機動戦士ガンダム オリオンの軌跡   作:浅片名羽馬

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第53話 それぞれの矜持

地上のモビルスーツ小隊の連邦軍の運用は、モビルスーツ3機とホバートラック1両からの編成が広く普及していた。

この運用は指揮官機に随伴機2機による、柔軟な連携、陣形編成、相互支援ができるからだ。

具体的な例を挙げると、指揮官機が先頭に立ち、移動時の指揮官機の視界確保と随伴機と共に前方への火力を集中させるのに適した陣形のアローフォーメーション。

随伴機2機が前衛をし、砲撃機体や射撃機体の火力を活かす陣形のVフォーメーション。

乱戦時や、広範囲の敵を個別に撃破したい時に使用される陣形のスプリットフォーメーション。

支援車両のホバートラックは、搭載されている高度な通信と電子戦設備で、管制や索敵、哨戒などで、モビルスーツの戦闘をサポートをする。

特にホバートラックの荷台の右脇に装備した杭状装備の特殊装備「アンダーグラウンド・ソナー」は視界の通らない状況での受動索敵に活躍した。

電磁波を阻害するミノフスキー粒子の散布下ではレーダーが無効化され、光学センサーとパイロット自身の目による有視界戦闘が基本となるが、地上ではあらゆる兵器が「音」を発する。

アンダーグラウンド・ソナーはミノフスキー粒子の影響を受けにくい地下を利用して敵音源の位置特定や音紋解析による敵識別を可能とするものである。

ベテランの聴音員が使用すればMSが歩行する際の音紋、つまり「足音」だけで数や機種まで特定することが可能だった。

その高いソナーの聴覚で獲物を探し出す様を、嗅覚の鋭い犬と喩えられ「ブラッドハウンド」と呼ばれた。

このモビルスーツ3機、支援車両が1両の構成は一年戦争時にもっとも普及した編成であった。

 

コジマ大隊の第1から第3小隊も、この標準編成を採用していた。

第1小隊は陸戦型ジム3機とホバートラック1両。

第2、第3小隊はRGM-79ジム3機とホバートラック1両の編成で、

担当区域のジオン残党の索敵とパトロールを日々繰り返していた。

一方、ソウヤたちの第4小隊はこれまで陸戦型ガンダム2機しか配備されておらず、他の小隊のような本格的な、パトロール・索敵・残党掃討任務は事実上不可能だった。

基地警備や近辺の短時間偵察しか、今までは出来なかったのだ。

しかし今回、ホバートラック1両がようやく配備された。

これで最低限の小隊規模が整い、第4小隊も本格的に任務に従事できるようになった。

これまで「待機と警備」しかできなかった第4小隊が、ついに「戦う小隊」として動き出そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

コジマ基地司令部 コジマ大隊長のテント

 

 

東南アジアの3月、湿気と熱気がテント内にこもっている。

扇風機が低く唸り、机の上に置かれた書類の端をわずかに揺らしていた。

軍用のコンパクト・レジャーチェアに腰掛けたコジマ中佐は、いつものように眼鏡を指で押し上げ、机を挟んで立っている三人を見上げた。

 

ソウヤ、エミリア、サンダース——

 

三人は背筋を伸ばし、中佐の前に並んでいる。

コジマ中佐はゆっくりと口を開いた。

 

「……第4小隊も、ようやくホバートラックが配備された。これで最低限の小隊規模の活動が行える。第4小隊も、他の小隊と同じようにパトロール任務や索敵、残党掃討にも従事してもらうことになる。」

 

中佐の声は落ち着いているが、言葉の端々に期待が滲む。

 

「今回は初のパトロールだ。気を引き締めて、万全の態勢で臨め。……分かったな?」

 

三人は同時に敬礼した。

 

「了解しました!」

 

ソウヤの声が先頭を切り、エミリアとサンダースが続く。

コジマ中佐は三人を見渡し、ふと視線を止めた。

ノア伍長の姿がない。

中佐は小さくため息をつき、眼鏡を外して額を擦った。

 

「……やはり、へそを曲げているのか?」

 

隊長のソウヤは静かに頷く。

 

「ええ、そのようです。」

 

エミリアは困ったように頰に手を当て、視線を落とした。

サンダースは呆れた様子でテントの天井を見上げ、小さく肩をすくめた。

 

「……まったく……あいつはいつまで意地を張ってるんだか…。」

 

コジマ中佐は眼鏡をかけ直し、腹の前で腕を組んだ。

その目は、いつもの穏やかさとは裏腹に少し冷たく光っていた。

 

「……まさか、あそこまでへそ曲がりとは思わなんだ。中尉の命令を無視するなら、抗命罪で軍事裁判に掛け、懲戒免職させる手段もあるぞ。」

 

言葉は静かだが、重たかった。

エミリアとサンダースが、思わず顔を見合わせた。

エミリアの瞳に不安がよぎり、サンダースの眉がわずかに寄る。

ソウヤは一瞬だけ目を伏せ、すぐに顔を上げて中佐を見た。

声は落ち着いているが、どこか必死さが滲む。

 

「……そうなれば、ノア伍長は不名誉除隊になります。民間に戻っても、まともな就職は難しいでしょう。だから……彼の意思で除隊させたいんです。もう少しだけ、待っていただけませんか?」

 

コジマ中佐は小さく鼻で笑った。

 

「……甘い対応だな、タカバ中尉。」

 

ソウヤは視線を逸らさず、静かに言葉を続けた。

 

「かも、しれません。……ですが、私は彼のこともよく知りません。入ったばかりのメンバーを、すぐに追い出したくは、ありません。だから……」

 

