機動戦士ガンダム オリオンの軌跡   作:浅片名羽馬

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第81話 ミリタリー・コンペティション

宇宙世紀0082年

 

ハノイ近郊のコジマ大隊基地

 

 

 

 

 

「私から、おめでとうと言わせてもらおう。サンダース軍曹。」

 

作戦用デスクの前に立つコジマ中佐は、いつになく穏やかな、そしてどこか晴れやかな笑みを浮かべながら、目の前で直立不動の姿勢を取る大柄な男を見つめた。

そこにいたのは、数々の激戦を潜り抜け、今やコジマ大隊基地になくてはならない『大黒柱』となった、テリー・サンダースJr.軍曹だった。

シロー・アマダの一件以降、数々の困難な任務を寡黙に、そして完璧に遂行し続けてきた彼は、ソウヤが率いる第4小隊の絶対的な精神的支柱であると同時に、基地のすべての若手隊員達から深く慕われ、尊敬を集める存在となっていた。

コジマ中佐は、シローの元部下として理不尽な冷遇を受け続けてきたサンダースの苦労を、誰よりも近くで気に掛け、心を痛めていた一人だった。

だからこそ、今自分の手にある一枚の書類——サンダースのこれまでの献身がようやく報われることになった今回の『栄転』の辞令を、我が事のように心から喜んでいたのだ。

 

「……私への、転属要請ですか、中佐。」

 

サンダースの生真面目な声音には、僅かな戸惑いが混ざっていた。

コジマ中佐は優しく頷き、書類を机の上に置いた。

 

「ああ、軍上層部からの直接の異動要請だ。サンダース、これまでの貴官の不遇な扱いには本当に申し訳ないと思っていたがな……。今回ばかりは、軍上層部の奴らも君の実力に縋らざるを得なくなったわけだ。」

 

中佐は真剣な面持ちに切り替えると、コンソールの電子マップを指し示した。

画面に映し出されたのは、あの奇襲によって壊滅し、今なお再起の目処が立っていないデリー基地の惨状だ。

 

「一年前のジオン残党による電撃的な夜襲によって、アジア方面の要であるデリー基地は完全に機能停止に追い込まれた。……だが、被害はそれだけに留まらん。実はな、現在チベットで建造が進められている次世代の巨大要塞——『ラサ基地』に配属されるはずだった精鋭のパイロットたちの大半が、あのデリーの夜に死亡、あるいはPTSDを起こして再起不能になったのだ。」

 

中佐の言葉に、サンダースの強固な体躯が僅かに揺れた。

 

「連邦政府は現在、あの有名な世界遺産のポタラ宮の山そのものを丸ごと改造し、地球連邦軍の『新しい総司令部』へと作り替えようとしている。……しかし、その最重要要塞の盾となるべきパイロットが、デリーの一戦で殆ど失われてしまったのだよ。そこで、上層部が血眼になって目を付けたのが貴官だ。」

 

中佐はサンダースの真っ直ぐな瞳を優しく、しかし力強く見据えた。

 

「東南アジア戦域における圧倒的な土地勘、そして一年戦争を最前線で生き抜いた豊富な戦闘経験。……さらに、今のコジマ大隊で誰もが認める貴官の統率力。ラサの盾となるに、これ以上相応しい兵はいない。これはジャブローからの事実上の強制命令だ。サンダース、お前には『ラサ基地の先任軍曹』として、現地へ赴いてもらう。」

 

「……私のような男が、あのラサの巨大要塞へ、ですか。」

  

サンダースは自分の掌を見つめ、静かに息を吐いた。

長年、泥に塗れ、戦い続けてきた自分が、連邦の新総司令部とも呼べる要塞の先任軍曹になる——その現実が、まだ実感として掴めなかった。

自らの不遇な過去を噛み締めながらも、軍人として、そして隊長であるソウヤの背中を支えてきた戦士として、その拳を強く握り締めた。

これが、シロー・アマダの影から完全に脱し、自らの実力と周囲の信頼で掴み取った本物の栄転である。

 

 

 

 

だが、異例の栄転通知を前にして、サンダースは喜びの表情を見せるどころか、その分厚い胸元で静かに息を吸い込み、意を決したようにコジマ中佐を見つめ直した。

 

「中佐……その異動、どうにか断ることはできないでしょうか。」

 

