機動戦士ガンダム オリオンの軌跡   作:浅片名羽馬

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第61話 懐かしい戦友と守るべき命

沢山の白いテントが、赤土の大地にびっしりと並んでいた。

雨が上がったばかりで、地面はぬかるみ、歩くたびにブーツが重く沈む。

テントの隙間から、子供の泣き声や、焚き火の煙が立ち上り、湿った空気に混じってかすかな焦げ臭さが漂う。

難民キャンプ——ここは、戦争の余波で故郷を失った人々が、細々と生き延びる場所だった。

そのテントの間を縫うように一本の細い道があり、

女性が急ぎ足で進んでいた。

身長は170cmほど、大柄で筋肉質な体躯が雨に濡れた野戦服を張りつかせている。

肩幅が広く、腕の筋がくっきりと浮かび、歩くたびに力強い足音が響く。

ふと、女性は足を止めた。

遠くから、低く響く駆動音と地面を踏みしめる重い足音が聞こえてきた。

ぬかるんだ赤土の水溜まりが振動で波打つ。

女性はゆっくりと顔を上げ、音がする方向を向いた。

赤い髪が湿った風に軽く揺れる。

難民キャンプの外れ、ぬかるんだ道の先に——3機のモビルスーツが近づいてくる。

先頭は、深い緑の装甲に覆われた機体。

肩は非対称に強化され、ベースが陸戦型ガンダムであることは察した。

その背後には、白い装甲の陸戦型ガンダム。

背中に巨大なコンテナを背負い、ショートシールドを構え、100mmマシンガンを携行している。

そして最後尾に、肩に大きなキャノン砲を備えたジムの姿があった。

女性の目が、わずかに細められた。

視線は陸戦型ガンダムに固定されている。

懐かしさが、胸の奥から静かに湧き上がる。

 

「……まだ、動ける機体があったのかい。」

 

男勝りで姉御肌の口調が、ぬかるんだ地面に響いた。

テントの隙間から、難民たちの視線が集まり始めた。

最初は恐る恐る覗いていた子供たちが次第に目を輝かせてテントの外へ飛び出してくる。

 

「ああ……! モビルスーツだ!」

 

「ガンダムだ! 緑のガンダムもいるぞ!」

 

小さな声が次第に歓声に変わっていく。

年配の男性が杖をつきながらテントから顔を出し、目を細めて微笑んだ。

キャンプ全体に静かな喜びが広がった。

抑えきれない安堵と希望が満ちていく。

ぬかるんだ地面に、子供たちの小さな足跡が次々と増えていた。

女性は、ただ静かに——陸戦型ガンダムを見つめていた。

赤い髪が湿った風に揺れ、筋肉質な肩がわずかに緩む。

だが、次の瞬間——彼女はハッと我に返った。

 

「……しまった! 急がなきゃいけなかったんだ!」

 

女性は自分が緊急を要する案件に向かっていたことを思い出し、再び走り出した。

ブーツがぬかるみを激しく蹴り、赤土の水しぶきが飛び散る。

赤い髪が激しく揺れ、野戦服の裾が風を切る。

背後では、難民たちの歓声が小さく続き、3機のモビルスーツがゆっくりと近づいていく。

 

 

 

 

陸戦型ガンダムが、ゆっくりと片膝をついた。

白い装甲がぬかるんだ赤土に沈み、膝の関節が低く唸る。

機体の巨体がわずかに傾き、陽光が肩のシールドに反射して眩しく光る。

サンダースは無言で操縦桿を操作し、バックパックのウェポン・ラックに固定された大型コンテナのロックを解除した。

金属のクリック音が小さく響き、コンテナの固定金具が外れる。

ソウヤのスライフレイルとジョシュアのジム・キャノンが、慎重に両側からコンテナに近づいた。

スライフレイルの両手がコンテナをしっかり保持し、ジム・キャノンも反対側から保持する。

二機は息を合わせ、ゆっくりとコンテナを持ち上げた。

重い金属の軋む音が響き、コンテナは横に寝かせるように地面に置かれた。

ソウヤはモニターでコンテナの位置を確認し、無線を開いた。

 

「……ジョシュア軍曹、周辺の警戒を頼む。俺とエミリア准尉は、難民キャンプの責任者に会って、物資受け渡しの確認と書類のサインを貰ってくる。」

 

ジム・キャノンのジョシュアが、すぐに応答した。

 

「周辺の警戒、了解しました。何かあったら、サンダース軍曹と対応しますね。」

 

ソウヤは小さく頷き、スライフレイルを片膝をついた待機状態にし、上部コックピットハッチを開く。

ハッチを開くと、シートから立ち上がり、ハッチの縁に取り付けられた牽引用ケーブルに足をかけた。

ワイヤーがゆっくりと巻き下げられ、ソウヤの体が静かに地面へ降下する。

ブーツがぬかるんだ赤土に着地し、軽く沈む。

野戦服の裾に赤土が付着したが、ソウヤは気にせず周囲を見回した。

すると、ノアの運転するホバートラックが低く浮上しながらスライフレイルの横に停車。

エンジンの唸りが静かに収まり、後部ハッチがゆっくりと開く。

エミリアが書類の入った黒い鞄を手に持ち、慎重に下車した。

エメラルドグリーンの瞳が、ぬかるんだ地面を気にしながらソウヤに向く。

 

「隊長。書類のチェック、OKです。」

 

ソウヤは軽く頷き、エミリアの横に並んだ。

二人は難民キャンプの奥へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

大きなテントの中で、ソウヤとエミリアは難民キャンプの責任者に持って来た物資のリストを確認してもらっていた。

テントの内側は湿気でむっとし、地面の赤土が雨の残り香を漂わせている。

責任者は年配の男性で、雨に濡れた作業着を着たまま、リストを一枚ずつ丁寧にめくっていた。

彼の指がリストの数字を追うたび、目尻に皺が寄り、ゆっくりと息を吐く。

やがて、リストを机に置くと、責任者は顔を上げた。

その表情は、疲れと安堵が混じり合った、深い喜びだった。

 

「……本当に、ありがとう。」

 

