宇宙世紀0081年 7月頃
士官宿舎の狭い個室は、夜明け前の薄暗さに包まれていた。
窓の外から差し込む淡い朝焼けが、カーテンの隙間を細く切り裂き、ベッドの端をぼんやりと照らす。
換気口から漏れる湿った風が、部屋の蒸し暑い空気をわずかに揺らしていた。
外では雨季の重い湿度が立ち込め、遠くで雷鳴の余韻が低く響いている。
ソウヤ・タカバはベッドの上でゆっくりと目を覚ました。
薄い毛布の下で体を起こし、首を軽く回す。
昨夜の湿気が残る空気が肌にまとわりつき、Tシャツの生地が背中にべっとりと張り付いていた。
彼は大きく深呼吸をし、額に浮かんだ薄い汗を袖で拭った。
8月のハノイ近辺——コジマ大隊基地のこの時期は、雨季のピークで気温は26度から32度、湿度は80%を超える日が続く。
朝の空気はまだ少しマシだが、日が昇ればすぐに蒸し暑さが襲ってくるだろう。
ソウヤはベッドの端に座り、足を床に下ろした。
コンクリートの床が湿気を含んで少しぬるく、足裏にべたつく感触が伝わる。
わずかな違和感を覚えつつも、彼は軽く足を動かして体を起こした。部屋は簡素だった。
鉄製のベッド、壁に掛かった野戦服のフック、小さな机の上に置かれたノートパソコンと水筒。
壁には剥がれかけた連邦軍のポスターが一枚だけ貼られ、端が湿気で少しめくれている。
窓の外からは、基地の朝の気配——遠くで輸送機のエンジンが低く唸り、雨上がりのアスファルトを踏む兵士たちのブーツ音が混じり合う——が聞こえてくる。彼は立ち上がり、ベッドの横に置いてあった野戦服に手を伸ばした。
まず、黒い速乾性のTシャツを頭から被る。
昨日の汗が乾ききっていない生地が、肩と胸に軽く張り付き、湿った感触が肌に残る。
次に野戦服のズボンを履き、ベルトを締める。
ブーツの紐を結ぶ指先が、機械的に動く。
最後に上着を羽織り、襟を正した。
胸の階級章——中尉のマーク——が、朝焼けの光を受けて鈍く光る。
ソウヤは鏡の前に立ち、髪を軽く手で整えた。
蒼い瞳が鏡の中の自分をじっと見つめる。
少し疲れた表情だったが、すぐに口元を引き締めた。
「……今日も、始まるか。」
彼は小さく呟き、部屋のドアに向かった。
ドアノブに手をかける瞬間、窓の外から雨粒がパラパラと落ちる音が聞こえてきた。
雨季の朝は、いつ降り出すかわからない。
ソウヤは軽く息を吐き、ドアを開けた。
士官宿舎のドアを開けると、湿った朝の空気が一気に流れ込んできた。
通路の先に、エミリア・ドットナー准尉が立っていた。
金髪を後ろで軽くまとめ、エメラルドグリーンの瞳が朝の薄明かりに輝いている。
彼女はソウヤの姿を認めると、明るく顔で敬礼してくれた。
「おはようございます、隊長!」
声が弾むように響く。
一年間の任務を共にこなす中で、エミリアは見違えるほど変わっていた。
最初に出会った頃は、書類を抱えてオドオドと肩を縮め、視線を合わせるのも苦手そうだった。
今では自信を取り戻したのか、背筋が伸び、笑顔が自然にこぼれる。
これが、本来の彼女の姿なのだろう。ソウヤは穏やかに敬礼を返した。
「おはよう、エミリア。別に先に行っていても良かったんだぞ?」
エミリアは首を横に振り、明るく笑った。
「いいえ、こうやって一緒に移動すれば、歩きながら話が出来るので。仕事の効率が良くなるんですよ。」
ソウヤは何度か「待たずに先に行け」と言ったことがあるが、エミリアは一度も譲ったことがなかった。
彼女の瞳には、自分への信頼と少しの意地のようなものが混じっている。
