Cグループ第一試合の開始が迫る中、南米代表「赤い三巨星」の3機は指定されたスタート位置でそれぞれの機体を駆動させていた。
コックピットを繋ぐ専用回線には、一般兵たちの歓声に負けないほどの、どこか落ち着かない緊張感が漂っている。
「……はぁー、緊張してきた。ジャブローの奴らが見てると思うと、胃のあたりがキリキリするねぇ。」
ジムRR(レッズ)のシートで、マロビ・ブレイドン曹長が珍しく深くため息を吐いた。
普段の豪胆な彼女にしては珍しい姿に、後方に控えるガンキャノンのウィリアム・マッチオ軍曹が、通信越しに苦笑を返す。
「仕方ありませんよ、俺たちは元々、ジャブロー直轄の部隊だったんだから。向こうの観覧席にいる本部のお偉方からすれば、“お仕置き”で飛ばされた問題児の集まりですから。」
「うぅ……それを言われると耳が痛いわ。ボルン工業のメカニック達と一緒になって、軍に無断で勝手に武器や装備を作ったことが。まさか一発でバレて左遷されるなんてさ……。」
マロビがガックリと肩を落とすように、ジムRRの操縦桿に突っ伏した。
自分でノリノリでアイデアを出して密造を進めた自覚があるからこそ、ジャブローの目が光るこの大舞台で今更ながらに後悔が押し寄せているのだ。
彼らが南米の最前線から辺境のグアイマス基地へと左遷された理由は、軍の規律から見れば一発アウトの重罪ばかりだった。
一年戦争末期、ジャブロー攻略戦に失敗して南米大陸を敗走していたジオン敗残兵たちをわざと見逃したのだ。
本部には「敵部隊を見失った」と大嘘の報告を行い。
さらに追い打ちをかけるように、民間企業であるボルン工業と手を組み、軍の許可を一切取らずに「アイアン・バンカー」や「ガトリング・リボルバズ」といった規格外の自作武器や現地改修を勝手に進めたことがバレてしまい、一発で中央から激おこで左遷されたのである。
本来なら監獄行きでもおかしくない大不祥事だったが、当時の上司が必死に上層部へとりなしてくれたおかげで、なんとか「グアイマス基地への左遷」という程度で首の皮一枚繋がったのが彼らの今の立場だった。
「済んだことを悔やんでも始まらないさ。当時の上司の顔をこれ以上泥で汚さないためにも、この競技会で俺たちの実力を見せる番だ。ウィリーのジムRRを紛失した件だって、なんとか誤魔化せて良かったんだからな」
「中央から睨まれているのは事実だが、こうして競技会に呼んでもらえたんだ。南米でやってきた俺たちの戦い方が間違っていなかったってことを、ここで堂々と見せてやればいいさ。」
「それはそうですけど……隊長、あたしは今でも冷や冷やしてるんですよ。」
マロビは声を少し潜め、腰のカラフルな予備マガジンに視線を落とした。
「ウィリーの分のジムRRが、“アジ・ダハーカ”に強奪された件……。よく本部への言い訳が通ったもんだよねぇ。」
そう、ウィリーが乗っていたもう1機のジムRRは、一年戦争末期に謎の組織に強奪されてしまっていた。
そのため、現在のウィリーの乗機はガンキャノンになっている。
軍の最新鋭の改修機を「紛失した」などと正直に報告すれば、左遷どころか軍法会議で極刑を言い渡されるところだった。
「あれは冷や汗が出ましたね……。」
ウィリーがしみじみと振り返る。
「『マロビ曹長の機体が大破したため、予備パーツの全アッセンブルとしてウィリー機を完全に解体・吸収させ、1機のジムRRとして修繕した』……あの強引な報告書を、よくジャブローの監査部が呑んでくれたもんです。」
「ああ、ボルン工業の連中が書類の偽造や辻褄合わせを完璧に手伝ってくれたからな。彼らには今でも頭が上がらんよ。」
ラルフがコックピットでくすくすと言い、バイザー・ユニットをゆっくりと起動させた。
「だが、誤魔化しが効いたのはここまでだ。これからは、このトリントンの大地で俺たちの実力を見せる番だ。相手は中東の「スコーピオン隊」。装甲強化型ジムが3機、リアクティブ・アーマーでガチガチに固めた強敵だぞ。」
「望むところよ! 実体弾が効きにくい反応装甲だろうが何だろうが、あたしのアイアン・バンカーで正面からブチ抜いてやるだけなんだから!」
マロビがようやくいつもの笑みを取り戻し、ジムRRの盾をガチリと構える。南米の赫い流星――「赤い三巨星」の、反撃の火蓋が切って落とされようとしていた。
演習場の中央にそびえ立つ巨大モニターのカウントダウンが、ついにその時を刻んだ。
3。
2。
1。
――0。
試合開始を告げる重々しいブザーの音が、トリントン基地の赤い大地にけたたましく鳴り響く。
同時に、「赤い三巨星」の3機は一斉にスラスターを吹かして飛び出した。
先頭を突っ走るのは、マロビ曹長の陸戦型ジムRR。そのすぐ後ろを、ラルフ中尉のガンダムRRが追従し、最後尾からウィリー軍曹のガンキャノンが2機の背中をがっちりとカバーする。
一糸乱れぬ、見事な縦一列の突撃陣形だった。
赤茶けた大地を疾走しながら、マロビはメインモニターの端に映る隊長機を見やり、通信する。
「それにしても隊長、ガンダムRRが元通りに直って本当に良かったよ。……ボルン社のみんなが協力してくれたお陰だね。」
一年戦争末期の激戦で大破し、一度はオミットされていたバイザー・ユニットやガトリング・リボルバズ。
それらが再び元通りに修復され、戦場に猛威を振るう姿を取り戻せたのは、民間企業であるボルン工業の技術者たちが寝る間も惜しんで力を尽くしてくれたからだった。
「ああ、本当に感謝しかないな。だからこそ、俺たちの戦いを見せて応えなくては――」
ラルフが穏やかに答えを返そうとした、その瞬間だった。
ピピピピピッ!
