機動戦士ガンダム オリオンの軌跡   作:浅片名羽馬

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第54話 8と4

コジマ大隊基地 通信施設

 

朝6時頃

 

 

まだ薄暗い空が窓の外に広がり、基地の照明が赤土の地面を淡く照らしている。

通信施設の部屋は簡素で、鉄パイプの椅子が並び、無線機が置かれた机の上に埃が薄く積もっていた。

換気扇の低い唸りが、静かな朝の空気を震わせる。

俺は鉄パイプの椅子に腰を下ろし、無線機のマイクを握っていた。

巨体が椅子をきしませる。

相手の声が、スピーカーから小さく響く。

 

「サンダース軍曹。おはよう。」

 

10代後半の女性の声。

明るくて気丈な物言いだが、歳に似合わぬほど老練さが混じっている。

俺はゆっくりと息を吐き、口元に薄い笑みを浮かべた。

 

「……おはよう、キキ。この前の麻薬村の件、ありがとう。」

 

先日の麻薬の村の情報、そしてマフィアがザクを雇って村に向かったという知らせ——

すべて、この少女が教えてくれたものだった。

 

俺は感謝を込めて、静かに言った。

 

「あの村の件、本当に助かった。マフィアのザクが向かったって情報がなければ、間に合わなかったかもしれない。」

 

無線機から、少女の声が軽く返ってきた。

 

「全然いいよ。シローとのよしみだし。」

 

その言葉を聞いた瞬間、俺は昔を懐かしむように笑った。

隊長の名前が出てくるたび、胸の奥が温かくなる。

あの頃の記憶が静かに蘇る。

少女は少し間を置いてから尋ねた。

 

「それで、新しい小隊はどう?馴染めてる?」

 

 

俺は無線機を握ったまま、窓の外を見た。

まだ薄暗い空に、朝の陽射しが少しずつ差し込み始めている。

 

「……ああ。今の小隊は……寄せ集めだが、悪くない。タカバ中尉は、信念が強い人だ。村を守るために、命を懸ける覚悟がある。新しく入った伍長は口が悪くて、手が掛かりそうだ。オペレーターの准尉は、オドオドしているが、オペレートや作戦立案で光るものを感じる。みんな、生き残るため、互いを信じ始めてるよ。」

 

少女は少し笑ったような声を出した。

 

「……それなら、良かった。馴染めているようで。」

 

俺はゆっくりと頷き、言葉を続けた。

 

「今の隊長、タカバ中尉は……どこか、隊長に似ている。信念を曲げないところ。村人たちを守るために、迷わず前に出るところ。……俺は、そんな中尉を、守りたいと思ってる。」

 

少女の声が、少し興味を帯びた。

 

「へえ。その中尉、どんな人?」

 

「……いつか、会わせてやりたいな。君も、きっと気に入ってくれると思う。」

 

少女は、少し間を置いてから、明るく言った。

 

「……今度、除隊するミケルと一緒に、シローを探しに行くよ。シローの消息、まだ掴めてないけど……絶対に見つける。」

 

俺は静かに頷いた。

 

「ああ。頑張れよ、キキ。俺も、ここで待ってる。お前たちが、隊長を見つけたら……連絡してくれ。」

 

無線機から、少女の声が優しく返ってきた。

 

「……うん。約束するよ。」

 

通信が切れた。

部屋に、換気扇の低い唸りだけが残る。

俺は無線機を机に置き、ゆっくりと立ち上がった。

巨体が鉄パイプの椅子をきしませる。

窓の外では、朝の陽射しが少しずつ強くなっていた。

 

(……隊長。あなたも、俺達と同じように朝を迎えていますか…?)

 

俺は格納庫に向かって歩き出した。

新しい一日が、静かに始まろうとしていた。

通信施設の扉を閉め、ゆっくりと格納庫へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

朝の空気がまだ冷たく、赤土の道にブーツの底が軽く沈む。

遠くで、滑走路を離陸しようとするミデア輸送機のエンジンが低く唸っていた。

格納庫の巨大な鉄扉は半開きで、内部の照明が淡く漏れ出している。

 

