オラッ催眠!(正義の鉄槌)   作:バリ茶

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恐怖! 催眠催促女

 

 

 メインヒロインその一こと、アリア・イフリーティア。

 

 彼女は主人公である柏木映司が物語冒頭で初めて出会う学園生であり、そこから終盤へ至るまでほぼずっと彼の隣で戦い続けたいわゆる作品の顔に相当する存在だ。

 つまり何が言いたいのかというと、イフリーティアは少なくとも原作で描写されている場面ではほぼ常に映司のそばにいた、ということだ。

 最初のヒロインであり、且つ他の少女たちとは異なり主人公の"相棒"という明確に一線引いた特別な立ち位置ですらあるため、その振る舞いは至極当然のことだった。

 

 しかし。

 

「待ってラルオット、そんなに大量の本を借りてくならアタシも少し持つわ」

 

 ──これは一体どういうことなのだろうか。

 

「ほら、片腕はギプスなんだから無茶しないっ」

「うぉっ……ちょ、イフリーティア、そこまでしてくれなくても大丈夫だって」

「ホント怪我をした男子って往々にして強がるものよね。少しは頼りなさいよ」

 

 俺の手から数冊の分厚い本を奪い取って受付まで持っていこうとしている少女の名はアリア・イフリーティア。

 ここではなく現在トレーニング中である主人公のそばにいるはずの、炎使いのお姫様。

 図書館で催眠系の解説も載っている異能教本を新たに発見したので勉強のためにそれを借りにきた俺になぜかついてきて、お節介まで焼いてくれている謎の女。

 

「あら? 受付ってこっちだったわよね」

「正反対だよ。こっちだこっち」

「むう、広くて分かりにくい……」

 

 本を両手で抱えつつ文句を言いながら後ろをついてくる。

 マジで何事なんだコレ。

 俺が彼女にここまでサポートしてもらう流れなんて今日まで一度も無かったはずだ。

 たしかに合宿所を襲撃した犯行グループを倒した仲間ではあるが、それを言うなら端っこで二人相手に苦戦していた俺ではなく、抜群のコンビネーションを発揮して共に無双した映司のほうだろう。

 ……一人で考えたところで分かることでもないし、今は一旦置いておこう。

 

「あ~こんにちは。ラルオットさん、今日もたくさん借りられるんですねぇ」

「すいません月沢先輩。毎回多いと読み込むの面倒ですよねコレ」

「そんなことないですよ? むしろ暇なくらいなので助かってます。あはは」

 

 この受付でバーコードの読み取りをやってくれている何ともぽわぽわした雰囲気の女子生徒は、原作ではレイドに催眠兵士の一人として利用された被害者こと図書委員ちゃんの月沢さんだ。

 なにもしなければこの通り普通の図書委員と常連の関係性に落ち着く。ちなみに向こうは一個上の先輩でした。

 

「検索用紙、お役に立ちましたぁ?」

「バッチリ探してる内容でしたよ。いつもマイナーな情報を調べてくれて助かります」

「いえいえ、ラルオットさんのおかげでわたしでも知らない本とか知れましたし」

 

 むしろ特定の内容の本を探してもらう申請書を頻繁に提出している影響で名前まで覚えてもらっているくらいだ。

 それによって催眠系の情報を集めていることはとっくに知られているはずだが、彼女の態度は以前から変わらず普通のままだ。

 俺自身が催眠使いの異能者だという事実を把握しているかどうかは不明だが、そこを深掘りして嫌われるのもイヤなので自分の話をするのはやめておこう。

 

「入力終了っと……これでオッケーですね。次の方どうぞ〜」

「えっ。あ、ええと……アタシは付き添いで……」

「ふむ……? いま持たれてるその本を借りられるのでは?」

「あっ! ちが、コレはラルオットの……!」

 

 読み取り終わった本を受け取ると、隣で待っていたイフリーティアに声がかけられた。完全に油断していたらしく少し焦っててかわいい。

 どうやら受け持っていてくれた分の本を抱えたまま待ってくれていたようで、受付に出すタイミングを逃してしまったようだ。これは普通に声をかけなかった俺が悪い。

 

「すまんイフリーティア、それは俺が棚に戻してくるよ」

「っ? そんなことしなくても、これも借りればいいじゃない」

「一度借りると全部返却するまで借りられないんだ。それに借りたばかりの本を返そうとするとエラーが出るから、いま入力し直してもらうわけにもいかなくてな」

「そ、そうなの?」

「ふふっ、ラルオットさんも図書館に詳しくなりましたねえ」

 

 何を隠そう目の前のほんわかした先輩にその珍しいエラーを吐き出させた張本人がこの俺だ。

 この学園の生徒は全体的にあまり図書館を利用しない傾向にあり、借りたものをすぐ返そうとする人間がこれまでいなかったらしい。

 

「……分かったわよ。じゃあアタシの名前で借りるから」

「いいのか?」

「わざわざ戻してまた借りるのも面倒でしょ。返す時にまた一緒に行くわ」

「悪いな、助かるよ」

 

 と、そんなこんなで丸く収まったので大量の本をカバンに詰め込んでいく。……うわバカクソ重い。萎える。

 