ソウヤは小さく溜め息を吐き、観念したように肩をすくめた。
「……じゃあ、一緒に行こうか。」
「はい! 隊長、一緒に行きましょう!」
エミリアの声が弾み、二人は並んで士官宿舎の玄関を出た。外は雨上がりの朝だった。
アスファルトに舗装された道が、湿った光を反射して鈍く輝いている。
1年前までは未舗装の赤土の道で、ブーツが沈み、泥が跳ね上がっていた。
今ではコジマ大隊基地全体の主要道路がアスファルトで舗装され、北側の滑走路も延長と改修がされた。
以前はVTOL機能を使わないと離着陸が難しかったミデア輸送機が、今では通常の滑走で飛び立てるようになった。
基地の整備が進むにつれ、雨季のぬかるみも格段に減った。
ソウヤはそんな変化を思い返しながら、エミリアと並んで食堂に向かって歩き出した。
アスファルトの表面に残る水溜まりが、朝焼けの色を映し、二人のブーツが軽く水音を立てる。
エミリアは時折、ソウヤの横顔をチラチラと見上げ、楽しげに口を開いた。
「隊長、今日の予定は午前中にコジマ中佐との会議、午後からMSの整備ですよね?私、先日の戦闘ログをまとめておきました。後で確認していただければ……。」
ソウヤは小さく頷き、軽く笑みを浮かべた。
「ああ、ありがとう。相変わらず仕事が早いな、エミリア。」
エミリアの頰が少し赤らみ、彼女は照れくさそうに視線を逸らした。
「……隊長に褒められると、なんだか嬉しいです。」
二人は食堂に向かって、アスファルトの道を並んで歩き始めた。
雨上がりの湿気がまだ重く残り、ブーツの底が路面に軽く張り付くような感触があった。
遠くで輸送機のエンジンが低く唸り、基地の朝が徐々に活気づき始めている。
ふと、東側のゲート方向から重い駆動音が響いてきた。
ソウヤとエミリアは足を止め、視線をそちらに向けた。
基地の東側ゲートがゆっくりと開き、灰色に塗装されたザクⅡが3機が列をなして中に入ってくる。
重い足音がアスファルトを震わせ、湿った路面に水溜まりが波打つ。
ザクⅡの右肩シールドには、連邦軍のエンブレムと「06」のマーキングが白く塗装されていた。
エミリアが小さく息を飲んだ。
「……隊長、あれは第6小隊のザクⅡですね。」
ソウヤは静かに頷き、機体の動きを目で追った。
「ああ。パトロールから帰ってきたんだろう。」
今、基地に入ってきたザクたちは、コジマ大隊基地に最近配備されたザクⅡF2型だった。
一年戦争後、地球連邦軍によって接収された旧ジオン軍の機体が、改修・再塗装されてこの基地に6機割り当てられた。
それに伴い、基地の編成も変わった。
これまでは4個小隊からなる1個中隊だったが、新規配備されたザクⅡF2を組み込んだことで、1個中隊3小隊制に再編。
ソウヤたちの第4小隊は、第2中隊所属へと変更になったのだ。
ザクⅡの3機はゲートを抜けると、ゆっくりと格納庫の方向へ向かう。
灰色の装甲が朝焼けの光を鈍く反射し、モノアイが赤く点灯したまま前方を睨んでいる。
整備兵たちが周囲に集まり始め、機体を迎え入れる準備をしていた。
エミリアはザクの背中を見送りながら、ソウヤに視線を戻した。
「……ザクⅡが連邦軍のマーキングで基地を歩くなんて、一年前じゃ考えられませんでしたね。」
ソウヤは小さく笑みを浮かべ、歩みを再開した。
「戦争が終わった証だよ。でも……あいつらが連邦の基地を歩いてる光景は、まだ違和感があるな。」
エミリアは軽く頷き、ソウヤの隣に並んで歩き出す。
