スライフレイルのコックピット内は、わずかな駆動音だけが響く静けさに包まれていた。
ソウヤはシートに深く体を預け、紫色のメインカメラが捉える夜の廃鉱山都市をじっと見つめていた。
月光が瓦礫の山と崩れ落ちたビルの影を青白く照らし、ねじ曲がった鉄骨が不気味に空を突いている。
高速道路の残骸が街を分断し、駅舎の錆びた線路は虚しく闇に消えていた。
(……ここもアプサラス開発基地に繋がっていたのか)
ソウヤの胸に、重い感慨が広がっていく。
一年戦争末期——宇宙世紀0079年12月。
東南アジア極東方面軍が、ジオン軍の秘密基地「アプサラス開発基地」を攻略した激戦の地。
自分はまだジャブローか北米におり、この戦いの詳細はコジマ基地に保管されていた資料を読んだくらいだ。
「……サンダース軍曹も、ここにいたんだな」
低く、独り言のように呟いた。
コックピットのモニターに月光に照らされる都市が映っている。
廃墟の闇が、まるで当時の戦火の残り香を湛えているように感じられた。
静かすぎる夜の街並みは、決して平和な沈黙ではなく、ただ「終わった」だけの、忘れ去られた戦場の残骸だった。
崩れたビルと錆びた残骸の向こうに、何も動く気配はない。
ソウヤはスライフレイルのコックピット内で、静かに目を閉じた。
コジマ基地のデータベースにあった、アプサラス開発基地攻略の報告書が脳裏に蘇る。
宇宙世紀0079年12月。
サンダース軍曹が所属していた第08小隊が、落下傘降下による偵察任務でこの廃鉱山を利用したアプサラス開発基地を発見したのがすべての始まりだった。
報告書は淡々と記していた。
基地を発見した地球連邦軍極東方面軍は山の形が変わるほどの空爆と、量産型ガンタンクおよびビッグトレーの集中砲撃による二面攻撃を敢行。
しかし、基地の地下から引きずり出された巨大モビルアーマー《アプサラス》は、搭載されていた大出力メガ粒子砲を放ち、作戦に参加していた大半のモビルスーツと、指揮官イーサン・ライヤー大佐が乗っていたビッグトレーを一瞬で壊滅させた。
その後、辛うじて生き残っていた狙撃仕様の陸戦型ジムが、ロングレンジ・ビームライフルによる精密射撃でアプサラスのコックピットを撃ち抜き、機体は出現した偽装火口へと落下。
直後に起きたアプサラスの大爆発は基地全体を崩落させるほどの威力だった。
報告書の最後に、こう記されていた。
『爆発による基地内部の崩落が激しく、完全な調査は不可能。一部区域のみの調査で打ち切られた』
ソウヤはゆっくりと目を開け、モニターに映る眼前の廃墟を見つめた。
「……ここで、そんな戦いが……」
胸の奥が、重く沈んだ。
自分は——まだ北米で、遠くからその戦果を聞いていただけだった。
廃都市の闇が、まるで当時の戦火の記憶を湛えているかのように、ソウヤを静かに見つめ返していた。
ソウヤはゆっくりと上部モニターに視線を移し、夜空を見上げた。
月は薄く雲に覆われ、星もまばらにしか見えない。
こうやって、空を見上げたのは——オデッサ作戦以来だと思った。
一年戦争の頃は、ただ我武者羅に走っていた。
初めての実戦のオデッサ作戦で、人を殺した罪悪感。
ヒルダのグフ・カスタムに配属された小隊を二人も壊滅させられ、ただ怯えていた自分。
ジャブローでオルグレン少佐に召集され、ヤザンと共に結成されたオリオン小隊。
北米大陸を駆け抜け、ヤザンと衝突しながらも共に成長した日々。
そして、恩師であり父のように慕っていたオルグレン少佐を失い、自分が犯した過ちにようやく気づいたア・バオア・クーの戦い。
その戦いが終わった後、ゴップ大将の指示で東南アジアのコジマ大隊基地に配属され、
1年間——仲間を率いて戦い続けてきた。
地上に残るジオン残党を、一人でも多く宇宙に帰すと誓って。
……だが。「一人でも多く助けたい」と思っていても、
状況によっては、どうしても引金を引かざるを得ない時があった。
村人を人質に取られた時。
ザクⅡが民間人が密集した場所に逃げ込もうとした時。
相手が錯乱して銃を乱射し始めた時。
多数の命を守るために、
被害をこれ以上広げないために、
自分は引金を引いた。
そのたびに、心の奥底で冷たい声が囁く。
『お前は一人でも多くを帰すと誓ったのに、
結局は切り捨てているんじゃないのか?』
その声が聞こえるたび、
エイルの生体ユニットがフラッシュバックのように脳裏をよぎる。
(……俺は、本当にエイルたちに償えているのだろうか?)
