機動戦士ガンダム オリオンの軌跡   作:浅片名羽馬

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79話 水天の落日

夜が明け、インド平原の地平線から、容赦のない朝日の光が昇り始めていた。

朝日に照らし出されたデリー基地は、まさに地獄の残骸だった。

カルロス隊が仕掛けた遅延爆弾によって、滑走路は至る所が内側から抉られ、無数のクレーターが口を開けた穴だらけの廃墟と化している。

コジマ大隊から第二陣、第三陣として急行した第1小隊の陸戦型ジムや、その他のジム、さらには連邦軍仕様のザクⅡF2型までもが、使い物にならなくなった基地の周囲を重々しい金属音を立てて巡回し、臨時の防衛線を敷いていた。

その足元では、まだ火の手が上がるハンガーを必死に消火しようとする消火隊の怒号が飛び交い、あちこちで負傷した兵士の絶叫を手当てする衛生兵たちが走り回っている。

そして、爆炎の犠牲となった仲間たちの遺体を、黙々と冷たい遺体袋へと収めていく兵士たちの姿があった。

一年戦争の終戦から1年、平和になったはずの地上に、再び過酷な戦場の現実が横たわっていた。

 

「——第4小隊の各機は、現状を維持しつつそのまま待機せよ。」

 

コジマ中佐からの待機命令を受け、ソウヤたち第4小隊の3機は、滑走路の端で膝を突いた待機姿勢のまま沈黙していた。

カルロス隊の凄まじい奇襲、そして最後のブービートラップの激しさは、彼らの機体に生々しい爪痕を残している。

ソウヤの『スライフレイル』とジョシュアの『ジム・キャノン』は、至近距離での爆風と四散したミデアの破片を浴びたせいで、自慢の頑強な装甲のあちこちが酷く凹み、無数の金属傷を刻まれていた。

そして、入り組んだ炎上ハンガー地帯へと突入し、スカベンジャーのザク2機を鮮やかに無力化したサンダース軍曹の『陸戦型ガンダム』は、その特徴的な白い装甲が爆煙と硝煙によって真っ黒な煤まみれに汚れ、激戦の凄まじさを物語っていた。

 

モビルスーツのジェネレーターをアイドリング状態に落としたソウヤたちは、コックピットハッチを開け、ホバートラックの周囲へと集まっていた。

朝の冷たい空気が、熱を帯びた彼らの身体を通り抜けていく。

 

 

「お疲れさん。ほい、レーションと水。」

 

ホバートラックのリアゲートを開けたノアが、段ボール箱から取り出した常温のペットボトルの水と、銀色のアルミパッケージに入った簡易レーションをソウヤ、サンダース、ジョシュアの3人に手際よく手渡していった。

 

「助かる、ノア。」

 

ソウヤはオイルで汚れた手でそれを受け取ると、キャップを捻って喉を鳴らしながら水を流し込んだ。

徹夜の激戦と高高度降下の緊張で、彼らの身体は限界まで乾ききっていたのだ。

3人は煤と硝煙がこびりついた滑走路のコンクリート床に、軍人らしく無造作にドサリと座り込み、レーションの封を切りながら低く、重苦しい会話を始めた。

 

「ハァ……冷てえ水が骨身にしみるぜ。」

 

ジョシュアがレーションのクラッカーを齧りながら、凹みだらけになった自分のジム・キャノンを見上げてため息を吐いた。

 

「それにしても最悪のぶっつけ本番だった…。パラシュートなしで落とされた挙句、やっと着地したと思ったら、あの水色の野郎、去り際にミデアを丸ごと爆破していきやがって。……あの一撃のおかげで、俺のキャノンの装甲はベコベコだ…。」

 

「ああ、あのブービートラップの起爆の手際……」

 

サンダースもまた、煤まみれの陸戦型ガンダムを睨みつけながら、ボトルを握る手に力を込めた。

 

「ただのジオン残党の仕業ではありません。……デリー基地を機能停止に追い込むなんて、恐ろしい奴です。」

 

