機動戦士ガンダム オリオンの軌跡   作:浅片名羽馬

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※注意・この話では、原作キャラが死亡します。



第40話 ヴァルキリー・レクイエム【1】

ソウヤは、虚空に浮かぶ巨大な鉄の亡骸を、ただ静かに見つめていた。

かつてジオンが誇った超大型宇宙空母ドロス。

Nフィールドの守りの要として、無数の砲門を剥き出しにし、連邦の波を何度も押し返した巨鯨。

その巨体は今、ゆっくりと漂いながら、火柱と煙を吐き続けていた。

厚い装甲は内側から引き裂かれ、溶けた鉄の塊が星屑のように散らばりながら遠ざかっていく。

無音の宇宙に、ただ静かに、巨大な墓標が横たわっていた。

ソウヤはゆっくりと視線を自機に戻した。

マスケッティアのコクピット内は、警告音と赤いランプの明滅で埋め尽くされている。

大型複合ミサイルランチャーは空っぽ。

上部ベイのハッチは開いたまま、残弾ゼロの表示が冷たく点滅していた。

右手で構えていたメガ・ビーム・シューターは、もはや銃という形を保てていない。

過負荷で臨界を超えた銃身は、溶けた飴のようにぐにゃりと曲がり、赤熱した金属が滴り落ち、虚空で固まりながら漂っていた。

銃口は完全に崩れ、内部のエネルギー導管が剥き出しになり、時折小さな火花を散らしている。

 

「……もう、使えないか。ありがとう…。」

 

ソウヤは小さく溜め息を吐くと、操縦桿を軽く叩いた。

マスケッティアは溶解したメガ・ビーム・シューターを手放し、大型複合ミサイルランチャーを切り離した。

右バックパックに搭載されたサブアームが、低く唸りを上げて起動する。

補助腕がゆっくりと動作し、懸架していたハイパー・ビームライフルを右手に持たせようと動き出す。

サブアームはライフルをマスケッティアの右手に滑らせるように渡し、指を絡めてしっかりと固定する。

グリップが掌に収まり、照準システムが即座にリンク。

赤い照準円がコクピット内に投影され、静かに点滅した。

ハイパー・ビームライフルを構え直したマスケッティアは、再び宇宙に身を沈め、ゆっくりと前を見据える。

ドロスが沈んだ瞬間、Nフィールドの防衛線は崩壊した。

ジオンの守りの要が失われたことで、連邦の波は一気に加速する。

無数のボールが、ジムが、サラミス級が、

まるで飢えた獣の群れのように我先にとア・バオア・クー本拠に向かって殺到していく。

推進器の青白い炎が無数に瞬き、ビームの軌跡が虚空を切り裂き、爆発の火球が次々と咲いては消える。

静寂だった戦場は、今、勝利の喧騒に飲み込まれようとしていた。

 

「やったじゃねえか相棒、流石だぜ。」

 

通信機から、ヤザンの声が響いた。

 

彼のペイルライダー・ヴァンガードが、ゆっくりとマスケッティアの横に並んだ。

推進器の青白い残光が、互いの機体を淡く照らす。

 

ヤザンは戦いの余韻を楽しみながら、しかしどこか満足げにソウヤを見つめている。

ソウヤは小さく首を振った。

 

「……止めを刺したのは、テネス少佐だよ。」

 

 

ソウヤの視線は、遠くに浮かぶジム・スナイパーカスタムのシルエットに向けられた。

L-3ビーム・スナイパー・ライフルを構えたまま、静かにドロスの残骸を見下ろすテネス・A・ユング少佐。

その機体は、傷だらけだったが、なおも凛とした姿勢を崩さない。

通信に、テネスの落ち着いた声が返ってきた。

 

「いや、タカバ少尉。君が、ドロスの装甲に亀裂を入れてくれたからこそ、俺の一撃が届いた。……ありがとうよ。」

 