ソウヤは操縦桿を握る手に、わずかに力を込めた。
エミリア。
サンダース。
ジョシュア。
ノア。
自分は彼らに、ちゃんと上官として、仲間として接しているのか。
それとも、自分のエゴのために、彼らを利用しているだけなのか。
重い自問が頭の中で渦を巻いた。
昔はあんなに我武者羅に走れたのに、今は違う。
犯した過ち、部下の命を守る責務……様々なしがらみが俺に絡みつき、足を止めてしまう。
昔のように、駆け抜けることができなくなっていた。
そう思い悩んでいると、スライフレイルのレーダーモニターに味方識別信号の反応が表示される。
ソウヤは素早く機体を旋回させ、反応の方向へ向き直した。
通信機から、明るい声が響いた。
「隊長、交代に来ましたぜ。」
ノア伍長の声だった。
「……もう、そんな時間か…」
ソウヤはモニターの隅に表示された時計を確認し、小さく息を吐いた。
ノアと交代する時間になっていた。
「大丈夫か? 隊長?」
ノアが少し心配そうな声で尋ねてくる。
「ああ、大丈夫だ。少し考え事をしていただけだ。」
「考え事? ……ああ、先のジョシュとの会話?」
ノアは、先程のジョシュアとの気まずい会話だと思い、そう言った。
ソウヤは胸の奥がちくりと痛むのを感じた。
確かに、交代の際にジョシュアと自分の弟を聞かれた後、一方的に会話を閉じてしまった。
気まずい空気を作ってしまい、悪いことをしたという罪悪感が、まだ胸に残っていた。
「……ああ、そうだな。」
ソウヤは短く答え、言葉を濁した。
ノアは少し間を置いてから、軽い調子で言った。
「隊長にも、聞かれたら気まずい話ってあるんですね。」
ソウヤは少し間を置いてから、静かに尋ねた。
「……ジョシュは、気にしていたか?」
ノアは操縦桿を軽く叩きながら、肩をすくめた。
「機体を受領する時に、ちょっと凹んでましたよ。理由を聞いたら、『隊長のプライベートな話に踏み込みすぎてしまった』って気にしてるみたいでした。」
ソウヤは小さく息を吐き、操縦桿を握る手に力を込めた。
「……後で、ちゃんと謝らないとな。」
ノアは軽く笑いながら、肯定するように頷いた。
「そうしてやった方がいいっすよ。ジョシュはあんたを本当に慕ってるから、フォローしてやればすぐに元に戻りますって。」
ソウヤは短く答えた。
「そうだな……。」
するとノアは、少し真剣な声色になって続けた。
「ただ、ジョシュも悪いですよ。ジョシュは恵まれた家庭ですが、俺や隊長みたいに訳ありの家庭だってある。アイツはそこら辺を考えずに踏み込みすぎた。隊長が無理に話したくなかったら、それでいいんですよ。」
ノアの言葉を聞いたソウヤは、少し驚いたように目を細めた。
(……ノアが、こんな風にフォローしてくるなんて)
いつもなら生意気な一言を返してきそうなノアが、意外にも真っ直ぐに自分を気遣ってくれたことに、ソウヤは内心で戸惑いを覚えた。
ノアは軽く鼻を鳴らしながら、続けた。
「隊長だって、聞かれたくないことの一つや二つはあるでしょ。ジョシュは善意で聞いたつもりだろうけど、踏み込みすぎたのはアイツが悪いんですよ。」
ソウヤは一瞬言葉に詰まり、静かに認めた。
「……まあ、そうだな。」
ノアは少し間を置いてから、淡々とした口調で自分の過去を話し始めた。
「俺は北米の貧困層の出身でね。母親が体を売って生計を立ててました。父親は誰かもわからない。母親からはろくな愛情なんて一度ももらったことがなくて、機嫌が悪い時はよく物を投げつけられましたよ。生き抜くためにスリとか盗みもやりました。一年戦争が始まって、連邦が大々的に募兵してたんで、志願したんです。……まあ、そんな訳ありの人間ですよ、俺は。」
