トリントン基地の広大な演習場は、予選グループ戦の怒濤の電撃決着によって、これ以上ないほどの爆発的な興奮に包まれていた。
大型メインスクリーンに映し出される、ここまでのダイジェスト映像が会場の熱気をさらに煽り立てる。
Aグループ第一試合では、ソウヤ・タカバ中尉の『スライフレイル』がマックスモードを起動。
ボリス中尉のガンダムを完璧にホールドし、コジマ大隊第4小隊が圧倒的な圧勝を飾った。
続くBグループ第一試合では、ボカタ少佐率いる『ルナツー教導隊』がその本領を発揮。
アフリカ代表『デザート・ドラゴン隊』の砂漠特化の戦術を、ガルバルディαを駆るミコト少尉らの狂いのない戦術統制で完膚なきまでに叩き潰した。
南米代表『赤い三巨星』が戦うCグループ第一試合では、ガンダムRR(リレイジ)とマロビ曹長のレッズが正面から突撃し、中東代表『スコーピオン隊』の装甲強化型ジムによる強固な盾の陣形を大地の力を借りた奇策で粉砕した。
実績、技術、そして執念。
前線の叩き上げたちが次々と見せつける本物の格の違いに、観客席のボルテージは早くも最高潮へと達していた。
「さあ、次がいよいよ予選第一ラウンドのトリだ。今回の競技会の中でも、一番注目度が高いカードになるな。」
特設観覧席の前列で腕を組んだまま、サウス・バニング大尉が渋い声を響かせた。
その視線は、メインスクリーンに表示された、Dグループ第一試合の組み合わせへと向けられている。
『ファントム・スイープ隊』対『SRT-ユニット1』。
新旧特殊部隊の激突だ。
「同感ですね、大尉。」
隣に座るエイガー中尉が、パリッとした制服の襟元を正しながら深く頷いた。
「ユーグ大尉の『ジーライン・ライトアーマー』は、ガンダム由来の設計を落とし込んだ機体だ。対するアラン中尉のユニット1も、一年戦争の激戦を生き抜いてきた凄腕ばかりだ。さっきまでの模擬戦とは、戦闘スピードの絶対値が違います。」
「ええ、本当にそうね。私もすごく楽しみにしているの。」
その横で、赤髪のロングヘアーを優雅に揺らしたクリスチーナ・マッケンジー中尉が、大きな瞳を輝かせながら嬉しそうに微笑んだ。
ジャブローのテストチームとして最新鋭のジム・カスタムを預かる彼女にとっても、この高機動機同士の三次元戦闘は興味が尽きないようだった。エイガー中尉はそんなクリスの横顔を見やり、ふと思い出したように声をかけた。
「そういえばマッケンジー中尉。確か、ユニット1のリル・ソマーズ少尉とは、仲が良かったんじゃなかったか?」
「ええ、その通りよ。」
クリスは懐かしそうに目を細め、おっとりとした上品な声で肯定した。
「彼女、元々はオーガスタ研究所の所属だったから、オーガスタ基地のドックやシミュレーター室で、よく一緒に過ごしていたの。少し気が強くてわがままなところもあるけれど、モビルスーツの操縦に関しては、当時から本当に天才的なセンスを持っていたわ。」
クリスが嬉しそうにリルの実力を保証する、まさにその時。
オーストラリアの青い空と赤い大地を震わせるように、Dグループの開戦「5分前」を告げるけたたましい予鈴のサイレンが演習場全域へと鳴り響く。
その頃、ファントム・スイープ隊のホバートラック内。
コンソールを睨みつけるマオ・リャン少佐は、メインモニターを分割し、出撃待機中のユーグたちの機体に最新の索敵データを転送しながら、鋭い声を通信回線へと乗せていた。
「ユーグ大尉、ロブ中尉、ハイメ中尉。索敵網を展開、データリンク開始。これより本隊の戦術統制を行う。」
マオの細い指先がキーボードの上を滑るように叩く。
「相手は一年戦争の時、地上戦線の各地を渡り歩き、あのレビル将軍の『懐刀』とまで恐れられた火消し部隊だ。いくら一年戦争時の機体を引っ提げているとはいえ、死線を潜ってきた数はそこらの前線部隊とは訳が違う。絶対に油断しないように。」
