機動戦士ガンダム オリオンの軌跡   作:浅片名羽馬

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第36話 Nフィールド 地獄の聖域【2】

三機の火力が、瞬時に敵の先鋒を薙ぎ払った。

虚空に火球が連なり、残骸が無重力の闇に漂う。

オリオン小隊はバイアリータークの盾となり、敵の波を押し返した。

だが——その先に見える敵の数は、桁違いだった。

ソウヤ・タカバのマスケッティアのコクピットで、レーダースクリーンがノイズにまみれながらも、赤い点の群れを無数に映し出していた。

ミノフスキー粒子の濃密な霧の中で、敵の噴射光が無数の星のように瞬く。

数百、いや千を超えるかもしれない。

ザク、リック・ドム、ゲルググ……そしてさらに後方には、モビルアーマーやジオンの見たことがない新型の影まで。

これまで経験した最大の戦闘は、キャリフォルニア・ベース攻略時の100機規模。

普段のオリオン小隊は、3機、多くて10機の小隊規模戦闘が常だった。

ソウヤの全身が粟立つ。

 

「こんな……数が……」

 

指先がわずかに震え、コクピットの空気が急に重くなる。

これまで感じたことのない、圧倒的な「数」の恐怖が胸を締め付けた。

ふと、通信モニターに映るヤザン・ゲーブルの顔を見た。

ヴァンガードのコクピット内で、彼の肩が小刻みに震えている。

ソウヤは思わず尋ねた。

 

「ヤザン……怖いのか?」

 

ヤザンは一瞬、目を細めた。

そして、いつもの獣のような笑みを浮かべて、ゆっくりと首を振った。

 

「馬鹿言うなよ、俺が戦闘で恐怖するだと?今、俺は……こんな規模の戦闘に参加できることに、武者震いしてるんだよ。」

 

その言葉に、ソウヤは思わず笑ってしまった。

 

「はは……ヤザンらしいな。」

 

胸のこわばりが、ふっと解けた。

緊張が溶け、代わりに熱いものが込み上げてくる。

 

これが、ヤザン・ゲーブルだ。

一年戦争の終盤に歩兵からMSパイロットへ転身し、戦場を駆け抜けた男。

恐怖など、燃料にしかならない。

二人の会話を聞き、イーサン・ミッチェル・オールグレン大尉の声が通信に入った。

ジム・ドミナンスのコクピットから、落ち着いた、しかし厳しい調子で。

 

「緊張が解けたのはいいが、大事な局面であることを忘れるなよ。二人共、

気を引き締めろ。」

 

ソウヤとヤザンは、同時に応えた。

 

「了解!」

 

三機は一斉に武器を構えた。

イーサンのジム・ドミナンスが右手に持った二連装ビームライフルを構え、ヤザンのヴァンガードは90mm口径の巨大な回転砲身のジャイアント・ガトリングの銃口を向け、ソウヤのマスケッティアはフレーム・ランチャーの6銃身ガトリング砲と4連装ミサイル・ランチャーを起動。

三機の機影が、Nフィールドの闇の中で、静かに、しかし確実に輝きを増した。

地獄の聖域は、まだ彼らを許さない。

だが、オリオン小隊は——ここから、本当の軌跡を描き始める。

 

 

 

 

 

ザクII、リック・ドム、ゲルググが再び波のように押し寄せてきた。

虚空を埋め尽くす噴射光が、無数の星のように瞬き、Nフィールドの闇を切り裂く。

 

その数は圧倒的だった。

オリオン小隊の三機は、即座に反応した。

三機の武装が一斉に火を噴き、濃密な弾幕が虚空を覆う。

 

ペイルライダー・ヴァンガードのジャイアント・ガトリングが、まず咆哮した。

90mm口径の巨大な回転砲身が高速で回り始め、火線が一直線に伸びる。

弾丸の奔流が敵陣を薙ぎ払い、空間そのものを制圧する。

装甲の薄いザクIIは蜂の巣にされ、モノアイが砕け散り、機体が次々と火球と化した。

 

「近づかせるかよ……ジオン共!!」

 

ヤザンの声が通信に響く。

同時に、ペイルライダー・マスケッティアが右腕のフレーム・ランチャーを敵に向けた。

 

「ヤザン!クロスファイアだ!」

 

