機動戦士ガンダム オリオンの軌跡   作:浅片名羽馬

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第55話 祈り届かぬ砂漠の慟哭

夜のコジマ大隊基地は静寂に包まれていたはずだった。

漆黒の空に星が散らばり、遠くで風が鉄骨を軋ませる音だけが、かすかに響く。

だが、突然——

 

 

ウゥゥゥーーーーン!ウゥゥゥーーーーン!

 

 

甲高い音が基地全体を切り裂き、赤い回転灯が闇を断続的に照らす。

耳を劈くような高周波のサイレンが、基地全体を切り裂いた。

 

「敵襲警報! 全員、即時戦闘配置につけ!」

 

拡声器の声が金属的な反響を伴って降り注ぐ。

一瞬で空気が変わった。

寝台から跳ね起きる兵士たち、ヘルメットを掴む手が震え、ブーツの紐を結ぶ指がもつれる。

誰かが呻くように吐き気を堪え、床に膝をつく音。

兵舎から飛び出してきた隊員たちが、慌ただしく走り出す。

 

「残党の襲撃か!?」

 

「輸送部隊がやられたらしいぞ!」

 

叫び声とブーツの音が混じり、基地は一瞬で戦時態勢に変わった。

対MS歩兵中隊の全4小隊が、武器庫に殺到する。

兵士たちは小銃を肩にかけ、対MS重誘導弾[リジーナ]を背負い、弾薬箱を抱えて飛び出していく。

第4小隊の格納庫も、赤色警光灯が激しく明滅していた。

整備兵たちが大急ぎで陸戦型ガンダム2機の最終チェックに取りかかる。

工具の金属音が響き、駆動系のグリスアップ、センサーの再キャリブレーション、バックパックのスラスター出力確認が次々と行われる。

 

「隊長機、異常なし!」

 

「軍曹機、こちらも異常なし!」

 

整備兵の声が飛び交う中、第4小隊のメンバーも続々と格納庫に集まった。

足音が鉄板を叩き、赤い警光灯の明滅が影を激しく揺らす。

誰もが無言で、しかし急ぎ足で自分の装備棚へ向かう。

空気は重く、油と焦げた金属の匂いが鼻腔を刺し、遠くでサイレンがまだ低く唸り続けている。

集まった第4小隊のメンバーは、それぞれの装備を装着する。

ノア伍長は鉄帽を被り、顎紐を強く引き締めると、防弾ベストの留め具を一つ一つ確かめながら素早く締め上げる。

留め具がカチリ、カチリと嵌まる。

普段なら不満げに舌打ちし、動きをわざと緩めてみせるノアだが、今は違う。

表情が硬く、目は真っ直ぐ前を向き、指の動きに一切の無駄がない。

緊急事態だからこそ、彼は黙って、ただ正確に装備を整えていた。

エミリア准尉はヘッドセットを耳に押し当て、マイクを微調整しながら防弾ベストのベルトを固定した。

普段なら肩をすくめてオドオドしてしまう彼女だが、今は違う。

唇を強く結び、目を鋭く前へ向ける。

赤い警光灯が横顔を断続的に染め、影が頬を這う。

だが、指先がわずかに震え、必死に背筋を伸ばしていた。

ソウヤとサンダース軍曹は野戦ヘルメットを被り、野戦パイロットスーツのジッパーを引き上げ、肩のストラップを締め直す。

ジッパーの金属音が連続し、最後に肩ストラップのバックルがカチンと固く嵌まる。

ソウヤの指が一瞬止まり、ヘルメットの内側で息を吐く音が小さく聞こえた。

サンダースは無言で拳を握り、関節が白くなるほど力を込める。

装着を終えたメンバーは、ソウヤの前に横一列に並ぶ。

背筋を伸ばし、視線を前方に固定。

赤色警光灯が断続的に顔を照らし、影を長く引きずる。

誰も瞬きをしない。

息遣いがわずかに聞こえ、喉がごくりと鳴る音がする。エミリアが一歩前に出て、少し上ずった鋭い声で号令をかけた。

 

「敬礼!」

 

声が格納庫の鉄壁に反響し、サイレンの残響と混じって耳を刺す。

エミリア、サンダース、ノアの三人が、揃って右手を額に当てる。

赤い光が敬礼した手の甲を血のように染める。

ソウヤも即座に敬礼を返し、すぐに敬礼した右手を下げると、ソウヤは低い声で言った。

 