中に入ると、油と金属の匂いが濃く鼻を突いた。

埃っぽい空気が照明の白い光に切り裂かれ、2機の陸戦型ガンダムが片膝をついて待機している姿が、静かに浮かび上がる。

人はほとんどいなかった。

整備兵たちは夜勤明けで休憩に入ったのか、工具を片付けた跡だけが残っている。

タカバ中尉が一人、自分の陸戦型ガンダムの肩に乗っていた。

野戦服のズボンを履き、上は黒色の速乾性Tシャツの半袖。

生地は薄く、汗を素早く吸い取る素材で、肩から腕にかけて軽く張り付くようにフィットしている。

朝の冷たい空気に触れても、すぐに乾くはずの生地が、わずかに湿気を帯びていた。

中尉はノートパソコンを膝に置き、画面を凝視しながら、機体のシステムチェックをしている。

紫色のメインカメラが、静かに光を灯し、コンソールのデータが中尉の顔を青白く照らしていた。俺は足音を立てないように近づき、静かに声を掛けた。

 

「おはようございます、タカバ中尉。」

 

タカバ中尉は画面から目を上げ、軽く頭を下げた。

蒼色の瞳が、穏やかに俺を見る。

 

「おはようございます、軍曹。」

 

俺は巨体を少し屈め、陸戦型ガンダムの足元を見上げた。

 

「早朝から整備ですか。」

 

中尉はノートパソコンを閉じ、機体の肩に手を置いて自分を見下ろした。

 

「……自分の機体だから、ある程度は自分で整備して、状態を把握しておきたいんです。こうやって触っておくと、異常に早く気づけるんで。」

 

俺は小さく頷いた。

 

「……真面目ですね。」

 

中尉は自虐気味に、苦笑を浮かべた。

 

「いや、俺は整備兵みたいに駆動系やフレームのメンテナンスは出来ないから。ある程度は出来る、センサーとシステムを出来る範囲で弄っているだけですよ。」

 

俺は静かに笑った。

 

「それでも、凄いですよ。この基地のパイロットは、自分の機体の整備を整備兵に任せっきりな人が殆どです。中尉のように、整備兵と一緒に整備に参加する人は少ない。だから、タカバ中尉はすごいですよ。」

 

あの人も、整備兵と一緒に自分達の陸戦型ガンダムの詳細な機体スペックの洗い出しをしたなと、思い返す。

少しの沈黙が流れた。

格納庫の空気が朝の冷たさを帯びて静かに動く。

俺は視線を上げ、ソタカバ中尉に尋ねた。

 

「飲み物、用意しましょうか?」

 

中尉はノートパソコンを肩にかけ、軽く頷いた。

 

「いつもので、お願いします。」

 

俺は小さく笑った。

 

「紅茶ですね。」

 

俺はパイロット待機室に向かった。

簡素な部屋に電気ポットとマグカップが並ぶ。

自分のインスタントコーヒーと、ソウヤ中尉のティーパックを手に取り、お湯を沸かす準備をする。

暫くすると、ポットの注ぎ口から湯気が出始め、湯気は静かな朝に溶けていく。

俺はマグカップにティーパックを入れ、お湯を注いだ。

湯気が立ち上り、紅茶の香りが部屋に広がる。

そして、紅茶が入ったマグカップを持って、タカバ中尉の元に戻った。

陸戦型ガンダムの肩に乗った中尉は、まだノートパソコンに集中している。

 

「中尉。紅茶が出来ました。」

 

タカバ中尉は画面から目を上げ、軽く頷いた。

 

「少し待ってくれ。」

 

中尉は素早くノートパソコンを操作し、システムチェックの最後のデータを保存する。

指がキーを叩く音が静かな格納庫に小さく響く。

作業を終えると、ノートパソコンを畳み、ガンダムの頭部に繋げていた端末回線を丁寧に抜いた。

ノートを脇に抱え、牽引用ケーブルの鐙に足を乗せる。

電動モーターの低い唸りとともにワイヤーが巻き取られ、中尉はゆっくりと地上に降りてきた。

降りたソウヤは少し駆け足で俺に近づき、マグカップを受け取った。

蒼色の瞳が、穏やかに俺を見る。

 

「……ありがとうございます、軍曹。いただきますね。」

 

俺は静かに頷いた。

 

「どうぞ、中尉。」

 

俺は待機室に戻り、自分のマグにインスタントコーヒーの粉末を入れる。

電気ポットの注ぎ口からお湯を注ぎ、湯気が立ち上るのを待つ。

コーヒーの苦い香りが広がり、朝の空気に混じる。

注ぎ終わると、俺はマグを持って再び格納庫に戻った。

タカバ中尉はすでに紅茶を手に、陸戦型ガンダムの足元に立っていた。

俺は中尉の隣に立ち、静かにコーヒーを一口飲む。

熱い液体が喉を通り、巨体に温かさが広がる。

中尉は紅茶を啜りながら、機体を見上げた。

黒いTシャツの袖が、朝の冷たい空気にわずかに震える。

 

