機動戦士ガンダム オリオンの軌跡   作:浅片名羽馬

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74話 三ツ星への伝言【下】

アエロは手元の資料をそっと閉じると、ソウヤに向き直り、申し訳なさそうな色を浮かべて頭を下げた。

 

「……不躾で、酷く不愉快な質問をしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。九竜中央報知の社会部として、中尉の人道的な実績の裏にある『正確な事実と状況の推移』をデータとして残すためには、どうしても必要な確認だったのです。どうか、お許しください。」

 

彼女の謝罪は、記者としての体裁を取りつつも、ソウヤの心を傷つけてしまったことへの本物の罪悪感が滲んでいた。

 

「いえ、気にする必要はありません。アエロさん達は報道のプロとして、当然の仕事を全うしただけです。こちらこそ、少し私情を挟んだような言い方をしてしまって、すいません。」

 

ソウヤはいつもの不器用な謙遜を交えながら、アエロの謝罪を穏やかに受け入れた。

しかし、そう応じた直後、ソウヤの胸の奥に小さな引っかかりが生まれた。

謝罪を終えて顔を上げたアエロの表情が、先ほどまでの「凛とした大人の女性記者」のそれではなく、まるで旧知の友人に向けられるような、あまりにも柔らかく温かい笑顔に変わっていたからだ。

 

(……なんだ? 今の、妙に優しい目は……)

 

ソウヤは僅かに眉をひそめ、アエロのクリアな青い瞳を見つめ返した。

これまで何人もの有象無象のメディアに囲まれてきたが、これほど自分の内面に寄り添い、安心したような顔を見せた記者は一人もいなかった。

オフィスの薄暗い静寂のなかで、ソウヤは彼女の表情の変化に、言葉にできない奇妙な違和感——そして、どこか懐かしいような気配を感じ取った。

アエロはソウヤの持つ独特の雰囲気に引き込まれるように、身を乗り出して尋ねる。

 

「……では、中尉。社会部として、一人の人間としてのあなたに、どうしてもお聞きしたいことがあります。なぜ、あなたは、そこまでしてジオン残党を殺さずに、宇宙へ帰すことに拘るのでしょうか。あなたを突き動かす、真の『理由』を知りたいのです。」

 

「動機、ですか……」

 

まっすぐな質問に、ソウヤは内心で激しく戸惑った。

真っ先に頭に浮かんだのは、『エイル』たちのことだった。

しかし、あの一件はゴップ大将直々に最高機密指定の厳重な口止めをされている。

なにより、エイルたちのことを明かすつもりは毛頭なかった。

ソウヤは少しの間沈黙し、視線を落として思考を巡らせる。

そして、自身の戦士としての歩みを遡り、一年戦争時の北米大陸で経験した『もう一つの原点』を思い出し、静かに口を開いた。

 

「……一年戦争の末期の出来事です。とあるジオン軍の補給基地に、敵の敗残兵たちが立て籠もる事件がありました。彼らは元々、まともな戦闘力を持たない補給部隊や衛生部隊の人間だったのですが、連邦軍の一部過激な部隊から執拗な攻撃を受け、その基地へ逃げ込むしかなかったんです。」

 

アエロはドルセのタイピングを一瞬だけ手で制し、ソウヤの言葉を一言も聞き漏らすまいと深く頷いた。

 

「過激な部隊からの執拗な攻撃……。追い詰められた彼らは、相当な恐怖の中にいたのですね。」

 

「ええ。私が所属していた部隊が現地に到着した時、ジオン兵たちは恐慌状態。いつパニックを起こして発砲を始めてもおかしくない、文字通りの一触即発の状況でした。……ですがその時、私の尊敬する小隊長が、信じられない行動をしたんです。」

 

ソウヤの瞳に、当時のオルグレン隊長の背中が鮮明に蘇る。

 

「隊長は……自分のモビルスーツから降り、生身で彼らの前に立って、丸腰で説得を始めたんです。必死の対話の末に、ジオン兵たちは武器を収め、投降を受け入れてくれました。」

 

「モビルスーツから降りて、生身で……。連邦軍の指揮官がそこまでのリスクを冒して対話を選んだのですか?」

 

アエロは微かに息を呑み、クリアな青い瞳を揺らした。隣のドルセも、鋭い黄色の瞳をわずかに見開いてソウヤを注視している。

 