短い言葉に、深い感謝が込められていた。

 

その時、虚空に新たな推進光がいくつも瞬いた。

イーサンのジム・ドミナンスが先頭に立ち、

ウィッチーズのジム・コマンド3機——ボカタ、シイコ、ライラの機体が並んで接近してくる。

4機とも、キマイラ隊との激戦の傷を負いながら、

しかし勝利の昂揚を隠しきれずにいた。

 

「ソウヤ!無事か!」

 

イーサンの声が通信に飛び、続いてライラの荒い息遣いが聞こえる。

 

「ドロス……本当に沈んだんだな……。」

 

そして、最後に——バイアリータークの船体が、ゆっくりと群れの背後から現れた。

 

ハーツクライ艦長の落ち着いた声が流れた。

 

「よくやった。これで、Nフィールドは我々のものだ。」

 

虚空に漂うドロスの残骸を背に、オリオン小隊、ウィッチーズ隊、第7狙撃部隊、バイアリータークが、ようやく肩を並べた。

イーサンは通信パネルに指を滑らせ、秘匿回線を選択。

画面に暗号化された表示が瞬き、バイアリータークの艦橋へと繋がる。

 

「ハーツクライ艦長、こちらオリオン1。本来の任務を遂行します。ア・バオア・クー内部への侵入を試みます。」

 

艦長の声が静かに返ってきた。

落ち着いた、しかし疲労の滲む響き。

 

「了解した、オルグレン少佐。……バイアリータークの弾薬残量はもう、残りわずかだ。ウィッチーズ隊に護衛してもらい、後続の部隊のためにこの現宙域を確保する。あとの事は任せたぞ。」

 

「感謝します。必ず成功させます。」

 

秘匿回線を切り、イーサンは今度はソウヤとヤザン専用の暗号チャンネルを開いた。

短く、しかし確かな声で通達する。

 

「ソウヤ、ヤザン。本来の任務だ。ア・バオア・クー内部への侵入を行う。着岸後、鎮圧部隊として行動開始。準備はいいな?」

 

ヤザンの獣のような笑いが、通信に響いた。

 

「へっ、上等だぜ。ソウヤと一緒なら、どんな地獄だって楽しめるさ。」

 

ソウヤの声は静かだったが、迷いはなかった。

 

「……了解しました、オルグレン少佐。覚悟は出来ています。」

 

イーサンは通常回線に切り替え、全員に聞こえるように宣言した。

 

「こちらオリオン小隊。我々はア・バオア・クー内部の鎮圧のため、着岸するために先行する。」

 

ハーツクライ艦長の声が、穏やかに応じた。

 

「了解した。……オリオン小隊の無事を祈っている。軍馬の加護があらんことを。これまでの航海、本当にありがとう。」

 

通信が一瞬途切れ、ウィッチーズ隊の面々が即座に反応した。

ボカタの静かな声が、穏やかながらも揺るぎない決意を込めて流れた。

 

「バイアリータークの護衛は、私たちにお任せください。皆さんが帰る場所……必ず守ります。」

 

続いて、ライラの決意のこもった声が、通信に静かに、しかし力強く響いた。

 

「必ず……守ります。オリオン小隊が無事に帰ってくるまで、この場所を離れません。だから……どうか、ご無事に…。」

 

そして、最後に——シイコのどこか切なげな声が、静かに響いた。

 

「タカバ少尉……どうか、無事に。無事に帰って来てくださいね。私、待ってますから…。」

 

ソウヤは、通信機に視線を落とした。

シイコの切なげな声が、まだ耳に残っている。彼は静かに、しかしはっきりと応じた。

 

「ええ、必ずバイアリータークに戻りますよ。……待っててください、カタギリ中尉。」

 

短い言葉に、ソウヤの決意が込められていた。

通信の向こうで、シイコの息が一瞬止まったような間があって、小さな、しかし温かい声が返ってきた。

 

「……はい、待ってますね。」

 

