トリントン基地演習場
「ボリス! なんとか突撃しろ! このままでは膠着するぞ!」
チェン・ウェイ大尉の焦燥の混じった声が、通信回線を破ってボリスのコックピットに飛び込んできた。
「無理だ! この弾幕じゃ下手に出たら即撃破判定を食らう! 俺のガンダムの装甲はチタン合金だぞ! そんなに丈夫じゃないんだよ!」
ボリス・ソコロフ中尉は、もはや怒鳴るように苛立った声を上げた。
中身がジムである以上、実質的な防御力は量産機と同等でしかない。
「それでも突っ込め! ア・バオア・クー帰りがその程度か!?」
チェン大尉が怒鳴り返した、まさにその瞬間だった。
前方で激しい面圧砲撃を維持していたジョシュア・ウィルソン軍曹のジム・キャノンが、左胸のスモークディスチャージャーを撃ち放った。
シュンッ! シュンシュンッ!
複数の煙幕弾が放物線を描いて飛翔し、ボリスたちが身を隠しているコロニーの残骸群へと着弾。
たちまち白い濃密な煙幕が周囲一帯へと急速に展開され、彼らの視界を完全に遮断した。
「煙幕だと!?」
「くそっ、視界が……!」
ボリスと僚機のジム改が慌てて反応し、チェン大尉が自部隊のホバートラックに向かって怒声を飛ばした。
「オペレーター! 状況分析はどうした! すぐに敵の位置を特定しろ!」
しかし、ユーラシア側のホバートラックのオペレーターは、至近で炸裂し続ける砲撃の振動に、緊張した声で応答するのが精一杯だった。
「砲撃の音でノイズが混じって……音響探知(ソナー)が機能しませんっ!」
その瞬間、オペレーターの悲鳴に近い声がわずかに変わった。
「……スラスターの噴射音を確認! これは――ボリス中尉のガンダムに向かっています! 超至近距離、接近中です!」
「なっ……!?」
ボリスは本能的な恐怖に突き動かされ、咄嗟に音源の方向へ機体を旋回させた。
激しい土煙と白い煙幕の合間から、突如として深緑の凶悪な影が、異様なまでの高速で迫ってくる。
『スライフレイル』――ソウヤ・タカバ中尉の機体だった。
機体は、小回りによる手数と圧倒的な肉薄速度を重視した「ツイン・ビーム・ジャベリンモード」を選択していた。
両手にそれぞれ携えた短槍の先端から、死を暗示する五叉のビームの穂先が冷徹に輝き、白い煙幕を両断するように猛然と突進してくる。
「舐めるなァ! 地上の腰抜けがぁ!!」
ボリスは悲鳴を誤魔化すように叫ぶと、咄嗟に右手に持った陸戦型ガンダム用のビーム・ライフルを、眼前にまで迫ったスライフレイルの胸元へと無理やり向けようとした。
その瞬間――
スライフレイルの頭部バルカンが短く、鋭く火を噴いた。
パパパッ!
放たれた至近距離からのペイント弾が、ボリスのビーム・ライフルへ正確に着弾する。
ボリスのコックピット内のシステムが、即座に耳障りな電子警告音を鳴り響かせた。
【右腕兵装 ビームライフル 破壊判定 使用不能】
「ちっ……!」
ボリスが忌々しげに舌打ちをした直後、スライフレイルが両手に構えたビーム・ジャベリンを容赦なく突き出した。
ツイン・ビーム・ジャベリンモード。
低出力の感知ビーム刃を展開した2本の槍が、白い煙幕を切り裂きながら猛烈な勢いで迫る。
ボリスは慌てて左腕の連邦軍標準シールドを構え、それを真正面から受け止めた。
ガァァンッ!!
金属同士が激突する重い衝撃音が演習場に響き、2機の巨体が激しくぶつかり合った。
「ぐっ……!」
ボリスの『ガンダム』が、衝撃で一方的に後方へと押されていく。
スライフレイルの生み出す強烈な推力と、密林戦仕様へとコンパクトに纏められた抜群の機体バランスが、チタン合金の偽物の『ガンダム』を完全に圧倒していた。
ボリスはシートに叩きつけられながらも、スラスター出力を最大まで上げて強引な抵抗を試みる。
瞬間的に押し返すことには成功したが、それでも全体としての主導権は奪われ、後退を強いられる。
(な、んだ……この推力は……!?)
