機動戦士ガンダム オリオンの軌跡   作:浅片名羽馬

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第67話 幻影の掃討者と切り裂き魔【4】

北側のファントムスイープ隊を主軸とした連邦主力部隊は、フレッドのイフリートの陽動に完全に引っ掛かり、部隊は前後左右に分断されてしまった。

比較的視界の効くルートを選んだはずが、敵の巧みな地形利用とイフリート・ナハトの奇襲により、通信機から次々と混乱した叫びが飛び込んでくる。

 

「北西にステルス機!トゲ付きだ!」

 

「2番小隊、連絡が途絶えた! 繰り返す、2番小隊が——!」

 

ステルス性の高いイフリート・ナハトを中心としたジオン残党の各個撃破戦術は恐ろしく効果的だった。

突然現れては1個小隊を確実に撃破し、すぐに闇に溶けるように姿を消す。

連邦主力部隊は、次第に混乱の渦に飲み込まれていった。

しかし、マオ少佐率いるファントムスイープ隊の迅速かつ的確な活躍により、状況が劇的に変わり始めていた。ジーライン・ライトアーマーとスタンダードアーマーの高速機動を活かし、分断された味方MS部隊の残存機と次々と合流。

さらに、南側から第4小隊が仕掛けた奇襲が功を奏し、ジオン残党は基地防衛のために戦力を大きく割かざるを得なくなっていた。

その隙を突く形で、混乱に陥っていた連邦主力部隊は、マオ少佐の冷静な指揮とジーラインの機動力によって、わずか数分の間に戦力を再編成することに成功した。

戦力の建て直しに成功した主力部隊は即座に掃討作戦へと移行。

ステルス機に翻弄されていた状況から一転、北側の戦局は急速に連邦有利へと傾いていった。

 

 

 

 

 

北側の比較的開けた密林地帯はファントムスイープ隊の建て直しが功を奏し、連邦軍の攻撃は一気に激しさを増していた。

マシンガンの連射音とバズーカの爆音が密林を震わせ、ジオン残党の防衛線を次々と削り取っていく。

その激しい戦場の中で、ボルクとロニンも必死に抵抗を続けていた。

ボルクのグフは木々の間を縫うように移動し、迫りくるジム小隊にヒート・マチェットを振り下ろした。

灼熱した左右の刃が3機のジムの四肢を正確に熔断し、戦闘不能に追い込む。

機体が煙を上げて倒れ込むのを確認すると、ボルクはすぐに通信を開いた。

 

「ロニン、やはりこの基地を放棄しないといけないか?」

 

ロニンのザクⅡF2から、苦い声が返ってきた。

 

「……仕方ありませんね。ベルファスト工業地帯から強奪した大量の物資を受け入れ、これだけ派手に動いたら、バレるのは当然です。」

 

ボルクは低く唸るように息を吐いた。

 

「予定通りか。この基地を放棄し、撤退に乗じて物資とMSをできる限り自分たちの基地に運搬するぞ。」

 

ロニンは短く肯定し、続けた。

 

「了解です、先生。この状況なら、もうすぐ撤退指示が出るはずです。サンが指揮する部隊が、基地の物資とMSを撤退の混乱に乗じて運び出します。そのために、フィジー諸島のパイロットに分け前を与えて協力してもらっているんです。」

 

ボルクはグフのヒート・マチェットを構え直しながら、静かに頷いた。

 

「……わかった。なら、俺たちもそろそろ、フィジー諸島の奴と合流しないといけないな。」

 

ロニンは短く了解の返事を返した。

 

「そうですね。では、合流しましょう。」

 

ボルクのグフとロニンのザクⅡは、激しい戦火を掻い潜りながら、南側へと移動し始めた。

木々を薙ぎ倒し、爆発の余波を浴びながら、二機は密林の奥深くを急いだ。

 

 

 

 

白い機影が煙と密林の間を縫うように動き、100mmマシンガンの正確な射撃が二機のザクを容赦なく追い詰める。

ヒルデが前に出ようとすれば即座に牽制射を浴びせ、グスタが側面から援護射撃を試みれば、位置とタイミングを完璧に読まれ、素早くポジションを変えられる。

さらに後方では、ジム・キャノンの的確なロケット砲の砲撃を放たれる。

 

「くっ……! このパイロットは何なの!?二人掛かりでも、攻めきれないなんて!」

 

ヒルデはザクの操縦桿を強く握りしめ、歯を食いしばった。

何度連携を試みても、相手のパイロットは決して無駄な動きをせず、常に最適な位置で二人を分断しようとしてくる。

グスタも息を荒げ、苛立たしげに声を上げた。

 

「援護しようとしても全部先読みされてる……!このままじゃ、じり貧だぞ、ヒルデ! どうするんだよ!」

 

 

「このまま守勢に回っていても勝てない……!