6銃身ガトリングが回転を始め、ヴァンガードのジャイアント・ガトリングと十字砲火を形成。

二つの弾幕が交差する瞬間、虚空に無数の火線が網を張り、敵の進路を封じる。

ジム・ドミナンスはバックパックの左右に装着された円柱型の4連装機関砲——ガトリング・スマッシャーを連射。

円柱部分が高速回転し、銃口から弾丸が吐き出される。

 

「撃ち漏らしたのは、俺が対応する!」

 

ヴァンガードとマスケッティアが討ち漏らした敵を、正確に迎撃。

リック・ドムの装甲が凹み、ゲルググのシールドが削られていく。

オリオン小隊の弾幕は、ジオンのモビルスーツに「迂闊に近づけない」壁を築いた。

虚空に火花と残骸が散らばり、敵の波が一瞬、押し戻される。

だが——それでも、掻い潜る者たちがいた。手練れのパイロットたち。

弾幕の隙間を縫うように機敏に機体を滑らせ迫ってくる。

ザクIIのひとつが、ヴァンガードの死角から急接近。

リック・ドムが装甲を削られながらも前進を止めない。

ゲルググがシールドで弾幕を防ぎながら、ビーム・ライフルを構えて距離を詰める。

ソウヤのマスケッティアは、バックパック右側に装着したアサルト・キャノンを即座に発射し、虚空に爆発の花を咲かせる。

破片弾が四散し、ザクIIのザク・マシンガンのマガジンに直撃——マガジンが誘爆し、ザクⅡは武器と右腕を失う。

リック・ドムのモノアイが砕け、視界を失う。

ゲルググのアポジーモーターが破損し、機動力が急激に落ちる。

同時に、イーサンのジム・ドミナンスが右手の二連装ビームライフルを放つ。

赤い光線が損傷したザクIIを貫き、機体を撃破。

だが、それでも全てを撃破することはできなかった。

そして——弾幕を突破した1機のゲルググが、オリオン小隊の懐に躍り込んだ。

ビーム・ライフルを構え、マスケッティアに照準を合わせる。

その瞬間、ウィッチーズ隊のシイコ・カタギリ中尉のジム・コマンドが横から割り込んだ。

左の人差し指付け根からワイヤーフックが射出される。

スティグマ攻撃——敵機にワイヤーを引っ掛け、支点とした瞬間的な急加速と軌道変更。

ゲルググのパイロットは翻弄され、照準が外れる。

シイコの通信から、不敵な笑みを帯びた声が響いた。

 

「ふふっ……オリオン小隊はやらせないわよ。あなたみたいな子、すぐに壊してあげる。」

 

彼女のジム・コマンドは、ハイパー・バズーカを構え、至近距離から一撃。

爆発がゲルググを包み、機体が四散した。

モノアイを損傷したリック・ドムが制御を失いかけ、機動力が落ちたゲルググが後退を試みる。

そこへ、ボカタ大尉のジム・コマンドが前に出た。

苦労人の大尉は、ため息混じりに通信を開く。

 

「まったく……、毎回好き勝手やりやがって。いい加減にしろよ、……とはいえ、仕方ないな。片付けるぞ。」

 

ボカタのハイパー・バズーカが火を噴き、リック・ドムの胴体を貫く。

続いて、ライラ・ミラ・ライラのジム・コマンドが飛び出した。

17歳の准尉は、男勝りな声で叫ぶ。

 

「ったく、ボカタ大尉まで渋いこと言わないでくださいよ!わたしが全部片付けてやるんですから!」

 

ライラのハイパー・バズーカが炸裂。

ゲルググの装甲を吹き飛ばし、ゲルググを火球に変える。

ライラは通信越しに、ソウヤたちへ軽く声を掛けた。

 

「オリオン小隊! あんたらは弾幕形成に集中しな!あたしらが前で暴れてやるからよ!」

 

シイコの声が、甘く危険な響きを帯びて割り込む。

 

「ライラ、独り占めはダメよ?タカバ少尉が困ってるの見たら、私……我慢できないんだから。」

 

ボカタが即座に割って入る。

 

「シイコ、戦場で私情挟むな。……ったく、お前達といると命は助かるが、頭が……。」

 

三機のジム・コマンドが連携し、残りの敵を一掃。

ハイパー・バズーカの爆炎が連なり、虚空に新たな火球を生む。オリオン小隊の三機は、その背後で静かに息を整えた。

ソウヤは通信でウィッチーズ隊に礼を言う。

 

