コジマ大隊基地 格納庫兼整備工場エリア
ハノイ近郊の湿った熱帯平野に位置する、急造ながらも頑丈なプレハブ式格納庫兼整備工場。
全高40メートルを超える灰色の鉄骨と波板で覆われた巨大な建物は、外壁に赤錆が浮き始め、ところどころに雨漏りの跡が黒く染みついている。
内部は照明がやや薄暗く、蛍光灯の白い光が鉄骨の影を長く引きずり、床面に複雑な格子模様を描いていた。
空気は油と金属の匂い、そしてジャングルの湿気が混じり合った重たい熱気で満ちている。
格納庫の中央に、2機の陸戦型ガンダムが静かに佇んでいた。
いずれも片膝をつき、肩を落とした姿勢で待機している。
機体は一年戦争の激戦をくぐり抜けた傷跡をそのまま残しており、装甲板には無数の弾痕と焦げ跡が刻まれていた。
それでも、整備兵たちの手で磨き上げられた白と青の塗装は、どこか凛とした威厳を保っていた。
上部コックピットハッチは両機とも全開にされ、牽引ワイヤーがハッチの縁から垂れ下がっている。
ワイヤーの先端には、搭乗員を安全に引き上げるための鐙がぶら下がり、わずかな風でゆらゆらと揺れていた。
整備兵たちが機体の周りを忙しなく動き回っている。
一人が脚部の関節部にグリスガンを当てて注油し、もう一人はクレーンを操作して予備のショートシールドを吊り上げている。
工具の金属音と、整備兵同士の短い掛け声が、格納庫内に響き渡っていた。
「よし、右腕のサーボ、異常なし! 次は左脚の歩行テストだ!」
「了解! ボルト、しっかり固定しろよ! 試運転で故障したら、俺らの首が飛ぶぞ!」
整備兵の一人が笑いながら叫ぶと、他の兵が「ははっ、サンダース軍曹なら大丈夫だよ!」と返し、軽い笑い声が広がった。
格納庫の奥、鉄骨の影から二つの人影がゆっくりと近づいてきた。
一人は190センチを超える巨体にドレッドヘアを後ろで束ねたサンダース軍曹。
もう一人は柳のような黒髪のソウヤ・タカバ中尉。
二人はそれぞれの機体を見上げ、静かに息を吐いた。
サンダースが、低く呟く。
「……久しぶりだな、相棒。」
彼の視線は、自分の愛機——かつて自分が五体満足で乗り続けた陸戦型ガンダムに向けられていた。
ソウヤは隣の機体——カレン・ジョシュワがかつて駆った機体——を見上げ、静かに頷いた。
「……私は、初めてのガンダムタイプなので、……勝手が違うと思うので。ちゃんと操縦できるか不安です…。」
ソウヤは、自分の乗る陸戦型ガンダムの頭部に視線を移した。
片膝をついた機体の頭部は、サンダース軍曹の機体と明らかに異なっていた。
サンダース軍曹の機体の頭部は、標準的な陸戦型ガンダムの形状——ガンダムタイプの標準的なV型アンテナと、控えめな排熱ダクトが両頬に配置されている。
一方、ソウヤの機体の頭部はパーツは、それとは違った。
V型アンテナはより鋭く高く伸び、両頬を覆うように大型の排熱ダクトが張り出しており、熱気を逃がすための開口部が目立つ。
左側の排熱ダクトの端には、小さなロッドアンテナが一本、控えめに突き出している。
こめかみ部分には、本家RX-78ガンダムと同じく2門のバルカン砲が備わっていた。
メインカメラのアイはまだ電源が入っていないため暗いままだが、ガラス面の奥に映る色は、サンダース軍曹の機体の緑色ではなく、紫色を帯びているように見えた。
ソウヤは、わずかに眉を寄せた。
(……頭部パーツが、かなり違うな。)
ソウヤは近くでグリスガンを手にしていた整備兵に声を掛けた。
「すみません。自分の機体の頭部……サンダース軍曹の機体と、なぜこんなに違うんですか?」
整備兵は作業の手を止め、ヘルメットを軽く持ち上げてソウヤを見上げた。
額に汗が光り、油で汚れた指でヘルメットを拭きながら、気さくに答える。
「ああ、それですか。中尉の機体は、以前のパイロットがアッガイの攻撃で頭部を完全に吹っ飛ばされたんですよ。修理の時に、ちょうど補給基地に保管してあった試作頭部パーツがあったんで、そっちに交換したんです。