最後尾を追従していたウィリーのガンキャノンのコンソールから、けたたましいアラートが鳴り響いた。
右肩に大型レドームを背負う教導隊の機体ほどではないにせよ、支援機として強化されたガンキャノンの高性能センサーが、前方の砂塵の向こう側に異常を感知したのだ。
「――隊長、センサーに反応! 正面、高速でこちらに接近する物体を3つ捉えました!」
ウィリーの鋭い警告と同時に、ラルフはガンダムRRのバイザー・ユニットをカシャリと引き下げ、広域索敵モードへと切り替えた。
瞬時に拡大された光学データが、凄まじい勢いで赤土を滑るように接近してくる3つのサンドカラーの影を捉える。
「このスピード、ホバー走行によるものだな……。接近してくるのはスコーピオン隊の装甲強化型ジムだ、間違いない。」
ラルフが冷徹に敵機を断定すると、ウィリーが即座に操縦桿を握り直した。
「どうしますか、ラルフ隊長!? 相手はこちらに潜り込むつもりです!」
中東の砂漠で鍛え上げられた装甲強化型ジムは、実体弾を無効化するリアクティブ・アーマー(反応装甲)を纏っている。
正面から実体弾のマシンガンやバズーカで撃ち合えば、こちらが不利になるのは目に見えていた。
「ウィリー、お前のガンキャノンは火力の要だ。まずは遮蔽物が多いコロニーの残骸群まで移動して、有利な射線を確保してくれ。――マロビ、行くぞ!」
「あいよっ!」
「俺とマロビで正面から敵を牽制し、お前が残骸群に滑り込むまでの時間を稼ぐ。いいな!」
「了解しました、ラルフ隊長!」
ウィリーがガンキャノンの進路を右斜め前方のコロニー残骸群へと進路変更させるのと同時に、ラルフのガンダムRRとマロビのジムRRが、迫り来る3機の装甲強化型ジムを迎え撃つべく、さらに速度を上げて正面へと躍り出た。
砂塵を激しく巻き上げながら、スコーピオン隊の3機の装甲強化型ジムが演習場を滑走してくる。
その進路は、先ほどの試合でデザート・ドラゴン隊が逃げ込んだようなコロニー残骸群ではなく、あえて遮蔽物がほとんど存在しない、視界の開けたオープンエリアだった。
3機は障害物のない直線を最大限に利用し、新型補助推進器による驚異的なホバー速度を維持したまま、真っ直ぐこちらへと突っ込んでくる。
「……ねえ、妙じゃないかい?』
ジムRRの操縦桿を握るマロビが、不可解そうに声を上げた。
「中東の連中、なんでわざわざ遮蔽物の少ない、こっちから丸見えの場所を選んで走ってるの?」
普通であれば、長距離支援機であるガンキャノンを擁するこちらに対し、残骸に身を隠しながら接近するのが定石のはずだった。
だが、ガンダムRRのラルフ中尉は、敵の意図を瞬時に見抜いてフッと苦笑を漏らした。
「いや、賢い判断だよマロビ。奴らはさっきの試合を見ていたんだ。コロニーの残骸群に入り込めば、自慢のホバー走行の最大スピードが死ぬ上に、小回りの利くこちらの餌食になると判断したんだろう。広い平地なら、速度を落とさずに一撃離脱が狙えるからな。」
「あぁ、なるほどね! 前の試合の教訓をもう活かしてやがんのか、あいつら!」
マロビは納得すると同時に、不敵に笑って照準を合わせた。
「だけどさ、丸見えなら容赦なくブチ込むまでだよ!」
ジムRRが手にした100mmマシンガンが激しい火花を散らし、スコーピオン隊の先頭機へ向けてペイント弾の豪雨を注ぎ込む。同時に、ラルフのガンダムRRが専用の大型火器「ガトリング・リボルバズ」を正面へと構え、豪快に引き金を引いた。
ドパパパパパンッ!!
