コジマ大隊基地から南東へ約80キロ、ベトナムの山間部に位置する小さな農村。
朝の柔らかな陽光が、のどかな風景を優しく包み込んでいた。
村の周囲はどこまでも続く水田と畑が広がり、遠くの山々が青く霞んでいる。
村の北側には緩やかな丘が連なり、その斜面を覆うように薄紫色の花畑が一面に咲き誇っていた。
花は朝露を纏い、風にそよぐたびに淡い光を反射し、まるで丘全体が優しい紫の絨毯を敷いたように見えた。
村の中心部は質素な佇まいだった。
木と竹で組まれた家々が点在し、屋根は古びたトタン板で覆われている。
家々の間を細い土の道が縫うように通り、道端には洗濯物が干され、鶏がのんびりと歩いていた。
一見、戦後の混乱など感じさせない、穏やかな日常の風景だった。
だが、そんな穏やかな風景に不釣り合いなものが、コックピットのモニターに映し出されていた。
ザクⅡだ。
村の前の畑の真ん中に、1機のザクⅡが立っていた。
右肩のシールドはなく、左肩のスパイクアーマーには無数の弾痕が刻まれ、装甲板はところどころ赤錆びて剥げ落ちている。
右手に握られたザク・マシンガンは、銃身が汚れと錆でくすみ、整備がほとんどされていないことが一目で分かった。
この状態なら、弾詰まりか暴発する可能性が高い。
それでも、ザクⅡはマシンガンをこちらに銃口を向けていた。
(……これくらいの敵なら、俺とサンダース軍曹の陸戦型ガンダム2機であっという間に制圧できるはずなんだが…)
火力、機動性、防御面——すべてにおいて、こちらが圧倒的に優位だ。
あっという間に片付けられるはずなのだが…。
なのだが……なの…だが…。
ソウヤはモニターを凝視し、思わず操縦桿を強く握りしめた。
サンダース軍曹の機体からも、無線越しに重い息が漏れる。
ザクⅡの足元に、村人と思われる人々が密集していた。鍬や鎌、竹槍、手製の槍のようなものを手に持ち、ザクⅡの脚に群がるように立ち塞がっている。
老若男女、子供までが混じり、皆一様にこちらを睨みつけ、威嚇するような声を上げていた。
ザクⅡの巨体は動かず、ただマシンガンを構えたまま、村人たちを守るように立っている。
まるで、ザクⅡが「村の守護者」のように。
ソウヤは頭を抱えた。
「……どういうことだ…?」
サンダースの声が、無線越しに低く響く。
「……隊長……あれは……村人たちが、ザクを守ってませんか……?」
ソウヤはモニターを拡大し、村人たちの表情を確かめた。
怯えではなく、怒りと決意に満ちた目。
子供たちは母親の後ろに隠れながらも、拳を握りしめている。
彼らは、明らかに「こちらを敵」と認識していた。
「……中尉。どうします?このまま制圧すれば……村人たちも巻き込むことになります。」
ソウヤは、操縦桿を握ったまま、静かに目を閉じた。
「……待機をお願いします、軍曹。……まずは、話をしてみます。」
通信機をスピーカーモードに切り替え、ザクⅡと村人たちに穏やかな声で呼び掛けた。
「……こちら、地球連邦軍、コジマ大隊第4小隊、ソウヤ・タカバ中尉。ザクのパイロット、および村の皆さん。私達は危害を加えるつもりはありません。話を聞かせてください。」
ザクⅡのコックピットから、返事はない。
だが、村人たちの間でざわめきが広がった。
鍬を握る手が震え、子供が泣き出した。
子供が泣き出したのを合図に、村人たちが一斉に動き出した。
「ワアーーーッ!」という怒号のような叫び声が上がり、鍬や鎌を掲げた村人たちが、畑を駆け抜けてこちらに向かってきた。
老いも若きも、男も女も、子供さえもが、怒りと恐怖と決意が入り混じった表情で陸戦型ガンダムの足元へ殺到する。
まるで、巨大な敵を追い払うように、村全体が一つの意志で動いていた。ソウヤは思わず身を乗り出した。
「……!? 何だ、これ!」
サンダースの機体からも、無線越しに驚きの声が漏れる。
「……隊長! 村人たちが……俺たちに向かってきてます!」
村人たちは畑に転がる石を拾い上げると、次々と投げ始めた。
小さな石が、陸戦型ガンダムの赤く塗装された爪先部分に当たる。
カン、カン、カン……と、金属と石がぶつかる乾いた音が連続して響く。
石はほとんどダメージを与えないが、村人たちの目は本気だった。
「出て行け!」
「俺達の村に手を出すな!」
という怒声が、断片的に聞こえてくる。
ソウヤはモニターを凝視した。
村人たちは、ザクⅡの脚を守るように密集し、こちらを睨みつけながら石を投げ続けている。
このまま前進すれば、モビルスーツの歩行に巻き込まれ、誰かが怪我をする——最悪、踏み潰すことになる。
(……これ以上、近づけない)
