機動戦士ガンダム オリオンの軌跡   作:浅片名羽馬

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第38話 Nフィールド 地獄の聖域【4】

Nフィールドの戦闘は苛烈な膠着状態に陥っていた。

ジオンの超大型宇宙空母ドロスを基軸とした強硬な防衛線が連邦軍の進撃を頑なに阻み続け、第2艦隊と第4艦隊は苦戦を強いられていた。

ジオン軍の飽和攻撃と補充の速さが連邦側のラインを徐々に押し込み、劣勢を強いられる形勢だ。

バイアリーターク隊は局地的にはオリオン小隊の弾幕とウィッチーズ隊の連携、第7狙撃部隊の援護で優勢を保ち、ジオンの波状攻撃をなんとか凌いでいたが、それでも全体の流れを変えるほどの余裕はなかった。

しかし、Nフィールドで血を流し続けた第2・第4艦隊の執念が、反対側のSフィールドにルザル艦隊の侵入を成功させた。

残存した第1大隊の艦艇に練度の高いモビルスーツ部隊を集中配備し、再編成されたルザル艦隊が防衛網を突破したのだ。

このルザル艦隊には、第13独立部隊のホワイトベース隊も所属しており、ジオンの防衛網に新たな亀裂を生み出そうとしていた。

ドロスを基軸としたジオン軍の鉄壁の防衛線に、連邦軍はまだ押し込まれ、劣勢を強いられている。

 

 

 

 

——だが、潮目は変わるのは突然だった。

 

 

 

 

マスケッティアはシイコのジム・コマンドに護衛されながら、バイアリータークの左舷格納庫へゆっくりと接近した。

虚空に漂う残骸の間を縫うように機体を滑らせ、吸引ビームの淡い光に捉えられる。

ソウヤはコクピット内で大きく息を吐いた。

ヘビアタマ——あの褪紅色の大蛇との死闘は、身体だけでなく精神まで削り取っていた。

額に浮かぶ汗を拭いもせず、ソウヤは操縦桿を握り直し、機体を慎重に旋回させた。

 

「着艦シークエンス……開始。」

 

格納庫の開口部にぴたりと合わせ、姿勢を微調整。

リニアカタパルトのガイドラインがホログラムに浮かび上がり、吸引ビームが機体を優しく引き寄せる。

マスケッティアの脚部が床に接触した瞬間、固定クランプが四方から伸び、両肩と腰部をガッチリと拘束した。

コクピットの警報が停止し、着艦完了の緑ランプが点灯する。

ソウヤはヘルメットのバイザーを上げ、深く息を吐いた。

 

「ふう……生きて帰ってこれた…。」

 

格納庫内はすでに騒然としていた。

整備兵たちが梯子を駆け上がり、クレーンを動かし、工具の金属音が響き渡る。

 

応急修理と弾薬補充が、戦場の一分一秒を惜しむように急ピッチで進められた。

ソウヤは通信パネルを操作し、整備責任者のイヤン軍曹に回線を繋いだ。

イヤンはノーマルスーツのヘルメット越しに、短く息を吐いて応答した。

 

「タカバ少尉!無事で何よりです。……機体状況はどうですか?」

 

ソウヤはすぐにイヤン軍曹に謝罪した。

 

「イヤン軍曹、すいません。フレーム・ランチャーは……自爆させてしまいました。あのヘビアタマの鎌を巻き込むしかなくて……申し訳ありません。」

 

イヤンの声は、静かだが温かかった。

 

「仕方ないことですよ。タカバ少尉が無事に戻ってきた。それが一番です。フレーム・ランチャーは確かにあの一つしかありませんので…………代わりの武器をどうしますか? メガ・ビーム・シューターを装備させることもできますが……」

 

ソウヤは一瞬、目を閉じて考えを巡らせた。

ヘビアタマの厚い装甲が脳裏に蘇る。

放った散弾が、ただ火花を散らして弾かれた無力感が、まだ胸に残っていた。

 

「……メガ・ビーム・シューターは賛成です。対艦用ビーム兵器なら、ムサイ級やモビルアーマーの装甲にも通用するはず。でも、それだけじゃ足りないと思うんです。」

 

イヤンがわずかに息を飲む気配が伝わってきた。

 