「イフリーティアさんも次回はぜひ図書館を使ってみてくださいねえ」

「ええ、次は自分の欲しい本を借りるわ。ありがと先輩」

 

 原作では存在しなかった絡みを前に内心少し驚きつつ、こんな一幕も実はあったのかも知れないと飲み込み図書館を後にした。

 

「んっ。……ふぅん、なるほど」

 

 すると出入り口付近でお姫様が何やら呟き、その足を止めた。

 

「どした、イフリーティア?」

「ごめん忘れ物。すぐ追いつくから先に行っててくれるかしら」

「ん……おー、了解」

 

 イフリーティアとは図書館へ訪れる前に男子寮の外で合流したのだが、その時からずっと手ぶらで荷物は無かった覚えがある。

 ……あぁ、トイレか。女子だしハッキリとそう言うのは憚られるものなのだろう。

 

「じゃあ映司のいるトレーニングルームに向かってるぞ」

「はいはい、またあとでね」

 

 そう言って足早に図書館へ戻っていく彼女を見送り、早々に踵を返した。

 受付の場所を間違えるくらいなのでお手洗いにも辿り着けるか心配だが、まさか男子がついて行くわけにもいくまい。

 

 それよりも映司の戦闘トレーニングがそろそろ終わる頃合いだ。

 帰る途中で以前話題に上がった駅前のまぜそば屋へ寄ることになっているので、ついでにイフリーティアを誘ってみてもいいかもしれない。

 

 たしかに一度共に戦った仲ではあるが現状それ以外の接点がないのも事実。

 ここいらで一度距離を詰めて、少なくとも映司との交流に際してのアドバイスを聞き入れてくれる程度の関係性は構築しておきたいところだ。

 

「──おーい、そこのキミ」

 

 ふと、背中から浴びせられた男のものらしき声。

 何だと思って振り返った先には、声の主であろうやたら体格のデカい男子と、付き従うように彼の両サイドに陣取っている普通っぽい男子が二人立っていた。

 

 その三人全員に言える特徴としては──不良っぽい、という印象だ。

 制服を着崩す者だけでなく派手な赤色のスカジャンを羽織っていたりなど、服装からも多少は読み取れるのだが何よりも彼らの表情がそう思わせる。

 なんというか、揃いも揃ってニヤついているのだ。

 

「あ、はい」

「きみレイド・ラルオットくんだよね。ニュースで見たよ、テロリストをやっつけたんだって? スゲーじゃん」

「は、はぁ。これはどうも」

 

 こちらへ賞賛の言葉を送りながら近くまで接近した大柄な男子は、無遠慮に肩を組み俺の体を揺らした。

 なんかちょっと怖い印象はあるけど普通に俺のファンとかだったりするのかしら。ドキドキ……。

 

「まじソンケーしてんだよね。ほんとカッケーよ」

「えへへ……」

 

 ホメられて年甲斐もなく喜んでしまった。はずかしい。

 

「てかきみの催眠能力すごくね? 試しに誰かにかけてみたら面白そうじゃね。ね、オレらが隠すからさ」

 

 あれなんか空気が変わったな。

 

「友達んなろーぜ、オレらまじ催眠の異能とかに対して偏見とかねえから」

 

 とても好意的に、ともすれば馴れ馴れしいとすら感じる勢いで肩を組みながら自然と移動し、気がつけば人通りのほぼない別館の校舎裏付近まで来ていた。

 広大な学園であれば当然このようにあまり使われない建物もあり、夕方に差し掛かっている時間帯も相まって周囲に人影は微塵も感じられない。

 

「みんなラルオットくんのこと嫌ってんのまじムカつくよな。命がけでテロリストと戦ってくれたのにさ」

 

 ちなみに先ほどから俺は適当な相槌しか返していないため、通常の会話であればとっくに成立していない筈なのだが、体格のデカい男子は自分の言いたいことだけを言い続けているのでその事に気がついていない様子だ。

 

「ほら、キミのこと毛嫌いしてる女子とかいるっしょ? そいつに催眠かけちゃおうよ。俺らが見張っててやるからさ」

「……マジで?」

「っ! うんうん、マジマジ! めっちゃ本気!」

 

 あえて露骨に反応してみせると分かりやすく食いついてきた。もう少しだけ様子を見てみるか。

 

「ラルオットくんとオレらでムカつく奴らみんな洗脳しちゃおうぜ! ……オレらには催眠かけたどうでもいい女子とか分けてくれるだけでいいからさ!」

 

 なるほど、今のが大体の本音といったところか。

 なんとも先が読める展開ではあるが、映司や伊々月さんの友人でい続ける為には、これから口に出す答えは決まってしまっている。

 

「……悪い。そういう事なら付き合えない」

「は?」

 

 眉間に皺が寄る男子生徒もとい不良さん。

 もしかすると簡単に俺を引き込めると考えていたのかもしれないが、残念ながら原作を無視して闇落ちを回避してしまっているレイドには響かない甘言だ。

 

