機動戦士ガンダム オリオンの軌跡   作:浅片名羽馬

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第43話 ヴァルキリー・レクイエム【4】

白亜の神殿に死の静寂が降りた。

マスケッティアとヴァンガードの頭部センサーが深紅に燃え上がり、排熱口から噴き出す青白い炎が獣の息吹のように低く唸る。

2機のペイルライダーは、もはやただの機体ではなかった。

HADESの赤い光に染まった死の騎士たち——終末を運ぶ黙示録の影が白亜の神殿に立ち昇る。

対するヴァルキリーは、静かにランスを構え直した。

赤いモノアイが、ゆっくりと2騎の死の騎士を映し出す。

照明の冷たい光に照らされた白亜の伽藍堂は、二つの死の舞踏を待つように、息を潜めていた。

ヴァルキリーはたじろいだ。

目の前に立つ二機のモビルスーツが放つ、異質な気配に。

それは、自分のような存在を——新しい人の可能性を抹殺するために作られたかのような、冷徹で、絶対的な殺意の残影だったと思った。

少女の声が、ソウヤの頭にだけ、初めての動揺を帯びて響く。

 

『……何……?この気配……?私を……狩るために……作られたの……?いえ、これは……それを真似た…模造品?』

 

赤いモノアイが、わずかに揺らぐ。

ランスを構えたままの戦乙女のシルエットが一瞬だけ、風に揺れる白い花のように儚く見えた。

ヴァルキリーは、二機を警戒し、ランスと盾を構え直そうとした。

 

だが、次の刹那——目にも止まらぬ速さで、ヴァンガードが間近まで迫っていた。

 

頭部のメインカメラが深紅に燃え上がり、HADESの覚醒が機体全体を染め上げる。

同時に、全身のダクトがシステム起動時の排熱によって赤熱化し、肩、肘、膝の駆動系から火花が飛び散る。

リミッター解除の代償——関節が悲鳴を上げ、装甲板の継ぎ目から赤熱した蒸気が漏れ出し、機体が限界を超えて軋む音が、神殿に響く。

ビームサーベルとヒートクローが同時に振りかざされ、赤い光刃と赤熱した鉤爪が、ヴァルキリーの胸元を狙って襲い掛かる。

ヴァルキリーはギリギリでランスと盾を交差させ、受け止める。

だが、ヴァンガードの出力は、もはや常軌を逸していた。

HADESの力がヤザンの怒りに燃える獣のような執念を増幅させるように、ヴァルキリーをジリジリと押し込んでいく。

 

「うらぁぁぁぁーー!!」

 

ヤザンの咆哮がコックピットを震わせる。

肩の駆動部から火花が噴き、膝のアクチュエーターが過負荷で白煙を上げ、それでもヤザンは押し続けた。

ヴァルキリーは盾を押し返してわずかに間合いを稼ごうとする。

だが、ヴァンガードの赤熱したヒートクローが、まるで獣の牙のように執拗に食らいつき、戦乙女の盾に新たな焦げ跡を刻んでいく。

その瞬間——側面から、赤い閃光が白亜の伽藍堂を切り裂いた。

マスケッティアが深紅の眼光を光らせ、ハイパー・ビームライフルを放つ。

三連の光の奔流が、ヴァルキリーの脇腹を正確に狙って飛ぶ。

ヴァルキリーは、ヴァンガードに押し込まれながらも、側面からの赤い閃光を察知した。

赤いモノアイが一瞬横を向き、

戦乙女の体が、まるで運命の糸を切るように捻る。

ランスを両手に持ち替え、盾を押し返してヴァンガードの競り合いを強引に解消し、

スラスターを短く噴射して機体を後退させる。

三連のビームが虚空を切り裂き、ヴァルキリーの脇腹をかすめて飛ぶ。

光の奔流が装甲の表面を熔かし、白い外装が黒く焼け焦げ、溶けた金属の滴が散る。

ヴァルキリーは競り合いから解放された勢いでさらに後退し、スラスターを噴射して間合いを取る。

ヤザンは押し返された勢いで少し後退したが、すぐに体勢を立て直す。

額に汗が流れ、息が荒いが獣のような瞳に再び闘志が宿る。

 

「おい…、ソウヤ…! 今回は…意識はあるか…?」

 

ソウヤの声が、通信に静かに響く。

 

「ああ……ヤザン。今回は…ちゃんと意識があるよ。」

 