ノアの生い立ちを聞いたソウヤは、胸の奥で静かに驚いていた。
(……ヤザンと似ているな)
一年戦争を共に駆け抜けた戦友——ヤザンも、貧困のどん底から這い上がるために連邦軍に入隊した。
ノアもまた、同じような境遇から、生きるために軍に身を投じたのだろう。
「……ノアも、色々と苦労したんだな。」
かつての相棒と重ね、ノアへの親しみと、同情に似た感情が湧き上がる。
ノアはふっと鼻で笑った。
「苦労?苦労してるのは隊長じゃないですか。」
ソウヤは意外な言葉に、わずかに目を丸くした。
「あんた、ジオン残党を極力殺さないように立ち回ってるし、俺たちを守るためにいつも一番前に出て……すげえよ。本当に。」
ノアは照れくさそうに頭を掻きながら、付け加えた。
「俺、暇な時にシミュレーターで隊長の動き真似してみたことあるんだけど……全然できなかった。動いてる相手の胴体にビームを当てないように撃つとか、最短ルートで接近してジャベリンで四肢だけ破壊するとか……。俺たちを死なせないように配慮しながら指示出してるのも含めて、マジで化け物っすよ。」
ソウヤは一瞬、言葉を失った。
ノアが自分をここまで認めていることに、素直に驚きを隠せなかった。
ノアは少し視線を逸らしながら、照れくさそうに笑った。
「正直、隊長のこと完璧超人だと思ってました。でも、先程ジョシュと家族の話で気まずくなったって聞いて……なんかホッとしましたよ。隊長にも、そういう人間らしい部分があるんだなって。」
ソウヤはノアの言葉を聞き、静かに目を伏せた。
「……俺が、人間らしいか…。」
『オデッサの新星』『ア・バオア・クー帰り』『殺さずの狩人』——と畏怖される自分が、エイルたちを手に掛け、己のエゴに仲間を巻き込んでいる自分が「人間らしい」と言われたことが少しだけ、嬉しかった。
ノアはソウヤの微かな沈黙を感じ取り、軽く笑って言った。
「……ま、隊長がそんなに悩むのも珍しいっすね。いつも余裕ぶってると思ってたのに。」
ソウヤは小さく息を吐き、静かに答えた。
「俺だって、悩むことは色々とあるよ。」
ノアは興味深そうに聞き返した。
「へえ、どんなことです?」ソウヤは一瞬、言葉を迷ったが、操縦桿を軽く握り直しながら、ゆっくりと口を開いた。
「……俺は、地上に残ったジオン残党を一人でも多く、宇宙に帰してやりたいと思っている。
それは俺の……エゴだ。お前たちを、そのエゴに巻き込んでしまっている。本当に、それでいいのかと……時々、思うんだ。」
ノアは少し間を置いてから、明るく、しかしはっきりと言った。
「良いんじゃないですか? 巻き込んでも?」ソウヤはノアの返答に、思わず目を丸くした。
「……え?」
ノアは照れくさそうに頭を掻きながら、続けた。
「あんたは俺達を巻き込んだ自覚もしっかりあるし、自分のエゴを貫き通すために必死にやってる。それで、結果も出してるんだから良いんじゃないですか。」
ソウヤは慌てて言葉を返した。
「だが、ジオン残党を帰したいというのは俺のエゴだぞ!?」
ノアはふっと笑い、肩をすくめた。
「良いんじゃないですか、綺麗事のエゴ。ハドソンの野郎みたいな自己欲求のエゴより、何倍もマシですよ。」
ソウヤはまだ納得しきれず、言葉を重ねようとした。
「しかし……」