前までは、陸戦型ジムの頭部を取り付けてましたからね。あれじゃ陸戦型ジムと誤認しやすいので、試作パーツを取り付けて、ガンダムタイプらしい、見た目に戻したんですよ。」
ソウヤは、ゆっくりと頷いた。
「……なるほど。試作パーツだったんですね」
整備兵は、機体の頭部を指差しながら続ける。
「この大型排熱ダクトのおかげで、冷却性能は格段に上がってます。長時間の連続戦闘でも、オーバーヒートしにくくなっております。それに、こめかみのバルカン砲が2門あるんで、オリジナルのガンダムに近い火力が出せます。正直、こっちのパーツの方が陸戦型ガンダムとしては完成度が高いんじゃないかって、整備班でも噂になってるくらいです」
サンダース軍曹が、巨体を少し前に傾けて相槌を打った。
「……確かに、カレンの機体は頭部が陸戦型ジムのパーツだったな。あの時は急造で仕方なかったが……今思い返すと、違和感がすごかったからな。」
ソウヤは、再び自分の機体の頭部を見上げた。
紫色のメインカメラの奥に、まるで機体の意志を宿したような、何かを感じ取った。
「……ありがとうございます。参考になりました。」
整備兵は、にやりと笑ってヘルメットを被り直した。
「どういたしまして。中尉、試運転でこの機体のパワーを味わってみてください。きっと、気に入ると思いますよ。」
ソウヤは、静かに頷き、サンダース軍曹と視線を交わした。
二人は同時に、垂れ下がる牽引ワイヤーを掴む。
サンダースが低く、しかし確かな声で言った。
「……行きましょう、中尉。この機体が、どう答えてくれるか……確かめてみましょう。」
ソウヤは、わずかに口元を緩めて答えた。
「……ええ。俺も……この機体に、ちゃんと向き合ってみます。」
二人はワイヤーを握り、ゆっくりとコックピットへと引き上げられていく。
ソウヤとサンダースはコックピットの座席に滑り込む。
上部コックピットハッチが閉じられ、2機の陸戦型ガンダムは静かに息を吹き返し始めた。
サンダース軍曹のコックピット内では、巨体がシートに深く沈み込み、慣れた手つきでメインスイッチを入れる。
指がピアノの鍵盤を弾くように動き、起動シーケンスを一つずつ確認していく。
低く唸るような振動が機体全体を震わせ、モニターに緑色のステータスラインが次々と点灯する。
「……よう、相棒。久しぶりだな」
サンダースは小さく呟き、操縦桿を軽く握った。
機体が微かに身じろぎし、肩がわずかに持ち上がる。
かつて五体満足で駆り、一緒に戦い抜いたこの機体が、再び自分の意志に応えてくれる感覚に、胸の奥が熱くなった。
懐かしさと、居なくなってしまった、彼への静かな追悼が混じり合う。
一方、ソウヤのコックピット内では、初めての陸戦型ガンダムに緊張が走っていた。
シートに座り直し、深呼吸を一つ。
メインコンソールを起動させ、指先でステータス画面を呼び出す。
モニターが緑色に光り、陸戦型ガンダムの各種システムが順次立ち上がっていく。
「核融合炉、オールグリーン。Iフィールド安定。エネルギーバイパス正常。火器管制システム、オールクリア。姿勢制御系、異常なし」
ソウヤは淡々と確認しながら、ボタンを押し、シーケンスを進める。
一年戦争で鍛えられた手順は、無駄がなく素早い。
しかし、次の瞬間——画面に馴染みのない赤い警告表示が点滅した。
【駆動系リミッター作動中】
《両肩:出力制限 70%》
《両肘:トルク制限 65%》
《両脚:推進力制限 80%》
《………他、多数 》
ソウヤの瞳がわずかに見開かれる。
「……なんだ、これ?」
慌ててコックピットの右側コンソールからマニュアル本を引き抜き、ページを素早くめくる。
マニュアルの該当項目に目が止まった。