「……ウィッチーズの皆さん、ありがとうございます。」

 

ヤザンは野獣のような笑みを浮かべて応じる。

 

「へっ、礼なんかいらねえよ。近づく敵は片っ端から撃っちゃあいいんだからよ。」

 

イーサンが静かに頷く。

 

「そうだな。まだ……始まったばかりだ。」

 

他のジムやボール、サラミス級巡洋艦たちも、次々と戦闘態勢に入った。

Nフィールドの虚空は一瞬にして戦火に包まれ、連邦側のMSが群れを成して飛び出し、ジオンの機影を迎え撃つ。

数百機規模のモビルスーツが交錯し、ビームの光線が縦横に走り、爆発の火球が連鎖する。

サラミス級の艦砲が唸りを上げ、ボールの群れがザクIIの群れに突っ込み、ジムがゲルググと至近距離で撃ち合う。

無数の推進光と火花が散らばり、ミノフスキー粒子の霧の中で戦場は混沌の極みに達していた。

これはもはや小隊戦などではない——一年戦争の最終決戦、ア・バオア・クー攻略戦の本当の地獄が、ここにあった。そんな大混戦の只中で、イーサンのジム・ドミナンスとボカタのジム・コマンドに、バイアリータークからの通信が入った。

ハーツクライ艦長の落ち着いた、しかし力強い声が響く。

 

「オルグレン少佐、ボカタ大尉。予定通りだ。オリオン小隊の武装とバイアリータークの艦砲で弾幕を展開。撃ち漏らした敵はウィッチーズ隊が迎撃。オリオン小隊とこのバイアリータークの警護を最優先に、徐々にラインを上げていく。……オリオン小隊の火力が、この艦隊の生命線だ。頼んだぞ。」

 

イーサンは即座に頷き、通信に応じた。

 

「了解しました、艦長。我々の弾幕が生命線である以上、一瞬たりとも緩めません。オリオン小隊、全機——弾幕維持を最優先に。」

 

ボカタ大尉も顔に決意を浮かべて応じる。

 

「了解。ウィッチーズ隊は必ず守ります。……たとえこの地獄で命を削っても、オリオンとバイアリータークをやらせません。」

 

通信が切れると同時に、バイアリーターク、オリオン小隊、ウィッチーズ隊は一斉に動き出した。

 

オリオン小隊の弾幕は、圧倒的だった。

ヴァンガードのジャイアント・ガトリングが高速回転を続け、90mm弾の奔流が敵陣を薙ぎ払う。

マスケッティアのフレーム・ランチャーが6銃身ガトリングと4連装ミサイルを交互に発射し、十字砲火で空間を封鎖。

ドミナンスのガトリング・スマッシャーが円柱状の4連装機関砲を回転させ、討ち漏らしを確実に掃射。

三機の火線が交差し、虚空に無数の火の網を張り巡らせる。

バイアリータークも黙ってはいなかった。

艦首の58cm連装主砲が轟音を上げ、ムサイ級巡洋艦の群れに直撃。

装甲を貫き、艦体を両断する火柱が上がる。

両舷の連装メガ粒子砲が赤色の光を放ち、ジオンの艦隊を焼き払う。

艦体各所の連装機関砲が回転し、接近するモビルスーツを迎撃——モビルスーツの群れが次々と火花を散らし、爆散した。

ウィッチーズ隊は、シイコ中尉を基点に動いた。

彼女のジム・コマンドがスティグマ攻撃で敵の懐に飛び込み、ハイパー・バズーカで至近距離から撃破。

ライラ准尉とボカタ大尉がその左右を固め、弾幕を掻い潜った手練れの敵を次々と仕留める。

 

「私達に…近づいた瞬間が命取りよ!」

 

三機の連携は、まるで一つの生き物のように流れる。

オリオン小隊の弾幕が生命線となり、バイアリータークの艦砲が道を切り開き、ウィッチーズ隊が隙を突く。

だが、バイアリーターク隊がいくら奮戦しても、連邦側のラインは上がらなかった。

オリオン小隊の弾幕が虚空を封じ、バイアリータークの艦砲が敵艦を焼き払い、ウィッチーズ隊が接近敵を仕留めても——ジオンの防衛陣は、まるで無限の壁のように立ち塞がっていた。