その瞬間、テネス・A・ユング少佐の声が割り込んだ。

 

「俺たちも一緒に行せてもらうぜ。あんた達と一緒に行った方が着岸する確率が上がるからな。」

 

 

ジム・ドミナンス、マスケッティア、ヴァンガード、そしてジム・スナイパーカスタム3機がア・バオア・クーの巨大なシルエットへ向きを変える。

 

スラスターが青白く噴射し、推進光が漆黒の宇宙を切り裂いた。

6機の機体は、まるで一本の矢のように連なり、要塞の無数のスペース・ゲートと砲門が蠢く暗闇へ向けて加速した。

背後では、バイアリータークの巨体が静かに浮かび、ウィッチーズ隊のジム・コマンド三機が、その周囲を固めるように展開していた。

バイアリータークの艦橋から、ハーツクライ艦長は最後に小さく呟いた。

 

「……行け、オリオン小隊。無事に戻ってこい。」

 

推進光が遠ざかり、虚空に青白い軌跡を残して消えていく。

残された者たちは、静かにその背中を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

【ア・バオア・クー下部モビルスーツ開発工廠・モビルスーツテスト管制室】

 

銀灰色の髪をした白衣を着た男が、管制卓の前に立っていた。

男の周りには、無重力の空間で浮いた、散らばった書類やタブレット端末がゆっくりと漂い、男の指先がキーボードを叩くたびに、わずかな振動で周囲の紙片が揺れる。

男は眼鏡の奥の瞳を細め、モニターに映る無数の数値とグラフを睨みながら、独り言のように呟き続けた。

 

「……ジェネレーター稼働率、98.7パーセント。安定圏内。維持装置、正常に稼働中。アポジーモーターの動作、左右差0.02秒以内……良好。電気信号伝達率、遅延0.004ミリ秒。許容値内。専用制御システム、フィードバックループ正常。コア・ユニットと各駆動系の連携……シンクロ率97.4パーセント。まだ、0.6ポイント足りないか……。」

 

彼の指がさらに高速でキーを叩く。

画面に新たなグラフが展開され、赤い警告ラインが一瞬だけ点滅した。

男は小さく舌打ちし、隣のコンソールに手を伸ばして微調整を加える。

管制室の大きな強化ガラス窓の外は真っ白な空間が広がっていた。

広さはおよそ4.7ヘクタール。

高さはモビルスーツ二体分を優に超え、天井まで白く塗装された壁と床が無機質に続いている。

照明の光が均一に反射し、まるで無限に広がる白い伽藍堂のように見えた。

その中央に、巨大なロボットアームに固定され、今まさに起動シークエンスの最終段階を迎えようとしている機体のシルエットがあった。

男はモニターから視線を外さず、息を吐いた。

 

「……もう少しだ。私の作品が完成するまで、あと少しだ……。」

 

管制室の空気は静かだった。

ただ、キーボードの打鍵音と、遠くから響く駆動系の低いうなりだけが、白い空間に微かに響き続けていた。

管制室に、突然、荒い息遣いの声が響いた。

 

「ジル! ジルはいるか!?」

 

タイピングを続けていた男——ジル・ペローの手が、ピタリと止まった。

彼は慌てて振り返り、声のした方向を見やる。

無重力の空間で、書類の群れがゆっくりと漂う中、

やや小太りで色黒なユダヤ系の中年男性が必死の形相で駆け寄ってくるのが見えた。

男はジルの両肩を鷲掴みにし、顔を近づけた。

ジルは一瞬息を呑み、信じられない思いで相手の名前を口にした。

 

「……フラナガン博士!? なぜ、ここに!?」

 

狡猾で小心者として知られる博士が、こんな最前線の開発工廠に現れるなど、ジルには想像もつかなかった。

フラナガン博士の額には汗が浮かび、普段の冷静さはどこにもない。

彼は息を切らしながら、しかし必死に言葉を絞り出した。

 