何か、打開策が必要よ!」

 

ヒルデの声に焦りが滲む。グスタは一瞬沈黙した後、苦々しく答えた。

 

「……わかった。賭けに出るしかないな。

俺が側面から一気に間合いを詰める。ヒルデは正面から全力で牽制してくれ。タイミングを合わせて一気に畳みかけるぞ!」

 

ヒルデは一瞬迷ったが、すぐに決意を固めた。

 

「……わかった。やるしかないわね。グスタ、絶対に無茶はしないで!」

 

二機のザクは同時に動きを変えた。

 

 

「グスタ、今よ! 左右に散開!」

 

ヒルデが叫ぶと同時に、二機のザクⅡF2が突然大きく左右に分かれた。

同時にマシンガンを連射しながら、陸戦型ガンダムへ急接近する。

ヒルデのザクが正面から激しい牽制射撃を浴びせ、グスタのザクが側面から一気に間合いを詰める——それは、これまでの慎重で堅実な戦い方とは明らかに異なる、命賭けの攻撃だった。

 

「……この動きは!?」

 

サンダースは虚を突かれ、

一瞬だけ硬直するが、すぐに冷静さを取り戻した。

正面のヒルデの牽制射撃を「囮」と即座に判断し、左腕のショートシールドを構えて弾幕をある程度受け流しながら、機体を右に旋回させた。

側面から迫るグスタのザクを本命と確信し、マシンガンを向けようとする。

その瞬間——グスタのザクの左手から、クラッカーが投擲された。

サンダースはクラッカーが投擲されたことを察知し、即座に後退しながら手榴弾の着弾地点から離れた。

手榴弾が地面に接地し、激しい爆発が起こる。

土砂と破片が飛び散り、衝撃波がコックピットを揺らした。

サンダースは側面のグスタのザクを仕留めるために、マシンガンを発砲しようとした。

しかし、不意に左側面から強烈な爆発音と衝撃が襲いかかった。

 

(左からも爆発だと!?)

 

グスタに集中している隙に、ヒルデのザクもクラッカーを投擲していたのだ。

爆発が陸戦型ガンダムの左側面を直撃し、白い巨体が大きくよろめく。

シールドがわずかにずれ、姿勢が一瞬崩れた。

その隙を見逃さず、グスタがマシンガンを全開で連射した。

 

「落ちろ!出来損ない!」

 

だが——陸戦型ガンダムとグスタのザクの間に向かって、何かが高速で飛来した。

飛来した物体は白い煙を大量に放出し、着弾と同時に白く濃密な煙幕が瞬時に戦場全体を覆い尽くした。

グスタは煙幕で陸戦型ガンダムを見失い、動揺した。

 

「……煙幕だと!?くそっ!出来損ないのガンダムはどこだ!?」

 

飛来した物体は、ジョシュアのジム・キャノンが左胸に装備した発煙弾だった。

ジョシュアは即座にキャノンとマシンガンを切り替え、ヒルデのザクに向かって一斉射を開始した。

 

「サンダースさん、持ちこたえてください!」

 

ジョシュアの声が響くと同時に、肩部キャノンと右手の100mmマシンガンが同時に火を噴いた。

砲弾と弾丸の嵐が、煙幕を突き破ってヒルデのザクに殺到する。

煙の中でサンダースは低く息を吐き、左脚に格納されていたビームサーベルを素早く左手に持った。

そのままホバートラックに通信を入れ、短く告げた。

 

「エミリア!ザクの位置を教えてくれ!」

 

エミリアはヘッドセットを強く押し当て、駆動音と微かな振動から瞬時に位置を特定した。

 

