三機の火力が、瞬時に敵の先鋒を薙ぎ払った。
虚空に火球が連なり、残骸が無重力の闇に漂う。
オリオン小隊はバイアリータークの盾となり、敵の波を押し返した。
だが——その先に見える敵の数は、桁違いだった。
ソウヤ・タカバのマスケッティアのコクピットで、レーダースクリーンがノイズにまみれながらも、赤い点の群れを無数に映し出していた。
ミノフスキー粒子の濃密な霧の中で、敵の噴射光が無数の星のように瞬く。
数百、いや千を超えるかもしれない。
ザク、リック・ドム、ゲルググ……そしてさらに後方には、モビルアーマーやジオンの見たことがない新型の影まで。
これまで経験した最大の戦闘は、キャリフォルニア・ベース攻略時の100機規模。
普段のオリオン小隊は、3機、多くて10機の小隊規模戦闘が常だった。
ソウヤの全身が粟立つ。
「こんな……数が……」
指先がわずかに震え、コクピットの空気が急に重くなる。
これまで感じたことのない、圧倒的な「数」の恐怖が胸を締め付けた。
ふと、通信モニターに映るヤザン・ゲーブルの顔を見た。
ヴァンガードのコクピット内で、彼の肩が小刻みに震えている。
ソウヤは思わず尋ねた。
「ヤザン……怖いのか?」
ヤザンは一瞬、目を細めた。
そして、いつもの獣のような笑みを浮かべて、ゆっくりと首を振った。
「馬鹿言うなよ、俺が戦闘で恐怖するだと?今、俺は……こんな規模の戦闘に参加できることに、武者震いしてるんだよ。」
その言葉に、ソウヤは思わず笑ってしまった。
「はは……ヤザンらしいな。」
胸のこわばりが、ふっと解けた。
緊張が溶け、代わりに熱いものが込み上げてくる。
これが、ヤザン・ゲーブルだ。
一年戦争の終盤に歩兵からMSパイロットへ転身し、戦場を駆け抜けた男。
恐怖など、燃料にしかならない。
二人の会話を聞き、イーサン・ミッチェル・オールグレン大尉の声が通信に入った。
ジム・ドミナンスのコクピットから、落ち着いた、しかし厳しい調子で。
「緊張が解けたのはいいが、大事な局面であることを忘れるなよ。二人共、
気を引き締めろ。」
ソウヤとヤザンは、同時に応えた。
「了解!」
三機は一斉に武器を構えた。
イーサンのジム・ドミナンスが右手に持った二連装ビームライフルを構え、ヤザンのヴァンガードは90mm口径の巨大な回転砲身のジャイアント・ガトリングの銃口を向け、ソウヤのマスケッティアはフレーム・ランチャーの6銃身ガトリング砲と4連装ミサイル・ランチャーを起動。
三機の機影が、Nフィールドの闇の中で、静かに、しかし確実に輝きを増した。
地獄の聖域は、まだ彼らを許さない。
だが、オリオン小隊は——ここから、本当の軌跡を描き始める。
ザクII、リック・ドム、ゲルググが再び波のように押し寄せてきた。
虚空を埋め尽くす噴射光が、無数の星のように瞬き、Nフィールドの闇を切り裂く。
その数は圧倒的だった。
オリオン小隊の三機は、即座に反応した。
三機の武装が一斉に火を噴き、濃密な弾幕が虚空を覆う。
ペイルライダー・ヴァンガードのジャイアント・ガトリングが、まず咆哮した。
90mm口径の巨大な回転砲身が高速で回り始め、火線が一直線に伸びる。
弾丸の奔流が敵陣を薙ぎ払い、空間そのものを制圧する。
装甲の薄いザクIIは蜂の巣にされ、モノアイが砕け散り、機体が次々と火球と化した。
「近づかせるかよ……ジオン共!!」
ヤザンの声が通信に響く。
同時に、ペイルライダー・マスケッティアが右腕のフレーム・ランチャーを敵に向けた。
「ヤザン!クロスファイアだ!」
6銃身ガトリングが回転を始め、ヴァンガードのジャイアント・ガトリングと十字砲火を形成。
二つの弾幕が交差する瞬間、虚空に無数の火線が網を張り、敵の進路を封じる。
