激しい銃撃戦の音が密林を切り裂いていた。
両軍のマシンガンの乾いた連射音と、爆発が木々を揺らす低く重い響きが、蒸し暑い空気に混じって響き渡る。
濃い緑の葉が弾丸に引き裂かれ、細かな破片が雨のように降り注ぐ。
足元はぬかるんだ湿地で、モビルスーツが足を踏み入れ度に重い水音が立つ。
さらに奥には、険しい山々が連なり、急峻な岩肌が木々の隙間から覗いていた。
第4小隊はハドソン少将の指揮下で東南アジアのジオン残党秘密基地攻略に参加していた。
ソウヤのスライフレイルを先頭に、南側の密林を慎重に進んでいた。
このルートは密林が最も濃く、視界が悪く、ステルス性能が活きる湿地寄りの道だった。
その後ろを、サンダースの陸戦型ガンダム、ジョシュアのジム・キャノン、そしてデリー基地所属の陸戦型ジム小隊5個小隊が、木々を薙ぎ倒しながら追随している。
無線越しに、ハドソン少将の声が響いた。
「ダブル・ハンマー作戦、開始から十五分経過した。予定通りだ。」
その声は満足げだった。
作戦はシンプルな挟撃包囲。
ファントムスイープ隊を主軸とした主力部隊が北側から進攻。
比較的開けたルートを活かし、ジーラインの高速機動で派手に敵を引きつけている。
第4小隊が率いる部隊は南側からじわじわと突破し、基地中枢を狙う。
ミニ・トレー級陸上戦艦は後方で待機し、東側から火力支援と包囲の蓋を担うことになっていた。
ソウヤは小さく息を吐いた。
ハドソンの声が続く。
「北側の主力部隊は陽動を続けてくれたまえ。第4小隊は南側を静かに進攻。目立つなよ。合流まで各自、役割をまっとうせよ。」
エミリアの声が、すぐ横から小さく入った。
「隊長、北側の無線状況が少し乱れています。ファントムスイープ隊はすでに接敵しているようです。」
ソウヤはモニターを一瞬だけ確認し、低く答えた。
「わかった、俺たちは南側を進むだけだ。」
湿った風がコックピットの隙間から入り、額の汗を冷たくした。
南側の密林はますます濃くなり、木々の影が機体を飲み込もうとしていた。
ホバートラックの運転席で、ノアが苛立たしげにハンドルを握り直した。
「今回は俺達は囮に使われなかったが、ファントムスイープの奴らが気の毒だぜ。」
隣のジム・キャノンから、ジョシュアの声がすぐ返ってきた。
「同感だよ。あのジーラインを陽動に回すなんて……正直、勿体ない気もする。」
サンダースの陸戦型ガンダムが、ゆっくりと木々を押し分けながら進む中、低く落ち着いた声が無線に入った。
「確かに気の毒ではあるが、あの機体は目立つ。陽動には妥当な采配だ。」
エミリアはスライフレイルのコックピットで、わずかに唇を噛んだ。
彼女は静かに息を整え、慎重に言葉を選んだ。
「隊長のスライフレイルを主軸に、陸戦型ジム4個小隊で挟撃する形は、確かに利に叶っています。でも……あの人がこの作戦を立案したと思うと、どうしても……」
言葉の最後が、少し曇った。
エミリアの指がコンソールに軽く触れたまま、止まっていた。
サンダースが短く溜め息を吐く気配が伝わってきた。
「ハドソン少将が立案した作戦は……正直、色々と信用できないからな。」
ノアがすぐに反応した。
「だろ? 結局、ファントムスイープ隊を陽動に使い捨てて、自分は後方で安全に構えてるだけじゃねえか。あの狸爺、相変わらず保身が上手いぜ。」
ジョシュアが小さく苦笑を漏らす気配がした。
「まあ、でも……今回はちゃんと部隊を動かしてるみたいだけどな。」
エミリアは胸の奥がざわつくのを感じながら、視線を南側の濃い木々の影に向けた。
彼女は小さく、しかしはっきりと言った。
「……ファントムスイープ隊の皆さんが、無事でいてくれればいいんですけど。」
狭いコックピットの中で、誰もが一瞬、言葉を失った。
湿った風が機体の隙間から入り、微かな葉ずれの音だけが響いていた。
ホバートラックの運転席でノアが苛立たしげにハンドルを握っていたその時、突然通信機が鳴り響いた。