「了解した。……マオ少佐、敵のフォーメーションはどうなっている?」
ジーライン・ライトアーマーのコックピットから、ユーグ・クーロ大尉の冷静な声が戻る。マオはすぐに画面を拡大し、敵の3つの光点を指し示した。
「後方に量産型ガンキャノン。前衛にジム・スナイパーⅡ。そしてもう1機……オレンジと白の、ジム・ライトアーマーが前線に配置されているわ。」
「ジム・ライトアーマーか。紙装甲の高機動機だな。フッ、俺のツイン・ビーム・スピアの間合いに入れば、一撃でバラバラにしてやりますよ。」
大型ブースターをいつでも吹かせるようアイドリングさせているジム・ストライカーのシートで、ロブ・ハートレイ中尉が好戦的な笑みを浮かべる。
「油断は禁物だぜ。スナイパーⅡがこちらの死角を狙ってくるはずだ。アラン中尉の射撃の腕は、この競技会では最高クラスに分類されているからな。」
ジム・スナイパーカスタムの開閉式増加装甲バイザーをいつでも下げられるようロックを外し、R-4ビーム・ライフルを手元で構えるハイメ・カルモナ中尉が、冷静に釘を刺した。
「ええ、だからこそこちらの機体特性を活かした連携で、一網打尽にするわ。」
マオは不敵に口角を上げた。
「まずは開始直後に、ハイメ中尉が敵を先制狙撃して、射線を封じてちょうだい。そこへロブ中尉のストライカーがウェラブル・アーマーの突撃力で残りの前衛を叩き潰し、ユーグ大尉のジーラインがヘビー・ライフルとミサイルで全域を制圧するわ。」
「……フッ、いい戦術だ。マオ少佐、そのままナビゲートを頼む。」
ユーグ大尉の短い了承の声とともに、ジーラインのヘビー・ライフルがエネルギーCAPの電子音を静かに響かせ、待機状態を維持する。
「了解。各機、そのまま開始に備えるように。」
マオは3人に最終指示を出し終え、シートに背を預けて深く一息ついた。
――ピピピピピッ!
試合開始のファンファーレを静かに待つマオの耳元で、ホバートラックの通信機が唐突に警告音を鳴り響かせた。
マオが驚いてコンソールを見つめる中、スピーカーからノイズと共に響いてきたのは、おっとりとした、しかし背筋が凍るほど透き通った女性の声だった。
「――ファントム・スイープ隊のマオ・リャン少佐ですね? 初めまして。こちらユニット1のホバートラック、ホア・ブランシェット軍曹です。試合前に少しご挨拶を、と思いまして通信を試みました。」
突然の呼びかけに、マオ・リャン少佐は一瞬だけ目を鋭くしたが、すぐに大人の余裕を取り戻した冷静な手つきで通信の受話スイッチを入れた。
「ええ、私がファントム・スイープ隊のマオ・リャン少佐だ。初めまして、ホア軍曹。開戦直前のこのタイミングで、我が隊の通信回線に直接コンタクトを試みるなんて、随分と度胸があるようだ。一体何の用だ?」
スピーカーの向こうから、ホア・ブランシェット軍曹のおっとりとした、しかしどこか芯の強さを感じさせる柔らかな声音が戻ってくる。
「ふふ、驚かせてしまってすみません。実は、自分たちの隊長であるアラン中尉が、そちらの隊長であるユーグ大尉に、どうしても直接お礼を言いたいことがあるそうなんです。それで、こちらから通信を繋いでいただけないかと、お願いに上がりました。」
「お礼……? ユーグに?」
マオは思わず驚きに美眉をひそめた。
これから演習場で刃を交え、互いのプライドを懸けて撃ち合うはずの敵の隊長が、直前になって感謝の言葉を述べたいという。罠を疑うべきか、それとも――。
「……少し待ってくれ。本人に確認する。」
マオはホアとの回線を一時保留にすると、即座にユーグのジーライン・ライトアーマーへと秘匿通信を飛ばした。
「ユーグ、聞こえる? 敵のホバートラックから直接コンタクトがあったわ。ユニット1の隊長、アラン中尉が大尉に直接お礼を言いたいそうなんだが……どうする?」