ソウヤは操縦桿を握り直し、無線で短く指示を出した。
「……軍曹、撤収しましょう!このままでは村人を巻き込んでしまう!」
サンダースの声が、即座に返ってきた。
「了解です、隊長!俺が後衛を務めます。ゆっくり下がってください!」
2機の陸戦型ガンダムは、ゆっくりと後退を始めた。
重い足音が逆方向に響き、畑の土を抉る。
村人たちの投石はまだ続いていたが、距離が開くにつれ、次第に勢いが弱まる。
ザクⅡは動かず、ただマシンガンを構えたまま、村人たちを背後に守るように立っていた。
ソウヤはバックモニターを確認した。
村人たちは、自分たちが撤退したのを見て、歓喜の声を上げていた。
鍬を掲げ、拳を振り上げ、子供たちが母親に抱きつきながら笑っている。
まるで、巨大な怪物が去ったことを祝うように。
「……」
ソウヤは唇を噛んだ。
釈然としない思いが、胸の奥で渦巻く。
だが、今はこれ以上近づけない。
2機は密林の影へと後退していった。
ソウヤは無線で静かに呟いた。
「……軍曹。……帰投しましょう。……一旦、この事をコジマ中佐に報告をしてから、出直しましょう。」
サンダースの声が、穏やかだが確かな響きで返ってきた。
「……ええ、隊長。……俺も、そう思います。」
二人はコジマ基地に帰投するのだった。
3日前、匿名の通報があった。
山間部の小さな村にジオン残党のザクⅡが1機いると、座標と共に報せられた。
地図で調べたが、その座標には地図上では、村は存在していないとされていた。
第1小隊と第2小隊はパトロールのために出払っており、第3小隊は機体の整備のために大隊は手一杯だった。
そこで、コジマ中佐は結成したばかりの第4小隊の自分達に該当する座標の偵察、及び、ザクⅡを発見したら、投降の呼び掛けをするように指令を受けた。
自分とサンダース軍曹は座標の場所に行くと、村があり、ザクⅡを発見したので、投降勧告をするために接近をしたら、村人達が出てきて、石を投げつけられた訳だ。
ソウヤは、そう回想しながら、サンダース軍曹と一緒にコジマ大隊基地の塗装されてない道を歩き、コジマ大隊長がおられるテントに向かっていた。
基地内の道は赤土がむき出しのままの未舗装路で、軍用ブーツの底に土が食い込み、歩くたびに軽い音を立てた。
遠くで整備兵の工具音とミデア輸送機のエンジン始動音が混じり合い、日常の喧騒が戻ってきていた。
だが、ソウヤの胸の中には、先ほどの村の光景がまだ鮮やかに残っていた。
ザクⅡの足元を守る村人たち。
投げつけられる石の音。
歓喜の声で自分たちを見送る子供たちの笑顔。
(……なぜ、あの人たちはザクを守ったんだ?あれはジオン残党の機体のはずだ。なのに……まるで、村の味方のように……)
ソウヤは隣を歩くサンダース軍曹に視線を向けた。
巨漢の軍曹は無言で前を向いたまま、ゆっくりと歩を進めている。
ドレッドヘアが朝風にわずかに揺れ、表情はいつも通り落ち着いていたが、
目には、先ほどと同じ困惑が残っているのが分かった。
「……軍曹」
ソウヤが小さく呼びかけた。
サンダースは、わずかに首を傾げて応じた。
「……はい、隊長。」
「……あの村の人たち……本当に、ザクを守っていたんですよね?」
サンダースは、足を止めずに答えた。
「……ええ。間違いありません。あの人たちは、俺たちを『敵』と見てた。ザクを『味方』として……」
二人は、しばらく無言で歩いた。
コジマ中佐の大型テントが見えてきた。
ソウヤは、深く息を吐いた。
「……中佐に……どう説明したらいいのやら……」
サンダースが、低く呟いた。
「……正直に、です。見たままを。村人たちがザクを守っていたこと。石を投げてきたこと。……それが、事実ですから。」
ソウヤは頷いた。
「……ええ、それしかありませんね。」
二人はテントの幕をめくって中へ入る。
コジマ中佐は地図を広げた机の前に座り、眼鏡をかけ直しながら二人を迎えた。
「……やあ、タカバ中尉、サンダース軍曹、お帰り。偵察の結果は?」
ソウヤは背筋を伸ばし、静かに報告を始めた。
「……座標地点に、小さな農村がありました。
そして……通報通りにザクⅡが1機、いました。」
コジマ中佐の眉がわずかに動いた。
「……ザクはいたのか…。投降勧告は?」
ソウヤは首を横に振る。
「……できませんでした。ザクの足元に、村人たちが……密集していて。私たちを、敵と見て……石を投げてきました。」
テントの中に重い沈黙が落ちた。
コジマ中佐は眼鏡を外し、ゆっくりと息を吐いた。
「……村人たちが、ザクを守っていた……と?」
「……はい。老若男女、子供までが……ザクの前に立ち塞がり、私たちを追い払おうとしました」