3連装の砲身が凄まじい速度で回転し、複数の連結榴弾が銃口から放たれる。
ラルフが選択したのは「散弾」だった。超高速でホバー移動する敵に対し、ピンポイントの狙撃ではなく、空間そのものを弾丸の網で埋め尽くす面制圧の牽制射撃。
赤い大地に無数の演習用ペイントが炸裂し、凄まじい塗料の嵐が広がる。
「――チッ、赤い奴らの珍妙な自作武器か! 散開しろ!」
スコーピオン隊の隊長機が鋭く叫ぶ。
3機の装甲強化型ジムは、ガトリング・リボルバズから放たれた散弾の網の目を掠めるようにして、自慢の高機動ホバーで左右へと鮮やかにスライド回避してみせた。
さすがに中東の最前線で鍛え上げられただけはある、神業に近い機体コントロールだった。
散弾の弾幕をギリギリで潜り抜けた3機は、滑走の勢いを全く殺さないまま、一斉にバルザック式380mmロケット・バズーカをこちらへと向けた。
「お返しだ! 喰らいな!」
ズドオォォンッ!!
重低音を響かせ、3門のバズーカから放たれた大口径ペイント弾が、ラルフとマロビの頭上へと一斉射される。
「うおっとぉ!?」
「マロビ、回避だ!」
迫り来る強烈な爆風と塗料の弾丸に対し、ラルフのガンダムRRはバックパックのメイン・スラスターを瞬間的に吹かして左へと跳躍。
マロビのジムRRも地面を転がるようにして右の死角へと機体を滑り込ませた。
2人がいた場所の地面がバズーカの直撃で激しく爆え返り、凄まじい砂煙が2人の視界を一時的に奪い去る。
なんとか直撃を回避したものの、スコーピオン隊の容赦のない「ホバー爆走からのカウンター一斉射」の威力は、南米を戦い抜いた二人をも震撼させるに十分なものだった。
特設観覧席では、サウス・バニング大尉、クリスチーナ・マッケンジー中尉、エイガー中尉の3人が、メインスクリーンに映し出される一進一退の攻防を食い入るように見つめ、静かに言葉を交わしていた。
「なるほど、中東の連中も考えてきているな。」
バニングが腕を組み、画面を走るサンドカラーの3機を指差した。
「前の試合を特等席で見ていたんだ。残骸群に飛び込めば、ホバーの速度を殺されて搦め手にハメられると分かっている。あえて障害物のない平地を選んで最高速度を維持する……局地戦仕様の機体特性を完璧に理解した、実に手堅い戦術だ。」
「はい。ですが、対する南米代表も驚くほど機転が利いていますね。」
クリスが驚きと感心の混じった声を上げる。
「ガンダムタイプが放った、あの回転シリンダー式の大型火器……ホバーで高速移動する相手に対して、ピンポイントではなく『散弾』による面制圧を選びました。どれだけ足が速くても、空間そのものを弾丸で埋め尽くされれば回避運動を強要されます。スコーピオン隊の足を一瞬でも止めるための、非常に合理的で実戦的な判断です。」
「……ただ、あの『散弾』の火器にしろ、あのジムが持っている巨大な打突兵器にしろ、連邦の正規の兵器開発プランには存在しない代物だな。」
エイガーが怪訝そうに眉をひそめ、技術者の目線でモニターを睨みつける。
「見たところ、陸戦型ガンダムやジムをベースに、実戦向きにカスタムした現地改修機のようだ。実体弾がメインのあの自作装備で、どうやってスコーピオン隊の反応装甲を突破するつもりなのか……。」
「フッ、実体弾じゃあの反応装甲は用意に破れん、それが教科書通りの戦術論だな。」
バニングが獰猛な笑みを浮かべ、画面の端で密かに移動を開始している1機の影を捉えた。
「だがエイガー中尉、あの小隊の陣形をよく見てみろ。前衛の2機がド派手に実体弾をバラ撒いて敵の目を引きつけている間に、最後尾のガンキャノンが完全にフリーで横の残骸群へ滑り込んでやがる。奴らの本命はおそらく、あれだ。」
その指摘に、エイガーとクリスがハッとしたように目を見張る。
南米の最前線で磨き上げられた「赤い三巨星」の、規律や教科書を無視した泥臭くも狡猾な連携。
その本当の狙いを、現場叩き上げのベテランたちは見落とさずに見抜いていた。
「あの南米の3人組、なかなかの曲者だぞ。」
バニングはモニターを見つめたまま、片方の口元を少し上げて不敵に笑った。
「競技会が始まる前、機体調整の模擬戦で俺たちテストパイロット隊と一度手合わせしたんだがな。結果から言えば俺の勝ちだったが、相当に筋が良かった。」
「バニング大尉とスパーリングを?」
エイガーが驚いたように視線を向けると、バニングは深く頷いた。
「ああ。あいつらは、このトリントンの土地勘があるアレンとカークスを実力で撃破してみせた。おまけに俺自身、この演習場の地形地物をそれこそフルに利用してようやく勝てたレベルだ。もし少しでも手を抜いていたら、俺の方が手痛い敗北を喫していただろうさ。」
「……あのバニング大尉をそこまで追い詰めるとは。ただの書類上の問題児ではないというわけですか。」
エイガーは感心したように息を吐き、改めて画面に映る赤い機体群を見つめ直した。
砂漠の赤い大地を熟知し、数々の修羅場を潜り抜け、生還してきた不死身の第4小隊隊長――サウス・バニングを真っ向からギリギリまで追い詰めるなど、並大抵の技量でできることではない。
中央の評価がどうあれ、彼らの実戦データは本物なのだ。その時、メインスクリーンの端で、砂煙を突っ切ったウィリーのガンキャノンが、コロニー残骸群の複雑に絡み合った鉄骨の影へと完全に滑り込むのが映し出された。
それを確認した瞬間、バニングの細められた瞳に鋭い戦士の光が宿る。
「さて……これで条件は五分五分だ。」
バニングは組んでいた腕を解き、低くはっきりとした声で言った。
「ガンキャノンが予定通りコロニー残骸群に入った。お膳立ては済んだぞ。――ここから試合が動く。」
トリントン基地 演習場
「――ラルフ隊長! 予定通り、コロニー残骸群のB3ポイントを確保しました。いつでもいけます!」
鉄骨の影に潜んだウィリーの声が、専用回線に力強く響いた。
「了解した! マロビ、後退するぞ!」
「待ってました!」
ラルフのガンダムRRが左胸のバルカン砲を、マロビのジムRRが頭部バルカンと100mmマシンガンをそれぞれ激しく連射。
激しい弾幕を正面へとバラ撒き、激しい硝煙と砂煙を巻き上げながら、2機は一斉にバックステップを踏んで後退を開始した。
「逃がすかよ! 一気に叩き潰せ!」
前衛の2機が引き始めたのを見て、スコーピオン隊の3機が補助推進器のホバーを限界まで吹かし、一斉に追撃に移ろうとした――その瞬間だった。
ズドォォンッ! ズバァァァンッ!!