「驚くのも無理はありません。ですが、本当に忘れられないのはその直後です。すべての処理が終わり、自分達がその基地を立ち去る時でした。投降したジオンの兵たちが、自分たちを保護してくれた連邦の部隊に向かって……それが感謝だったのか、それとも戦士としての敬意だったのかは今でも分かりませんが。全員が揃って、綺麗な敬礼をして、見送ってくれたんです。」

 

 

ソウヤはふっと穏やかな笑みを浮かべ、エミリアが淹れてくれたお茶の湯気を見つめた。

 

「モビルスーツから降りてまで彼らの命を救おうとした、当時の隊長の強い意志を継ぎたい。それが一つ。そしてなにより、あの時、自分に敬礼を捧げてくれたジオン兵たちの姿を見て、私は確信したんです。——彼らも、自分達となんら変わらない『同じ人間』なのだと。だから私は今も、極力彼らを殺さず、宇宙へ帰したいと思ってます。」

 

ソウヤが語り終えると、オフィスには心地よい、しかし深い余韻を孕んだ静寂が落ちた。

アエロは胸の前でそっと手を握りしめ、ソウヤのあまりにも純粋な戦士としての矜持に、言葉にできない感動を覚えていた。

 

「……素晴らしいお話を、ありがとうございます、タカバ中尉。銃を向け合う戦場の中で、相手を『同じ人間』として尊重する。あなたのその強さの理由が、いま、確かに分かった気がします。」

 

アエロは穏やかに微笑みながら、そう言った。

しかしその青い瞳は、まるで古い友人の胸の内を優しく見透かすように、ソウヤから視線を外さなかった。

やや間を置いて、彼女は静かに言葉を続る。

 

「中尉……その出来事について、もう少しだけお聞きしてもよろしいでしょうか?あなた方が敬礼で見送ったというジオン兵たちの話……。当時、中尉が所属されていたその連邦軍の部隊……モビルスーツの右肩に、独特な『三ツ星のエンブレム』が施されてはいませんでしたか?」

 

「っ……!?」

 

ソウヤの心臓が、どくん、と大きく跳ね上がった。

一瞬、呼吸が止まりかける。

指先が微かに震え、膝の上で握りしめた拳に力が入った。

 

(なぜ……それを……!?)

 

アエロの口から飛び出した言葉は、あまりにも具体的で、しかも極めて機密に近い情報だった。

公式記録からもほぼ抹消され、存在を消された「オリオン小隊」の象徴。

ソウヤは必死に表情を保ち、努めて平然とした声を絞り出す。

 

「……三ツ星のエンブレムの部隊、か。あー、確か南米のジャングルを主戦場にしていた部隊の中に、そのようなマークを掲げた小隊があると、噂に聞いたことがあるが……」

 

なんとか話をすり替えようとするソウヤ。

しかしアエロは、柔らかく、けれど逃げ道を全て塞ぐような微笑みを浮かべたまま、首をゆっくりと横に振った。

 

「いいえ、中尉。あなたが仰っている南米の部隊は、機体を赤く塗装し、ジャブロー降下作戦の後に敗走したジオン軍を追撃していた部隊のことですよね?私が今お聞きしているのは、それとは違う部隊です。機体を紺色に塗装し、右肩にそれぞれ青・白・黄色の星が描かれた、『三ツ星のエンブレム』の部隊のことです。」

 

(——しまっ、た……!)

 

ソウヤの額を、冷たい汗が音もなく伝い落ちた。

喉がからからに渇き、背中がぞくりと粟立つ。

紺色の機体。

青・白・黄色の三ツ星。

それは他でもない、自分が命を預け、一年戦争を駆け抜けたオリオン小隊の特徴だった。

軍の上層部によって半ば抹消されたはずのパーソナルマークを、ここまで正確に言い当てる記者など、普通は存在しない。

ソウヤは喉の渇きを堪え、声が震えないよう細心の注意を払いながら、アエロを正面から凝視した。

 

(……どこまで知っている?ただの記者じゃない……。これは、俺を試しているのか?)