「もう少し、詳しく聞かせてください。」

 

ソウヤはゆっくりと息を吐き、言葉を続けた。

 

「先ほどのモビルアーマーとの戦闘で、アサルト・キャノンの散弾はほとんど効きませんでした。弾かれるだけ。これからの敵は、もっと堅い装甲の機体や艦が増えるはずです。威力と貫通力が高く、しかも継戦能力が高い武器が欲しいんです。……ハイパー・ビームライフルを持って行きたいのですが?」

 

イヤンは短く息を吐き、すぐに返した。

声に、感心したような響きが混じっていた。

 

「……なるほど。少尉はこれから先の戦局を読んでいるんですね。ハイパー・ビームライフルは確かに、射程・威力・弾数のバランスが良いです。了解しました。では、右側のアサルト・キャノンを外して、ハイパー・ビームライフルを懸架するためのサブアームを装着するプランでいきましょう。メガ・ビーム・シューターをメインに、サブアームでハイパー・ビームライフルを携行。これなら、近距離から遠距離まで柔軟に対応できます。」

 

ソウヤの目が、わずかに輝いた。

 

「……そのプランでいきましょう。ありがとうございます、イヤン軍曹。」

 

イヤンは即座に格納庫全体へ声を張り上げた。

 

「第2整備班! マスケッティアの再武装開始!メガ・ビーム・シューターを装備させます!バックパック右側のアサルト・キャノンは撤去し、サブアームを取り付け!

ハイパー・ビームライフルは取り付けたサブアームに!

左腕にシールドも追加! 急いで!」

 

整備兵たちが一斉に動き出した。

クレーンが重いサブジェネレータユニットを吊り上げ、マスケッティアの右腰に固定。

右手のマニュピュレータがメガ・ビーム・シューターを握り、太いエネルギーケーブルをサブジェネレータに接続する音が響く。

バックパック右側のアサルト・キャノンが外され、代わりに伸縮式のサブアームが取り付けられた。

その先端にハイパー・ビームライフルがしっかりと懸架され、ロック音が鳴る。

大型複合ミサイルランチャーの上部ベイに、次々とミサイルが装填され、先端の発射口に対艦用ロングレンジミサイルが新たに1発足される。

コンテナから予備のビームサーベルが取り出され、慎重に左腰の専用ホルダーに嵌め込む。

左腕には新品のシールドが取り付けられ、装甲板がカチリと嵌まった。

ソウヤはコクピット内で、モニター越しにその光景を見守っていた。

傷だらけの機体が次第に新たな牙を備えていく。

 

「……これで、もう一度、みんなと戦える。」

 

胸の奥で、静かな決意が固まっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

バイアリータークの艦橋は戦闘開始から5時間を超えた今も、静かな緊張に満ちていた。

メインスクリーンの戦況表示は赤と黄色の警告点で埋め尽くされ、Nフィールドの虚空に散らばる火球の数だけが過ぎ去った時間の残酷さを物語っていた。

ハーツクライ艦長は艦長席に深く腰を沈め、頬杖をついたまま、スクリーンをじっと見据えていた。

その瞳は、まるで最終コーナーで逆転の兆しを待つ競馬の観客のように、静かで、しかし激しく燃えていた。

ナタリア・アルスター少尉がヘッドセットを耳に当て、CICからの報告を淡々と読み上げた。

声は冷静だったが、わずかに震えが混じっていた。

 

「艦長……第2・第4艦隊のラインが、再び押し込まれ始めています。ジオンのMS補充が速く、ドロスからの出撃波が途切れません。バイアリーターク隊は局地的に持ちこたえていますが……全体として劣勢です。」

 

彼女は一瞬息を詰め、次の報告を続けた。

 

「さらに……バイアリータークの連装機関砲、残弾率30パーセント。ミサイルランチャーも同様、残弾率30パーセントを割り込みました。船体ダメージも累積で10パーセントに達しています。このままでは、戦闘持続が困難です。……後退を進言します。」

 

艦橋内の空気が、一瞬、重く沈んだ。

オペレーターたちの視線が、艦長席に集中する。

タケシ・トヨタ上等兵は操舵桿を握る手に力を入れ、額に汗を浮かべながらも、じっとハーツクライの次の言葉を待った。

ハーツクライはゆっくりと頬杖を外し、艦長席から身を起こした。

彼の声は静かだったが、確固とした響きを帯びていた。

 