「煙幕のやや左前方、約二十メートルです!サンダース軍曹!」

 

サンダースは伝えられた位置を聞き、即座に陸戦型ガンダムの機体をその方向へ向けた。

巨体が煙を切り裂きながら、陸戦型ガンダムを前進させる。

煙幕の中でグスタは必死に辺りを見回していた。

白い煙が視界を完全に塞がれ、ミノフスキー粒子でセンサーが乱れ始めている。

 

「……くそっ、見えない……! どこだ!?」

 

すると——白い煙の中から、赤い閃光がパッと光った。

グスタは本能的な危機を感じ、咄嗟に機体を急後退させた。

しかし、遅かった。

煙の中から、赤く輝く光刃が横一閃に凪払われ、

グスタのザクの両腕が同時に熔解する。

 

「うわああああー!」

 

 

グスタの悲鳴が響き、切断された両腕がマシンガンを握ったまま地面に落ち、煙の中で火花を散らした。

エミリアから正確な位置を聞いたサンダースは、一切の迷いなく左手に持ったビームサーベルを振り抜き、グスタのザクの両腕を熔断したのだ。

 

「グスタ!?」

 

ヒルデは必死に操縦桿を操作し、ザクを左右に不規則に回避運動させながら、右腕のマシンガンを乱射していた。

通信機から聞こえたグスタの悲鳴を聞いた瞬間、ヒルデの集中がわずかに乱れた。

その隙を、ジョシュアは見逃さず、引き金を引く。

放たれた砲弾はヒルデのザクの左肩をかすめ、装甲が大きく抉れた。

火花が激しく散り、激しい衝撃がコックピット全体を揺さぶった。

 

「うぐっ……!」

 

ヒルデの体がシートに強く押しつけられ、視界が一瞬揺れる。

彼女は唇を強く噛み、声を振り絞った。

 

「グスタ、このままじゃ二人ともやられるわ!離脱よ!」

 

グスタは顔を歪めながら、ヒルデに尋ねた。

 

「……どうやって、撤退するんだ……?」

 

その言葉が終わらないうちに、陸戦型ガンダムが白い煙の中からゆっくりと姿を現した。

100mmマシンガンの銃口が、グスタのザクにじわじわと向けられ、距離を詰めてくる。

 

グスタは覚悟を決めたような、諦め混じりの言葉を吐いた。

 

「……やられるのか……」

 

諦めようした時、力強い掛け声が通信機から響いた。

 

「お前ら! 撤退しろ!」

 

その力強い掛け声と共に、両手にヒート・マチェットを持ったボルクのグフが木々を薙ぎ倒して現れた。

 

現れたグフは、即座に陸戦型ガンダムに突っ込み、灼熱したマチェットとビームサーベルが激しく斬り結ぶ。

サンダースは突然現れたグフを見て、目を細めた。

 

(このグフ!以前、輸送部隊を襲った機体か!)

 

(この機体は、以前戦った緑の機体の僚機か!)

 

ボルクも、目の前の白い陸戦型ガンダムを見て、すぐに気付いた。

 

「新手かよ!!」

 

ジョシュアの叫びと共に、ジム・キャノンの肩部キャノンと右手の100mmマシンガンが一斉に火を噴いた。

砲弾と弾丸の嵐が、グフに向かって殺到する。

ボルクは即座にグフを横に滑らせ、援護射撃を紙一重で回避した。

援護射撃を回避した後、機体を後退させながら、陸戦型ガンダムから距離を取る。

ボルクは通信を開き、ヒルデとグスタに向かって告げた。

 

「北側も連邦軍が建て直しに成功した。

俺たちは今、不利になっている。撤退するぞ!」

 

ヒルデは損傷したグスタのザクを支えながら、すぐに応じた。

 

「了解!隊長のところへ合流するわ!」

 

二機のザクⅡF2は煙と木々の間を縫うように、急いで戦場から離脱を始めた。

損傷した機体を庇い合いながら、密林の奥へと姿を消そうとした。

 

「逃がすか!」

 