中佐は腕を解き、軽く椅子に体を預けた。

扇風機の風が、中佐の前髪をわずかに揺らす。

 

ソウヤは深く息を吸い、決意を込めて言った。

 

「……これから宿舎に向かい、ノア伍長を説得してみます。それでもダメなら……その時は、中佐の言う通りにします。」

 

コジマ中佐はしばらく無言でソウヤを見つめ、やがて小さく頷いた。

 

「……好きにしろ。だがな、タカバ中尉。甘やかしすぎると、チーム全体が腐るぞ。」

 

ソウヤは静かに敬礼した。

 

「了解しました」

 

エミリアとサンダースも続き、三人揃ってテントを出た。

 

ソウヤ、エミリア、サンダースの三人は、コジマ大隊長のテントを出て、赤土がむき出しの未舗装路を歩き始めた。

東南アジアの3月、乾季の終わりかけの陽射しが容赦なく照りつけ、ブーツの底で赤い粉塵を細かく巻き上げた。

三人は無言で兵舎に向かった。

道は基地の中央を横切り、プレハブの倉庫や整備棟を横目に進む。

時折、ジムの整備音やホバートラックのエンジン音が遠くから聞こえてくるが、兵士たちの姿はまばらだった。

兵舎は連邦軍標準のプレハブ長屋型、薄い金属パネルと合板で仕切られた簡素な構造。

各兵士にベッド一つ、ロッカー一つが割り当てられ、内部は昼間でも薄暗く、天井の換気扇が低く唸りを上げて埃っぽい熱風を回していた。

乾いた汗の匂いとインスタントレーションの残り香が混じり、戦場の日常を無言で語っていた。

誰かが張ったヌードポスターが壁やロッカーに幾つか貼られており、

色褪せた紙の端が扇風機の風でわずかに揺れている。

ほとんどの隊員は基地業務、整備、パトロール、哨戒に出払っており、兵舎内は閑散としていた。

夜勤明けの兵士が数名、ベッドで横になり、あるいはロッカーの前で無言でレーションを食しているだけだった。

彼らの視線が一瞬、三人に向けられたが、すぐに逸らされた。

一番端のベッドにノア伍長が横になっていた。

赤髪が乱れ、腕を頭の後ろに回して天井を睨んでいる。

ソウヤは静かに近づき、ノアのベッドの前に立った。

 

「……ノア伍長。」

 

ノアは視線を動かさず、低い声で吐き捨てた。

 

「……何だよ、任務の説教か?」

 

ソウヤは静かに溜め息を吐き、ベッドの前に立ったまま、穏やかに言った。

 

「……まあ、そうだな。これから任務なのに、君だけが来なかったから、ここまで来た。」

 

 

ノアは天井を睨んだまま、拳を固く握りしめた。

関節が白くなるほど力を込め、肩がわずかに震えていた。

 

「……ほっといてくれ。懲戒免職でも、なんでも、好きにすればいい。」

 

声は低く、投げやりだった。

だが、指先が微かに震え、息が浅くなっていた。

エミリアが隣で小さく肩を震わせた。

エメラルドグリーンの瞳が、ノアの背中を心配そうに見つめる。

彼女は唇を噛み、声を絞り出すように言った。

 

「……ノア伍長……そんな……」

 

言葉は途中で途切れ、彼女は視線を落とした。

ソウヤは一瞬、目を伏せた。

そして、再びノアを見据えて、告げた。

 

「……確かに、君はモビルスーツパイロットに向かないな。」

 

ノアの肩がピクリと動いた。

ソウヤの声は静かだが、鋭く続いた。

 

「モビルスーツ乗りは、いついかなる時でも、前線に出て、戦わないといけない…。なのに、君はベッドの上で拗ねて、ウジウジしてるだけだ。それで、モビルスーツ乗りになりたいなんて……笑わせてくれる。」

 

その言葉が、兵舎の空気を切り裂いた。

ノアの顔が一瞬で真っ赤になった。

 

次の瞬間、彼はベッドから跳ね起きようとした。

だが、ソウヤの方が早かった。

ソウヤの右手がノアの胸ぐらを掴む。

力強く、容赦なく。

ノアの体が一気に持ち上げられ、両足が地面から離れた。

踏ん張ろうとしても、空を蹴るだけ。

赤髪が乱れ、拳が空を切る。

 

先日の格納庫で見たソウヤは、穏和な笑みを浮かべていた。

 

だが、今のソウヤは違う。

蒼色の瞳が、冷たく、鋭くノアを貫いていた。

まるで、目の前の敵を絶対に殺す——そんな殺意に近い光を宿している。

 

ノアは喉を鳴らし、凄んだ。

 

「……てめぇ……!」

 

だが、ソウヤは動じない。

持ち上げたまま、ノアの顔を真正面から見据え、低く、ゆっくりと言った。

 

「お前は、ビームや敵の弾幕が雨のように降り注ぐ戦場の恐さを知っているのか?」

 

ノアの瞳が揺れた。

 

「小隊の仲間が死んだ時の絶望を知っているのか?」

 

息を詰める音が、ノアの喉から漏れた。

 

「戦闘が終わった後に、人を殺したと自覚した時の後味の悪さを知ってるのか?」

 

ソウヤの声は静かだった。

だが、その静けさが、逆に重くのしかかる。

 

「いつ、敵の待ち伏せや流れ弾で、自分が死ぬかもしれない恐怖を知ってるのか?」

 

 