声は低く、しかし震えていた。

 

「大雨が長く続いて、道路が土砂崩れで完全に塞がってしまい。トラックが通れなくなって、もうどうしようもなかったんだ。残り数日分の食糧と医療薬品しかなくて……正直、どうなるかと思ったよ。」

 

責任者はリストをもう一度見下ろし、ゆっくりと首を振った。

 

「モビルスーツで運んでくれるなんて……想像もしていなかった。コジマ中佐が、道が塞がって足場が悪いことを知って、すぐに指示を出してくださったのかね?君たちのおかげで、難民に支給する食糧や医療薬品が届いた。本当に……助かったよ。」

 

ソウヤは静かに頷き、穏やかな声で答えた。

 

「お役に立てて、嬉しいです。コジマ中佐は土砂崩れの事を知ると、二足歩行のモビルスーツなら走破できると判断され、自分達を派遣しました。中佐は『難民を見捨てるわけにはいかない』と言っておられました。俺たちも、その言葉を胸に物資を運んできました。」

 

エミリアも書類の入った鞄を胸に抱きしめながら、嬉しそうな表情を浮かべた。

テントの外から、子供たちの笑い声が聞こえてくる。

物資のコンテナが開けられ、食糧や薬品が配られ始めた気配が伝わってきた。

責任者はリストを机に置き、ソウヤに視線を移した。

 

「……ところで、道路の復旧は……いつ頃になりそうなんだい?」

 

ソウヤは静かに頷き、落ち着いた声で答えた。

 

「近日中には、施設科部隊が到着します。土砂崩れの撤去と路面の補強を優先的に進めてくれるそうです。雨が止んだ今がチャンスなので、1週間から10日ほどで、少なくともトラックが通れる程度には復旧するはずです。」

 

責任者は深く息を吐き、肩の力が抜けたように机に手をついた。

 

「……そうか。それまで、なんとか……この物資でやりくりするよ。食糧も薬も、ギリギリだったからな。

復旧工事が終わるまで、耐えてみせるよ。」

 

責任者の声は穏やかだが、感謝の色が濃く滲んでいた。

ソウヤは軽く頭を下げ、エミリアも隣で小さく頷く。

その時、テントの入り口の布が勢いよくめくられ、

赤い髪の女性が入ってきた。

ウェーブのかかった髪が湿気で少し乱れ、野戦服の袖をまくり上げた腕に汗と血が付いている。

大柄で筋肉質な体躯が、テントの狭さを一気に埋める。

彼女は汗を拭いながら、責任者に向かって報告した。

 

「無事にお産が終わりました、母子ともに健康。出血も止まって、赤ちゃんも元気に泣いています。」

 

責任者は安堵の息を漏らし、立ち上がって女性に頭を下げた。

 

「……ありがとう、本当にありがとう。他の衛生兵や医療スタッフが多忙で、手が回らなくて……。本来は配給係の君に頼んでしまって、申し訳ない。」

 

女性は片手を軽く振って、キツめの口調で返す。

 

「気にしないでおくれ。医学生だったから、なんとか取り上げることが出来た。それに、母子が無事なら、それでいいわ。」

 

ソウヤは女性の野戦服の襟に目を留めた。

そこに、曹長の階級章がしっかりと縫い付けられている。

女性はソウヤの視線に気づき、軽く目を細めた。

ソウヤの襟に中尉の階級章を見つけると、彼女は軽く右手を額に当てて敬礼をする。

ソウヤもすぐに敬礼を返した。

女性は敬礼を解き、ソウヤに尋ねた。

 

「……第1機械化混成大隊の所属ですか?」

 

ソウヤは不思議そうに頷いた。

 

「……そうです。どうしてわかったんですか?」

 

女性は一瞬、懐かしそうな表情を浮かべた。

赤い髪が肩に落ち、わずかに揺れる。

 

「……コジマ中佐は元気かい?」

 

ソウヤは少し驚いたが、すぐに穏やかに答えた。

 

「はい、元気です。今回の物資運搬も、中佐の指示で来ました。」

 

女性はそれを聞くと、口元に嬉しそうな笑みが広がった。

キツめの目が、柔らかく細められる。

 

「……相変わらず、人が良いね、あの人は…。」

 

ソウヤは女性の懐かしそうな表情を見て、静かに尋ねた。

 

「……コジマ中佐と知り合いですか?」

 

女性は赤い髪を軽くかき上げ、キツめの口調で答えた。

 

「ああ、以前、色々と世話になったんだよ。…本当に……色々とね…。」

 

ソウヤはそれを聞き、ゆっくりと頷いた。

胸の奥で、何かが繋がる感覚があった。

 

「……なるほど、中佐らしいですね。」

 

女性は視線をテントの外へ移し、陽光に照らされた3機のモビルスーツを見やった。

深い緑の装甲、白い堅牢なシルエット、肩に大きなキャノン砲を備えた機体。

彼女の目が、わずかに細められる。

 

「……あのモビルスーツは、中尉の部隊の機体ですか?」

 

ソウヤは穏やかに答えた。

 

「はい。俺の隊——第4小隊の機体です。」

 

女性はそれを聞くと、口元に小さく笑みを浮かべた。

懐かしさと、好奇心が混じった表情だった。

 

「……近くで見ても、いいかい?ちょっと、懐かしくて。」

 

ソウヤは迷わず頷いた。

 

「……どうぞ。ゆっくり見ててください。」

 

女性は責任者に向き直り、軽く頭を下げた。

 

「少し休憩がてら、モビルスーツを見に行ってくるよ。

すぐ戻るから。」

 

責任者は少し驚いた顔をしたが、すぐに笑みを浮かべて頷いた。

 

「どうぞ、カレンさん。あなたがモビルスーツに興味があるなんて、……ゆっくり見に行ってください。」

 

「ありがとうございます。じゃあ…行ってきます。」

 

女性はテントの布をめくり、ぬかるんだ地面に足を踏み出した。

彼女の背中が陽光に照らされて遠ざかっていく。

 

 

 

 

 