「申し訳ないが誰かを貶める為に異能は使わないようにしてるんだ。ただでさえ疎まれてる立場だしさ」

「……んだよそれ」

「けど事件のこととか友達になろうって言ってくれたのは嬉しかったよ。……ありがとう」

 

 形はどうあれ忌避されている俺の立場に寄り添ってくれたのは事実なわけで、それに関しては素直に嬉しい気持ちだった。

 ……まあ呆れて若干ムカついているあの表情からして、このあと暴力に訴えられることは想像に難くないが。

 どうやら俺は彼らの欲する()()には値しなかったらしい。

 

「……チッ。いまさらいい子ぶりやがって。おい、オレがこいつボコした後に服ひん剥いて写真撮れ」

 

 衝撃の手のひら返し。もはや感動するレベルで治安が悪くて笑えてきた。

 ここで彼らが即座に作戦を友情から暴力へ移行できた理由は、間違いなく俺が片腕にギプスをつけている負傷者だからだろう。

 彼らは余裕で勝てると踏んで挑んてきたわけだが、実際戦えばもちろん俺が余裕で負ける。怪我の分を差し引いても三対一なので分が悪すぎます。こわい……。

 

 とはいえこちらも武装した犯罪者グループとの戦闘を経験した後だ。

 十中八九ヤツらよりも強くはないであろう不良集団を前に、多少はビビっても尻餅をつくほど怯えているわけではないようで安心した。ボコボコにされたとて死にはしないという確信がある。

 

 しかし社会的に抹殺されそうな場面ではありそうだしマジでどうしようねこれ。詰んでるかも。

 

「──アンタたち、そこら辺にしときなさい」

 

 なんとか逃げ切るためにタックルでもしようかと思案する最中、突如として少女のものと思わしき澄んだ声が校舎裏に響いた。

 

「あ?」

「聞こえなかったかしら。もうやめろって言ったのよ」

「……? ……っ! アリア・イフリーティア……ッ!」

 

 逆光でよく見えない顔を不良がジッと確認したところその謎の人物の正体が露わになった。

 救世主が如く現れた少女は忘れ物を取りに図書館へ戻ったはずの紅い皇女様であり、そのままこちらへ歩み寄ってきた。

 

「ま、待ってくれお姫様。逆だよ、オレらがコイツに洗脳されそうになってて……」

「ふーん? なら一部始終を撮ってたこの録画でも確認してみましょうか」

「っ!! ぐっ……クソが……!」

 

 イフリーティアに一手先を読まれて動揺した彼らはうまく反駁することができず一歩後退りした。今時あんな露骨に悔しがる不良なんているんだ。

 ランキング圏外かつ怪我人の俺であれば楽勝なのだろうが、学園の上位に序列入りしている猛者相手の実力行使は分が悪いらしく、彼女に気圧された三人組はみるみる萎縮していく。

 

「は、はっ! なんだよお前、何でこんな得体の知れないカスを庇うんだ? もしかしてお前も洗脳されて──」

「ふふっ」

「なに笑ってんだ!!」

 

 あまりにも余裕を崩さない彼女の態度に堪忍袋の緒が切れたのか、遂に手が出た……のだがやはり序列四位。なんなく躱してしまった。

 

「仮にアタシが洗脳されてるとしたら、アンタの言う()()()()()()()()()にすら負けてることになるけれど……アンタたちはそれでいいのね」

「〜っ! ……クソがッ!! おい行くぞ!」

 

 悪態を吐き捨て、取り巻きを連れてその場を去っていく男子生徒。

 そうして静かな路地裏に残ったのはよく分からんカスであるらしい痩せぎすの男子と、仕方なさそうにため息を吐く紅い少女だけであった。

 イフリーティアの助けで結果的には何も起きず、なんとか怪我人ゼロでやり過ごすことができたようだ。社会的な死も回避できて万々歳である。

 

「すまんイフリーティア、助かったよ。正直かなり危なかった」

「……別にアンタの為じゃないわ。エイジのモチベーションに関わるからってだけよ」

 

 なるほど突然俺についてきたワケが理解できた。むしろそういった理由の方がこちらとしても納得できるというものだ。

 

「それにしてもよくアイツらが俺をボコるって分かったな。だいぶ前から撮影してたみたいだが……」

「あの三人に関しては図書館を出る時に姿が見えてたから。もしやと思ったら案の定だったわね」

 

 大袈裟に肩を竦めてやれやれといった雰囲気でスマホを操作し、そのまま画面をこちらへ見せてきた。

 

「……俺の動画?」

「ええ、命知らずの誰かが撮影したあの時の、ね」

 

 合宿所襲撃時に人質の中の誰かがこっそり録画していたその映像の中では、俺がデカい声を荒げながら犯行グループの内の数人を催眠にかけている。確かにこれだけ見れば普通に恐怖映像だ。

 

「異能が催眠だって情報が一人歩きしてただけで能力自体は使ってなかったアンタが、実際に催眠を発動する姿を大勢の前で見せた。それで警戒する学生もいれば、さっきみたいな『使える』と踏んで近寄ってくる輩もいるってことよ」

 

 オラッ催眠! を利用できると思って声をかけてきたのかあの不良グループ。正気?