「——やはり、そう言うと思ったよ。」

 

コジマ中佐は深くため息を吐き、手元の書類をトントンと机に揃えた。

サンダースのこの大隊への執着と、仲間を想う実直な性格を誰よりも知っていたからこそ、中佐はその拒絶をあらかじめ予期していたのだ。

 

「私は、シロー・アマダ少尉がいた、このコジマ大隊基地に残りたいのです。そして……今の私の隊長である、ソウヤ中尉のことを、これからも現場で支え続けたい。」

 

大柄な身体を少しだけ前に出し、懇願するように語るサンダース。

コジマ中佐は机に両手を突き、鋭くもどこか哀愁を帯びた目でベテラン軍曹を覗き込んだ。

 

「サンダース。貴官がそこまでタカバ中尉に肩入れするのは……やはり、彼が、シロー・アマダ少尉に似ているからか?」

 

「……ハッ。否定はしません。」

 

サンダースは真っ直ぐに中佐の問いを認め、胸の奥にある熱い想いを言葉にした。

 

「中尉の戦い方を見ていると、どうしてもあの人の姿と重なるのです。敵であるジオンの人間を無意味に殺そうとしない。タカバ中尉は、泥を啜るジオン残党の命を1人でも多く救い、戦いを終わらせて、彼らを故郷へ帰そうとしています。……軍人としてはあまりにも甘く、あまりにも危なっかしい理想です。だからこそ、私はここに残りたい。もう二度と……大切な隊長を、守りきれなかった後悔は繰り返したくないのです。」

 

かつてシローの甘さに救われ、そしてシローを最後まで守りきれなかったという後悔。

サンダースは、同じように「歪な不殺」の理想を掲げて戦場に立つ若きソウヤを、どうしても放っておくことができなかった。

コジマ中佐は、サンダースのそのあまりにも純粋な忠誠心と不器用な優しさに、深い同情の眼差しを向けた。

だが、だからこそ、中佐は彼自身の未来を想って、父親のようなトーンで静かに諭した。

 

「貴官の気持ちは痛いほど分かる、サンダース。だがな……それでは、お前自身の『幸せ』がどこにもないではないか…。」

 

中佐は優しく、しかし残酷な現実を突きつけるように言葉を繋いだ。

 

「シロー・アマダの巻き添えを喰らい、お前はこれまでずっと、組織の底辺で不当に冷遇されてきた。今回のラサへの転属は、お前が自らの実力で勝ち取った、泥を払って表舞台へ戻るための最大のチャンスなのだぞ。タカバ中尉の盾になって再び泥に塗れるのが、お前の本当の幸せなのか? 私はな、サンダース。一人の指揮官として、お前のような男にこそ、まっとうな栄誉を掴んでほしいのだよ。」

 

温厚なコジマ中佐の、部下の人生を心から案じる言葉が、作戦テントの静寂の中に重く響き渡った。

ソウヤを守るためにラサ行きを拒むサンダースと、彼の幸せを願って送り出したい中佐。二人の誠実な想いが、机の上の転属届を挟んで静かに交錯していた。

 

「中佐……そのように私の身を案じてくださり、心から感謝いたします。ですが——」

 

サンダースは一度、深く頭を下げた後、ゆっくりと顔を上げた。

その生真面目な顔立ちには、いかなる組織の圧力をも撥ね退けるような、鉄の如き決意が満ちていた。

サンダースはコジマ中佐の目を真っ直ぐに見つめ、力強く言い切った。

 

「私の意志は、変わりません。ソウヤ中尉の手助けをすること……それが、今の私にとっての誇りであり、幸せなのです。」

 

「……ハァ。まったく、お前という男は……」

 

コジマ中佐は大きくため息を吐き、お手上げだと言わんばかりに両手を机の上に広げた。

だが、その顔には、部下のあまりにも実直で不器用な忠誠心に対する、深い苦笑と諦めが混ざっていた。

 

「分かった、分かった。だがな、サンダース。ラサ基地の建造スケジュールは巨大すぎてな、実際に配属されるのは、まだ随分と先の話だ。それまでに、お前の気持ちが変わるかもしれない。」

 

中佐は手元の転属届をファイルへ仕舞い込むと、細い目をさらに細めてサンダースを睨んだ。

 