コンテナを降ろしたサンダースの陸戦型ガンダムは、ジョシュアのジム・キャノンと並んで周囲を警戒していた。

 

サンダースはコックピット内でモニターに映る、光景を眺めた。

 

難民スタッフや連邦の兵士たちが、コンテナから取り出したダンボールを次々と運び出している。

食糧の缶詰、乾燥パン、医療薬品の箱——どれも雨に濡れないようビニールで覆われ、丁寧に扱われている。

 

子供たちが乾パンの缶を持って走り回り、母親たちが涙を浮かべてスタッフに頭を下げている。

 

 

 

喜びの声が、遠くからかすかに聞こえてくるようだった。ジョシュアの声が、無線越しに静かに入ってきた。

 

「……難民キャンプの人達、喜んでくれて良かったですね。あの笑顔……見てると、兄弟のことを思い出します。」

 

 

サンダースは低く息を吐き、ゆっくりと答えた。

 

「……ああ。運んで来て、本当に良かった。」

 

ジョシュアはジム・キャノンの操縦桿を握ったまま、軽く笑みを浮かべた。

彼の視線は、隣の陸戦型ガンダムに注がれている。

 

「……それにしても、サンダースさん。物資を積み込んだコンテナを背負いながら、一度もバランスを崩さずにあの悪路を走破するなんて……凄いです。」

 

サンダースは一瞬、言葉に詰まった。

巨体がシートに深く沈み、照れくさそうに視線を逸らした。

 

「……いや……ただ単に、長くモビルスーツに乗っていただけだ。それに、こいつとは長い付き合いだから、色々と分かるのさ。」

 

声は低く、謙遜の色が濃かった。

だが、ジョシュアは首を振って、静かに続ける。

 

「いえ……それだけじゃないですよ。あのぬかるみで、機体の重心がずれないように微調整しながら歩くなんて……普通じゃできません。本当に、尊敬します。」

 

サンダースは小さく息を吐き、口元に薄い笑みを浮かべた。

 

「……ありがとう。でも……俺はただ、タカバ隊長の背中を守ってるだけだ。それだけで…いいんだ。」

 

 

無線越しに、ジョシュアの声が優しく返ってきた。

 

「……はい。俺も……この小隊で良かったと思います。」

 

 

二人の通信に、ノアの声が割って入った。

ホバートラック運転席から、苛立たしげで、どこか拗ねたような調子だった。

 

「良くねーよ!俺はモビルスーツに乗りたいのに、未だに乗れねえんだぞ!待機してる時だけでも、隊長のスライフレイルに乗らせてくれよー!」

 

無線越しに、サンダースとジョシュアの苦笑が伝わってきた。

ジム・キャノンのコックピット内で、ジョシュアが肩をすくめる仕草が想像できる。

サンダースは低く、しかし優しく嗜めるように言った。

 

「……ノア伍長。隊長のスライフレイルはピーキーな機体だ。加速もパワー出力も並みのモビルスーツとは桁違いだからな。お前の今の操縦技術じゃ、まともに動かすことすら難しいぞ。」

 

ジョシュアが、からかうような軽い調子で続ける。

 

「そうだそうだ。この前のジムのシミュレーションで、ようやく平均点取ったばかりだろ?隊長の機体に乗るのは、まだ早いって。サンダースさんの陸戦型ガンダムより、よっぽど扱いが難しいんだから。」

 

ノアはムッとして声を荒げた。

 

「チッ……じゃあ、俺はいつ乗れんだよ!いつになったら、俺もモビルスーツに乗れんだよ!」

 

ジョシュアは少し間を置いて、からかうように返した。

 

「……俺が負傷して、ジム・キャノンに乗れなくなった時かな?」

 

ノアの怒りが爆発した。

 

「ふざけんな!お前、俺に呪いかけてんのかよ!マジで!」

 

サンダースは低く息を吐き、静かに注意した。

 

「……ふざけるのもいいが、警戒中だぞ。二人共、周囲をしっかり見張ってくれ。」

 

二人のやり取りを聞きながら、サンダースの頭の奥で、懐かしい記憶がよみがえる。

 

かつてのエレノアとミケル。

ホバートラックの中で、いつもこんな風に言い合っていた。

あの頃も、こんな風に——軽口を叩き合いながら、互いを信頼し、背中を預け合っていた。

サンダースは小さく息を吐き、口元に薄い笑みを浮かべた。

すると、ジョシュアのジム・キャノンのセンサーが、突然反応した。

 

反応した方向は——自分たちが通ってきた密林の奥。

木々の影が濃く、陽光が届きにくい低地から、何かが近づいている気配。

ジョシュアの茶色の瞳が、モニターを鋭く睨んだ。

 

「……サンダースさん!密林側から、接近反応です!……まだ特定できませんが、モビルスーツの可能性が高いです!」

 

サンダースの陸戦型ガンダムが、即座に反応した。

白い機体を旋回させ、ショートシールドを前に構え直す。

100mmマシンガンの銃口が、密林の方向に向けられる。

サンダースの低い声が、無線に短く響いた。

 

「……了解。ジョシュ、難民キャンプから離れて警戒するぞ。キャンプの住民を巻き込まない距離を取れ。」

 

ジョシュアはすぐに機体を前進させ、キャンプの外周から数十メートル離れた位置へ移動した。

肩部キャノンを下げつつ、センサーをフル稼働させて密林を監視する。

サンダースは続けて、ホバートラックに向かって指示を出した。

 

「ノア、その場で待機。ホバートラックの銃座機関砲で周囲を警戒しろ。キャンプに近づかないよう、注意してくれ。」

 

ホバートラックの運転席から、ノアの苛立たしげだが、すぐに切り替わった声が返ってきた。

 

「……ああ、了解した。機関砲、構えとくぜ。」

 

サンダースの陸戦型ガンダムとジョシュアのジム・キャノンは、並んでキャンプから離れ始めた。

二機は100mmマシンガンを構え、ゆっくりと前進しながら密林の方向を睨む。

白い装甲と赤色の機体が、ぬかるんだ赤土に長い影を落とす。

陽光が装甲に反射し、銃口が静かに左右に振られる。

難民キャンプのテント群を背に、二機は静かに——だが確実に——警戒態勢を取った。

 