エミリアが素早く受信ボタンを押し、ヘッドセットを耳に当てた。
次の瞬間、彼女の表情が凍りついた。
「……え……?」
ソウヤが即座に反応した。
「どうした、エミリア?」
エミリアは一瞬言葉を詰まらせ、掠れた声で報告した。
「……北側の主力部隊からです。イフリート・ナハトを発見したと……連絡が入りました。」
コックピット内に、短い沈黙が落ちた。ソウヤの眉がわずかに寄った。
胸の奥に説明しがたい違和感が広がっていく。
その直後、ミニ・トレー級陸上戦艦からハドソン少将の声が無線に響き渡った。
興奮を抑えきれない、甲高い声だった。
「北側の主力部隊は即座に前進し、イフリート・ナハトを拿捕せよ! 包囲網は後回しだ! 繰り返す、イフリート拿捕を最優先に!」
第4小隊の面々が、一斉に息を飲んだ。
ノアがハンドルを強く握りしめ、声を荒げた。
「はぁ? 今さら何言ってんだあの狸爺! 今までの失態を払拭しようと、功を焦りやがって……!」
サンダースの低い声が、すぐに続いた。
「……どうします、タカバ隊長?」
ソウヤはスライフレイルの操縦桿を軽く握り直し、迷いのない声で告げた。
「進軍スピードを上げて、敵本陣に奇襲を掛ける。
敵の注意をこちらに向けさせ、北側の主力部隊の負担を減らすぞ。」
エミリアが即座に同意した。
彼女の声には、わずかな緊張が混じっていたが、はっきりとした意志があった。
「その作戦が妥当だと思います。今は包囲網を維持するより、敵の戦力を分散させる方が……生き残る確率が高いです。」
ノアが舌打ちをしながらも、ホバートラックの加速レバーを押し込んだ。
「チッ……仕方ねえな。やるしかねえかよ。」
サンダースは低く頷くような息を吐き、陸戦型ガンダムの足を速めた。
ジョシュアもジム・キャノンの肩部キャノンを軽く調整しながら、短く応じた。
「……了解です。隊長の指示に従います。」
南側の濃い密林の中で、第4小隊の機体が一斉に速度を上げ始めた。
湿った蔓が機体の装甲を擦り、木々の影がさらに深く落ちる中、ソウヤは静かに前方を睨んだ。
(……また、囮か。)
その思いを胸の奥に押し込み、彼はスライフレイルのスラスターをわずかに噴射させた。
南側、濃い緑の蔓と湿った葉が絡み合う木々の影に、2機のザクⅡF2が身を潜めていた。
険しい山の斜面に張り付くように隠れ、わずかな機体の動きすら抑え、息を殺して待機していた。
第4小隊の無線とは別の周波数で、ジオン秘密基地の警備を任された二人の声が交わされていた。
コックピット内でグスタ・エーベル少尉が操縦桿に肘を乗せ、ため息混じりにぼやいた。
「はぁ……隊長のエリク少佐は、基地に進攻してくる敵の主力部隊を叩くために、アイロス少尉とフリッツ少尉と一緒に出撃したのに。自分達は基地警備か……。」
隣に待機しているもう1機のザクⅡF2から、ヒルデ・ニーチェ少尉の鋭い声が飛んできた。
「グスタ、そんな愚痴を言うんじゃない。基地警備も立派な任務よ。私たちがここを守らなければ、補給線が切れて残党全体が干上がるわ。」
グスタは肩をすくめるような仕草で、軽く笑った。
「まあ、ヒルデと一緒だから……まあ、良いか。」
ヒルデは自分のザクのモニター越しに、わずかに首を傾げた。
彼女の声に、わずかな戸惑いが混じる。
「……どういう意味? その妙な言い方。」
グスタは一瞬言葉を詰まらせ、慌てて誤魔化すように付け加えた。
「いや、別に深い意味はないんだ。ただ……ヒルデと組めるなら、基地警備も悪くないって思っただけさ。」
ヒルデは小さく息を吐き、視線を濃い密林の奥へと戻した。
湿った風がザクの装甲を叩き、遠くで木々がざわめく音だけが響いていた。
すると、木々の隙間から1機のモビルスーツが基地へと帰還してきた。
ヒルデ・ニーチェ少尉はザクⅡF2のモニターを凝視し、思わず身を乗り出した。
黒紫の装甲に、特徴的な肩のスパイクアーマー。
彼女は即座に思い込んだ。
(隊長のナハトが帰ってきた!)