「直れ。」

 

三人が敬礼を解き、姿勢を正す。

格納庫に響くのは、遠くのサイレンの残響と整備兵たちの工具音だけ。

誰も口を開かない。

空気が重く張り詰めている。

ソウヤは緊迫した口調で、淡々と状況を告げた。

 

「輸送部隊がジオン残党に襲われた。護送をしていた第3小隊とは連絡が途絶えている。一部トラックは帰還したが、残りが取り残されている。パトロールをしている第1、第2小隊も向かっているが、時間が掛かるようだ。第4小隊は捜索と救援のために緊急出撃する。」

 

言葉が終わると同時に、メンバーの視線がわずかに動いた。

ノア伍長が小さく息を吐き、エミリア准尉の肩がわずかに縮こまる。

サンダース軍曹は無言で拳を握り締めた。

ソウヤの蒼い瞳が暗闇の中で光り、静かに告げた。

 

「第4小隊出撃!全員で生きて帰るぞ!各自、搭乗開始!」

 

誰も返事をせず、揃って頷き、それを合図に

それぞれの機体に走り出した。

エミリアとノアはホバートラックに乗り込む。

エミリアが助手席に滑り込み、ノアが運転席のハンドルを握る。

エンジンの低いうなりが響き、ホバーの浮上音が格納庫の床を震わせる。

ソウヤとサンダースは待機する陸戦型ガンダムに駆け寄った。

足音が鉄板を叩き、赤い警光灯が二人の影を鋭く切り裂く。

ソウヤは即座にワイヤーを右手で掴み、鐙に足をかけた。

体が一気に引き上げられ、胸部コックピットの闇へ吸い込まれる。

サンダースも無言でワイヤーに掴まり、勢いよく体を浮かせた。

電動モーターが低い唸りを上げ、ワイヤーが急速に巻き取られる。

二人は瞬時にコックピットへ滑り込み、シートに体を沈めた。

ハッチが重く閉じる音が響き、密閉音が乾いた「カチン」と響く。

ソウヤの陸戦型ガンダムのメインカメラが紫の光を灯し、サンダース軍曹の陸戦型ガンダムのメインカメラが緑を放つ。

片膝をついていた巨体が、ゆっくりと立ち上がる。

関節が軋み、低い唸りを上げた。

整備兵たちは急いで後退し、誘導員が赤色誘導灯を両手に持ち、規定の距離を保ちながら、誘導を開始。

視線を周囲360度に走らせ、障害物と人員の不在を確認を行う。

 

「クリア! 発進可!第4が出るぞ!」

 

誘導員の合図とともに、2機のガンダムは格納庫の鉄扉をくぐり、夜の外へ踏み出す。

足音が大地を震わせ、埃が月光に舞う。

外に出たガンダム2機は、弾薬庫エリアへ移動を開始する。

ホバートラックも、低く浮上しながら追従するように後を追う。

2機のガンダムが弾薬庫エリアに到着すると、赤土の上に敷かれた鉄板の上に二丁の100mmマシンガンが置かれていた。

月光が銃身を冷たく照らし、埃が薄く舞う。

2機の陸戦型ガンダムは、ゆっくりと膝を折り、片膝を突く。

右腕が機械的に動き、マシンガンを掴み上げる。

ソウヤとサンダースはコックピット内で火器管制システムのリンクをチェックした。

ディスプレイに緑の確認灯が点灯し、照準同期が完了する。

 

「マシンガン、リンク完了。」

 

ソウヤの短い通信が、無線越しに響いた。

サンダースは無言で頷きを示す。

両機は立ち上がり、基地ゲートへ移動する。

重い足音が大地を震わせ、赤土の地面に足跡が刻まれる。

ゲートがゆっくり開き、夜の闇が一気に広がった。

二機のガンダムはゲートをくぐり、夜の密林へ発進する。

木々の影が機体を飲み込み、枝葉が装甲を擦る音が続く。

第4小隊は闇の中へ沈んでいった。

 

 

 

 

 