サンダースは離脱する2機にマシンガンの銃口を向けようとした。

しかし、その瞬間——ボルクのグフが右腕に内蔵されたワイヤー式のヒート・ロッドを射出。

先端のアンカー・ヘッドが、陸戦型ガンダムの左脚に正確に命中した。

ワイヤーに高圧電流が流れ、電磁加熱のショック・パルスが一気に放たれる。

陸戦型ガンダムの左脚の電装系がショートし、激しいスパークする。

 

「しまった!?左脚がショートした!」

 

サンダースの機体が一瞬硬直し、バランスを崩して倒れた。

 

「サンダースさん!」

 

グフのヒート・ロッドで電装系をショートさせられ、倒れて動けなくなった陸戦型ガンダムを、ジョシュアのジム・キャノンが必死に守ろうと弾幕を張った。

爆風が地面を抉り、木々が切り裂かれ、激しい火線が密林を横断した。

ボルクは弾幕を紙一重で回避し、

倒れた陸戦型ガンダムを確認する。

 

「よし、これで厄介なアイツの部隊の足止めは出来る。」

 

そう言うと、ボルクはこれ以上の戦闘は危険だと判断し、木々の間を縫うように後退を始めた。

 

 

 

 

 

ソウヤのスライフレイルとフレッドのイフリートの激闘は、夕暮れの密林の中で激しさを増していた。

五叉のビーム刃を備えたロング・ビーム・ジャベリンと赤熱化した刃を持つグレイブ状のヒート・ランスが、何度も激しくぶつかり合う。

 

ソウヤはジャベリンのリーチを最大限に活かし、最速の刺突を連続で放つ。

五叉の光刃が稲妻のように閃き、相手の胸元や首筋を狙う。

しかし、フレッドのイフリートはランスを巧みに回転させながらこれを受け流し、即座に反撃の払いを見舞う。

重たい遠心力を乗せた一撃が、スライフレイルの側面を狙って弧を描く。

刃と刃がぶつかるたび、強烈な衝撃がコックピットにまで振動が伝わり、フレームが軋む音が響く。

ソウヤは歯を食いしばり、汗が額を伝う中でも冷静にジャベリンを操り、相手のランスを押し返した。

ソウヤはリーチの優位を活かし、決して間合いを詰めさせない。

ジャベリンの五叉の穂先が光の線となり、相手を牽制する。

しかし、フレッドのランスは重く、変幻自在。

一瞬の隙を突かれれば、機体ごと切り裂かれる危険が常に付きまとっていた。

二機の刃が何度も交錯し、ビームの光と熱せられた鉄の光が夕暮れの密林の中で激しく踊り続けた。

火花が周囲の木々を照らし、衝撃の余波で葉が激しく揺れる。

ソウヤは目の前のパイロットが、並みのパイロットではないことを強く感じ、内心で驚愕した。

 

(……この動き……モビルスーツの格闘戦なら、自分以上だ……)

 

何度も矛を交える中で、その直感は確信に変わっていった。

しかし、激しく刃をぶつけ合いながら、ソウヤはもう一つ、重要なことに気づき始めていた。

 

(あのパイロットは……今手に持っているグレイブ状の武器が……本来の武器じゃないな……)

 

相手の攻撃は確かに重く、変幻自在だった。

だが、何度か間合いを詰めようとする動きの中で、リーチの長い武器を活かさずに、むしろ「密着して一気に決着をつけたい」ような素振りが見えた。

最初は気のせいかと思った。

しかし、戦いが長引くにつれ、その違和感は確信に変わった。

 

(……彼の本来の得意な武器は、ヤザンが使っていたシールド・ヒートクローのような……一気に間合いを詰めて、密着した状態から致命傷を与えるタイプのものだ……)

 

相手は何度か、グレイブの長さを活かさずに前へ踏み込み、攻撃を試みようとしていた。

その動きは、明らかに「もっと、相手の懐に飛び込みたい」と感じた。

ソウヤはロング・ビーム・ジャベリンを構え直しながら、呼吸を整えた。

 

(……使いこなせていない武器でも、あの高い格闘戦センスでなんとかしているのか……もし、本当の得意武器を手にしたら……一瞬で勝負が決まっていたかもしれないな。)

 

その思いが、ソウヤの背筋をわずかに冷たくした。

 

(そろそろ決着をつけないといけない。)

 

このまま戦闘が長引けば、サンダースやジョシュア、そして他の部隊にも大きな負担が掛かると判断した。

そのためには、目の前の強敵を倒さなければならない。相手は明らかに並みではない。

四肢の破壊による戦闘不能を狙うのは困難で、手加減できるほどの余裕も時間もない。

撃破することを前提に、立ち回らないといけない——そう覚悟を決めた。

 

(この強敵を相手に……出し惜しみはできない。)

 

ソウヤは静かに息を整え、補給部隊を襲ったグフと再戦した時に備えて用意していた秘策を、目の前の強敵に使うことを決意する。

 

(……これで終わらせる!)