マスケッティアの銃口が、再び淡く発光する。

 

「ヤザン……システムが操縦に介入する前に、先に俺達の方で操縦をすれば……HADESは介入してこない。それさえできれば、俺たちは……自分の意志で戦える。」

 

ソウヤは通信越しに静かに、しかし確信を持って言った。

ヤザンは一瞬、息を詰めた。

コックピット内の赤い警告灯が点滅する中、

ヤザンの瞳がゆっくりと細くなる。

 

「……前の戦いで、動きがぎこちなくなったのは……そのせいか。システムが勝手に操縦に介入するか、面倒なシステムを搭載してくれたもんだぜ。」

 

 

 

ヤザンの声にわずかな苛立ちが混じり、操縦桿を握る手が強く締められる。

 

「簡単に言うなよ、ソウヤ。戦場じゃ一瞬の判断が命取りだ。システムが介入する前になんとかしろなんて……そんなに簡単じゃねえぞ。」

 

ソウヤは、ハイパー・ビームライフルを構え直しながら、力強く言葉を返す。

 

「俺たちなら……出来るだろ?ここで負けたら……全てが無駄になる。隊長の意志も……俺たちの軌跡も……全部、消える。ヤザン……俺は、信じてる。……俺達なら……システムを……奴を、超えられる。」

 

ヤザンは、しばらく沈黙した。

コックピット内の警告音が、低く響き続ける。

 

「……へっ。」

 

ヤザンの口元に、ニヤリとした笑みが浮かんだ。

それは、怒りと悔しさと、そして覚悟が混じり合った、

最後の咆哮のような笑みだった。

 

「そうだな……。ここで終わるわけにはいかねえ。隊長の仇……絶対に取る。システムだろうが何だろうが……俺たちは、あいつに勝たなきゃならないからな。」

 

ヤザンの声が、通信に低く響く。

 

ソウヤの声が、通信に短く響いた。

 

「行くぞ!……ヤザン!」

 

合図と同時に2機のペイルライダーが動き出した。

ヴァンガードが先陣を切り、スラスターを全開に噴射してヴァルキリーの懐へ飛び込む。

右手のビームサーベルが赤く伸び、左腕の赤く熱せられたシールド・ヒートクローが唸りを上げる。

ヤザンは一切の迷いなく斬り込んでいく。

ビームサーベルがヴァルキリーの盾を叩き、ヒートクローがランスの柄を狙って弧を描く。

ヤザンは信じていた。

ソウヤが必ず後ろから援護してくれる。

自分が前に出て、相手を抑え込み、自分に隙ができれば——必ずフォローしてくれる。

だから、恐れず、躊躇せず、ただただ前に出る。

獲物の息の根を止める獣の牙のように、執拗に、容赦なく。

 

「来いよ……! 今度こそ……お前をぶっ潰す!!」

 

ヴァンガードの猛攻が、ヴァルキリーの盾を叩き続ける。

戦乙女はランスを高速で回転させ、ビームサーベルを弾き、ヒートクローを受け流す。

だが、ヤザンの攻撃は止まらない。

一撃が外れても、次の刃が即座に迫る。

機体の関節が火花を散らし、悲鳴を上げながらも、獣は止まらない。

その隙を、ソウヤは見逃さない。

マスケッティアが、ヴァンガードの側面を滑るように移動。

ハイパー・ビームライフルを構え、ヴァルキリーを捉える。

ソウヤは信じていた。

ヤザンが前に出て、相手を抑え込んでくれる。

だから、自分は射撃に集中できる。

ヤザンに隙ができたら、絶対にフォロー出来るように——ヤザンの動きとヴァルキリーの動きを同時に見ながら、機体を機敏に動かし、ビームを放つ。

放たれたビームがヴァルキリーの左肩を狙う。

戦乙女は盾で防ぐが、次の瞬間、ソウヤは機体を横滑りさせて位置を変え、ヴァンガードの攻撃に合わせて死角から再び射撃。

ビームがヴァルキリーの脇腹をかすめ、白い装甲に浅い焦げ跡を残す。

ヴァルキリーは必死に捌く。

ランスを高速で回転させ、ヤザンのビームサーベルを弾き、盾でヒートクローの軌道を逸らし、ソウヤのビームを紙一重で躱す。

だが、二機の連携は容赦ない。

ヤザンが正面から圧をかけ、ソウヤが側面と死角から正確無比に射撃を浴びせる。

ヴァルキリーの盾に新たな焦げ跡が増え、ランスの刀身に次々と新しい傷が刻まれる。

戦乙女の動きは、まだ優美だが、その優美さの中に焦りの色が混じり始めていた。

ヤザンは、ソウヤの援護を背に感じながら、さらに前に出る。

 