二人のブーツがアスファルトを軽く叩く音が、ザクの重い足音と混じり合い、基地の朝に溶け込んでいった。
食堂で朝食を済ませたソウヤとエミリアは、その足で司令部に設置されたコジマ中佐のテントに向かった。
雨季の湿気がまだ重く残る基地内を、アスファルトの道を歩く。
朝の陽射しが徐々に強くなり、湿った空気が肌にまとわりつく。
テントの入り口をくぐると、軍用のコンパクト・レジャーチェアに座ったコジマ中佐が待っていた。
机に肘をつき、両手の指を組んで口元を隠すように、静かに二人を見据えている。
テント内は簡素で、古い地図と通信機が乱雑に置かれ、扇風機の低い音だけが響いていた。
ソウヤとエミリアは揃って敬礼した。
「おはようございます、中佐。第4小隊、タカバ中尉とドットナー准尉、参りました。」
コジマ中佐は軽く手を上げ、敬礼を返した。
穏やかな声で言った。
「おはよう。楽にしてくれたまえ。」
ソウヤとエミリアは敬礼を解き、テント内の空気に少し肩の力を抜いた。
中佐は指を組んだまま、ゆっくりと口を開いた。
「最近、インドシナ半島の密林地帯でジオン残党の軍備増強が確認されている。本来なら、我がコジマ大隊の管轄地域だ。だが、デリー基地のハドソン少将が『大規模基地の私たちに任せて貰おう』と主張して、デリー基地主導で殲滅作戦を開始した。」
ソウヤとエミリアは顔を見合わせ、呆れたような苦笑いを浮かべた。
ソウヤが先に口を開く。
「……あの少将も、懲りてないんですね。」
コジマ中佐も呆れたような笑みを浮かべ、頷いた。
「ああ。前回、お前たちを囮に使おうとした作戦で、ジャブローの上層部にこってりと絞られた。ハドソン少将も後がなくなったんだろう。さらに、建造中のラサ基地の物資が強奪された件と、デリー管轄エリアでジオン残党が頻繁に出没している件で、少将の管轄問題が指摘されている。」
ソウヤは皮肉を込めて言った。
「デリー基地は忙しそうですね。うちの管轄エリアは残党が出てこないので、平和なのに。」
エミリアはその言葉を聞いて、思わずクスッと小さく笑ってしまった。
中佐は軽く咳払いをして、二人を嗜める。
「冗談を言っている場合じゃないぞ、タカバ。だが……お前の言う通りだ。」
ソウヤは表情を引き締め、本題を聞いた。
「……それで、俺たちを呼んだ理由は?」
コジマ中佐は指を組み直し、声を低くした。
「インドシナ半島のジオン残党殲滅作戦を始めたはいいが、デリー基地のパイロットたちの練度が足りず、敵を見つけ出すのに手間取っている。進展が思わしくない。
上層部も業を煮やし、ジオン残党軍の掃討を目的とした特務遊撃部隊『ファントムスイープ隊』の派遣を決めた。」
ソウヤは小さく息を吐き、皮肉を込めて呟いた。
「……素直に俺たちに任せていたら、もっと進展していたかもしれないのに。」
コジマ中佐も同意するように頷いた。
「ああ、そう思うよ。だが、特殊遊撃部隊が介入して作戦が達成されると、ハドソン少将の立場が危うくなる。
そこで、少将も背に腹は変えられず、我がコジマ大隊に応援を求めてきたわけだ。」
テント内に、重い静けさが落ちた。
扇風機の低い音と、外の遠くで響く輸送機のエンジンだけが、静かに響いている。
ソウヤは中佐の顔をじっと見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「……つまり、俺たちはまた『囮』にされるんですか?」
コジマ中佐は苦笑いを浮かべ、指を組んだまま答えた。