 

オフィスに、重く張りつめた沈黙が落ちた。

アエロは穏やかな微笑みを保ったまま、しかし声のトーンをわずかに落とし、語り始めた。

 

 

「一年戦争の末期、とある衛生部隊は、敗走する自軍の負傷兵の支援を補給部隊と共に行っていました。そこへ、連邦軍の一部の過激な部隊が襲いかかってきたそうです。彼女達は白旗を振り、自分たちが非戦闘員である衛生兵だと必死にアピールした……。しかし、その過激な連邦軍はそれを完全に無視し、彼女たちに向かって執拗に攻撃を加え、蹂躙された……。」

 

アエロの声が、当時の悲劇を追体験するようにわずかに沈んだ。

ソウヤは無言で拳を強く握りしめた。指の関節が白くなる。

 

「……続けてください。」

 

「彼女たちは生き残ったわずかな仲間たちを連れ、命からがら、シエラネバダ山脈の麓にある補給基地へと身を寄せました。護衛は、左腕のないザクⅡ、ボロボロのザクⅠ、そしてハリボテの180mmキャノンを背負ったザクタンクだけ。追撃してくる連邦の恐怖に怯え、何日もの間、暗い基地の奥底で息を潜めて引きこもるしかなかったそうです。……そんなある日、彼女たちの目の前に、あの紺色に塗装された、右肩に三ツ星のエンブレムが描かれた連邦のMSが現れたのです。」

 

アエロはそこで言葉を切り、ソウヤを真っ直ぐに見つめた。

 

「彼女たちは絶望したそうです。またあの冷酷な連邦軍がやってきた。今度こそ自分たちは皆殺しにされるのだと、恐怖に身を震わせた……」

 

ソウヤの背筋に冷たいものが走った。

記憶の中の光景が、鮮明に蘇ってくる。

 

「……その部隊の、女性兵士たちですか?」

 

「はい。」

 

アエロは小さく頷き、続けた。

 

「すると、隊長機らしいジムが単機で接近し、投降を呼びかけました。その直後、森の奥から執拗に攻撃した連邦軍のブービートラップが作動し、小型ミサイルを発射。隊長機の盾に命中しました。激昂した陸戦タイプのジムが即時反撃を行おうとしたのを、ガンキャノンが必死に制止したそうです……。」

 

ソウヤの瞳がわずかに揺れた。

あの時の、必死にヤザンを止めようとした無線交信の声が耳に蘇る。

アエロは静かに、しかし確かな口調で言葉を紡いだ。

 

「双方がパニックになる中、隊長機からパイロットが降り、生身でザクの前に立ちました。そして、南極条約の遵守を約束したのです。それを聞いて、彼女たちはようやく心を開きました。自分たちは連邦軍の過激な部隊に赤十字を無視した大虐殺を受け、怯えていたのだと隊長に告白し、投降を決断した……。結果、負傷兵や女性兵士たちは無事に保護され、ジャブローへ送られたそうです。」

 

長い語りが終わった後も、オフィスには重い静寂が残った。

ソウヤはアエロの青い瞳を正面から見据えながら、尋ねた。

 

「ジャブローに輸送された彼女達は……その後、どうなったんですか?」

 

アエロはわずかに目を細め、穏やかな声で答えた。

 

「ジャブロー到着後、彼女たちは連邦軍から丁寧に取り調べを受けました。南極条約に従った扱いだったそうです。非戦闘員である衛生兵としての証言が認められ、捕虜として保護されました。……終戦から3ヶ月後、無事に祖国のサイド3へと送還されたと聞いています。」

 

その言葉を聞いた瞬間、ソウヤの頰が自然と緩んだ。

緊張で強張っていた肩から、わずかに力が抜ける。

 

「……そうですか。無事に帰れたんですね。」

 

彼は小さく頷き、少し間を置いてから続けた。

 

「その話を……誰から聞いたんですか? アエロさん」

 

アエロは嬉しそうに、柔らかく微笑んだ。

その笑顔には、取材の仮面を少しだけ外したような、素の温かさが滲んでいた。

 

「今はサイド3の病院で看護婦長として働いている、当時の衛生班長の女性からです。彼女は……自分たちを保護してくれた部隊に、どうしても直接お礼を言いたくて、色々と問い合わせをされたそうです。でも、返ってきた答えは『そんな部隊は記録に存在しない』でした。」

 

ソウヤの表情が一瞬、複雑に揺れる。

 

「……彼女は、どんな礼を言いたかったんです?」

 

アエロは目を伏せ、記憶を辿るように静かに語り始めた。

 

「『あの時、生身でザクの前に立ってくださった隊長様と、三ツ星の部隊の皆さん。本当にありがとうございます。私たちは連邦軍というものを深く憎み、恐れていました。でも、あなた方が命を懸けて守ってくださったおかげで、今こうして生きて、故郷で人を救う仕事ができています。どうか……どうか、お身体に気をつけて、無事に生き延びてください。私たちは一生、あなた方のことを忘れません』……それが、彼女がずっと伝えたかった言葉だそうです。」