[陸戦型ガンダム(RX-79[G])は、生産個体ごとに各部品の微細な状態差・組み立て誤差により、出力、耐久性、関節トルクなどに個体差が生じやすい。戦場での安定運用を優先し、平均性能を均一化するため、各駆動部にリミッターを設置。これにより、個体間の性能バラつきを抑え、整備性・信頼性を向上させている。リミッターは現場で解除可能だが、機体負荷が増大するため推奨しない。]
ソウヤは小さく息を吐いた。
「……不安定な兵器だな」
一年戦争で乗っていた量産型ガンキャノンや、ペイルライダー・マスケッティアは、ナガト中尉達の整備班が精密に整備してくれて、機体性能を極限まで引き出した高性能機だった。
一年戦争の数々の激戦でも、マシントラブルはほとんどなかった。
それに比べて、この陸戦型ガンダムは……まるで「生身の人間」のように、個性と弱さを抱えていた。
(……恵まれていたんだな、俺は…)
胸の奥で、オリオン小隊の仲間たちの顔がよぎる。
オルグレン隊長、ヤザン、ナガト中尉、イヤン軍曹、ミサキ上等兵……。
あの環境がどれだけ贅沢だったか、今になって痛感した。
ソウヤはすぐに表情を引き締め、コンソールを操作して最終確認を済ませる。
リミッター表示は赤いままだが、他のシステムはすべてグリーン。
立ち上げ完了のブザーが短く鳴り、コックピット全体が低く唸る。
「立ち上げ完了。陸戦型、待機態勢へ移行します。」
隣の機体——サンダース軍曹のコックピットから、無線が繋がる。
「……中尉、早いですね」
サンダースの声は、驚きと感嘆が混じっていた。
彼のモニターには、ソウヤの機体がすでに全システムを立ち上げ、待機状態に移行している姿が映し出されている。
「沢山乗ったので、慣れてるだけです。……こっちは、初めての陸戦型フレームなので、少し手間取りました。」
ソウヤは素直に答えた。サンダースは、巨体をシートに預け直しながら、静かに笑った。
「……いえ。立ち上げの速さ、手順の正確さ……かなりのベテランですよ、中尉。」
ソウヤはわずかに口元を緩め、操縦桿を握り直した。
「……ありがとうございます。では、試運転……始めましょうか。」
サンダースの機体が、ゆっくりと片膝を立てる。
続いて、ソウヤの機体も同じように身を起こした。
ソウヤは、操縦桿を慎重に、しかし確実に引いた。
陸戦型ガンダムの巨体が、ゆっくりと片膝から立ち上がり、両脚を交互に踏みしめて上体を起こす。
重い金属音が格納庫内に響き、機体の関節部から微かな油圧の唸りが漏れた。
初めての陸戦型ガンダム——量産型ガンキャノン、マスケッティアとはまったく違う重心と接地感に、ソウヤは一瞬だけ息を詰めたが、すぐに機体の挙動に合わせ、滑らかにバランスを取った。
肩が持ち上がり、頭部がわずかに前傾し、紫色のメインカメラがゆっくりと前方を捉える。
ぎこちない動きはほとんどなく、まるで長年慣れた機体のように、自然に立ち上がった。
サンダース軍曹のコックピット内では、その様子がモニターに映し出されていた。
巨体をシートに預けたまま、彼は静かに息を吐いた。
(……初めての機体で、ここまで滑らかに動かせるのか)
内心で感嘆する。
通常、初めての機体に乗れば、関節の遊びや重心の違いに戸惑い、立ち上がりすらぎこちなくなるはずだ。
だが、ソウヤの機体はほとんど無駄な揺れもなく、安定した姿勢で立ち上がっていた。
操縦桿の微調整、姿勢制御のタイミング、微細な重心移動——すべてが洗練されている。
ア・バオア・クーの激戦をくぐり抜けた男の技術が、こんな辺境の陸戦型でも即座に適応していることに、サンダースは改めて実感した。
(この中尉……ただ者じゃないな)
サンダースは小さく頷き、自分の機体を立ち上げた。
2機の陸戦型ガンダムが並んで直立し、格納庫内に重厚な存在感を放つ。
その瞬間、整備兵たちが一斉に動き出した。
「機体立ち上がり確認! みんな、足元から離れろ!」
「踏まれないように後退! 後退!」
工具を片付け、クレーンを退避させ、整備兵たちは素早く機体の周囲から散開する。