ノアはそこで少し声を落とし、真っ直ぐに言った。
「あのな、隊長。俺達、第4小隊はあんたのエゴで救われているんだよ。」
ソウヤは息を呑んだ。
「……救われている?」
「ああ、そうだ。あんたが前に進むから、俺達も安心して前に進める。あんたが迷わずにそのエゴに突き進むから、俺達は道を違えずに今日まで戦えたんだ。」
ノアは珍しく真剣な声で続けた。
「配属された当初、俺はモビルスーツに乗れなくて不貞腐れてたよな。あんたはそんな俺を叱咤して、今、こうして乗れるようにしてくれた。最初はうじうじしてたエミリアも、今じゃ自信取り戻して自分から率先して仕事してるし、明るくなった。ジョシュも仲間の戦車乗りを蹴落としたことを気にしてたけど、今は家族に十分な仕送りができて喜んでる。サンダース軍曹は相変わらず08小隊のことは多く語らないけど、第4小隊を大切に思って、俺たちのこと気にかけてくれてる……」
ノアはそこで息を吸い、はっきりと言った。
「あんたは俺たちを守りながら、自分のエゴに進んでるじゃないか。俺がモビルスーツに乗りたいって気持ちもエゴだし、ジョシュの家族に仕送りしたいのもエゴ、サンダース軍曹が前の小隊も第4小隊も大切に思ってるのもエゴだ。だからあんたは、自分のエゴに真っ直ぐ進みながら、俺たちを引っ張ってくれたらいい。あんたが迷わずに前に進んでくれるから、訳ありの俺たちも真っ直ぐに進めるんだよ。」
ノアは軽く笑って、締めくくった。
「それに、エゴって言うけど……隊長の『ジオン残党兵を一人でも多く、宇宙に帰す』ってのは、願いだろ?」
「……願い、か。」
その言葉に、胸の奥で重く淀んでいた澱が、ほんの少しだけ溶けるような感覚があった。
畏怖されるソウヤ・タカバではなく、ただ一人の人間として肯定されたことが、静かな安堵と温かさが胸の中に広がっていく。
ノアは照れくさそうに笑いながら、ジム・キャノンの操縦桿を軽く叩いた。
耳の先が少し赤くなっているのが、通信越しにも伝わってくるようだった。
「そうですよ。綺麗事でもなんでも、あんたの願いは俺たちを前向きにさせてくれてるんですから。……まあ、俺が言うのもなんですけどね。」
ソウヤはノアの言葉をじっくりと噛み締めるように、しばらく沈黙した。
胸の奥が熱くなり、言葉が自然と零れ落ちる。
「……俺はただ、自分の罪を少しでも軽くしたくて、お前たちを巻き込んでいるだけだと思っていた。」
ノアは真剣な眼差しになり、声のトーンを少し落とした。
照れや軽口を一旦置いて、ストレートに言葉を返した。
「それでもいいんじゃないですか。罪を背負ってる人間が、それでも前に進もうとしてる……それ自体が、俺たちにとっては救いなんですよ。」
ノアは少し得意げに、しかしどこか優しい笑みを浮かべて続けた。
「要するに、隊長のエゴは『良いエゴ』ってことっすよ。ハドソンみたいな最低なエゴとはわけが違う。」
ソウヤは苦笑しながらも、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。
「……お前は相変わらず、毛嫌いしてるな。」
「当たり前っすよ。あの狸爺の顔見るだけで虫唾が走るす。隊長の願いの方が100倍マシですよ。」
ソウヤは小さく笑い、静かに、しかし心の底から言った。
「わかったよ。……少し、気持ちが軽くなったよ。」
ノアは満足げに頷き、照れ隠しのように明るく締めくくった。
「おしおし。それじゃ、俺がしっかり見張ってますから、隊長もちゃんと休んでてください。」