 もしや塩梅でアレをやっただけでその気になれば催眠っぽい事なら何でもできると思われたのだろうか。力を見せなさ過ぎた影響で、なにか良くない期待感まで抱かせてしまった、と。

 

「それ……やっぱ俺が悪いのかな」

「ち、違うってば。アタシが言いたいのは頻繁に守ってあげたりとかできないって話よ。さっきの三人はしばらく大丈夫だろうけど……」

「はは、心配してくれてサンキュな。でもこれからは自分の身は自分で守るよ」

「……そう? それならいいけど」

 

 俺の返答に納得してくれたらしい彼女に追従して校舎裏を離れ、そのまま二人でトレーニングルームのある別館へと向かっていく。

 

 アリア・イフリーティアという少女は言ってしまえばお人好しに入る部類の善人であり、基本的には常に正しい主人公の味方でい続けるのが原作の彼女だ。

 しかし現在はその主人公のメンタルケアの為と称して、互いに名前を知っているだけで大して仲良くもない男子を気にかけてしまっている。

 ある程度は自分で何とかしろ、という旨の発言を聞けたことは幸いだったが、これから二人目のヒロインを仲間に迎え入れて本筋が動き出すことを考えると、やはり彼女の中に余計な懸念事項を残しておきたくはない。

 

 ……とはいえ今現在の俺がクソ雑魚で、悪意に晒されやすい立場にある事実をすぐにひっくりかえせるわけではないことも、また事実なのだ。そもそもの基礎ステータスがあまりにもカスいのでとりま筋トレでもしよう。

 

 

 

 

 それから一週間ほど経過し、早くもギプスが外れた俺の買い物に付き添う形で映司もついてきてくれたのだが、当然のようにイフリーティアもそこにいた。

 そして──原作にもあったイベントが発生。

 ついに登場する二人目のヒロインこと、他学園の序列三位との非公式な決闘だ。

 

 まずは元々の流れだが、学園都市の商業エリアの一角で引ったくりが発生し、そこで駆け出した映司とほぼ同時に犯人を捕縛したのが序列三位の水瀬(みなせ)吹雪(フブキ)だった。

 水瀬は小学生の頃に引っ越しで離ればなれになった映司の幼馴染であり、久しぶりの再会ということでイフリーティアを嫉妬させつつ昔話に花を咲かせていたところ、そこに彼女のチームメイトが現れ、自分の幼馴染が他学園のチーム内で苛烈な扱いを受けていることを知る。

 

 異能者たちの武闘大会ことアリーナで優勝をすると『望みを叶えてもらえる権利』をこの学園都市を牛耳る強大な組織から譲渡してもらえるのだが、とある事情からどうしてもその優勝賞品を得なければならない水瀬は、異能を飛躍的に向上させる強化武装の提供を学園から打ち切られないよう必死になる必要があった。

 

 しかしまぁ、チームメイトの性格がシンプルにカスで。

 

 学園を運営する側の人間であるそのチームメイトたちは、強化武装が必要なために運営側からの要求に逆らえない状況の水瀬をいいように扱っており、映司と再会した時点での彼女は相当に精神を摩耗していて──義憤に駆られた少年が待ったをかけた、というのが一連の流れだ。

 

 ここで商業エリアにある異能者用のバトルエリアで非公式な決闘が成立。

 

「いくよ、吹雪」

「……ごめん、映司。わたしの為に戦ってくれるのは嬉しいけど……負けられない」

 

 水瀬は映司に勝てば武装の更なるアップデートを約束され、逆に映司が勝った場合は彼女への横暴な態度を改めてもらうという条件で決闘が始まった──ところまでは原作通りだったのだが。

 本来なら応援席へ回るハズだったイフリーティアに対して、水瀬のチームメイトである女子生徒が絡んできたのだ。

 

「……もう一度言ってみなさいよッ!」

「ふん、何度でも言ってあげますよ? 道楽で学園都市へ遊びにきたお姫様がコネで序列四位を務めるような弱小高の生徒に、我が学園の強化武装が負けるわけがない」

「道楽……ですって……ッ」

 

 ここまでイフリーティアが怒りを露わにしている理由に関しては、相手が彼女の地雷をいくつも踏み抜いているからだ。

 ひとつは尊敬するとある人物の卒業校である自分の学園を弱小だと嗤われたこと。

 そして二つ目は、真っ当に戦う理由があり死に物狂いで研鑽を積み、実力だけで序列入りを果たしたこれまでの歩みを“道楽”だと吐き捨てられたこと。

 なによりパートナーである映司を馬鹿にされたことが彼女の逆鱗に触れ、普段の冷静さを奪ってしまった。

 

「ふふ、そちらもお仲間がいるみたいですしタッグ戦といきましょうか。あなたが勝てば先ほどの発言の撤回を考えましょう。しかし我々が勝った場合はそちらの異能の詳細や弱点を教えていただきます」

「受けて立つわ。……約束は守ってもらうわよ」

 

 と、原作には存在しなかった非公式の決闘がとんとん拍子で決まってしまい、映司たちが戦う舞台から離れた別のバトルエリアへと移動する。

 その最中、相手に勝つことだけを考えているであろう紅髪の皇女様に俺は敢えて声をかけた。

 