ジム・ドミナンスはバックパックの左右に装着された円柱型の4連装機関砲——ガトリング・スマッシャーを連射。
円柱部分が高速回転し、銃口から弾丸が吐き出される。
「撃ち漏らしたのは、俺が対応する!」
ヴァンガードとマスケッティアが討ち漏らした敵を、正確に迎撃。
リック・ドムの装甲が凹み、ゲルググのシールドが削られていく。
オリオン小隊の弾幕は、ジオンのモビルスーツに「迂闊に近づけない」壁を築いた。
虚空に火花と残骸が散らばり、敵の波が一瞬、押し戻される。
だが——それでも、掻い潜る者たちがいた。手練れのパイロットたち。
弾幕の隙間を縫うように機敏に機体を滑らせ迫ってくる。
ザクIIのひとつが、ヴァンガードの死角から急接近。
リック・ドムが装甲を削られながらも前進を止めない。
ゲルググがシールドで弾幕を防ぎながら、ビーム・ライフルを構えて距離を詰める。
ソウヤのマスケッティアは、バックパック右側に装着したアサルト・キャノンを即座に発射し、虚空に爆発の花を咲かせる。
破片弾が四散し、ザクIIのザク・マシンガンのマガジンに直撃——マガジンが誘爆し、ザクⅡは武器と右腕を失う。
リック・ドムのモノアイが砕け、視界を失う。
ゲルググのアポジーモーターが破損し、機動力が急激に落ちる。
同時に、イーサンのジム・ドミナンスが右手の二連装ビームライフルを放つ。
赤い光線が損傷したザクIIを貫き、機体を撃破。
だが、それでも全てを撃破することはできなかった。
そして——弾幕を突破した1機のゲルググが、オリオン小隊の懐に躍り込んだ。
ビーム・ライフルを構え、マスケッティアに照準を合わせる。
その瞬間、ウィッチーズ隊のシイコ・カタギリ中尉のジム・コマンドが横から割り込んだ。
左の人差し指付け根からワイヤーフックが射出される。
スティグマ攻撃——敵機にワイヤーを引っ掛け、支点とした瞬間的な急加速と軌道変更。
ゲルググのパイロットは翻弄され、照準が外れる。
シイコの通信から、不敵な笑みを帯びた声が響いた。
「ふふっ……オリオン小隊はやらせないわよ。あなたみたいな子、すぐに壊してあげる。」
彼女のジム・コマンドは、ハイパー・バズーカを構え、至近距離から一撃。
爆発がゲルググを包み、機体が四散した。
モノアイを損傷したリック・ドムが制御を失いかけ、機動力が落ちたゲルググが後退を試みる。
そこへ、ボカタ大尉のジム・コマンドが前に出た。
苦労人の大尉は、ため息混じりに通信を開く。
「まったく……、毎回好き勝手やりやがって。いい加減にしろよ、……とはいえ、仕方ないな。片付けるぞ。」
ボカタのハイパー・バズーカが火を噴き、リック・ドムの胴体を貫く。
続いて、ライラ・ミラ・ライラのジム・コマンドが飛び出した。
17歳の准尉は、男勝りな声で叫ぶ。
「ったく、ボカタ大尉まで渋いこと言わないでくださいよ!わたしが全部片付けてやるんですから!」
ライラのハイパー・バズーカが炸裂。
ゲルググの装甲を吹き飛ばし、ゲルググを火球に変える。
ライラは通信越しに、ソウヤたちへ軽く声を掛けた。
「オリオン小隊! あんたらは弾幕形成に集中しな!あたしらが前で暴れてやるからよ!」
シイコの声が、甘く危険な響きを帯びて割り込む。
「ライラ、独り占めはダメよ?タカバ少尉が困ってるの見たら、私……我慢できないんだから。」
ボカタが即座に割って入る。
「シイコ、戦場で私情挟むな。……ったく、お前達といると命は助かるが、頭が……。」
三機のジム・コマンドが連携し、残りの敵を一掃。
ハイパー・バズーカの爆炎が連なり、虚空に新たな火球を生む。オリオン小隊の三機は、その背後で静かに息を整えた。
ソウヤは通信でウィッチーズ隊に礼を言う。
「……ウィッチーズの皆さん、ありがとうございます。」