 

スライフレイルのコックピット内で、ソウヤの蒼い瞳が鋭く光った。

フレッドの胸の奥で、熱い歓喜が爆発的に膨れ上がっていた。

 

(……ようやくだ……! この緑の陸戦型ガンダム……本気で斬り合える相手だ!)

 

赤熱化したヒート・ランスを振り回し、ソウヤのロング・ビーム・ジャベリンと激しく刃を交わすたび、フレッドの唇の端に獰猛な笑みが浮かぶ。

心臓が激しく脈打ち、血が全身を駆け巡るような高揚感が止まらない。

先まで戦っていた雑魚とは明らかに違う。

ただ強いだけではなく、戦う悦びを感じることができる相手だという確信が、彼の戦意を狂喜の域まで高めていた。

 

(俺の攻撃を、こんな正確に受け流してくる……!

この感覚……シュナイド以来だ! 全身が震えるぜ!)

 

フレッドは喉の奥で低く笑い声を漏らした。

好戦的な血が煮えたぎり、操縦桿を握る手に力がこもる。

目の前の緑の機体を斬り刻むことに、ただただ純粋な喜びを感じていた。

 

(もっと……もっと本気で来い!

お前と俺で、どこまでやれるか……楽しみで仕方ねえ!)

 

彼は内心でそう思いながらも、ソウヤの戦闘スタイルを高く評価していた。

まず、リーチの長いロング・ビーム・ジャベリンを、まるで自分の意のままに自在に操っている。

五叉のビーム刃が光の線となり、決して無駄のない最速の突きを繰り出してくる。

間合いを詰めさせないための牽制が極めて的確で、フレッドが強引に接近しようとすれば、即座に角度を変えて押し返してくる。

 

(面白い……本当に面白い!

もっと本気で、もっと近くで斬り合いたい……!)

 

本来なら、フレッドの戦い方はビームダガーのような、相手の懐に飛び込み、一気に斬り刻む接近戦が得意だった。

しかし今は、シュナイドに託されたイフリートのヒート・ランスで戦わざるを得ない。

その制約すら、フレッドにとっては新たな興奮材料になっていた。

 

(このランスも悪くないが……本当はもっと近くで、相手を斬った感覚を感じながら斬り合いたい……!

だが、この戦い方も悪くないな。)

 

フレッドの好戦的な渇望は、戦いが長引くにつれ、ますます熱く燃え上がっていった。

 

すると、目の前の緑色の陸戦型ガンダムがスラスターを青白く噴射させて、フレッドに向かって迫ってきた。

今までは自分の攻撃を受け流し、それに合わせてカウンターを狙うのが相手の戦い方だった。

しかし今、相手は自ら攻勢に転じている。フレッドの胸の奥で、歓喜がさらに爆発した。

 

(……来た! ついに自分から攻めてきたか!)

 

これまで自分が一方的に攻めていたのが、ようやく互いに本気の攻防になった瞬間だった。

相手が自ら間合いを詰めてくるということは、それだけ本気で自分を倒しに来ている証拠だ。

フレッドは唇の端を大きく吊り上げ、獰猛な笑みを浮かべた。

 

(いいぞ!お前も、俺と同じように「本気」で倒そうとしているんだな!)

 

ソウヤのスライフレイルがロング・ビーム・ジャベリンを構え、一直線に突きを放ってきた。

フレッドは冷静にヒート・ランスの刃先でその突きを受け流した。

ビーム刃と灼熱した実体刃が激しく擦れ合い、火花が激しく散る。

 

しかし、相手の突きが素直で、予測しやすいものだったことに、フレッドはわずかに拍子抜けした。

 

(……なんだ、この突きは。もっと狡猾で、もっと苛烈な攻撃を期待していたのに……)

 

その瞬間、フレッドの脳裏に一つの考えが閃いた。

 

(なら、タックルでカウンターを取ってやる!)