「いい朝ですね、軍曹。」

 

俺はコーヒーをもう一口飲み、ゆっくりと頷いた。

 

「……ええ。今日も、一日が始まりますね。」

 

紅茶とコーヒーの香りが朝の空気に溶け合う。

すると、エミリアがクリアファイルとノートパソコンを抱えたまま、格納庫に入ってきた。

長い金髪が朝の冷たい空気に軽く揺れ、エメラルドグリーンの瞳が少し眠そうに細められている。

 

彼女は俺たちを見て、びっくりしたように立ち止まった。

 

「……あ……おはようございます、タカバ中尉、サンダース軍曹……。こんな時間に、お二人とも……どうされたんですか?」

 

タカバ中尉は紅茶のマグを手に軽く頭を下げた。

蒼色の瞳が穏やかに彼女を見る。

 

「おはよう、ドットナー准尉。俺は先ほどまで、機体の照準システムのチェックをしていたんだ。異常がないか、念のためにね。」

 

俺はコーヒーのマグを傾けながら、静かに付け加えた。

 

「俺は、知り合いと少し連絡を取っていて、その足で格納庫に立ち寄っただけだ。」

 

エミリアはクリアファイルを胸に抱き直し、小さく頷いた。

 

「……そうなんですね……」

 

俺はポットの方向に視線を移し、尋ねた。

 

「ポットにお湯がまだ残ってるので、何か入れましょうか?准尉?」

 

エミリアは慌てて手を振った。

肩がわずかに縮こまる。

 

「……あ、いえ……大丈夫です。遠慮しときます……」

 

中尉は紅茶を一口啜り、穏やかな口調で言う。

 

「入れてもらいな、准尉。」

 

エミリアはタカバ中尉の言葉に、遠慮気味に視線を落とした。

頰が少し赤らみ、クリアファイルを抱く手に力がこもる。

 

「……じゃあ……コーヒーを、お願いします……。」

 

俺は小さく頷き、待機室に戻った。

自分の飲んでいたマグを机に置き、新しいマグにインスタントコーヒーの粉末を入れる。

電気ポットの注ぎ口からお湯を注ぎ、粉末と湯が混ざり合うのを待つ。

エミリアのコーヒーが出来ると、俺は二つのマグを持って格納庫に戻った。

 

俺は入れ立てのコーヒーをエミリア准尉に渡した。

 

「どうぞ、准尉。」

 

エミリアは両手でマグを受け取り、湯気を眺めながら小さく頭を下げた。

 

「ありがとうございます、サンダース軍曹……。」

 

俺は自分のコーヒーを手に中尉の隣に立った。

三人は静かにマグを傾ける。

その後、三人はそれぞれの作業に取りかかった。

ソウヤ中尉は陸戦型ガンダムの足元に置かれた簡易デスクに向かい、ノートパソコンを開いた。

紅茶の入ったマグを脇に置きながら、画面を凝視する。

 

「隊長職は、戦うより書類が多いな……。本当に…。」

 

自嘲気味に呟きながら、中尉は弾薬補給申請書、機体備品補給申請書などの作成を始めた。

指がキーボードを叩く音が、格納庫の静けさに小さく響く。

エミリア准尉はホバートラックの機器の前に設置された座席に座り、キーボードを操作し始める。

エメラルドグリーンの瞳が画面に集中する。

彼女はこれまでの戦闘データを分析し、ソウヤ中尉に提出する資料を作成していた。

昨日の村救出作戦の戦闘ログ、ザクの音紋データ、敵との遭遇座標。

指先がマウスを動かし、グラフを調整するたび、わずかに肩が震える。

でも、表情は少しずつ引き締まっていた。

 

「……これで、隊長に提出できる……かな……」

 

俺はホバートラックの荷台に上がり、備品チェックを始めた。

巨体が車体をきしませながら、工具箱を開け、予備弾薬、医療キット、通信機のバッテリーを一つずつ確認する。

 

「よし、全然使ってないからな。当分は補給しなくても、良いだろう。」

 

 

三人それぞれの作業音——キーボードの叩く音、工具の金属音、ページをめくる音——が、朝の静けさに溶け合う。

しばらくして、格納庫の入り口から、重い足音が近づいてきた。

ノア伍長だった。

赤髪を乱暴にかき上げ、制服の襟を立てたまま、眠そうな顔で入ってくる。

 