「転属の日が本当に近づいたら、その時にもう一度、私は貴官の意志確認をする。……それまでは、タカバ中尉の背中を死に物狂いで支えてみせろ。いいな?」

 

「ハッ! 了解いたしました、中佐! ありがとうございます!」

 

サンダースは胸を張り、これ以上ないほど晴れやかな敬礼を捧げた。

転属の重苦しい話がようやく一区切りつき、テント内の空気がわずかに和らいだその瞬間、コジマ中佐はふっと真剣な表情に戻り、机のコンソールを叩いた。

別の暗号電文が画面に浮かび上がる。

 

「よし、感傷はここまでだ、サンダース軍曹。……ここからは仕事の話をしよう。まだ、タカバ中尉やエミリア准尉にも伝えていないことなのだが……近々、第4小隊へ『重大な任務』が下りることになった」

 

「重大な任務……ですか?」

 

サンダースの表情が瞬時に引き締まる。

デリー基地を壊滅させた部隊の本格的な追撃戦か、あるいは新たな残党の掃討作戦か。

だが、コジマ中佐の口から飛び出したのは、戦場の硝煙とは全く異なる、予想外の驚くべき言葉だった。

 

「近々、連邦軍の威信をかけた大イベント——『地球連邦軍モビルスーツ競技会』が開催される。……そのアジア地区代表として、我がコジマ大隊第4小隊が正式にエントリーされることになった。」

 

「……モビルスーツ競技会、ですか!?」

 

聞き慣れない単語にサンダースが戸惑うのを見て、コジマ中佐は手元の通信端末を操作し、地球圏全体のスケジュールマップを表示させた。  

 

「ああ。来年の11月頃な、旧ジオン公国軍の宇宙要塞ソロモン——いや、今はコンペイトウだな。あそこで、地球連邦宇宙軍の観艦式が挙行されることになった。全軍の士気高揚と、連邦の軍事力を宇宙に示すための巨大な示威イベントだ」

 

中佐は画面の一端を指でなぞる。

 

「一年戦争中に実施されて以降、戦後は予算の都合や残党への対応に追われ、しばらく挙行できずにいたが、ようやく3年ぶりに開催される目処が立った。……で、我が第4小隊がエントリーされた競技会というのは、その宇宙観艦式の『前座』として地上で行われる、大規模な軍事競技会なのだよ。」

 

コジマ中佐は画面を切り替え、今度は地球の南半球、広大なオーストラリア大陸の沿岸部を映し出した。

 

「開催場所は、かつてコロニー落としの直撃を受けたオーストラリア大陸のトリントン基地の広大な演習場だ。例えるなら、旧時代にオーストラリア陸軍が開催していた国際射撃大会——AASAM(アーサム)のモビルスーツ版だな。地上における地球の支配が完全に連邦の手へ戻ったことを世界にアピールするため、そして地上部隊の各地域の練度確認と大衆への広報が目的の、極めて真剣な祭りだ。」

 

中佐の言葉を、サンダースはベテランの厳しい目で咀嚼(そしゃく)する。

ただのお祭り騒ぎではない。だが、なぜハノイにいる自分たちが選ばれたのか。

その最も重要な理由を、中佐が明かした。

 

「実はな、この競技会へ我が第4小隊を出すように強く指示してきたのは、ジャブローの官僚ではなく、我が地球連邦軍アジア方面軍のお偉いさんなのだよ。」

 

「方面軍の、ですか?」

 

「そうだ。去年の電撃的な夜襲で、デリー基地は壊滅。精鋭のジム・コマンド小隊のパイロットたちも戦死、あるいはPTSD。……アジア方面軍としては、面子を完全に潰された形だ。このままではジャブローの本部から無能の集まりだと舐め腐られ、発言権を失ってしまう。」

 

「だからこそ、方面軍のトップはジャブローの鼻を明かして見返したいのだ。そのための切り札として、東南アジア戦域で極めて高い戦果を上げ、ケタ違いの操縦技術と実力を持った我が大隊の『第4小隊』に、アジア地区の代表として白羽の矢を立てた。これは方面軍司令部からの、最大級の期待が懸かった直々の命令なのだよ。」

 

「……なるほど。そういう政治的な裏の思惑があるわけですか。」

 