第4小隊が現場に到着。

基地を発進してから1時間近く経過し、夜の濃度がさらに増していた。

月光は冷たく、銀色の刃のように地面を切り裂く。

そこには、数台の輸送トラックがタイヤを正確に撃ち抜かれ、走行能力を完全に奪われていた。

積載されていた積み荷は跡形もなく略奪されている。

トラックの周囲に、ジムの残骸が3機、倒れ伏していた。

ソウヤとサンダースの陸戦型ガンダムは、100mmマシンガンを低く構え、旋回しながら周囲を警戒する。

センサーが微かな熱源、振動、生命反応を貪欲に探る。

息を潜め、引き金を引く準備だけが、静かに脈打つ。

ソウヤは撃破されたジムを観察し、すぐに異常に気づいた。

腕と脚は熔断されているのに、コックピットのある胸部はほとんど無傷だ。

まるで、意図的に生かされたように。

サンダースが無言で機首を向ける。

すると、木々の隙間から弱々しい発煙筒の赤い光と煙が上がっていた。

サンダースは即座に通信を送る。

 

「伍長、発煙筒を発見した。ホバートラックを発煙筒へ。生存者だ、急げ。」

 

ノアは返事なくハンドルを切り、ホバートラックを低姿勢で前進させる。

エンジンの低いうなりが木々を震わせ、枝葉を払いながら闇を切り裂く。

浮上音が、地響きのように響く。

発煙筒の位置に到着した瞬間、そこにいた。

補給部隊の兵士たちと、第3小隊のパイロット3名。

泥と血にまみれ、肩を寄せ合い、座り込んでいた。

ホバートラックが急停止し、ハッチが油圧音を立てて開く。

エミリアが先に飛び降り、泥濘みに膝をつきながら手を差し伸べた。

 

「こちらへ! 早く! 早く乗って!」

 

声は震えていたが、指示は鋭い。

兵士たちはよろめきながら、トラックに乗り込む。

パイロットの一人が、かすれた声で呟いた。

 

「……来てくれたのか……。」

 

その言葉は、感謝とも絶望ともつかない、かすかな響きだった。ハッチが重く閉まる。密閉音が響き、ホバートラックは再び浮上する。

エミリアの声が無線越しに静かに響いた。

 

「隊長……補給部隊の兵士と、第3小隊のパイロット3名、無事に保護しました。数名負傷してますが、意識はあります。ホバートラックで後方へ移送します。」

 

ソウヤはコックピット内で、わずかに息を吐いた。

蒼い瞳が一瞬、柔らかく細まる——安堵の色が、胸の奥に広がる。

 

「了解。よくやった、二人共。」

 

短い言葉に、感謝を込めて。

だが、その安堵は一瞬だった。

頭頂から、稲妻のような直感が走った。

 

背筋を凍らせる、鋭い予感——敵意。

 

ソウヤは反射的に機体を振り向かせた。

メインカメラが高速で旋回し、紫の眼光が闇を切り裂く。

視界に飛び込んできたのは——赤い一つ目。

グフの単眼が、すぐ間近で輝いていた。

赤い光学センサーが、陸戦型ガンダムを冷たく、嘲るように睨みつけている。

距離、わずか数十メートル。

ミノフスキー粒子の濃い密林で、センサーが散乱する中、音もなく、影のように忍び寄っていた。

 

「——っ!」

 

ソウヤは慌てて操縦桿を握り締め、マシンガンを即座に構える。

引き金を引く。

100mm弾が連続で火を噴き、銃口から閃光が迸る。

夜の密林に、乾いた連射音が轟いた。 だが、赤い一つ目は動いた。

赤い光の尾を引きながら、機敏に横へ滑るように回避。

弾道が空を切り、木々が爆ぜて火花を散らす。

グフの肩部がわずかに揺れ、残像だけが残るほどの速さ。

ソウヤの呼吸が荒くなる。

 

(速い……!)

 

直感が叫ぶ。

こいつは、ただの残党ではない。

熟練のエース。

獲物を仕留めるために、闇に溶け込んでいた狩人。

赤い一つ目の光量が増す。

サンダースのメインカメラが、わずかに振れた。

無線に流れるソウヤの連射音と木々が爆ぜる乾いた響き——それだけで、事態を即座に理解した。

 

「タカバ中尉……!」

 

短く呟き、サンダースは操縦桿を倒す。

陸戦型ガンダムの右腕が上がり、100mmマシンガンの銃口をソウヤの方向へ向ける。

緑のデュアルセンサーが、闇を切り裂くように焦点を合わせる——今、援護射撃を放つ。

だが、その瞬間。

密林の奥から、赤い光が二つ、ゆっくりと浮かび上がった。

モノアイの輝きが、木々の隙間を血のように染め、こちらを冷たく見据える。

二機のザクII——残党の伏兵。

サンダースは即座に反応した。

左腕のショートシールドを素早く構え、機体を半身に傾け、防御姿勢を取る。

次の瞬間、二つの火線が闇を裂いた。

ザクマシンガンの120mm弾が連続で吐き出され、陸戦型ガンダムのシールドと胸部装甲に集中する。

 

ガキン! ガキン! ガガガン!