ガンキャノンの240mm低反動キャノン砲と、高精度なビーム・ライフルの光条が交互に放たれたのだ。
正確無比な砲撃が、突撃しようとした3機の鼻先を完璧に捉える。
「――クッ、砲撃か! 回避しろ、散れっ!」
隊長機の鋭い指示により、3機の装甲強化型ジムは左右へと大きくステップを踏んで爆風を回避した。
土煙の向こうで待ち構えるガンキャノンの姿を睨みつけ、スコーピオン隊の隊長が忌々しげに歯噛みする。
「あのガンキャノンのビーム・ライフル……実に厄介だな!」
「隊長! 俺たちのリアクティブ・アーマーは実体弾には無敵ですが、あの高精度なビームの直撃を喰らえば一発で撃破判定になっちまいます!」
部下の悲鳴のような報告に、隊長は通信越しに鋭く咆哮した。
「分かっている! だが、ここで足を止めて、あの赤い陸戦型ガンダムとジムをのうのうと残骸群へ逃がすわけにはいかん! ――こうなったら、俺たちの“あの必殺技”を繰り出すしかないぞ!」
「「了解ッ!!」」
部下2人が力強く応じる。
瞬時に陣形を組み替えた3機の装甲強化型ジムは、ホバー走行の滑らかな機動性を活かし、縦一列の完璧な隊列を構築。
まるで、あのジオン公国軍の伝説の「黒い三連星」が繰り出したドムの波状攻撃を彷彿とさせる構えで、猛然とマロビたちへの追撃を再開した。迎撃を続けていたウィリーが、コックピットのスコープ越しにその光景を見て、思わず驚愕の声を上げる。
「な、何だあの動きは……!? 3機が完全に重なって、まるで1機のモビルスーツに見える……!?」
その言葉を専用回線で聞いたマロビの脳裏に、かつて一年戦争の記録映像で見た、あの超有名な必殺フォーメーションのデータがパッと閃いた。
(えっ、1機に見える!? 間違いない、あの動きはジオンの黒い三連星がやってた「ジェットストリームアタ――」)
マロビが心の中で、あるいは通信機に向けてその大技の名前を叫ぼうとした、まさにその刹那。
スコーピオン隊の隊長が、全軍向けのオープン回線で声を大にして叫び散らした。
「行くぞお前たち! 俺たちの必殺フォーメーション――!!」
「トライピオン・アタァーーック!!!」
ズコーーーッ!!!
「サソリだからって、そのまんまかいッ!!!」
予想の斜め上を行くあまりにベタで弱そうなネーミングに、マロビはジムRRのコックピットの中で、思わず盛大にズッコケのツッコミを入れてしまうのだった。
「マロビ! 突っ込んでる暇はないぞ、前を見ろ!」
コックピットの通信機に、ラルフ隊長の鋭い叱責が飛び込んできた。
その言葉と同時に、トライピオン・アタックの隊列を組んだ3機の装甲強化型ジムが、凄まじい土煙を上げながらマロビのジムRRへと一斉に襲いかかった。
狙いは完全に、前衛で一瞬足の止まったマロビへの集中攻撃。
縦一列の先頭、2番機、3番機がホバーの慣性を活かして次々とバルザック式バズーカとシールドによる打突を、時間差のない波状攻撃として叩き込んでくる。
「くっ、このサソリども、動きだけは一級品だねぇっ!」
マロビは必死に左腕のアイアン・バンカーを前面に掲げ、襲い来る3連続の猛攻を強引に受け止めた。
ガガガガガンッ!!!