「……チッ……朝っぱらから何やってんだよ、みんな……」

 

ノアは俺たちを見て、舌打ちしながらも、ホバートラックの近くに寄ってきた。

俺は備品チェックの手を止め、静かに声をかけた。

 

「おはよう、伍長。今日は来たんだな。」

 

ノアは肩をすくめ、ホバートラックの荷台に寄りかかった。

 

「寝付けなくてよ。この前の夢見て、目が覚めちまった。」

 

タカバ中尉はノートパソコンから目を上げ、蒼色の瞳でノアを見た。

 

「……夢か。どんな夢だった?」

 

ノアは視線を逸らし、ふん、と鼻を鳴らした。

 

「……別に……ただ、トラックで突っ込んで、ザクに撃たれる夢だよ。……くそ、死ぬかと思ったぜ。」

 

エミリアがクリアファイルを抱えたまま、顔を上げた。

エメラルドグリーンの瞳が、少し心配そうに揺れる。

 

「……ノア伍長……大丈夫ですか?」

 

ノアはエミリアを見て、口の端を少し上げた。

 

「心配すんなよ、准尉。俺は死なねえよ。……それより、隊長。次の任務、いつだ?俺も、そろそろ本気で動きたいぜ。」

 

中尉は静かに頷き、ノートパソコンを閉じた。

 

「……そうだな、当分は基地の警備任務だ。ホバートラックが配備されたが、第4小隊はモビルスーツがあと1機足りない。最後の1機が来るまでは、当分は近辺のパトロールと基地警備だけだな。」

 

俺は備品チェックを終え、ホバートラックの荷台から降りた。

巨体が床を震わせる。

四人は、それぞれの作業に戻った。

キーボードの音、工具の音、ページをめくる音。

朝の陽射しが格納庫の鉄扉から差し込み、2機のガンダムを照らす。

暫くして、整備兵たちが格納庫に入ってきた。

朝の陽射しが鉄扉の隙間から差し込み、埃が舞う中、彼らは工具箱を手に陸戦型ガンダムの周りに集まる。

金属の工具音が静かな朝の空気に響き始めた。

ソウヤ中尉と俺は、整備兵たちと共に機体整備に取りかかった。

俺は巨体を屈め、緑色のメインカメラの周りを拭きながら、駆動系のグリスアップを手伝う。

タカバ中尉はセンサー類のキャリブレーションを再確認を行い。

エミリア准尉はホバートラックの助手席に座り込み、クリアファイルを膝に広げて書類作成を続けていた。

時折、腕を上に伸ばしたりしていたが、集中している様子だった。

ノア伍長は中尉から渡された陸戦型ガンダムのマニュアル本を、ホバートラックの荷台に腰掛けて目を通していた。

赤髪を乱暴にかき上げ、ページをめくる手が止まらない。

熱心に図面を追い、時折「へえ……」と呟きながら読み漁る。

生意気な口調は鳴りを潜め、瞳に真剣な光が宿っていた。

時間はゆっくりと過ぎ、正午になった。

陽射しが格納庫の床を強く照らし、鉄骨の影が長く伸びる。

タカバ中尉が時計を見て、静かに声を上げた。

 

「……12時か。みんな、作業をやめ。昼食を取りに行こう。」

 

整備兵の一人が、工具を置いて手を振った。

 

「……了解です、中尉。俺たちは整備が切りが良いところで終わらせたいんで、先に食べてきてください。」

 

中尉は軽く頷き、立ち上がった。

 

「了解した。ありがとう。」

 

タカバ中尉は俺たちに向き直り、穏やかに言った。

 

「……4人で食堂で食事を食べないか?」

 

エミリアはクリアファイルを閉じ、小さく頷いた。

 

「…はい…ぜひ!」

 

俺も静かに応じた。

 

「いいですね。」

 

ノアはマニュアル本を閉じ、渋々立ち上がった。

赤髪を後ろに払い、舌打ちしながらも了承する。

 

「まあ、腹減ったしな。行くか。」

 

4人は格納庫を出て、食堂に向かった。

赤土の道を踏みしめ、陽射しが容赦なく照りつける。

食堂の入り口が見えてきた。

インスタントレーションの匂いが、風に乗って漂ってくる。

 

 

 

 