ノアの足が宙を彷徨い、赤髪の先から汗が一滴、落ちた。

兵舎の中に重い沈黙が落ちた。

換気扇の唸りだけが、低く響く。

エミリアは両手を胸の前で固く握りしめ、肩を震わせながら、息を詰めていた。

サンダースはエミリアの近くに立ち、無言で二人を見守っている。

ソウヤはゆっくりと、ノアを下ろした。

足が地面に着いた瞬間、ノアは膝から力が抜け、ベッドの縁に腰を落とした。

息が荒く、肩が上下する。

瞳はまだソウヤを睨んでいるが、そこにあったのは、怒りだけじゃなかった。

 

怯えと、悔しさと、何か——まだ名前のない感情が混じっていた。

 

ソウヤは胸ぐらから手を離し、一歩下がり、ノアの顔を見下ろす。

蒼色の瞳は、もう冷徹な光を失い、代わりに静かな決意が宿っていた。

 

 

「……俺が言ったことを否定したかったら、今回だけでいい。任務に参加してみるんだ。」

 

ノアはベッドの縁に座ったまま、息を荒げてソウヤの顔を見上げた。

赤髪が額に張りつき、汗が頰を伝う。

瞳はまだ怒りを湛えていたが、その奥に、揺らぐものが混じり始めていた。

ソウヤは視線を逸らさず、穏やかだが確かな声で続けた。

 

「乗っている機体は違うが、一緒に前線に出るんだ。それに、ホバートラックで俺達のモビルスーツの動きや行動を見たら、学べるものがあるかもしれない。

もし、一緒に出撃して、気にくわないことがあるんだったら、俺に直接言え。どうだ? 俺が言ったことを否定してみる気はないか?」

 

言葉は挑発だった。

だが、そこにあったのは、ただの怒りではなく、ノアを「試す」ための、静かな挑戦だった。

ノアは唇を強く噛んだ。

胸の奥で、何かが渦巻いていた。

ソウヤの言葉を否定したい。

あの「モビルスーツパイロットに向かない」という一言を、叩き返したい。

 

そして、まだ名前のないこの感情——悔しさか、恐怖か、憧れか、それとも全部が混じった何か——を、確かめたい。

 

ノアは視線を落とし、ゆっくりと息を吐いた。

やがて、低く、渋々とした声で呟いた。

 

「……仕方ねぇ……出撃してやるよ。今回だけだからな。」

 

彼はベッドから立ち上がり、乱れた赤髪を乱暴にかき上げた。

足元に転がっていたブーツを拾い上げ、座り直して履き始める。

紐を強く引き締める指先が、まだわずかに震えていた。

だが、動きは確かだった。

エミリアは胸の前で固く握っていた両手を、ゆっくりと下ろした。

肩の力が抜け、息を長く吐く。

サンダースはエミリアの近くに立ったまま、巨体をわずかに動かし、口元に薄い微笑みを浮かべた。

ドレッドヘアーが陽光に揺れ、穏やかな目がノアの背中を見つめる。

ノアが出撃の支度を終えると、ソウヤは全員を見渡した。

 

「……よし。第4小隊、出撃だ。」

 

四人は兵舎を出た。

赤土の道を踏みしめ、乾季の陽射しが容赦なく照りつける中、格納庫へと向かう。

格納庫に到着した瞬間、油と金属の匂いが濃く鼻を突いた。

照明の白い光が埃っぽい空気を切り裂き、2機の陸戦型ガンダムが片膝をついて待機している姿が、静かに浮かび上がる。

整備兵の一人が、汗を拭きながら駆け寄ってきた。

ヘルメットを軽く持ち上げ、ソウヤに視線を向ける。

 

「……タカバ中尉、遅いですよ。」

 

ソウヤは軽く頭を下げ、疲れた笑みを浮かべた。

 

「……すまない、遅れた。すぐに出撃する。」

 

整備兵はニヤリと笑い、声を張り上げた。

 

「了解しました! おし! 第4小隊出撃だ! 誘導員以外は踏まれないように退避しろ!」

 

その声に、格納庫内の整備兵たちが一斉に動き出した。

工具を置き、散開し、壁際に退避する。

赤い誘導棒を持った誘導員が、両手を広げて位置についた。

ソウヤとサンダースは、それぞれの陸戦型ガンダムの足元へ歩み寄った。

上部コックピットハッチから垂れ下がる牽引ワイヤーの鐙に、ほぼ同時に足を乗せる。

電動モーターの低い唸りとともにワイヤーが巻き取られ、二人は一気にコックピットまで引き上げられた。

ハッチが開き、二人はシートに体を沈めた。

ノアとエミリアは格納庫の外で待機しているホバートラックに向かった。

ノアは運転席のドアを開け、乱暴に座り込んだ。

赤髪を後ろに払い、キーを捻る。

エンジンが低く唸りを上げ、車体がわずかに震えた。

エミリアは助手席に滑り込み、座った瞬間、わずかに背筋を伸ばした。

すぐにまた肩を落とし、息を小さく吐く。

ヘッドセットを手に取り、ゆっくりと頭に装着した。

エメラルドグリーンの瞳がモニターの光に映る。

指先がわずかに震えていたが、すぐにコンソールに触れ、システムの起動を始めた。

ソウヤのコックピット内では、メインスイッチが入り、核融合炉の点火音が低く響く。

指がコンソールを滑るように動き、Iフィールドの安定、エネルギーバイパスの確認を次々とクリアしていく。

紫色のメインカメラが静かに光を灯し、モニターに周囲の状況が映し出された。

ソウヤは無線を入れ、各自の状況を確認した。

 