激しい金属音と衝撃がジムRRのフレームを酷使する。
直撃こそ防いだものの、演習場の統括システムは非情なダメージ計算を弾き出していた。
コンソールに警告灯が真っ赤に明滅する。
『――警告。アイアン・バンカーの耐久値が規定枠を超過、強制パージします』
「ええっ、嘘でしょ!? あたしのバンカーがッ!」
マロビの焦りの声と共に、左腕の巨大なパイルドライバー付きシールドが、ボルトを弾けさせてトリントンの赤い大地へとドサリと崩れ落ちた。
近接特化機としての最大の矛と盾を、初手で失ってしまったのだ。
「仕留めた! 続いて本体を蜂の巣にしろ!」
スコーピオン隊の隊長が勝ち誇ったように叫び、一気にジムRRを撃破せんと追撃のトリガーを引こうとした――その瞬間。
空間そのものを圧殺するような、凄まじい大音響が轟いた。ウィリーのガンキャノンによる240mm低反動キャノン砲の連射。
そしてラルフのガンダムRRが構えるガトリング・リボルバズと、ランドセル左側の2連装ロケット・バズーカ砲が、同時に最大火力で火を噴いたのだ。
ズバババババババドオォォォンッ!!!
大地を引き裂くような実体ペイント弾の豪雨が、追撃しようとしていたスコーピオン隊の3機へと容赦なく降り注ぐ。
凄まじい爆風と衝撃波が装甲強化型ジムの巨体を激しく揺さぶった。
「ぐあぁっ!? なんだこの弾幕は……!」
「隊長! リアクティブ・アーマー作動! 弾を弾いてはいますが、これ以上はもたねえ!!」
着弾したペイント弾は、実体弾ゆえに装甲強化型ジムの上半身・下半身に施されたリアクティブ・アーマーが即座に作動し、システム上の撃破判定自体は免れていた。
しかし、一度作動して爆発した反応装甲は、二度目は使えない。
これ以上の追撃を続ければ、次の一撃で3機とも確実に消し飛ばされる。
「チッ……欲張りすぎたか! 距離を取れ! 陣形を立て直すんだ!」
スコーピオン隊の隊長は危険と判断し、ホバーを逆噴射させて猛烈な勢いでバックステップを展開。赤い三巨星の圧倒的な面火力の網から逃れるようにして、一時撤退を選択した。
「ふぅ……助かったよ隊長、ウィリー!」
マロビが命拾いした安堵の息を吐く。敵が距離を取ったそのわずかな隙を逃さず、ラルフのガンダムRRと、バンカーを失ったマロビのジムRRは、砂塵を突っ切ってウィリーの待つコロニー残骸群へと滑り込んだ。
暗い鉄骨と崩落した隔壁が複雑に絡み合う、影の世界。
スコーピオン隊の自慢のホバー走行を殺し、赤い三巨星の泥臭い戦術が真価を発揮する「本当の戦場」へ、ついに3機が揃って足を踏み入れた。
崩落した厚い装甲板の影に身を潜めた3機は、駆動音を最小限に抑えて周囲の様子を
コックピットの集音センサーが、入り組んだ鉄骨の向こう側から響く、重苦しい金属的な音を拾い上げる。
ズゥゥゥン……
砂を滑る特有の風切り音が微かに聞こえていたが、それも次第に小さくなっていった。
「……音が遠ざかっていきますね、」
ウィリーがコンソールに視線を落としたまま呟く。
「ああ。奴らは自分たちに不利な、このコロニー残骸内での戦闘を望んでいないんだろう。入ってはこないはずだ。」
ガンダムRRのラルフ中尉がバイザー越しに外のオープンエリアを睨み据え、静かに言った。敵のスコーピオン隊にしてみれば、この暗く狭い迷路は自慢のホバー走行による超高機動を完全に殺される地獄だ。
外で待ち構え、こちらが炙り出されてくるのを待つ構えなのだろう。
暗闇の静寂の中で、3人は現状の作戦会議を始めた。
だが、手元のコンソールが弾き出す残弾データと機体状況は、決して楽観視できるものではなかった。
「隊長、自分のキャノンとビーム・ライフルはまだ余裕がありますが、ガンダムRRのガトリング・リボルバズ……さっきの斉射で、散弾が完全に弾切れですよね?」
「そうだ。シリンダーに残っているのは通常榴弾だけだな。……マロビ、そっちはどうだ?」
「最悪だよ……。見ての通り、アイアン・バンカーは完全に使用不能だよ。」
マロビがジムRRの左腕を見つめ、大袈裟に天を仰いで嘆いてみせた。
「あーあ! 全部あの中東のサソリ野郎が変なツッコミ待ちの必殺技なんか叫ぶからだよ! あたしがズッコケなきゃ、バンカーだってパージされずに済んだかもしれないのにさ!」
「……マロビ曹長、それは八つ当たりが過ぎませんか?」
ウィリーが呆れ果てた声で通信を入れる。
「大体、相手の隊列を見て「ジェットストリームアタック」だなんて叫ぼうとしていたの、あなただけですよ。」
「何言ってるの!ウィリー! あんなベタで弱そうな『トライピオン・アタック』なんて名前よりさ、黒い三連星の『ジェットストリームアタック』の方が何倍も響きが格好いいじゃない! 圧倒的に強そうだし!」
「……どっちもジオンのオマージュなんですから、格好よさもへったくれもありませんよ……。」
ため息を吐くウィリー。
マロビの謎すぎる熱い持論に、コックピットの向こうで完全に呆れ顔になっているのが手に取るように分かった。
「2人とも、そこまでにしとけ。」
ラルフが苦笑しながら2人を窘め、戦況を冷静に整理した。
「散弾をなくなり、マロビの近接武装も使えない。機動性ではあっちが完全に上だ。このまま外に飛び出してまともにやり合えば、こちらの不利は動かないぞ。」
3人は沈黙した。
外に出ればホバーの速度に翻弄され、かといって残骸に籠もっていれば敵は入ってこない。膠着状態のまま、演習場の制限時間だけがじりじりと減っていく。