 

ルナチタニウムの堅牢な装甲が、弾丸を弾き飛ばす。

火花が散り、衝撃波が木の葉を震わせる。

シールド表面に浅い焦げ跡が刻まれるが、貫通はしない。

サンダースは歯を食いしばり、姿勢を崩さない。

一方、ソウヤのコックピットに、サンダースの被弾音が響いた。

マシンガンの連射音と、装甲が弾く金属音——救援の必要性を即座に悟る。

 

「サンダース軍曹!」

 

ソウヤは機体を反転させようとする。

だが、目の前のグフがそれを許さない。

グフの両手に握られた二対の白兵戦用武器、ヒート・マチェットが赤熱化した刀身を唸らせる。

機体が低く沈み、左右の腕を交差させて構え。

次の瞬間、グフは跳んだ。

スラスターの青い炎が闇を切り裂き、距離を詰めてくる。

ソウヤは慌てて左腕のショートシールドを掲げ、防御に徹する。

 

ガキィン!

 

マチェットの刃がシールドに叩きつけられ、火花が爆ぜる。

衝撃で機体が後退し、足が赤土を抉る。

グフは容赦なく追撃を続ける。

右のマチェットが横薙ぎに振り抜かれ、左のマチェットが上段から叩き落とされる。

巧みな二刀流の連撃が、陸戦型ガンダムを押し込む。

ソウヤは歯を食いしばり、頭部バルカン2門と胸部バルカン砲1門を一斉に発射。

 

ダダダダダ!

 

バルカン3門の弾がグフの装甲に叩きつけられ、火花を散らす。

グフはわずかに身を引くが、すぐに再接近。

マチェットの赤い刃が、再び唸りを上げて迫る。 

ソウヤの呼吸が荒くなる。

 

(密着されたら……終わりだ!)

 

シールドで凌ぎながら、距離を取ろうとする。

だが、グフの動きは速く、執拗だ。

赤い単眼が、嘲るように輝き続ける。

密林の闇で、二つの戦いが同時進行する。

サンダースは二機のザクに囲まれ、ソウヤはグフの猛攻に晒される。

 

 

 

 

 

 

 

グフに乗っているボルク・クライは赤い単眼の奥で、静かに過去を反芻していた。

ゴビ砂漠の記憶が、熱波のように脳裏を焼く。

灼熱の陽光が砂を白く焦がし、視界の果てまで続く赤茶色の荒野。

そこで、自分は全てを失った。

 

慕ってくれていた部下達を…。

 

最前線で戦う戦士の誇りを……。

 

自分が何故、戦っていたのかを………。

 

生き残った部下を守るため、任務を全うするために、積み荷を使わせてもらうように上官に懇願した。

だが、理解のない最低の上官は俺に屈辱を求めた。

俺は自分を侮辱する言葉を言い、最低の上官の靴を舌で舐めた。

屈辱の味が、今も口の中に残っている。

それでも、"ガンダム"の力を得たはずだった。

だが、何も変えられなかった。

共に戦った部下たちを失い、上官は自分を見捨て、俺は戦う意味を失った。

最後に残ったのは、焼け焦げた砂漠と、誰もいない静寂だけ。

俺はコックピットの中で、荒れ狂う声で叫んだ。

 

「俺は……何のために……これは一体、何のための戦いなんだぁぁぁっ!!」

 

 

慟哭は砂漠の風に飲み込まれ、誰にも届かなかった。

今、目の前に立つ陸戦型ガンダムを冷たく捉える。

 

あの時、守れなかった部下を…。

 

あの時、踏みにじられた誇りを…。

 

あの時、味わった屈辱を…。

 