サンダースは低く呟いた。

 

「……来るなら、来い。誰も、傷つけさせん。」

 

二機の銃口が、密林を静かに見据えた。

 

 

 

 

 

 

 

難民キャンプの責任者から、物資引渡確認書と物資明細表にサインをもらった後、ソウヤとエミリアはテントを後にした。

責任者は最後に深く頭を下げ、震える声で「本当にありがとう」と繰り返した。

二人は軽く敬礼を返し、ぬかるんだ赤土の道を歩き出す。

陽光がテントの隙間を抜けて差し込み、地面の水溜まりに小さな虹を作っていた。

だが、テントを出て数歩進んだところで、二人は足を止めた。

20人ほどの子供たちが、突然取り囲んでいた。

小さな体が次々と集まり、泥だらけの服を着た子供たちが、目を輝かせてソウヤとエミリアを見上げる。

最初は恥ずかしそうに後ろに隠れていた子も、仲間が前に出ると一緒に前に出てくる。

子供たちは口々に物をねだり始めた。

 

「お兄ちゃん! お菓子ある?」

 

「お姉ちゃん、何か持ってきてくれた?」

 

「キャンディー! キャンディーちょうだい!」

 

ソウヤとエミリアは、手ぶらで困り果てた。

ソウヤは軽く手を広げ、穏やかに、しかし申し訳なさそうに言った。

 

「……ごめん、何も持ってきてないんだ。物資は全部コンテナに入れて、みんなに渡すようにしたから……俺たち個人では、何も渡せなくて。」

 

エミリアも鞄を抱きしめながら、申し訳なさそうに頭を下げる。

 

「……本当に、ごめんね……。」

 

子供たちは一瞬、ぽかんとした顔をしたが、すぐにぶーぶーと文句を言い始めた。

 

「えー! 何もないのー?」

 

「ケチ!」

 

「もっと持ってきてよー!」

 

ソウヤとエミリアは顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。

ソウヤは頭を軽く掻き、エミリアは頰を赤らめて子供たちを見下ろす。

そんな中、一人の女の子がエミリアの金髪に手を伸ばした。

小さな指が、エミリアの髪の先をそっと触る。

 

「お姉ちゃんの髪、とっても綺麗……金色だ……。」

 

別の女の子が、ソウヤの顔を覗き込んで目を丸くした。

 

「お兄ちゃんの目も綺麗! 蒼い! お空みたい!」

 

さらに別の女の子が、無邪気に尋ねた。

 

「……ねえ、お兄ちゃんとお姉ちゃん、付き合ってるの?」

 

その一言で、男の子たちが一気に感化された。

子供たちの輪がさらに狭くなり、からかうような声が飛び交う。

 

「付き合ってるんだー!」

 

「キスした? した?」

 

「お兄ちゃんとお姉ちゃん、結婚するの?」

 

ソウヤは一瞬固まり、顔が赤くなった。

エミリアは耳まで真っ赤になり、書類の鞄を胸に強く抱きしめて俯いた。

二人は言葉に詰まり、ただ苦笑いを浮かべるしかなかった。

子供たちはさらに盛り上がり、笑い声がキャンプに響き渡る。

 

 

 

ソウヤは子供たちのからかいに、顔を赤らめながら慌てて手を振った。

 

「……いや、違うよ。付き合ってない。彼女とは……仕事仲間だよ。」

 

声は穏やかだが、少し照れくさそうだった。

エミリアはそれを聞き、一瞬——胸の奥がちくりと痛んだ。

事実だから、仕方ない。

エメラルドグリーンの瞳が、わずかに伏せられる。

 

「……私は、隊長さんの部下なんですよ。」

 

彼女は子供たちに向かって、優しく微笑んだ。

子供たちは一瞬、ぽかんとしたが、次の瞬間——ソウヤが「隊長」だと知ると歓声が爆発した。

 

「えええ! お兄ちゃんが隊長なの!?」

 

「隊長だー! かっこいいー!」

 

「隊長! 隊長!」

 

小さな手がソウヤの野戦服の裾を引っ張り、子供たちが一気に輪を狭めてくる。

ソウヤは勢いに押されて後ずさりし、苦笑いを浮かべた。

 

「……お、おいおい、落ち着いて……。」

 

子供たちは興奮冷めやらぬ様子で、質問を浴びせ始めた。

 

「お兄ちゃん、ガンダムに乗ってるの?」

 

「白いガンダムに乗ってるんでしょ!?」

 

「隊長なら、絶対ガンダムだよね!」

 

ソウヤは子供たちの勢いに少し圧倒されながらも、穏やかに答えた。

 

「……うん、乗ってるよ。でも、俺が乗ってるのは……緑のモビルスーツだよ。」

 

その瞬間、子供たちの表情が一気に白けた。

歓声がピタリと止まり、代わりに不満の声が上がる。

 

「えー……緑なの?」

 

「ガンダムは白い方だろー!」

 

「緑の方かぁ……なんか地味……。」

 

「白い方がカッコいいのに……。」

 

子供たちはぶーぶーと文句を言い始め、ソウヤの周りで肩を落とした。

ソウヤは子供たちの反応に、ぽかんとして——次第に凹んだ。

肩が少し落ち、蒼い瞳がしょんぼりと伏せられる。

 

「……そ、そうか……緑は、地味か……。」

 

 

エミリアは子供たちの輪の外から、そっと近づき、ソウヤの袖を優しく引いた。

声は小さく、しかしはっきりしていた。

 

「……私は隊長の機体、大好きですよ。」

 

ソウヤはハッとして、エミリアを見た。

エミリアは頰を少し赤らめながら、子供たちにも聞こえるように続けた。

 

「緑の機体は、森に溶け込んで、みんなを守ってくれるんです。隊長が乗ってるから、すごく強いし……かっこいいんですよ。」

 