「……後退は、できない。」

 

ナタリアがわずかに目を丸くした。

 

「艦長……?」

 

ハーツクライはメインスクリーンに視線を戻し、ゆっくりと言葉を続けた。

 

「今、バイアリータークが後退すれば……ドロスはさらに前進する。あの超大型空母がさらに進出すれば、オリオン小隊、ウィッチーズ隊、第7狙撃部隊が懸命に維持してきた戦線が、一気に喰い破られる。彼らはまだ前線で弾幕を張り続けている。我々が後退すれば、彼らの犠牲になる。他の部隊も敵の波に飲み込まれて、この戦域全ての連邦軍が瓦解するかもしれない。」

 

艦長の目は、懸命に戦い続けるパイロット達が操るモビルスーツの機影を捉えていた。

わずかに口元が緩む。

 

「この馬は、まだ最終コーナーにすら、辿り着いていない。最終コーナーで、逃げ馬が止まれば……本命の逆転は永遠に訪れない。我々はここで粘る、絶対に下がらない。」

 

 

ナタリアは拳を握りしめ、わずかに唇を噛んだ。

彼女も理解していた。

この艦隊の生命線は、オリオン小隊の弾幕であり、バイアリータークの存在そのものだった。

後退は、確かに生存率を上げる選択だが……それは同時に、戦友たちの死を意味する。

 

「……了解しました、艦長。」

 

ナタリアは深く息を吐き、ヘッドセットに手を当てた。

 

「対空班に通達!機関砲、ミサイルランチャー、残弾優先射撃に切り替え!応急工作分隊は、船体ダメージコントロールを最大限に!」

 

艦橋の乗員たちが、一斉に動き出した。

ハーツクライは再び頬杖をつき、静かに呟いた。

 

「そうだな。馬は、ゴールを見据えてこそ走る。最後の最後まで、レースの結果なんて、分からないものさ。なぁ?バイアリーターク。」

 

メインスクリーンに映るジオンの防衛線は、まだ鉄壁のように見えた。

ドロスを中心とした砲火が連邦軍を押し込み、MS隊の波が途切れなく押し寄せる。

ハーツクライ艦長は頬杖をついたまま、スクリーンを睨みつけていた。

だが突然、ジオンの艦砲射撃が、一瞬だけ途切れた。

黄色いビームの雨が、ぴたりと止まる。

 

「途切れた?ビームが?」

 

ハーツクライの目が細くなる。

さらに、スクリーンに映るジオンのモビルスーツの何機かが、奇妙な素振りを見せた。

ザクIIの一機が後ろを振り向き、ゲルググが一瞬動きを止めて動揺したように見える。

リック・ドムのスラスターの光が乱れ、隊列がわずかに崩れる。

ナタリア・アルスター少尉が、ヘッドセットを押し当て、声を上げた。

 

「艦長!ドロスが!進出しようとしたドロスが、急停止しました!敵のMS隊……連携が乱れ始めています。何機かが、要塞の方を振り返っています!」

 

ナタリアの報告が続き、艦橋内の空気が変わる。

ハーツクライはゆっくりと頬杖を外し、静かに呟いた。

 

「……ジオンに、何かが起きたな。」

 

彼の勘が、異変を察知していた。

敵の動きに生じた一瞬の隙は、紛れもなく「突然の変化」だった。

バイアリータークの艦橋に、静かな決意が満ちた。

ハーツクライ艦長はゆっくりと艦長席から立ち上がり、メインスクリーンに視線を固定した。

彼の瞳は、最終コーナーで逆転の兆しを捉えた観客のように、鋭く輝いていた。

 

「全艦橋、聞け。」

 

艦長の声が、静かに、しかし力強く響く。

乗員たちの動きが一瞬止まり、視線が艦長に集中した。

 

「周辺の残存艦艇およびモビルスーツに、大至急レーザー通信で通達せよ。バイアリータークがジャミングフィールドを展開後、ドロス撃破のために進出する!展開後は、すべての通信をジャミングフィールド内で封鎖するため、発光信号によるやり取りに切り替える。了解の意は発光信号で返せ。——今が、逆転の唯一の瞬間だ!!この一瞬を逃せば、二度と逆転の機会は来ない!」