Nフィールドの深淵から、次々と新たな敵影が湧き出てくる。

ザクIIの群れが後方から補充され、リック・ドムの重装甲が波のように押し寄せ、ゲルググのビーム・ライフルが遠距離から狙い撃つ。

撃破した敵の残骸が虚空に漂う中、新たな機体がその隙間を埋め、連邦側の前進を阻む。

ミノフスキー粒子の濃霧が視界を悪くし、レーダーはノイズに埋もれ、敵の数は減るどころか増すばかりだった。

戦場は、乱戦の膠着状態に陥った。

両軍のMSが至近距離で撃ち合い、艦艇の砲火が交錯し、無数の火球が連鎖する。

連邦側のジムがゲルググに切り裂かれ、ジオンのザクがボールの集中射撃で爆散する。

サラミス級の艦体が傷つきながらも耐え、ムサイ級が炎に包まれながらも反撃を続ける。

誰もが消耗し、推進剤が減り、弾薬が尽きかけ、しかし誰も退かない。

虚空は残骸と火花の海となり、進展のない押し合いの状態が続く。

 

 

 

 

 

ジオン軍も黙ってはいなかった。

バイアリータークの脅威を察知した瞬間、ムサイ級巡洋艦二隻が即座に動き出した。

艦首の主砲が回転し、連装メガ粒子砲が黄色い光を帯びる。

バイアリータークの艦橋で、オペレーターのナタリア・アルスター少尉が即座に叫んだ。

 

「艦長! ムサイ級二隻の主砲照準がオリオン小隊に!」

 

ハーツクライ艦長は即座に通信を開く。

 

「オリオン小隊、回避! 陣形を崩せ!」

 

二隻のムサイは、オリオン小隊を標的に定め、艦砲射撃の弾幕を一斉に放った。

黄色い光線が虚空を切り裂き、連なる火線が三機の機体を包み込むように迫る。

 

ソウヤのマスケッティアが最初に反応した。

 

「了解!流石に無視は出来ないよな!」

 

三機は一瞬で散開。

ヴァンガードが急旋回し、ドミナンスが下方へ降下、マスケッティアが上方へ跳ぶ。

ムサイ級のメガ粒子砲が虚空を貫き、三機のいた空間を焼き払う。

光の奔流が残骸を蒸発させ、衝撃波が機体を揺さぶった。

だが——その回避で、オリオン小隊の弾幕が一瞬途切れた。

その隙を、ジオンのモビルスーツたちが好機と見ると、雪崩のように押し寄せる。

 

ソウヤは歯を食いしばり、即座に判断した。

 

「これ以上……近づかせるかよ!」

 

マスケッティアのコクピットで、武器選択パネルが切り替わる。

バックパック左側に装着された大型複合ミサイルランチャーが起動。

上部のミサイルベイ五ヶ所が重々しく開き、各ベイから2×2発、計20発のミサイル弾頭が顔を覗かせる。

同時に、額のスコープバインダーがスライドダウンし、マスケッティアの瞳を覆い、精密照準モードへ移行した。

ソウヤの瞳が鋭く光る。

スコープバインダーの精密射撃用アクティブセンサーと高倍率カメラでムサイ級二隻と迫ってくるモビルスーツ群をロックオン。

引き金を引く。

 

「ファイアァーーー!」

 

大型複合ミサイルランチャーから、轟音と共に20発のミサイルが一斉に射出された。

白い煙の軌道が虚空に無数の尾を引き、圧倒的な弾幕となって広がる。

さらに、先端から二発の対艦用ロングレンジミサイルを射出。

長大な推進炎を噴きながら、ムサイ級二隻へ一直線に飛ぶ。ジオンのモビルスーツたちは慌てて回避行動を取った。

ザクIIが急旋回し、リック・ドムが重装甲を盾に横滑り、ゲルググがブースターを吹かして上昇。

だが、ミサイルの数は多すぎた。

数機のザクIIが直撃を受け、機体が火球と化す。

リック・ドムの一機は推進器を損傷し、回転しながら虚空に吹き飛ばされる。

ゲルググは盾で凌いだが、シールドは砕け、左腕が千切れ飛ぶ。

そして——対艦用ロングレンジミサイル二発が、ムサイ級二隻に着弾。

投擲された槍のように艦体を貫き、内部で爆発。

一隻は艦橋を吹き飛ばされ、もう一隻は機関部を抉られ、巨大な火柱を上げながら二つに裂けた。

ムサイ級二隻は、炎に包まれながらゆっくりと沈黙した。

 