赤く光る誘導棒を持った誘導員が格納庫の出入口付近に立ち、両手を広げて合図を送った。
「機体、こちらへ! ゆっくり前進!」
誘導員は周囲を素早く見回し、近くに停車しているトラックや他のモビルスーツの位置を確認する。
「安全確認よし! 発進どうぞ!」
誘導員は赤い棒を高く掲げ、ゆっくりと振る。
ソウヤとサンダースは、無線で短く応答した。
「……了解」
「……了解です」
ソウヤの機体が、まず一歩を踏み出した。
重い足音が床面を震わせ、土埃を軽く舞い上げる。
続いてサンダースの機体が同じリズムで追従する。
2機は誘導員の棒に導かれるまま、格納庫の出入口をくぐり抜け、外の熱帯の陽光の下へゆっくりと姿を現した。ジャングルの緑が広がり、遠くで鳥の鳴き声が響く。
湿気の重たい風が、2機の装甲を撫でていく。
ソウヤのコックピット内のモニターに周囲の地形データが表示される。
操縦桿を軽く握り直し、無線スイッチを押した。
「……こちらソウヤ・タカバ中尉。第4小隊、試運転を開始します。これより基地外周を一周し、陸戦型ガンダムの基本挙動を確認を行う。歩行、旋回、軽度加速、確認作業を行います。異常があれば即時にテストを中止。……第4小隊、発進します!」
声は落ち着いていたが、わずかに緊張の色が混じっている。
無線越しに、巨漢の声が返ってきた。
「……了解、中尉。自分も追従します。
機体は問題なし。いつでも行けます」
ソウヤは小さく頷き、ペダルを前へ押し込んだ。
「では……前進開始。」
2機の陸戦型ガンダムが同時に一歩を踏み出した。
重い足音が土を震わせ、赤土の地面に深い足跡を刻む。
基地のゲート——鉄条網とコンクリート製のバリケードで囲まれた出入口——に向かって、ゆっくりと進む。
ゲートはすでに開かれ、警備兵が両脇に立って敬礼していた。
誘導員の赤い棒が、最後の合図を振る。
「ゲート通過、安全よし! 第4小隊、外周コースへどうぞ!」
2機はゲートをくぐり抜け、基地の外へ出た。
視界が一気に開け、目の前に広がるのは東南アジアの密林だった。
緑の壁が左右に迫り、頭上を覆う木々の葉が陽光を遮り、斑模様の影を落とす。
湿気の重たい空気が、機体のセンサーをかすかに曇らせる。
道はすぐに狭くなり、両側から生い茂る蔓や低木が、機体の肩やシールドをかすめる。サンダースの機体が、ソウヤの少し後ろを並走する形で追従した。
2機の足音が、ジャングルの中に響き渡る。
時折、木の根や水溜まりを跨ぐたび、機体が軽く揺れるが、どちらの操縦者も即座に姿勢を修正した。
(この地面の感触なら、歩行システム+7くらいか。)
ソウヤは素早く歩行システムを変更し、モニターに映る地形を睨みながら、無線で短く言った。
「……ジャブローで密林戦はしたけど。やっぱり、視界が悪いな。ジャブローとは土質が違う……ここの地形にも、馴れないとな。」
サンダースの声が、穏やかに返ってきた。
「……ええ、そうですね。地面の感触、木々の影、湿気……全部が敵にも味方にもなる。中尉、ゆっくりでいいので。機体に慣れるのが先です」
2機は、さらに密林の奥へ進んでいく。
密林を歩く2機の陸戦型ガンダムは、まるで巨人の足音のように、重く低く響く足音をジャングルに刻んでいた。
周囲は息苦しいほどの密生した緑で、視界は10メートル先までしか利かず、木々の間を縫うように進むしかない。
時折、遠くで猿の鳴き声や鳥の警戒音が響き、ジャングル全体が2機の存在に息を潜めているようだった。
ソウヤはモニターの映像を睨みながら、無線で静かに尋ねた。
「……軍曹は、前にもこの部隊に配属されていたようですね?」
サンダースの機体が、わずかに歩幅を合わせて追従しながら、穏やかな声で答えた。
「……ええ、2ヶ月前までは、ここにいました。
アプサラス開発基地攻略の後に、所属していた小隊が解散。
その後、ユーラシア大陸のあちこちを転々として……ようやく戻ってきました。」