全てを砂のように失った男は、あの夜と同じ絶望を胸に抱き、灼熱の刃を振るう。

ボルクは相手の右腕に構えられた100mmマシンガンの銃口を意識しながら動いた。

左右逆手に握ったヒート・マチェットが赤熱の軌跡を残し、紫の瞳を持つ陸戦型ガンダムに向かって振り下ろされる。

ガンダムは即座に反応した。

左腕のショートシールドを巧みに傾け、マチェットの刃を受け流す。

同時に頭部バルカン2門と胸部バルカン1門が一斉に火を噴き、弾幕を張る。

放たれた弾は、自分が懐に潜り込もうとする機動を先読みしたかのように正確に前方を塞ぐ。

ボルクは舌打ちを噛み殺し、フェイントを織り交ぜた。

右へ左へ、機体を滑らせるように移動し、相手のモニターの死角へ潜り込もうとする。

スラスターの青い炎が短く瞬き、木々の影を切り裂く。

だが、陸戦型ガンダムはほとんど引っ掛からなかった。

機体が微かに傾き、死角を塞ぐように旋回を続ける。

紫のメインカメラが、常にグフの動きを捉え、離さない。

 

(……こいつ、相当だな。)

 

ボルクは内心で舌を打った。

先ほど奇襲で瞬殺したジム3機は、初撃に対応できず、四肢を熔断されて戦闘不能に陥った。

だが、この相手には——そんな隙が、まるでなかった。

四肢を熔断しての戦闘不能は無理だ。

撃破前提で、殺しにいくしかない。

ヒート・マチェットの刃が再び赤く唸りを上げた。

今度は牽制など通用しない。

全力で相手の命を狩る。

グフが低く沈み、左右のマチェットを構える。

赤い単眼が紫の瞳を冷たく、確実に捉えた。

近接戦闘こそ、グフの真骨頂。

機体を低く沈めて一気に間合いを詰める。

スラスターが短く噴射し、密林の地面を抉りながら、陸戦型ガンダムの懐へ飛び込む。

 

 

 

 

 

 

ソウヤは即座に察知した。

 

(くっ!距離を離せない!)

 

左腕のショートシールドを盾に構え、頭部と胸部のバルカンを連射。

同時にバックパックのスラスターを微噴射し、後退ステップを踏む。

機体が後方へ滑るように移動し、距離を稼ぐ。

紫のメインカメラは、決してグフを見失わない——相手の動きを、常に視界の中心に捉え続ける。

グフはフェイントを交え、右へ左へ機体を揺らし、弾幕の隙間を縫うように前進。

ヒート・マチェットを交差させつつ、相手の射線を外しながら間合いを詰める。

赤熱の刃が空気を切り裂き、火花が散る。

木々が斬り裂かれ、断末魔のような音を立てて倒れる。ソウヤの呼吸がわずかに乱れる。

 

(……このパイロット、並みじゃない。こいつ、連邦軍のモニター構造を熟知している!)

 

相手の動きが、ただ速いだけではない。

グフは意図的に、モニター・フレームの枠を狙って移動している。

フレームの枠を常に利用し、視界の外へ滑り込もうとする。

それは、単なる反射ではなく、知識に基づいた戦術だ。

 

(こいつ……連邦のMSに詳しいのか?)

 

ソウヤは左腕のショートシールドでマチェットの斬撃を弾きながら、右腕のマシンガンを構え直す。

だが、隙はほとんどない。

グフが低く沈み、左右のマチェットを同時に振り抜く。

 

ガキィン!

 

シールドに刃が叩きつけられ、衝撃で機体が後退。

脚部に内蔵された、ビームサーベルを抜きたい。

だが、抜く瞬間が致命的な隙になる。

グフの刃が、それを許さない。

相手のグフは、スラスターが最大出力で噴射。

青い炎が闇を切り裂き、機体が一気に加速。

両マチェットを交差させて、陸戦型ガンダムの胸部を狙う。

距離は、もうわずか。

ソウヤは接近するグフに右腕の100mmマシンガンを即座に向け直し、

引き金を引く。

最初の数発がグフの左肩に命中。

弾丸が装甲に叩きつけられ、火花を散らすが——堅牢なスパイクアーマーの装甲が、ほとんどを弾き飛ばした。

グフの肩部がわずかに揺れただけ。

ボルクは即座に察知し、機体を僅かに傾ける。

射線をギリギリで躱し、弾道を外す。

グフの動きは滑らかで、無駄がない。

ソウヤは躱された先を予測し、頭部バルカン2門と胸部バルカン1門を一斉射。

 

ダダダダダダダダダダダダ!