ソウヤはノアの言葉を聞き、静かに頷いた。
「……了解した。ノアが2時間、ジョシュアが2時間するから、俺の時は朝になるな。日が出たら、鉱山都市の巡回にもう一度してくるよ。」
ノアは明るく返事した。
「了解っす。ジョシュと交代する時に、ちゃんと伝えておきますよ。」
ソウヤは小さく息を吐き、穏やかな声で言った。
「……助かるよ、ノア。」
「へへっ、任せてください。」
ソウヤは通信を切り、スライフレイルをゆっくりと反転させると。
機体はミデア輸送機の待機ポイントへと戻り、指定位置に到着すると、片膝立ちの待機姿勢を取った。
紫色のメインカメラが静かに消え、駆動音が低く収束していく。
ソウヤはコックピットハッチを開け、搭乗用の牽引ケーブルの鐙に足を乗せ、ゆっくりと地上に降り立つ。
夜の湿った空気が肌に触れ、廃都市の遠い闇がまだ胸の奥に残っているような気がした。
「……少し、休まないと。」
そう呟くと、ソウヤはミデアの仮眠室へと歩き出す。
(……ノアが、あそこまで俺を認めてくれているなんて)
ミデアの狭い通路をゆっくりと歩きながら、胸の奥に温かいものが広がるのを感じていた。
生意気で口の悪いノアが、真剣な目で自分の戦い方を肯定してくれたことが、予想以上に嬉しく思った。
重く淀んでいた心に、ほのかな光が差し込んだような気分だ。
仮眠室のドアを開けると、簡素なベッドが並ぶ薄暗い部屋が迎えた。
ソウヤは一番奥のベッドに腰を下ろし、野戦服の上着を丁寧に畳んで枕元に置く。
そのままベッドに横になり、天井の薄暗い非常灯を見つめながら小さく息を吐いた。
(……明日の朝、もう一度、あの街の巡回をしないとな……)
瞼が徐々に重くなっていく。
ノアの言葉がまだ胸の奥で温かく響いているのを感じながら、ソウヤは静かに瞳を閉じ。
疲労とわずかな安堵に包まれ、深い眠りへと落ちていった。
朝の薄い霧が廃墟全体を白く包み込み、昇り始めた朝日が淡い橙色の光を霧の中に溶かしていた。
廃鉱山の裾野に横たわるこの旧鉱山都市には、深い静寂が立ち込めている。
高層オフィスビルが空を切り、商業施設のガラス壁が朝陽を反射する。
かつて整備された大通りや街を貫く太い高速道路――そのすべてを、白い霧が隙間を這うように流れ、路地やビルの影をぼんやりと覆い隠していた。
その霧に包まれた廃都市の中を、スライフレイルはビームライフルを右手に携え、静かに歩行していた。
深い緑の装甲が朝霧に溶け込み、紫色のメインカメラが周囲を鋭く警戒しながら、ゆっくりと前進する。
ソウヤはスライフレイルをゆっくりと進めながら、霧に包まれた廃都市の様子を低く呟いた。
「……霧が出て、雰囲気がずいぶん変わったな。昨日はこんなじゃなかったのに。」
朝の白い霧が街全体を厚く覆い、視界をぼんやりと滲ませている。
建物と建物の隙間が白く煙り、路地はほとんど見通せなくなっていた。
ソウヤは軽く舌打ちをした。
「見通しが悪くなって面倒だ……。これじゃ奇襲されたら一瞬で終わるぞ。」
そう言いながら、ペダルを踏み込み、スライフレイルを前進させようとした。
その瞬間——背筋を凍りつかせるような、強烈な悪寒が走った。
「っ……!?」
ソウヤは慌てて操縦桿を握り直し、レーダーと全周囲モニターを素早く確認した。
しかし、どちらにも異常反応はなく、敵影も熱源も捉えられていない。
それでも、背中に張り付くような悪寒は一向に収まらなかった。
「……なんなんだ、この悪寒は……?