「キシリア様のザンジバル級に乗せてもらったんだ。……お前を、連れ戻しに来たんだ!」

 

ジルは目を丸くした。

その言葉が、まるで冗談のように聞こえた。

 

「……連れ戻す? 博士、何を……」

 

フラナガン博士は鷲掴みにしていた両手をゆっくりと離し、今度はジルの右手を優しく両手で包み込んだ。

その手は震えていた。

 

「ギレンは……キシリア様に誅殺された。連邦軍はもうすぐそこまで迫っている。他のスタッフたちは、ほとんど逃げてしまっただろ?お前しか、残っていない。……だから…、迎えに来たんだ……。」

 

ジルの顔から血の気が引いた。

 

「…ギレンが……死んだ?」

 

ギレン・ザビの死。

連邦の接近。

スタッフの逃亡。

すべてが現実離れした悪夢のように感じられた。

フラナガン博士は、さらに声を低くして続けた。

 

「一緒にキシリア様のザンジバル級で逃げよう。お前がギレンと内通していたことは、キシリア様もすでにご存じだ。だが……お前が持っている研究データと、俺の口添えがあれば、きっと許してもらえる。お前はまだ、必要な存在なんだよ、ジル。」

 

博士の目は、懇願するようにジルを見つめていた。

管制室のモニターでは、数値が淡々と更新され続け、遠くから響く駆動系のうなりが、まるでカウントダウンのように低く響いていた。

ジルは、博士の包み込んだ手に自分の視線を落とした。

白い空間の向こうで、ぼんやりと浮かぶ機体のシルエットが、静かに息を潜めているように見えた。

 

「……逃げる、ですか。」

 

ジルの呟きは、管制室の静寂に溶けていった

 

「そうだ、逃げよう。」

 

フラナガン博士は、懇願するように、震える声で繰り返した。

その目は、必死にジルの瞳を探り、わずかな希望を繋ぎ止めようとしていた。

ジル・ペローは、呆然と博士の顔を見つめていた。

だが、次の瞬間——彼の表情が急に歪み、眉間に深い皺が刻まれた。

博士の手を、乱暴に振り払う。

 

「っ……!」

 

フラナガン博士は驚きの声を上げ、後ずさった。

ジルの肩が、わなわなと震えていた。

怒気が、静かに、しかし確実に声に宿る。

 

「今さら、私を迎えに来た?私を地上に左遷させておいて……どの口が言うんだ。」

 

ジルの目は、冷たく、鋭く博士を射抜いた。

 

「お前はいつも、肝心な時に何も出来ない。何もしなかった。都合の良いことだけ、口にするだけだ。」

 

フラナガン博士は慌てて弁明した。

声が上擦り、必死に言葉を紡ぐ。

 

「確かに……お前がしたことは、許せないことだった!だが、あの左遷は……お前を守るためにしたんだ!ギレンの手が届かない場所へ、お前を遠ざけるために……!」

 

ジルは、嘲るように鼻で笑った。

 

「それは嘘だな。」

 

声は低く、しかしはっきりと響いた。

 

「お前は、私の才能に嫉妬した!憎悪した!恐怖した!だから私を地球に左遷させたんだ!!」

 

ジルは一歩踏み出し、博士を睨み据える。

 

「お前は、私が発見した特殊な脳波を利用しただけだ。それを検知し、電気信号や機械言語に変換し、ミノフスキー粒子の振動現象で通信する技術を作っただけ。私の理論を、ただ借り物のように使っただけだ!」

 

 

フラナガン博士は言葉が詰まり、言い返せなかった。

ただ、唇を震わせることしかできなかった。

ジルは、さらに畳みかけるように続けた。

 

「お前は、私がした強化改造手術の真似事を、マハルの貧困層の素質のある子供たちに施術したな?私の手術を再現しようとして……失敗した。そうだろ?」

 

博士の顔から血の気が引いた。

 