ヤザンは野獣のような笑みを浮かべて応じる。
「へっ、礼なんかいらねえよ。近づく敵は片っ端から撃っちゃあいいんだからよ。」
イーサンが静かに頷く。
「そうだな。まだ……始まったばかりだ。」
他のジムやボール、サラミス級巡洋艦たちも、次々と戦闘態勢に入った。
Nフィールドの虚空は一瞬にして戦火に包まれ、連邦側のMSが群れを成して飛び出し、ジオンの機影を迎え撃つ。
数百機規模のモビルスーツが交錯し、ビームの光線が縦横に走り、爆発の火球が連鎖する。
サラミス級の艦砲が唸りを上げ、ボールの群れがザクIIの群れに突っ込み、ジムがゲルググと至近距離で撃ち合う。
無数の推進光と火花が散らばり、ミノフスキー粒子の霧の中で戦場は混沌の極みに達していた。
これはもはや小隊戦などではない——一年戦争の最終決戦、ア・バオア・クー攻略戦の本当の地獄が、ここにあった。そんな大混戦の只中で、イーサンのジム・ドミナンスとボカタのジム・コマンドに、バイアリータークからの通信が入った。
ハーツクライ艦長の落ち着いた、しかし力強い声が響く。
「オルグレン少佐、ボカタ大尉。予定通りだ。オリオン小隊の武装とバイアリータークの艦砲で弾幕を展開。撃ち漏らした敵はウィッチーズ隊が迎撃。オリオン小隊とこのバイアリータークの警護を最優先に、徐々にラインを上げていく。……オリオン小隊の火力が、この艦隊の生命線だ。頼んだぞ。」
イーサンは即座に頷き、通信に応じた。
「了解しました、艦長。我々の弾幕が生命線である以上、一瞬たりとも緩めません。オリオン小隊、全機——弾幕維持を最優先に。」
ボカタ大尉も顔に決意を浮かべて応じる。
「了解。ウィッチーズ隊は必ず守ります。……たとえこの地獄で命を削っても、オリオンとバイアリータークをやらせません。」
通信が切れると同時に、バイアリーターク、オリオン小隊、ウィッチーズ隊は一斉に動き出した。
オリオン小隊の弾幕は、圧倒的だった。
ヴァンガードのジャイアント・ガトリングが高速回転を続け、90mm弾の奔流が敵陣を薙ぎ払う。
マスケッティアのフレーム・ランチャーが6銃身ガトリングと4連装ミサイルを交互に発射し、十字砲火で空間を封鎖。
ドミナンスのガトリング・スマッシャーが円柱状の4連装機関砲を回転させ、討ち漏らしを確実に掃射。
三機の火線が交差し、虚空に無数の火の網を張り巡らせる。
バイアリータークも黙ってはいなかった。
艦首の58cm連装主砲が轟音を上げ、ムサイ級巡洋艦の群れに直撃。
装甲を貫き、艦体を両断する火柱が上がる。
両舷の連装メガ粒子砲が赤色の光を放ち、ジオンの艦隊を焼き払う。
艦体各所の連装機関砲が回転し、接近するモビルスーツを迎撃——モビルスーツの群れが次々と火花を散らし、爆散した。
ウィッチーズ隊は、シイコ中尉を基点に動いた。
彼女のジム・コマンドがスティグマ攻撃で敵の懐に飛び込み、ハイパー・バズーカで至近距離から撃破。
ライラ准尉とボカタ大尉がその左右を固め、弾幕を掻い潜った手練れの敵を次々と仕留める。
「私達に…近づいた瞬間が命取りよ!」
三機の連携は、まるで一つの生き物のように流れる。
オリオン小隊の弾幕が生命線となり、バイアリータークの艦砲が道を切り開き、ウィッチーズ隊が隙を突く。
だが、バイアリーターク隊がいくら奮戦しても、連邦側のラインは上がらなかった。
オリオン小隊の弾幕が虚空を封じ、バイアリータークの艦砲が敵艦を焼き払い、ウィッチーズ隊が接近敵を仕留めても——ジオンの防衛陣は、まるで無限の壁のように立ち塞がっていた。
Nフィールドの深淵から、次々と新たな敵影が湧き出てくる。
ザクIIの群れが後方から補充され、リック・ドムの重装甲が波のように押し寄せ、ゲルググのビーム・ライフルが遠距離から狙い撃つ。