サンダースが、静かに付け加えた。
「……ザクは動かず、ただ構えていただけです。村人たちを守るように……」
コジマ中佐は地図に視線を落とした。
指で座標を軽く叩きながら、考え込む。
コジマ中佐は地図に視線を落としたまま、しばらく沈黙した。
指で座標を軽く叩く音だけがテントの中に響く。
やがて、彼はゆっくりと顔を上げ、眼鏡をかけ直した。
声は落ち着いていたが、言葉の一つ一つに重みがあった。
「……村を発見しただけ、良しとしよう。」
ソウヤとサンダースは、わずかに身を固くした。
コジマ中佐は机に両手を置き、静かに続けた。
「今は、終戦したばかりだ。……民衆は我々、連邦軍の行動に神経質になっているはず。ここで不祥事を起こしたら、民衆はどうすると思う?」
コジマ中佐はソウヤの目を見て、言葉を重ねた。
「我々、連邦軍を快く思わず、暴動を起こすか……最悪、ジオン残党に手を貸す者が出てくる可能性すらある。特に、この辺りはジオン軍の影響が根深く残っている。民衆の信頼を失うようなことは、避けなければならない。」
ソウヤは頷いた。
「はい、中佐。民衆の信頼を失うような真似は……避けたいです。今は『力で押し通す』べきではありません。ザクがなぜ、村にいるのか。村人たちがなぜ、ザクを守っているのか……それを調べてから再度、ザクに投降を呼び掛けてみます。」
コジマ中佐は、わずかに口元を緩め、優しい笑みを浮かべた。
「……その通りだ。今はまず、相手のことを知ることが私たちの仕事だ。頼んだぞ、二人共!」
テントの中に再び静寂が落ちた。
外では、基地の日常音が遠く響いている。
ソウヤとサンダースはコジマ中佐に敬礼し、テントを後にした。
テントの外に出ると、夕日の陽光が基地の赤土を照らし、遠くで整備兵の掛け声が響いている。
サンダース軍曹が、ゆっくりと歩みを止め、ソウヤに向き直った。
「……隊長。知り合いのゲリラに、あの村の事を聞いてみるので、ここで失礼します。」
巨漢の軍曹は、いつもの落ち着いた声で言った。
ドレッドヘアが風に揺れ、表情は変わらないが、目には静かな決意が宿っている。
ソウヤは小さく頷いた。
「……了解しました。何か分かりましたら、すぐに報告をお願いします。」
サンダースは軽く敬礼を返し、通信施設の中へ入っていた。
ソウヤはその足で、司令部近くの士官宿舎に戻った。
簡素なプレハブの建物は、戦後の仮設宿舎らしく、壁に細かなひびが入り、床は赤土の埃で薄く汚れている。
自分の部屋——狭い個室——に入り、ドアを閉めると、ようやく肩の力が抜けた。
部屋の中央に置かれたパイプ椅子に腰を下ろす。
金属の冷たい感触が背中に伝わり、ソウヤはゆっくりと息を吐いた。
机の上には、今日の偵察報告書用の用紙と配属予定者の書類が並んでいる。
ソウヤは、まず配属予定者の書類に目を落とした。
第4小隊に新しく加わるホバートラックの人員確認だ。
一枚目の書類に目を通す。
書類の添付写真には、鮮やかな赤髪の若い男性が写っていた。
鋭く光るブラウンの瞳、眉をきつく寄せ、睨みつけるような凶悪な目つきで、威圧感が半端ない。
表情は不機嫌極まりなく、口をへの字に強く引き結び、顎を少し突き出すような挑発的な顔つきだった。
ソウヤは彼の名前と異動理由に目を通す。
[ノア・ヴェルナー 伍長]
年齢18歳 出身 地球・北米
終戦直後にMSパイロット志望だったが、適性試験で不合格。ホバートラックに回され、不満が爆発し、何度も問題行動を起こしたため、コジマ大隊基地第4小隊に配属。
ノア・ヴェルナー伍長の書類を一通り、目を通すと二人目の書類をヴェルナー伍長の書類の上に重ね、二人目の女性の書類に目を通し始め、添付写真には長い金髪が柔らかく波打ち、額を覆う前髪は軽く分けられ、細く垂れた眉がエメラルドグリーンの大きな瞳を優しく縁取った綺麗な女性が写っていた。
ソウヤはその顔写真を見て、まるで戦場に迷い込んだ女性学者のようだと思った。
そして、彼女の名前と異動理由を読み始める。
[エミリア・ドットナー 准尉]
年齢20歳 出身 地球・ヨーロッパ
重要作戦中に誤った判断をしたために、部隊を全滅。上官に反抗的な態度を取ったため、コジマ大隊基地に異動。
ソウヤは書類を机に置いた。
「……俺とサンダース軍曹を含めて、色々と抱えている人が集まりそうだな…。」
苦笑が漏れた。
自分はア・バオア・クー帰りの左遷組。
サンダース軍曹はこの基地に居たのに、色んな部隊にたらい回しされた。
そして、新しく来る二人も、それぞれ何かを抱えている。