 

 

 

 

イーサンのジム・ドミナンスから、通信が入る。

 

「ソウヤ……お前のお陰で凌げた。あのミサイルの一撃がなければ、ムサイ二隻に集中砲火を浴びていた。礼を言う。」

 

通信の向こうで、イーサンの機体がゆっくりと接近。

ジム・ドミナンスの左手がマスケッティアの右肩に触れた。

接触回線が接続され、データが瞬時に流れ込む。

残弾状況、機体損傷、推進剤残量——すべてが共有される。

イーサンの声が、低く響いた。

 

「……フレーム・ランチャーのミサイルの残弾0、ガトリングも半分以下。大型複合ミサイルランチャーも先の攻撃で空か…。」

 

ソウヤは大きく息を吐き、頷く。

 

「はい……弾のほとんど撃ち尽くしました。」

 

イーサンは即座に判断した。

 

「一度、バイアリータークに戻れ。弾薬と推進剤を満タンにしてこい。」

 

ソウヤは一瞬、躊躇した。

通信越しに、虚空の敵影がまだ蠢いているのが見える。

 

「でも……ここでマスケッティアが抜けたら、弾幕の密度が低下します。今、抜けるのは……」

 

その言葉を遮るように、別の声が割り込んできた。

跳ねるような独特のイントネーション、中低音に高揚した掠れが混じた声だ。

 

「その抜けた分を"俺達"が埋めてやろうか?」

 

イーサンは即座に声を荒げた。

 

「ヤザン! お前一人でソウヤの分まで埋められるのか!?無茶を言うな!」

 

ヤザンは一瞬、戸惑ったように息を詰めた。

続いて、掠れた声に少し怒りが混じる。

 

「……隊長!?なんで、いきなり叱るんだよ!俺はただ掃射してるだけだぜ!たくっ……一生懸命やってんのに、そりゃあ、ないですぜ…。」

 

ヤザンのヴァンガードはジャイアント・ガトリングは休むことなく回転させ、敵を掃射し続けていた。

すると突然、3機のダークグリーンのジムがジム・ドミナンスとマスケッティアに接近する。

2機のジムはドミナンスとマスケッティアの目の前を通り過ぎ、手に持った長い銃身のビームライフルを構えて、ヴァンガードの援護射撃を開始。

正確無比な狙撃が、遠距離のジオンのモビルスーツを次々と貫く。

残った一機は、ドミナンスとマスケッティアの前に静かに停止した。

左胸には、撃破数を刻む11個の赤い星と、葉巻を咥えたシュモクザメのエンブレムが描かれていた。ソウヤは、その機体を見て息を呑んだ。RGM-79ジムのエース用改修機——追加装甲、予備ジェネレータ増設、冷却ユニット強化。

総合性能はRX-78ガンダムに匹敵、または超えると言われる『ジム・スナイパーカスタム』。

手に持つのは最新型のL-3ビーム・スナイパー・ライフル。その機体から、通信が入った。

 

「こちら、第7狙撃部隊のテネス・A・ユング少佐だ。オリオン小隊、ウィッチーズ隊——援護に入る。俺のスコープに映ったジオンは、全部俺が狩ってやるよ。楽しませてもらおうじゃねえか。」

 

好戦的な口調、ジオン狩りを楽しむような態度。

その声の響きにソウヤとイーサンは一瞬、驚いた。

ヤザンに似た——掠れた高音の混じった声。

イーサンは冷静に返す。

 

「テネス少佐……援護に感謝する。だが、なぜ俺たちを?」

 

テネスは、笑いを含んだ声で答えた。

 

「簡単だよ。お前らと一緒にいた方が、生存率も上がるし、撃破数も稼げる。それに——ジオン狩りは、仲間とやった方が楽しいだろ?」

 

イーサンはその言葉に、少し不快感を覚えた。

ジオンを「狩る」対象として楽しむ節が、戦場での無常を軽んじているように感じた。

だが、今は選択肢がない。

ソウヤの補給が最優先だ。

 

「……分かりました。援護をお願いします。」

 

テネスは満足げに笑う。

 

「へっ、任せな。俺のスコープに映った瞬間、終わりだ。」

 