「今回は違う。ファントムスイープ隊の援護要請だ。
だが……ハドソン少将の面子を立てつつ、俺たちの実績を積むチャンスでもある。どうする、タカバ中尉?」
ソウヤはエミリアと視線を交わし、静かに頷いた。
「……わかりました。受けますよ。」
テントの外から、雨季の湿った風が吹き込み、布地を軽く揺らした。
コジマ中佐は机に肘をついたまま、指を組んで口元を隠すようにしながら、ゆっくりと言葉を続けた。
「コジマ大隊は第3小隊と第4小隊を応援として、デリー基地に派遣する。
指揮系統はハドソン少将の下に入るが……第4小隊には特別に、独自の作戦行動を許可する権限をもらった。
好きに暴れてこい。」
ソウヤとエミリアは一瞬、顔を見合わせた。
エミリアのエメラルドグリーンの瞳が驚きで丸くなり、ソウヤもわずかに眉を上げた。
「……あのハドソン少将の指揮下なのに、独自行動を許すんですか?」
ソウヤの声に半信半疑の色が混じる。
コジマ中佐は苦笑いを浮かべ、椅子の背もたれに体を預けた。
「ああ。我が隊のエース部隊を貸し出すんだ、これくらいはして貰わないと割に合わん。あの少将では、お前たちを十全に働かすことが出来ないし……前回の件で懲りたんだろうよ。」
ソウヤは小さく笑い、エミリアも口元を押さえてクスクスと肩を震わせた。
二人は顔を見合わせ、互いに軽く頷く。
ソウヤが中佐に向き直り、穏やかだが感謝のこもった声で言った。
「……ありがとうございます、中佐。配慮、ありがたく受け取ります。」
エミリアも明るく微笑み、揃って敬礼した。
「ありがとうございます!」
コジマ中佐は軽く手を上げ、敬礼を返した。
その表情はいつもの穏やかさを取り戻し、しかしどこか厳しさを帯びていた。
「礼はいい。さっさと移動準備をしろ。明朝までにミデアにモビルスーツとホバートラックを積載し、出発だ。
遅れるなよ。」
「了解しました!」
ソウヤとエミリアは揃って敬礼を解き、テントの入り口に向かった。
布地をめくり、外の湿った空気に触れる。
雨季の朝の光が、アスファルトの道を淡く照らし、遠くで輸送機のエンジンが低く唸っていた。
二人は並んで歩き出し、基地の格納庫方面へ向かう。
背後でテントの布が風に揺れ、コジマ中佐の姿が一瞬だけ見えた。
彼は机に肘をついたまま、静かに二人を見送っていた。ソウヤはエミリアに視線を移し、小さく笑った。
「……好きに暴れろ、か。中佐らしいな。」
エミリアは頰を少し赤らめ、明るく頷いた。
「はい……本当に、ありがたいです。隊長、一緒に頑張りましょうね。」
二人の足音がアスファルトに軽く響く。
雨季の湿気がまだ重く残る基地内で、新しい任務が始まろうとしていた。
二人はコジマ中佐のテントを出た後、自分達の第4小隊の格納庫に向かった。
格納庫の巨大な金属扉をくぐると、ひんやりとした空気が肌を撫でた。
内部は鉄と油の匂いが濃く、照明の白い光がコンクリートの床に長く影を落としている。
金属パイプで組まれた3つの簡易モビルスーツハンガーに、第4小隊の3機が静かに待機していた。
深い緑の装甲のソウヤのスライフレイル、白い堅牢なシルエットのサンダース軍曹の陸戦型ガンダム、肩のキャノン方を構えたジョシュア軍曹のジム・キャノンが並んでいた。
3機の足元では、サンダース、ジョシュア、ノアが何やら談笑していた。
三人はソウヤとエミリアの足音に気づき、一斉にこちらを向いた。サンダースが低い声で尋ねた。
「隊長、お帰りなさい。
コジマ中佐から、何を頼まれたんですか?