底知れない恐怖に近い動協が、ボリスの胸を過った。
スライフレイルは一歩も引くことなく容赦のない前進を続け、ボリスの『ガンダム』を力づくで押し込みながら、後方に控えるチェン大尉の量産型ガンキャノンとジム改がいる位置から、強引にその身を引き離していった。
「ボリス! 離されるな!」
チェン大尉の焦った声がノイズ混じりに通信に響くが、すでに2機の距離は致命的なまでに開きつつあった。
ボリスは押し込まれながらも、役に立たなくなった右手のビーム・ライフルを躊躇なく投げ捨てた。
即座に右手をバックパックへと伸ばし、マウントされたビーム・サーベルを引き抜く。
ズーンッ!
ビーム刃が激しく展開され、赤く輝く刀身が白い煙幕の中で不気味に光を放った。
「この野郎……!」
ボリスは逆上のままに怒声を上げ、スライフレイルの胴体目がけてビーム・サーベルを狂暴に突き刺そうとした。
しかし、その刹那――
スライフレイルの背部スラスターが一瞬だけカットされ、慣性を利用して機体が横へ滑るように素早く水平移動した。突きは虚しく空を切り、深緑の機体が紙一重の境地でそれを完璧に回避する。
「逃がすか!」
ボリスはビーム・サーベルを強引に構え直し、すぐさま追撃の構えを取った。
だが、すでにボリスの『ガンダム』はチェン大尉の量産型ガンキャノンとジム改の支援網から完全に引き離され、煙幕の奥で孤立していた。
その戦術的な致命傷に気づくこともなく、ボリスは目の前の敵への苛立ちを露わに叫ぶ。
「てめえ……! その薄汚い緑の機体で、俺のガンダムに勝てると思ってるのかよ! 所詮は敵を殺せない、腰抜け野郎がぁ!」
怒りに任せてビーム・サーベルを大きく振りかぶり、ソウヤのスライフレイルに向かってがむしゃらに斬りかかった。
対するスライフレイルは、両手に構えた2本のビーム・ジャベリンを驚異的な無駄のなさで操り、正面からそれを冷徹に迎え撃った。
ガァンッ! ガガガッ!!
2本のビーム・ジャベリンと、1本のビーム・サーベルが激しく激突し、交差する赤い光が白い煙幕の中で狂ったように火花を散らした。
スライフレイルの挙動には、一切の迷いも淀みもない。
ソウヤの高い操縦技術が、深緑の鉄の巨体を通じて見事に開花していた。
ボリスの荒々しい力任せの猛攻を、ツイン・ビーム・ジャベリンの変幻自在のいなしで軽々と受け流し、鋭いカウンターの機会を虎視眈々と狙う。
その激闘を遠目に見ながら、チェン・ウェイ大尉とジム改の2機は、前衛のボリスが一瞬で引き離されたことに焦りを隠せなかった。
いつもなら、ボリスの『ガンダム』の姿がジオン残党を心理的に撹乱し、その隙に自分たちが後方から安全に重火力を叩き込むのが彼らの不敗のセオリーだった。
しかし今、肝心のボリスの姿は煙幕と爆煙の向こうに消え、自分たちの目の前には、未だ正確な長距離面圧砲撃の手を緩めない、陸戦型ガンダムとジム・キャノンの凶悪な弾幕が立ち塞がっていた。
「くそ! ボリスが引き離された! ジム改、私の前に出て守れ!」
チェン大尉が悲鳴に近い叫び声を上げた、まさにその瞬間だった。
【ジム改 撃破判定】
「なっ……!?」
非情な電子アナウンスが響き、チェン大尉が慌ててモニターをその方向へと向けた。
そこには、赤白く輝くビーム・サーベルの光刃が、白い煙幕の中に鮮烈な残像を引いて消えゆく瞬間が映し出されていた。
土煙の向こうから現れたのは、テリー・サンダースJr.軍曹の『陸戦型ガンダム』だった。
ジム・キャノンとの猛烈な連携の裏で、いつの間にか至近距離への圧力を完了させていたのだ。
「ちっ……!」
チェン大尉は恐慌を誤魔化すように、即座に量産型ガンキャノンの両肩のキャノン砲、頭部バルカン、そして手にした100mmマシンガンを一斉に乱射した。
凄まじい密度の弾幕が荒野を掃射する。
しかし、サンダースはそれを見越していたかのように、素早くコロニーの巨大な残骸群へと身を隠した。
ほとんどの弾丸が無機質な鉄骨やコンクリートの残骸へと虚しく着弾していく。
ドドドンッ! ガガガッ!