狙われているのか……?」
ソウヤは即座に判断し、スライフレイルを近くの高層ビルの影に素早く身を隠す。
ビームライフルを構え直し、周囲の死角を警戒しながら、身を低くして狙撃と奇襲に備えた。
紫色のメインカメラが、濃い霧の中を鋭く睨みつける。
ソウヤは周囲を警戒しながら、通信機のスイッチを入れた。
「エミリア、聞こえるか? こちらソウヤ。現在位置は……」
しかし、何度呼びかけても返事はなかった。
ノイズすら混じらず、ただ無音が続くだけだ。
「……どうした? ミデアに何かあったのか?」
ソウヤは眉を寄せ、ミデアが待機している方向へ視線を移そうとした。
その瞬間——轟音が廃都市に響き渡り、巨大な土煙が一気に立ち上る。
「なんだ!?」
ソウヤは慌ててそちらへスライフレイルを振り向けた。
土煙の中から、水色の機影が猛烈な勢いで飛び出していく。
機体は霧を切り裂きながら高く舞い上がり、一際高い高層ビルの屋上に着地。
重い衝撃音が響き、屋上のコンクリートがわずかに崩れ落ちる。
ソウヤはその水色の機影を目で追い、息を呑んだ。
「……ヒルダ……?」
そこに立っていたのは、紛れもなく水色の鬼神だった。
ジオンが開発した地上白兵専用量産型モビルスーツ「グフ」を基に、全面的に再設計された機体。
固定武装を廃し、着脱式の射撃兵装を採用することで中近距離の汎用性を大幅に向上。
ヘッドユニットは空間把握能力に優れ、高所からの索敵性能は偵察機並みとまで噂された。
ボディにはジオン本国で飛行タイプ試作のために作られた高品質パーツが多数使用されており、運動性と機動性は純正のグフを遥かに凌駕すると言われている。
そして今、対峙している機体こそ——オデッサで激闘を繰り広げた「グフ・カスタム」だった。
水色の装甲が朝霧の中で不気味に輝き、赤いモノアイが冷たく光る。
ソウヤは屋上に降り立った水色の機影を見て、息を呑んだ。
「本当に……ヒルダ……なのか?」
一年戦争、オデッサ作戦。
ヒルダが搭載されていた機体は、キャノン砲で撃ち抜き、確かに炎に包まれて爆散したはずだった。
しかし、今、目の前にいる機体は紛れもなくグフ・カスタムだ。
水色の装甲に、特徴的な盾のガトリング砲。
そして、何より——異様な殺気を放ち、こちらを見下ろすような視線。
(……死んだはずだ。俺が……殺したはずだ……!)
背筋が凍りつき、指先が微かに震える。
オデッサの記憶がフラッシュバックし、喉の奥が締め付けられた。
あの時と同じ、死神のような赤いモノアイが、霧の中でゆっくりと光を灯す。
耐えきれず、ソウヤは右人差し指に力を込めた。
トリガーを引く。スライフレイルの右手に持ったビームライフルが赤い閃光を放ち、高層ビルの屋上に向かって一直線に奔った。
しかし——グフ・カスタムはわずかに体を反らすだけで、それを躱した。
「躱された!」
ソウヤは即座に二撃目を放つ。
だが、グフ・カスタムは高層ビルの吹き抜け部分から一気に飛び降りた。
ビル外壁が邪魔で視認できないが、落下速度から予測して、ソウヤはさらにビームを連射した。
赤い光の矢が外壁を貫通し、ドロドロに溶かしながら穴を開ける。
しかし、手応えはなかった。
「外した……!?」
正確に落下予測をしたはずなのに、爆発も衝撃も感じられない。
グフ・カスタムはビルの影に溶け込むように落下し、姿を完全に消した。
ソウヤの額に冷たい汗が浮かぶ。
背筋を這う悪寒が、ますます強くなっていく。
(……本当に、ヒルダなのか……?
俺が殺したはずの……)
廃都市の霧の中で、水色の影が再び動き出す気配がした。
最後まで読んでくださり、誠にありがとうございます。
かなり時間が掛かってしまい、申し訳ないです。
ジョシュアとのやり取りの後、どうしようかと色々と悩んでいました。
なんとか難所は乗り越えたので、これからはスムーズに書けそうです(笑)
ではでは、次の話もお楽しみにしていてください。
本当に待たせてしまって、申し訳ないです。
【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?
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陸戦型ジム改
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バイアリーターク
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ペイルライダー・ヴァンガード
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ペイルライダー・マスケッティア
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ヴァルキリー
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グフ・ノクターン