東南アジアの鬱蒼とした密林の地下深く、放棄された旧ジオン公国軍の秘密基地。
簡易的な整備施設はジオン残党兵たちは油と汗に塗れた手で、モビルスーツの整備に追われていた。
ここに並ぶのは、連邦軍の補給基地制圧作戦から命からがら撤退してきた機体群だ。
あの激戦を共に生き延びた友軍機は10機以上を数えたが、ここへ至り、カルロスの下で最後まで戦うことを決めた者は、わずか4機に過ぎなかった。
他の者たちは、あるいは逃亡し、あるいは生き残るために別の地へと散っていったのだ。
残党兵たちが現在、必死に調整を続けているのは、カルロス隊への合流を選んだその4機のザクⅡ。
そして、陥落直前の補給基地から強引に運び出すことに成功した、4機のモビルスーツだった。
その寄せ集めの中に佇む、一際異彩を放つ水色の機体——『イフリート』。
ボルク・クライは、その重厚な鉄の脚部を見上げながら、感慨深げに呟いた。
「俺が……この機体に乗るとはな……」
かつてゴビ砂漠の戦場で自分たちアルバトロス輸送中隊を壊滅させたジオンの試作MS。
まさか自分がジオン残党軍に身を寄せ、そのかつての強敵と同じ機体を駆ることになるとは、ボルク自身、夢にも思っていなかった。
「——あんた、その格好でここにいるってことは元連邦か?
そのイフリートに乗るのか?」
背後からかけられた声に、ボルクは視線を巡らせた。
近づいてきたのは、額に赤茶色のバンダナを巻き、茶髪に褐色肌をした20代ほどの男だった。
鋭い眼光の中にも、どこか影を持った佇まいをしている。
ボルクは自分のボロボロになった連邦軍野戦服を見下ろし、苦笑した。
「ああ、元連邦だ。……まあ、訳ありでここにいるんだがな。イフリートは俺が受領することになっている。」
彼は軽く肩をすくめ、続けた。
ボルクの言葉に男は小さく頷き、二人は並んで水色の装甲を見上げた。
ボルクは男の風貌を頭の中で照合し、思い出したように口を開く。
「あんたは確か……フィジー諸島の……」
「そうだ、フィジー諸島から来た。フレッド・リーバーだ。」
「俺はボルク。ボルク・クライだ。」
短く握手を交わしたが、フレッドの視線がボルクの身体に留まる。
彼は、ボルクが今も堂々と身に纏っている、ボロボロになった地球連邦軍の白い野戦服を興味深そうに凝視していた。
ジオン残党の巣窟で連邦の制服を着ている男など、普通であればただの標的だ。
「……やはり、連邦軍の俺がジオン残党の群れに混ざっているのが不愉快か?」
ボルクの少し身構えた問いかけに、フレッドは小さく首を振って、ふっと口元を緩めた。
「いや、不愉快じゃないさ。ただ、その服を堂々と着たままでいることに驚いただけだ。……度胸があるというか、なんというか。連邦の制服を着たまま、ジオン残党の地下基地に堂々と立ってる奴は初めて見たよ。
」
フレッドの言葉に、剥き出しの嫌悪や敵意は微塵もなかった。
ジオン兵特有の「連邦への憎悪」を感じさせない彼の態度に、ボルクは少しの驚きと、奇妙な安堵を覚える。
そんなボルクの表情を見たフレッドは、周囲の整備兵たちに聞こえないよう、少しだけ声を潜めて言った。
「……驚くかもしれないが、実は俺も、元は連邦なんだ」
「何……!?」
ボルクは思わず目を見開いた。
「驚いたみたいだな。俺も元々は連邦の籍にいた。だが、訳あってな……今じゃこの通り、ジオン残党に入り込んでる。他の連中にはこの過去は内緒にしているから、あまり口外しないでくれよ?」
フレッドは悪戯っぽく口元に指を立ててみせる。
ボルクは自身の数奇な運命と、目の前の男の境遇を重ね合わせ、深く頷いた。
「勿論だ。誰にも言わん、黙っているよ。」
薄暗い地下基地、かつての宿敵であった魔神の前で、二人の「元連邦」の戦士は、静かに奇妙な信頼の絆を結び合っていた。
フレッドはボルクから視線を外し、再びその水色の魔神へと目を向けた。
「しかし、東南アジアのこんな辺境にこの機体があるとは驚いた。こいつ、ほんの少数しか生産されていない特別な機体だろ?」
「ああ。どうやらこれには、ジオン内部の派閥争いが絡んでいたらしい。」