「待てってイフリーティア、どう考えても罠だ。大会が始まる前に非公式試合でお前の手の内を明かすために挑発してきたんだよ、アイツら」

「……分かってるわよ、そんなこと!」

 

 先導する彼女は振り返ることなく、憤った声で続ける。

 

「けど第二皇女として、序列四位として、あそこまで貶されて黙ってるわけにはいかないの……ッ!」

 

 ただ考えなしに相手の挑発に乗ったわけではなく、王族や序列学生としての矜持の問題なのだと彼女は語る。

 誇り高い志をもって戦っていく皇女様の性質上、合理的ではないが避けられもしない展開だったのかもしれない。

 

「……巻き込んだのはごめんなさい。今回はアタシ一人で戦うわ。怪我も治りきってないだろうし、アンタは身を隠してるだけで大丈夫だから」

 

 俺のことも多少は思いやってくれるソレ自体は嬉しいがそういう問題ではない。

 ここで一つ補足すると、俺がアニメとして見ていたこの物語は二クールに分割されて放送されていた。

 そしてその一クール目のラスボスこそが、水瀬のチームメイトであるあの少女たちなのである。

 デカい態度を取るだけあってマジで強いため、二対一という条件も加味すると現時点でのイフリーティア単騎では身も蓋もないがたぶん勝てない。

 

「……初年度のアリーナは三人チーム制だ。水瀬のように武装提供を理由にチーム入りを断れない学生は別として、恐らくあの二人は最初から完成されてるコンビなんだろう。……ハッキリ言うが作戦も無しに勝てる相手じゃない」

「作戦ならあるわよ」

 

 あ、そうなの。俺が余計な心配をしていただけで、案外冷静だったのか。

 

「小細工なんてアタシの烈火で吹き飛ばす!!」

 

 まってダメそう。

 ちょっと頭に血が上りすぎてますよお姫様! 不良が手を出そうとするまでジッと撮影に徹してたあの時のクールさを思い出してっ!

 

 

 ……

 

 …………

 

 

 十数分が経過し、ステージ内の岩陰にて。

 

「はぁっ、ハァ……正直、ピンチね……っ!」

「……何でお前そんな珍妙にして滑稽なの」

「な、なんですって!?」

 

 予想通り抜群のコンビネーションを見せる相手チームに無事ボッコボコにされており、負けてはいないが絶対勝てない状況まで追い込まれているのが現状だ。どどどうすんのこの状況。

 こうして巻き込まれた俺も無関係ではないため、事前に謝られたとて少しムカついてきた。せっかく治り始めてきた腕の怪我が悪化したらどうすんねん。レジ打ちの時まだ痛いんじゃ。

 

「だから突っ込んでも勝てねぇって言ったろうが!」

「そ、そんなの分かんないじゃない! それにまだアタシだって本気は出してないわっ!」

()()()()んだろ……強力な技の発動に躊躇してるのは見りゃわかる」

「うぐっ……」

 

 イフリーティアはそこそこ全力で戦ってはいるのだが、必殺技に相当する強力な火炎攻撃は出せずにいるので決め手に欠ける。

 この問題は彼女自身が技の発動によるバックファイアを恐れている為に生じてしまっているのだが、ネタバレするとイフリーティアの身体は既に異能に対して適応できる状態まで仕上がっているのだ。

 まぁ要するにメンタルの問題であり、本来であれば二人目のヒロインを仲間へ迎えた後、映司を含めた三人チームで戦っていく中で克服する流れになっている。

 

「……イフリーティア」

「な、なによ」

「このまま隠れ続けるのも厳しいし、次の手を考えないと」

「それは……! わかってるけど……うぅ~っ」

 

 遂に本人が頭を抱えてしまった。このままだと勝ち目がないことは明白だ。

 

「っ? ラルオット……?」

「……少し、時間をくれ」

 

 ──腹を括った。

 とりあえず一旦冷静に考えてみよう。

 

 まずこの状況に陥ってしまった理由だが、原作では一人で観客席にいたイフリーティアの隣に本来いないはずの俺がいてしまったことが可能性として挙げられる。

 水瀬のチームメイトたちは確かに強いが、それはあの敬語の少女本人と彼女を慕うもう一人の女子生徒の二人が揃って、ようやく初めて成立するパワーバランスだ。

 

 つまり『タッグで戦える』という状況にあったのが問題だった。

 原作で今回の非公式試合が発生しなかったのもそれが理由だろう。

 

 と考えると、この戦いが発生したそもそもの発端は俺なのかもしれない。

 いやまぁ他学園の生徒の思惑まで事前に考慮しろだなんて無茶もいいところだが、ある程度は似通った未来を知っている身であれば気をつけようもあった……のかもしれない。

 

 どのみち映司の友人として関わっていくのであれば、そのパートナーである少女の物語に対しても無関心を貫き通すわけにはいかないだろう。

 今回の責任を取るという意味でも──覚悟を決めなければならない。

 

 俺自身が『催眠能力使いのレイド・ラルオット』であり続けるという、覚悟を。

 