ソウヤは二人の書類を丁寧に揃え、机の端に置いた。
そして、今日の村の報告書作成に取り掛かった。
ペンを握り、今日見た光景を一つずつ書き起こす。
ザクⅡの錆びた姿。
村人たちの怒りと決意の目。
石の乾いた音。
歓喜の声で自分たちを見送る子供たちの笑顔。
ペンが止まる。
ソウヤは窓の外を見た。
基地の空は日が沈み、どんどんと暗くなっていく。
「……次は、徒歩で村に行くか。……ちゃんと村人から、話を聞かないとな。」
ソウヤは報告書を閉じ、静かに息を吐いた。
そして、ブーツを脱ぐとベッドに潜り込み、眠りに落ちたのだった。
ドアから、けたたましくノックする音がした。
ソウヤは慌ててベッドから飛び起き、ドアを開ける。
扉の前に膝に手をつき、大きく息を吸うサンダース軍曹が立っていた。
大急ぎで駆けつけた様子が、乱れたドレッドヘアーと荒い呼吸で一目で分かった。
巨漢の体が肩で上下し、額に汗が光っている。
「サンダース軍曹!? どうしたんですか!」
ソウヤは驚いて声を上げた。
サンダースは息を整えながら、すぐに本題に入った。
「……タカバ隊長。あの村は……麻薬の村です。だから、地図に村が載っていなかったんです。」
ソウヤは、呆然となった。
「……麻薬……?」
サンダースは辺りを素早く見回し、声を低く抑えて続ける。
「知り合いのゲリラから聞いた話ですが……あの村は、小規模なマフィアが取り仕切っており、村人たちを借金と見せしめの刑罰で支配し、ケシの花を栽培させていたそうです。しかし、一年戦争が勃発し、この地域が戦場になったことで、マフィアは容易に村に近づけなくなった。マフィアは村に近づくためにジオン軍に賄賂を渡したりしましたが、逆に金をむしり取られるだけでした。
そのせいで、売り物の麻薬も無く、資金が減り、組織の維持が困難になったそうです」
ソウヤは息を飲んだ。
サンダースは、さらに言葉を続けた。
「ですが、一年戦争が終結したことで、戦闘に巻き込まれるリスクが減りました。マフィアは村に戻り、ケシの収穫を再開しようとした……ところが、村にザクⅡが居座り、マフィアを追い払ったそうです。だから、マフィアは村に居座ったザクを排除するために、連邦軍の俺たちに通報した……そういうことです。」
ソウヤは思い出す。
村の北側に広がる、緩やかな丘。
その斜面を覆うように咲き誇っていた、薄紫色の花畑。
あれは……ケシの花だったのだ。
ソウヤは思考を巡らせた。
花は今、綺麗に咲き誇っていた。
つまり、もうすぐ花は散り、アヘンの原料となるさく果から乳液を採取しなければならない時期だ。
この収穫の時期を逃せば、マフィアは大きな損害を被る。
だから、マフィアは何が何でも村を取り戻そうとしているはずだ。
「……だから、あの人たちは……」
ソウヤは呟いた。
ザクⅡは村をマフィアから守る「守護者」だったのだ。
サンダースは、静かに頷いた。
「……ええ。村人たちは、マフィアに支配され、ケシを強制栽培させられていた。ザクが来たことで、初めて解放された……だから、俺たち連邦軍がザクを排除しようとしたら、必死で守ろうとしたんです。」
ソウヤは、拳を握りしめた。
「……マフィアが通報したのは……俺たちを『道具』として使ったということか。」
部屋の中に重い沈黙が落ちた。
サンダースは息を整えながら、ドアノブに手をついて言った。
「……悪い報せがあります。ザクが1機、あの村に向かっているそうです」
ソウヤの瞳が大きく見開かれた。
「……なん……だと?」
「あの村のザクじゃありません。マフィアがザクを手に入れたか、ジオンの敗残兵を雇ったのでしょう。知り合いのゲリラが、そっちの方に移動するザクを見たと言ってました。」
ソウヤの顔から血の気が引いた。
胸の奥で、何かが弾けるように音を立てた。
ソウヤは即座に部屋から飛び出した。
サンダースも巨体を揺らして後に続く。
廊下を駆けながら、ソウヤは叫んだ。
「サンダース軍曹、スクランブルだ!村を守るぞ!」
その言葉を聞いた瞬間、サンダースの頭に懐かしい記憶がよぎった。
かつての隊長——シロー・アマダ。
ゲリラの村を助けるために、大隊長のサイン付き書類を手に入れ、無理矢理出撃したあの姿。
ソウヤの背中が、今、シローの背中と重なった。
(……隊長……あなたも、同じことを……)
サンダースは、静かに、しかし強く頷いた。
嬉しさが胸の奥に広がる。
二人は駆け足で、コジマ中佐の指揮テントに飛び込んだ。
テントの幕を勢いよくめくり、ソウヤは息を切らしながら報告した。
「中佐!先ほどの村に、ザクが1機向かっています!村人たちが危険です!今すぐ、俺たちをあの村に向かわせてください!歩兵1個小隊も派遣して戴きたい!」