 

弾幕が、グフの進路上に壁のように張り巡らされる。

グフは弾幕の存在に気づき、急制動をかけた。

スラスターが逆噴射し、機体が一歩手前で停止。

放たれた弾幕はグフの目前で空を切り、赤土を爆ぜさせて土煙を巻き上げる。

爆風が木の葉を震わせ、視界を一瞬覆う。ソウヤは舌打ちを漏らした。

 

(……外された!)

 

コックピットのサブディスプレイが、警告音を鳴らし始めた。

頭部バルカン、胸部バルカン、マシンガン——残弾数が赤く点滅し、残り少ないことを告げる。

アラームの甲高い音がヘルメットの中に響く。

 

(弾が……残り少ない。)

 

内蔵したビームサーベルを抜きたいが。

グフの接近は速く、執拗だ。

マチェットの赤熱した刃が、常に視界を脅かす。

抜刀の隙を作れば、一瞬で斬り落とされる。

近接戦闘への移行が、致命的に難しい。

 

(このままでは……不利だ。)

 

蒼い瞳が鋭く細まる。

グフの赤いモノアイが、再び間合いを詰めてくる。

ヒート・マチェットが唸りを上げ、闇を切り裂く。

 

 

 

 

 

ボルクはグフのコックピットで、相手の陸戦型ガンダムの動きを鋭く分析していた。

 

(この動き……ただの反応しているだけじゃない。俺のフェイントを読み切ってる。死角を塞ぐタイミング、弾幕の張り方——すべてが完璧だ。こんな辺境に、こんな奴がいるのか?)

 

ボルクは特に相手のバルカン運用に目を奪われた。

頭部と胸部のバルカン3門が、ただの威嚇射撃ではなく、自分の機動ルートを正確に制限する壁のように張り巡らされている。

普通の連邦パイロットなら、バルカンを「牽制程度の小火器」として軽視し、ほとんど使わないか、無駄撃ちで弾を浪費する。

だが、この相手は違う。

弾幕を最小限の弾数で最大の抑止力に変え、グフの接近経路を一つずつ潰していく。

それは、バルカンを「補助武装」ではなく、戦術の要として使いこなしている証拠だ。ボルクは内心で舌を打ち、驚愕と称賛が混じる呟きを漏らした。

 

「……ちっ、バルカンをここまで効果的に使うとはな。普通の奴なら、こんな小火器を軽視して、近接に持ち込もうとするのに……。……見事だ、称賛に値するぜ。」

 

短く呟きながらも、称賛の言葉に混じるのは、憎悪の炎。

相手の操縦技術は、グフの機動性を上回るほどの精密さ——バルカンさえも、完璧な戦術の一部として機能している。

 

(だが、それでこそ……倒す価値がある!)

 

赤熱の軌跡が闇を切り裂き、グフが低く沈んで一気に間合いを詰める。

ボルクは歯を食いしばり、ヒート・マチェットの刃を再び唸らせた。

紫の瞳の陸戦型ガンダムが右腕の100mmマシンガンを即座にボルクのグフに向け直し、引き金を引く。

 

弾丸が火を噴き、夜の密林を切り裂く。 ボルクは機体を左右に揺らすように前進させた。

グフの巨体が、まるで生き物のようにしなやかに動き、弾道の間を縫う。

何発かが肩や胸部に命中し、火花を散らす。

ボルクは歯を食いしばり、距離を詰め続ける。

相手のガンダムは、体の正面をこちらに向けようとした。

ボルクはそれを即座に見切った。

 

(バルカン斉射の前兆……!)

 

機体を大きく横に回避させる。

スラスターが短く噴射し、グフが右へ滑るように移動。 次の瞬間、ガンダムはマシンガンと頭部・胸部バルカン3門を一斉射。

 

弾幕が壁のように広がり、前方を埋め尽くす。

だが、ボルクは大きく横に回避していたため、弾は空を切り、木々が粉々に爆ぜて火花と木片を撒き散らした。

 

(……見事だ。だが、そろそろ弾切れだ!)