ジム・スナイパーカスタムのビーム・スナイパー・ライフルが火を噴き、遠距離のゲルググを一撃で貫く。

援護射撃が、オリオン小隊の弾幕に新たな厚みを加えた。

イーサンはソウヤに指示を出す。

 

「ソウヤ、補給に向かえ。左舷格納庫だ。早く戻ってこい。」

 

ソウヤはマスケッティアを旋回させ、バイアリータークの左舷格納庫へ向かった。

背後で、テネスの狙撃音が響き、ヤザンのガトリングが咆哮を続ける。

 

 

 

 

 

マスケッティアは、バイアリータークの左舷格納庫に向かって静かに降下した。

虚空の闇から、ゆっくりと艦の巨大なシルエットが近づいてくる。

ソウヤはコクピットのホログラム光学着艦装置に集中した。

黄色いミートボール状のマーカーが、ラインアップを示すガイドラインと共に浮かび上がり、機体の姿勢を微調整する。

わずかなロールとピッチを修正し、格納庫の開口部にぴたりと合わせる。

艦の吸引ビームが機体を捉え、ゆっくりと引き寄せた。

 

「着艦……開始。」

 

マスケッティアの脚部が格納庫の床に接触する瞬間、ソウヤはスラスターを微調整。

機体がわずかに跳ねるのを抑え、格納庫の壁や隣接するモビルスーツハンガーにぶつからないよう、丁寧に操縦桿を引いた。

金属の軋む音が響き、機体が滑り込むように格納庫の金属の床に着地する。

固定クランプが四方から伸び、マスケッティアの両肩と腰部をガッチリと拘束した。

コクピットの警報が停止し、着艦完了の緑ランプが点灯する。

 

「ふう…、着艦完了……。」

 

マスケッティアの着艦を確認をした整備班は一斉に動き出した。

整備兵たちが梯子を駆け上がり、機体周囲に群がる。

 

「フレーム・ランチャー弾倉交換始め!」

 

「大型複合ミサイルランチャー、装填開始!」

 

「推進剤ホース接続!」

 

叫び声が飛び交い、工具の金属音と空気圧のシューという音が響き渡る。

フレーム・ランチャーの円柱型ガトリング弾倉が重々しく外され、新しい弾倉がクレーンで吊り上げられて装着される。

大型複合ミサイルランチャーの空になったベイに、次々とミサイルが装填されていく。

整備兵の一人が叫ぶ。

 

「20発、全弾装填完了! 対艦用ロングレンジも、さっさと2発補充しろ!タカバ少尉が待ってるぞ!」

 

推進剤補給ホースが機体の背部に接続され、高圧で推進剤が注入される音が低く響く。

同時に、数名の整備兵がセンサー類と装甲表面を急いでチェック。

 

「左肩装甲に微細亀裂! 補修材で応急処置!」

 

「スコープバインダー、動作正常!問題ありません!」

 

「冷却ユニット、温度異常なし!」

 

彼らの動きは素早く、しかし確実だった。

戦場での一分一秒が命取りになることを、全員が理解している。

ソウヤはコクピット内で、モニター越しに外の戦況を眺めていた。

虚空の闇に散らばる火球、仲間たちの推進炎が点滅する光。

イーサン、ヤザン、ウィッチーズ隊、テネス少佐……皆がまだ戦っている。

自分だけがここで休息を取っていることに、胸がざわついた。

 

「早く……戻らないと。」

 

焦りが込み上げる。

外では仲間が命を削っているのに、自分は安全な格納庫にいる。

だが、整備班の動きはまだ終わらない。

弾薬、推進剤、機体チェック——すべてが完了しなければ、再び戦場に戻れない。

すると、コックピットハッチがゆっくりと開き、整備班のイヤン軍曹がハッチの縁に手をかけ、体を乗り出す。

イヤンは手に持った液体携行食のパックをソウヤに差し出した。

 

「タカバ少尉、これを。急ピッチで補給してるけど、対艦用ミサイルの装填に手間取ってます。これを食べて、少しでもエネルギーを。」

 

ソウヤは液体携行食を受け取り、ヘルメットのバイザーを上げた。

ストローを咥え、甘く濃厚な栄養液をすする。

喉を通る冷たい感触が、わずかに体を落ち着かせた。

イヤンは機体を見上げながら、簡潔に報告する。

 