撃破した敵の残骸が虚空に漂う中、新たな機体がその隙間を埋め、連邦側の前進を阻む。
ミノフスキー粒子の濃霧が視界を悪くし、レーダーはノイズに埋もれ、敵の数は減るどころか増すばかりだった。
戦場は、乱戦の膠着状態に陥った。
両軍のMSが至近距離で撃ち合い、艦艇の砲火が交錯し、無数の火球が連鎖する。
連邦側のジムがゲルググに切り裂かれ、ジオンのザクがボールの集中射撃で爆散する。
サラミス級の艦体が傷つきながらも耐え、ムサイ級が炎に包まれながらも反撃を続ける。
誰もが消耗し、推進剤が減り、弾薬が尽きかけ、しかし誰も退かない。
虚空は残骸と火花の海となり、進展のない押し合いの状態が続く。
ジオン軍も黙ってはいなかった。
バイアリータークの脅威を察知した瞬間、ムサイ級巡洋艦二隻が即座に動き出した。
艦首の主砲が回転し、連装メガ粒子砲が黄色い光を帯びる。
バイアリータークの艦橋で、オペレーターのナタリア・アルスター少尉が即座に叫んだ。
「艦長! ムサイ級二隻の主砲照準がオリオン小隊に!」
ハーツクライ艦長は即座に通信を開く。
「オリオン小隊、回避! 陣形を崩せ!」
二隻のムサイは、オリオン小隊を標的に定め、艦砲射撃の弾幕を一斉に放った。
黄色い光線が虚空を切り裂き、連なる火線が三機の機体を包み込むように迫る。
ソウヤのマスケッティアが最初に反応した。
「了解!流石に無視は出来ないよな!」
三機は一瞬で散開。
ヴァンガードが急旋回し、ドミナンスが下方へ降下、マスケッティアが上方へ跳ぶ。
ムサイ級のメガ粒子砲が虚空を貫き、三機のいた空間を焼き払う。
光の奔流が残骸を蒸発させ、衝撃波が機体を揺さぶった。
だが——その回避で、オリオン小隊の弾幕が一瞬途切れた。
その隙を、ジオンのモビルスーツたちが好機と見ると、雪崩のように押し寄せる。
ソウヤは歯を食いしばり、即座に判断した。
「これ以上……近づかせるかよ!」
マスケッティアのコクピットで、武器選択パネルが切り替わる。
バックパック左側に装着された大型複合ミサイルランチャーが起動。
上部のミサイルベイ五ヶ所が重々しく開き、各ベイから2×2発、計20発のミサイル弾頭が顔を覗かせる。
同時に、額のスコープバインダーがスライドダウンし、マスケッティアの瞳を覆い、精密照準モードへ移行した。
ソウヤの瞳が鋭く光る。
スコープバインダーの精密射撃用アクティブセンサーと高倍率カメラでムサイ級二隻と迫ってくるモビルスーツ群をロックオン。
引き金を引く。
「ファイアァーーー!」
大型複合ミサイルランチャーから、轟音と共に20発のミサイルが一斉に射出された。
白い煙の軌道が虚空に無数の尾を引き、圧倒的な弾幕となって広がる。
さらに、先端から二発の対艦用ロングレンジミサイルを射出。
長大な推進炎を噴きながら、ムサイ級二隻へ一直線に飛ぶ。ジオンのモビルスーツたちは慌てて回避行動を取った。
ザクIIが急旋回し、リック・ドムが重装甲を盾に横滑り、ゲルググがブースターを吹かして上昇。
だが、ミサイルの数は多すぎた。
数機のザクIIが直撃を受け、機体が火球と化す。
リック・ドムの一機は推進器を損傷し、回転しながら虚空に吹き飛ばされる。
ゲルググは盾で凌いだが、シールドは砕け、左腕が千切れ飛ぶ。
そして——対艦用ロングレンジミサイル二発が、ムサイ級二隻に着弾。
投擲された槍のように艦体を貫き、内部で爆発。
一隻は艦橋を吹き飛ばされ、もう一隻は機関部を抉られ、巨大な火柱を上げながら二つに裂けた。
ムサイ級二隻は、炎に包まれながらゆっくりと沈黙した。
イーサンのジム・ドミナンスから、通信が入る。
「ソウヤ……お前のお陰で凌げた。あのミサイルの一撃がなければ、ムサイ二隻に集中砲火を浴びていた。礼を言う。」