しかし、よく見てみると違和感があった。
機体はナハトよりもやや細身で、肩のスパイクアーマーも小型。
何より、ナハト特有の重厚な黒紫色ではなく、鮮やかな紫の塗装が施されていた。
背中にはハルバードのような長柄武器を担ぎ、右手にはジャイアント・バズ、左腕には三連装ガトリングを装着している。
ヒルデは眉を寄せ、すぐに訂正した。
「……違う。隊長の機体じゃない。」
隣のザクⅡF2から、グスタ・エーベル少尉の声が返ってきた。
「ああ、あれか。イフリート・ナハトの影武者をするために、フィジー諸島から呼び寄せた機体だよ。ナハトは希少なイフリートをベースにした試作機だから、同型機を保有していたフィジー諸島の部隊に無理を言って来てもらったんだ。」
ヒルデは軽く息を吐き、納得したように頷いた。
「……なるほど。そういうことか。」
紫のイフリートは補給を受けるために、基地の入り口へとゆっくりと進んでいた。
二人は紫色のイフリートの後ろ姿を見送り、ふたたび警戒しようとした瞬間、戦闘の爆発音と銃声が密林に鳴り響き始めた。
通信機から、味方の叫び声が飛び込んでくる。
その声は驚愕と戦慄が混じり、明らかに動揺していた。
「なんで、ここにハノイの緑がいるんだ!?」
「緑の狩人だ! 緑の狩人が出たぞ!」
ヒルデ・ニーチェ少尉はザクⅡF2のコックピットで眉を寄せた。
意味が分からず、ただ困惑が胸に広がる。
「……ハノイの緑? 何の話?」
隣のザクから、グスタ・エーベル少尉の急いた声が飛んできた。
「ヒルデ! ハノイに緑色のヤバい奴がいるって話だ。
そいつが現れたんだよ!」
ヒルデは内心で「大袈裟だ」と思いながらも、すぐに警戒態勢を取ろうとした。
操縦桿を握り直し、センサーを立ち上げる。
だが、次の瞬間——目の前に、紫の眼が突然現れた。
ヒルデは息を飲んだ。
言葉すら出ない。
密林に溶け込むような緑の装甲の機体が、すぐ目の前でビームライフルをヒルデのザクに向けようとしていた。
(……っ!)
体が凍りつくような恐怖が走ったその刹那——グスタのザクⅡF2がマシンガンを発砲した。
乾いた連射音が響き、緑の機体はヒルデのザクから離れるように後退した。
ヒルデの心臓が激しく鳴っていた。
指先がわずかに震え、息が乱れる。
「……今のは……何?」
グスタの声が、緊迫した調子で返ってきた。
「例の緑の奴だ……! 気をつけろ、ヒルデ!」
すると、砲弾が飛来する低く重い音が密林の空気を切り裂いた。
ヒルデとグスタは同時に反応。
二機のザクⅡF2が即座に後退し、その場から離れる。
直後、2人がいた場所に砲弾が着弾した。
激しい爆発が地面を抉り、土と木片が飛び散る。
弾着の跡が、黒く焦げた大きなクレーターを残した。
ヒルデの背筋に冷たいものが走った。
(砲撃タイプの機体……!)