「タカバ中尉の、敵を殺さずに戦闘不能にする操縦技術。そして貴官の統率力。これらは『競技会』というルールのある戦場でこそ、最も華やかに、圧倒的なスコアを出して輝くはずだ。……サンダース軍曹、ラサの異動を保留にした以上、お前にはこの競技会で、第4小隊の大黒柱として活躍してもらうぞ。」

 

「ハッ! 第4小隊サンダース軍曹、全力を尽くします!」

 

サンダースは迷いの消えた顔で、力強く敬礼を捧げた。

 

「よし、説明は以上だ。サンダース軍曹、この競技会の詳細な資料をタカバ中尉に届けてやってくれ。方面軍司令部の面子がかかった大仕事だ、よろしく頼むぞ。」

 

コジマ中佐は手元にまとめた分厚い書類が入ったファイルをサンダースへ手渡した。

 

「ハッ! 了解いたしました。責任を持って隊長へお渡しします。」

 

サンダースは受け取った資料を小脇に抱え、迷いのない足取りで中佐のテントを後にした。

 

 

 

 

 

ソウヤたちのいる場所は、滑走路の近くのモビルスーツ操縦シミュレータ室だった。

サンダースが室内の重厚な気密扉を開けると、そこには異様な熱気と、ヘトヘトになって床やベンチに座り込んでいる他小隊のモビルスーツパイロットたちの姿があった。

誰もが魂を抜かれたような顔で、激しい息を漏らしている。

 

「……信じられん。シミュレーターのデータだってのに、あんな急制動で操縦するなんて、化け物かよ……。」

 

「本当に攻撃が当たらない。どうやったら、あんなデタラメな挙動で平然とこっちに射撃が当たるんだよ?」

 

パイロットたちが愚痴とも畏怖ともつかない言葉を漏らしていたその時、室内の奥で油圧シリンダーを激しく鳴らして激動していた2台の可動式操縦シミュレーター装置が、同時にプシューッと蒸気を噴き出して停止した。

 

パカリと片方のハッチが開くと、中から魂を削り取られたような顔をした他小隊の若手パイロットが這い出てくる。

彼はタラップを降りるだけの体力すら残っていないのか、そのままマットの敷かれた床へとドサリと倒れ込み、激しく胸を上下させて息を吸った。

 

「く、くそ……! 陸戦型ジムのセッティングだったのに、ザクに完敗するなんて……。一体どうなってるんだよ……!」

 

そのあまりにも哀れな敗者の様子を、コントロールパネルの横で腕を組んでいたジョシュアとノアが、実におもしろそうにニヤニヤと眺めていた。

 

「ひゃはは! だから言ったろ? うちの隊長に高速戦闘をする発想自体がそもそも間違ってんだよ。」

 

「本当に同情するぜ。ザクに四肢をもがれるなんてな…。」

 

ジョシュアの軽い口調とノアの辛辣な感想が響く中、もう片方のシミュレーター装置のハッチが滑らかに開いた。

 

中から這い出てきたのは、他小隊の面々を恐怖に叩き落とした張本人——ソウヤ・タカバ中尉だった。

あれほど凄まじい模擬戦のGを可動装置内で浴びていたというのに、ソウヤは髪の毛一本乱れておらず、汗すらもかいていない。

まるで近所の散歩から戻ってきたかのような、完全にけろっとした涼しい表情のまま、タラップを軽快にトントンと降りてきたのだった。

 

タラップを軽快に降りてきたソウヤは、床に倒れ込んで激しく息を切らしている若手パイロットの前に立つと、いつもの穏やかな口調で語りかけた。

 

「今の模擬戦、悪くはなかったよ。ただ、急制動に対応しようとして、機体のペイロードバランスを意識しすぎていたね。コマンドの優れたスラスター出力があるんだ。旋回性能だけに頼らず、一歩引いてこちらの出方を待つ余裕があれば、もう少し自分のジムを捉えられたはずだよ。」

 

「は、はい……! 了解、しました……ッ、ありがとうございました、タカバ中尉!」

 

ヘトヘトになったパイロットは、悔しさを滲ませながらも、ソウヤの丁寧なアドバイスに平伏するようにどうにか頷いた。

 

「よし。じゃあ、次の対戦相手は……ノアにお願いしようかな。」

 