演習用のペイント弾が残骸に激突しては、派手な赤の塗料を周囲に飛び散らせる。
被弾判定センサーが無意味な電子音を鳴らす中、チェン大尉は重火力支援機の絶対的な弱点である「間合い」を取るため、必死に後退を試みた。
その時――ドンッ!!
鉄の足元から、脳髄を揺るがすような強烈な衝撃が走った。
【左脚部 破損判定 機能ロック】
量産型ガンキャノンの左脚が一瞬で駆動油圧を失い、完全に沈黙する。
支えを失った70トン近い巨体は、激しくバランスを崩して地面へと無様に尻餅をついた。
「うわっ……!?」
それは、後方で息を潜めるエミリアの寸分の狂いもないソナー分析に基づく、ジョシュアのジム・キャノンによる超精密狙撃だった。
チェン大尉が隠れていた残骸の僅かな隙間、その死角を完璧に計算し尽くしたタイミングで放たれた、文字通りの必殺の一撃。
完全に視界を奪われ、頼みの綱の索敵網さえ封じられたチェン大尉は、完全なパニックへと陥った。
「うわっ……!? 動け、動けよ……! なんで反応しない!」
左脚の全機能をロックされた量産型ガンキャノンは、泥塗れの地面に尻餅をついたまま、必死に上半身を捩って逃げようとするが、駆動系のバランスを著しく欠いた体勢ではまともに立ち上がることすらできず、ガクンと派手な音を立てて再び前のめりに倒れ込んだ。
「くそっ! こんな……こんなところで、この私が……!」
チェン大尉はコックピット内で不快な脂汗を大量に浮かべ、警告灯が赤く明滅するコンソールの前で操縦桿をガチャガチャと無意味に動かしながら叫んでいた。
その時、激しい砂塵の向こうから、重厚な鉄の足音が近づいてきた。
ゆっくりと、しかし一切の慈悲もなく近づいてくる、陸戦型ガンダム。
手にしたビーム・サーベルを高く振り上げ、無残に倒れ伏した量産型ガンキャノンを冷徹に見下ろしていた。
チェン大尉はエリートとしてのプライドを完全にへし折られ、情けない醜態を晒しながら、残された右脚と両腕で必死に砂を引っ掻き、機体を這わせて後退しようとした。
左脚が完全に死んでいるため、ガンキャノンは地面を無様に這いずる格好となり、赤い砂塵を派手に巻き上げながら、まるで負け犬のように逃げ惑う惨めな姿をトリントン基地全域のモニターへと晒し続ける。
「やめろ……! 来るな……! 近づくなッ!」
しかし、戦場においてその必死の懇願が届くはずもなかった。
ズシャアーッ!!
陸戦型ガンダムの振り下ろされたビーム・サーベルが、容赦なく量産型ガンキャノンの胴体を一刀両断に斬りつけた。
【量産型ガンキャノン 撃破判定】
コックピットのシステムが冷徹な電子音声で宣告し、チェンの機体はすべての機能がシャットダウンされ、完全にロックされた。
「馬鹿な……この私が、こんな東南アジアの寄せ集め達に……。」
チェン大尉は全ての計器が消灯した暗黒のコックピットの中で、屈辱と驚愕に唇を細かく震わせ、呆然と前を見つめることしかできなかった。
ボリスは自部隊の戦況コンソールを前に、コックピット内で血走った目を見開いた。
【ジム改 撃破判定】
【量産型ガンキャノン 撃破判定】
僚機2機が瞬く間に機能停止したというシステムメッセージの無機質な文字列に、ボリスは愕然とする。
「馬鹿な……!?あいつら、何やってやがるんだ……!前衛の俺を孤立させて、勝手にやられやがって……!役立たずのクズどもが!」
ボリスは恐怖を塗りつぶすように怒りに任せて叫びながら、せめて目の前のスライフレイルだけでも道連れにしてやろうと決意した。
操縦桿が激しく軋むほどの力で握りしめ、牙を剥くようにして泥塗れの『ガンダム』を再び前進させる。
一方、スライフレイルのコックピット内。ソウヤは相手の不気味なほどの挙動から、ボリスが本気で刺し違える覚悟で仕掛けてくることを瞬時に察知した。
「……ここからか。」
ソウヤはレバーを弾き、素早くシステム面を操作した。メインスクリーンに、赤い警告表示とともに英語の起動シークエンスが鮮烈に表示される。
【MAX MODE - ACTIVATION SEQUENCE】
CORE OUTPUT LIMITER...... RELEASEPOWER DISTRIBUTION...... OPTIMIZEDSTRUCTURAL STRESS MONITOR...... ACTIVEMAXIMUM OPERATION TIME: 05:00CAUTION: SYSTEM INSTABILITY EXPECTED
ソウヤは静かに、しかし決然と呟いた。
「マックスモード、起動…。」
【MAX MODE - ENGAGED】
瞬間、スライフレイルの深緑の全身が、獣が低く唸るような独特の重低音の振動に包まれた。ジェネレーターの出力リミッターが強制解除され、機体のポテンシャルが限界を超えて跳ね上がる。
そこへ、ボリスの歪像の『ガンダム』が、燃え盛る怒りに任せて斬り掛かってきた。
ビーム・サーベルの赤い刀身が、真昼の灼熱の大気を切り裂きながら激しい弧を描く。
対するソウヤのスライフレイルは、最大出力に達した両手のビーム・ジャベリンを素早く、流れるような動作で振るった。
赤白く輝く2本のビーム刃が、ボリスのサーベルと正面から激しく交錯する。
ガァァンッ!!