「各自、状況報告を。」

 

サンダース軍曹の声が即座に返ってきた。

 

「起動完了です、隊長。いつでも行けます。」

 

次に、ノアの声。

ぶっきらぼうで、苛立ちが滲む。

 

「……ホバートラック、いつでも出れるぜ。さっさと行けよ。」

 

最後に、エミリアの声。

小さく、しかしはっきり。

 

「……支援システム、立ち上げ完了しました。……アンダーグラウンド・ソナーも準備OKです。隊長。」

 

ソウヤは操縦桿を握り直し、静かに息を吐いた。

 

「……第4小隊、これより、パイロット任務を開始する。30分遅れたから、帰隊時間も30分遅れるぞ。」

 

その言葉が、無線に響いた瞬間、2機の陸戦型ガンダムが同時に立ち上がった。

重い足音が格納庫の床を震わせ、整備兵たちが慌てて周囲から散開する。

誘導員が赤い誘導棒を高く掲げ、両手をゆっくりと振った。

 

「前進! ゆっくり!」

 

2機のガンダムは格納庫の巨大な扉をくぐり抜けた。

外の陽光が装甲を照らし、赤土の地面に長い影を落としながら、2機は弾薬庫へと向かった。

弾薬庫の地面には鉄板が敷かれ、その上に100mmマシンガンが二丁、置かれていた。

ソウヤの機体が先に膝をつき、マシンガンを右手に拾い上げた。

システムリンクの音がコックピット内に響き、モニターに「武装同期完了」の表示が出る。

サンダースの機体も同じタイミングでマシンガンを受領し、リンクを完了させた。

ソウヤはバックモニターでホバートラックを確認した。

ノアの運転で、車両がゆっくりと後方から追従してくる。

 

エミリアの声が無線に小さく入った。

 

「……隊長、パトロールルート準備完了です。……いつでも、ナビゲート出来ます。」

 

ソウヤは小さく頷き、操縦桿を握り直した。

 

「……了解。出撃する。」

 

2機の陸戦型ガンダムと1両のホバートラックは基地のゲートをくぐり抜け、密林の影へと進んだ。

赤土の道が遠ざかり、木々の隙間から淡い光が差し込む。

第4小隊の初めての本格的なパトロールが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、密林の奥深く。

乾季の終わりかけの陽射しが、木々の隙間から細く差し込み、地面にまだらな影を落としていた。

湿った土の匂いと、葉ずれの音が、静かに混じり合う。

ミノフスキー粒子の影響でレーダーはノイズが混じり、視界は木々の緑に閉ざされている。

ここでは、音と土地勘だけが頼りだった。

サンダースの陸戦型ガンダムが先頭に立っていた。

緑色のメインカメラを静かに光らせながら、ゆっくりと前進する。

サンダース軍曹の声が、無線に穏やかに響いた。

 

「……この辺りは、去年の終戦直後まで、ジオンがよく待ち伏せしていたルートです。右の斜面は土が緩いので、足を取られやすい。隊長、左寄りに寄ってください。」

 

 

ソウヤの機体は、サンダースのすぐ後ろを追従していた。

紫色のメインカメラが周囲をスキャンし、操縦桿を微調整しながら前進する。

100mmマシンガンを右手に構え、左手のシールドを軽く前に出して警戒態勢を保つ。

 

「……了解した、軍曹。斜面の土、確かに柔らかいな。……この先の川はどうです?」

 

サンダースの機体がわずかに首を振るように動いた。

 

「川は浅いですが、底に岩が転がってるので。渡る時は速度を落として、足元の感触を確認しながら、進まないと危ないですね。自分が先に行きます。」

 

エミリアの声が、無線に小さく入った。

ホバートラックの助手席で、ヘッドセットを強く握りしめながら、モニターを凝視している。

 

「……現在位置、確認しました。サンダース軍曹の説明とナビゲートシステムの地図、ほぼ一致しています。……あと2キロで、予定の折り返し地点です。……異常なし。」

 

彼女の声は少し震えていたが、言葉ははっきりしていた。

エメラルドグリーンの瞳が、画面の緑のラインを追い、指先で地図を拡大する。

ノアは運転席でハンドルを強く握っていた。

赤髪が額に張りつき、汗が首筋を伝う。

ホバートラックのエンジンが低く唸り、車体が密林の悪路をゆっくりと進む。

前方の2機のガンダムの歩調に合わせ、アクセルを微調整する。

時折、車体が泥濘に沈みかけるが、ノアは舌打ちしながらハンドルを切り、すぐに立て直した。

 

「……チッ……でけぇ足音のくせに、歩き方が丁寧すぎんだよ。もっと速く行けねぇのかよ。」

 

ぶっきらぼうな呟きが無線に漏れた。

だが、ハンドルを握る手は確かで、ガンダムの後ろを離さない。

 

ソウヤは無線で短く応じた。

 

「……ノア伍長、よくついてきてる。……このペースでいい。無理に速くすると、足を取られる。」

 

ノアは「ふん」と鼻を鳴らしたが、アクセルを緩めることはなかった。

ホバートラックは、ガンダムの影を追いかけるように、静かに前進を続けた。密林の奥で、風が木の葉をそよがせた。

鳥の鳴き声が遠くに聞こえ、時折、枝が折れる乾いた音が響く。

四人は言葉を少なく、しかし確実に、互いの位置を確認しながら進む。

まだぎこちなく、寄せ集めのまま。

だが、この数時間の移動で、少しずつ——息が合ってきた。

エミリアの声が、再び無線に入った。

今度は、少しだけ強い響きを帯びて。

 