 

フレッドはヒート・ランスを振り抜いた勢いをそのまま利用し、イフリートの機体を前へ勢いよく押し出した。

重い機体がスラスターを全開に噴射し、ソウヤのスライフレイルに向かって猛然と突進する。

 

(この距離なら……一気に押し潰せる!)

 

フレッドの目が、狂喜と闘志でぎらぎらと輝いていた。

 

スライフレイルが目前まで近づいた瞬間、スライフレイルのロング・ビーム・ジャベリンが突如、中央で二つに分かれた。

 

「――!?」

 

フレッドの瞳が初めて大きく見開かれた。

柄の中央が分離し、もう片方の柄の先端にも五叉のビーム刃が瞬時に展開される。

 

(なんだ、この武器は……!?)

 

驚愕がフレッドの脳裏を駆け巡る。

ソウヤは左手の逆手に持った五叉の穂先を、フレッドのイフリートの胴体めがけて一直線に横に一閃に振った。

赤白いビーム刃が、夕暮れの闇を切り裂きながら、イフリートの胴体に迫る。

フレッドは咄嗟にヒート・ランスを振り上げて受け止めようとしたが、間に合わない。

 

(まずい……!)

 

彼は全力で操縦桿を捻り、イフリートのスラスターを緊急噴射させた。

機体が右に激しく滑り、わずかに体勢を崩しながら右へ急旋回する。

五叉のビーム刃が、イフリートの左胸部装甲を紙一重でかすめた。

灼熱したビームの熱が装甲を溶かし、火花と白煙が激しく噴き上がる。

 

「ぐっ……!」

 

フレッドの機体が大きく傾き、コックピットに強烈なGがかかる。

警告音が耳障りに鳴り響き、左胸部の装甲が溶けた部分から火花が飛び散った。

 

(危ねえ……! 一瞬遅れていたら、胴体を真っ二つにされていた……!)

 

フレッドは歯を食いしばり、機体を立て直しながら、内心で戦慄と興奮が同時に湧き上がるのを感じた。

スライフレイルは左手に逆手に持っていた槍を、素早く順手に持ち替えた。

次の瞬間、ソウヤは両手に持った二本の槍を同時に振り上げ、怒涛の攻勢を開始した。

右手に持った槍が赤い光刃を閃かせて突きを放ち、左手の槍がその直後に横薙ぎの横軸の攻撃を浴びせる。

二本の槍が交互に、時には同時に繰り出され、赤いビームの軌跡が複雑に絡み合いながらフレッドのイフリートを襲う。

一瞬の隙もなく、五叉の槍が相手のランスを弾き、もう一本の槍が即座に死角から突き刺さろうとする。

フレッドがランスで一本を受け止めれば、もう一本が下段から薙ぎ払い、フレッドがそれを回避すれば、最初の槍が上段から叩きつける。

まるで二人の戦士が同時に攻めているかのような、手数と速度。

フレッドはヒート・ランスを必死に振り回しながら、スライフレイルの攻撃を凌いだ。

 

(……くそっ、この動き……!)

 

二本の同じ長さの槍が織りなす攻撃は、まるで釵(さい)の二刀流のように思えた。

長さを活かした突きと払いが同時に襲いかかり、距離を制しながらも容赦なく間合いを詰めてくる戦い方は、先程までのカウンターを狙うスタイルとも違っていた。

 

(釵の二刀流みたいだ……!二本の槍を同時に操るなんて……この野郎、本当に化け物か!)

 

フレッドのランスが何度も火花を散らしながら二本の槍を受け止めるが、完全に防ぎきれない。

短槍の一撃がイフリートの左肩をかすめ、装甲が溶けて白煙を上げた。

もう一本の槍の突きが胸部を狙い、フレッドは咄嗟に機体を捻ってかわすが、コックピットにまで衝撃が響く。

 

(……手数が多すぎる……!このままじゃ、いつか防ぎきれなくなる……!)