互いのミノフスキー粒子が限界まで干渉し合い、空間に強烈な光の火花を激しく散らす。
刃と刃が真っ向からぶつかり合う重い衝撃が、両機の鉄のフレームを激しく震わせた。
しかし――。
「ぐっ……!?」
ボリスの『ガンダム』が、あまりの衝撃に容易く後方へと弾き飛ばされた。
(な、んだ……このパワーは……!?)
ボリスは強烈な困惑と戦慄に襲われた。同じ陸戦型ガンダムの駆動系を流用しているはずなのに、トルクの太さで完全に負けている。
スライフレイルが叩き出す瞬間的な実効出力が、明らかに自分の乗る機体を遥かに上回っていた。
「ふざけるな……!密林に隠れるだけの機体にィ!!」
ボリスは歯を食いしばり、左腕のシールドと右手のビーム・サーベルで必死に応戦しようとした。しかし、マックスモードによってリミッターを外されたソウヤの、怒濤のような2本の槍の連撃には一寸の容赦もなかった。
ガンッ! ガガガッ!! ドンッ!
2本のジャベリンが、左右から、そして死角から交互に変幻自在の軌道で襲いかかり、ボリスの必死の防御を何度も強引に弾き飛ばす。
衝撃が伝わるたびに、『ガンダム』の両腕の肘関節と肩の駆動シーリングが過負荷による悲鳴を上げ、高圧の黒いオイルが霧状になって辺りへ飛び散った。
「うおおおっ!」
ボリスは足元のスラスターを全開にして踏みとどまろうとするが、スライフレイルの圧倒的なパワーと、ソウヤの寸分の狂いもない的確な間合いの取り方の前に、防戦一方のまま徐々に、確実に後退を強いられていく。
ボリスは生きた心地のしない脂汗を流しながら、必死に操縦桿を動かし、スライフレイルの放つ2本の槍をシールドとサーベルで必死に捌こうと藻掻いていた。
(くそ……! なぜだ……!)
防戦一方のまま押し込まれる極限の状況下、ボリスの脳裏に、一年戦争末期のア・バオア・クーの凄惨な記憶が鮮烈に蘇っていた。
火線で埋め尽くされた決戦場にて、ボリスの駆るジムは、ジオン軍の両腕を飛ばす足の無い機体と交戦。
一瞬で戦闘不能に追い込まれ、圧倒的な死の恐怖に晒された。
だが、まさに命の灯火が消えかけようとしたその時――アムロ・レイの駆る白いガンダムが現れ、己を救ってくれたのだ。
あの死線の淵で仰ぎ見たガンダムの神々しい姿は、ボリスの心に絶対的な力、絶対的な象徴として歪んだ形で深く刻み込まれた。
戦後、地球のシャンシー独立重機化小隊に配属された後もその妄執は収まらず、高い操縦技術を活かして前線で成果を上げる傍ら、廃棄処分予定だった陸戦型ガンダムの駆動系パーツを強引にかき集めた。
さらに偶然手に入れたガンダムの予備頭部パーツまでをも無理やり取り付け、ようやく完成させたのが、この「自分だけのガンダム」だった。
ガンダムさえあれば、自分は最強で、そして絶対的に安全なはずだった。
なのに、今――。
目の前にいる、あの薄汚い量産されたガンダムに、自分が力づくで一方的に押されているという冷酷な現実が、彼のプライドとしてはどうしても受け入れられなかった。
「ふざけるなァァァ!! 俺のガンダムが、こんな腰抜けの緑の機体に負けるはずがないんだよォォ!!」
ボリスは狂気と恐怖を攪拌したように吠え、残された右腕のビーム・サーベルを強引に振り上げ、スライフレイルに向かってがむしゃらに斬り掛かろうとした。
しかし――その瞬間。
ガキィィィッ!!