ボルクは受領にあたって目を通した資料の記憶を掘り起こしながら、説明を始めた。
「この機体は本来、アプサラス開発基地のノリス・パッカード大佐に引き渡される手筈だったものだ。だが、ここの補給基地の司令官がギニアス・サハリンをひどく嫌っていてな。嫌がらせ代わりに、同時に届いた他の3機ともども、基地の奥底に死蔵していたんだとさ。……ちなみに、8機製造されたというイフリートの『6番機』にあたるらしい」
それを聞いたフレッドの目が、微かに見開かれた。
彼は自嘲気味な笑みを浮かべ、自身の過去を振り返るように呟く。
「6番機、か……。なら、そいつは俺のイフリートの弟分だな。俺が託されたイフリートは『5番機』だ。妙なところで縁があるもんだ。」
「5番機だと……? なるほど、そいつは確かに奇縁だな。」
ボルクもフレッドの言葉に驚きつつ、数奇な運命の糸に笑みをこぼした。
「世界中に散らばった兄弟機のうち、5番機と6番機がこうして東南アジアの地下で出会う。……戦場ってのは、本当に狭い場所だな。」
「全くだ。だが、だからこそ面白い。」
フレッドはバンダナの端を指で弄りながら、灰色の6番機を頼もしそうに見つめた。
重苦しい静寂を破り、地下基地の巨大な搬入口が不快な金属音を立てて開き始めた。
そこへ滑り込んできたのは、数台の機動浮遊機『ワッパ』を引き連れたホバー・トラックと、施設部隊の作業用『ザクタンク』の重厚な無限軌道の音だ。
彼らを率いて帰還したのは、この基地の最高指揮官であり、カルロス隊の長であるカルロス・ボドリゲスであった。
ボルクとフレッドの二人は、水色のイフリートの前を離れ、カルロスの出迎えのために歩み寄った。
「偵察隊は第3通路奥の待機エリアへ。施設部隊はザクタンクを速やかに重整備ハンガーへ回せ。機材の泥を落とすのを忘れるなよ。」
カルロスはホバー・トラックから降り立つなり、鋭い眼光で周囲を見渡し、引き連れてきた部隊へ的確かつ迅速に指示を飛ばしていく。兵たちが一斉に敬礼して散っていくのを見届けてから、カルロスは近づいてくるボルクとフレッドに視線を向けた。
「カルロス、お帰り。……して、『ギニアスの遺産』の捜索は?」
ボルクが軍人らしく居住まいを正し、労いの言葉と共に尋ねた。
カルロスは腰の日本刀を軽く叩き、不敵な笑みを浮かべた。
「フッ、連邦の補給基地制圧作戦のおかげだ。敵の目がそちらに釘付けになっていたから、基地内部を捜索することが出来た。おかげで偵察部隊も施設部隊も、連邦の犬どもに見つかることなく無事に戻ってこれたというわけだ。」
「じゃあ、お前が探していた「ギニアスの遺産」は?」
彼らが求めていたのは、すでに崩落したアプサラス開発基地に眠っていた、ギニアス・サハリンの研究データ——通称『ギニアスの遺産』だ。カルロスは腰の日本刀の柄にそっと手を置き、わずかに目を細めて答えた。
「ああ、苦労した甲斐はあった。あの天才が遺したデータだ、このデータがあれば、あの機体を動かすことが出来るはずだ。」
カルロスは薄暗い地下基地の天井を仰ぎ、低く、凄みのある声で言葉を続けた。
その力強い言葉に、ボルクは深く頷いた。
「それは何よりだ、カルロス。これで我々の足場も少しは固まりそうだ。」
「そうかそうか。それで、首尾はどうだ? 陥落間際の補給基地から、持ち出してきたという機体は?」
カルロスがハンガーの奥に並ぶシルエットへ視線を向けながら尋ねると、ボルクは淀みなく説明を始めた。
「持ち出されたモビルスーツは全部で4機だ。1機目は、お前が事前に目を付けていた、あのイフリート。そして2機目は、中距離支援に最適なドムのキャノンタイプ。3機目は、長距離狙撃用のザクⅠスナイパータイプ。最後、4機目は統合整備計画の機体……ザクⅡ改だ。」
「ドム・キャノンに、ザクⅠスナイパー、さらにザクⅡ改だと……?」
機体名を聞くごとに、カルロスの眉が深く寄せられていく。
彼は呆れたように大きなため息をつき、頭を振った。
「ふん……。あの補給基地司令官め、これほど貴重な即戦力となるモビルスーツどもを、使おうともせず奥底に死蔵していたとはな。まったく呆れた司令官だ。まあ、その愚かさのおかげで、我々がこうして強力な牙を手に入れられたのだから、感謝せねばならんがな」