「……ラルフ隊長。このまま、ここで時間切れの引き分けに持ち込みますか?」
ウィリーが、軍人として最も合理的でリスクの低い選択肢を提案した。
競技会のルール上、ポイントを与えず引き分けに持ち込むのも立派な戦術だ。
だが、その言葉を聞いた瞬間、マロビがスピーカーの手前で、はっきりとした、強い口調で遮った。
「――冗談じゃないよ。そんなの、あたし達らしくない。」
マロビはジムRRの操縦桿をきゅっと握り締め、暗闇の向こうの仲間たちへと言葉を続けた。
「勝っても負けてもいいんだよ。あたしたちは軍の中央からはみ出して、南米の辺境にまで飛ばされたんでしょ? だったらさ、こんな大舞台の小綺麗なルールに収まって引き分け狙いなんて、まっぴら御免だね。……あたし達は、あたし達らしく戦って、ド派手に暴れてやろうじゃない!」
その潔く、どこまでも真っ直ぐな言葉に、ラルフとウィリーは一瞬呆気に取られた後、同時にふっと吹き出すように笑った。
「ははは、全くだな。……マロビらしい意見だ。」
「確かに、俺としたことが少し縮こまりすぎていましたね。やっぱり俺たちの小隊は、こうでないとね。」
マロビの言葉によって、コックピットを満たしていた重苦しい緊張感は完全に霧散した。
勝ち負けや形式、中央の評価など知ったことか。ボルン工業の仲間たちと作り上げたこの「赫い」機体で、自分たちの信じる戦い方を貫き通す。
「赤い三巨星」の3人の心がもう一度、1つに重なり合った。
「ねえ、ウィリー。ちょっと聞きたいんだけどさ。このトリントン基地って、あのコロニーが落ちてできたシドニー湾にめちゃくちゃ近いよね?」
「……え? ああ、そうだけど。」
唐突な地理の質問に、ウィリーは怪訝そうに眉をひそめて応じた。
「確かこの基地のすぐ南、二十キロそこらの場所がシドニー湾のはずだ。それがどうしたんだよ?」
「じゃあさ、もう一つ質問。一年戦争の最初に巨大なコロニーがドスンと落っこちた時さ、その凄まじい衝撃波と津波で、このあたりの土壌って……大量の塩分だの、コロニーの導電性金属の微粒子だのがたっぷり含まれちゃってたりしない?」
『含まれてないか、だって……?』
ウィリーは一瞬呆気にとられたが、マロビの言葉の意味を瞬時にトレースし、目を見開いた。
「……待てよ。衝撃で抉られた大地の塩分結晶化、それに微細化した絶縁・導電マテリアルの沈殿……。可能か不可能かで言えば、このトリントンの赤土には間違いなく、当時の塩分と金属粒子が高濃度で残留しているはずだ。……まさかマロビ、お前……!」
ウィリーがそこまで口にした瞬間、前方に立つラルフがハッとしたように身を乗り出し、瞳を鋭く輝かせた。
「――なるほど。マロビ、お前が考えているのは、あの南米での戦いの再現か。」
『にんまり』という音が聞こえてきそうなほどの、邪悪で不敵な笑みを浮かべたマロビの顔が、通信の向こうで容易に想像できた。
「そうだよ、ラルフ隊長! さすが話が早いねぇ!」
マロビはジムRRの操縦桿を不敵に叩き、勝ち誇ったように声を弾ませた。
「実体弾が効かないリアクティブ・アーマーだろうが何だろうが、このトリントンの大地そのものを味方に付けちまえば関係ないよ! あたしたちの赫い装備と、ウィリーのビーム……あの時のやり方なら、奴らのホバーの足元を完璧にすくってやれるじゃないのさ!」
マロビがジムRRのコックピットでパッと満面の笑みを浮かべ、勢いよく操縦桿を握り直す。勝ち目の薄かった戦況から一転、オーストラリアの大地を味方につけた独自の悪巧みが決まったことで、3機のコックピットにはいつもの陽気で不敵な空気が完全に戻っていた。
「ははは……全くだな。外で待ち構えているサソリどもには、最高のサプライズになる。」
「……本当に、マロビ曹長の発想には恐れ入ったよ。俺のビーム・ライフルの精密照射データリンク、これならフルに活かせます。――隊長、これなら確実にチャンスがありますよ!」
「よし、作戦開始だ。奴らの『トライピオン・アタック』とやらを、今度こそ俺たちの戦い方で粉砕してやろう!」
暗いコロニー残骸の影から、南米の赫い流星――「赤い三巨星」の3機が、まるで楽しいお祭りへと飛び出すかのような軽快さで、再び力強く動き出した。
中東代表「スコーピオン隊」の3機は、補助推進器をアイドリング状態で低く唸らせながら、赤い三巨星が潜むコロニー残骸群から一定の距離を保って静観していた。
「隊長、本当にこのままでいいんですか? あいつら、完全に残骸に引きこもっちまいましたよ。」
部下の1人が焦れたように通信を入れてくるが、スコーピオン隊の隊長はコンソールの大会進行表を冷静に見つめながら、フッと鼻で笑った。
「慌てるな。ここで下手に残骸へ突っ込んで、あのガンキャノンのビームや小回りの利くジムにハメられるリスクを取る必要はない。俺たちは中東予選を勝ち抜いてきたんだ。次の試合、北米代表の『ウィッチハント隊』から確実に勝ち星を上げれば、十分に決勝リーグに進出できる可能性は高い。ここは大人しく引き分けでポイントを確実に拾うのがプロの戦い方さ。」
「「了解ですっ!」」
隊長の合理的な計算を聞き、部下2人は深く納得して操縦桿から少し力を抜いた。
制限時間のタイマーは残り少なくなっている。このまま時間切れを待つだけ――そう全員が確信した、まさにその瞬間だった。
ズバァァァンッ!!