子供たちはまだ少し不満げだったが、エミリアの言葉に少し納得した様子で、輪を緩めた。

その瞬間、爆発音が轟いた。

低く、重い衝撃音がキャンプ全体を震わせ、ぬかるんだ赤土が波打つように跳ね上がった。

テントの布が風圧でめくれ、焚き火の灰が舞い上がる。

子供たちは悲鳴を上げ、難民たちが慌てて身を低くした。

ソウヤとエミリアは咄嗟に反応した。

二人は同時に子供たちを庇い、両腕を広げて小さな体を抱き寄せる。

ソウヤの背中が盾のように子供たちを覆い、エミリアは一番近くにいた女の子を胸に強く抱きしめた。

爆風の熱気が頰を撫で、耳鳴りが残る。

 

「……みんな、大丈夫か!?」

 

ソウヤの声が鋭く響き、エミリアが子供たちの頭を数えるように確認する。

 

「怪我はない……!? みんな、無事!?」

 

子供たちは震えながらも、二人の腕の中で小さく頷いた。

ソウヤとエミリアは、子供たちを庇ったまま、爆発音がした方向を振り向く。

キャンプの外れ——密林の方向から、黒い煙がゆっくりと立ち上っていた。

木々が揺れ、低く響く駆動音と銃声が断続的に聞こえてくる。

明らかに、戦闘が起きている。ソウヤは即座に判断した。

スライフレイルの元へ駆けようと、体を起こす。

だが、その瞬間——子供たちの小さな手が、ソウヤの野戦服の裾に強くしがみついていた。

 

「お兄ちゃん……行かないで……」

 

「怖いよ……」

 

女の子たちの目が涙で潤み、男の子たちも震える手でソウヤの袖を掴む。

ソウヤの動きが止まった。

蒼い瞳が、子供たちを見下ろす。

戦場へ向かいたい衝動と、目の前の小さな命を守りたいという思いが、一瞬で交錯する。

 

「……そうだな。」

 

ソウヤは静かに息を吐き、決断した。

先に子供たちを安全な場所に避難させることが優先だ。

彼はエミリアに視線を向け、短く頷く。

 

「エミリア、子供たちを避難させよう。密林の反対側に移動だ、俺が周囲を確認する。」

 

エミリアは頷き、子供たちを抱き寄せながら立ち上がった。

 

「……わかりました、隊長。子供達を避難させましょう。」

 

二人は子供たちを囲むようにして移動を始めた。

ソウヤは前方を警戒し、エミリアは後ろから子供たちの手を引く。

ぬかるんだ地面を踏みしめ、子供たちの小さな足が泥を跳ね上げる。

テントの隙間を抜け、コンテナの陰へ向かう。

背後では、密林から響く銃声が続き、煙がさらに濃くなっていた。

 

 

 

 

 

女性は遠目から、陸戦型ガンダムを見ていた。

陽光が白い装甲に反射し、ショートシールドの縁が鋭く光る。

かつては自分もあの機体に乗り、泥濘の戦場を駆け抜けた頃の記憶が、胸の奥から静かに蘇る。

ジェネレーターの低く唸る音、操縦桿の感触、Gに耐えながらの旋回——すべてが、懐かしく、痛いほど鮮やかだった。

 

「……本当に…懐かしいね…。」

 

女性は小さく呟き、赤い髪を耳にかけた。

筋肉質な腕が、野戦服の袖を軽く握りしめる。

すると、警戒を続けていた陸戦型ガンダムが動き出した。

白い機体がゆっくりと旋回し、ショートシールドを前に構え直す。

100mmマシンガンの銃口が、密林の奥に向けられる。

隣のジム・キャノンも肩部キャノンを微調整し、二人並んでキャンプから離れ始めた。

動きは静かだが、確実に——難民キャンプから距離を取っている。

女性の目が鋭くなった。

直感的に、その行動の意味を悟った。

敵を警戒し、戦闘が起きた場合にキャンプに被害を出さないよう、意図的に離脱している。

白い機体と灰色の機体が、ぬかるんだ赤土に影を落としながら、密林の方へ進む。

 

「……まずい。」

 

女性は即座に判断した。

陸戦型ガンダムとジム・キャノンが森の入口に差し掛かった瞬間——爆発音が響いた。

低く、重い衝撃音が木々を震わせ、黒い煙が密林の奥から立ち上る。

地面がわずかに揺れ、鳥たちが一斉に飛び立った。

女性の足が止まり、息を飲む。

彼女の視線が、煙の上がる方向へ固定される。

 

「……来やがったか。」

 

女性は密林の方を向くと、4機のザクが陸戦型ガンダムとジム・キャノンにザク・マシンガンを発砲していた。120mm弾が連続で火を噴き、木々が爆ぜ、土煙が陽光を遮る。

ザクのモノアイが赤く輝き、4機が連携して包囲網を形成しながら前進している。

女性は一瞬で状況を理解した。

ジオンの残党が、モビルスーツの足跡を辿ってここまで来たんだろう。

物資の略奪か——あるいは、あの隊長の部隊を殲滅するために、攻撃を仕掛けた。

どちらにせよ、難民キャンプの近くで戦闘が起きている以上、巻き込まれる可能性が高い。

陸戦型ガンダムはショートシールドを構えながら応戦し、100mmマシンガンを連射してザクの動きを牽制していた。

白い装甲に弾丸が当たるたび、火花が散り、シールドに浅い傷が刻まれる。

その後ろで、ジム・キャノンが肩部キャノンを低く唸らせ、240mm砲弾を放つ。

砲弾が弧を描き、ザクの1機の脚部をかすめて爆発——土煙が立ち上がり、ザクが一瞬よろめく。

だが、圧倒的な数の不利は明らかだった。

ザク4機が左右から包囲網を狭め、陸戦型ガンダムとジム・キャノンの退路を塞ごうとしている。

このままでは、やられてしまう。

女性の胸に、先ほど取り上げた赤ん坊の記憶が蘇った。産声を上げる小さな命。

その赤ん坊を、嬉しそうに——涙を浮かべて抱き締める母親の光景。

あの母親の腕の中で、赤ん坊はまだ泣きじゃくりながらも、温もりに包まれていた。

キャンプのテントの中で、命が繋がった瞬間。

今、この戦闘が広がれば——あの赤ん坊も、母親も、子供たちも、すべてが失われるかもしれない。

女性の目が、鋭く細められた。

 