「……隊長、サンダース軍曹。……次のチェックポイントまで、あと800メートルです。……異常なしですが、念のため、ソナー展開しますか?」

 

ソウヤは操縦桿を握り直し、静かに頷いた。

 

「……展開してくれ。……何か音が拾えたら、すぐに報告を。」

 

ホバートラックの荷台右脇から、杭状のソナーがゆっくりと地面に打ち込まれる音が響いた。

アンダーグラウンド・ソナーの低い振動が、土を伝って広がる。

密林の静けさが、一瞬だけ、重くなった。

 

ソナーが地下を伝う音を拾い始めた瞬間——

 

コンソールのセンサーが突然、鋭く鳴り出した。

ピーッ、ピーッ、という連続した警告音が助手席のエミリアを襲う。

エミリアはびくりと肩を震わせ、ヘッドセットを強く握りしめた。

瞳が大きく見開かれ、モニターに映る波形が乱れる。

 

「……!?」

 

ソウヤの声が無線に即座に入った。

落ち着いているが緊張が滲む。

 

「……ドットナー准尉、何があった?」

 

エミリアは慌てて息を吸い、指をコンソールに走らせた。

声が少し上ずる。

 

「……ソナーが、何かをキャッチしたみたいです!……今、音紋データをコンピューターに掛けます……過去のデータと照合……」

 

彼女の指先が震えながらも、キーを叩く音がコックピットに響く。

画面に波形が重なり、解析バーが急速に進む。

数秒の沈黙の後、エミリアの声がはっきりとした声が無線から響く。

 

「……ザクです! 数は不明ですが……複数のザクの足音をキャッチしました!」

 

サンダースはマップを呼び出し、モニターを凝視する。

 

「……待て、地図を確認する……」

 

緑色のメインカメラが地図を拡大し、赤いマーカーが点滅した。

サンダースの声が、低く響く。

 

「……ここから数キロ先に、小さな村が……。」

 

 

ソウヤは操縦桿を握り直し、メインカメラをズームさせた。

紫色の視界が、木々の隙間を貫く。

遠くに、黒い煙が細く立ち上っているのが見えた。

 

「……村が、襲われている。」

 

一瞬の沈黙。

誰もが息を詰めた。

ノアの声が苛立ちと焦りを混じた声で、通信に入る。

 

「……敵が俺たちより数が多いかもしれないぞ。一旦、基地に戻るか……通信が入る距離まで戻ろう。援軍を呼んだ方が——」

 

エミリアも、すぐに同意した。

声が小さく震える。

 

「……ノア伍長の言う通りです……私たちだけで、複数相手は……危険すぎます……」

 

だが、ソウヤの声は、静かだが、揺るがなかった。

 

「……戻ってる間に、村人たちが危害を受けるかもしれない。最悪の場合は、村が虐殺される恐れがある。それは避けなければならない。ジオン残党は物資が乏しい。何をするか、分からないんだ。」

 

その言葉を聞いた瞬間、エミリアの視界が揺れた。

 

——焼けた市街地の映像。

崩れた建物の瓦礫。

傷を負った市民たちが、血まみれで地面にうずくまる。

ニュースキャスターの声が、重く響く。

 

「市街地に墜落したモビルスーツの犠牲者は、100人以上が犠牲に……」

 

親を失った子供が、泣き叫ぶ姿。

煙にまみれた空。

すべてがフラッシュバックのように、エミリアの脳裏を駆け巡った。

彼女は唇を強く噛み、拳を握りしめた。

爪が掌に食い込み、痛みが遠く感じる。

 

(……もう、二度と……あんな出来事を、繰り返したくない。自分が守りたかった人々を、自分のせいで死なせたくない……)

 

エミリアは息を吸い、声を絞り出した。

 

「……隊長……村に、急行するべきです……」

 

サンダースの声が、すぐに続いた。

穏やかだが、確かな響き。

 

「……俺も同意だ。村人を守る。それが、俺たちの仕事だ。」

 

ノアはハンドルを強く握りしめ、歯を食いしばった。

 

「……おいおい、待てよ……!」

 

だが、ソウヤの声が重く、無線に落ちた。

 

「……ノア。お前に、本当のモビルスーツパイロットの矜持を見せてやる。だから、着いてこい。」

 

ノアの瞳が揺れた。

胸の奥で、まだ名前のない感情が、ゆっくりと形を成し始めていた。

悔しさか、恐怖か、それとも——憧れか。

彼は視線を落とし、息を吐いた。

 

「……チッ……仕方ねぇな……着いてくよ。」

 

渋々とした声だった。

だが、そこにあったのは、初めての——決意だった。

ソウヤは操縦桿を握り直し、機体を前傾させた。

 

「……第4小隊、村へ急行する。ノア、エミリア、後方支援を頼んだぞ。」

 

2機の陸戦型ガンダムが、速度を上げた。

重い足音が土を抉り、木々が揺れる。

ホバートラックがエンジンを唸らせて追従する。

黒い煙が、遠くでゆっくりと広がっていた。

密林の静けさが、破られる音が響いた。

第4小隊は村へと急いだ。

陽射しが傾き、影が長く伸びる中、彼らの軌跡が、確かなものになっていく。

 

 

 

 