コジマ中佐は、急な申し出に一瞬困惑した顔を見せた。
眼鏡の奥の目が、ソウヤとサンダースを交互に見つめる。
「……今すぐ?根拠は?」
ソウヤは、短く、しかし確実に説明した。
「サンダース軍曹の知り合いのゲリラからの情報です。
マフィアがザクを雇いました。村はマフィアに支配されていて……マフィアから、村人を守るためにザクが居座っていたんです。マフィアは収穫期を逃せない。奴らはザクを排除しようとしているんです!村が戦場になります!」
中佐はサンダースの顔を見た。
サンダースは無言で静かに頷いた。
コジマ中佐は二人の目を見て、察した。
この二人は何かを決意している。
「……分かった。スクランブル許可する。何かあれば……責任は取るんだな?」
ソウヤとサンダースは同時に深く頷いた。
「……はい!」
「……勿論です。」
中佐はもう一度ため息をつき、通信機に手を伸ばした。
「……だが、それだけじゃないだろう?タカバ中尉、何か考えがあるんだな?」
ソウヤは、静かに、しかしはっきりと答えた。
「……ビームライフルを使わせてください。……村人たちを救うために……。」
「……ビームライフルか。あれは……村に当たれば、一撃で村ごと吹き飛ぶぞ?」
「分かっています。だからこそ……使わせてください。俺は……村もザクのパイロットも救いたいんです。」
中佐はしばらくソウヤの目を見つめた。
やがて、ゆっくりと頷いた。
「……許可する。ただし、絶対に村に当てるなよ。分かったな?」
「……ありがとうございます。」
二人は深く敬礼し、テントを飛び出した。
コジマ中佐はテントから出ていく二人の背中を見送った。
静かに、独り言のように呟く。
「……誰に似たのやら……」
ソウヤとサンダースは格納庫に入ると、素早く跪いて待機している2機の陸戦型ガンダムの足元へ駆け寄った。
上部コックピットハッチから垂れ下がる牽引ワイヤーの先の鐙に、二人とも同時に足を乗せる。
電動モーターの低い唸りとともにワイヤーが巻き取られ、二人は一気にコックピットまで引き上げられた。
ハッチが開いた瞬間、二人はコックピットに滑り込み、シートに体を沈めた。
ソウヤは即座にメインスイッチを入れ、起動シークエンスを開始する。
指がコンソールを滑るように動き、核融合炉の点火、Iフィールドの安定、エネルギーバイパスの確認を次々とクリアしていく。
隣のサンダースも、同じリズムで自分の機体を起動させた。
ソウヤはモニターに映るステータスを確認しながら、無線で短く指示を出した。
「……軍曹は100mmマシンガンを装備してください。俺はビームライフルを装備して、行きます。」
サンダースの声が、即座に返ってきた。
「……了解です、隊長。」
二機の陸戦型ガンダムが同時に起動を完了した。
ソウヤの機体の紫色のメインカメラが、サンダースの機体の緑色のカメラが、それぞれ静かに光を灯す。
コックピット内に低く唸る振動が広がり、システムが全開になる。
「起動完了。待機態勢から戦闘態勢へ移行する。」
ソウヤが操縦桿を握り直し、機体をゆっくりと立ち上がらせる。
サンダースの機体も同じタイミングで身を起こした。
2機の重い足音が格納庫の床を震わせ、整備兵たちが慌てて周囲から散開する。
「第4小隊がスクランブルだ! 退け退け!!」
整備兵の一人が叫び、赤く光る誘導棒を持った誘導員が両手を広げて合図を送る。
「前進! ゆっくりだ! 弾薬庫へ!」
2機の陸戦型ガンダムは、格納庫の巨大な扉をくぐり抜け、やや北側の弾薬庫へと移動した。
明け方の薄明かりが基地を淡く染め、朝霧が地面に低く漂っている。
弾薬庫前の地面には、鉄板が敷かれ、その上に2つの武装が置かれていた。
100mmマシンガンとビームライフル。
サンダースの機体が先に鉄板の上に膝をつき、マシンガンを拾い上げた。
銃身が朝の冷たい空気を切り裂くように持ち上げられる。
続いてソウヤの機体がビームライフルを掴み、右手に保持する。
ビームライフルのバレルが、薄い朝焼けを冷たく反射する。
「……システムとの同期を確認、武装完了。」
ソウヤの声が、無線に響く。サンダースが、静かに応じた。
「……こちらも完了です。いつでも行けます、隊長。」
二機は鉄板から立ち上がり、基地のゲートに向かった。
警備兵が慌ててゲートを開け、敬礼する。
明け方の霧が2機の装甲を湿らせていく。
ゲートをくぐり抜けると、視界が一気に薄暗い密林に飲み込まれた。
東の空がわずかに明るくなり始め、木々の隙間から朝焼けの淡いオレンジが差し込む。