「……許せねえ!」

 

彼女は再び走り出した。

ブーツがぬかるみを激しく蹴り、赤土の水しぶきが飛び散る。

赤い髪が風を切り、筋肉質な体躯が泥を跳ね上げながら、片膝をついて待機している緑の機体——スライフレイルの方へ駆け寄る。

女性は垂れ下がっている牽引用ケーブルの鐙に足を乗せた。

ワイヤーが低く唸り、ゆっくりと体を巻き上げ始める。

ぬかるんだ赤土から離れ、コックピット部分が近づいてくる。

その時、足元から叫び声が聞こえた。

赤毛の青年が機体の足元で叫んでいる。

 

「おい! 何勝手に乗ろうとしてんだよ!隊長の機体だぞ! 降りろって!」

 

女性は一瞬、視線を下げた。

 

赤毛の青年が、必死の形相で手を振り上げている。

 

「……悪いな、急いでいるんだ。」

 

女性はそれ以上言葉を交わさず、ハッチの縁に手をかけて身を滑り込ませ、シートに座る。

金属の軋む音が響き、ハッチが自動で閉まる。

コックピット内の青白い照明が点灯し、女性の顔を照らした。女性は息を飲んだ。

 

「……こいつ……。」

 

姿は変わっている。

頭部は知らないパーツに換装され、肩は非対称に装甲が強化され、腰には近接武装が追加されている。

だが——コックピットの傷や汚れ、コンソールの擦り減った部分、操縦桿の握り跡——すべてが、かつて自分が乗っていた陸戦型ガンダムの記憶と重なった。

あの戦場で、何度も死線をくぐり抜けた機体。

女性の目が、わずかに潤む。

 

「……生きてたのか、お前……。」

 

だが、すぐに切り替えた。

彼女は慣れた手つきで起動シークエンスを開始する。

コンソールのスイッチを次々と押し、メインシステムが唸りを上げた。

核融合炉が低く起動し、機体の全身にエネルギーが流れ込む。

スライフレイルの紫の瞳——メインカメラがゆっくりと光を灯す。

 

「……よし、動け。」 

 

女性は操縦桿を握り、ペダルを踏み込んだ。

機体がゆっくりと立ち上がろうとする。

だが——以前とパワー出力と癖が変わっている。

スラスターのレスポンスが鋭すぎ、脚部の駆動が予想以上に力強い。

機体がわずかによろめき、女性は舌打ちしながら微調整した。

ぎこちなく、しかし確実に——スライフレイルは立ち上がった。

HUDにステータスが表示される。

女性の目が、次第に丸くなった。

 

「……スラスター推力が……こんなに上がってるのか。

パワー出力も強化されてる……武装も追加されて……。」

 

驚きが、すぐに喜びに変わった。

口元に、懐かしい笑みが浮かぶ。

 

「……いいじゃねえか。お前、強くなったな。」

 

機体の足元では、赤毛の青年がまだ騒いでいた。

 

「おい! なんで、動かせるんだよ!ちきしょー! 俺だって、動かしたいのに!」

 

女性はコックピット内で小さく息を吐き、モニター越しにノアを見下ろした。

踏まないよう、慎重に機体を動かす。

スライフレイルの巨体がゆっくりと向きを変え、密林の方向へ向かった。

銃声と爆発音が、木々の奥から響き続けている。

女性は操縦桿を握り直し、低く呟いた。

 

「……邪魔すんなよ、坊主。今から、こいつと久しぶりに一緒に戦うんだから。」

 

スライフレイルの4基スラスターが低く唸り、緑の機体がぬかるんだ地面を蹴って前進を始めた。

赤い髪の女性は、ただ——戦場へ向かった。

かつての機体と共に守るべきものを守るために。

 

 

 

 

 

サンダースとジョシュは、接近する4機のザクを迎撃していた。

陸戦型ガンダムが前衛を張り、ショートシールドを構えてザク・マシンガンの弾幕を受け止めながら、100mmマシンガンを連射で返す。

白い装甲に弾丸が連続で当たり、火花が飛び散り、シールドの表面に浅い削り傷が刻まれていく。

サンダースは歯を食いしばり、操縦桿を握り直した。

巨体がシートに深く沈み、モニターに映る敵の動きを睨む。

 

「……チッ、包囲が狭まってる……。」

 

ジョシュアのジム・キャノンはその後方で援護射撃を続けていた。

肩部240mm砲が低く唸り、砲弾が弧を描いてザクの1機の脚部をかすめる。

爆発が土煙を巻き上げ、ザクが一瞬よろめくが、すぐに体勢を立て直す。

ジョシュアの額に汗が浮かび、茶色の瞳がモニターを鋭く見据える。

 

「……サンダースさん! 左から2機が回り込んでます!」

 

ザク4機は確実に距離を詰めていた。

2機が正面から弾幕を張り、残り2機が左右から回り込み、退路を塞ごうとしている。

120mm弾が連続で降り注ぎ、陸戦型ガンダムのシールドが耐えきれず、わずかに亀裂が入る音が響く。

ジム・キャノンの装甲にも弾が当たり、火花が散る。

サンダースは大きく息を吐き、判断した。

 

(……このままじゃ、やられる。)

 

機体の関節が軋み、シールドを構えたまま後退を試みるが、ザクの包囲網がさらに狭まる。

ジョシュアの砲撃が1機を牽制するが、残り3機が同時に前進。

弾幕が濃くなり、視界が土煙で曇る。

サンダースの額に汗が伝い、操縦桿を握る手に力がこもった。

その時、後方から——低く、力強い駆動音が響いた。

スライフレイルの緑の機体が、ぬかるんだ地面を蹴って前進してくる。

サンダースは即座に無線を開き、声に安堵を込めて叫んだ。

 

「隊長、来てくれたんですね!」

 

少しの間が空いた。

そして、通信機から返ってきた声は——タカバ中尉のものではなかった。

低く、キツめで、どこか懐かしい——男勝りな女性の声。

 