村の周囲は、密林の木々が密集し、陽光が木漏れ日となって細く差し込んでいた。

土の湿った匂いと、焦げた煙の臭いが混じり合い、鼻を突く。

遠くから、鶏の鳴き声が途切れ途切れに聞こえ、代わりに、人の嗚咽と低い怒声が響いていた。

第4小隊は密林の影に身を潜め、村の様子を静かに確認した。

3機のザクⅡが村に居座っていた。

右肩のシールドが剥げ落ち、装甲に錆と弾痕が刻まれ、整備の行き届いていない様子が一目でわかる。

村の中央広場には、20名ほどの村人たちが膝をついて集められていた。

老若男女、子供までが震えながら地面に伏せ、1機のザクがマシンガンを構えて上から監視している。

銃口がゆっくりと左右に動き、村人たちの背中を威嚇するように照準を合わせていた。

村から少し離れた丘の斜面に、もう1機のザクが立っていた。

周囲を警戒するように首を振り、ザク・マシンガンを構えて密林の方を見張っている。

残りの1機は、村の端の家屋の近くにコックピットハッチを開いたまま、座り込んでいた。

男のパイロットがヘルメットを脱ぎ、汗を拭きながら家々を物色していた。

木箱を蹴り開け、米袋や干し肉、缶詰をかき集め、大きな袋に詰め込んでいる。

ソウヤはメインカメラをズームさせ、静かに息を吐いた。

 

「……食料確保のために、村を襲ったみたいですね。」

 

サンダースの声が無線に低く響いた。

穏やかだが、確かな怒りが滲む。

 

「……ええ。物資が乏しい残党らしいやり口です。村人たちを人質に、食料を根こそぎ奪うつもりでしょう。」

 

ソウヤは操縦桿を握り直し、サンダースに視線を向けた。

 

「……どうやって、村人たちを助け、3機のザクを制圧するか。……アイデアはあるか、軍曹?」

 

ノアの声が、苛立ちを抑えきれずに割り込んだ。

 

「……マシンガンでさっさと撃ちまくればいいだろ。3機相手なら、俺たちのガンダムなら余裕だろ?」

 

ソウヤは静かに首を振った。

 

「……下手にマシンガンを発砲すると、流れ弾や跳弾、地面に衝突した弾の破片や岩片が、村人たちに危害を及ぼす可能性がある。……それは絶対に避けなければならない。」

 

サンダースも同意するように、機体をわずかに動かした。

 

「……隊長の言う通りです。村の中央に村人が密集してる。乱戦になれば、巻き添えは避けられない。」

 

 

エミリアはホバートラックの助手席で、モニターを凝視しながら、指を強く握りしめていた。

瞳が揺れ、唇を噛む。

3機のザクⅡを制圧し、村人に被害を出さない方法を必死に考えていた。

そして、ある作戦が頭に浮かんだ。

エミリアは息を詰めた。

胸の奥で、恐怖がよみがえる。

上官に意見を述べ、また否定され、怒鳴られるのではないか——

艦橋の冷たい空気、艦長の軽蔑の目、「下士官風情が!」という言葉が、フラッシュバックのように脳裏を駆け巡った。

だが、次の瞬間、焼けた市街地の映像が再び蘇った。

崩れた家屋、血まみれの市民、泣き叫ぶ子供たち。

 

「100人以上が犠牲に……」というテロップ。

 

彼女は深く息を吸い、恐る恐る、無線に声を入れた。

 

「……隊長……作戦の、提案が……あります……」

 

ソウヤの声が、すぐに返ってきた。

穏やかで、確か。

 

「……言ってくれ、ドットナー准尉。」

 

エミリアは震える声を抑え、言葉を紡いだ。

 

「……誰かが一人、スラスターを噴射させて上に飛翔し、囮になります。

そうすれば、ザクの銃口は上に向き、弾は空に向かうので、流れ弾や跳弾のリスクが減ります。

囮に注視している間に、コックピットハッチが開いているザクを、素早く撃破します。

味方のザクが撃破されたことで、敵はもう1機の方にも注意が逸れるので、上空にいる機体が、村から離れたザクを撃破します。

上空から下に撃つので、弾は地面にめり込み、跳弾の心配は減ります。

最後に残った1機を、2機で挟み込んで……どちらかが、ザクを村人たちから引き離せば……どうでしょうか……」

 

言葉が終わると、エミリアは息を詰めた。

また否定されるのではないか。

怒鳴られるのではないか。

肩が震え、視線を落とした。だが、無線に返ってきたのは、ソウヤの静かな声だった。

 

「…………いい作戦だ、准尉。」

 

エミリアの瞳が、ぱっと見開かれた。

ソウヤは操縦桿を握り直し、機体をわずかに前傾させた。

 

「……囮は俺がやる。軍曹はハッチの開いたザクを頼んだ。ノア、エミリア、後方から状況を監視。……何かあれば、すぐに報せてくれ。」

 

ノアはハンドルを強く握りしめ、息を吐いた。

 

「……チッ……わかったよ。……やるなら、さっさとやれ。」

 

サンダースの声が、穏やかに続いた。

 

「……了解です、隊長。……村人を、守りましょう。」

 

エミリアはヘッドセットを強く握りしめ、小さく頷いた。

肩の震えが、わずかに収まる。

第4小隊は密林の影から、静かに動き出した。

スラスターの低い唸りが、木々の間を震わせる。

ソウヤの陸戦型ガンダムのバックパックから、青白い噴射炎が低く唸り始めた。

コックピット内で、ソウヤはスラスター出力メーターを凝視し、微調整を繰り返す。

 

機体の関節がわずかに震え、バックパックが熱を帯びていく。

 

「……もう少し……」

 