「機体状況、問題なしです。フレーム・ランチャー弾倉交換完了、大型複合ミサイルランチャーの上部ミサイルベイは全弾装填済み。推進剤も満タンに近づいてます。あと5分で補給完了です。」

 

ソウヤはパックを飲み干し、静かに礼を言った。

 

「……ありがとう、イヤン軍曹。いつも助かります。」

 

イヤンはヘルメットの下で苦笑を浮かべ、首を振った。

 

「礼なんていいですよ、それが私たちの仕事ですから。

タカバ少尉たちがバイアリータークを守ってくれているから、俺たちがこうして整備できるんです。……だから、どうか。」

 

イヤンは一瞬、言葉を詰まらせた。

そして、真剣な目でソウヤを見つめる。

 

「機体は壊れてもいいです、代わりの機体は用意できますから。でも、タカバ少尉の命は……この世界に一つしかないんです。どうか、無事に戻ってきてください。」

 

ソウヤはイヤンの言葉を聞き、静かに尋ねた。

 

「……戦争で、人を殺しておいて。他の誰かの一生に一度しかない命を、奪ってるのに……皮肉ですね…。」

 

イヤンは苦笑しながら、ゆっくりと頷いた。

 

「確かに……私たちは軍人です。人を殺すことで何かを守り、自分たちの正義を示し続ける存在。だけど——私たちだって人です。人であり、命なんです。だから、死なないために抗うことに、善悪はないと思います。その行いが過ちで、積み重ねてしまうことになっても……今、この瞬間、自分が生きるために戦うのは、間違いじゃないと思うです。」

 

ソウヤはイヤンの言葉を、胸に刻んだ。

静かに、しかし力強く頷く。

 

「……ありがとう、イヤン軍曹。その言葉……自分を、勇気づけてくれました。」

 

イヤンは照れくさそうに笑い、肩をすくめた。

 

「どういたしまして。……さあ、行ってらっしゃい、タカバ少尉。帰りを待っております。」

 

その時、整備兵の一人が大声で報告した。

 

「イヤン軍曹! 補給完了です!全弾装填、推進剤満タン、機体チェック異常なし!」

 

イヤンは振り返り、短く応じた。

 

「分かった。……タカバ少尉、発進準備を。」

 

イヤンは梯子を降り、コックピットハッチから離れた。

ソウヤはイヤンが完全に離れたのを確認すると、シートの下から無針注射器タイプの鎮痛剤の箱を取り出した。

ヘルメットとノーマルスーツの首元の繋ぎ目を外し、注射器を首筋に当てる。

プシュッという小さな音と共に、薬剤が注入された。

ソウヤは空になった注射器を片付けると、繋ぎ目を元に戻した。

 

「よし……。」

 

マスケッティアはリニアカタパルトに乗り、発進体勢に入った。

格納庫の照明が赤く点滅し、カタパルトのレールが低く唸りを上げる。

ソウヤは操縦桿を握り、静かに呟いた。

 

「戻るよ……みんな…。ペイルライダー・マスケッティア!ソウヤ・タカバ少尉!発進します!!」

 

リニアカタパルトが作動。

電磁加速の轟音が響き、マスケッティアが一瞬で虚空へ射出された。

推進器が青白い炎を噴き、機体は戦場へ舞い戻る。




最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
オリオン小隊とウィッチーズ隊の戦闘が始まりましたー♪
いやー流石は最終決戦仕様、圧倒的な火力と弾幕ですね(笑)
こんな機体、バトオペ2で使いたいなー(笑)
勿論、400~450コストで!
さて、ここでまさかのキャラクターが登場しました!
ガンダム界隈では、ある意味伝説の人物なので♪
あと、テネスとヤザンは中の人が同じだったので、声優ネタで聞き間違えるシーンを作ってみした(笑)
彼がどんな風にソウヤ達と絡むか、楽しみにしていてください!
ではでは、感想などありましたら、気軽にどうぞー♪

原作登場人物紹介

テネス・A・ユング

原作・機動戦士ガンダム 戦略戦術大図鑑

階級・少佐

所属・第7狙撃部隊

【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?

  • 陸戦型ジム改
  • バイアリーターク
  • ペイルライダー・ヴァンガード
  • ペイルライダー・マスケッティア
  • ヴァルキリー
  • グフ・ノクターン
  1. 目次
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