すると、今度は側面からマシンガンの連射音が響いた。
弾丸が2機のザクに降り注ぎ、装甲に軽微なダメージを与える。
火花が散り、金属の悲鳴のような音が響く。
二人は慌てて発砲した方向へ振り向いた。
そこに、ガンダムタイプのモビルスーツがマシンガンを構えて立っていた。
白い装甲が薄暗い密林の中で異様に目立っていた。
ヒルデの息が一瞬止まった。
「……連邦の白い悪魔……!?」
グスタが、比較的落ち着いた声で即座に訂正した。
「違う。あの機体は白い悪魔の出来損ないだ。本物じゃない。」
ヒルデはグスタの言葉に少し安堵したものの、胸のざわつきは消えなかった。
しかし、そのわずかなやり取りの隙に——緑の機体を見失っていた。
ヒルデはハッとして辺りを見回した。
グスタも同じく、センサーを慌ただしく動かしながら周囲を警戒する。
「……しまった。緑の奴は……どこに行った?」
ヒルデの指が操縦桿を強く握りしめ、声がわずかに震えた。
「見失った……!?」
濃い密林の闇が、二人のザクを包み込むように静まり返っていた。
ヒルデは息を潜め、センサーを慎重に動かしながら周囲を警戒していた。
木々のざわめきと、遠くの鳥の鳴き声だけが響く中、何かがおかしいと感じた。
背後に、微かな——ほとんど気配と言えないほどの、わずかな空気の揺らぎ。
(……何か、いる?)
その直後、ヒルデのザクⅡF2の背後から、緑の機体が音もなく現れた。
スライフレイルはビームライフルを腰に下げ、ロング・ビーム・ジャベリンを構えていた。
赤白く輝くビーム刃が暗闇の中で不気味に浮かび上がる。
ヒルデは背後の気配を感じ、咄嗟に振り向いた。
しかし、時すでに遅しだった。
(……っ!)
声にならない悲鳴が喉の奥で詰まる。
スライフレイルのジャベリンが、容赦なく突き込まれようとしていた。
グスタも遅れて反応し、マシンガンを向けようとしたが、間に合わない。
その瞬間——紫色の機影が横合いから走り込んだ。
鮮やかな紫色のイフリートが、手に持ったハルバード状の武器の矛で、スライフレイルのジャベリンを寸前で受け止めた。
互いの刃が激しくぶつかり合い、眩い火花と高周波の音が密林に響き渡る。
ヒルデとグスタのザクは、咄嗟に後退し、距離を取った。
息を乱しながら状況を確認する。
「……今のは……」
ヒルデの声がわずかに震えた。
先ほど基地の中に入っていった、フィジー諸島の紫のイフリートだった。
それが、緑の狩人の一撃を防いでくれたのだ。
グスタが、緊張した声で呟いた。
「……助かった……か?」
ヒルデはまだ動揺を抑えきれず、モニターに映る紫の機体を凝視した。
胸の奥で、激しい鼓動が鳴り続けていた。
ヒルデとグスタのザクに、紫のイフリートから通信が入った。
ぶっきらぼうな物言いの男の声が響く。
「おい、インビジブル・ナイツの二人。こいつの相手は俺がする。お前達はあのガンダムタイプと砲撃タイプの相手をしてくれ。」
ヒルデは即座に提案した。
「一緒に倒した方が確実です。一機でも多く敵を減らさないと——」
「断る。」
紫のイフリートのパイロットは、即答で切り捨てた。
「自分の獲物を横取りされるのも、邪魔されるのも嫌いなんだ。さっさと行け。」
ヒルデは困惑した。
この男の好戦的な口調と、独占欲のような響きに戸惑いを隠せない。
「……ですが……」
グスタが、素早く割り込んだ。
「ヒルデ、いいよ。彼に任せよう。正直、自分たちじゃあの緑の奴の相手は荷が重い。こっちはガンダムタイプと砲撃タイプに集中しよう。」
ヒルデは唇を軽く噛み、わずかに迷った後、渋々頷いた。