「俺にお礼だと……?」
ジーラインのコックピット内、待機していたユーグ・クーロ大尉も、その想定外の申し出に鋭い瞳を僅かに見開いて驚きを露わにした。
だが、彼はすぐにフッと短く息を吐き、操縦桿から片手を離してコンソールの音声入力を切り替えた。
「分かった、マオ。回線を開いてくれ。戦う前に相手が何を言いたいのか、聞いておきたい。」
「了解、リンクするわ。」
マオがコンソールを鮮やかに叩き、ファントム・スイープ隊の戦術回線とユニット1の通信を相互に接続した。ザザッと短いノイズが走った後、ジーラインとジム・スナイパーⅡ、2機のコックピットが電子の糸で結ばれる。
「――初めてお目にかかります、ユーグ・クーロ大尉。僕はSRT-ユニット1の隊長、アラン・アイルワード中尉です。」
スピーカーから響いてきたのは、過酷な実戦を幾度も潜り抜けてきた指揮官の言葉でありながら、どこかまだ少年の面影を残した、少し幼さの残る物静かな声だった。
軍服に身を包んでいなければ誰もがまだ学生だと思うほどの童顔なアラン中尉だが、通信越しに込めた敬意だけは、何よりも真っ直ぐで純粋だった。
アランは一呼吸置くと、一生懸命に言葉を紡ぐように続けた。
「試合直前の慌ただしい時間に、こんな個人的な通信を受け入れてくれてありがとうございます。……大尉、どうしても貴方に直接、伝えておきたいことがあったんです。去年の『水天の涙作戦』のとき、ベルファスト基地を守り抜いてくださったこと……ユニット1を代表して、心からお礼を申し上げます。本当に、ありがとうございました。」
アランのその実直な言葉は、ジャブローの冷徹な書類に書かれたデータではない。前線で同じ痛みを分かち合ってきた「本物の軍人」としての、嘘偽りのない純粋な感謝の表明だった。
「……ベルファスト、か…。」
アランの幼さの残る実直な言葉を耳にした瞬間、ユーグ・クーロ大尉の脳裏にかつての激戦の光景が鮮烈に蘇っていた。
確かに『水天の涙作戦』の時、ジオン軍残党の水陸両用モビルスーツ部隊が物資を略奪すべく、ベルファスト基地の広大な工業地帯へと強襲上陸を仕掛けてきた。
それを自分たちファントム・スイープ隊が急行して水際で迎撃し、辛くも撃退した記録がある。ユーグはコックピットの中で小さく息を吐くと、いつもの冷静な声音のまま、気負う風でもなく静かに返した。
「思い出したが……気にする必要はない。あの時は部隊の命令に従い、自分たちの任務を果たしただけだ。お礼を言われるような大したことじゃないさ。」
「そんなことないですよ。」
アランは通信の向こうで首を振るように、はっきりとした口調で言った。
「大尉たちが戦ってくれたおかげで、僕たちの基地が失われずに済んだんです。みんなの故郷が守られて、本当に良かったと思っています。」
「……そうか。それなら、こちらも戦った甲斐があったというものだ。」
ユーグの言葉には、任務の枠を超えた確かな敬意が混ざっていた。
だが、同時にユーグにはずっと引っかかっていた疑問があった。
マオ少佐から受け取った事前データ、そして今アラン自身が口にした「僕たちの基地」という言葉。
ユーグはメインモニターの向こうにいる童顔の中尉に向けて、単刀直入に尋ねた。
「アラン中尉、一つ聞いてもいいか?……君たち『ユニット1』といえば、一年戦争時は地上戦線の各地を渡り歩き、「レビル将軍の懐刀」とまで恐れられた最精鋭の特殊部隊のはずだ。そんな君たちが、なぜ前線から外れたベルファスト基地の配属になっているんだ?」
そのあまりの不自然さに問いかけると、アラン中尉は少しだけ困ったように、通信越しに苦笑いを漏らした。
「ああ……やっぱり不思議に思いますよね。レビル将軍がア・バオア・クーの決戦前に、ジオンのソーラ・レイの光の中で戦死されてしまってから……僕たちの後ろ盾になってくれる人がいなくなっちゃったんですよ。」