カルロスはそう言うと、新調された4機の機体を見つめ、次なる反撃のビジョンを頭の中に描き始めていた。
すると、フレッドは不敵な笑みを浮かべ、カルロスの前へと一歩踏み出した。
「そいつは良かった。……で、その補給基地からせしめた戦利品の、俺の分のモビルスーツはどうなってる?」
フレッドの要求に、ボルクは怪訝な顔を向けたが、カルロスとフレッドは顔を見合わせ、この地下基地に4機のモビルスーツが運び込まれるまでの「悪魔的な算段」を語り始めた。
事の発端は、インジビブル・ナイツの作戦を利用した陽動戦だった。
フレッドがイフリート・ナハトの囮として連邦軍の防衛線を激しく撹乱。
その間に、彼らはジオン残党の補給基地へと巧妙に舞い戻った。
そこでフレッドは、臆病な補給基地司令官の耳元で「連邦の大部隊が迫っている」という偽の情報を囁き、激しく唆したのだ。
パニックに陥った基地司令官が慌てて脱出準備を命じると、待機していたカルロス隊のメンバーが混乱に乗じて脱出作業へと紛れ込む。
そして、連邦軍の接近による最大の混乱が起きた瞬間、カルロス隊の面々は司令官たちを置き去りにし、例の4機を積載した大型トラックを強奪。
そのまま見事に基地を脱出し、この隠れ家へと運び込むことに成功したのだ。
「……というわけだ。補給基地司令官を踊らせ、その手の内から4機を丸ごと引き抜く。フレッドの陽動と口八丁がなければ、このイフリートも手に入らなかっただろうな。」
カルロスが満足げに語ると、ボルクは彼らの大胆不敵な手際に唖然とするしかなかった。
「そこでだ、フレッド。我が隊の作戦に命懸けで協力してくれた礼として、持ち出した機体のうち『ザクⅡ改』を君に譲渡したいと考えている。どうかな?」
「ザクⅡ改を? へえ、そいつはありがたい。喜んで受領させてもらうよ。」
フレッドが即座に快諾する。しかし、そのやり取りを聞いていたボルクが、疑問を覚えたようにカルロスへ尋ねた。
「待て、カルロス。ザクⅡ改といえば、統合整備計画によって生まれた、極めて汎用性の高い優秀な機体のはずだ。そんな貴重な即戦力を、譲渡してしまっても良いのか?」
「ああ、性能の高さは認める。だがな、先生。」
カルロスは日本刀の鞘を軽く叩き、厳しい軍人の目で答えた。
「あの機体は高性能だが、推進剤の搭載量が通常のザクと同じなのに、スラスター出力が強化されている。結果として総稼働時間が通常のザクよりも、短いという致命的な欠陥を抱えている。我々のように、東南アジアの広大なジャングルを長距離移動しながら戦うゲリラ部隊では、補給線が維持できず完全に足枷となるのだ。ならば——」
カルロスは視線をフレッドへと移した。
「フィジー諸島のような狭い島嶼エリアを拠点にし、防衛や局地戦主体の戦い方をする彼に預けた方が、機体のポテンシャルを最も有用に活かせる。そうは思わないか?」
「……なるほど。適材適所、というわけか。」
カルロスのロジカルな戦術分析を聞き、ボルクは深く納得して引き下がった。
「察しが良くて助かるよ、少佐。」
フレッドはハンガーのザクⅡ改を見上げなから、満足げに微笑んだ。
「今のフィジー諸島には、俺のイフリートと、ザク・キャノンしかなくてね。手数が足りなくて困っていたところだ。稼働時間が短かろうが、高性能で汎用性があるザクⅡ改なら、フィジー諸島で待っている連中も喜ぶさ。」
カルロスはフッと息を吐くと、日本刀の柄から手を離し、今度は腕を組んでフレッドを真っ直ぐに見据えた。
「ザクⅡ改の譲渡についてはこれで決定だ。……だがフレッド、問題はどうやってその機体をフィジー諸島まで運ぶかだ。まさか、自力で海を泳がせるわけにもいくまい?」
カルロスの現実的な問いかけに、フレッドは不敵な笑みを崩さないまま応じた。
「心配いらないさ、少佐。ここまで来た時と同じルートを使う。現在、太平洋を航行しているユーコン級潜水艦『ウンディーネ』が俺の足だ。ここへ来る時は、沖合に停泊したウンディーネからスラスターで跳躍して海岸に強行上陸し、そこから徒歩で補給基地まで辿り着いたんだ。帰りもその逆をやるだけさ。」