タカバ隊長を呼ぶなんて、お願い事しかありませんから。」
ソウヤはサンダースに見透かされたことに苦笑いを浮かべ、軽く肩をすくめた。
「……さすがだな、サンダース軍曹。
インドシナ半島のジオン残党殲滅作戦で、デリー基地が手こずってるらしい。
応援を頼まれたよ。」
デリー基地の名前を聞いた瞬間、三人の表情が変わった。
サンダースは眉を潜め、ジョシュアは顔を歪め、ノアは露骨に嫌そうな顔をする。
ノアが先に口を開いた。
「まさか……あのハドソン少将の指揮下?」
ソウヤは静かに頷いた。
「ああ、そうだ。」
三人は一瞬、呆然とした。
ジョシュアが工具を握ったまま、声を低くして言った。
「……前回、俺たちを囮にしようとしたのに、懲りてないですか?あの少将…。」
ノアはジョシュアの意見に同意するように、舌打ちをする。
「…チッ…本当に馬鹿だろ。きっと同じこと繰り返す気だぜ。」
サンダースは巨体を少し屈め、懸念を込めてソウヤを発言した。
「隊長……あのハドソン少将の指揮下で、大丈夫ですか?前回の件を考えると……。」
エミリアが明るく、しかしはっきりとした声で割り込んだ。
「確かにハドソン少将の指揮下ですけど……コジマ中佐が、第4小隊には独自の作戦行動をしてもいい権限を手配してくださったんです。前回のようなことは、ありません。」
その言葉を聞いた瞬間、3人の表情が緩んだ。
ソウヤは3人が安堵したことを確認すると、腕時計をチラッと見てから静かに声を上げた。
「明朝の出発に間に合うように、機体の整備と弾薬の受け取りを済ませてくれ。
ミデアに積載できる状態にしておくんだ。
今から作業を割り振る。」
エミリア、サンダース、ジョシュア、ノアの4人は揃って頷いた。
「了解です、タカバ隊長。」
サンダースの低い声が格納庫に響き、他の二人も短く返事をする。
ソウヤは指を立てて順番に指示を出した。
「サンダース軍曹とノア伍長は、弾薬の受け取りを頼む。外で待機してるホバートラックを起動させて、弾薬庫へ行ってきてくれ。必要な予備弾薬と医療キット、通信機のバッテリーをすべて確認し、積んでおいてくれ。」
サンダースは巨体を軽く動かし、頷いた。
「了解。すぐに行ってきます。」
ノアは赤髪をかき上げ、口元を少し上げて言った。
「おし、任せろ。弾薬庫の奴らに、しっかり持ってこいって言ってやるぜ。」
ソウヤは次にジョシュアへ視線を移した。
「ジョシュア軍曹は整備兵と共に、自分のジム・キャノンに発煙弾発射機の取り付けと動作確認を頼む。密林地帯で役立つはずだ。」
ジョシュアは拳を軽く握りしめ、自分の胸をポンと叩いて笑みを浮かべた。
「了解です。すぐ取り掛かります。」
ソウヤは最後にエミリアに向き直った。
「エミリア准尉は俺と一緒にパイロット待機室へ。出発書類の作成と記入、補給リストの最終確認をやる。作戦行動許可証のコピーも忘れずに。」
エミリアは明るく頷き、胸元で小さくガッツポーズをしながら返事をした。
「はい、隊長!すぐにまとめますね。」
ソウヤは全員を見渡し、静かに締めくくった。
「それぞれの作業に取り掛かってくれ。明朝までに、すべて終わらせておくぞ。」
4人は揃って「了解!」と声を合わせ、即座に動き出した。
サンダースとノアは格納庫の外へ向かい、待機中のホバートラックに乗り込む。
低く唸るエンジン音が響き、ホバートラックがゆっくり浮上した。
二人は運転席と助手席に座り、弾薬庫へ向けて出発する。
ジョシュアは整備兵二人を呼び寄せ、自分のジム・キャノンの左胸に6筒の発煙弾発射機の取り付け作業に開始した。
金属の工具音が格納庫に響き始め、発煙弾発射機が固定される音がカチカチと鳴る。
一方、ソウヤとエミリアは格納庫の奥にあるパイロット待機室へ移動した。
簡素な部屋には電気ポットとマグカップが並び、机の上に書類の束が積まれている。
二人は椅子に座り、必要な出発書類の作成と記入に取り掛かった。