ソウヤは操縦桿を握りしめ、静かに呟いた。
「……村を守る。……絶対にだ」
サンダースの機体が、隣を並走しながら、穏やかに応じた。
「……ええ、隊長。俺も……全力で…」
2機の陸戦型ガンダムは、明け方の密林を切り裂くように村へと急いだ。
村の畑で、2機のザクが対峙していた。朝霧が薄く立ち込める中、片方のザク——村の守護者であるザクⅡ——は、村を背に立ち、村を守るように両脚を踏ん張っていた。
右肩のシールドはなく、左肩のスパイクアーマーは弾痕だらけで赤錆びているが、その姿勢は揺るがなかった。
だが、足元には村人たちの姿はなかった。
もう片方のザクは、村を正面に見据えるように構えていた。
装甲は錆がほとんどなく、右手に握られたザク・マシンガンは整備が行き届いている。
その機体は、まるで今から襲う獲物を吟味する獣のように、ゆっくりと首を振って村全体を眺めていた。
ザクの足元には、複数のピックアップトラックが停まっていた。
荷台や運転席に武器を持った男たちが乗っている。
小銃や機関砲、手製の爆弾のようなものを抱え、皆一様に村を睨みつけている。
トラックのエンジン音が低く唸り、朝の静けさを切り裂いていた。
すると、一台のピックアップトラックの荷台から、男が降りてきた。
黒いジャケットにサングラス、首に金のネックレスをぶら下げた、いかにもマフィアのボスらしい男だ。
手に持ったメガホンを村の方に向け、ゆっくりとスイッチを入れる。
金属的な歪んだ声が畑全体に響き渡った。
「オイ、村のクソども!そしてザクのパイロット!よく聞けよ!」
男はメガホンを口に押し当て、声を張り上げた。
「この村は俺たちのモンだ!ケシ畑は俺たちの金になる!お前らは、俺達の奴隷だ!ザクの野郎も、邪魔ならぶっ壊すぞ!今すぐ出て行け!さもなくば……全員、血祭りだ!」
声は朝霧を切り裂き、村の家々にまで届いた。
丘の薄紫の花畑が風にそよぐ。
花はまだ朝露を纏い、静かに輝いている。
だが、その美しさとは裏腹に空気が一気に張りつめた。村のザクⅡは動かない。
ただ、マシンガンを構えたまま、静かに相手を睨みつけていた。
トラックの男たちは、嘲笑うように笑い声を上げた。
武器を構え、ゆっくりと前進を始める。
遠くの密林の影から、2機の陸戦型ガンダムが静かに姿を現そうとしていた。
ソウヤはモニターの映像をズームする。
朝霧の向こう、畑の中央で2機のザクⅡが対峙していた。
村を守るザクは村を背に立ち、静かに構えていた。
対するもう1機のザクは村を正面に見据え、睨んでいる。
その足元には、ピックアップトラックの荷台に武器を持った男たちが密集し、エンジン音を低く唸らせていた。
「ギリギリ間に合ったか。」
ソウヤは小さく息を吐き、無線で短く指示を出した。
「軍曹。俺が囮になります。軍曹は迂回して、マフィア側のザクに接近してください。接近したら、腕や足の関節を撃ち抜いて、戦闘不能に!」
サンダースの声が、即座に返ってきた。
「了解です、隊長。俺は右から回ります。援護は任せてください!」
サンダースの機体が、静かに密林の奥へ滑り込むように移動を開始した。
ソウヤはバックモニターでその動きを確認し、操縦桿を握り直した。
陸戦型ガンダムのバックパックのスラスターが低く唸り、機体が前傾する。
ソウヤはコックピットのコンソールに指を走らせ、ビームライフルの設定を変更した。
収束器の出力を絞り、バースト・ラピッドモードへ切り替える。
短時間で連続射撃が可能になるが、威力は落ちる。
だが、今回はこれで良い。
「……準備完了!」
ソウヤの機体が勢いよく密林から飛び出した。
朝霧を切り裂き、陸戦型ガンダムの巨体が畑の端に姿を現す。
紫色のメインカメラが鋭く光った。
2機のザクⅡが一斉に視線を向けた。
村を守るザクはわずかに身構え、マフィア側のザクはマシンガンをゆっくりと持ち上げる。
ピックアップトラックの男たちが興奮したように叫び声を上げた。
ソウヤは迷わず操縦桿の引き金を引いた。
ビームが放たれる。
淡い光の筋が、朝霧を貫き——しかし、2機のザクには命中せず、丘の斜面に直撃した。
マフィア側のザクのパイロットは、驚きに目を見開いた。
即座にマシンガンを連射する。
弾丸の雨がソウヤの機体に向かって飛ぶ。
ソウヤは冷静にステップを踏み、スラスターを短く噴射しながら回避した。
機体が軽く傾き、弾道を読みながらさらに3連射。
バーストモードのビームが、短い間隔で放たれる。
しかし、またしてもザクには命中しなかった。
マフィアのザクのパイロットは思った。
(こいつ……射撃が下手だな!)