「な……なぜ、それを知っている……!?」

 

ジルは冷たく微笑んだ。

 

「ギレンの情報網で知ったさ。お前は、私の論文や理論は理解できても、私と同じことは出来ない。お前に出来るのは、理解し、それを利用した発明だけだ。」

 

フラナガン博士の顔が、突然赤く染まった。

震えていた唇が引きつり、目が血走る。

今まで懇願していた声が逆上したように鋭く跳ね上がった。

 

「確かに……! 確かにそうだ!私はお前のような天才的な遺伝子工学技術も、脳神経に関する知識と見識も、メス捌きも出来ない!そんなことは、百も承知だ!」

 

博士は一歩踏み出し、ジルを指差した。

指先が震え、声が上擦る。

 

「だがな、ジル!お前が書いた論文などは、私以外の奴に理解されなかっただろう!あの難解な数式、脳波の波形解析、前頭葉の施術理論、誰が読んでも、ただの暗号の山だった!それを、私が理解し、分かりやすく要約し、構造化し、精緻化したんだ!お前をフラナガン副所長に抜擢したのは、誰だと思ってる!?」

 

博士の息が荒く、額の汗が無重力で球となって浮かぶ。

彼は拳を握りしめ、声を絞り出すように続けた。

 

「お前が……あんなことをしなければ!私とお前はー「黙れぇぇー!」

 

 

ジル・ペローの叫びが、管制室の静寂を切り裂いた。

声は低く、しかし鋭く、博士の言葉を強引に遮る。

ジルは一歩踏み出し、博士を睨み据えた。

銀灰色の髪が、無重力でわずかに揺れる。

 

「お前が……私の論文を理解してくれたことには、感謝している。他の奴らに分かりやすく要約し、構造化してくれたことにも。フラナガン機関の副所長に抜擢してくれたことにも……感謝している。」

 

ジルの声は静かだが、抑えきれない怒気が滲む。

博士はたじろぎ、言葉を失って後ずさった。

 

「だがな……」

 

ジルは息を吐き、冷たく続けた。

 

「お前は、私から彼女を……奪った。」

 

フラナガン博士の顔が青ざめた。

目が泳ぎ、唇が震える。

ジルはゆっくりと、しかし確実に言葉を紡ぐ。

 

「お前がツィマッド社のモビルスーツを採用しなければ……ドロシーは死ななかった。あの試験中の事故……お前はそれを隠蔽し、ツィマッド社の肩を持った。キシリア様の命令だったと言い訳してな。」

 

博士は慌てて、必死に弁明する。

 

「あ、あれは仕方がなかったんだ!来るべき正式採用コンペティションを前に、評価を落とすわけにはいかなかった!キシリア様から頼まれたんだ……!」

 

ジルは嘲るように鼻で笑った。

 

「それ以前に……お前は、私に神の領分を踏みにじる行いをさせた。」

 

博士の目が大きく見開かれた。

ジルは静かに、冷徹に続けた。

 

「あの時、私はお前を信じていた。だから従った。だが、お前は自分の手を汚さないために、私にさせたんだ。」

 

ジルの手が、ゆっくりと腰のホルスターに伸びる。

護身用の拳銃が抜かれ、銃口がフラナガン博士に向けられる。

博士は後ずさり、両手を前にかざした。

顔が恐怖に歪む。

 

「ジ、ジル……! 待て、落ち着け……!」

 

ジルは銃を構えたまま、静かに言った。

 

「私は、お前を信じ、慕っていたから……手を汚した。だが、お前は私を裏切った。私にさせた行い……ドロシーの死。お前が、その後に結果を出していれば……こんなことにはならなかった。」

 

拳銃の引き金に指が掛かる。

管制室の空気が凍りついたように重くなる。

ジルは銃口を構えたまま、ゆっくりと息を吐いた。

その目は冷たく、しかしどこか遠くを見ているようだった。

 