「誰が隊長だって? サンダース?…久しぶりだねぇ。」

 

サンダースの目が見開かれた。

 

その声の主は、かつて同じ08小隊の仲間——カレン・ジョシュワ曹長だった。

 

「……どうして、曹長がスライフレイルに…?」

 

通信機越しに、カレンの声が軽く笑う。

 

「驚いた顔してるんだろうね、軍曹。だが、説明は後だ。今は——あのザクどもを、ぶっ飛ばすよ!」

 

 

スライフレイルの緑の機体が、4機のザクに向かって加速した。

陽光が装甲を切り裂き、長い槍状武装が陽光を反射して輝く。

サンダースは操縦桿を握り直し、静かに——だが確実に——笑みを浮かべた。

 

「……ああ。久しぶりに一緒に戦おう、カレン。」

 

戦場に懐かしい戦友の声が響き渡る。

密林の奥で、銃声と爆発音が、再び激しさを増した。

白い陸戦型ガンダムと緑の陸戦型ガンダムが、並んでザクを迎え撃つ。

 

 

 

 

カレンは機体を操縦し、戦っている陸戦型ガンダムとジム・キャノンに接近しようとした。

スライフレイルの4基スラスターが低く唸り、緑の機体がぬかるんだ地面を蹴って加速する。

右手のビームライフルを腰の後ろに懸架し、腰のサイドアーマーに装着されているジャベリンを連結させる。

長い柄がカチリと固定され、槍状武装が陽光を反射して鋭く輝いた。

機体が前傾し、泥水を跳ね上げながら密林の奥へ突き進む。

その時、通信が入った。

 

「隊長、来てくれたんですね!」

 

カレンの手が一瞬止まる。

その声は——かつて一緒に戦った、サンダース軍曹のものだった。

 

「……!」

 

カレンは呆然とした。

懐かしさと予想外の再会に、胸の奥が熱くなった。

一瞬の沈黙の後、彼女は懐かしさと皮肉を込めて応答した。

 

「誰が隊長だって? サンダース?…久しぶりだねぇ。」

 

通信越しに、サンダースの息を飲む音が聞こえた。

彼の驚きが容易に想像できる。

低く、震えるような声が返ってきた。

 

「……どうして、曹長がスライフレイルに……?」

 

カレンは軽く笑った。

キツめの口調に、懐かしい温かさが混じる。

 

「驚いた顔してるんだろうね、軍曹。だが、説明は後だ。今は——あのザクどもを、ぶっ飛ばすよ!」

 

カレンはペダルを強く踏み込んだ。

スライフレイルのスラスターが青白い炎を噴き、機体が一気に加速した。

陽光が緑の装甲を切り裂き、長いジャベリンが陽光を反射して輝く。

機体が密林の入口を抜け、戦場へ飛び込む。

4機のザクが包囲網を狭め、弾幕を張る中——緑の機体が、静かに、だが確実に、戦友の元へ駆けつけた。

サンダースの陸戦型ガンダムが、シールドを構えたままわずかに旋回する。

白い機体が、緑の機体を視界に捉えた瞬間——サンダースの声が、無線に低く響いた。

 

「……カレン……。」

 

懐かしい戦友の名を、静かに呼ぶ。

陽光の下、二つの機体が並び、ザクの弾幕に向き合う。

ジャベリンの柄を握るカレンの手が、ゆっくりと力を込めた。

 

「……久しぶりに一緒に戦おうぜ、サンダース軍曹。」

 

スライフレイルがジャベリンを構え、ザクの包囲網へ突き進む。

戦場に、再び——かつての仲間たちの絆が、息を吹き返した。

 

 

 

 

 

サンダースの陸戦型ガンダムが、ショートシールドを構えて前進した。

白い機体が陽光を反射し、100mmマシンガンを連射しながらザクの弾幕を受け止める。

火花が飛び散り、シールドに新たな傷が刻まれるが、サンダースは動じない。

低く唸る駆動音が響き、機体がザクの1機に肉薄した。  

 

「カレン! 右から回り込め!」

 

通信越しに、サンダースの声が鋭く響く。

カレンは即座に応じた。

 

「了解! 任せな!」

 

スライフレイルの4基スラスターが青白い炎を噴き、緑の機体が急加速。

ジャベリンを構えたまま、ザクの右側を回り込むように滑る。

ザクのパイロットが慌てて旋回しようとするが、遅い。

カレンは操縦桿を押し込み、ジャベリンの柄を振り上げる。

長い槍状武装が弧を描き、ザクの右腕を根元から斬り落とした。

マシンガンが地面に落ち、ザクがバランスを崩す。

その隙に、サンダースの陸戦型ガンダムが正面から突っ込み、100mmマシンガンを至近距離で連射。

ザクの胸部装甲が蜂の巣になり、内部機構を破壊して膝から崩れ落ちた。

ザクの残り3機が怒涛の弾幕を張り、サンダースのシールドに連続で命中。

ひび割れが広がり、シールドの耐久が限界に近づく。

サンダースは低く舌打ちした。

 

「……カレン、左の2機を!」

 

「わかってる!」

 

スライフレイルが再び加速。

カレンはジャベリンを振り回し、左側のザクに突っ込む。

ザクがマシンガンを連射するが、カレンはスラスターを小刻みに噴射して不規則にステップ。

弾幕をすり抜け、ジャベリンの先端をザクの胸部に突き刺した。

槍が装甲を貫通し、内部を焼き切る。

ザクが膝を折り、倒れ込む。

サンダースは正面のザクに肉薄し、ショートシールドで弾幕を弾きながら、100mmマシンガンを連射。

ザクの頭部カメラを撃ち抜き、続けて胸部に集中射撃を加える。

ザクがよろめき、ジョシュアの240mm砲弾が追撃する。

砲弾が直撃し、ザクが大爆発を起こさずに脚部と腕部を失って崩れ落ちた。

残り1機のザクが慌てて後退を試みる。

だが、カレンがスライフレイルで追撃。

ジャベリンを振り上げ、ザクの両脚を一閃。

槍が両脚を熔断し、ザクは両脚を失って倒れた。

 