アランは少しだけ声を落とし、しかし達観したような声音で続けた。
「僕たちの部隊は、ちょっと戦果を挙げすぎて、周囲からその「切れ味」を警戒されていたみたいで……。戦後、ジャブローのあちこちで始まった醜い派閥争いに、みんなを巻き込みたくなかったんです。だから、地球上の各地へすぐに移動しやすくて、政治の泥沼からも距離を置けるベルファスト基地への配属を、僕から希望したんです。」
それは、戦後の地球連邦軍という組織が抱える、冷徹でどろどろとした大人の政治事情だった。
若く童顔な指揮官でありながら、部下たちを守るためにあえて中央から身を引いたというアランの静かな覚悟に、ユーグは深く感銘を受け、そして静かに頷くのだった。
「なるほど……。戦果を挙げすぎたが故に疎まれ、政治のダシにされる。ジャブローの官僚どもが考えそうなことだ。……アラン中尉、君たちも苦労してきたんだな。」
ユーグは深く納得するとともに、中央の派閥争いから部下を守るためにあえて僻地へと身を引いたアランたちの苦渋の決断を、同じように戦後処理の雑用に回されている身として、静かに労った。アランは通信の向こうで、少し照れくさそうに苦笑交じりの声を返した。
「いえ、そんな大層なものじゃないですよ。……それに、あのときは僕たちが別の任務でたまたま基地を留守にしていたんです。その隙を突いてジオンの水陸両用モビルスーツ部隊がベルファストの工業地帯を攻めてきた。もしユーグ大尉たちが守ってくれなかったら、帰る場所を失うところだったんです。だから、どうしても今日、戦う前に直接お礼が言いたかったんです。」
「……そうか。留守中の不意打ちだったわけか。事情はよく分かったよ。」
ユーグはアランの言葉に、前線を戦い抜いてきた者同士の確かな信頼を感じ取っていた。
お互いに軍の派閥や大人の事情に振り回されながらも、目の前にある守るべきもののために命を懸けてきた、本物の戦士。
アランのその真っ直ぐな感謝を受け止め、ユーグの胸の奥にも、昨日ヴァルター大尉に『過去の遺物』と嘲笑されたときとは違う、静かで熱い闘志がふつふつと湧き上がってくる。
「……それにね、大尉。僕は勝手ながら、ファントム・スイープ隊に少し親近感を持っていたんです。」
アラン中尉は通信の向こうで、少し声を弾ませるようにして続けた。
「大尉たちが今、ジオン残党を追って地球上の各地を転戦している姿が、一年戦争のときに地上をあちこち渡り歩いていた僕たちの姿と、すごく重なって見えて。だから……同じコンセプトを持つ特殊部隊の先輩として、今日の模擬戦で戦えることを、実は楽しみにしていたんですよ。」
その少年のように純粋で、しかし同じ境遇を戦い抜く後継者へ向けられた温かい言葉を耳にし、いつもは鉄の仮面のように冷徹なユーグ大尉の唇の端が、不意に、珍しく綺麗な弧を描いて緩んだ。
「……フッ、そうか。特殊部隊の先輩、か。」
ユーグはコックピットの中で小さく笑い、それから胸の奥に宿った熱い闘志を、確かな敬意とともに言葉に乗せた。
「ならば、先達者である『ユニット1』の胸を借りる気持ちで、私たちも全力を尽くすことを誓おう。……アラン中尉。」
「はい! 僕たちも、可愛い後輩にあたるファントム・スイープ隊に、全力で戦うことを誓います!」
お互いの胸にある「戦士としての誇り」が完全に共鳴し合い、通信回線を挟んで2人の若き指揮官の晴れやかな笑い声が静かに重なった。
しかし、無情にも開戦のときは刻一刻と近づいている。
2人は互いの健闘を祈るように一度だけ短く頷き合い、ゆっくりと通信の切断スイッチへと手を伸ばした。
「それでは、戦場で――」
「ええ、また後ほど――」
パツン、と静かに隊長回線が遮断され、それぞれのモニターの前には、再び嵐の前の厳粛な静寂が戻ってきた。
――ピピピピピピ……ッ!