食堂は昼時の喧騒に包まれていた。

コジマ大隊の兵士たちがごった返し、縦長のテーブルが並ぶ広い部屋に人の列が長く伸びている。

インスタントレーションの匂いと、煮込んだスープの湯気が立ち込め、話し声とフォークやスプーンのカチャカチャという音が混じり合う。

列の先では、厨房の兵士が忙しなく皿を盛り付け、ステンレス製のフードプレートを次々と渡していた。

ソウヤ中尉は列の入り口で立ち止まり、俺に静かに指示を出した。

 

「軍曹、席をキープを頼む。俺達が食事を取りに行く。」

 

俺は頷き、巨体を動かして部屋の中を進んだ。

人混みを掻き分け、4人が座れそうな席を探す。

窓際のテーブルは満席で、中央のテーブルも埋まっている。

少し奥の隅に、ちょうど4人が離席したばかりのテーブルを見つけた。

トレーが片付けられ、空いた椅子が並んでいる。

俺は素早くそこに移動し、巨体を椅子に沈めてキープした。

隣の兵士がちらりと俺を見て、すぐに視線を逸らす。

暫くすると、ステンレス製のフードプレートを持ったソウヤ中尉とエミリア准尉、ノア伍長が現れた。

中尉は、自分の分と俺の分のトレーを持っており、俺の分のトレーを差し出した。

 

「サンダース軍曹、どうぞ。」

 

俺は静かに受け取り、感謝を込めて頭を下げた。

 

「ありがとうございます、中尉。」

 

トレーには、美味しそうな食事が並んでいた。

温かいシチューの入ったボウル、固めのロールパン、インスタントレーションの野菜炒めと肉の塊。

スープの湯気が立ち上り、香ばしい匂いが鼻をくすぐる。

エミリア准尉はトレーを手に、遠慮気味に座った。

ノア伍長はトレーをテーブルに置き、フォークを握る。

4人は静かに食事を始めた。

フォークとスプーンの音が、テーブルの上で小さく響く。

中尉はシチューを一口啜り、静かに息を吐いた。

エミリアはパンをちぎりながら、時折資料に目を落とす。

ノアは肉を頬張りながら、ふん、と鼻を鳴らした。

俺はスープを飲みながら、みんなの顔を見た。

食堂の喧騒の中で、俺たちの小さなテーブルは静かな温かさを保っていた。

すると、コジマ大隊長が現れた。

食堂の喧騒の中、中佐の姿はすぐに目立った。

眼鏡をかけ、制服の襟を正した中佐は、トレーを手にゆっくりと歩いてくる。

俺たちはすぐに食事をやめ、立ち上がった。

中尉が先頭に立ち、4人揃って敬礼する。

コジマ中佐は軽く手を上げ、静かに言った。

 

「敬礼はいい、食事を続けてくれたまえ。」

 

中佐は自分のトレーを俺たちのテーブルに置き、近くの丸イスを引っ張って持ってきた。

椅子を引いて座ると、トレーを広げ、フォークを手に取る。

 

「一緒に食事をしようじゃないか。」

 

俺たちは互いに顔を見合わせ、席に座り直した。

食事を再開する。

中佐はシチューを一口啜り、静かに周りを見回した。

コジマ中佐はノア伍長をチラッと見て、タカバ中尉に言った。

 

「気難しいノア伍長が言うことを聞くようになって、何よりだ。やるじゃないか、中尉。」

 

ノアは中佐を睨みつけた。

赤髪が額に張りつき、フォークを握る手に力がこもる。

ソウヤ中尉は苦笑いを浮かべ、静かに答えた。

 

「……ノア伍長も、先のパトロール任務で小隊の一員と認識してくれたので、良かったです。」

 

コジマ中佐はニヤニヤ笑いながら、頷いた。

 

「それは何よりだ。」

 

タカバ中尉は持っていたスプーンをトレーの上に置き、静かに尋ねた。

 

「中佐、どうして食堂に来られたんですか?」

 

中佐はシチューをもう一口食べ、ゆっくりと言った。

 

「たまには、隊員達と同じ物を食べて、自分の基地の状態も確認しないとな。隊員と同じ食堂で食べて、隊員の士気や様子を見るのも、大隊長の仕事だ。」

 

俺たちは小さく頷いた。

中佐の言葉に、納得する。中佐は付け加えた。

 

「あと、タカバ中尉達に伝えたいことがあったので、この席に来た。」

 

タカバ中尉は首を傾げた。

 

「伝えること?」

 

中佐はフォークを置き、眼鏡を指で押し上げた。

 