「……いや、それだけじゃない。」

 

二人の言葉を聞きながら、ソウヤは滑走路の床を見つめたまま、低く、押し殺したような声で言葉を割り込ませた。彼の脳裏には、一騎打ちの最中にあの水色の魔神『スプリガン』が放った、血を吐くような絶望の叫びと警告が、未だに鋭いトゲとなって刺さったままだった。

 

「あの水色の機体……スプリガンと名乗ったパイロットは、ジオンの人間じゃない。元連邦軍のパイロットだった。」

 

「元連邦、ですか……!?」

 

サンダースが驚きに目をみはる。

 

「ああ。奴は連邦の腐敗した体制に絶望し、裏切られ、大事な部下をすべて失ったと言っていた……。」

 

ソウヤが告げたその言葉の重みに、ホバートラックの周囲に重苦しい沈黙が広がった。

自分たちが命をかけて守ろうとしている地球連邦軍という組織が、中から完全に腐り果てているという現実。

朝日の光は容赦なく周囲の瓦礫を照らし出していたが、戦い抜いた彼らの胸の内に広がる霧は、深く、冷たく立ち込めるばかりだった。

 

重苦しい沈黙が漂う中、エミリアが硬い表情のまま、ホバートラックのステップを降りてきた。

その手には、先ほどまで暗号解析を試みていた通信ログの記録用紙が握られている。

 

「隊長、コジマ中佐からの正式な通達です。」

 

エミリアはソウヤの前に立つと、周囲の煤煙を遮るように少し声を落として報告を始めた。

 

「我がコジマ大隊は、このまま引き続きデリー基地の臨時警備任務を継続せよとのことです。……それと、ここから離れた沿岸部の港湾エリアでも、別個のジオン残党部隊による激しい戦闘が確認された模様です。ただ、そちらはすでに地球連邦海軍の管轄部隊が対処に当たっているため、我々は一切関与せず、デリーの防衛線再構築に専念しろとのことです。」

 

「そうか……海軍がな。了解した、エミリア。」

 

ソウヤは短く応じ、ボトルの水を一口含んだ。

 

(港の残党……もしや、あの『スプリガン』の仲間か。いや、だとしたらそっちが本命の脱出ルートだったのか)

 

頭の中で次々とパズルが繋がっていくが、今の傷ついた第4小隊には、デリーを離れて海へ向かう足も大義名分もなかった。

 

「……隊長。」

 

じっとソウヤの横顔を見つめていたサンダース軍曹が、気遣うように声を潜めて尋ねてきた。

数々の修羅場を見てきたベテランの目は、ソウヤの瞳の奥にある、いつにない深い翳りを見逃さなかった。

 

「顔色が優れませんね。……どうかされたのですか?」

 

『お前のその甘い理想は、いつか殺される!』

 

スプリガンの遺したあの呪詛のような警告が、再びソウヤの脳裏を激しく明滅する。

連邦の腐敗、その組織がいつか自分たちを後ろから殺しにくるという冷酷な予言。

だが、これ以上、ただでさえ疲弊している小隊のメンバーに不必要な不信感や動揺を伝染させるわけにはいかなかった。

軍人として、そして隊長として、それは今語るべきことではない。

ソウヤは小さく息を吐くと、いつもの冷静な隊長の顔を作り、サンダースへ向けて首を横に振った。

 

「いや……何でもないです。気にしてくださり、ありがとうございます。サンダース軍曹。」

 

ソウヤはボルクの言葉を胸の奥底へと深く仕舞い込み、今はただ、目の前の任務を全うすることだけを己に課した。

サンダースはそれ以上深くは追及せず、生真面目に頷いて自分の陸戦型ガンダムへと視線を戻した。

会話が途切れ、再び滑走路の端に静寂が戻る。

ソウヤはコンクリートの床からゆっくりと立ち上がると、泥と煤に汚れた手でペットボトルを握り締めたまま、夜が完全に明けた東南アジアの青空をじっと見上げた。

どこまでも高く、どこまでも澄み渡る、美しい青だった。

だが、その大空の下に広がる地上は、へし折れたアンテナと鉄くずの山、そして未だに燻り続ける黒煙の臭いに満ちている。

 