通信の向こうで、イーサンの機体がゆっくりと接近。
ジム・ドミナンスの左手がマスケッティアの右肩に触れた。
接触回線が接続され、データが瞬時に流れ込む。
残弾状況、機体損傷、推進剤残量——すべてが共有される。
イーサンの声が、低く響いた。
「……フレーム・ランチャーのミサイルの残弾0、ガトリングも半分以下。大型複合ミサイルランチャーも先の攻撃で空か…。」
ソウヤは大きく息を吐き、頷く。
「はい……弾のほとんど撃ち尽くしました。」
イーサンは即座に判断した。
「一度、バイアリータークに戻れ。弾薬と推進剤を満タンにしてこい。」
ソウヤは一瞬、躊躇した。
通信越しに、虚空の敵影がまだ蠢いているのが見える。
「でも……ここでマスケッティアが抜けたら、弾幕の密度が低下します。今、抜けるのは……」
その言葉を遮るように、別の声が割り込んできた。
跳ねるような独特のイントネーション、中低音に高揚した掠れが混じた声だ。
「その抜けた分を"俺達"が埋めてやろうか?」
イーサンは即座に声を荒げた。
「ヤザン! お前一人でソウヤの分まで埋められるのか!?無茶を言うな!」
ヤザンは一瞬、戸惑ったように息を詰めた。
続いて、掠れた声に少し怒りが混じる。
「……隊長!?なんで、いきなり叱るんだよ!俺はただ掃射してるだけだぜ!たくっ……一生懸命やってんのに、そりゃあ、ないですぜ…。」
ヤザンのヴァンガードはジャイアント・ガトリングは休むことなく回転させ、敵を掃射し続けていた。
すると突然、3機のダークグリーンのジムがジム・ドミナンスとマスケッティアに接近する。
2機のジムはドミナンスとマスケッティアの目の前を通り過ぎ、手に持った長い銃身のビームライフルを構えて、ヴァンガードの援護射撃を開始。
正確無比な狙撃が、遠距離のジオンのモビルスーツを次々と貫く。
残った一機は、ドミナンスとマスケッティアの前に静かに停止した。
左胸には、撃破数を刻む11個の赤い星と、葉巻を咥えたシュモクザメのエンブレムが描かれていた。ソウヤは、その機体を見て息を呑んだ。RGM-79ジムのエース用改修機——追加装甲、予備ジェネレータ増設、冷却ユニット強化。
総合性能はRX-78ガンダムに匹敵、または超えると言われる『ジム・スナイパーカスタム』。
手に持つのは最新型のL-3ビーム・スナイパー・ライフル。その機体から、通信が入った。
「こちら、第7狙撃部隊のテネス・A・ユング少佐だ。オリオン小隊、ウィッチーズ隊——援護に入る。俺のスコープに映ったジオンは、全部俺が狩ってやるよ。楽しませてもらおうじゃねえか。」
好戦的な口調、ジオン狩りを楽しむような態度。
その声の響きにソウヤとイーサンは一瞬、驚いた。
ヤザンに似た——掠れた高音の混じった声。
イーサンは冷静に返す。
「テネス少佐……援護に感謝する。だが、なぜ俺たちを?」
テネスは、笑いを含んだ声で答えた。
「簡単だよ。お前らと一緒にいた方が、生存率も上がるし、撃破数も稼げる。それに——ジオン狩りは、仲間とやった方が楽しいだろ?」
イーサンはその言葉に、少し不快感を覚えた。
ジオンを「狩る」対象として楽しむ節が、戦場での無常を軽んじているように感じた。
だが、今は選択肢がない。
ソウヤの補給が最優先だ。
「……分かりました。援護をお願いします。」
テネスは満足げに笑う。
「へっ、任せな。俺のスコープに映った瞬間、終わりだ。」
ジム・スナイパーカスタムのビーム・スナイパー・ライフルが火を噴き、遠距離のゲルググを一撃で貫く。
援護射撃が、オリオン小隊の弾幕に新たな厚みを加えた。
イーサンはソウヤに指示を出す。
「ソウヤ、補給に向かえ。左舷格納庫だ。早く戻ってこい。」
ソウヤはマスケッティアを旋回させ、バイアリータークの左舷格納庫へ向かった。