「新しく第4小隊に配備される機体を言いに来た。」

 

タカバ中尉とノア伍長が身を乗り出した。

俺は静かに視線を向け、エミリア准尉も興味を持った視線を送る。

食堂の喧騒が少し遠く感じられた。

 

「ジム・キャノンだ。アフリカ戦線の機体をこちらに試験的に配備することになった。来月には到着するはずだ。」

 

中尉の蒼色の瞳が、静かに光った。

 

「了解しました。」

 

ノア伍長はフォークを握ったまま、息を詰めた。

 

「……キャノンか……」

 

中佐はニヤリと笑い、シチューをもう一口。

 

「楽しみにしていてくれたまえ。」

 

食堂の喧騒が再び周りを包む。

ソウヤ中尉はスプーンをトレーに置いたまま、静かに中佐を見た。

 

「……ジム・キャノンの操縦者は、誰になるんですか?」

 

コジマ中佐はシチューを一口啜り、眼鏡を指で押し上げた。

 

「……まだ決まっていない。これから、キャノンのパイロットの選考をする。ただ、この選考テストは熾烈なものになるだろう。」

 

俺たちはフォークを止めて、聞き入った。

中佐はスプーンを軽く回しながら、ゆっくりと続けた。

 

「……どうも、軍は戦争が終わったから、軍縮をする動きがあるらしい。大幅な人員の削減をするようだ。真っ先に切られるのは、歩兵や戦車乗りだろう。」

 

ノア伍長は肉を頬張ったまま、眉を寄せた。

 

「なぜ、歩兵と戦車乗りが真っ先に切られるんです?」

 

中佐はフォークを置き、静かに説明を始めた。

 

「……先の一年戦争で、モビルスーツが今後の戦争の主力になることが明らかになった。それで、今まで陸の主力だった戦車はお役御免になり、戦車部隊が解体されるだろう。残る戦車部隊もあるだろうが、それでも、かなりの数の戦車部隊が姿を消す。歩兵はMSや戦車に適性がなかった者が多く配属されている。そうなれば、なんとか軍に在籍したい兵士達はモビルスーツパイロットの転向などで、生き残りを模索する。ジム・キャノンは元戦車乗りでも、容易に操縦でき、機種転向しやすい。だから、今回の選考は熾烈なものになるはずだ。」

 

中佐はパンを少し噛り、話を続ける。

 

「選考は実技テストとシミュレーション、面接の三段階だ。実技では、ジム・キャノンのキャノン砲の精度と機動性を競う。元戦車兵が多いから、射撃の感覚は抜群だが、MSの操作に慣れていない者も多い。シミュレーションでは、残党掃討の仮想任務をしてもらう。面接では、志望動機と忠誠心を見る。……生き残りをかけた者たちが、殺到するだろうな。」

 

タカバ中尉はシチューを啜り、静かに頷いた。

 

「……了解しました。パイロットが決まり次第、報告をお願いします。」

 

エミリア准尉は遠慮気味に言う。

 

「……ジム・キャノン……中距離支援が強みですね。

私たちの作戦に、うまく組み込めそうです。」

 

ノア伍長はパンを噛りながら、ふん、と鼻を鳴らした。

 

「キャノンタイプか。2機のガンダムが前衛、キャノンタイプで後ろからドカンってか。」

 

俺は肉を食べながら、みんなの顔を見た。

新しい機体。

新しい仲間。

食堂の喧騒の中で、俺たちのテーブルは、少しだけ未来への期待に包まれていた。

中佐はトレーを空にし、立ち上がった。

 

「それじゃ、私は失礼するよ。選考の結果は、早めに伝える。」

 

中佐は軽く手を上げ、食堂の出口に向かった。

俺達も食事が終わると、トレーを片付け、食堂を後にした。

格納庫に戻った俺たちは、新たに来るジム・キャノンを想定した隊の運用やフォーメーションについて話し合った。

中尉は簡易デスクに座り、ノートパソコンを開いて機体スペックデータを表示した。

 

「ジム・キャノンは中距離砲撃支援がメインだ。基本的にVフォーメーションで隊列を組み、砲撃機としての強みを出すのと、キャノンが撃破されないように立ち回りたい。」

 

エミリア准尉はノートを広げ、ペンを走らせながら頷いた。

 

「……キャノン砲の射程はかなりの距離です。音紋データからザクの足音を捉えれば、先制で一撃を与えられます。ただ、弾薬の規格が違うので、補給ラインの確保が課題ですね……」