(あの一年戦争が終わって、もう1年が経つというのに……)

 

ソウヤの胸の内に、言葉にならない重苦しい感情が去来した。

あの地獄のような大戦が終結してもなお、人間たちの胸の奥に燻る怒り、憎しみ、そして愛する者を失った悲しみの連鎖は、少しも終わってなどいなかった。

形を変え、場所を変え、今もなお世界中で血を流し続けている。

そして、ソウヤは自身の両手を見つめた。

ジオンの人間だろうと、無意味に命を奪いたくない。

誰もが誰かの大切な人であり、犠牲者をこれ以上増やしたくないからと掲げた、自分だけの「不殺」という誓い。

 

『お前の甘い理想は、いつか必ず身内に殺される。……お前自身や、お前の仲間を必ず後ろから殺しに来るぞ』

 

スプリガンが遺した、あの血を吐くような冷徹な警告が、再びソウヤの鼓膜を激しく震わせる。

もし、あの男の言う通り、自分のこの生温かい「不殺」という綺麗事が、戦場におけるただの自己満足であり、傲慢な毒なのだとしたら——。

 

(俺の掲げるこのエゴが……本当に、いつかサンダースやエミリア、みんなを殺してしまうのだろうか……)

 

自分の信じる正義が、巡り巡って大切な仲間たちの命を奪う凶器になるかもしれないという、底なしの恐怖。

澄み切った朝の青空は、若き狩人のあまりにも重い問いかけに対し、何も答えてはくれなかった。

 

 

 

 

 

激しかったストームが嘘のように過ぎ去り、東南アジアの沿岸部には、厚い雲の切れ間から穏やかな陽光が差し込み始めていた。

だが、嵐が去ったばかりの港湾一帯は、静寂とは程遠い硝煙と爆炎に包まれていた。

 

「——ハハハッ! 陸に上がったカッパが、俺のイフリートに勝てると思ってんのかよ!」

 

 

フレッド・バーバーの駆る紫色のイフリートが、戦場を駆け抜ける切り裂き魔のように躍動していた。

両手にヒート・ホークを握り締め、驚異的な機動性で連邦海軍のアクア・ジムたちを容赦なく血祭りに上げていた。

 

ズバァァァンッ!!

 

激しい爆発音が響き、斧刃によって胴体を叩き割られたアクア・ジムが、オイルの海へと崩れ落ちていく。

しかし、アクア・ジムは数の有利を活かし、フレッドを徐々に包囲しつつあった。

だが、その防衛線は、頼もしい援軍の火線によって瞬く間に瓦解していく。

 

「フレッド、そこを動くな! 敵の包囲網を断つ!」

 

ガガガガガッ!!

 

凄まじい重低音を響かせてアクア・ジムを牽制したのは、デリー基地から全速力で急行し、すでにフレッドの援護に回っていたカルロスのグフだ。

さらに後方からは、ロニン軍曹の駆るドム・キャノン複砲タイプが、重厚な実弾の雨を正確に叩き込んで連邦軍の連携を完全に分断していた。

 

「チッ、いいタイミングで割り込んでくれるぜ、少佐!」

 

フレッドがヒート・ホークを構え直しながら、嬉しそうに通信回線で吠える。

 

「安心しろ、フレッド。先生がデリーで命がけで時間をもぎ取ってくれたんだ。お前をフィジー諸島に無事に帰すまで、残ったカッパどもを根こそぎ片付けてやるさ!」

 

「へえ、嬉しいことを言ってくれるね。そいつは借りができちまったな。……行くぞ、少佐! 最後の仕上げだ!」

 

 

「オラァッ!! どきやがれッ!!」

 