「……イフリーティア、一つ提案がある」

「提案……?」

 

 周囲から聞こえる攻撃音が徐々に近づいてきているのを感じた。しらみ潰しに俺たちを探しているようで、あまり時間も残されてないらしい。

 

「この際まどろっこしい言い方は面倒だから単刀直入に言う。いいか?」

「え、えぇ」

「──お前を()()()()()()()

 

 努めて冷静な声音で相手の目を見ながら発言をした、が。

 

「…………ふぇっ!?」

 

 通常であれば一考の時間を作れるはずの態度だと思われるが、やはり内容が内容なだけに少女は目を見開いて、弾かれたように一歩後ずさってしまった。あっ、ちょ、岩陰から体が出ちゃう。

 

「おいバカ場所がバレるっ」

「キャッ、急に肩を掴んで……なにっ、なんなの!」

「いいから一旦座れって!」

 

 半強制的に腰を下ろさせて肩から手を離し、正面から彼女を見つめた。

 レイドの催眠講座その一。

 相手に術者である自分自身を強く認識させる。

 

「俺を見ろ」

「どっ、どういう」

「これは“勝つため”だ。頼むから、まずは落ち着いて聞いてくれ」

 

 その二、対象がこちらの言葉へ耳を傾けるだけの冷静な状態でいること。

 

「……えぇ、ごめんなさい。戦闘中なのに取り乱したわ。……すぅ、はぁ。……うん、大丈夫」

「すまん、助かる」

 

 ここでその三。

 通常の催眠術とは違って異能による催眠は本人の能力値次第で多少の融通が利く。

 たとえば待機状態へ移行させるだけであれば、俺の瞳を数秒間見つめさせればいい。

 

 だが、その前に一つ。

 大して仲が良くないとしても、ただの知り合い以上の関係であるなら、誠意として勝手に催眠をかけることは絶対にしない。

 それだけが、何があっても守るべきたった一つの鉄の掟だ。

 

「簡単に言えば、俺の催眠でイフリーティアが無意識にかけてしまっている自分へのブレーキ……それを一時的に外す」

「……暴走状態になるってこと?」

「いや、躊躇は無くすが自意識は消えない。実際にかけるのは初めてだからお前の記憶が残るかどうかはまだ読めないが……少なくとも本気を出せる状態には出来る」

「それ……確実に可能なの?」

「あぁ。()()()

「っ……!」

 

 彼女の青い瞳を真っすぐに捉え、淀みなく喋ることで催眠に関する成功率だけは担保させる。疑わせないこと、相手が催眠能力をある程度信用することが効力をより確実にさせるからだ。

 

「……だがそれはイフリーティアの矜持に反することかもしれない。誇りを傷つけてしまうかもしれない。本気になったお前ならあの二人にも勝てるだろうが……それを催眠状態で行うのは、なにか良くないことである気もする」

 

 そもそもプライドが高い王族の彼女に催眠をかけようだなんて不遜もいいところだ。原作のレイドくらい命知らずじゃないとやろうとすら思わないことだろう。

 だが敢えて俺はソレを提案する。

 なによりも『この場で負ける』ことそのものが、彼女の運命を大きく歪めてしまう気がするから。

 

「だから──」

「ラルオット、お願い」

「っ!」

 

 もう少し説得の言葉が必要だと勝手に考えてしまっていたが、そんな俺を遮って少女は力強い眼差しで俺を見つめ返してくれた。

 

「良くないこと、なんかじゃないわ。催眠術は貴方自身の異能。それを掛け合わせて戦うことはチームとしての協力に他ならないでしょう」

 

 あの普段の強気な態度は影を潜めており、躊躇なくこちらの手を取るその仕草は王族としての気品を漂わせる高貴な振る舞いだと感じた。

 

「……私の力を信じてくれてありがとう。必ず勝つから、貴方の力を貸して」

 

 それに対して、こちらも一般人なりに可能な限りの誠意をもって応えることとした。

 以前不良から助けてくれた礼として、今度はこちらが助ける番だ。

 

「承知した。俺の全力を以て、君に勝利を捧げてみせる」

 

 そして彼女の了承をトリガーとして、初めて戦闘中に本格的な催眠の発動を開始するのであった。

 

 

 

 

 

 はい、裏ワザで一時的に終盤のステータスへ進化した皇女さまがマジでバチクソ最強すぎました。一クール目のラスボスを序盤に倒しちゃった……。

 

 俺が施したのはあくまで技の反動(バックファイア)を恐れる理性に対して無視をさせるという催眠──具体的には『まぁ本気を出しても怪我なんてしないでしょ』と思わせる意識に変えただけだったのだが、中盤以降から使えるようになるスゲー強い技もよく分からんうちに使ってた。めちゃくちゃすぎ。

 

 イフリーティアが勝利を収めた一方、別の場所で戦っていた映司も原作通り水瀬を倒しつつ説得し、違法すれすれの強化武装なんて無くても水瀬本人は十分強いと伝えたことで彼女も強迫観念から解放された。

 