サンダースの陸戦型ガンダムは、ゆっくりとマシンガンを構えながら、村の端へ移動した。

緑色のメインカメラが、コックピットハッチの開いたザクを捉える。

巨漢の軍曹は、無言で間合いを詰めていく。スラスターのチャージ音が、コックピット内に高く響いた。

ソウヤは操縦桿を強く握りしめ、静かに息を吐く。

 

「翔べ!」

 

バックパックから、青白い噴射光が眩く輝き、機体が一気に跳ね上がった。

青白い筋を空に描きながら、高く飛翔する。

高さにして、約60メートル。

木々の梢を越え、村の上空に白い機体が浮かんだ。ソウヤはバックパックのスラスターを微調整し、機体を下向きに姿勢制御した。

マシンガンを構え、セミオート単発モードに切り替える。

引き金の感触を確かめ、息を止めた。2機のザクは、空高く舞い上がった機影に気づき、一斉に銃口を上空に向けた。

ザクから降りたパイロットは袋を持ったまま、上空を見上げる。

三人のパイロットたちは戦慄した。

人間のような二つのカメラアイ。

額のV型アンテナ。

白い機体色。

白い悪魔——ガンダム。

連邦の恐怖の象徴が目の前に現れた。

ザクのパイロットたちは、あまりの恐怖に硬直した。

サンダースはその隙を見逃さなかった。

単発撃ちで、正確にコックピットハッチを撃ち抜く。

 

ハッチが開き、内部が露出していたため、弾は操縦席を直撃。

ザクの内部で火花が散り、機体が操縦不能になった。

食料を集めていたパイロットは袋を投げ捨て、慌てて自分の機体に戻ろうとしたが、時既に遅し。

ザクは衝撃で横に倒れ込み、土埃を巻き上げた。

残った2機のザクは、急に現れたサンダースの陸戦型ガンダムに視線を向けた。

 

だが、その瞬間にソウヤは村から離れたザクに照準を合わせ、引き金を軽快なリズムで5発放った。

放たれた5発の弾は、離れたザクの頭部、右肘、左肩、左太腿、右足を正確に撃ち抜く。

弾は地中にめり込み、跳ね返ることなく沈んだ。

ザクⅡはバランスを崩し、仰向けに倒れた。

土が大きく抉れ、機体が静かになった。最後に残ったザクⅡは混乱する。

2機の白い悪魔。

味方のザクが一瞬で2機も倒された。

どちらを狙うべきか、迷った。

だが、その迷いが命取りだった。

サンダースの陸戦型ガンダムは、右手のマシンガンを地面に投棄し、一気に間合いを詰め。

両手でザクを押さえ付けるように掴み、村人たちから離す。

ザクは陸戦型ガンダムのパワーに負け、ゆっくりと引きずられる。

サンダースはザクが村人たちから離れたことを確認すると、機体を突き飛ばした。

突き飛ばされたザクは尻餅をつき、土を抉る。

ザクのパイロットは慌てて機体を立て直そうとしたが、強い衝撃が連続で襲い掛かった。

モニターを見ると、ザクの四肢が使用不能になっていた。

ザクが尻餅をついた瞬間に、ソウヤのガンダムが安全な場所に着地し、四肢を正確に撃ち抜いていたのだ。

村を制圧したいたザク3機は、戦闘不能になった。

村を制圧していたザク3機は、戦闘不能になった。

自分が提案した難しい作戦を、二人は難なく実行し、本当に村人たちに怪我人も死人も出さず、ザクⅡ3機を戦闘不能にし、パイロットを殺さずに制圧した。

二人の高い操縦技術に驚愕する。

 

 

(……この部隊なら……私を変えてくれるかもしれない……)

 

エメラルドグリーンの瞳が揺れる。

ノアはハンドルを強く握りしめ、汗が額を伝う。

こんな高難度の操縦は、自分には出来ない。

自分は、とんでもない人物に舐めた態度を取っていた。

戦慄が、胸を駆け巡った。

 

「……くそ……」

 

小さな呟きが、運転席に漏れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ソウヤとサンダースの陸戦型ガンダムは、ゆっくりと村人たちに近づいた。

重い足音が土を震わせ、倒れたザクの残骸を踏み越える。

陽射しが装甲に反射し、白い機体が村の広場に長い影を落とす。

村人たちは最初、膝を抱えて震えていたが、徐々に顔を上げ、互いに支え合いながら立ち上がった。

子供が母親の後ろから顔を覗かせ、老人たちが震える手で互いを支える。

そして、指を差しながら、騒いだ風に声を上げ始めた。ソウヤはコックピット内で、集音マイクを起動させた。

外部スピーカーが微かにノイズを拾い、村人たちの声が鮮明に響く。

 

「……ザクが、もう1機!」

 

その瞬間、ソウヤの額に稲妻が射貫くような感覚が襲った。

視界が一瞬白く閃き、胸の奥で何かが弾ける。

 

ソウヤは大声で叫んだ。

 

「サンダース! カバー!」

 

サンダースはそれを聞き、瞬時に反応した。

2機のガンダムは、村人たちを巻き込まないように移動し、ショートシールドを構え、片膝をつく。

ルナチタニウム合金の盾が陽光を冷たく反射する。

次の瞬間、密林の奥から複数の弾丸が飛んできた。

乾いた銃声が連続し、弾道が空気を切り裂く。

弾は2機のガンダムに命中し、装甲に火花を散らしながら弾かれる。

ショートシールドが衝撃を受け、金属の悲鳴のような音を立てた。

密林から、もう1機のザクⅡが姿を現した。

錆びた装甲に弾痕が刻まれ、ザク・マシンガンを連射しながら前進する。

銃口から火花が飛び、弾丸の雨が2機のガンダムに向かって降り注ぐ。

ソウヤとサンダースのガンダムは、シールドを前に出し、機体を低く構え、弾をすべて受け止める。

村人たちを守るために盾になるために。

装甲に当たるたび、衝撃音が響き、土埃が舞う。

村人たちは悲鳴を上げ、地面に伏せた。

ノアはホバートラックの運転席で、ハンドルを強く握りしめ、苛立ちと焦りが混じた声で怒鳴る。

 