 

艦橋内の空気が、針の先で刺すように張り詰めた。

誰も言葉を発さない。

ただ、息遣いだけが微かに聞こえる。

ナタリア・アルスター少尉が即座に頷き、ヘッドセットに手を当てた。

 

「了解しました、艦長。トラファルガ級トライアンフに通達の支援を依頼してみます!」

 

彼女の指が通信パネルを高速で叩き、バイアリータークの横に並ぶトラファルガ級トライアンフへレーザー通信を繋いだ。

同時に、他の通信兵たちが周辺のサラミス級、マゼラン級へレーザー通信を一斉に飛ばした。

艦橋は、短い確認の声とキーボードの打鍵音だけが響く。

数秒の静寂の後、スクリーンに発光信号の点滅が次々と現れた。

サラミス級の一隻が、三回短く点滅——「了解」。

マゼラン級が長短の組み合わせで応答。

トラファルガ級トライアンフからも、明確で力強いパターンが返ってくる。

ナタリアが息を整えて報告した。

 

「艦長、全艦から発光信号で了解の返答を確認しました。トラファルガ級トライアンフも、ドロス撃破に協力するとのことです。」

 

ハーツクライは小さく頷き、静かに命令を下した。

 

「……よし。ジャミングフィールド、展開せよ!」

 

艦橋のオペレーターがスイッチを押し、バイアリータークの両舷から特殊粒子が噴出された。

ミノフスキー粒子を高密度に凝縮したジャミングフィールドが、艦を中心に球状に広がっていく。

通信波を乱反射・拡散させ、ジオンの無線を一瞬で封鎖する。

レーダーはノイズの海に沈み、敵の通信は完全に途絶える。

メインスクリーンに映るジオンのMS隊が、わずかに混乱した動きを見せた。

ザクIIが一瞬旋回を止め、ゲルググが隊列から外れかける。

ハーツクライはメインスクリーンに映るドロスの巨大なシルエットを睨みつけた。

巨大なドロスのシルエットが、進出を諦めたように静止する。

周辺のムサイ級が慌てて位置を調整しようとするが、命令の遅れが目に見えて現れていた。

 

「これで、敵の混乱はさらに深まったな。」

 

艦長の声は、静かだが確信に満ちていた。

 

「ジャミングフィールド内で、敵は互いの位置すら正確に把握できなくなる。この隙に、一気にドロスを撃沈する。——全艦!全モビルスーツ!ドロスへ突入態勢に入れ!!」

 

ナタリアが拳を握り、応じた。

 

「了解! 全艦、ドロス指向に針路変更!」

 

艦橋の乗員たちが、一斉に動き出した。

バイアリータークのエンジンが低く唸りを上げ、船体がわずかに振動する。

ハーツクライは両手をコンソールに叩きつけ、声を張り上げた。

 

「差せぇぇーーーーー!!」

 

その叫びが、艦橋全体に轟いた。

静寂を切り裂くような、熱く、荒々しい号令。

乗員たちの胸に、溜めていた緊張と決意が一気に爆発する。

タケシ・トヨタ上等兵が操舵桿を強く握り、ナタリアが拳を握りしめ、他のオペレーターたちが声を上げた。

 

「全艦、突入開始!」

 

バイアリータークの推進器が最大出力で噴射し、ジャミングフィールドを纏って前進する。

 

潮目は、変わるのは突然だった——

 

そして、その波は、今、ドロスを飲み込もうとしていた。

 

 

 

 

 

 

ヤザン・ゲーブルのペイルライダー・ヴァンガードが、ジャイアント・ガトリングの回転砲身を高速で回しながら虚空を切り裂いた。90mm弾の奔流が一直線に伸び、ジオンのモビルスーツ群を薙ぎ払う。

ザクIIの薄い装甲が次々と撃ち抜かれ、モノアイが砕け散り、次々と火球が咲く。

リック・ドムが重装甲を盾に耐えようとするが、弾幕の密度に耐えきれず、推進器が破壊されて回転しながら虚空へ投げ出された。

ヤザンはコクピット内で甲高く笑った。

 