その静寂を破るように、コンソールの上部で戦闘開始を告げる非情なカウントダウンの数字が、急速に刻まれ始める。
『Dグループ第一試合、開始まで10……9……8……』
ユーグ大尉はジーライン・ライトアーマーのヘビー・ライフルの安全装置を解除し、右側頭部のロングレンジ用センサーの数値を最終固定。バックパックの4連装ミサイル・ランチャーの弾道計算を瞬時に完了させる。
対するアラン中尉もまた、ジム・スナイパーⅡの75mmスナイパー・ライフルに流体炸薬を送り込み、静かに残骸の隙間から細い銃身を突き出した。
『5……4……3……2……1……』
『――Dグループ第一試合、戦闘開始!』
オーストラリアの赤い大地を引き裂くように、サイレンが激しく鳴り響いた。
次の瞬間、6機の鉄の巨体が一斉に砂塵を巻き上げて爆走を開始する。
マオの授けた作戦通り、まずはハイメ・カルモナ中尉のジム・スナイパーカスタムが先手を打つべく動いた。
頭部に増設された開閉式増加装甲バイザーをガシャンとスライドさせて下げ、ボウワ社製のR-4ビーム・ライフルを保持する。
ハイメはアラン中尉のジム・スナイパーⅡを探すため、背部スラスターを激しく噴射させて一気に跳躍。
演習場に転がる巨大なコロニー残骸の最上部へと、滑り込むように着地した。
ハイメは高所の残骸から最低限の身を隠しながら、右腕のライフルを構え、メインカメラの走査線を走らせて冷徹に索敵を開始する。
しかし、戦場の主導権を握ったのは、歴戦の「火消し部隊」の方だった。
「デニスさん、予定通りに。一発派手に目立ってください。」
「了解したよホアちゃん! 囮役、任された!」
戦闘開始と同時に、デニス・バロウ曹長の量産型ガンキャノンが敢えて遮蔽物の外へと躍り出た。
臀部のスタビライズド・ギアを赤い大地に接地させ、半格納式の240mmキャノン砲の砲身をググッと伸ばす。
ドォン! ドォン!
240mm口径の重い咆哮とともに放たれた実体弾が、ファントム・スイープ隊の進軍ルートへと撃ち込まれる。
「敵のガンキャノン、砲撃を開始! 狙撃のチャンスよ!」
マオのナビゲートを受け、ハイメはR-4ビーム・ライフルの照準をガンキャノンへと補正しようとした。
――だが、それこそがユニット1の罠だった。
(そこだ……!)
コロニー残骸の深いスリットに完全に気配を消して潜んでいたアラン中尉が、その一瞬の隙を見逃さなかった。
ガンキャノンの放った派手なマズルフラッシュ。
それに気を取られ、残骸の上でわずかにビームのエネルギーCAP反応を漏らしてしまったハイメの居場所を、アランは驚異的な戦術眼で瞬時に炙り出した。
流体炸薬仕様の75mmスナイパー・ライフルが火を噴いた。
ドォッン!!
銃口から強烈な衝撃波を伴う発射音が響き、音速を超える流体炸薬の実体弾が、大気を引き裂いて一直線に突き進む。
超長距離からの、一寸の狂いもないカウンタースナイプ。
ビームのように射線が光らない実体弾の奇襲に、ハイメのセンサーが警戒を促したときには、すでに弾丸は目の前に迫っていた。
次の瞬間、ハイメのジム・スナイパーカスタムの頭部メインカメラへと、演習用のペイント弾が真正面から直撃。
パカァァンッ!!
強烈な衝撃が頭部を揺るがし、真っ赤な演習用塗料が、防弾用増加バイザーの隙間からセンサーの奥へと一気に流れ込んでいく。
【頭部メインカメラ 大破判定 遮断(シャットダウン)】
「なっ……何!? この距離をペイント弾で当てるか!?」
ハイメのモニターが、一瞬で完全な暗黒へと叩き落とされた。
ハイメはコックピットの中で息を呑み、深い驚愕と戦慄に襲われていた。
頑強な増加装甲バイザーを下げて防弾率を上げていたというのに、この広大な演習場で、ペイント弾をピンポイントで長距離から撃ち込まれたのだ。
相手のアラン中尉の、常軌を逸した狙撃能力の高さに冷や汗が流れる。
「ハイメ中尉、カメラ破損判定! 後退しろ!初弾で、この距離を当てるのか!?」
マオの悲鳴のような警告が響く中、ユニット1が完璧に先手をもぎ取った。
「よし、隊長の言う通りに引っかかったわ! リルさん、仕掛けて!」
「言われなくたって行くわよホア! デニス、私の後ろから、しっかり援護しなさいよ!」