スライフレイルのジャベリンを受け止めた瞬間、ボリスの『ガンダム』の右腕が、耳を聾するような金属の悲鳴を上げて根本から引きちぎれた。
「え……?」
ボリスはコックピットの中で呆然と目を見開いた。
千切れた右腕が、赤い大地へと無様に転がり落ち、激しい砂塵を巻き上げる。
肩関節の切断面が無残に露出し、高圧の黒いオイルと激しい火花が間欠泉のように噴き出した。
それはソウヤの攻撃による切断ではなかった。
中身はただのジムのチタン合金フレームだというのに、そこに陸戦型ガンダムの高出力なアクチュエーターを移植し、さらにマックスモードを発動したスライフレイルの圧倒的なパワーを受け止め続けたのだ。
フレームがその凄まじい負荷の相乗効果に耐えきれず、自壊するように千切れ飛んだのが原因だった。
右腕が千切れ、黒いオイルを撒き散らして赤い大地に落ちた瞬間、ソウヤはコックピット内で静かに息を吐いた。
「……終わらせる。」
ソウヤがレバーを弾くと、スライフレイルの両手に構えられた2本のビーム・ジャベリンが、電磁ロックの火花を散らして素早く直線上に連結された。
小回り重視のツインモードから、「ダブル・ビーム・ジャベリンモード」への瞬時換装。
2本の槍を連結させ、長大な1振りの双頭槍とした瞬間、両端の先端から五叉のビーム刃が一斉に展開した。
五叉の穂先が赤白く空間を焼きながら輝く、異様なまでの威圧感を放つ長槍。
ソウヤは背部の4基のスラスターを全開にし、長槍に猛烈な高速回転を加えながら、爆発的な瞬発力で突進した。
「これで……決める!」
ダブル・ビーム・ジャベリンが赤い大地を震わせる駆動音を響かせ、高速回転しながらボリスの『ガンダム』へと襲いかかった。
ガガガガガッ!!!
五叉のビーム刃が回転するたびに、ボリスの残された左腕のシールドを容易く叩き弾き、胴体装甲へとビーム刃が激しく接触。
肩の駆動系が過負荷で次々と火を噴く。
回転する長槍は、マックスモードのパワーに裏打ちされた圧倒的な手数と破壊力を兼ね備え、ボリスの必死の防御陣形を完膚なきまでに木っ端微塵に粉砕した。
「うわああああっ!?」
閃光に包まれるコックピットの中で、ボリスは絶叫した。
【左腕部 破損判定】
【胴体部 大破判定】
【頭部 破壊判定】
コントロールコンソールが次々と冷たい警告灯を連発し、最後の一撃が『ガンダム』の胸部中央へと容赦なく叩き込まれる。
【ガンダム 撃破判定】
ボリスの機体が電流のショートによって激しく痙攣し、全システムが強制ロックされた。
次の瞬間、スライフレイルは長槍のビーム刃を静かに消し、機体をゆっくりと後退させた。
連結を解除し、再び元のツイン・ビーム・ジャベリンモードに戻った2本の槍を、無駄のない所作で優雅に構え直す。
灼熱の陽炎が揺らめく赤い大地に、すべての機能を停止したボリスの『ガンダム』が無様に膝をつき、そのまま前のめりに倒れ込んで動かなくなった。
そのコックピットの計器がすべて消灯した暗黒の中で、ボリスは己の妄執のシンボルが無残に這いつくばる現実を前に、ただ絶望に震えるしかなかった。
サウス・バニング大尉は腕を組んだまま、モニターに映る倒れた『ガンダム』を冷静に見つめていた。
「第4小隊の圧勝だな。予想以上に鮮やかだった。まあ、俺に勝ったんだ。これくらいは当たり前だな。」
隣のラルフ・ザブカ中尉は、目を見開いて息を呑んだ。
「完全にボリスを翻弄してましたね……。あれは凄い。」
マロビ曹長は興奮のあまり席から少し腰を浮かせ、声を弾ませた。
「ええっ!?バニング大尉に勝ったって本当なんですか!?」
ウィリアム軍曹もサングラスを押し上げながら、驚きを隠せずに呟いた。
「俺たちも前の模擬戦でザクⅡ2機を倒した後、巻き返しを食らって負けたのに……あの隊長さん、ヤバくない?」
バニングは小さく肩をすくめた。
「ああ。前の模擬戦で煙幕を張られて視界を奪われた直後、奇襲を食らった。あのスライフレイルの接近戦は、本当に厄介だ。……正直、肝が冷えたよ。」
赤い三巨星の面々が一斉に驚きの声を上げた。
「マジで……!?」