 負けた上に強化武装を使わないのであればこの学園に居場所はない、と八つ当たりをするチームメイトに対しては冷静に対応し、その後自分の意志で俺たちの学園へ移籍して無事に二人目のチームメイトと相成ったのであった。よかったね! これからよろしく無表情系ヒロインさん。

 

 そう、そっちはいいのだ。

 何の問題もなく順調に仲間が増え、彼の輝かしいハーレムへの道筋が構築されていっている姿は感服の一言だ。

 問題は()()()である。

 

「──見つけたわよラルオット! アタシに催眠しなさいッ!!」

 

 あれから一週間。

 ほとんど使われていない廃れた旧校舎。

 さらにもっと人が訪れないであろう、物置になっていた広めの教室。

 そこを徹底的に掃除して過ごしやすい環境にしたうえで、以前『催眠の練習相手』を申し出てくれた伊々月結仁さんと二人きりで異能の勉強に勤しんでいたところ──なんか紅い少女がワケわからんこと言いながら勢いよく扉を開けて乱入してきやがったのだ。ビックリするから大きい音を立てないで……。

 

「……アリアさん?」

「あら、ユニ。ここで何を──」

 

 彼女が吶喊してきたタイミング。

 それは俺が伊々月にスマホの画面を見せている状況で、今まさに催眠をかけようとする瞬間であった。

 

「まて、誤解だ」

「……ラルオット。一緒に都市警備隊まで自首しにいきましょう」

「いやだから誤解なんだって。これは同意の上でトレーニングを──うおォわっ!? ちょまっ、剣を取り出すな! 炎を出すな! 一旦落ち着いて話しをアヂッ!!!」

「大丈夫、エイジにはアタシから上手く説明しておくから……ッ!!」

 

 

 ……

 

 …………

 

 

「勘違いしてごめんなさいでした……」

「あはは……そんなに落ち込まないで、アリアさん。初見ならたぶん正常な反応だったと思うから」

 

 気まずそうに冷や汗ダラダラで頭を下げるお姫様を宥めながら席へ座らせる黒髪の少女。

 いろいろな荷物を端へ寄せて、中央に机と椅子を固めたエリアで練習兼お茶をしているので、とりあえずイフリーティアもそこへ招くこととした、というのが現在の状況だ。

 

「ありがとユニ。……それにしても、放課後の特訓ってコレのことだったのね」

「うん、ラルオット君と少し時間をずらしてここに来て、お互いの異能を……って感じ」

「……こう言うとアレなんだが、二人って友達だったんだな」

 

 俺と机を挟んで向かい側に座っている二人の距離感はかなり慣れた友達のようで、その雰囲気は俺と鳴海の普段のやり取りを思わせる。

 

「アリアさんはラルオット君がバイトを休んでる間、よくお店に来てくれてたんだ。ほら、ウチって延焼防止シートの種類が多いじゃん」

「んもうっ、ユニったら。さん付けはいらないって前に言ったじゃない」

「ん、んん……でもお姫様を呼び捨てするのはちょっと。……あっ、それよりクッキー食べる?」

「頂くわっ!」

 

 多少の遠慮こそ入ってはいるが、クラスが別々かつこれと言って同じ集まりに所属しているわけでもない学生同士にしては、随分と仲が良さそうに見える。性格的に元々の相性がいいのかもしれない。

 ともあれ、まずは入室時のとんでもないセリフの真相についてだ。なにあれ。

 

「……で、イフリーティア」

「はい」

「自分に催眠しろって言葉の意味を聞いてもいいか」

「あ、あぁ……うん、そうよね、ちょっといろいろ先走っちゃってた。詳しく説明するわ」

 

 こほん、と咳払い一つ。

 一拍置いてから彼女は口を開いた。

 

「アタシに催眠をかけてほしいのよ」

「いや言ってること変わってないぞ」

 

 一言一句同じすぎます。

 

「だ、だから、えーと……」

 

 ──曰く、前回のあの催眠状態時の彼女の記憶が薄っすらと残されていたらしい。

 

 結論を先に言うと、イフリーティアはあのリミッター解除を()()()()()で行えるようになりたいらしく、非公式試合の記憶も朧げなためもう一度あの時と同じ催眠をかけてほしい、というのがここへ突撃してきたワケだったようだ。

 

「核心を掴みたいの。もっと強くなる為のヒントがあの状態に隠されてると思うから」

「……頼ってくれるのは嬉しいが、なんかちょっとズレてないか。反動への恐怖を乗り越えられたらそれだけであの強さを発揮できるんだ。同じチームの映司や水瀬とその特訓をやった方がいいだろ」

 

 こちらは至極真っ当な意見を口にしているはず。

 しかし彼女は食い下がり、諦めない。本当になんで。

 

「大会まであまり時間がないのよ。エイジも今はフブキの特訓で忙しいし、あの子もあの子で強化武装なしでの戦い方を見つける必要がある以上、まだアタシのトレーニングを理由に邪魔するわけにはいかないから」

「えっ──」

「……っ? アタシ、いま何か変なこと言った?」

「い、いや……そういうわけではないんだが……」

 