「はははははっ! ようやく、攻められるぜぇぇ!!」

 

さっきまでは守りの弾幕を張り続けるしかなかった。

だが今、バイアリータークを先頭に連邦軍が一気に進出してきた。

不意を突かれたジオンのMS隊は、統制を失い、次々とジャイアント・ガトリングの餌食になっていく。

ヤザンの笑い声が通信に響き、獲物を見つけた獣のような喜びが溢れていた。

イーサンのジム・ドミナンスが、ガトリング・スマッシャーを回転させながら援護射撃を加える。

討ち漏らしたザクIIのコクピットを正確に貫き、火球を追加した。

テネス・A・ユング少佐率いる第7狙撃部隊のジム・スナイパーカスタムが、ビーム・スナイパー・ライフルを構え、遠距離からゲルググの頭部を次々と撃ち抜く。

 

「へっ……ようやく狩りが始まったな。」

 

テネスの掠れた声が楽しげに通信に混じる。

守りの態勢に飽き飽きしていた彼のスコープが、獲物を次々と捉えていく。

ウィッチーズ隊のジム・コマンド三機が、接近を許した敵を迎え撃つ。

シイコが敵を翻弄し、ボカタとライラのハイパー・バズーカが至近距離で爆破する。

イーサンが冷静に通信を入れる。

 

「ヤザン、テネス少佐、あまり調子に乗らない方がいい。この進行が失敗すれば、後がない。ドロスを仕留められなければ、全てが無駄になるぞ。」

 

ヤザンは笑いながら応じた。

 

「分かってるよ、隊長!だからこそ、楽しくやってんだろ?」

 

その瞬間、先陣を切るヤザン達の進行方向に、ムサイ級巡洋艦が横から割り込んできた。

艦首のメガ粒子砲が黄色く光り、連邦MSに向けられる。

ヤザンがジャイアント・ガトリングを向けようとした。

 

——その刹那。

 

虚空を切り裂く巨大な赤い閃光が、ムサイ級の艦橋を直撃した。

艦橋がどろどろに溶け、装甲が内側から爆ぜる。

ムサイ級は巨大な火柱を上げ、ゆっくりと二つに裂けながら沈黙した。

イーサンが即座に後方を振り返った。

そこに、メガ・ビーム・シューターを右手に構えたペイルライダー・マスケッティアが、青白い推進光を噴きながら合流してくる。

スコープバインダーが降り、高倍率カメラが敵を捉えていた。

さっきの巨大ビームは、メガ・ビーム・シューターのビームだった。

通信にシイコの声が飛び込んできた。

喜びと安堵が混じり、わずかに震えている。

 

「タカバ少尉!……来てくれたのね! よかった……本当に、よかった……!」

 

イーサンの声が、静かに、しかし力強く響く。

 

「ソウヤ、戻ってきたか。……心強いぞ。」

 

ヤザンが、いつもの獣のような笑みを浮かべて通信を割り込んだ。

 

「おいおい、待ちくたびれたぜ、ソウヤ!遅ぇよ! だが……先の一撃、最高じゃねぇか!」

 

ソウヤはコクピット内で小さく息を吐き、操縦桿を握り直した。

 

「……みんな、ごめん。遅くなったけど……なんとか間に合ったみたいだ。」

 

マスケッティアのメガ・ビーム・シューターが、再び赤く光を帯びた。

 

ドロスの巨大なシルエットが、虚空の彼方に迫ってくる。

オリオン小隊が先陣を切って前進する中、突然、9機のジムが横から追い越すように飛び出してきた。

RGM-79ジム——連邦軍の量産機が推進器を最大出力で噴射しながら、ドロスに向かって一直線に突っ込んでいく。

コクピットから、興奮したパイロットたちの声が通信に飛び交った。

 

「今だ! 俺たちがドロスを仕留めて、手柄を掴むぞ!」

 

「オリオン小隊なんかに先越されるかよ! 俺達が一番乗りだ!」

 

ヤザンのヴァンガードが、ジャイアント・ガトリングを回しながら急停止した。

 

「なんだあいつら!? 手柄を横取りしに来やがったか!?ふざけんなよぉぉ!!」

 

イーサンのジム・ドミナンスが、即座に通信を入れた。

 