 

ソウヤは目を閉じ、ゆっくりと息を吸ってから、穏やかな微笑みを浮かべた。

 

「……残念ながら、私はその部隊のことはよく知らないんです。ただ、そう思ってくれる人たちがいるなら……とても嬉しい限りだ。」

 

彼の声は柔らかく、しかしどこか遠慮がちだった。

本当のことを言えないもどかしさと、伝言を受け取ったことへの静かな感動が、同時に表情に浮かんでいる。

アエロはそんなソウヤをじっと見つめていた。

その瞳には、喜びと、切なさと、そして深い確信のようなものが混ざっているのだった。

その後、アエロはソウヤに当たり障りのない質問を幾つかし、取材を終えた。

 

 

 

 

 

 

「——中尉、本日は本当にありがとうございました。」

 

アエロはソウヤの変わらない本質を確かめることができ、心からの深い感謝を込めて頭を下げた。

 

「いえ、こちらこそ。アエロさんの取材は、私にとっても非常に有意義なものでした。」

 

ソウヤはいつもの不器用な笑みを浮かべ、穏やかな声で続けた。

 

「正直に言うと、私はこれまでの経験から、マスコミやメディアというものには嫌な思い出しかなくてな。今日も最初はかなり身構えていたんですが……アエロさんの取材を受けて、本当に良かったと思っています。」

 

「……記者としてはまだまだ未熟ですが、中尉にそう言っていただけると、本当に嬉しいです。」

 

アエロはそう答えると、ソファーから立ち上がり、ソウヤに向けてそっと白くなめらかな右手を差し出した。

 

「これからのタカバ中尉の戦いと、第4小隊の皆様のご無事を、心からお祈りしておりますね。」

 

「ええ、ありがとうございます。アエロさん達も、ニューホンコンまでの帰路、気をつけてください。」

 

ソウヤはその手をしっかりと握り返した。細く温かいアエロの手の感触が、戦場に生きる彼の掌に静かなぬくもりを残す。

しかし、その手を離す瞬間、ソウヤの胸の奥にずっと引っかかっていた奇妙な既視感が、ついに言葉となって口を突いて出た。

 

「……アエロさん。不躾な質問で申し訳ないんですが、前にどこかで会ったことがありませんか?」

 

ソウヤの真っ直ぐな問いかけに、アエロは一瞬だけクリアな青い瞳を丸くした。

しかし、彼女はすぐに柔らかく品のある笑顔を浮かべ、小さく首を横に振った。

 

「いえいえ、タカバ中尉。私とお会いするのは、今回が初めてですよ」

 

「……そうですか。すいません、変なことを聞いて。」

 

ソウヤが不器用な苦笑いを浮かべると、アエロとアシスタントのドルセは、ソウヤとエミリア准尉に最後にもう一度丁寧に一礼し、書類や機材をまとめてオフィスを後にした。

 

オフィスを出る際、アエロはふっと愛おしそうに口元を緩め、心の中で静かに思った。

 

(ええ、そうよ、タカバ中尉。——『アエロ・ハルピー』として出会うのは、今回が初めてよ。)

 

格納庫の前に停めていた軍用ジープに乗り込むと、ドルセが滑らかにエンジンを始動させる。

車輪が砂利を噛む音を響かせながら、ジープはコジマ大隊基地の頑強な正面ゲートへと向かって走り出した。

ゲートに到達すると、ドルセが速度を落とし、待ち構えていた連邦軍の警備兵に二人の身分証明書を提示する。警備兵は九竜中央報知の精巧な偽造IDカードを厳格にチェックし、特に不審な点がないことを確認すると、無言でゲートを開くよう合図を送った。

 

「ありがとうございました、お気をつけて。」

 

警備兵の言葉にアエロが小さく手を振って応え、ジープは基地の敷地外へと滑り出す。

 

 

 

 

 

 

バックミラーの向こうで、澄み渡る晴天に映えるコジマ大隊の基地が完全に視界から消えた。

それを確認した瞬間、アエロの表情から「お堅い社会部記者」の顔が綺麗に消え失せた。

それと同時に、隣でハンドルを握るドルセの佇まいからも、先ほどまでのビジネスライクでクールな「大人しいアシスタント」の気配が霧散する。

 

「……本当にあの中尉が、あんたがずっと探してた『オリオン小隊』の隊員なの?」

 

ドルセが猫を被るのをやめ、楽しげにハンドルを叩きながら横目を向けた。

 