「……マシンガンで反撃したらいいだろ! あのザク、1機だけだぞ!」

 

エミリアは助手席で、モニターを凝視しながら、慌てて応じた。

声が震えていたが、言葉ははっきりしていた。

 

「……村人たちとの距離が近いんです。下手にマシンガンを発砲すると、排出された空薬莢が村人たちの頭上に降り注ぎます。モビルスーツの薬莢は、頭に当たれば重傷か死ぬ恐れがあるんです。それに、排出されたばかりだと高い熱を持っているので、大火傷する可能性も……。だから、二人は盾になるしかないんです……!」

 

ノアはハンドルを握る手に力がこもり、歯を食いしばった。

赤髪が額に張りつき、汗が首筋を伝う。

 

「……くそ……」

 

密林からザクの連射が続く。

弾がシールドに当たり、火花が散る。

ノアはハンドルを強く握りしめ、息を詰めた。

胸の奥で、ソウヤの言葉が繰り返し響く。

 

『……ノア。お前に、本当のモビルスーツパイロットの矜持を見せてやる。だから、着いてこい。』

 

あの言葉が今、頭の中で重くのしかかる。

アイツは、自分が死ぬかもしれないのに、村人たちを守るために盾になる。

機体を盾にしてでも、村人たちを守る——それが、アイツの言う「矜持」なんだ。

自分は、そんな覚悟など持てなかった。

ただ、MSに乗りたいという見栄だけで、ここまで来ただけだ。

ノアは自分の小ささを痛いほど思い知った。

ソウヤの大きさとの違いが、胸を抉る。

だが、同時に、何かが湧き上がった。

 

見返したい。

 

このまま、舐めた態度で終わりたくない。

ノアはハンドルを握る手に力を込め、隣のエミリアに視線を向けた。

声が、わずかに震える。

 

「……今まで、舐めた態度取って……悪かったな。…悪いが、少し付き合ってもらうぜ。」

 

エミリアは意図が分からず、目を丸くした。

 

「……えっ?」

 

ノアはアクセルペダルを深く踏み込んだ。

ホバートラックのエンジンが咆哮を上げ、車体が一気に加速する。

赤土を蹴り立て、密林の影から飛び出した。

車輪が土を抉り、木々の間を切り裂くように突進する。ザクのパイロットは、突然現れたホバートラックに驚き、マシンガンの銃口を向けた。

連射音が響き、弾丸が地面に着弾する。

土柱が次々と上がり、爆音が近づいてくる。

ノアは死の恐怖を、初めて実感した。

汗が額を伝い、指先が震える。

心臓が耳元で鳴り響き、息が浅くなる。

 

 

(……これが…死!……)

 

隣のエミリアは、助手席で悲鳴を上げた。

肩を震わせ、ヘッドセットを強く握りしめる。

 

「……ノア伍長!? 何を——!キャアアーー!」

 

土柱がホバートラックに迫る。

衝撃と轟音が、すぐそこまで来ていた。

だが、次の瞬間——数発の乾いた発砲音が響き渡る。

迫っていた衝撃と轟音が、ぴたりと止んだ。

ノアはブレーキを踏み、ホバートラックを急停止させた。

車体が横滑りし、土埃が舞い上がる。

息を荒げて、自分達に攻撃していたザクの方を見た。

ホバートラックを攻撃していたザクは、四肢を撃ち抜かれ、戦闘不能になっていた。

頭部、両腕、両脚は穿たれ、機体が膝から崩れ落ちていた。

ノアは、何が起きたのか理解できなかった。

視界がぼやけ、息が上がる。

すると、ソウヤの声が、無線に静かに入った。

 

「……ノア伍長。……よくやった。君がザクの気を引いてくれたおかげで、反撃する隙ができた。ありがとう。」

 

ノアはハンドルを握ったまま、力が抜けた。

肩が落ち、息が長く吐かれる。

汗が額から滴り落ち、シートに染みる。

初めての——何か、温かいものが胸の奥に広がっていた。

村の広場では、村人たちがゆっくりと顔を上げた。

白い巨体が、煙の向こうに立っている。

子供が母親に抱きつき、老人たちが震える手で互いを支える。

感謝の声が風に乗り、静かに響いた。

陽射しが傾き、影が長く伸びる中、戦いは終わった。

だが、第4小隊の物語は、まだ始まったばかりだった。




最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
第4小隊の新メンバーとの初任務回でした。
冒頭の説明に出てくるフォーメーションはPS2ゲームの「ガンダム戦記」に出てくるフォーメーションです。
楽しんでもらえたら、幸いです。
新しく入った、オペレーターのエミリアは「ポケ戦」のスカーレット隊とディープブルー隊のオペレーター兼戦術アドバイザーの設定にしています。
ではでは、感想などを気軽に書き込んでくださいねー。
出来る限り、返答させていただきます。

【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?

  • 陸戦型ジム改
  • バイアリーターク
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  • ペイルライダー・マスケッティア
  • ヴァルキリー
  • グフ・ノクターン
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