「なるほど、ユーコン級か……」
カルロスは顎に手を当て、薄暗い天井を見上げて思考を巡らせた。
「確かに、ユーコン級であれば、アエロに頼めばこの近くの海域まで呼び出すことは可能だろう。だがフレッド、物事はそう単純ではないぞ。」
カルロスの声のトーンが、一段と低く真剣なものに変わる。
「上陸する時は、潜水艦のハッチから飛び出すだけで済んだかもしれん。しかし、機体を『積み込む』となれば話は別だ。ザクⅡ改の巨体を潜水艦の艦内に収容するには、頑強なクレーンやガントリー設備、そして何より潜水艦を安定した姿勢を維持できる『ちゃんとした港』が必要になる。……東南アジアの沿岸部で、モビルスーツの艦載作業ができるほどの港をどう確保するか、それが問題だ。」
カルロスが指摘した冷酷な現実に、それまで余裕を崩さなかったフレッドの表情からも笑みが消え、二人の間に重苦しい沈黙が流れた。
フレッドは腕を組み、顎を小さく引いてカルロスを見つめた。
「……大佐、アエロの背後にいる『ルオ商会』の力を使えないか? あいつらの財力と裏のコネクションなら、モビルスーツを極秘裏に積み込める港の一つや二つ、用意できるんじゃないか?」
地球連邦政府の内部にまで深く根を張る、宇宙世紀最大の巨大政商。
その名を出したフレッドに対し、カルロスはフッと自嘲気味な鼻笑いを漏らし、首を横に振った。
「ルオ商会の影響力なら、確かに物理的には可能かもしれん。……だがなフレッド、物事には釣り合いというものがある。」
カルロスは日本刀の鞘を指先でトントンと叩きながら、冷徹な現実を突きつける。
「先の作戦でデリー基地の連邦軍を叩き、奴らの戦力をある程度削いだのは事実だ。しかし、それでも敵の絶対数は圧倒的だぞ。今や連邦は、インジビブル・ナイツの件で文字通り血眼になり、全域の警戒レベルを最大に引き上げているはずだ。」
「つまり、沿岸部は今、地雷原も同然ってわけか。」
「その通りだ。さらに言えば、ここからルオ商会が絶対的な権力を持つ『ニューホンコン』までは、あまりにも距離がありすぎる。この厳戒態勢の中、目立つモビルスーツの運搬——それも君のイフリートと、このザクⅡ改の2機を同時に移動させるなど、リスクが大きすぎる。」
カルロスは一歩踏み込み、フレッドを鋭い眼光で射抜いた。
「ルオ商会の本質はあくまで『商人』だ。自分たちの利益にならない無謀な賭けには乗らん。連邦の総監修網を逆撫でするような真似をしてまで、我々の我が儘に付き合うメリットがないのだよ。そんな割に合わないリスクを提示したところで、最初からまともに取り合ってはくれまい。」
カルロスの放った理路整然とした拒絶に、フレッドは天を仰ぎ、深くため息をつくしかなかった。
「……チッ、お堅い軍隊よりも、損得勘定で動く商人の方がよっぽど手強いな。」
二人の行き詰まる兵站の議論を破り、通路の奥からロニン・スーウェル軍曹が息を切らせて駆け寄ってきた。
「——カルロス少佐! 失礼します!」
その手には受信したばかりの暗号通信の記録紙が握られている。
「どうした、ロニン。騒がしいな」
「ハ! 先ほど、エリク・ブランケ少佐率いる『インビジブル・ナイツ』から暗号通信が入りました! 『水天の涙作戦』への協力要請です。世界各地に点在する我々ジオン残党に対し、一斉に陽動のためのゲリラ活動を展開してほしい、との通信でした。」
「陽動のためのゲリラ活動、だと……?」
カルロスは一瞬目を見開いた後、ニヤリと深く不敵な笑みを浮かべた。
腰の日本刀の柄を小刻みに叩く。
「フッ、ハハハ……! 良いタイミングだ!これ以上ない、最高のタイミングでインビジブル・ナイツが動いてくれた!」
「カルロス? ゲリラ活動の要請だぞ?連邦の厳戒態勢の中に、さらに自ら飛び込むような真似をして、一体何が最高なんだ?」
不思議そうに尋ねるボルクに対し、カルロスはハンガーの機体群を指差して見せた。