「『オデッサの新星』、強敵すぎるだろ……」
ラルフは真剣な眼差しでモニターを睨み、拳を軽く握りしめた。
「確かに……ソウヤは強敵だな。我々も気を引き締めないとな。」
バニングはモニターを睨みながら続けた。
「スライフレイルとハリボテガンダムが最初に接敵した時、ボリスの機体がジムベースだから、バックパックに4基のスラスターを積んだスライフレイルに押し込まれたのはまだ納得できる。……だが、同じ陸戦型ガンダムの駆動系を使っているはずなのに、パワーで一方的に負けていた。あれは不可解だ。」
バニング自身も、前の模擬戦で味わった同じ不可解なパワーの記憶が蘇り、表情をわずかに険しくした。すると、ラルフが静かに、しかし確信を込めて言った。
「多分……あれはマックスモードですね。」
バニングが眉を上げてラルフを見た。
「マックスモード?」
ラルフは頷き、説明を始めた。
「陸戦型ガンダム系の機体は、元々がRX-78の規格落ちパーツで作られているから、個体ごとに性能のバラつきが大きい。それを均一化するためにリミッターをかけているんだが……そのリミッターを任意で解除するのがマックスモードだ。解除すると一時的に全性能が開放されるが、機体への負荷が非常に大きい。あの陸戦型ガンダムの改修機は、それを使ったんでしょう。」
マロビが目を輝かせた。
「へえ……そんな裏技みたいなのがあるんだ!」
バニングは興味深げに顎を撫でた。
「なるほど……それでパワー負けし、チタン合金なのにガンダムの駆動系を使っている、パチモンガンダムのフレームが耐えきれなくなったのか。」
ラルフは苦笑しながら肩をすくめた。
「俺にはそんな器用な真似が出来ないので、あまり使わないがな。……リミッターを外すのはリスクが高すぎるので。」
バニングは静かに頷いた。
「確かにリスキーな技だ。機体を壊す可能性もある。……あいつは、それを上手く制御できているようだな。」
ラルフは軽く息を吐き、席から立ち上がった。
「さて、次の次の模擬戦闘が我々になりますので、これで失礼します。バニング大尉、ありがとうございました。良い分析を聞かせてもらえました。」
バニングも軽く会釈を返した。
「こちらこそ。良い試合を期待しているぞ、赤い三巨星。」
マロビが元気よく手を振った。
「では、バニング大尉! 私達の試合、楽しみにしていて!」
ウィリアム軍曹もサングラスを直しながらニヤリと笑った。
「じゃあな。また後で。」
赤い三巨星の面々はバニングたちに別れの挨拶をし、観覧席を後にした。
彼らは自分たちの次の試合に備えるため、格納庫へと急いだ。Aグループ第一試合は、第4小隊の圧勝で幕を閉じた。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
Aグループ第1試合のソウヤVSボリスの戦闘が終了。
バニング大尉との模擬戦闘でパワー負けしたのは、マックスモードの伏線だったのです。
やっぱり、リミッター解除は漢の浪漫ですよね。
ボリスのパチモンガンダムが折れた理由は、ガンダリウム合金の耐久性が前提の駆動パーツなのに、チタン合金のフレームを使っているから、駆動系のパワーに耐えれなかったから千切れたんです。
ではでは、次の試合のBグループ第1試合も楽しみにしてくださいね。
【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?
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陸戦型ジム改
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バイアリーターク
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ペイルライダー・ヴァンガード
-
ペイルライダー・マスケッティア
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ヴァルキリー
-
グフ・ノクターン