「どんどん行くぞ……! ソウヤァァァー!」

 

ヒートクローを振り下ろし、ビームサーベルを横薙ぎに払う。

ソウヤは即座に応じる。

マスケッティアがヴァンガードの影に隠れるように移動し、ヴァルキリーの側面からビームを放つ。

光の奔流が戦乙女の肩をかすめ、装甲が熔け、黒い焦げが広がる。

ヴァルキリーはランスを振り上げ、ヤザンの攻撃を弾きながら後退する。

だが、二機の怒涛の連携は止まらない。

 

 

 

 

 

 

 

ヴァルキリーは、ヤザンの猛攻に押し込まれながらも、視線をソウヤのマスケッティアへと移した。

赤いモノアイが一瞬鋭く光り、戦乙女は判断する——この射撃手が、邪魔だ。

ランスの柄を軽く持ち替え、遠隔スラスターを噴射させて槍を浮遊させながら、ヴァルキリーはマスケッティアへと攻撃を仕掛けようとする。

槍が青白く輝き、死の矢のようにソウヤを狙う。

だが——その瞬間、ヴァンガードが割り込んだ。

 

「てめえ……! ソウヤには指一本触れさせねえよ!!」

 

ヤザンの咆哮が虚空を震わせ、ヴァンガードが死の先鋒になって突進する。

ヒートクローを振り払い、ヴァルキリーの槍の軌道を強引に遮断する。

ヴァルキリーは槍を引き戻そうとするが、ヤザンの獣のような執念がそれを許さない。

ヴァンガードは絶対にマスケッティアの方へ行かせまいと阻み。

二機の距離を詰めながら、ヤザンの牙が戦乙女を押し返す。

その隙にソウヤが動いた。

マスケッティアは死の銃士のように、静かに、しかし確実に位置を変え、ヴァルキリーに射撃を加えていく。

ヤザンは己の野生、直感、闘争本能を信じて操縦し続けていた。

システムの演算が追いつかないほどの急旋回。

Gがパイロットの五臓六腑を潰しにかかるが、ヤザンはそれを愉しむかのように吼えた。

ヴァンガードは、もはや「機体」ではなく、ヤザンの怒りと執念そのものだった。

ヤザンという魂を注ぎ込まれ、敵を食らい尽くすためだけに動く「鉄の獣」へと変貌していた。

コックピット内のモニターに、突然赤い警告が点滅した。

 

【SYSTEM ERROR】

【OPTIMAL CONTROL PATH CONFLICT】

【INTERVENTION ABORTED】

【PILOT OVERRIDE PRIORITY: MAX】

 

HADESは自律制御を放棄したのではない。

ヤザンの放つ圧倒的な闘争本能と、計算不可能な操縦技術に、システム側が——「屈服」したのだ。

 

「ああん?機械の方が音を上げたか…。」

 

警告音が一瞬途切れ、代わりに低く、重い鼓動のような機械音が響く。

ヴァンガードの関節がさらに悲鳴を上げ、膝のアクチュエーターが過負荷で白煙を上げる。

ブラックアウトが視界の端を侵食し、頭が締め付けられ、息が詰まり、心臓が限界を超えて暴れ出す。

それでもヤザンは止まらない。

 

「行くぞ!ヴァンガード!お前の牙をアイツに突き立てろ!!」

 

獣の咆哮がシステムの冷たい計算を凌駕する。

 

 

 

 

 

 

 