「突出するな! 迂闊に前に出るんじゃない!ジャミングフィールド内で連携が崩れれば、まとめてやられるぞ!」

 

だが、ジムのパイロットたちはイーサンの忠告を無視した。

興奮に駆られた9機は、隊列を乱しながらドロスへ向けて加速し続ける。

 

——その瞬間。

 

虚空を埋め尽くす弾幕の雨が、突出したジムたちを襲った。

放たれた弾幕の雨が、一瞬で4機のジムを飲み込んだ。

装甲が削られ、推進器が爆発し、コクピットが火球に変わる。

 

「うわあああああ!! なんだこの弾幕!?」

 

「助けてくれぇぇ! 隊長、援護を——ぎゃあああ!!」

 

断末魔の叫びが通信に響き、4機のジムが次々と虚空に散った。

残りの5機は、急な弾幕に驚愕し、バラバラに逃げようとした。

だが、遅かった。

ジオンのゲルググが、遠距離からビーム・ライフルとビーム・キャノンを撃つ。

赤い光線が虚空を切り裂き、逃げ惑うジム3機を正確に貫いた。

 

「逃げられない! くそっ、逃げ——うわあああ!!」

 

「こんな……こんなところで……あぁぁぁ!!」

 

3機のジムが火球と化し、残骸がゆっくり回転しながら漂う。

残りの2機は、なんとか回避しようと急旋回した。

しかし——突然、青い影が横から割り込んだ。

ゲルググのビーム・ソードが2機のジムを一瞬で斬り刻んだ。

装甲が悲鳴を上げ、胴体が真っ二つに裂け、コクピットが爆散する。

イーサン達は即座に急停止し、突出したジムたちを撃破した相手を凝視した。

そこに、3機のゲルググが浮かんでいた。

濃淡グリーンのスプリッター迷彩が施されたゲルググ・キャノンタイプ——背中に巨大なバックパックを背負った灰色のゲルググ。

そして、騎槍のようなビームソードを2本繋げたような近接武器を持った青いゲルググ。

3機の左肩に、共通のエンブレムが描かれていた。

三つ首の竜の禍々しい紋章。

イーサンが息を飲んだ。

 

「……キマイラ隊か。」

 

テネス・A・ユング少佐の声が、通信に掠れた笑みを乗せて響く。

 

「へっ……キシリア・ザビ直属のエース部隊か、大物が出てきたな。」

 

ボカタ大尉が、ため息混じりに呟いた。

 

「……最悪だ。こんなところで、キマイラ隊に当たるなんて……。」

 

虚空に、ジオンの3機のゲルググが静かに構えていた。

 

 

 

 

 

灰色のゲルググ——巨大なバックパックのような物を背負った機体から、通信が響いた。

ハインケル・バッツ中尉の声だ。

 

「へっ……活きのいい獲物が揃ってるじゃねぇか。ジムのカスタム機に見たことがない新型。選り取り見取りじゃないか。」

 

青いゲルググのパイロット、マッキ・ヴィスコンティ大尉が、優雅に笑みを浮かべて応じた。

声は甘く、どこかナルシストの響きを帯びている。

 

「ふん……なかなか斬りごたえがありそうな敵が多そうだ。どうやって、斬り刻んであげましょうか。」

 

 

濃淡グリーンのゲルググ・キャノンタイプ——トーマス・クルツ中尉の機体から、苛立ったように舌打ちした。

 

「おいおい、マッキ。そんな優雅なこと言ってる場合かよ。サカイがいねぇから、今日はお前が隊長代理だろ?さっさと指示出せよ、俺はもう我慢できねぇんだよ。」

 

マッキは軽く肩をすくめ、青い機体をわずかに傾けた。

 

「クルツ中尉はせっかちですね。ですが……確かに、隊長代理として、品定めは済みました。この連中……なかなか、いい獲物になりそうです。」

 

三機のゲルググは、ゆっくりと機首を下げ、オリオン小隊を見下ろすように構えた。

まるで、狩りの前に獲物の価値を測る獣のように。

ヤザンはコクピット内で、獣のような笑みがゆっくりと広がった。

 

「キマイラ? へぇー、"幻獣"か。上物じゃあねぇか……喰いごたえがありそうだぜ!」

 