ソウヤが次に視線を向けたのは、コントロールパネルの横にいたノアだった。

 

「待ってました! 隊長、最近の訓練で俺の腕がどこまで上がったか、ばっちり試させてもらうからな!」

 

ノアは意気揚々と声を弾ませ、ソウヤに一本取ってやるという強い向上心を胸に、自分の操縦ユニットへと迷いのない足取りで向かっていく。

 

書類を小脇に抱えて入ってきたサンダースは、そんな2人のやり取りを微笑ましく見守っていた。

ソウヤとノアがそれぞれ左右のシミュレーター装置のハッチへと入り、プシューッと気密扉が閉じていくのを確認すると、サンダースはメインコンソール前に立つジョシュアの横へと静かに移動した。

 

「サンダースさん、お疲れ様です!」

 

サンダースの接近に気づいたジョシュアが、軍人らしくピシッと小気味よく敬礼を交わす。

普段は軽い口調の彼だが、サンダースの前では自然と背筋が伸びるのだ。

 

「ああ、お疲れ。……ノアの様子はどうだ?」

 

「やる気満々ですよ。最近は隊長の急制動を真似しようとしてますからね。まあ、隊長の牙城を崩せるかどうか、見ものですよ。」

 

ジョシュアがニヤリと不敵に笑う。

サンダースは中佐から預かった競技会の資料をコンソールの上へと一度置き、ジョシュアと共に、モニターに映し出されたノアとソウヤの仮想戦闘の観戦を開始した。

システム起動の電子音が室内に鳴り響き、最新鋭の可動装置が再び油圧の咆哮を上げて激しく動き出す。

 

 

 

 

 

「だあぁーー! 勝てねーーっ!!」

 

ハッチが開いた瞬間、可動式ユニットの中からノアが頭を抱えて叫びながら這い出てきた。

 

タラップを乱暴に踏み鳴らして降りてきた彼は、悔しさを全身で露わにしながら、その引き締まった顔を真っ赤に染めている。

そんな彼の奮闘ぶりをコントロールパネルの前で見ていたジョシュアが、肩をすくめてニヤリと笑いながら声をかけた。

 

「まあそうカリカリするなよ、ノア。これでも十分に健闘した方だと思うぜ? なにせ、前回の模擬戦のデータと比べたら、あの隊長相手に20秒も長く生き残っていたんだからな」

 

「そんなの全然嬉しくねー! 俺は秒数を稼ぎたいんじゃないんだよ、隊長に一太刀浴びせて勝ちたいんだよ!」

 

ノアが悔しげに拳を握りしめて地団駄を踏むと、そのあまりにも素直な負けず嫌いぶりに、ジョシュアとサンダースの2人は思わず同時に吹き出し、シミュレータ室に野郎どもの温かい笑い声が響き渡った。

 

「だが、ノア。ジョシュの言う通りだ。」

 

サンダースは手元の資料を一度脇に抱え直し、優しい目で、ノアの成長をフォローした。

 

「同じ『ジム・コマンド』の機体データを使って、あの隊長にあれだけ粘り強く食らいついたんだ。胸を張るといい。」

 

「サンダース軍曹の言う通りだ、ノア。腕を上げたな。」

 

もう片方のシミュレーターから滑らかに降りてきたソウヤも、ノアの元へと歩み寄りながら、心からの賛辞を言葉にして彼を褒めた。

 

「中盤、俺がモニターフレームの死角へ回り込もうとした瞬間、スラスターの逆噴射を先読みして対応しようとしていただろう? 普通のパイロットはモニターフレームの死角をあまり意識しないから、大したものだ。」

 

隊長であるソウヤからそこまで具体的に操縦技術を褒められると、ノアはまだ悔しそうに口を尖らせつつも、その瞳の奥には嬉しさと、次こそは隊長を超えてやるという新たな闘志の火がパチパチと灯るのだった。

 

サンダースはソウヤの元へと歩み寄ると、小脇に抱えていた分厚い資料を、恭しく両手で差し出した。

 

「隊長、お疲れ様です。コジマ中佐から、我が第4小隊宛てに下った重大任務の資料を預かってきました。」

 

「重大任務……? ありがとうございます、サンダース軍曹。」

 