ソウヤはモニターに映し出される映像を、ただ見つめていた。

ヴァルキリーを中心に、無数の白い光の点が瞬時に浮かび上がる。

一つは現在の敵機の位置――鋭く輝く核のような点。

そこから放射状に、無数の細い白い線が伸びていく。

線は曲がり、折れ、時には分岐し、時には途切れながら、虚空に無限の軌跡を描く。

白い光の点と線は、ソウヤの視界を埋め尽くす。

それは星座のように繋がり、可能性の銀河を形成する。

ソウヤは息を殺し、右の操縦桿を軽く引いた。

マスケッティアの機体が右へスライドする。

その瞬間、最も太い白い線が、わずかに薄れる。

代わりに、隣の細い枝線が急に輝きを増し、メインの軌跡に吸い込まれるように太くなる。

ソウヤの指先が、わずかに震えた。

それは恐怖でも、興奮でもなかった。

モニターの白い線が、ソウヤの視界の中でゆっくりと脈打つ。

敵の次の行動予測が、ソウヤの脳裏に直接流れ込んでくる。

ヴァルキリーがランスを振り上げる軌道。

スラスターの噴射タイミング。

盾の角度。

すべてが、数字や線ではなく、「予感」として、ソウヤの身体に染み込んでいく。

ソウヤは、ゆっくりと息を吐いた。

左の操縦桿を微調整し、機体をわずかに傾ける。

マスケッティアはソウヤの意志に寄り添うように操縦に追従する。

システムが「介入」するのではなく、ソウヤの思考がシステムを「導く」。

コックピット内のモニターにシステム画面が突然、点滅した。

 

【SYSTEM SYNC INITIATED】

【PILOT PREDICTION EFFICIENCY: 98.7%】

【OPTIMAL PATH ALIGNMENT: CONFIRMED】

【INTERVENTION DEFERRED】

【PILOT OVERRIDE PRIORITY: GRANTED】

 

 

「これが……HADESの本当の力……?」

 

ソウヤの声が、独り言のように漏れる。

モニターの白い線が、ソウヤの呼吸に合わせて脈動し始める。

敵の可能性の銀河が、ソウヤの意志によって、ゆっくりと「一本の軌跡」に収束していく。

ヤザンの咆哮が通信に響く中、

ソウヤは操縦桿のトリガーに指をかけた。

 

「行くぞ…マスケッティア。決着を着ける!」

 

 

 

 

 

 

ヴァンガードとマスケッティアの怒涛の連携攻撃が、本格的に始まった。

ヤザンは死の先鋒として、獣の牙を剥き出しにヴァルキリーへ躍り込む。

今度は直線ではなく、わざと弧を描いてヴァルキリーの左側を回り込み。

左腕のヒートクローを赤熱の軌跡を残しながら、振りかぶる。

戦乙女の盾が赤熱した爪に抉られ、表面に深い亀裂が入り、ついに耐えきれず、金属の悲鳴とともに左半分が砕け散った。

盾の破片がゆっくりと虚空に漂う中、ヴァルキリーは即座に槍を回転させてヤザンの突進を弾き返す。

だが、その瞬間——マスケッティアが、音もなく、影のようにヴァルキリーの右側面に滑り込んだ。

ソウヤは息を止め、モニターに映る「星座」の一本の太い軌跡だけを追っていた。

引き金を引き、ハイパー・ビームライフルの銃口が発光する。

光の槍がヴァルキリーの背中を狙って、射貫こうとする。

ヴァルキリーは寸前で回避するが、ランスの柄を半分溶かされた。

ヤザンはその隙を見逃さない。

ヴァンガードが低く唸り、ヒートクローを振り上げて上段から叩きつける。

戦乙女はランスを交差させて受け止めるが、ヴァンガードの機体重量と勢いが、ヴァルキリーの機体をわずかに後退させる。

足元のグリッドが衝撃で歪む。

ソウヤはすでに次の位置へ移動していた。

今度はヴァルキリーの右足元を狙ってビームを放つ。

光が床を掠め、グリッドの升目が熔けて溶岩のように床が溶解する。

ヴァルキリーはスラスターを噴射して跳び上がり、宙で体を捻って回避する。

だが、その動きの隙にヤザンが再び突っ込む。

 

「まだだ……まだ終わらねえ!!」

 

ヴァンガードのビームサーベルが戦乙女の胸元を狙って突き出される。

ヴァルキリーはランスを逆手に持ち替え、槍先でサーベルを弾き、同時に左腕の110mm速射砲をマスケッティアに射撃する。

だが、ソウヤはすでに予測していた。

マスケッティアが横にステップ、110mm速射砲を紙一重で回避。

ヤザンはその間に間合いを詰め、ヒートクローを振り下ろす。

戦乙女はランスで受け止め、二つの刃が激突して火花が爆ぜる。

ヴァルキリーの槍とヴァンガードのヒートクローが、激しくかち合っていた。

ヤザンは歯を食いしばり、ペダルをさらに深く踏み込んだ。

ヴァンガードのスラスターが唸りを上げ、機体全体が前へ前へと押し込む。

あと一歩——あと一歩で、戦乙女の胸元を抉り裂ける距離。

しかし、その瞬間——ヴァンガードの駆動系から、赤い火柱が噴き上がった。肩の関節が爆ぜるように火を吹き、膝のアクチュエーターから黒煙が噴き出し、サブディスプレイに赤い警告が連続で点滅する。