フレッドのイフリートが、残るアクア・ジムの懐へと獰猛に斬り込んでいく。

その背後からは、ロニン軍曹のドム・キャノン複砲タイプが絶妙なタイミングでツイン・ミドル・キャノンを正確に撃ち込み、フレッドの進路を塞ごうとする連邦軍の連携を完璧に遮断していた。

激しい戦闘の音が港湾に響き渡る中、カルロスはグフのコクピット内でコンソールを叩き、港の岸壁に強行接岸しているユーコン級潜水艦『ウンディーネ』へ回線を開いた。

 

「ウンディーネ、こちらカルロスだ。そっちの首尾はどうだ? ザクⅡ改の積載作業は間に合うか?」

 

「……カルロス少佐、ウンディーネ艦長だ。嵐が過ぎてくれたおかげでクレーンがまともに動かせている。ザクⅡ改の固定作業は、あと少しで完了する。そっちが防衛線を維持してくれているおかげだ、感謝する。例のデータも必ず、北米の連中に渡す。」

 

スピーカーから返ってきた艦長の力強い報告に、カルロスは「フッ、上出来だ」と不敵に口元を緩めた。

すべては計算通り、ボルクがデリー基地で命がけの時間をもぎ取ってくれた成果だった。

 

だがその時、前線でアクア・ジム2機を同時に相手取っていたフレッドの機体に、予期せぬトラブルが襲いかかった。

激しく斬り結んだ瞬間、キィィィンという甲高い金属疲労の悲鳴と共に、フレッドが右手に握っていたヒート・ホークの頑強な柄が、長時間の過酷な白兵戦の負荷に耐えきれず、無残にへし折れて吹き飛んだのだ。

 

「チッ……! 折れやがったか!」

 

右手の武装を失い、イフリートの体勢がほんの一瞬、大きく崩れる。

連邦海軍のパイロットが、その決定的な隙を見逃すはずがなかった。対峙していたアクア・ジムが、勝利を確信したようにビーム・ピックを引き抜き、無防備となったフレッドの胸部コクピット目がけて猛然と斬りかかろうと肉薄した。

万事休すかと思われた、その刹那。

 

シュウゥゥゥーーーッ!!!

 

滑走路の奥から地表を這うようにして、白煙を引く一筋の光が目にも留まらぬ速さで飛来した。

放たれた小型ミサイルは、ビーム・ピックを突き刺そうとしていたアクア・ジムの脚部に直撃、脚部を失ったアクア・ジムは転倒する。

フレッドはミサイルが発射された方向を見ると、見覚えのある水色の巨体が滑り込んできた。

 

「よお、待たせたな。フレッド。」

 

通信回線から響いてきたのは、ボルクの声だった。

今の一撃は、ボルクのイフリート・スプリガンの脚部ミサイル・ポッドから放れた、最後の1発のミサイルだった。

ソウヤとの死闘で頭部バルカンを浴びせて残し続けた最後の牙が、ここで見事にフレッドの危機を救ったのだ。

 

「……ハハッ! 最高のタイミングで登場して決めてくれるじゃないか、先生!」

 

窮地を救われたフレッドが、コクピットの中で心底嬉しそうに笑い声を上げた。

 

「無事だったか、ボルク! 流石だな。」

 

大破したアクア・ジムが激しい爆炎を上げる港湾の最前線。そこに、フレッドの紫色の5番機と、ボルクの駆る水色の6番機——2機の『イフリート』が、互いの肩を並べるようにして堂々と立ち並んだ。

 

ボルクはモノアイを動かし、フレッドの右手のへし折れたヒート・ホークの残骸へと視線を向けた。

 

「フレッド、ヒート・ホーク1本じゃあ、得意のインファイトがしづらいだろう?俺のこれを使え。お前の腕なら、こいつの使い方がよく分かるはずだ。」

 