ソウヤは小さく頷いた。
「……土地勘があるんですね」
「はい。木々の匂い、土の感触、空気……全部覚えてますよ。」
2機はしばらく無言で進んだ。
木の根を跨ぎ、倒木を避けながら、ゆっくりと外周コースを回る。
湿気がコックピットの空調を試すように、モニターの映像を曇らせる。
やがて、サンダースが低い声で尋ねた。
「……中尉は、ア・バオア・クー帰り……なんですか?」
ソウヤは操縦桿を握る手に、わずかに力を込めた。
一瞬の間を置いて、静かに答える。
「……ええ、そうです。誰から聞いたんですか?」
「コジマ大隊長からです。……ですが、さっきの立ち上がり方を見て、確信しました。初めての機体で、あそこまで滑らかに動かせるパイロットなんて、そうはいませんよ。」
ソウヤは苦笑を浮かべた。
無線越しに、わずかに自嘲の色が混じる。
「……操縦技術か……。俺の技術なんて、大したことないですよ。ただ、生き残っただけですよ。」
サンダースの声が、少し重くなる。
「……ア・バオア・クーを戦い抜いた腕前で、こんな辺境のコジマ大隊基地に配属されるなんて……普通じゃない。」
ソウヤは少し考えてから、静かに言葉を紡いだ。
「……俺は、正しいと思ったことを貫こうとしたんです。それが、軍の規範に合わなかった。だから、ここに来ただけです……。」
サンダースは、無言で機体を進めた。
胸の奥で、かつて最も敬愛した男——シロー・アマダの顔がよぎる。
彼も、同じように自分の「正しさ」を貫いて、
周囲の常識に捕らわれそうになりながらも、自分の愛を貫こうとした。
ソウヤの言葉が、シローの背中と重なる。
ソウヤは続けて言った。
「……でも、地上に左遷されて、良かったのかもしれない。ここに来れたから……新しい目標が、できるかもしれない。」
サンダースの声が、わずかに上がる。
「……新しい目標、ですか?」
「ええ」
ソウヤは、操縦桿を握ったまま、静かに告げた。
「……地上に残ったジオン兵を、一人でも多く……宇宙に帰すことです…。」
サンダースは息を飲んだ。
巨体がシートの中でわずかに動く。
「……それは、途方もないことですよ。残ったジオン兵は、素直に聞くはずがない。夢物語みたいなものじゃないですか。」
ソウヤは小さく頷いた。
「……確かに、途方もなく、無謀で、夢物語みたいなものです。ジオン兵の怨みや怒りは、根深い。それでも……誰かが、やらないといけない。」
彼は、わずかに声を低くした。
「……俺は、知らなかったとはいえ、ジオンに戦いを強要された、罪のない少女たちを殺してしまった。だから……その少女たちに報いるために、俺は戦うんです。」
サンダースの機体が、わずかに歩みを緩めた。
「……中尉…。」
ソウヤは、紫色のメインカメラを前へ向け、静かに、はっきりと宣言した。
「……俺は、残党を“殺す”んじゃない。宇宙に“帰す”ために、戦うんだと。」
ジャングルの静寂が二人の言葉を包み込んだ。
木々の葉ずれと、2機の足音だけが響く。
サンダースは、胸の奥でシロー・アマダの笑顔を思い浮かべた。
サンダースは、低く、しかし確かな声で答えた。
「……分かりました、中尉。……俺も、その夢物語に付き合いますよ」
ソウヤの瞳が見開かれた。
予想外の返答に、胸の奥が熱くなった。
「……軍曹……?」
サンダースの機体は歩みを緩めず、ソウヤの少し後ろを並走し続ける。
無線から聞こえるサンダースの声は、確信に満ちていた。
「中尉、あなたとよく似た人物を、俺は知っています。」
「……似た、人物?」
「ええ。その人は、戦場の中でも……ジオン兵やゲリラすら、手を差し伸べようとした。敵味方なんて関係なく、命を救おうとした。自分の信念を最後まで貫いた人です。」
サンダースの声に静かな誇りが宿っていた。
それは、ただの思い出話ではなく、心の底から敬愛する相手に対する、深い信頼と感謝の色だった。