「お前が……結果さえ出していれば。私は、あんなことをしなくて済んだ。そうすれば……彼女はいなくならなかった。彼女はずっと、私の傍にいてくれたはずだ。」

 

ジルは、銃口を構えたまま、ゆっくりと息を吐いた。

その目は、冷たく、どこか遠くを見ているようだった。

ジルは、ゆっくりと視線を博士に戻した。

フラナガン博士の顔は、恐怖と後悔で歪み、唇が震え、何かを言おうとして言葉にならない。

ジルは、静かに、しかし確実に言葉を続けた。

 

「お前は、私のすべてを奪った。私の才能を盗み、手を汚させ、私から彼女を奪った。そして……お前は何も償わなかった。」

 

博士は必死に後ずさりながら、震える声で最後の言葉を絞り出した。

 

「ジル……待て……あの子は……まだ……」

 

だが、その言葉は途中で途切れた。

ジルの指が引き金を引き絞った。

乾いた銃声が管制室に響き渡った。

無重力の空間で発射された弾丸は直線的に飛び、

フラナガン博士の頭を正確に貫いた。

博士の体が、ゆっくりと後ろに傾き、両手が虚空を掴むように広がる。

血の球が無重力でゆっくりと浮かび上がり、赤い軌跡を残しながら漂った。

博士の目は、最後までジルを見つめていた。

驚きと、わずかな哀れみと、諦めが混じった目で。

体がゆっくりと回転し、壁にぶつかって止まる。

そのまま、静かに浮かんだまま、動かなくなった。

ジルは銃を下ろした。

拳銃から立ち上る煙が無重力でゆっくりと広がる。

彼は博士の亡骸を一瞥し、静かに呟いた。

 

「……これで、私を止める人はいなくなった。」

 

管制室のモニターでは、数値が淡々と更新され続け、遠くから響く駆動系のうなりが、まるで新しい始まりを告げるように、低く響き続けていた。

 

ジルはゆっくりと管制卓に戻り、キーボードに指を置いた。

 

「……もう、少しだ。私の……作品が、目覚めるまで。」

 

管制室に再び静寂が戻った。

ただ、打鍵音と駆動系のうなりだけが、白い伽藍堂に響き続けていた。




最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。
今回の話では、【機動戦士ガンダム】の重要人物である。
【フラナガン博士】の消息不明を自分の独自解釈で描いてみました。
フラナガン博士は後の宇宙世紀に多大な影響を与える【サイコミュ兵器】を開発した人物で、ニュータイプ研究の第一人者でした。
しかし、一年戦争終了後は彼が作ったフラナガン機関は解体されていますが、フラナガン博士本人は消息不明になっております。
このような重要人物が消息不明で、後の連邦軍がニュータイプ研究をするムラサメ研究所やオーガスタ基地などで、彼が居ないことが不自然だと思いました。
連邦軍に属したフラナガン機関の関係者もUCエンゲージ基準だと、ローレン・ナカモトくらいしか所属してなかったです。
仮にサイド3の右派に参加していたら、右派の動きがもっと活発になり、強化人間の技術は向上してると思いました。
だから、私の独自解釈だと。
フラナガン博士はキシリア共にア・バオア・クーに向かっており、12月30日のエルメスとガンダムの戦いにも立ち会っていたかもしれない。
キシリアはそのまま、ア・バオア・クーに向かったので、フラナガン博士もア・バオア・クーに入った。
そして、ア・バオア・クーの爆発などに巻き込まれ、亡くなったのではないかと独自解釈しました。
その為に、遺体などが発見できずに消息不明になったと独自解釈しています。
【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】では、部下のジルに撃たれるんですけどね。
ではでは、次の話もお楽しみにー!

【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?

  • 陸戦型ジム改
  • バイアリーターク
  • ペイルライダー・ヴァンガード
  • ペイルライダー・マスケッティア
  • ヴァルキリー
  • グフ・ノクターン
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