重厚な金属音を立てて、腰のロックが外される。

ロックが外されたのは、先ほどデリー基地でソウヤのスライフレイルと激しい火花を散らし合った、カルロス譲りの一対の凶器——ヒート・マチェットだった。

フレッドはコクピットの中で片眉を上げた。

 

「へえ、上等な得物じゃねえか。……だが先生、そいつを俺に譲っちまったら、あんたの近接武器はどうするんだよ?」

 

「心配いらないさ。お前が今、左手に持っているその残ったヒート・ホーク、そいつを俺が貰う。」

 

「……ハッ、なるほどな。そいつは名案だ。」

 

フレッドはボルクの一切の無駄がない物資交換の提案にニヤリと不敵に笑うと、了解のサインとして、左腕のヒート・ホークをスプリガンへと差し出した。

 

「ほらよ、先生。少し焼き付きかけてるが、ジオン伝統の切れ味は保証するぜ」

 

「ああ、ありがたく使わせてもらう。」

 

ボルクはスプリガンの左手で、フレッドから手渡された重厚なヒート・ホークのグリップをしっかりと握り締めた。

ボルクが自身の武器を受け取ったことをモニターで確認すると、フレッドは待ってましたとばかりに、スプリガンの腰に装備された一対のヒート・マチェットを、吸い込まれるような滑らかな動作で両手に引き抜く。

 

ジィィィン……

 

新たな主のエネルギーを供給された二振りのマチェットが、フレッドの両手の中で凄まじい高熱を帯び、港湾の空気を不気味に歪めながら赤黒くギラリと発光し始めた。

 

「——最高だぜ! 斧よりもこっちの鋭い刃の方が、俺の性に合っている!」

 

お互いの武器を交換した2機の魔神。

ボルクはスプリガンのモノアイをギラリと明滅させ、隣に並び立つ紫色のイフリートへと通信を繋いだ。

 

「行けるな? フレッド」

 

「勿論だ、ボルク。……あいつらに『イフリート』って機体がどれほど恐ろしいか、骨の髄まで教えてやろうぜ!」

 

フレッドのシュナイドから受け継いだ紫色の5番機は、ボルクから受け継いだ一対のヒート・マチェットを両手に固く構え、その赤熱する刀身で大気を焦がす。

対するボルクの水色の6番機『スプリガン』は、右手にキャノコから託された120mmザク・マシンガンを持ち、左手にはフレッドから譲り受けた重厚なヒート・ホークを握り締めていた。

 

「行くぞ!」

 

「応!!」

 

ボルクの鋭い号令が響いた瞬間、紫と水色、2機のイフリートのバックパックのバーニアが同時に爆発的な咆哮を上げた。

凄まじい地響きと砂煙を巻き上げながら、2機は滑るような圧倒的なステップで滑走路を爆進。

その突撃の前に、港湾を包囲していた連邦海軍のアクア・ジムや、後方から支援していたジムの防衛線は、文字通り蹂躙されていった。

 

「——な、何なんだあいつらは!? 水色と紫の……ジオンの!うわあああーー!?」

 

「速すぎる! 射線が、照準が追いつかないッ!!」

 

パニックに陥る連邦兵たちの悲鳴が激しく飛び交う。

フレッドのイフリートは、その天性の格闘センスを爆発させ、両手のヒート・マチェットを閃光の如く振り回してアクア・ジムのシールドごと機体を十文字に切り裂いていく。

斧よりも格段に鋭いマチェットの二刀流は、フレッドの獰猛なインファイトと完璧にシンクロしていた。

一方、ボルクのスプリガンは冷徹なまでの正確さで戦場を支配していた。

右手のザク・マシンガンでジムのカメラや関節部をピンポイントで射抜いて体勢を崩させ、すれ違いざまに左手のヒート・ホークを豪快に叩きつけて駆動部を確実にスクラップにしていく。

カルロスのグフとロニンのドム・キャノンによる完璧な支援も加わり、港を埋め尽くしていた連邦軍のモビルスーツ部隊は、わずか数分のうちに、1機また1機と物言わぬ鉄の残骸となって岸壁へと沈黙していった。