 

ボルクはペダルを思い切り踏み込んだ。

スラスターが全開噴射。

青い炎が闇を切り裂き、グフが一気に間合いを詰める。 相手は慌てて機体を旋回させ、マシンガンを連射。

だが、旋回が間に合わず、弾道は大きく外れる。

グフは間合いを詰めることに成功した。 左右逆手に持ったヒート・マチェットを交互に振るう。

左のマチェットがマシンガンの銃身を切り裂き、金属の悲鳴を上げて火花を爆ぜさせる。

右のマチェットが、傷ついたショートシールドを深く斬り裂いた。

ガンダムは左右の武装を失い、スラスターを全開に噴射させて後退。

機体が後方へ滑るように距離を取ろうとする。

そして——右脹ら脛部分の装甲がスライドし、内蔵ビームサーベルの柄が露出し始めた。

ガンダムは右手に柄を掴もうとする。

だが、その動きと機体の動作は、ボルクが予測し、狙っていた。

 

(もらった……!)

 

ボルクは即座に火器管制を切り替え、左腕に装着された3連装35mmガトリング砲を展開、柄に向かって放つ。

数発の弾が飛ぶ。

ガンダムは避けようとしたが、全ては避けきれなかった。

何発かがスライドした装甲に命中し、そのうち1発がビームサーベルの柄に直撃。

 

 

ドォン!

 

 

爆発が右脚の内部機構を損傷。

陸戦型ガンダムはバランスを崩し、右膝をついた。

地面が震え、赤土が舞い上がる。

 

(……終わったな、ガンダム。)

 

ボルクのグフのモノアイが、冷たく輝いた。

 

 

 

 

ソウヤは接近するグフに、右腕の100mmマシンガンを即座に向け直し、引き金を引く。

弾丸が火を噴き、夜の密林を切り裂く。

何発かが肩や胸部に命中し、火花を散らす。

グフの巨体がわずかに揺れたが、機体は左右に揺らしながら前進を続ける。

距離を詰めてくる。

ソウヤは機体を旋回させ、体の正面をグフに向けようとした。

 

(一斉射で止めるしかない……!)

 

機体を正面に向けると、即座にマシンガンと頭部・胸部バルカン3門を一斉射。

だが、相手はそれを予測したかのように、機体を大きく横に回避。

スラスターが短く噴射し、グフが右へ滑るように移動。

グフは大きく横に回避していたため、弾は空を切り、木々が粉々に爆ぜて火花と木片を撒き散らした。

 

(……避けられた! 弾切れが近いのに……!)

 

ソウヤの舌打ちが漏れる。

グフはスラスターを全開にし、一気に詰めてくる。

青い炎が闇を切り裂き、機体が加速。

ソウヤは慌てて機体を旋回させ、マシンガンを連射。

だが、旋回が間に合わず、弾道は大きく外れる。

グフに間合いを詰められてしまう。

左右逆手に持ったヒート・マチェットが交互に振るわれ、赤熱の軌跡を残す。

左のマチェットがマシンガンの銃身を切り裂き、右のマチェットが、傷ついたショートシールドを深く斬り裂く。

 

(武装が!?)

 

ソウヤの機体は左右の武装を失い、スラスターを全開に噴射させて後退。

機体が後方へ滑るように距離を取ろうとする。

そして——右脹ら脛部分の装甲をスライドさせ、内蔵ビームサーベルの柄を露出。

右手に柄を掴もうとする。

 

(抜刀するしなかい!)

 

だが、その動きは予測されていた。

グフの左腕に装着された機関砲から、弾丸が放たれる。

 

(しまった!?狙われた!)

 

なんとか左にステップし、弾丸を回避しようとしたが、遅かった。

何発かの、弾丸がスライドした右脹ら脛部分の装甲に命中し、装甲が吹き飛ぶ。

そして、弾丸の1発がビームサーベルの柄に命中。

ビームサーベルは爆発し、右脚の内部機構が損傷、右脚が力なく赤土の大地に膝をつける。

 

「そ、そんな…。負けた………。」

 

ソウヤは膝をついた機体のコックピットで、呆然と前を見ていた。

右脚の内部機構が焼け焦げ、警告音が絶え間なく鳴り響く。

メインカメラの紫の光が、ぼんやりと揺らぐ。

地面に沈む右膝。

 

動かない。

 

動かせない。

 

(……負けた……死ぬのか?)