背後で、テネスの狙撃音が響き、ヤザンのガトリングが咆哮を続ける。
マスケッティアは、バイアリータークの左舷格納庫に向かって静かに降下した。
虚空の闇から、ゆっくりと艦の巨大なシルエットが近づいてくる。
ソウヤはコクピットのホログラム光学着艦装置に集中した。
黄色いミートボール状のマーカーが、ラインアップを示すガイドラインと共に浮かび上がり、機体の姿勢を微調整する。
わずかなロールとピッチを修正し、格納庫の開口部にぴたりと合わせる。
艦の吸引ビームが機体を捉え、ゆっくりと引き寄せた。
「着艦……開始。」
マスケッティアの脚部が格納庫の床に接触する瞬間、ソウヤはスラスターを微調整。
機体がわずかに跳ねるのを抑え、格納庫の壁や隣接するモビルスーツハンガーにぶつからないよう、丁寧に操縦桿を引いた。
金属の軋む音が響き、機体が滑り込むように格納庫の金属の床に着地する。
固定クランプが四方から伸び、マスケッティアの両肩と腰部をガッチリと拘束した。
コクピットの警報が停止し、着艦完了の緑ランプが点灯する。
「ふう…、着艦完了……。」
マスケッティアの着艦を確認をした整備班は一斉に動き出した。
整備兵たちが梯子を駆け上がり、機体周囲に群がる。
「フレーム・ランチャー弾倉交換始め!」
「大型複合ミサイルランチャー、装填開始!」
「推進剤ホース接続!」
叫び声が飛び交い、工具の金属音と空気圧のシューという音が響き渡る。
フレーム・ランチャーの円柱型ガトリング弾倉が重々しく外され、新しい弾倉がクレーンで吊り上げられて装着される。
大型複合ミサイルランチャーの空になったベイに、次々とミサイルが装填されていく。
整備兵の一人が叫ぶ。
「20発、全弾装填完了! 対艦用ロングレンジも、さっさと2発補充しろ!タカバ少尉が待ってるぞ!」
推進剤補給ホースが機体の背部に接続され、高圧で推進剤が注入される音が低く響く。
同時に、数名の整備兵がセンサー類と装甲表面を急いでチェック。
「左肩装甲に微細亀裂! 補修材で応急処置!」
「スコープバインダー、動作正常!問題ありません!」
「冷却ユニット、温度異常なし!」
彼らの動きは素早く、しかし確実だった。
戦場での一分一秒が命取りになることを、全員が理解している。
ソウヤはコクピット内で、モニター越しに外の戦況を眺めていた。
虚空の闇に散らばる火球、仲間たちの推進炎が点滅する光。
イーサン、ヤザン、ウィッチーズ隊、テネス少佐……皆がまだ戦っている。
自分だけがここで休息を取っていることに、胸がざわついた。
「早く……戻らないと。」
焦りが込み上げる。
外では仲間が命を削っているのに、自分は安全な格納庫にいる。
だが、整備班の動きはまだ終わらない。
弾薬、推進剤、機体チェック——すべてが完了しなければ、再び戦場に戻れない。
すると、コックピットハッチがゆっくりと開き、整備班のイヤン軍曹がハッチの縁に手をかけ、体を乗り出す。
イヤンは手に持った液体携行食のパックをソウヤに差し出した。
「タカバ少尉、これを。急ピッチで補給してるけど、対艦用ミサイルの装填に手間取ってます。これを食べて、少しでもエネルギーを。」
ソウヤは液体携行食を受け取り、ヘルメットのバイザーを上げた。
ストローを咥え、甘く濃厚な栄養液をすする。
喉を通る冷たい感触が、わずかに体を落ち着かせた。
イヤンは機体を見上げながら、簡潔に報告する。
「機体状況、問題なしです。フレーム・ランチャー弾倉交換完了、大型複合ミサイルランチャーの上部ミサイルベイは全弾装填済み。推進剤も満タンに近づいてます。あと5分で補給完了です。」
ソウヤはパックを飲み干し、静かに礼を言った。
「……ありがとう、イヤン軍曹。いつも助かります。」