操縦桿の引き金を引こうとした瞬間、通信機から怒鳴り声が鳴り響いた。
「避けるな! 盾になれ! さもなくば殺すぞ!」
ザクのパイロットは困惑した。
「…なんだと!?」
通信の向こうから、マフィアのボスの声が続く。
「俺たちのケシ畑をダメにするつもりか!?あのビームが当たったら、収穫がパーだ!お前は盾だ! 良いな!死んでも、ケシを守れ!」
ザクのパイロットは慌てて後ろを振り向いた。
そこには、ビームライフルに焼かれたケシの花畑が広がっていた。
薄紫の絨毯だった丘の斜面に、黒く焦げた穴がぽっかりと開き、朝露を纏った花々が無残に散らばっている。
ソウヤは、さらにトリガーを連続で引いた。
ビームライフルから4筋の閃光が放たれ、丘の斜面を切り裂くように走る。
メガ粒子がケシの花を分子レベルで分解・焼却し、花びらが舞い上がり、朝露が蒸発する音が静かな畑に響く。
マフィアのボスは絶叫した。
「やめろ! そこを撃つな! 金が……俺の金がぁぁぁ!!」
声はメガホンを通さず、ただの叫びだった。
顔は真っ赤に染まり、首の金のネックレスが震えるほどに怒りと絶望が混じっている。
彼にとって、ケシ畑は「金」そのものだった。
収穫期を逃せば、組織は崩壊する。
今、目の前でその「金」が灰になっていく。
ソウヤは無表情でさらにビームライフルを構えた。
もう一度、引き金を引く。
光の筋が丘をなぞり、花畑に新たな黒い傷を刻む。
マフィア側のザクのパイロットは慌ててマシンガンをソウヤの陸戦型ガンダムに向けようとした。
だが、その瞬間——右肘と左膝の駆動系が、正確に撃ち抜かれた。
グァン!
金属の悲鳴のような音が響き、ザクの巨体がバランスを崩す。
右から迂回してきたサンダース軍曹の陸戦型ガンダムが、100mmマシンガンをセミオートに切り替え、精密射撃を叩き込んだのだ。
緑色のメインカメラが、静かに光る。サンダースの声が、無線越しに低く響いた。
「……ビームライフルでケシを焼くなんて、思わなかったですよ、隊長。」
ザクは関節を失い、ゆっくりと倒れ込んだ。
マフィアの男たちは慌てて、ピックアップトラックをバックさせた。
トラックが泥を跳ね上げ、エンジンを唸らせて後退する。
ザクは膝から崩れ落ち、畑の土を抉りながら横たわる。
エンジンの唸りが弱まり、機体が静かになった。
ボスは荷台に乗り損ね、畑に転がり落ちた。
必死に這い上がり、ザクの下敷きにならないよう逃げる。
だが、次の瞬間——ソウヤの陸戦型ガンダムの左手が、ゆっくりと降りてきた。
巨大な指が、ボスの体を掴み上げる。
男は空中でじたばたともがき、絶叫した。
「離せ! 離せぇぇ!! 俺は……俺はただ……!」
ソウヤのコックピット内では、静かな声が響いた。
「……ただ、か」
紫色のメインカメラがボスを冷たく見下ろす。
朝霧が薄れ、丘の焼け焦げたケシ畑が朝陽に照らされる。
花は、もう二度と咲かない。
村を守るザクⅡは、ゆっくりとマシンガンを下ろした。
マフィアのボスは、ソウヤの陸戦型ガンダムの左手に掴まれたまま、必死に身をよじった。
顔を真っ赤にし、唾を飛ばしながら叫ぶ。
「お前たちに……俺を逮捕する権利はないはずだ!お前たちは連邦軍だろ! 麻薬に関する逮捕権なんてねぇ!これは越権行為だ! 俺は訴えてやる! 連邦の法廷でな!」
自信満々に、しかし声は震えていた。
金のネックレスが揺れ、汗が額を伝う。
周囲のピックアップトラックの男たちも武器を構えながら、ボスの言葉に同調してざわめく。
ソウヤは無線をスピーカーモードに切り替えた。
陸戦型ガンダムのスピーカーから、静かだが確かな声が響き渡る。
「……確かに。俺たち連邦軍には、麻薬関係の逮捕権はありません。だから、麻薬に関することなら……越権行為です。」
マフィアのボスは勝ち誇ったように笑った。
「ははは! わかってんじゃねぇか!なら、さっさと俺を離せ!」
だが、ソウヤの声は、静かに、しかし冷たく続いた。
「……だが、俺は今回、あなたを逮捕したのは『麻薬』じゃありません。反連邦武装勢力に資金援助、または、連邦政府に対する武装蜂起とテロ行為と思わしき行為をしたので、現行犯逮捕したのです。」
ボスの笑顔が凍りついた。
「……は?」
ソウヤは淡々と続ける。
「戦闘用モビルスーツを許可なく、個人的に所持しているなら、それは連邦に対する軍事レベルの脅威になります。そして、ジオン残党兵を雇っているなら……残党掃討を任務にしている俺たちは、あなたを『ジオン残党に資金援助している者』として逮捕できます。」
マフィアのボスは愕然とした。
目を見開き、口が開いたまま動かない。
「……そ、そんな……俺はただ……金のために……」
その瞬間、密林の影から歩兵小隊が現れた。
コジマ中佐の許可を得た、装備の整った兵士たち。
彼らは素早く展開し、逃げ惑うピックアップトラックを次々と制圧していく。
「動くな! 武器を捨てろ!」
「両手を上げろ!」
兵士たちの声が響き、トラックの男たちは次々に地面に伏せさせられる。
機関銃を持った男が抵抗しようとしたが即座に制圧され、手錠をかけられる。
