがとう、イヤン。お前たちの仕事がなければ、ここまで来れなかったよ。」
イヤンは軽く敬礼し、「とんでもありません。少尉の安全が第一です。」二人のやり取りは、言葉少なだが、互いの信頼を確かめ合うものだった。
すると、格納庫全体にオペレーターのナタリア少尉の声が艦内放送で響き渡る。
「全乗組員に連絡、作戦本部からバイアリタークにア・バオア・クー攻略の指令が入った。艦長から、本作戦の説明をされるので、傾聴されたし。」
そう言うと、スピーカーの声の主が変わり、クリフトフ・ハーツクライ艦長の落ち着いた声がスピーカーから全乗組員に届けられる。
左舷格納庫の作業していた者は手を止め、機体の足元やデッキに立ち止まり、耳を傾けた。
「全乗組員に作戦内容を報告する。バイアリータークは、健在な第4大隊に編入された。目的地は、以前偵察した際に最も敵が多数配置されている宙域だ。」
ハーツクライの声は、冷静だが重みがあった。
格納庫の空気がさらに張り詰め、整備兵たちの顔に緊張の色が濃くなる。
ソウヤはモニターの画面をオフにし、放送に集中する。
「我々は陽動部隊として、敵の戦力が集中している宙域で戦闘を開始する。これにより、敵の注意を引きつけ、反対側からモビルスーツを基軸にした練度の高い部隊をア・バオア・クーへ進攻させる。これが本作戦の骨子だ。連邦軍の勝利のため、全員がその役割を全うせよ。」
放送を聞いた左舷格納庫の整備兵たちは、互いに視線を交わし、決戦の覚悟を固める。
ある兵士は工具を握りしめ、もう一人はヘルメットを直し、皆の表情に静かな決意が浮かぶ。
ソウヤはコックピット内で拳を握り、「陽動か……マスケッティアの火力が活きるな」と心の中で呟く。
ヤザンはヴァンガードのシートで鼻を鳴らし、「ふん、面白くなってきたぜ」と笑みを浮かべた。
格納庫全体が放送の言葉に包まれ、決戦の予感が空気を震わせる。
ハーツクライ艦長の声は続き、重く乗組員の胸に響く。
「待ち受けるのは、困難な戦いだ。生存率も低いと思われる。だが、バイアリータークはこれまでの戦いを思い返して欲しい。サイド6の核攻撃を阻止し、ア・バオア・クーの偵察任務から無事に本隊に合流した。我々は常に困難を乗り越えてきた。今回もそうだ。生きて帰る——それが我々の使命だ。全員、健闘を祈る。」
ソウヤはハーツクライ艦長の放送を聞き終え、コックピット内で深く息を吐いた。
言葉の重みが胸に響き、決意をより固くさせる。
「仲間を信じる……覚悟を持って、引金を引く……。そして、皆で生きて帰るんだ。」
心の中で呟き、ソウヤの瞳には静かな決意の炎が灯る。
宇宙世紀0079年12月30日、バイアリータークは静かに進む。
明日、12月31日——一年戦争の最終決戦、ア・バオア・クー攻略が始まる。
ジオンと連邦軍の運命を懸けた一戦が、オリオン小隊の軌跡を虚空に刻むだろう。
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。
お待たせしました!オリオン小隊最終決戦仕様の装備です!
いやー、連続して話を作っているとゲシュタルト崩壊を起こしますね。
なんか、書いていても「こんな文で良かったかな?」と疑心暗鬼になりましたw
さて、マスケッティアとヴァンガードに、色んな装備をてんこ盛りで装着させました!
やっぱり、最終決戦装備は沢山武器がある方が話を作っていて、楽しいですねw
ではでは、次は遂に一年戦争最終決戦のア・バオア・クー攻略になるので、お楽しみにー♪
感想など、お待ちしております。
【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?
-
陸戦型ジム改
-
バイアリーターク
-
ペイルライダー・ヴァンガード
-
ペイルライダー・マスケッティア
-
ヴァルキリー
-
グフ・ノクターン