ソウヤは弾薬補給申請書と機体積載確認書にペンを走らせ、エミリアは作戦行動許可証のコピーと補給リストを整理する。
部屋にペンの音と紙をめくる音が静かに響き、時折、外の整備音が遠く聞こえてくる。
ソウヤは書類にサインをしながら、エミリアに視線を移した。
「明朝の出発までに、すべて終わらせておこう。
ハドソン少将の指揮下でも、俺たちは俺たちのやり方で動けるように。」
エミリアは頷き、明るく微笑んだ。
「はい、隊長。私も書類、急いでまとめますね。」
雨季の湿気がまだ残る基地内で、第4小隊の準備は静かに、だが確実に進んでいた。
明朝の滑走路は、雨季の湿気がまだ残る薄い霧に包まれていた。
夜明けの空は灰色がかった青に変わり始め、遠くの山影がぼんやりと浮かぶ。
アスファルトの路面には昨夜の雨が薄く水膜を作り、朝の光を鈍く反射している。
滑走路の端に設置された照明がまだ点灯したまま、赤と白の誘導灯が霧の中で柔らかく滲んで見えた。
遠くで輸送機のエンジンがアイドリングを続け、低く唸る音が基地全体に響き渡る。滑走路の中央付近に、ミデア輸送機2機が待機していた。
黄色の機体に連邦軍のマーキングがくっきりと描かれ、貨物ハッチが開いたままの機体は、内部の照明が漏れ出して周囲を淡く照らしている。
片方のミデアには、第3小隊のRGM-79ジム3機が既に積載済みだった。
もう1機のミデアの後方には、第4小隊のモビルスーツ3機が静かに並んでいた。
深い緑の装甲が朝霧に溶け込むように佇むソウヤのスライフレイル、白い堅牢なシルエットでショートシールドを構えたサンダース軍曹の陸戦型ガンダム、肩に大きなキャノン砲と左胸に新しく装備された発煙弾発射機を装備したジョシュア軍曹のジム・キャノン。
紫と緑のメインカメラが静かに光を灯し、ミデアの貨物ハッチ前に整列している。
ホバートラックが機体の横に停まり、整備班が最後の点検を急いでいた。
第4小隊の面々が、ミデア輸送機の貨物ハッチ前に整列していた。
サンダース、ジョシュア、ノアの三人は横一列に並び、ソウヤとエミリアの方を向いていた。
サンダースの巨体が中央にどっしりと構え、ジョシュアがその左に、ノアが右に立っている。
三人の視線は隊長であるソウヤに集中していた。
ソウヤは三人の顔がよく見える位置に立ち、背筋を伸ばした。
野戦服の襟を軽く正し、ゆっくりと息を吐く。
彼の横には、副官のエミリア・ドットナーが立っている。
彼女はノートパソコンを胸に抱え、ソウヤの言葉を待つ姿勢で背を伸ばしている。
滑走路の端では、ミデア輸送機のエンジンが低くアイドリングを続け、整備兵たちの最後の点検音が遠く響く。
ソウヤは全員の目を見回し、静かに口を開いた。
「これより、デリー基地への応援任務に向かう。
ハドソン少将の指揮下に入るが……俺たち第4小隊は、独自の作戦行動を許可されている。だが、忘れるな。俺たちは誰かを死なせないために戦っている。それは敵味方問わずだ。」
ソウヤの声は低く、しかしはっきりと滑走路に響いた。
サンダースは巨体をわずかに動かし、静かに頷く。
ジョシュアは拳を軽く握り、胸を張った。
ノアは赤髪を軽くかき上げ、口元に薄い笑みを浮かべながらも、真剣な瞳でソウヤを見つめ返した。ソウヤは一呼吸置き、視線を全員にゆっくりと移した。
「……俺たちは、ただ戦うんじゃない。誰も死なせない、誰も置いていかない、生きて帰る。それが第4小隊だ。」
短い言葉が終わると、静けさが滑走路を包んだ。
遠くでミデアのエンジンが唸りを上げ、整備兵が「積載完了!」と叫ぶ声が聞こえてくる。
ソウヤは小さく息を吐き、隊員たちに視線を戻した。
「準備はいいな?」
三人が揃って声を合わせた。
「はい、隊長!」
エミリアも明るく、しかし力強く頷いた。
ソウヤは軽く頷き、ミデアの貨物ハッチに向かって歩き出した。
サンダース、ジョシュア、ノア、エミリアがその後に続く。