激しい砂煙を巻き上げて、暗いコロニー残骸の影から2つの赤い影が猛然と飛び出してきたのだ。先頭を突っ走るのはマロビのジムRR。すぐ後ろをラルフのガンダムRRがぴったりと追従し、一直線にこちらへと向かってくる。
「おいおい、痺れを切らして飛び出してきたか!」
スコーピオン隊の隊長は驚き呆れたように、全軍向けのオープン回線に声を乗せた。
「大人しく引き分けにしておけば、互いに最低限のポイントが入ったものを……! 連邦の中央からはみ出た問題児どもめ、最後まで諦めが悪いな!」
だが、飛び出してきた獲物をみすみす逃すほど、砂漠のサソリたちは甘くない。
「――野郎ども、迎撃だ! 向こうからカモが飛び出してきたんだ、決勝リーグ進出に色を付けるぞ!」
「「了解、トライピオン・アタック!!」」
部下2人の威勢の良い返声とともに、3機の装甲強化型ジムは再び爆発的なホバー加速を展開。
縦一列の完璧な高速波状フォーメーションを瞬時に構築すると、残骸から飛び出してきたばかりの無防備なラルフたちを今度こそ完全に圧殺すべく、猛烈な勢いで襲いかかった。
猛烈な勢いで肉薄してくるスコーピオン隊に対し、飛び出したラルフとマロビが凄まじい砲撃を開始した。マロビのジムRRが100mmマシンガンと頭部バルカンを掃射し、ラルフのガンダムRRが胸部バルカン、ガトリング・リボルバズの通常榴弾、そして2連装ロケット・バズーカ砲を一斉に解き放つ。
そのすべての射線が、スコーピオン隊の機体本体ではなく、意図的に彼らの進路である『足元の赤土』へと集中していた。
「――フン、足元を狙って俺たちの脚部のホバーユニットを破壊するつもりか! 浅いんだよ!」
先頭を走るスコーピオン隊の隊長は、激しく爆え返る赤土の砂煙を、ホバーの滑らかなスライド移動で完璧に回避しながらせせら笑った。
一糸乱れぬ完璧な縦一列のフォーメーションを維持したまま、3機は猛烈な速度で間合いを詰めていく。
遮蔽物のない平地において、機動性はこちらが圧倒的に上。
当たるわけがないと、彼らは完全に高を括っていた。
その瞬間、残骸群の奥から、待機していたウィリーのガンキャノンによる240mm低反動キャノン砲の咆哮が響き、続いてビーム・ライフルの眩い光条が放たれた。
「それも読めている!」
隊長機はそれすらも紙一重でホバー回避し、ついにラルフたちの目前へと到達する。
有効射程内、回避不能の至近距離。
サソリたちの誰もが、赤い機体群を蜂の巣にする勝利を確信した。
――まさに、その刹那だった。
ピーーーーッ!!!