イヤンはヘルメットの下で苦笑を浮かべ、首を振った。
「礼なんていいですよ、それが私たちの仕事ですから。
タカバ少尉たちがバイアリータークを守ってくれているから、俺たちがこうして整備できるんです。……だから、どうか。」
イヤンは一瞬、言葉を詰まらせた。
そして、真剣な目でソウヤを見つめる。
「機体は壊れてもいいです、代わりの機体は用意できますから。でも、タカバ少尉の命は……この世界に一つしかないんです。どうか、無事に戻ってきてください。」
ソウヤはイヤンの言葉を聞き、静かに尋ねた。
「……戦争で、人を殺しておいて。他の誰かの一生に一度しかない命を、奪ってるのに……皮肉ですね…。」
イヤンは苦笑しながら、ゆっくりと頷いた。
「確かに……私たちは軍人です。人を殺すことで何かを守り、自分たちの正義を示し続ける存在。だけど——私たちだって人です。人であり、命なんです。だから、死なないために抗うことに、善悪はないと思います。その行いが過ちで、積み重ねてしまうことになっても……今、この瞬間、自分が生きるために戦うのは、間違いじゃないと思うです。」
ソウヤはイヤンの言葉を、胸に刻んだ。
静かに、しかし力強く頷く。
「……ありがとう、イヤン軍曹。その言葉……自分を、勇気づけてくれました。」
イヤンは照れくさそうに笑い、肩をすくめた。
「どういたしまして。……さあ、行ってらっしゃい、タカバ少尉。帰りを待っております。」
その時、整備兵の一人が大声で報告した。
「イヤン軍曹! 補給完了です!全弾装填、推進剤満タン、機体チェック異常なし!」
イヤンは振り返り、短く応じた。
「分かった。……タカバ少尉、発進準備を。」
イヤンは梯子を降り、コックピットハッチから離れた。
ソウヤはイヤンが完全に離れたのを確認すると、シートの下から無針注射器タイプの鎮痛剤の箱を取り出した。
ヘルメットとノーマルスーツの首元の繋ぎ目を外し、注射器を首筋に当てる。
プシュッという小さな音と共に、薬剤が注入された。
ソウヤは空になった注射器を片付けると、繋ぎ目を元に戻した。
「よし……。」
マスケッティアはリニアカタパルトに乗り、発進体勢に入った。
格納庫の照明が赤く点滅し、カタパルトのレールが低く唸りを上げる。
ソウヤは操縦桿を握り、静かに呟いた。
「戻るよ……みんな…。ペイルライダー・マスケッティア!ソウヤ・タカバ少尉!発進します!!」
リニアカタパルトが作動。
電磁加速の轟音が響き、マスケッティアが一瞬で虚空へ射出された。
推進器が青白い炎を噴き、機体は戦場へ舞い戻る。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
オリオン小隊とウィッチーズ隊の戦闘が始まりましたー♪
いやー流石は最終決戦仕様、圧倒的な火力と弾幕ですね(笑)
こんな機体、バトオペ2で使いたいなー(笑)
勿論、400~450コストで!
さて、ここでまさかのキャラクターが登場しました!
ガンダム界隈では、ある意味伝説の人物なので♪
あと、テネスとヤザンは中の人が同じだったので、声優ネタで聞き間違えるシーンを作ってみした(笑)
彼がどんな風にソウヤ達と絡むか、楽しみにしていてください!
ではでは、感想などありましたら、気軽にどうぞー♪
原作登場人物紹介
テネス・A・ユング
原作・機動戦士ガンダム 戦略戦術大図鑑
階級・少佐
所属・第7狙撃部隊
【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?
-
陸戦型ジム改
-
バイアリーターク
-
ペイルライダー・ヴァンガード
-
ペイルライダー・マスケッティア
-
ヴァルキリー
-
グフ・ノクターン