狙撃の脅威が一瞬で排除された赤い大地を、オレンジと白の鮮烈な軽量ボディが爆発的な制動で駆け抜ける。
手にしたガンダム同型のビーム・ライフルを閃かせながら、一気に残骸の奥へと突入していった。
ジム・スナイパーカスタムの狙撃網を潜り抜けた先――幾重にも重なる巨大な鉄骨とコンクリートの残骸が迷宮を作る、狭所エリア。
そこへ、全身にブロック状のウェラブル・アーマーを纏ったロブ・ハートレイ中尉の『ジム・ストライカー』が、背部の大出力ブースターと両下腿部のサブスラスターを激しく狂わせながら、凄まじい突進力で躍り出てきた。
「見つけたぜ、紙装甲のライトアーマー! そのままツイン・ビーム・スピアの餌食にしてやる!」
「なによそのダサい増加装甲! 私のスピードについて来られると思ってるの!?」
狭い残骸の隙間で、近接高機動タイプのジム2機が激しい土煙を上げながら真っ向から激突。
演習場全体をハイスピードで駆け回る、恐怖をも置き去りにした「近接戦闘最強ジム決定戦」の火蓋が、ここに切って落とされた。
「オラァッ! まずは一撃ィ!!」
ロブ中尉が猛るのと同時に、ジム・ストライカーの背部大型ブースターと両下腿部のサブスラスターが凄まじい爆音を上げ、赤い大地を爆発的に蹴り上げた。
重量級の機体とは思えない凶悪な突進力。格闘用バイザーでメインカメラの防弾率を上げた鉄の頭部が、迷宮のようなコロニー残骸の隙間を縫って一瞬で肉薄する。
手にするは主武装『ツイン・ビーム・スピア』。ロブはそれをグリップを限界まで伸ばした「ロッドモード」の長槍へと変形させ、リルのジム・コマンド・ライトアーマーの胴体めがけて狂暴な突きを放った。
しかし――。
「遅いっていってんのよ!」
リルは冷徹に言い放ち、フットペダルを鋭く踏み込んだ。オレンジと白の鮮烈な軽量ボディが、まるで重力を無視したかのように滑らかに横へとスライドする。
その驚異的な運動性が、ロブの渾身の突きを紙一重の境地で完全に空を切らせた。
「チッ、すばしっこいノミが……!」
「ノミとは失礼ね!そのダサい装甲ごと、消し飛んじゃいなさい!」
リルはかわした勢いのまま、手にしたガンダムと同型の高出力ビーム・ライフルを至近距離からロブの胸元へと突きつけた。
――ズガァァァンッ!!
閃光が残骸の陰を白々と焼き、放たれたビームがジム・ストライカーの胴体を真っ向から捉えた。直撃――と思われたその刹那、ロブは本能的な危機感で咄嗟に左腕の『スパイク・シールド』を前面に突き出し、さらに全身を覆う特殊装甲『ウェラブル・アーマー』を盾にするようにして強引に弾頭を受け止めていた。
激しいビームの衝撃波が吹き荒れる。
本来なら、ビームの直撃などいくら実弾に強い炸裂装甲であっても防ぎきれるものではない。
だが、スパイク・シールドと、ウェラブル・アーマーによる二重の防御が、奇跡的にビームの破壊エネルギーを外部へと爆発的に拡散・相殺させたのだ。
【左腕兵装 シールド大破判定 使用不能】
【胸部増加装甲 消失判定】
「へっ、紙装甲のライトアーマーに、ジム・ストライカーがブチ抜けるかよ……!」
ジム・ストライカーの左腕からスパイク・シールドがパージされる。
ロブは口の端を歪めて不敵に笑ってみせたが、コックピットの中では全身に冷や汗を流していた。一歩間違えれば、初手でそのまま撃破判定を食らって沈んでいた。
リアクティブ・アーマーであっても、ビームはあまりにも心臓に悪すぎた。
「なっ……!? ビームを正面から耐えきるなんて、どんなインチキ装甲よ!?」
一方、リルもコックピットの中で目を丸くしていた。
直撃すれば一撃で消し飛ばせるはずのビームを、盾と装甲の二重防御とはいえ、力づくで耐えきってみせた目の前のロブの執念に、背筋が微かに凍る。
ロブは即座にツイン・ビーム・スピアの可動ユニットを内側に折り曲げた。一瞬で2本のビーム刃が鎌のように変形し、「サイズモード」へのチェンジ。
「逃がさねえぞ、お嬢ちゃん! まとめて薙ぎ払ってやる!」
ロブは長いリーチを活かし、リルの華奢な脚部をまとめて刈り取るように、サイズモードの巨鎌を凄まじい横薙ぎで振り抜いた。