 

頭の中で、その言葉だけが反響する。

胸の奥で、何かが砕ける音がした。

生きて帰る——その願いさえ、今は遠くに聞こえ。

グフの赤い単眼が、ゆっくりと近づいてくる。

ヒート・マチェットの刃が、月光を浴びて赤く輝く。

距離は、もう数メートル。

死が、静かに迫る。ソウヤは目を閉じ、唇を震わせた。

 

「……エイル、ごめん!」

 

贖罪しようとした少女の名を、かすれた声で呼ぶ。

だが——突然、闇を切り裂く無数の閃光。

弾丸の雨が、グフの周囲に降り注ぐ。

グフは咄嗟に機体を横に跳ばし、回避。

スラスターが逆噴射、距離を離す。

ソウヤは反射的に視線を弾丸の方向へ向けた。

木々の影から、3機の陸戦型ジムが姿を現す。

 

 

「第4小隊、無事か!?」

 

第1小隊——救援が、間に合った。

3機の陸戦型ジムは即座に牽制射撃を再開。

100mmマシンガンの連射が、グフを包囲するように火線を張る。

グフは左右にステップしながら、後退。

赤い単眼が、悔しげに光を揺らし——密林の闇の中に、ゆっくりと溶けていった。

 

 

 

 

 

ソウヤは膝をついた機体のコックピットで、ゆっくりと息を吐いた。

警告音がまだ鳴り響いている。

右脚の損傷表示が赤く点滅し、機体は動かない。

だが——生きている。

胸の奥で、熱いものが込み上げてくる。

 

「……生きてる……。」

 

かすれた呟きが、ヘルメットの中に漏れた。

死を覚悟した瞬間が、嘘のように遠ざかる。

蒼い瞳が、再び前を見据える。

すると、緑の眼光が近づいてくる。

サンダースの陸戦型ガンダムだ。

機体が慎重に歩を進め、ソウヤの横に並ぶ。

通信機から、低く抑えた声が響いた。

 

「タカバ中尉……! 無事ですか!?」

 

心配と焦りが混じった声。

サンダース軍曹らしい、抑えきれない感情が滲む。

ソウヤは小さく息を吐き、応じた。

 

「……無事です。右脚をやられて、行動不能です。」

 

短く報告する。

声は落ち着いているが、かすかな震えが隠せない。

サンダースは一瞬沈黙した後、悔しげに言葉を絞り出した。

 

「……すいません。2機のザクに手間取って、支援できませんでした。」

 

ソウヤは首を横に振るよう。

 

「いえ、仕方ないです。相手は手練れ。四肢を破壊して戦闘不能にする程度の手練れですから。」

 

サンダースの声が困惑に染まる。

 

「どういう意味ですか?」

 

ソウヤは静かに説明を続けた。

 

「補給部隊を護衛していたジムなんですが、コックピットのある胸部は、ほとんど手を出していません。腕と脚だけを、正確に熔断されていたんです。そんなことができるってことは、相手は相当の技量と腕前がないと無理です。だから、第3小隊のパイロット達は全員無事だったんでしょう。」

 

サンダースは通信越しに、息を飲む音を漏らした。

 

「……そんな、四肢を破壊し、戦闘不能にする程の腕前のパイロットが…。」

 

ソウヤの蒼い瞳が

闇の奥を睨み、戦慄が背筋を這う。

 

「今のままじゃ……勝てないな…。」

 

第1小隊の陸戦型ジム3機が周囲を警戒し、銃口を密林の奥へ向け続ける。

 

生き延びた。

 

だが、赤い単眼の影は、まだ闇の中に潜んでいる。




最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
遂に『機動戦士ガンダム クロスディメンション0079』の『死にゆく者たちへの祈り』における主人公!
「ボルク・クライ」が登場しました!
『オリオンの軌跡』のボルク・クライは『機動戦士ガンダムサイドストーリーズ』『Gジェネ・ジェネシス』の悲惨な目に遭う方のシナリオを採用しています。
本家のゲームだと、とある女性と出会って、『サイドストーリーズ』よりも、マシな終わり方をするのですが。
私的には、サイドストーリーズの不完全燃焼なストーリーの続きを書いて、ボルクの救済もしたいですよね。
ただ、『星屑の慟哭編』のソウヤの良きライバルとして、活躍をさせたいと思っています。
ではでは、ソウヤの陸戦型ガンダムが敗北し、この後、どうなるか。
お楽しみに~♪

原作キャラクター紹介

ボルク・クライ
原作・『機動戦士ガンダム クロスディメンション0079・死にゆく者たちへの祈り』

本当に不憫なので、なんとかしてあげたい…。

【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?

  • 陸戦型ジム改
  • バイアリーターク
  • ペイルライダー・ヴァンガード
  • ペイルライダー・マスケッティア
  • ヴァルキリー
  • グフ・ノクターン
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