ストームの去った澄んだ青空の下、連邦海軍のアクア・ジムたちが完全に物言わぬ鉄の残骸と化し、港湾エリアに再び静寂が戻った頃、ユーコン級潜水艦『ウンディーネ』の艦長から「積載完了」の青いシグナルが送られた。

 

「——じゃあな、少佐、ボルク! このザクⅡ改と、あんたから貰ったマチェット……フィジーの仲間たちの盾として、大事に使わせてもらうぜ!」

 

フレッドの紫色のイフリートは、強行接岸したウンディーネの巨大なハッチの奥へと、滑り込むようにして収容されていった。

ハッチが重々しい金属音を立てて閉じられ、巨艦は穏やかさを取り戻した波を割りながら、太平洋の深海へと悠々と潜航し、その姿を完全に消し去った。

水色のイフリートは紫のイフリートが乗ったユーコン級を見送るのだった。

 

 

 

 

作戦名『水天の涙』。

 

ジオン残党の若き士官、エリク・ブランケ少佐を中心に結成された「インビジブル・ナイツ」は、連邦に鹵獲されていた高性能機イフリート・ナハトを強奪し、全世界の残党が一斉に蜂起する巨大な連動ゲリラ戦を展開した。

カルロス隊のデリー襲撃も、彼らが扇動した各地の破壊活動の「一幕」に過ぎなかった。

その真の目的は、月面のマスドライバー基地から大質量弾を地球の主要施設・都市へ向けて発射することだった。

地球連邦政府を威嚇し、ジオンにまだ継戦能力があることを示して、スペースノイドの自治とジオン復興に向けた交渉の席に連邦首脳を着かせること。

それこそが彼らの最終目的だった。

第1回攻撃は連邦軍に察知され、マスドライバー基地を奪還されて失敗に終わったものの、第2回を確実に成功させるため、インビジブル・ナイツは再び月面へと向かい、再占拠と発射を強行した。

最終的に、彼らは連邦軍『ファントム・スイープ隊』のユーグ・クーロ大尉が駆るガンダム7号機との激しい死闘の果てに敗れ、エリク・ブランケ少佐は連邦軍の手に捕らえられた。

連邦政府から見れば、月の施設を強奪し、地球に向けて巨大な質量兵器を射出・攻撃した一連の暴挙は、一年戦争時の「コロニー落とし」に匹敵する最悪の戦略テロであり、一歩間違えれば地球が壊滅していた大罪であった。

さらに、連邦軍の官僚達は、自らの慢心によってカルロス隊にデリー基地を完璧に蹂躙・略奪されたという身内の大失態を隠蔽するため、デリーや地球各地で起きたすべての破壊と略奪の罪も、捕らえられたエリク一人に背負わせるという暴挙に出た。

 

「——被告人、エリク・ブランケ。地球各地におけるゲリラ活動の扇動・指揮、および月面マスドライバー占拠による大質量テロの罪により、『極刑』を言い渡す。」

 

結論の決まりきった裁判の席で、冷酷な判決が下される。

カルロス隊の足跡は公式記録から綺麗に抹消され、デリーの惨劇はインビジブル・ナイツの犯行として書類上に収められた。

ひとつの巨大な、そしてあまりにも哀しいジオンの意地が潰え、連邦の欺瞞が世界を覆う中、激動の激戦が吹き荒れた『水天の涙作戦』の宇宙世紀0081年は、静かに、しかし重苦しい余震を残したまま、ここに幕を閉じるのだった。




最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
機動戦士ガンダム戦記 PS3の舞台だった宇宙世紀0081年の話はこれにて完結でございます。
カルロス達のデリー基地襲撃はエリクの罪と処理されたので、カルロス達のヘイトはあまり行かないようになりました。
次は宇宙世紀0082年の話になりますので、お楽しみください。
いつも読んでくださり、誠にありがとうございます。

【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?

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