ソウヤはそれを受け取り、競技会に関する資料のテキストを目で追っていく。

だが、その詳細を読み進めるうちに、いつも冷静沈着なソウヤの端正な顔立ちが、見る見るうちに驚愕へと染まっていった。

 

「モビルスーツの競技会……!? しかも、開催場所がオーストラリアのトリントン基地……?」

 

「えっ、競技会!? 何ですかそれ、見せてください!」

 

「おいおい、オーストラリア遠征かよ! 穏やかじゃねえな。」

 

ソウヤの驚きに満ちた声を聞くや否や、隣にいたジョシュアとノアの2人が身を乗り出すようにして、ソウヤの手元にある資料を背後から興味津々で覗き込んできた。

 

「サンダース軍曹、これは一体……? 今の世界情勢で、軍がこのような大規模な技術競技会を開催する意図は何ですか?」

 

ソウヤは驚きを落ち着かせ、サンダースへと問いかけた。

サンダースは生真面目な顔で頷き、先ほど中佐から受けた説明を噛み砕いて話し始めた。

 

「ハッ。来年の11月頃、宇宙要塞コンペイトウで行われる宇宙軍の観艦式……その『前座』として、地上の支配権が完全に連邦へ戻ったことを世界にアピールするための祭りだそうです。例えるなら、旧時代の国際射撃大会『AASAM(アーサム)』のモビルスーツ版だと中佐は仰っていました」

 

「AASAMのモビルスーツ版……。つまり、ただのお祭り騒ぎではなく、世界中の地上部隊の現在の実戦練度を確認するための、軍事的な実力テストというわけですね」

 

ソウヤが鋭く本質を見抜くと、サンダースはさらに声を潜めて、今回のエントリーに隠された「政治的な裏の思惑」を付け足した。

 

「その通りです、隊長。……そして何より、この競技会へ我が第4小隊を出せと強く指名してきたのは、ジャブローの官僚ではなく、我が『地球連邦軍アジア方面軍司令部』の上層部だそうです」

 

「方面軍のトップが……?」

 

「はい。去年の一件で、デリー基地の精鋭部隊であるジム・コマンド小隊は壊滅。方面軍としては、ジャブローの本部に舐められるのを防ぐため、『第4小隊』を送り込み、ジャブローの鼻を明かして見返したい……というのが、本当の狙いだそうです。」

 

ノアとの激しい模擬戦のデータが明滅するコンソールの前で、ソウヤ中尉はサンダースから受け取った分厚い資料をめくり、詳細なスケジュールを確認していった。

 

「なるほど、かなり綿密なタイムラインが組まれているな。……みんな、これからの予定を伝えるぞ。聞き逃さないでくれ。」

 

ジョシュア、ノア、そしてサンダースの3人が真剣な表情でソウヤを注視した。

 

「まず2週間後、我々は現在チベットで建造中の『ラサ基地』へ移動する。そこで臨時の基地司令を兼ねるアジア方面軍の最高上層部と面会し、代表としての直々の激励を受けることになっている。デリーが壊滅した今、アジアの指揮系統はすべてラサに移されているからな。」

 

「2週間後か! 噂のラサ基地がどうなってるのか、この目で確かめるチャンスだな。」

 

ノアが負けず嫌いな笑みを引っ込め、若い隊員らしい好奇心で目を輝かせる。

 

「そして面会を終えた1ヶ月後、我々は本番の舞台であるオーストラリア大陸へ移動する。」

 

ソウヤが画面を切り替えると、かつてコロニー落としの直撃を受けたトリントン基地の演習場マップが浮かび上がる。

 

「現地に到着した後、地形把握と機体調整の2週間の調整期間が与えられる。……だが、その調整期間が終わった直後、競技会の本戦前に、もう一つ大事なイベントが挟まるんだ」

 

「え、まだ何かあるんですか?」

 

ジョシュアが不思議そうに眉をひそめると、ソウヤは少しだけ困ったような苦笑を浮かべてスケジュールを指し示した。

 

「本戦の直前に、全世界のメディア向けの広報イベント用の展示会を行う。地上における連邦の支配権を大衆へアピールするためのプロパガンダだからね。……そして、その展示会がすべて終わった後に、いよいよ本当の『競技会(本戦)』が開始されることになっている」

 