ソウヤの陸戦型ガンダムは、ボスを地面にゆっくりと降ろした。
男は膝から崩れ落ち、土に両手をつく。
顔は青ざめ、目が虚ろだった。
「……お前……何者だ……」
ソウヤの声が、再びスピーカーから響いた。
「……地球連邦軍、コジマ大隊第4小隊、ソウヤ・タカバ中尉。あなたを現行犯で逮捕します。反連邦武装勢力への資金援助、および軍事レベルの脅威行為の容疑で。」
ボスは地面に額を押しつけるように崩れ落ちた。
周囲の男たちは次々と拘束されていく。
村を守るザクⅡのコックピットからパイロットが降り、ゆっくりと村人たちの方へ歩いていく。
ソウヤはモニター越しにその光景を見ながら、静かに息を吐いた。
「……これで、村は……守れたかな?」
サンダースの声が、無線越しに優しく響いた。
「……ええ、隊長。……よくやりました。」
朝霧がゆっくりと晴れていく中、村人たちがザクのパイロットに駆け寄る姿が見えた。
子供たちが泣きながら抱きつき、老人たちが手を差し伸べる。
戦いは終わった。
ソウヤは上部コックピットハッチを開くと、搭乗用の牽引ケーブルの鐙に足を乗せた。
ゆっくりと地上に降り立つと、焼け焦げた土の匂いが鼻を突く。
朝霧が薄れ、陽光が丘の斜面を優しく照らし始めた。
ソウヤは村人たちに囲まれたザクのパイロットに近づいた。
村人たちは、慌ててザクのパイロットを庇おうと前に出るが若いパイロットは静かに手を上げ、皆を制した。
そして、ゆっくりとソウヤの方へ歩み寄る。
連邦軍の歩兵たちが、ザクのパイロットを捕縛しようと近づいてきたがソウヤは片手を上げて制した。
「……待て。まずは、話を聞く。」
ザクのパイロットはヘルメットを脱いだ。
まだ幼さが残る顔——17歳から19歳くらいだろうか。
頰は瘦せ、目は少し落ちくぼんでいるが、
そこに宿る光は純粋で、穏やかだった。
彼は震える声で言った。
「……助けくれて、ありがとうございます。」
ソウヤは静かに頷いた。
「……こちらこそ、ありがとう。君のお陰で、村人たちが助かったよ。」
村人たちは、息を詰めて二人のやり取りを見守る。
子供たちは母親の後ろから、恐る恐る顔を覗かせていた。
ソウヤは穏やかに尋ねた。
「……どうして、村人たちを助けたんだ?」
若いパイロットは目を伏せた。
やがて、涙がぽろぽろと零れ落ちる。
「……戦いが……怖くなって。ザクを持ち出して、逃げたんです。逃げた先で、この村にたどり着いて……彼らに匿ってもらった。だから、少しでも恩返ししたくて……村の用心棒を…していたんです。」
声は震え、言葉の合間に嗚咽が混じる。
村人たちは涙を浮かべながら、彼の肩に手を置いた。
老人たちは頭を下げ、子供たちは彼の足元にすがりつく。
「許してやってください……」
「彼は、俺たちを……守ってくれたんです……」
ソウヤは静かに敬礼した。
「……君のお陰で、村人たちは救われた。君がしたことは、立派な人命の保護だ。この事は、しっかりと上に報告する。そして……君を、故郷に送り届ける。」
若いパイロットは、その場で泣き崩れた。
膝から力が抜け、土の上に座り込む。
村人たちが彼を囲み、優しく抱きしめ慰める。
老人が彼の肩を叩き、母親が子供を抱き上げながら、彼の頭を撫でた。
ソウヤは歩兵たちに視線を向けた。
「……彼の扱いを丁重に頼む。危害は加えないでくれ。」
歩兵の一人が敬礼した。
「……了解しました、中尉。」
ソウヤは再び牽引ケーブルの鐙に足を乗せ、コックピットへと引き上げられた。
ハッチが閉まり、機体が静かに立ち上がる。
通信機に向かって、ソウヤは静かに告げた。
「……第4小隊、任務完了。これより、帰投する。」
サンダースの声が、穏やかに返ってきた。
「……了解です、隊長。……よくやりました。」
2機の陸戦型ガンダムはゆっくりと旋回し、密林の奥へと歩みを進めた。
朝陽が丘の焼け跡を照らす。
焦げたケシの花びらが風に舞い、静かに散っていく。
村人たちはザクのパイロットを囲み、涙を拭きながら見送った。
子供たちは手を振り、老人たちは深く頭を下げた。
ソウヤはバックモニターでその光景を見ながら、静かに呟いた。
「……これで、少しは……償えたかな?エイル?」
機体が密林に飲み込まれていく。
紫と緑の瞳が朝陽の中で最後に輝き、消えた。
第4小隊の戦いは、一つの区切りを迎えた。
だが、ソウヤの胸に宿る「帰す」ための誓いは、
まだ、静かに燃え続けていた。
一人でも多く——宇宙に帰すために。
人々を、命を、守るために。
戦いは終わらない。
ただ、今日という日が、少しだけ優しくなっただけだ。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
遂にソウヤが率いる第4小隊が始動しました!
ここから、ソウヤの東南アジアの戦いが始まります。
今回は無双系みたいな話になりました。
いやー、一度はこんな話を書いてみたかったです。
ではでは、次のお話もお楽しみにー♪
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