しかし、ユニット1の誇る天才肌の少女も、その程度の突撃で怯むタマではなかった。
「ホア!敵の駆動トルクの予測データを早く頂戴!」
「はい、リルさん!ストライカーの右下腿部スラスターの軸補正から軌道を計算しました。左斜め後方へ跳躍してください!」
ホバートラックのコンソールから、ホア軍曹の寸分の狂いもない回避補正ルートがリルのモニターへとプロットされる。
「デニス、あんたもボサッと見てないで、マシンガンで援護しなさいよ!」
「はいはい、分かったよリルちゃん。ほらよ、90mmの特大プレゼントだ!」
後方から、デニス曹長のブルパップ・マシンガンがけたたましい実弾の咆哮を上げ、ロブの追撃の射線を強引に遮るようにして弾幕をバラ撒いた。
「くそっ、後ろのキャノンめ!」
ロブのサイズモードの斬撃は、リルのアクロバティックな後方跳躍によって再び空を裂き、デニスの援護射撃によってストライカーは一時的にステップを阻まれた。
そこへ、煙幕を切り裂き、右側頭部のロングレンジ用センサーを不気味に明滅させたユーグ・クーロ大尉の『ジーライン・ライトアーマー』が超高速で介入してきた。
ユーグは素早く戦況を見極めると、ロブに向けて鋭い通信を飛ばした。
「ロブ中尉、その機体は実弾防御に優れている。後方のジム・スナイパーⅡとガンキャノン量産型を押さえろ。そのライトアーマーの足は、俺がやる。」
ロブのジム・ストライカーが大出力ブースターを再び唸らせてデニスたちの方へと進路を変える。それと交錯するようにして、ユーグのジーライン・ライトアーマーが手にした高出力のヘビー・ライフルをガシッと構え、鋭い視線でリルの機体をロックオンした。
「――チッ、次から次へと……!」
リルのメインモニターが、急速に接近してくる新たな影をとらえた。
ユーグ・クーロ大尉の駆るジーライン・ライトアーマーだ。
右側頭部のロングレンジ用センサーが、煙幕の向こうで不気味に赤く明滅している。
その圧倒的なプレッシャーを前に、リルが操縦桿を握り直したその刹那、コックピットにアラン隊長からの冷静な通信が滑り込んできた。
「リル、予定通りに。君はそのままジーラインの足止めを頼む。僕とデニスで、向かってくるジム・ストライカーの相手をする。」
アランからの一寸のブレもない指揮官としての指示。
リルは唇の端を僅かに尖らせながらも、その言葉を即座に受け入れた。
「わかったわよ! あんたたち、その代わりさっさとジム・ストライカーを片付けて、あたしの援護に回ってよね!」
「ああ、任せてくれ。ホア、デニスの量産型ガンキャノンの射線を再計算。ストライカーの突撃ルートを塞ぐぞ。」
アランの実直で頼もしい返事が、スピーカーの向こうで駆動音に混ざって消える。
(隊長とデニスなら、盾の壊れたストライカーに遅れをとるはずがないわ。)
2人への絶対的な信頼を寄せ、リルは迷いを完全に振り切った。
機体の全スラスターを限界まで解放し、白とオレンジの軽量ボディを、接近する白きジーライン・ライトアーマーの正面へと鋭く踊り込ませる。
「さあ! あんたの相手は私よ!」
リルはユーグのジーラインを鋭くロックオンし、ガンダムと同型の高出力ビーム・ライフルを躊躇なく引き絞った。特殊部隊の先達としてのプライドとファントム・スイープ隊のエースの意地が赤い大地の陽炎を切り裂く。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
遂にクロスオーバー対戦の1試合目!
ファントム・スイープ vs SRT-ユニットです!
この対戦の組み合わせをした理由は。
1 地上戦線の各地を転戦した
2 モビルスーツを自由に乗り換えることが出来た
3 SO○YのPS3 VS 任○堂のWii
です!
ゲーム業界メーカー対決て、燃えますよねー(笑)
ではでは、次の話も楽しみにしてください!
勿論、私はバトオペしているのでPS派です(笑)
【機動戦士ガンダム オリオンの軌跡】に登場するオリジナル機体で好きな機体はなんですか?
-
陸戦型ジム改
-
バイアリーターク
-
ペイルライダー・ヴァンガード
-
ペイルライダー・マスケッティア
-
ヴァルキリー
-
グフ・ノクターン