 

俺は椅子に座りながら、静かに言った。

 

「元戦車乗りが多い選考になるから、パイロットの経験値がバラバラのはず。実戦で連携を取るには、時間がかかるかもしれませんね。」

 

整備兵の一人が話に加わった。

 

「補給パーツはRGMシリーズと共通部品が多いから、パーツを共有できそうだ。ただ、キャノン砲周りのパーツは規格は違うから、予備パーツを多めに用意しておかないとな。」

 

中尉はノートにメモを取りながら、静かに頷いた。

 

「了解した。パイロットが決まったら、すぐに連携訓練を組む。まずは基本陣形のVフォーメーションからだ。」

 

時間はゆっくりと過ぎ、夕方になっていた。

陽射しが格納庫の鉄扉から斜めに差し込み、2機の陸戦型ガンダムの装甲を赤く染める。

タカバ中尉が時計を見て、静かに声を上げた。

 

「……今日はここまでだ。業務を終えよう。」

 

整備兵たちは工具を片付け、軽く頭を下げて退出していく。

エミリア准尉はクリアファイルを抱え、ノートパソコンを閉じた。

 

「……お疲れ様でした……」

 

ノア伍長もマニュアル本を閉じ、立ち上がった。

 

「あー、……頭が…疲れたぜ。」

 

タカバ中尉はノートパソコンをケースにしまい、みんなを見回した。

 

「お疲れ様。今日はゆっくり休んでくれ。」

 

整備兵やタカバ中尉、エミリア准尉、ノア伍長が、それぞれ兵舎、宿舎、酒保、食堂に向かっていく。

足音が遠ざかり、格納庫に静けさが戻った。

俺は一人、格納庫の入り口に立ち、沈む夕日を見た。

 

(……前の08小隊も、こんな夕暮れに、みんなで解散したな。カレン、ミケル、エレノア……。そして、シロー・アマダ隊長…。皆、どうしているだろうか?)

 

08小隊の面々を思い出す。

カレンは、姉御肌のガサツな言動だったが冷静で、

三度目の出撃で必ず俺を残して全滅するジンクスに怯えていた時、彼女なりに励ましてくれた。

ミケルは、いつも時間があれば、恋人のBBに手紙を書いていた。

フライトタイプのグフに襲われた時、生身で橋にぶら下がりながら、隊長に敵の予測出現位置を叫んで情報を送ってくれた。

エレノアは、ミケルを連れて近くの村へと繰り出し、そこでミケルと共にジオンに捕まって、小隊に迷惑を掛けたことを思い出すが……あの耳がなければ、俺たちはもっと早く散ってたかもしれない。

そして、シロー・アマダ隊長。

宇宙でジオン軍の部隊と遭遇戦に陥り、部隊が自分を残して全滅した所を、彼に救われた。

三度目のジンクスも、隊長が打ち破ってくれた。

 

『これだけは言っておく。絶対に死ぬな!』

 

あの言葉が、今でも胸に残ってる。

08小隊は戦争の渦中で生まれた絆だった。

今の第4小隊は戦争が終わった後に生まれた絆だ。

それでも、隊長がいつも言っていた「誰も"死なせない"」って言葉と、タカバ中尉の「宇宙に"帰す"ために戦う」という言葉が、どこか重なる。

タカバ中尉も隊長のように信念が強く、村やジオン兵を守るために命を懸ける覚悟がある。

ノア伍長は口が悪くて、手が掛かりそうだが、根は真っ直ぐなはずだ。

エミリア准尉はオドオドしてるが、オペレートや作戦立案で光るものを感じる。

戦争は終わった。

 

(08小隊は散り散りになった。だが、俺は第4小隊にいる。……隊長。あなたは、俺たちに「生き残る」だけじゃなく、「守る」ことも教えてくれた。今の中尉も、同じだ。信念を曲げないところ。村人たちを守るために迷わず前に出るところ。……俺は、そんな中尉を、守りたいと思っています。)

 