 

フレッドの息が荒くなり、額に汗が浮かんだ。

スライフレイルは二つに分かれていた槍を、再び中央でカチリと連結させ、イフリートに向かって猛然と襲い掛かった。

今までの長い槍でも、短槍二刀流でもない——棒術のような回転を最大限に活かした、まったく新しい連続攻撃が始まった。

ソウヤは槍を高速で回転させながら前進する。

両端のビーム刃が赤い光輪を描き、フレッドのイフリートを容赦なく襲う。

片方の刃で突きを放った直後、柄を返して即座にもう片方の刃で横薙ぎに斬りつける。

独特のリズムを持った攻撃は、まるで波のように途切れることなくフレッドを襲った。

 

突き、 回転、 斬り、 再び突き。

 

フレッドがランスで一本の刃を受け止めれば、ソウヤは柄を滑らせるように回転させ、反対側の刃で即座に追撃を叩き込む。

前方を突いたと思えば、柄を返して左右から交互に斬りつける。

一撃が重いだけでなく、そのリズムと回転の速さが異常に高い。

フレッドはヒート・ランスを必死に振り回して防ぐが、完全に受けきれない。

 

(……この動き、なんだ……!?)

 

フレッドの瞳がわずかに見開かれる。

ソウヤの戦い方は、ただのリーチ戦でも手数戦でもなかった。

長い柄と両端の刃を最大限に活かした、棒術のような流れる回転攻撃。

防御と攻撃が完全に一体化しており、受け流した瞬間に即座に反対側の刃でカウンターを叩き込んでくるテクニカルな動きは、フレッドのランスを翻弄し続けていた。ソウヤは槍を大きく回転させながら間合いを詰め、片方の刃で上段から叩きつけた直後、柄を滑らせるように回転させて下段から薙ぎ払う。

フレッドがそれを防ごうとランスを下げた瞬間、もう片方の刃が横から鋭く突き出される。

火花が連続して爆ぜ、ビームの唸りと金属の衝撃音が密林に轟く。

 

(……回転が速すぎる……!受け流しても、すぐに反対側から来る……一方的に相手のリズムだ……!)

 

フレッドの息が徐々に荒くなり、額に汗が浮かぶ。

連続の回転攻撃を終えた直後、ソウヤはスライフレイルを密着させるように一気に間合いを詰め、連結されていた槍が再び中央で二つに分離させた。

二刀流の圧倒的な手数が、再びフレッドを襲う。

二本の槍が密着した状態で、突きのラッシュを繰り出し、赤い光刃の軌跡がフレッドのイフリートを飲み込もうとする。

フレッドはヒート・ランスで刺突のラッシュを捌こうとしたが、手数が多すぎた。

 

「ぐっ……!」

 

スライフレイルのラッシュを捌ききれず、ヒート・ランスの柄が熔解され、ヒート・ランスが真っ二つに折れる。

 

(……しまった……!)

 

フレッドは咄嗟に機体を後退させ、スライフレイルから距離を取ろうとした。

しかし、ソウヤは一瞬の隙を見逃さなかった。

分離していた二本の槍を再び連結させ、長槍の形態に戻したスライフレイルが猛然と突きを放つ。

五叉のビーム刃が一直線に、イフリートの胸部めがけて迫る。フレッドの目が見開かれた。

 

(……ここまでか……!すまない、みんな!)

 

死を覚悟した瞬間、フレッドの脳裏に一瞬だけ、かつての仲間達の顔がよぎった。

 

 

 

 

 

ソウヤは勝利を確信した。相手のヒート・ランスはすでに真っ二つに折れ、防御の手段を失っている。

自分のロング・ビーム・ジャベリンの五叉の穂先は、イフリートの胸部中央——コックピットを確実に穿とうとしていた。

 

(……これで終わりだ)

 

その瞬間、通信機からジョシュアの切迫した叫び声が飛び込んできた。

 

「サンダースさん!」

 

ソウヤの指が操縦桿の上でピクリと震えた。

攻撃を続けようとした右手が、わずかに止まる。

次の瞬間、彼は咄嗟に攻撃を中断し、慌てて機体を旋回させた。

スライフレイルの頭部センサーが、サンダースとジョシュアの方向を捉える。

振り向いた先の光景に、ソウヤの息が止まった。

地面に、陸戦型ガンダムが大きく倒れ込んでいた。

白い装甲が泥と枯れ葉にまみれ、左脚部から激しいスパークが上がっている。

ジョシュアのジム・キャノンが必死にその傍らで援護射撃を続けているが、明らかに守勢に立たされている。

 

「サンダース軍曹……!」

 

ソウヤの胸に、冷たい衝撃が走った。

勝利の確信が、一瞬で吹き飛ぶ。

 

(……サンダース軍曹が……!?)