「……わかった。任せるわ。」
二機のザクⅡF2は紫のイフリートから離れ、戦場を横切るように移動を始めた。
南側の基地周辺では、すでに密かに進攻していた連邦の部隊と基地を守備するジオン残党の戦闘が激しく始まっていた。
あちらこちらで爆発音と発砲音が響き、木々が炎に包まれる光が木漏れ日のように揺れていた。紫のイフリートのパイロットは、2機のザクが十分に離れたことを確認すると、ヒート・ランサーを構え直した。
目の前の緑の機体——スライフレイルを見つめ、彼の口元に獰猛な笑みが浮かんだ。
「……ようやく、強そうな相手が来たじゃねえか。」
声には、抑えきれない歓喜と好戦的な興奮が滲んでいた。
イフリートのパイロットは、この託された機体で目の前の強敵にどこまで攻められるか、胸の奥が熱くなるのを感じていた。
「シュナイドから託された機体で……どこまでやれるか。楽しみだぜ。」
低く、獰猛な笑みが声に滲む。
彼は元々、この基地の要請でイフリート・ナハトの影武者としてフィジー諸島から呼び出された身だった。
補給物資を受け取ることを条件に仕方なく参加しただけのはずが、分け前としてモビルスーツを1機貰える話に加え、何よりも目の前に現れたこの強敵に出会えたことに心の底から狂喜していた。
好戦的な血が激しく脈打つ。
フレッド・リーバーは操縦桿を強く握り、ペダルを深く踏み込んだ。
シュナイドから託されたイフリートが低く唸りを上げ、両手に握ったヒート・ランスを振り上げる。
「さあ……かかってこい!斬り刻んでやる!」
紫の気骨なる者と緑の狩人の戦いの幕が上がった。
スライフレイルのロング・ビーム・ジャベリンと、紫のイフリートのヒート・ランスが激しく激突した。
ビームの赤白い刃と、緋色に灼熱した実体刃がぶつかり合うたび、眩い火花が散り、耳をつんざく金属音とビームの唸りが密林に響き渡る。
互いの切っ先が美しい軌跡を描きながら、何度も何度もぶつかり合う。
時には優雅な円を描き、時には鋭い直線を描く。
その美しさの裏側には殺気と暴力が渦巻いていた。
ソウヤはザクの右肩を狙った強烈な突きを、防がれた瞬間から本格的に刃を交えていた。
(……強い!)
相手のヒート・ランスは予想以上に重く、力強い。
ビーム刃が受け止められるたび、機体の腕全体に強烈な振動が走り、関節が軋む。
スライフレイルのフレームが悲鳴を上げ、ソウヤの歯を食いしばらせる。
目の前の紫のイフリートを見ながら、ソウヤは一年戦争の記憶をふと思い返した。
オデッサ近辺で目撃されたという機体——オルグレン隊長が言っていた言葉が脳裏に蘇る。
『オデッサで目撃された機体とは別個体だな。色が濃く、建造途中のようだ。』
今、目の前にいるこの機体は、あの時に言われていた個体だと直感する。
周囲では戦闘が一気に激化していた。
追随していた陸戦型ジム小隊が次々と敵と交戦に入り、爆発音とマシンガンの連射音が絶え間なく響く。
サンダースとジョシュアも、仕留め損ねたザクⅡ2機と戦っていることが、通信越しに伝わってきた。
(……今すぐにでも、そっちに行きたいが……)
しかし、目の前の紫のイフリートが、それを許してくれそうになかった。
相手は好戦的な笑みを浮かべているかのように、執拗に距離を詰めてくる。
一撃一撃が重く、容赦がない。
ソウヤは静かに息を整え、ロング・ビーム・ジャベリンを構え直した。
(……まずは、こいつを抑えないと)
先に仕掛けたのは、紫のイフリートだった。
夕方の柔らかな橙色の光が木々の隙間から差し込む中、ヒート・ランスが低く唸りを上げ、変幻自在に舞った。