夕陽が地平線に沈みかける。

2機の陸戦型ガンダムが静かに鎮座し、

紫と緑のカメラアイが夕陽に映えて光るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

陽射しが完全に落ち、木々の隙間から差し込む月光が地面にまだらな影を落としていた。

ジオン残党は、放棄されたジオンの地下基地を再利用していた。

天井から垂れ下がる裸電球が、黄色く薄暗い光を投げかけ、影を長く伸ばしている。

換気扇は故障気味で、低く唸る音が不規則に響き、時折止まっては再び回る。

通路の奥には、簡易的な整備施設が設けられ、工具棚と予備パーツの山が並んでいた。

基地の整備エリアには、モビルスーツが6機、静かに待機していた。

ザクⅡが5機、グフが1機、鹵獲したホバートラックが1両。

ザクたちは装甲に弾痕が刻まれ、右肩のシールドが剥げ落ち、錆が浮いている。

グフは右腕のヒートロッドが緩み、脚部の駆動部が少し油漏れを起こしていた。

ホールの隅では、褐色肌の武人肌の指揮官——カルロスが、地図を広げて部下たちと作戦会議をしていた。

南米系の顔立ちで、顎に薄い髭が生え、目が鋭い。

ランプの炎が揺れ、地図に影を落とす。

カルロスは地図を指で叩きながら、静かに言った。

 

「……村を襲った盗賊紛いのザク4機が連邦の白い悪魔に倒された件だが、その時の状況を報告してくれ。」

 

部下の一人が、声を潜めて報告した。

 

「……万が一、あのザクのパイロット達が村人に危害を加えそうになったら止める予定で、監視していたんですが……2機の白い悪魔を目撃しました。間違いありません。」

 

カルロスは顎を触りながら、思案した。

 

「……今までは、モドキしか確認できてなかったが……新しく配備されたのか?」

 

すると、ある男が割って入った。

男の服装はくたびれた連邦軍の制服だった。

襟が擦り切れ、袖口がほつれ、胸の連邦マークが色褪せている。

 

「……多分、元々から所持していた機体を引っ張り出したんだろう。その機体は本物のガンダムのパーツで、合格基準に満たなかったパーツを組み合わせた、陸戦型ガンダムだ。確かにジムよりは強いが、本物のガンダムには、遠く及ばない。」

 

カルロスはゆっくりと頷いた。

 

「なるほどな。」

 

だが、カルロスは続けた。

 

「……だが、我々ジオンにとっては、あの機体は悪夢の象徴だ。畏怖と懸念を持たざるを得ない。」

 

くたびれた連邦軍の制服を着た男は、冷たく笑った。

 

「ガンダムなんて、所詮は機械だ。恐れてしまうから、特別視するんだ。」

 

カルロスは男を見て、静かに言った。

 

「流石はガンダムに乗ったことがある男だな。」

 

男は視線を逸らし、吐き捨てるように言った。

 

「……俺が乗ったのは、"ガンダム"じゃない。もし、あれが本当のガンダムなら、俺の部下達は死ななかったし、靴を舐めることもなく、上官に裏切られることはなかった。」

 

カルロスは一瞬、目を伏せた。

 

「……失礼なことを言った。謝るよ。」

 

男は肩をすくめた。

 

「……砂漠でさ迷っていた俺を助けられたから、今回だけは聞き逃す。次からは気をつけてくれ。」

 

カルロスは静かに頷き、男に言った。

 

「……分かったよ、ボルク先生。」

 

「分かったなら、それでいい……。」

 

連邦軍の制服を着た男は酒瓶を取り出し、グビグビと浴びるような飲み始めた。

連邦軍の制服を着た男は酒瓶を取り出し、グビグビと浴びるように飲み始めた。

 

「さて、連邦軍の補給ルートは分かった。補給線を断てば、連邦の前線は崩れる。奴らは俺たちを"残党"と呼ぶが……違う。俺たちはまだ戦っている…。連邦の補給ルートを叩く!奴らは俺たちを飢えさせた。今度は俺たちが奴らに同じ苦しみを味わわせる番だ!」

 

 

壕内に、重い静けさが落ちた。

裸電球の光が揺れ、ザクとグフの影を長く伸ばす。

外では、密林の虫の声が遠く響いていた。

月光が基地の入り口に淡い光を落とす。

ジオン残党の影は、まだ消えていない。




最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
今回はサンダース軍曹視点で、物語を描いてみました。
そして、第04小隊の最後の機体も判明しました。
一年戦争後が終わると、謎の軍縮が起きたので、それも自分なりの解釈で書いていくので、お楽しみに。
感想など、気軽に書いてくださいね。出来る限り、返事を書かせていただきます。

【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?

  • 陸戦型ジム改
  • バイアリーターク
  • ペイルライダー・ヴァンガード
  • ペイルライダー・マスケッティア
  • ヴァルキリー
  • グフ・ノクターン
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