 マジで。原作じゃ主人公を取り合う関係性だったのに、二人きりの状況に対して嫉妬もしないのマジで。

 そりゃまあチームメイトだし映司との恋愛事以外ではそこそこ気が合う二人ではあるのだが、まだ出会ってから一週間余りだ。

 彼女から見ればポッと出の少女が、ほんのり好意を抱き始めているパートナーの男子との時間を奪っている形になるはずなのに、この落ち着きようは一体何事なんだろうか。

 

「ていうかラルオット君」

「うん?」

「アリアさんに催眠、使ったんだ」

「ま、まぁ……ほら緊急事態だったから。それに怪しいことは何も」

「それは別に疑ってないけど……かなり目立つ商業エリアでの決闘で催眠を使う姿、見せてもよかったの?」

 

 確かに合宿所の映像が出回ってそう日が経っていないうちにまた異能を発動してしまったわけだが、あれは突然の非公式試合で撮影する人間が少なかったうえ、物陰に隠れてこっそり催眠したため、そもそもイフリーティアを催眠した事実そのものが上手いこと公にはならなかったのだ。

 

「なんとか隠れたから、一応は」

「そうだったんだ。何も無かったのならよかった」

 

 その代わり決闘中に何もせずお姫様の足を引っ張ったクソザコのレッテルは張られたが。

 とはいえ変な噂をされるよりは百倍マシである。

 

「じゃあ……再開する? 異能特訓の続き」

「あぁ、そうだな。催眠するか」

「えっ」

 

 じゃあ事前に用意してた練習用の不思議な画像をまたスマホに表示させて、と。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい……!」

「どした」

「その……アンタ、どんな内容の催眠をユニにかけてるのよ」

「あー、それはだな」

 

 彼女の疑問も当然なので、机の上に置かれているファイルの中から一枚の紙を取り出し、それをイフリーティアへ手渡した。

 

「これが今回のお品書きになります」

「……無意識に歩けなくなる、短い指示で異能を簡易的に発動させる、術者の姿を認識できなくさせる……ふんふん。意外と実践的ね」

「まぁ全部ができるってワケでもないがな。メニュー通りの指示をしても効かない場合もあるし、あくまで目安だよ」

「……結構いろんな種類の催眠をされてるけど、ユニは大丈夫なの?」

「ふふっ」

 

 そんな彼女の心配を伊々月は優しい微笑みで返した。うおっシンプルに美少女。

 

「ラルオット君も私があんまり疲れない範囲でやってくれてるから。というか、どちらかというと私の異能の特訓に付き合ってもらってる時間のが長いんだ」

「ほ、ほえ……ユニってメンタル強いのね。ラルオットには申し訳ないけど、催眠をかけられる時ってちょっと怖くない……?」

「それは大丈夫だよ。催眠中はラルオット君に撮影してもらってるから」

「──さっ撮影ッ!?」

 

 ワードを聞いた瞬間にイフリーティアの上体が大きく跳ねた。さっきからまったく忙しない少女だ。

 誤解を招かないためにもここは俺から補足を入れておこう。

 

「メニュー表以上のことはしないって証明の為だよ。お互い証拠があったほうが安心するしな」

「それはそうかもしれないけど……二人きりで何週間もそれを続けてたのよね」

「まぁ準備に手間取ったからだいたい二週間くらいだな」

「…………むむむ、よくない」

 

 なんか呟いた。良くないって何がだろうか。互いに合意の上で行っているわけだが。

 

「ラルオットの異能は一旦置いておくとして、こんな誰も来ない静かな旧校舎の端っこで、男女が二人きりで撮影しながら秘密の勉強会……よくないわッ!」

「何がだよ……」

 

 具体的に良くない理由を説明できてない。それ極めて個人的な感想なんじゃないの。

 

「アンタだってお年頃の男なんだから! 男子高校生は一歩間違えれば獣だって図書館の本に書いてあったし……っ」

 

 たしかにちょっと前に先輩から図書館の利用は促されたが、何でそんな偏った内容の本を手に取っちゃったの、このお姫様……。

 

「ユニが優しいのをいいことに良からぬことを考える可能性も……!」

「めちゃくちゃな事を言いやがるなお前」

「ダメっ、現状維持は許可できないわ! お品書きの内容がいつピンク色に変わるか分かったものじゃないっ!」

「ピンク色なのはお前の脳内だろ!?」

 

 あと男子高校生全体への偏見が凄まじい! 普通に詭弁。

 

「お品書きは毎回アタシがチェックするから。ユニはアタシが守ります」

「まてまて、映司との特訓はどうするんだよ」

「どっちも疎かにはしないわよ! それからアタシがいる場合はアタシに催眠をかけなさいッ!」

「なんでそうなるんだ……!」

「……ん、ラルオット君との特訓中の催眠役は私なんだけどな。特訓に付き合ってもらってるお礼も兼ねてるから、ちょっと譲れないかも」

「いいえユニの為にもこればっかりはアタシも引けないわ! 催眠役をかけて何かしらで勝負よッ!」

「だからなんでそうなるんだ……っ!!?」

 

 どう考えても紅い皇女様の様子がおかしすぎるし何なら伊々月も謎の意地を発動してしまっている!! どうしよう! オッケーグーグル、この状況の解決策を教えて……。

 

 

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