「世界各地で残党軍が一斉にゲリラ活動を起こしてみろ。連邦の監視の目は世界中に分散し、沿岸部の厳重な包囲網にも必ず『穴』が空く。……それがチャンスだ。敵の意識が港から離れたその瞬間、最寄りの港湾へユーコン級『ウンディーネ』を強行接岸させる。そして、その隙にフレッドのイフリートと、譲渡するザクⅡ改を艦内へ積載してしまえばいいんだよ。」
「なるほど……! 陽動の裏をかいて、本来なら不可能な積み込み作業を強行するわけか。」
フレッドがポンと手を叩き、ボルクもまたカルロスの恐るべき戦術眼に深く納得して頷いた。
「ロニン! インビジブル・ナイツへの作戦協力要請を受理すると、即座に返電しろ。我が隊はこれより、陽動のためのゲリラ作戦の準備に入る!」
「了解であります!」
ロニンは力強く敬礼すると、脱兎のごとく通信室へと引き返していった。
カルロスはそのまま整備班の方向へ向き直り、鋭い指示を飛ばす。
「整備班!ボルクに貸し出していた私のグフだが、速やかに私のセッティングへと戻させろ。両腰のヒート・マチェットを通常のヒート・サーベルへ換装。右腕のヒート・ロッドも、ワイヤータイプから、通常タイプへ戻すように伝えろ。私も前線に出る!」
「ハッ、直ちに!」
整備兵たちはカルロスの指示を聞き、グフの換装作業に取り掛かり始めた。
フレッドが手持ち無沙汰そうに肩をすくめた。
「おいおい、少佐。話は分かったが、俺はどうすればいい? まさか、指をくわえて見てろってわけじゃないだろ?」
「その通りだ、フレッド。君は補給基地から貴重な4機を運び出す手伝いをしてくれた我が隊の恩人だ。今回のゲリラ活動には参加せず、無事に機体を受け取ってフィジー諸島へ戻ることだけを考えろ。これ以上のリスクを背負わせるわけにはいかん」
「チッ、そいつは不満だな。せっかくザクⅡ改なんていい玩具を貰ったんだ。一暴れさせてくれたってバチは当たらねえだろ?」
不満げにバンダナを弄るフレッドに対し、カルロスは日本刀の柄に手を置き、静かな、しかし有無を言わせぬ威厳を込めて諭した。
「フレッド。君の役目は、ここで無駄死にすることではない。そのザクⅡ改を確実にフィジーまで持ち帰り、あそこの同胞たちの『盾』となることだ。大局を見誤るな。」
カルロスの武人としての重い言葉に、フレッドは少しだけ視線を泳がせた後、「ハァ……」と降参するように両手を挙げた。
「……分かったよ、少佐。あんたの言う通りだ。せっかくの兄弟機との共演はお預けだが……今回は大人しく、フィジーへの帰路を急ぐとさせてもらうさ。」
ボルクはカルロスの前に進み出て、最も本質的な疑問を口にした。
「カルロス。インビジブル・ナイツの要請に応じてゲリラ活動を展開するとしても……一体、東南アジアのどこを襲撃するつもりだ?」
カルロスは腰の日本刀の鞘を一度だけ静かに鳴らし、その薄い唇を吊り上げた。
「——連邦軍『デリー基地』だ。」
そのあまりにも狂気じみた標的に、ボルクだけでなく、それまで余裕の表情を浮かべていたフレッドまでもが同時に目を見開いた。
「な……デリー基地だと!?」
「おいおい少佐、冗談だろ? デリー基地といえば、あの現在建造中のラサ基地に次ぐ、この東南アジア方面における連邦軍最大の拠点だぞ。いくら先の補給基地制圧戦で疲弊しているとはいえ、あそこに真正面から喧嘩を売るなんて正気か?」
フレッドが信じられないといった様子で声を荒げる中、カルロスは冷徹な武人の瞳で二人を見据え、淡々と言葉を返した。
「だからこそだよ、フレッド。デリー基地は先の作戦において、我が同胞たちの決死の抵抗により、すでに全戦力の4割を喪失している。つまり、奴らは今、大穴の空いた戦力を必死に再編成している最中なのだ。さらに言えば——」
カルロスは薄暗いハンガーの奥に並ぶ、新たな4機のモビルスーツへ視線を向けた。
「連邦の奴らは、先の作戦で逃走した我が隊を含む他のジオン残党を炙り出すため、残った貴重な兵力をジャングル全域へ幅広く分散させているはずだ。本陣がこれ以上ないほど手薄になっているこの瞬間を突かずして、いつ突くというのだ? 敵の喉元を直撃して大暴れしてやった方が、陽動としてもこれ以上なく面白いだろう?」