ソウヤは、ゆっくりと息を吐いた。
サンダースの言葉の重みを感じ取り、無線で静かに尋ねた。
「……その人物のことを、心から敬愛してるんですね。」
サンダースは、わずかに間を置いた。
コックピット内で、巨体がシートに深く沈み込む音がした。
「……ええ。自分のジンクスを、打ち壊してくれた人ですから。」
声に懐かしさと切なさが混じる。
ジャングルの葉ずれが、二人の沈黙を優しく包む。
2機の足音だけが、規則正しく響き続ける。
ソウヤは、操縦桿を握ったまま、静かに言った。
「……その人……今は?」
サンダースは、短く息を吐いた。
「……もう、ここにはいません。中尉の言葉を聞いた時、ふと思ったんです。あの人も、きっと同じことを言っただろうなって。」
ソウヤは、紫色のメインカメラを前方に向けたまま、静かに頷いた。
「……ありがとうございます、軍曹。……俺も、その人のような軍人になりたいです。」
サンダースの声が、わずかに柔らかくなる。
「……なれますよ、中尉。俺が、傍で見てますから。」
2機は、密林の奥へ、さらに進んでいった。
木々の隙間から差し込む陽光が、2機の装甲を優しく照らす。
すると、密林がぱっと開け、目の前にコジマ大隊基地の景色が広がった。
鉄条網に囲まれたゲートの向こうには、プレハブの格納庫、監視塔、テント群、そして遠くで整備兵たちの小さな影が動く。
外周を一周し、試運転は無事に終了したようだ。
ソウヤは操縦桿を軽く緩め、無線で静かに言った。
「……サンダース軍曹、これから、よろしくお願いいたします。」
声は穏やかだが、確かな決意が込められていた。
短い時間で、二人の間に生まれた信頼が言葉に温かみを添えている。
サンダースの声が無線越しに返ってきた。
「……よろしくお願いいたします。タカバ隊長。」
"隊長"という呼び方に、ソウヤは一瞬、胸の奥が熱くなった。
まだ慣れない響きだが、そこに込められた敬意と期待が、静かに伝わってくる。
2機の陸戦型ガンダムは、基地のゲートに向かって歩を進めた。
ゲートが開かれ、誘導員の赤い棒が振られる。
警備兵が敬礼し、整備兵たちが手を振って迎える。
2機はゲートをくぐり抜け、格納庫へと帰投した。
ジャングルの静けさの中に、二人の新たな誓いが静かに響き合う。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
時系列整理が早く終わったので、投稿することが出来ました!
今回はアンケートを試しに作ってみましたので、興味があれば、どうぞー!
そして、遂にソウヤとサンダースの第4小隊が次回から、本格的に始動します!
新たな原作キャラクター、オリジナルキャラクターも登場しますので、お楽しみに!
ではでは、これからもよろしくお願いいたします。
感想なども、気軽に書いてくださいねー♪
出来る限りは、お返事を書きます!
【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?
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陸戦型ジム改
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バイアリーターク
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ペイルライダー・ヴァンガード
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ペイルライダー・マスケッティア
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ヴァルキリー
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グフ・ノクターン