これまでのア・バオア・クーでの激戦の傷跡、ヴァルキリーとの高機動戦闘と近接戦闘の連続が、ここで一気に牙を剥いた。

機体の骨格が限界を超え、鉄の悲鳴がコックピットに響き渡る。

ヤザンの瞳が絶望的に揺らぐ。

 

「くそ……! あと少しだったのに……!」

 

 

どうすればいい——ヤザンは苦悶しながら思考を巡らせた。

 

 

このまま押し続ければ、ヴァンガードは自壊する。

だが、引き下がれば、ヴァルキリーに間合いを与える。

 

どうすれば……どうすれば……!

 

その時、ヤザンの脳裏に閃きが走った。

一方、ソウヤは競り合っているヴァンガードから火柱と黒煙が上がり始めたことに気づいた。

 

「ヤザン……!」

 

これまでのダメージが出たのだと、察した。

このままヴァンガードが戦闘を続ければ、機体は自壊する。

ソウヤの胸に冷たい覚悟が宿る。

 

どうすればいい——

 

ソウヤは一瞬で思考を巡らせた。そして、あることを閃く。

 

ヤザンは右手に持っていたビームサーベルをヴァルキリーに向かうように手放した。

サーベルの柄が虚空に放り出され、ゆっくりと回転しながら漂う。

その瞬間、ヤザンはヴァンガードのスラスターを逆噴射させ、一気に後退する。

同時に頭部のバルカン砲を起動。

短い連射音が響き、バルカンの弾丸が放り出されたビームサーベルに直撃する。

爆発。

赤い火球がヴァルキリーの眼前で炸裂し、爆煙が一瞬で視界を覆う。

ヴァルキリーは咄嗟に半壊した盾を前に掲げ、爆風を防ぐ。

衝撃が盾を貫き、残った左半分の装甲が金属の悲鳴とともに完全に砕け散った。

盾の破片が四散し、戦乙女の左腕が無防備に晒される。

 

 

 

 

 

ヴァルキリーの目の前に広がる火球の中から——ビームサーベルを持ったマスケッティアが飛び出してきた。

 

 

 

 

 

ソウヤは、ヤザンがビームサーベルを手放した瞬間に、右手に持っていたハイパー・ビームライフルを手放していた。

ライフルが宙に浮かび、マスケッティアは前進。

ヴァンガードが後退し、マスケッティアがヴァンガードの前に出る。

入れ替わりの一瞬で、二機は位置を逆転させた。

言葉はない、事前の打ち合わせもない。

ただ、互いの存在が、そこに「いる」という事実だけで十分だった。

ヤザンが後退した瞬間——ソウヤは、何も聞いていなかったのに、胸の奥で「来る」と感じた。

それは予感でも、予測でもなく、ただ「ヤザンなら、こうする」という、魂の奥底から湧き上がる確信だった。

同じ刹那、マスケッティアが前進した瞬間。

ヤザンはそれを見た瞬間、喉の奥で小さく笑った。

 

「へっ……お前もかよ。」

 