「ハハ……! 敵が一番守りが堅いと過信している本陣の、一番脆くなっている瞬間をブチ抜くわけか。カルロス少佐、あんたやっぱり最高にイカれてるよ!」
フレッドがカルロスの大胆不敵な逆転の発想を心底面白そうに笑い飛ばす一方で、ボルクは「正気とは思えん……」と言いたげに、呆れたように額を押さえてため息をついた。
「それに、ちょうどいい機会だ。せっかく補給基地から命がけで持ち出した新しい戦力がある。実戦でどれほど使えるか、その性能を試させてもらうとしよう。……フレッド。」
カルロスはフレッドに向き直り、最終的な作戦の役割を告げた。
「我々がデリー基地を強襲し、連邦の肝を冷やしている最中、奴らの目は完全に沿岸部から逸れる。そのタイミングで、君は最寄りの港でユーコン級『ウンディーネ』と合流しろ。積み込みの最中の護衛として、我が隊のザクⅡを2機、君の部隊に随伴させることを約束しよう。」
それを聞いたフレッドは、カルロスの自分に対する最大限の配慮と義理堅さに一瞬目を見開いた後、バンダナをグッと引き下げて深い笑みを浮かべた。
「……そこまでお膳立てして守ってくれるって言うなら、これ以上の文句はねえな。感謝するよ、カルロス少佐。あんたから貰ったザクⅡ改と、俺のイフリート……何が何でも、五体満足でフィジーまで持ち帰ってみせるよ。」
ジオン公国軍の栄光が潰え、泥に塗れた残党となった今なお、彼らの牙は少しも鈍ってはいなかった。
東南アジア方面連邦軍の心臓部であるデリー基地の強襲、そして港湾での極秘積み込み作戦という、あまりにも危うい綱渡りの幕が、今ここに切って落とされようとしていた。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
今回はボルクの新機体のイフリートと、カルロス達によるデリー基地襲撃の話でした。
ピクシーに乗っていたボルクが、フレッドと同じようにイフリートに乗るのは本当に奇縁ですね。
ボルクのイフリートは元々はノリスが受領するはずだった機体です。
この設定は08小隊の作成秘話で有名な話である、監督が交代し、新しい監督がイフリートの存在を知らなかったのでグフが起用されたエピソードが元ネタです。
ちなみに、「オリオンの軌跡」世界のイフリートの所在は以下の通りになっています。
1号機 開発された後にどこかに保管された。
2号機 マ・クベの元に配備され、イフリート・ナハトに改修された
3号機 フラナガン機関でEXAMシステムを搭載し、イフリート改に改造された
4号機 ウルフ・ガー隊のヘンリー・ブーン大尉の乗機になる。
5号機 マルコシアス隊のダグ・シュナイドの乗機になり、フレッドに託される。
6号機 ノリス・パッカード大佐の乗機になるはずだったが、補給基地司令官の嫌がらせで死蔵され、後にボルクの乗機になる。
7号機 北米のキャリフォルニア・ベースに配備され、その後にノイジー・フェアリー隊に配備された時にイフリート・イエーガーに改造される。
8号機 所在不明
イフリート達の所在はこんな感じになっております。
ではでは、次のお話も楽しみにしていてください。
【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?
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陸戦型ジム改
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バイアリーターク
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ペイルライダー・ヴァンガード
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ペイルライダー・マスケッティア
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ヴァルキリー
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グフ・ノクターン