スコーピオン隊の3機のコックピットに、鼓膜を突き刺すようなけたたましい異常警告アラートが鳴り響いた。
「な、なんだ!? ステータス画面……脚部推進ユニットに異常発生(エラー)!?」
「隊長! 俺の機体もです! スピードが出ねえ、出力が勝手に低下して――」
部下の悲鳴と同時に、前衛を走っていた2機の装甲強化型ジムの脚部ユニットから、パチパチと激しい電子火花とともに不気味な黒煙が噴き上がった。
最大速度を維持していたはずのホバーがガタガタと激しく揺れ、急速に減速していく。
スコーピオン隊の隊長には、何が起きたのか全く理解ができなかった。
直撃は一発も喰らっていないはずだった。
だが、それこそがマロビの仕掛けた罠――「あの時の戦いの再現」だった。
ラルフとマロビが執拗に足元を撃ち抜いて巻き上げた大量の赤土。
そこへウィリーがビームを精密照射したことで、土壌に高濃度で残留していた『シドニー湾由来の塩分』と『コロニーの導電性金属粒子』が熱で融解・活性化し、最悪の電磁・腐食スモークとなって大気中に飛散したのだ。
高速で突撃してきた装甲強化型ジムの脚部補助推進器は、自慢の大推力ゆえに、その高熱の塩分結晶と金属微粒子を脚部エアインテークから大量に吸い込んでしまった。
結果、超高負荷のかかっていた推進ジェネレーターが瞬時に漏電・ショートを起こし、自壊へと追い込まれたのである。
「よし! ウィリー、畳み掛けるぞ!」
「了解です、ラルフ隊長!」
スピードを失ってただの案山子と化した2機の装甲強化型ジムに対し、ガンダムRRとガンキャノンの容赦のない集中攻撃が浴びせられた。
ガトリング・リボルバズの榴弾とキャノン砲が正確に直撃し、反応装甲を作動させる間もなく、2機の巨体は文字通り全身ペイントまみれとなって、完全な『撃破』の判定を受けた。
「ば、馬鹿なっ……! 俺たちのトライピオン・アタックが……!」
最後尾にいたため、間一髪で前衛2機の残骸を回避し、パニックになりながら逃げようとしたスコーピオン隊の最後の1機。
だが、急激な回避運動のためにホバーの速度がガクリと落ちたその一瞬の隙を、赫い陸戦型ジムRRが見逃すはずはなかった。
「――逃がすわけないでしょ! サソリの尻尾を叩き折ってやるッ!」
マロビが吼える。
アイアン・バンカーを失ったジムRRが、両脚のホルダーから一対のビーム・サーベルを抜き放ち、眩い赤い刃を伸長させた。
地面を蹴って爆発的に跳躍したジムRRは、背中を向けて撤退しようとした装甲強化型ジムへと猛然と肉薄。
交差するようにして、その分厚い背装甲へとビーム・サーベルを十文字に激しく斬りつけた。
激しい閃光と熱線が装甲を薙ぎ払い、システムが非情な「撃破」を算出。
最後の1機のメインカメラの光が完全に消灯し、演習場に試合終了の大音量のブザーが鳴り響いた。
Cグループ第一試合、勝者――南米代表「赤い三巨星」。
巻き上がる赤い砂塵の向こう、ボロボロになりながらも堂々と立ち並ぶ3機の赤いモビルスーツたちの姿に、トリントン基地の観覧席からは、先ほどのスマートなシステム戦とはまた違う、実戦部隊の泥臭い大逆転劇に対する凄まじい大歓声が湧き上がるのだった。
試合終了のブザーが鳴り響き、観覧席が割れんばかりの歓声に包まれる中、特設席のクリスは呆然とした表情でメインスクリーンを見つめていた。
「……何が起きたのかしら。直撃はしていないはずなのに、スコーピオン隊の脚部がいきなり自壊するなんて……。」
テストパイロットとして機体構造に詳しいクリスだからこそ、光学データだけでは説明のつかない「ホバーユニットの同時多発エラー」という怪現象が理解できなかったのだ。
その当惑しきった横顔を見たバニングは、ふっと口元を緩め、腕を組み直して解説を始めた。
「理解できないのも無理はないさ。あれはモビルスーツの性能で勝ったんじゃない。南米の連中が、このトリントンの『大地』そのものを武器に変えたんだよ。」
「大地を……ですか?」
クリスが目を丸くする。隣のエイガーや後ろのアレン、カークスも身を乗り出した。
「ああ。ここはかつてブリティッシュ作戦でコロニーが激突した、シドニー湾のすぐ北だ。当時の凄まじい津波と衝撃波のせいで、このあたりの赤土には高濃度の塩分結晶と、微細化したコロニーの導電性金属粒子が大量に残留している。」
バニングは画面の向こうで白煙を上げる装甲強化型ジムの残骸を指差した。
「赤い三巨星はあえて足元を撃ちまくって、その特殊な赤土を大量に巻き上げた。そこへ、あのガンキャノンのビームを精密照射して、大気中の塩分と金属微粒子を融解・活性化させたんだ。そんな最悪の電磁スモークの中を、スコーピオン隊は最高速度のホバーで突っ込んじまった。大推力で空気を吸い込む脚部インテークから、漏電物質を直にたらふく食わされりゃ、一発でショートを起こすのは道理さ。」
「そんな……! 土地の歴史的特性を即興のトラップに利用したというのですか……!?」
エイガーが驚愕の声を上げ、技術者としての目線で戦慄した。
「そういうことだ。俺も地元だからトリントンの土壌のことは知っちゃいたが……実戦で、しかもあの土壇場で本当に実行する奴がいるとは思わなかった。咄嗟に思いついて連携できるような芸当じゃねえよ。あの3人組、やはりタダ者じゃねえな。」
クリスは深く息を吐いて、穏やかな微笑みを浮かべた。
「機体の性能に頼るのではなく、自分たちの知恵とチームワークで勝つ……。本当に、素敵な小隊ですね。」
バニングは席から立ち上がり、メインスクリーンの次の対戦カードの表示を見つめた。
「さて、これでCグループの第一試合が終わった。第4小隊の圧倒劇に、赤い三巨星の奇策……。調整相手(スパーリングパートナー)を務める身としては、予選はまだまだ面白くなりそうだな。」
その言葉に全員が強く頷き、熱気冷めやらぬトリントンの演習場に、次の戦いを告げるアナウンスが響き渡るのだった。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
今回の話は「赤い三巨星」をテーマにした話を書きました。
色々と原作ネタを詰め込んでみまたしたが、楽しんでもらえましたか?
相手チームの必殺技はとある最弱と謳われる、あの独楽をネタにしました(笑)
ではでは、次の話も楽しみにしてくださいね。
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