突く、斬る、払う——多彩な手数が、まるで嵐のようにソウヤへと襲いかかった。
質量と遠心力を最大限に利用した重たい一撃が、次から次へと放たれる。
ランスの刃が赤く灼熱したまま弧を描き、風を切り裂く音が耳を劈く。
一撃一撃が重く、容赦なく、機体ごと叩き潰さんとする勢いだった。
ソウヤはロング・ビーム・ジャベリンを巧みに操り、これを迎え撃った。
最速の刺突が、赤い光刃を閃かせて連続で放たれる。
点としての攻撃。
リーチの長さを活かし、絶対に近づかせないという意志が、槍の軌道に宿っていた。
ジャベリンの穂先が光の線となり、紫のイフリートを牽制する。
一瞬の隙も与えず、相手のランスを押し返す。
二機の刃が激しくぶつかり合うたび、火花が爆発的に散った。
ビームの甲高い唸りと、灼熱した実体刃の重い衝撃音が混じり合い、密林の闇を切り裂く。
衝撃がコックピットまで伝わり、ソウヤの体をシートに強く押しつける。
紫のイフリートのパイロットは、明らかに楽しんでいた。
ランスの動きはますます苛烈になり、突きから一転して横薙ぎに払う。
遠心力を活かした重い一撃が、スライフレイルの側面を狙う。
ソウヤはジャベリンを素早く引き、角度を変えて受け流すが、衝撃の余波で機体がわずかによろめいた。
(……重い、しかも速い!)
ソウヤの額に汗が浮かぶ。
夕方の薄明かりが、コックピットのモニターに反射して揺れた。
相手の攻撃は単なる力任せではない。
多彩な変化と圧倒的な質量感が融合した、極めて実戦的な戦い方だった。
ソウヤは歯を食いしばり、再び最速の突きを繰り出した。
ジャベリンの刃が光の槍となり、紫のイフリートの胸元を狙う。
相手はランスを回転させながらこれを弾き、即座に反撃の払いを見舞う。
刃と刃が何度も交錯し、火花が二機の装甲を照らし出す。
戦いは激しさを増していった。
紫のイフリートは好戦的な笑みを浮かべているかのように、攻撃の手を緩めない。
ソウヤは冷静にリーチを活かし、決して間合いを詰めさせない。
しかし、相手のランスは重く、変幻自在。
一瞬の隙を突かれれば、機体ごと切り裂かれる危険が常に付きまとっていた。
周囲では他の戦闘も激化していたが、ソウヤの意識は目の前の強敵に完全に奪われていた。
緑と紫の機影が、夕暮れの密林の中で激しく演武を舞い続けていた。
ヒルデとグスタは明らかに苦戦していた。
フィジー諸島のイフリートのパイロットに頼まれ、ガンダムタイプとジム・キャノンタイプの2機を相手に戦っていたが、なかなか攻めきれない。
前衛に立つ陸戦型ガンダムの立ち回りが異様に上手く、二人掛かりでも決め手が出せないでいた。
相手の陸戦型ガンダムは、こちらの攻め方を熟知しているかのように動いていた。
ヒルデが前に出ようとすれば、正確に射撃を加えて牽制し、グスタが援護射撃を試みれば、位置とタイミング、射線を完璧に読まれて回避される。
さらに、その後方からジム・キャノンが肩のロケット砲を正確に撃ち込んでくる。
砲弾は弧を描いて着弾し、二人のザクを翻弄した。
ヒルデはザクの操縦桿を強く握りしめ、歯を食いしばった。
「……くっ、この出来損ない……! 動きが読めない!」
グスタも苛立たしげに声を上げた。
「援護しようとしても全部先読みされてる……! あいつら、ただの連邦のパイロットじゃねえぞ!」
陸戦型ガンダムの白い装甲が、夕方の薄明かりの中で鈍く光っていた。
その巨体は決して無駄な動きをせず、二人を翻弄しながら確実に距離をコントロールしている。
後方のジム・キャノンも、肩部キャノンを微調整しながら、的確なタイミングでロケット砲を撃ち込んできた。二人は次第に押され始めていた。