「なるほどねぇ……。広報用の展示会で大衆とメディアを沸かせて、その熱気が最高潮のままで本戦をするてことですか。いかにも、お偉いさんが考えそうな筋書きですね。」

 

ジョシュアが肩をすくめ、軍の政治的な演出に皮肉を交えながらも、その口元は不敵に吊り上がっていた。

 

「なあ、隊長。その2週間後に向かう『ラサ基地』って、今どれくらい出来上がってるんだ? デリーの指揮系統を引き継ぐってことは、それなりにデカいんだろ?」

 

ノアが興味津々といった様子で、隊長であるソウヤに尋ねた。

 

「ああ、現在の完成度は約80パーセントといったところらしい。だが、未完成の20パーセントは主に地上の偽装工作や、居住区画の内装工事、防空システムの最終調整だ。要塞としては、すでに完全に機能しているよ。」

 

ソウヤはラサ基地の規模を説明し始めた。

 

「ラサにある世界遺産のポタラ宮の山そのものを丸ごとくり抜いた大深度地下要塞だ。まず、山の中腹や麓にある岩盤を模した隠しハッチが左右に開くと、ミデア輸送機や、あのペガサス級強襲揚陸艦すらもそのまま着陸できる専用の超大型沈下リフトが備わっている。艦船が着陸すれば、リフトがそのまま地下へと降り、巨大な地下格納庫へ収容する仕組みだ。」

 

「ペガサス級を山の中にそのまま沈めるって、どんなリフトなんですか……」

 

ジョシュアが呆気にとられたように声を漏らす。

 

「さらにその下には、モビルスーツが20機から30機は余裕で格納できる最新鋭の地下ハンガーが広がっている。……完成すれば、地球連邦軍の『未来の総司令部』になる要塞だよ。」

 

ソウヤの口から語られた、あまりにも規格外な次世代要塞の規模。

その圧倒的な情報に、ノアとジョシュア、そしてサンダースの3人は、驚きと共に連邦軍アジア方面軍がこのラサへ懸けている執念の凄まじさを、肌で感じ取っていた。

 

「2週間後、我々はそのラサ基地に向かうわけだ。……ノア、ジョシュア、サンダース軍曹。競技会に向けて、今日からシミュレーターのメニューをトリントン仕様に切り替える。気合いを入れていくぞ!」

 

『『『了解!!』』』

 

3人の力強い返声がシミュレータ室に響き渡る。

 

宇宙世紀0082年。デリー基地での傷痕を胸に刻み、東南アジア方面軍の威信を背負ったソウヤたち第4小隊は、世界中の精鋭部隊が集うオーストラリア・トリントン基地での競技会を絶対の目標に掲げ、最高峰の頂きを目指すことになった。




最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
さて、宇宙世紀0082年はソウヤ達はオーストラリア大陸のトリントン基地で開催されるモビルスーツの競技会に出ることになりました!
地球連邦軍のエースパイロット達が集まり、自分達の腕前を競うことになります!
一年戦争時代の懐かしい人物などが登場するので、お楽しみに!
感想など、気軽にしてくださいねー!

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息抜き二次創作▼ガンダム世界でオリキャラを主戦場でうろちょろさせたいと思い書きました。▼息抜きなのでエタっても泣かない▼注 作者ガンダム作品詳しくないので調べながらやってますが、皆さんのコメントで教えてもらうことも多いのでガチでコメント頼りにしてます!▼ガノタや有識者!情報求む!▼艦船や地上兵器はガンガン他のSF作品や既存兵器を参考にしますので、こんなのあっ…


総合評価:6091/評価:7.93/連載:38話/更新日時:2026年02月02日(月) 22:34 小説情報

偽書・ガンダム機動戦記(作者:雑草弁士)(原作:ガンダム)

宇宙世紀0079、サイド7ノアの1バンチコロニーグリーンノア在住のアルバイター、エグザベ・オリベは難民である。故郷であるサイド5ルウムを地球連邦とジオンの戦争で破壊しつくされた彼は、どうにかサイド7に流れ着き、ジャンク屋で働きつつ生活を立て直そうとしていた。しかし0079の9月18日、ジオン軍の英雄シャア・アズナブル少佐率いる特殊部隊がサイド7を急襲。エグザ…


総合評価:1810/評価:8.67/連載:54話/更新日時:2026年03月11日(水) 05:39 小説情報


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