難民キャンプに静けさが戻った。

土煙がゆっくりと陽光に溶け、木々の葉が焦げて落ちる。

サンダースの陸戦型ガンダムが、シールドを下げて立ち止まる。

ジョシュアのジム・キャノンが砲身を下げ、息を吐いた。

 

「……全機、撃破……。」

 

カレンはスライフレイルのコックピット内で、軽く息を吐く。

ジャベリンを肩に担ぎ直し、通信を開く。

 

「……ふう。

相変わらず、頼りになるよ、サンダース。」

 

サンダースは低く笑った。

声に、懐かしさと安堵が混じる。

 

「……お前もな、カレン。……また会えて、良かった。」

 

陽光の下、08小隊の陸戦型ガンダム2機が並び立つ。

 

 

 

 

 

戦闘が終わり、スライフレイル、陸戦型ガンダム、ジム・キャノンが並ぶように待機していた。

緑、白、赤の3機が、ぬかるんだ赤土に長い影を落とし、陽光が装甲を静かに照らす。

密林の奥から立ち上っていた煙が薄れ、敗北したジオン残党は難民キャンプに駐屯していた連邦軍の歩兵に拘束されていた。

モビルスーツの足元で、カレンは深々とソウヤに頭を下げた。

 

「……すまなかった、タカバ中尉。

勝手に機体に乗って、無断で使っちまって。

謝るよ。」

 

隣で、サンダースも巨体を低くして頭を下げた。

低い声で、静かに続ける。

 

「……タカバ隊長、俺も謝ります。カレンが乗ったことを許して欲しいです。」

 

ソウヤは二人の姿を見て、穏やかに首を振った。

蒼い瞳が優しく細められる。

 

「……気にしないでください、カレン曹長。子供たちを避難させるために、俺は機体に乗れなかった。代わりに曹長が撃破してくれたから、助かりました。それに……サンダース軍曹のかつての戦友なんですよね?なら、なおさら……俺は、気にしていません。」

 

だが、ソウヤの背後では——不服そうなノアが鬼の形相で睨んでいた。

赤毛を乱暴にかき上げ、拳を握りしめ、口をへの字に曲げている。

 

「何だよ、あの女……!機体を勝手に……!」

 

エミリアとジョシュアが慌ててノアを取り押さえ、宥めていた。

エミリアはノアの腕を優しく掴み、ジョシュアは肩を押さえながら小声で言う。

 

「ノア伍長、落ち着いて……!」

 

「隊長が許してるんだから、怒るなって!」

 

ノアはぶつぶつと文句を言いながらも、渋々黙った。

ソウヤはそんな様子を見て、苦笑いを浮かべた。

彼はカレンに向き直り、静かに言った。

 

「……曹長の無断搭乗は、不問にします。俺が機体に乗って撃破したと報告するので、大丈夫ですよ。」

 

カレンはソウヤの甘い対応を聞き、ぷっと吹き出した。

キツめの目が柔らかく細められ、懐かしそうな笑みが広がる。

 

「……ふふっ……甘いねぇ。」

 

彼女は急に笑い出したことを謝りながら、ソウヤの顔をじっと見た。

 

「……急に笑ってしまって、すまない。でも……サンダースが信用してる訳だよね。あんたはあいつに似ている、甘ちゃん2号だ。」

 

 

 

ソウヤはカレンが急に笑い出したので、不思議そうに首を傾げた。

 

「……甘ちゃん……2号?」

 

カレンは笑みを深め、軽く肩をすくめた。

 

「ああ、昔の戦友さ。あいつも、こんな風に甘かったよ。」

 

サンダースは嬉しそうに、静かに頷いた。

 

「……タカバ中尉は、あの人に似ている。だから……俺は、信じている。」

 

カレンはサンダースを見て、くすっと笑った。

すると、テントの隙間から子供たちが駆け寄ってきた。

20人、30人…の小さな体が、次々とソウヤたちの元へ集まる。

子供たちは目を輝かせ、興奮した声で叫んだ。

 

「お兄ちゃんたち、ありがとう!」

 

「守ってくれたんだね! 怖くなくなったよ!」

 

「緑のガンダムも、白いガンダムも、すっごく強かった!」

 

子供たちはソウヤ達の野戦服を引っ張り、はしゃぐ。

ソウヤたちは一瞬、困惑した。

ソウヤは子供たちの勢いに押され、苦笑いを浮かべながら手を広げる。

エミリアは頰を赤らめ、ジョシュアは照れくさそうに頭を掻き、サンダースは巨体を低くして子供たちを見下ろす。

だが、その表情は——嬉しそうだった。

カレンはその様子を遠くから眺めていた。

彼女はゆっくりとスライフレイルに歩み寄り、爪先に近づいた。

緑の装甲が陽光を反射し、静かに佇んでいる。

カレンはスライフレイルの爪先の装甲を、平手で軽く叩いた。

パチン、という乾いた音が響く。

 

「……新しい持ち主を、しっかり守るんだよ。」

 

声は低く、優しかった。

かつて自分が乗っていた機体に——今はソウヤが乗っている。

カレンは軽く笑い、機体の爪先をもう一度撫でた。

 

「……お前にもう一度乗れて、嬉しかったよ…。」

 

陽光の下、子供たちの歓声が続く。

スライフレイルの紫の瞳が静かに光り、

子供たちに囲まれるソウヤ達を見守っていた。




最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
カレンの陸戦型ガンダムを登場させた時点で、この話を考えていました。
やっと書けましたー(涙)
ちゃんとカレンから、ソウヤに機体を受け継いで欲しかったので♪
では、次のお話もお楽しみにー!

原作キャラクター紹介
カレン・ジョシュワ
原作 08小隊
男勝りな姉御肌の女傑。
彼女はパンチは麻酔になります。

【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?

  • 陸戦型ジム改
  • バイアリーターク
  • ペイルライダー・ヴァンガード
  • ペイルライダー・マスケッティア
  • ヴァルキリー
  • グフ・ノクターン
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