ヒルデのザクの装甲に浅い傷が増え、グスタの機体も被弾の衝撃でわずかによろめく。
攻め手が完全に封じられ、守勢に回らざるを得ない状況が続いていた。
「……このままじゃ、押し切られる……!」
ヒルデの声に、焦りが滲んだ。
サンダースの陸戦型ガンダムは2機のザクの動きを見極めながら、正確に右手に持った100mmマシンガンで牽制射撃を加えていた。
弾丸が的確に相手の進路を塞ぎ、動きを制限する。
サンダースの声が無線に響いた。
「腕は良いが、教本通りの戦い方だな。牽制しやすい。」
彼は冷静に相手の動きを読んで射撃を放ち、相手が反撃の射撃を試みようとした瞬間に素早くポジションを変え、機敏な動きでザク達の攻撃をかわし続ける。
ホバートラックの運転席でノアは、その様子を見て思わず感嘆の声を漏らした。
「……すげえな、サンダース軍曹。完全に相手の動きを読んでるぜ。」
隣に座るエミリアはヘッドセットに耳を澄ませ、敵のおおよその位置を素早く特定していた。
彼女は冷静に、しかし的確に指示を出した。
「ジョシュア軍曹、目標の座標を修正。右に八メートル、前進方向に二度。撃ってください。」
ジョシュアは即座に反応した。
「了解!准尉!」
ジム・キャノンの肩部キャノンが低く唸り、修正された角度でロケット砲を放つ。
砲弾は弧を描いて飛来し、陸戦型ジム小隊と交戦中のザクの足元に正確に命中した。
爆発が地面を抉り、足を損傷したザクがバランスを崩して倒れ込む。
その瞬間、陸戦型ジム小隊が一気に攻め立てた。
倒れたザクを狙い、集中射撃を浴びせ、残りのザクたちを次々と制圧していく。
エミリアの声に、わずかな安堵と称賛が混じった。
「素晴らしい命中精度です、ジョシュア軍曹。」
ジョシュアは照れくさそうに、しかし誇らしげに応じた。
「元戦車乗りですからね。こういう距離感は得意なんです。」
ジム・キャノンは右手の100mmマシンガンを構え直し、肩のロケット砲を微調整しながら、サンダースの援護射撃を続けた。
砲弾とマシンガンの弾幕が、ヒルデとグスタのザクに向かって正確に飛んでいく。
サンダースは低く短く息を吐きながら、通信に答えた。
「よくやった。引き続き援護を頼む。」
南側の戦場は、連邦側の連携が徐々に優位に立ち始めていた。
一方、ヒルデとグスタはジム・キャノンの弾幕と陸戦型ガンダムの正確な射撃で追い詰められていた。
肩部ロケット砲の轟音が響くたび、修正された砲弾が弧を描いて飛来し、二機のザクⅡF2の周囲に着弾する。
爆風が地面を抉り、土砂と木片が飛び散る中、ヒルデはザクの機体を必死に捻って回避した。
しかし、次の瞬間——陸戦型ガンダムの100mmマシンガンが、正確に彼女の進路を塞いだ。
「あくっ……!」
ヒルデは喘いだ。
相手の射撃は恐ろしく的確だった。
自分が前に出ようとすれば即座に牽制射撃を入れ、援護のために位置を変えようとすれば、タイミングと射線を完璧に読まれて先回りされる。
まるで、こちらの思考を先読みしているかのようだった。
「グスタ、右から回り込んで!」
ヒルデが叫ぶと同時に、グスタのザクが横へ移動しようとした。
だが、その動きを待っていたかのように陸戦型ガンダムのマシンガンが短く連射される。
弾丸がグスタのザクの脚部をかすめ、装甲に浅い傷を刻んだ。
「チッ……! 読まれてる!」
グスタの声に苛立ちが滲む。
二人は何度も連携を試みたが、陸戦型ガンダムは決して無駄な動きをせず、常に最適な位置で二人を分断しようとしてくる。