 

彼は即座にスラスターを全開に噴射させた。

スライフレイルはフレッドのイフリートを置き去りにし、地面すれすれを滑空しながら急行する。

木々を薙ぎ倒し、泥水を跳ね上げながら、倒れた陸戦型ガンダムのもとへ一直線に駆けつけた。

スライフレイルは倒れた陸戦型ガンダムに即座に接触回線を繋いだ。

 

「サンダース軍曹! 無事ですか!?」

 

通信機越しに、低く落ち着いた声がすぐに返ってきた。

 

「俺は無事です、タカバ隊長。

……ただ、左脚の電装系がショートして動けなくなりました。」

 

その言葉を聞いた瞬間、ソウヤの胸に一瞬の安堵が広がった。

 

(……よかった。サンダースは無事だ……)

 

しかし、次の言葉でその安堵は瞬時に吹き飛んだ。

 

「隊長!補給部隊を襲ったグフがいます! あの時と同じ機体です!」

 

ソウヤの表情が引き締まった。

 

(……あのグフか……!)

 

彼は慌ててスライフレイルのセンサーを全周囲に展開し、周辺を鋭く警戒した。

 

すると、先ほどまで激しく斬り合っていたイフリートの横に両腰にヒート・マチェットを携えた、特徴的なグフが横に立っていた。

 

グフは左手を伸ばしてイフリートの右肩にしっかりと手を置き、短い交信をした後、すぐに機体を反転させた。

イフリートもそれに続き、二機は同時にスラスターを噴射。

激しい爆風を残しながら、密林の奥深くへと急速に離脱を始めた。

密林の木々が激しく揺れ、泥水と枯れ葉が舞い上がる中、

二機のジオン残党機は戦場から姿を消していった。

 

(……逃がしたか)

 

ソウヤはモニター越しにその光景を睨みつけ、わずかに唇を噛んだ。

 

 

 

 

東南アジア圏内におけるジオン残党掃討作戦「ダブル・ハンマー作戦」は、ファントムスイープ隊と第4小隊の活躍によって、ひとまずの終了を迎えた。

しかし、制圧した秘密基地はほとんどが空っぽだった。

貴重な物資の大部分は、撤退の混乱に乗じてすでに運び出されており、残されていたのはわずかな残骸と、使われなかったジャンクパーツだけ。

さらに、イフリート・ナハトをはじめとする主要なジオン残党機体はほとんどを取り逃がしてしまい。

拿捕あるいは撃破できたジオン残党の戦力は、作戦に参加していた敵総戦力の約4割程度に過ぎなかった。

一方、連邦軍側も参加兵力の約4割を失うという、決して軽くない損害を被った。

作戦は「成功」した。

基地は制圧され、ジオン残党の補給拠点の一つは消滅したが、それは手痛い勝利だった。




最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
投稿が遅くなって、申し訳ないです(汗)
仕事が忙しかったので、なかなかと小説を作る作業が出来ませんでした(泣)
今回はこの小説独自のスライフレイルのロング・ビーム・ジャベリンの戦闘を描いてみました。
スライフレイルは2つの三節棍状の武器を連結させた装備なので、その特性を活かしてみました。
今回、登場した形態は、両手に2つに分離した状態のジャベリンを持った、二刀流モード。
両端のビーム発生機を展開させた両頭槍モードを登場させました。

ではでは、次のお話も楽しみにしていてください。
一行だけの感想も大歓迎なので、気軽に書いてください。

【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?

  • 陸戦型ジム改
  • バイアリーターク
  • ペイルライダー・ヴァンガード
  • ペイルライダー・マスケッティア
  • ヴァルキリー
  • グフ・ノクターン
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