言葉には出さなかったが、心の中で確かに呟いていた。

ソウヤなら、必ず前に出る——ヤザンはそれを、骨の髄まで信じていた。

二人は、互いの行動を「見て」いたわけではない。

互いの「魂」を、感じていた。

マスケッティアは左腰に装着していたビームサーベルを抜刀。

赤い光刃が伸び、射撃手の機体が、初めて前衛に躍り出る。

ヴァンガードはマスケッティアの後ろに退がり、浮遊していたハイパー・ビームライフルを右手に装備。

ヴァルキリーは虚を突かれた。

まさか、射撃手のマスケッティアが前に出てくるとは思っていなかった。

戦乙女の反応が、わずかに遅れる。

その一瞬の隙に、マスケッティアのビームサーベルが迫る。

ヴァルキリーはギリギリでランスを振り上げ、マスケッティアのビームサーベルを受け止めた。

赤い光刃と槍先が激突し、火花が爆ぜ、白熱した閃光が散る。

戦乙女の機体がわずかに後退し、ランスの柄が軋む音が響く。

だが——次の瞬間。右腕が、肩ごと吹き飛ばされた。

爆音が遅れて響き、白い装甲が熔けた断面から火花と溶けた金属が噴き出す。

ヴァルキリーは何が起きたか、理解できなかった。

右腕が失われた衝撃で、機体が一瞬硬直する。

ランスが虚空に浮かび、推進光が不安定に揺らぐ。

ヤザンは右腕が爆発した瞬間にハイパー・ビームライフルを発砲した。

ソウヤに当たらないよう、ヴァルキリーの右足を正確に狙う。

赤い奔流が右足に直撃。

装甲が熔け、関節が焼き切れ、右足が根元から吹き飛ぶ。

ヤザンとソウヤは同時に、ヴァルキリーを襲ったビームの方向を向いた。

 

 

そこにいたのは——壁に激突し、座り込んでいながらも右腕の二連装ビームを構えた、イーサンのジム・ドミナンスだった。

イーサンの声が通信に弱々しく響く。

 

「……すまんな……少し……意識を……失っていた……。」

 

 

ソウヤの瞳が震える。

 

「隊長……!?」

 

ヤザンの声が、嗚咽のように漏れる。

 

「オルグレン隊長……! ……生きて……!」

 

ヴァルキリーは、右腕と右足を失いながらも、残った左腕の110mm速射砲を構え直し、健在のランスを遠隔操作で浮遊させる。

槍のスラスターを噴射させ、ジム・ドミナンスに向かう。

死の槍が、瀕死の機体を狙って飛ぶ。

 

「くそ……! 隊長に……!」

 

ヤザンは即座に気づき、ハイパー・ビームライフルを連射。

赤い光弾が虚空を埋め尽くし、槍を迎撃しようとする。

だが、ランスは紙一重で軌道を変え、弾幕を回避しながら加速する。

ソウヤはモニターの「可能性の軌跡」を睨みながら、未来予測を重ねる。

ソウヤはマスケッティアを前進させ、左腰のビームサーベルを抜刀したまま、ヴァルキリーに迫る。

赤い光刃が弧を描き、戦乙女の残った左腕を狙って振り下ろす。

ヴァルキリーは、残った左腕の110mm速射砲を連射しながら、マスケッティアを牽制。

マスケッティアの装甲をかすめて火花を散らす。

戦乙女は体を捻り、ビームサーベルを紙一重で回避する。

ソウヤの背中に、冷たい予感が走った。

このままでは——ヤザンと隊長が危ない。

マスケッティアのモニターに映る「可能性の軌跡」が、急速に収束していく。

最も太い一本の線が、ヴァルキリーのランスの軌道を指し示し、

その先には、動けないジム・ドミナンスのシルエットが重なる。

 

 

「俺が……止める!ヤザンを……隊長を……守る!」

 

覚悟を決めた瞬間、ソウヤはマスケッティアを前へ突き進ませた。

ビームサーベルの赤い光刃を構え、ヴァルキリーの残った左腕を狙って斬りかかる。

ヴァルキリーは即座に反応し、残った左腕の110mm速射砲を連射。

無数の弾丸が虚空を埋め尽くし、マスケッティアに向かって殺到する。

ソウヤは「可能性」の線を追う。

未来予測が、胴体に直撃する一本の弾だけを、白く、太く、輝かせていた。

ソウヤは、わずかに機体を傾け、

その一本だけを紙一重で回避する。

他の弾は——構わない。

着弾音が連続で響き、マスケッティアの左肩が抉られ、右腕の装甲が剥がれ落ち、脚部が火花を散らしながらも機体は止まらない。

ヴァルキリーの槍は、すでに動けないジム・ドミナンスに向かって加速していた。

青白い推進光が尾を引き、死の槍が瀕死の機体を貫こうとする。

ヤザンは即座に気づく。

 

「動けない隊長を狙うのかよ!!」

 

ヴァンガードがハイパー・ビームライフルを連射。

赤い光弾が虚空を埋め尽くし、槍を迎撃しようとする。

だが、ランスは予測不能な軌道で回避し、弾幕をすり抜けながら加速する。

ついに、ライフルが乾いたクリック音を立て、弾切れ。

 

「くそ……!」

 