「ええ、そうよ。間違いないわ。」

 

「最後の話の流れからそんな気はしてたけど、確証はあるわけ?」

 

「もちろん、自信満々よ。実際にあの看護師長の女性が、彼らの行方を探していたのは本当だし、さっきの話をした時の彼の反応を見ればほぼ確実。それにね……」

 

アエロは窓の外を流れるジャングルを眺めながら、不敵に目を細めた。

 

「実は私、一年戦争の時に、その紺色の三ツ星エンブレムの部隊と実際に戦ったことがあるのよね。」

 

「えっ、ちょっと待って!? あなたがその部隊と戦ったなんて初耳なんだけど!」

 

ドルセが本気で驚いたように目を見開く。

 

「ふふ、私にとっても、あの三ツ星の部隊はちょっと特別な存在だからね。今までは内緒にしてたの。」

 

「なによそれ! 気になるじゃない!」

 

ドルセはニヤニヤとニヒルな笑みを浮かべ、アエロの肩を突っつくようにして身を乗り出した。

 

「一体どんな『秘密』があるわけ? 聞かせてよ。」

 

「んー、どうしよっかな。……やっぱり、内緒!」

 

アエロは少し意地悪そうにウィンクしてみせる。

 

「ちぇっ、ケチね。まあいいわ、コジマ基地のサーバーへのバックドアの仕込みも余裕で成功したし、彼のプロファイリングデータもルオ商会へ転送完了。これで彼の行動を監視できるわ。」

 

ジープは泥濘の道を猛スピードで駆け抜けていく。

ふと思い出したように、ドルセは助手席のアエロへ視線を戻した。

 

「そういえば。彼が『ニュータイプ』であるかどうかの確認、あれはしなくて良かったわけ?」

 

「……何のことかしら?」

 

アロエは窓の外を流れるジャングルを眺めたまま、小さく肩をすくめてお茶目にはぐらかした。

ドルセは再び呆れたように大きなため息を吐き出した。

 

「はぐらかさないでよ。ルオ商会からの依頼は、ソウヤ・タカバが本物のニュータイプであるかどうかを確認して、報告することでしょう?」

 

アエロは表情を引き締しめると、彼女は助手席から上半身を捻り、ドルセを正面から見据えた。

 

「彼はニュータイプよ。間違いないわ。」

 

その迷いのない断言に、ドルセは思わずハンドルを握り直した。ジープが一瞬だけ蛇行する。

 

「えっ……!? 確証があるの? 脳波の測定データを取ったわけでもないのに、一体どこにそんな根拠があるっていうのよ!」

 

問い詰めるドルセに対し、アロエはいたずらっぽく口元を吊り上げ、はっきりと告げた。

 

「――私の『勘』よ」

 

「……はぁ!? 勘ですって!?」

 

ドルセの素っ頓狂な声が、ジープの車内に大きく響き渡った。

 

「ちょっと、ルオ商会への重要報告をそんな女の勘レベルで済ませるつもり!? いつもロジカルで冷静なあんたが何言ってるのよ!」

 

アエロはくすくすと笑いながら、再び窓の外へと視線を戻した。

東南アジアの濃い緑が、スピードに合わせて流れていく。

 

「いいじゃない、私の勘はよく当たるんだから。それに……別れ際のあの瞬間、わかったの。彼は彼女と似ているなって。」

 

「はぁ……了解了解。それじゃ、ここからはプロの工作員に戻りましょ。」

 

ドルセが軽く笑いながらアクセルを踏み込むと、ジープは赤土を巻き上げながらジャングルの奥へと加速していった。

アエロは助手席のシートに深く身を預け、目を細めて遠ざかるコジマ基地の方角を振り返った。

東南アジアの強い陽光が木々の隙間から差し込み、彼女の金色の髪を輝かせている。

 

「ニュータイプ……そして、三ツ星の生き残り。ソウヤ・タカバ——この世界が再び動き出すとき——あなたはどんな選択をするのかしら?」

 

その呟きは、風に溶けるように消えていった。

ジープは濃い緑のトンネルを抜け、空港へと続く道を力強く駆け抜けていく。




最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
ソウヤにまさかの伝言が届きましたー!
あの時、助けられた白衣の彼女はサイド3の病院で看護婦長として、頑張ってみたいですね。
そして、次回はカルロス隊のデリー基地強襲の話です!
次の話も楽しみにしていてくださいねー♪

【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?

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