通信に響くヤザンの声は、嬉々として震えていた。

獲物を見つけた肉食獣が、牙を剥き出しにするように喜ぶ。

イーサンは即座にヤザンの通信に割り込んだ。

 

 

「ヤザン、楽しむのはいいが、今はそんな余裕はないぞ。——全機、聞け。ウィッチーズ隊、ヤザンと自分でキマイラ隊の足止めをする。ソウヤは第7狙撃部隊に護衛してもらい、ドロスの撃破に専念しろ。ここでキマイラ隊を突破しなければ、全てが無意味になる。」

 

ソウヤのマスケッティアが、わずかに機体を揺らした。

スコープバインダーが降りたまま、メガ・ビーム・シューターを構えながら、通信に声を入れる。

 

 

「……隊長。相手は、あのキマイラ隊です。自分も一緒に戦わせてください。一緒に戦えば、勝率と生存率が上がるはずです。」

 

ソウヤの声には、仲間思う純粋な願いが込められていた。

一人でドロスを狙うより、皆でキマイラ隊を倒した方が一緒に帰艦することが出来ると。

しかし、イーサンは即座に力強く叱咤した。

 

 

「ソウヤ、甘たっれるな!今は感情で動く時じゃない。お前のマスケッティアの装備を忘れたのか?メガ・ビーム・シューター、大型複合ミサイルランチャーの対艦用ミサイル……対艦用武装が最も充実しているのは、お前しかいない。ドロスを撃破できる可能性が高いのは、マスケッティアだけなんだ!ここでお前がキマイラ隊に足止めされたら、ドロスを撃破するチャンスを失うんだぞ!」

 

通信に、わずかな沈黙が落ちた。

ソウヤは操縦桿を強く握りしめ、唇を噛んだ。

イーサンの言葉が、胸に突き刺さる。

 

「……了解しました、隊長。……ドロスの撃破に……専念します。」

 

テネス・A・ユング少佐の声が、通信に掠れた笑みを乗せて入った。

 

「へっ……俺たち狙撃部隊も、モビルスーツ同士のドッグファイトより護衛の方が向いてる。オルグレン少佐の作戦でいいぜ。タカバ少尉、お前の背中は俺たちが守る。ドロスに、思いっきりぶち込みに行こうぜ。」

 

イーサンが短く頷き、指示を続けた。

 

「ウィッチーズ隊は私達と共にキマイラ隊の足止めを。テネス少佐、ソウヤの護衛をお願いいたします。——全機!行動開始!」

 

ヤザンが、獣のような笑みを浮かべてガトリングを最大回転させた。

 

「待ってたぜぇぇ!!"幻獣"ども!俺が全部、喰らい尽くしてやるからよぉぉ!!」

 

マスケッティアの推進器が青白く噴射し、第7狙撃部隊のジム・スナイパーカスタム三機がソウヤの周囲を固める。

一方、ウィッチーズ隊とヤザンのヴァンガード、イーサンのドミナンスが、キマイラ隊に向かって突進を開始した。

オリオンの二ツ星と虚空を舞う魔女達が、"幻獣"に挑む。

今、一年戦争を駆け抜けたエース同士の最大の激突が、始まろうとしていた。

虚空に、推進炎と火線が交錯する。

ドロスの巨大なシルエットが、遠くに迫る中、

紺色の銃士は、最後の直線へ突き進んだ。




最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。
ドロス撃破のためにバイアリーターク隊が動き出しました!
ドロスの撃破て、明確にどのように撃破したかを描かれていなかったので、自分の独自解釈+自分の妄想で描いてみました!
だけど、ドロスを撃破させないためにキマイラ隊を出してみました!
いやー、「ジョニー・ライデンの帰還」が好きなので、ヤザンには"幻獣"と言ってもらいたかったですね。
ではでは、次の話も楽しみにしていてください♪


原作キャラクター紹介

トーマス・クルツ
原作 MSV

マッキ・ヴィスコンティ
原作 虹霓のシン・マツナガ

ハインケル・バッツ
原作 虹霓のシン・マツナガ

【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?

  • 陸戦型ジム改
  • バイアリーターク
  • ペイルライダー・ヴァンガード
  • ペイルライダー・マスケッティア
  • ヴァルキリー
  • グフ・ノクターン
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