槍はその機会を見逃さず、ドミナンスに向かって突進を敢行する。

推進光が最大出力で噴射され、死の切っ先が、瀕死の機体を貫こうとする。

だが——ヤザンは、すでに動いていた。

ヴァンガードの左腕が、ヒートクローを大きく振りかぶり。

赤熱した鉤爪が虚空を切り裂き、飛んでくる槍を迎撃する。

爪と槍が激突し、火花が爆ぜ、衝撃波が神殿の空気を歪ませる。

槍はヒートクローごと、ヴァンガードの左腕を穿った。

装甲が熔け、左腕全体が火を吹きながら引き裂かれる。

ヤザンのコックピットに警告音が狂ったように鳴り響き、モニターに左腕損壊と真っ赤に表示される。

だが——ヤザンの本当の狙いは、そこではなかった。

槍が衝突したことで速度がわずかに減速する。

その一瞬の隙を、ヤザンは見逃さない。

ヴァンガードの右腕が動き、スタン・アンカーを発射する。

ワイヤーが正確にランスの柄に刺さる。

高圧電流が一気に流れ、青白いスパークが槍全体を包み。

推進スラスターが異常点火を起こし、槍の軌道が乱れ。

ランスが虚空で痙攣し、推進光が不安定に明滅する。

槍の推進機構が爆発的に暴走し、火球の光芒が広がった。

爆風がヴァンガードを直撃し、機体は激しく揺さぶられる。

槍は爆発に巻き込まれ、推進光が完全に途切れ、白亜の空間に漂う残骸と化す。

だが、その代償はあまりに大きかった。

ヴァンガードの両膝がゆっくりと折れ曲がる。

膝のアクチュエーターが爆ぜ、黒煙と火花が噴き出し、機体は重く沈み込むように崩れ落ちた。

サブディスプレイに無数の赤い警告が点滅し、モーターの唸りが途切れ、ヴァンガードは床に両膝をつくように完全に機能停止した。

ヤザンの息が、荒く乱れる。

コックピット内の警告音が、まるで心臓の鼓動のように弱々しく響く。

 

「……くそ……ここまでか……。」

 

ヤザンの声は、かすれながらも、どこか満足げに笑っていた。

その瞬間——マスケッティアがダメージを全身に受けながらも、ヴァルキリーに激突した。

110mm速射砲の連射で装甲は粉砕され、メインカメラが砕け散り、視界が一瞬暗転する。

だが、ソウヤはもう、目など必要なかった。

マスケッティアのビームサーベルが赤い光刃を灯したまま、ヴァルキリーの左肩に突き刺さる。

光刃が装甲を貫通し、肩の関節を焼き切り、左腕が根元から熔け落ちる。

戦乙女の機体が大きく仰け反り、少女の声が最後の絶望的な叫びを上げる。

 

『……そんな……!……いや……!』

 

マスケッティアは、勢いのままヴァルキリーに激突する。

二機の機体が絡み合い、伽藍堂の宙を回転しながら、管制室の窓がある壁へと突き進む。

衝撃が神殿全体を震わせ、戦乙女と死の銃士は白亜の壁面に激突した。

ヴァルキリーは壁にもたれ掛かるように完全に機能停止。

赤いモノアイがゆっくりと暗くなり、機体は静かに虚空に浮かぶ亡骸と化す。

マスケッティアもまた、宙に浮いた状態で機能停止した。

頭部が破壊され、駆動部から火花を散らしながらも、

機体はヴァルキリーに寄り添うように静かに漂う。




最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
一年戦争編のラスボス戦、ヴァルキリーとの戦いが決着着きました~!
なんとか書けた~(涙)
いやー、自分の思い描いたことを書けて、自己満足しています。
ヤザンの闘争本能と操縦がシステムを屈服させるのは、やり過ぎかもしれないけど、やりたかったことなのでw
宇宙世紀最強のオールドタイプ筆頭のヤザンなら、これくらいは出来ると私の妄想では思っていたので、HADESをヤザンの操縦技術で分からせてやりました。
さてさて、次の話でヴァルキリーの秘密などが判明していくので、楽しみにしていてください。
察しの良い方でしたら、もう、ヴァルキリーの秘密に気づいている方もいるかもしれません。
では、次の話もよろしくお願いいたします。

【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?

  • 陸戦型ジム改
  • バイアリーターク
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  • ペイルライダー・マスケッティア
  • ヴァルキリー
  • グフ・ノクターン
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