ミデア輸送機の貨物ハッチが大きく開かれ、朝霧の中で内部の照明が白く漏れ出していた。
第4小隊の3機のモビルスーツが、大きく開かれたハッチの中にゆっくりと引き込まれていく。
まずソウヤのスライフレイルが先頭に進み、深い緑の装甲が照明に照らされて鈍く光った。
続いてサンダースの陸戦型ガンダムが白い巨体を滑らせ、ジョシュアのジム・キャノンが肩のキャノン砲を低く構えたまま後ろから入る。
3機は貨物室の中央に整然と並べられ、整備員たちが素早く固定ベルトを巻き始めた。
金属のバックルがカチカチと鳴り、太いワイヤーが機体の脚部と胴体をしっかりと締め上げる。
整備員の一人がスライフレイルの脚部を叩きながら確認し、もう一人が陸戦型ガンダムのベルトを軽く押して固定具の強度を確かめた。
次にホバートラックが低く浮上しながらハッチ内へ滑り込み、機体の横に並べられた
武器弾薬、医療キットの箱、各種機材が入ったコンテナが次々と運び込まれ、ホバートラックの隣のスペースに鎖で固定されていく。
最後のコンテナが固定されると、整備班長が大声で叫んだ。
「機体固定完了! コンテナ固定良し!!
ハッチ閉めるぞ!」
貨物ハッチの油圧が低く唸り、巨大な金属扉がゆっくりと閉じ始めた。
ハッチの縁が合わさる音が重く響き、内部の照明が徐々に遮断される。
最後にカチリとロック音が鳴り、ミデアの貨物室が完全に密閉された。
全ての積載物を積み込んだ
ミデアはエンジンが本格的に動かし始める。
エンジンの回転数を上げ、低い唸りが滑走路全体に広がった。
翼端のフラップが動き、尾翼のラダーが微調整される。
操縦席のパイロットが管制塔からの「離陸許可」のやり取りが操縦席に響く。
黄色の機体がわずかに前傾し、エンジンの推力が徐々に増大していく。
アスファルトに残る水溜まりが波立ち、排気熱で霧が渦を巻いた。ミデアはゆっくりと加速を始めた。
速度が増すにつれ、エンジンの唸りが轟音に変わり、翼が空気を切り裂く音が響く。
機首が上向きになり、離陸の瞬間——ミデアは滑走路を離れ、霧の中をゆっくりと上昇した。
翼端の灯火が赤く点滅し、機体は徐々に高度を稼ぎながら、デリー基地の方角へ向かって進む。
朝焼けの空に、黄色の巨体が溶け込んでいく。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
「機動戦士ガンダム戦記・PS3版」の宇宙世紀81年の話に突入しました~!
ゲームやコミックの方でも、ユーグのファントムスイープ隊は東南アジアの方で戦っていたので、クロスさせましたー!
ソウヤの第4小隊とユーグのファントムスイープ隊がどう交わるか、楽しみにしていてください。
さらに、意外なゲストキャラクターも登場しますので、お楽しみにー!
感想など気軽に書いてくださいね。
一言感想でも大歓迎です。
【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?
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陸戦型ジム改
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バイアリーターク
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ペイルライダー・ヴァンガード
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ペイルライダー・マスケッティア
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ヴァルキリー
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グフ・ノクターン