その後方では、ジム・キャノンが肩のロケット砲を微調整しながら、的確なタイミングで追加の砲撃を放つ。
爆風がザクの装甲を震わせ、ヒルデのコックピットに強い振動が伝わった。
彼女の指が操縦桿を白くなるほど握りしめ、額に冷たい汗が浮かぶ。
(……この組み合わせ、厄介すぎる……!陸戦型に正確に牽制され、キャノンは隙を突いて確実に削ってくる……)
グスタも同様に息を荒げていた。
「援護しようとしても全部先読みされてる……!このままじゃ、じり貧だぞ!」
二機のザクは次第に守勢に回らざるを得なくなり、攻撃の手数が明らかに減っていた。
陸戦型ガンダムの白い機影と、その後方で支援を続けるジム・キャノンの連携は盾と矛の完璧の組み合わせだった。
(……このままでは押し切られる……!)
ヒルデは唇を強く噛み、モニターに映る二機を睨みつけた。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
今回の話では、ソウヤVSフレッドとサンダース&ジョシュアVSヒルデ&グスタの戦いを書きました~♪
08小隊とガンダム戦記とサイドストーリズの3つの作品をクロスさせた話になりました!
楽しんでもらえたら、嬉しいです。
フレッドのイフリートは15年後の宇宙世紀0096年には、イフリート・シュナイドに改修され、トリントン基地襲撃に参加するんですよね。
タイトルの「幻影の掃討者と切り裂き魔」とは、幻影の掃討者がファントムスイープ隊で、切り裂き魔がフレッドのことを意味しています。
今回、フレッドが乗っているイフリートは改修される前のヒート・ランスを装備しているダグ・シュナイド仕様になっています。
ではでは、次のお話もお楽しみに~!
原作キャラクター紹介
フレッド・リーバー
登場作品 機動戦士ガンダムサイドストーリズ&機動戦士ガンダムUC
ガンダムUCの紫のイフリートに乗っていた元連邦軍のパイロット。
彼の経歴は本当に複雑怪奇なので、サイドストーリズをプレイすると彼の経歴が分かるので、面白いです。
セミストライカーのツイン・ビーム・スピアの無敵回避はかなり有名ですw
エリク・ブランケ
原作 ガンダム戦記(PS3)
ガンダム戦記のジオンサイドの主人公。
ソウヤ達が戦っている時には北側の連邦軍主力部隊と戦闘をし、ファントムスイープ隊と戦闘している最中です。
アイロス・バーデ
原作 ガンダム戦記(PS3)
エリクの幼なじみで、副官ポジションの人。
今回はエリクと同行しているので、名前だけです。
フリッツ・バウアー
原作 ガンダム戦記(PS3)
エリクと一緒に出撃しているので、名前だけ。
だけど、ゲームをプレイした人は察していると思いますが、この後に悲惨な事が………。
ヒルデ・ニーチェ
原作 ガンダム戦記(PS3)
グスタと一緒にお留守番で、基地警備をしていたインジビブル・ナイツのメンバーの女性パイロット。
赤髪の女性パイロットて、本当に良いですよね。
ルナマリアやアルマやカレンとか………。
グスタ・エーベル
原作 ガンダム戦記(PS3)
ヒルデと一緒にお留守番で、基地警備をしていたインジビブル・ナイツのメンバー。
彼の設定は原作ゲームとコミック版を参考にしました。
だから、ヒルデに好意を寄せているのはコミック版の影響です。
【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?
-
陸戦型ジム改
-
バイアリーターク
-
ペイルライダー・ヴァンガード
-
ペイルライダー・マスケッティア
-
ヴァルキリー
-
グフ・ノクターン