長野県警の女関羽 作:長野組推し
ほな身体能力チートと直感あげるねー。
お、さんきゅ。
代わりに原作知識はぼっしゅーと。
は?
大体こんな流れ。
私の名前は
第二の人生を前世と大して変わらない日本の長野に受け、貰ったチート染みた身体能力で野山を駆け回る毎日を送り、女の子らしからぬ振る舞いで両親の頭を悩ませながら、すくすくと健康に元気爛漫な子供時代を謳歌した。
そして紆余曲折あって、今は長野県警の捜査一課に籍を置くお巡りさんとなっている。飛ばし過ぎ? まあ、語るほどのこともなかったのだ。
そんな私には幼馴染が二人いる。子供の頃からしょっちゅう遊んでいた諸伏高明と諸伏景光だ。
高明は私よりも歳上で頭の切れる優等生。子供の頃から優秀で、学校で謎めいた事件が起きても瞬く間に解決してしまう。そんなことからあだ名は三国志の軍師と名前の音読みからコウメイ。いつも無茶苦茶やらかす私とセットで、女関羽と孔明君とよく呼ばれていた。
まあ、矢鱈と難しい故事成語や言い回しを使う癖が珠に傷だが、そいつを抜きにしても自慢の幼馴染で、今や私の上司だ。
そんな高明の弟、景光。私よりも歳下で可愛い弟分だ。私を姉ちゃんと呼んで慕ってくれて、高明を遊びに誘う時はいつも後ろをついてくる、心優しい男の子だった。
だが両親を殺人事件で一度に失い、東京の親戚に引き取られてしまってからは直接的な交流が途絶えてしまった。
あの頃は酷かった。異変に気付いた私が駆け付けた時には諸伏家は血の海で、クローゼットに身を隠して難を逃れた景光は口がきけなくなってしまい、林間学校から戻ってきた高明も突然の両親の死に相当なショックを受けていた。
私自身も親しくしていた諸伏夫妻の死に衝撃を受けて、それでも二人の心が折れてしまわないように必死になった。その甲斐あって高明は持ち直せたが、景光の方は声を取り戻せないままお別れとなった。
悔しかった。人生二周目の癖して弟分一人の心も救えない自分の情けなさに涙が出た時もあった。ただ、東京で無二の親友を得て声も取り戻すことができたと手紙で報告を受けてからは、あまり心配することもなくなった。
東京の警察学校に入校して、そこで気心知れた仲間と出会い、諸伏夫妻を殺害した犯人を捕まえたという話を聞いた時は、高明と揃って目を丸くしたものだが。
今では警察学校を無事卒業し、高明にも負けないくらいに頑張っているそうだ。そのうち、折を見て直接顔を見に行くのも悪くないかもしれない。
そんな諸伏兄弟とは別に、小学校時代から付き合いのある幼馴染が他にも二人。高明に負けず劣らず頭が切れる大和敢助と、そんな敢助にほの字で私の妹分でもある上原由依。
この二人は村のお巡りさんこと甲斐巡査に憧れて仲良く警察官になった。憧れの甲斐巡査に恥じない刑事として活躍していたが、その甲斐巡査が流鏑馬の練習中に事故で崖から転落。事故と処理された事件に垣間見える謎を二人で追い続けている。
側から見てもお似合いのカップルなのは間違いないのだが、どういうわけかなかなかくっつこうとしない。見ていてヤキモキさせられることこの上なく、ちょくちょく二人の背中を押しててはいるものの、明確な進展には至らない。
特に敢助の方の朴念仁っぷりが酷い。分かりやすく由衣ちゃんがアピールしててもスルーするし、唐変木にも程がある。
それを言うと高明は呆れたように溜め息を吐いて、由衣ちゃんは同情するような目を高明に向ける。敢助に至っては、お前が言うなとばかりに睨んでくる。なんなんですかね、いったい。
まあ、いいか。長々と語ったが、此処からは私が長野の刑事として活躍する……活躍しているかな? そんな話を始めよう。
転生しても頭脳は大して変わらない。無闇矢鱈とフィジカルだけ強い女刑事。
その名は──
▼
「──一関! おい、あいつは何処をほっつき歩いてやがる!」
長野県警捜査一課に耳を劈く怒声が響く。声を上げているのは色黒で厳つい顔付きの男──大和敢助。その両眼は一課のデスクに座る面々を睨み付けるように見回していた。
「ちょっと敢ちゃ──大和警部。何もそんな怒鳴り込まなくても……」
肩を怒らせる敢助の後ろから声を掛けたのは長い髪を頭上でお団子に纏めた女性──上原由衣。青筋を立てる敢助を宥めようと声を掛けている。
しかし敢助は由衣の制止も聞かず、デスクに見知った顔を見つけるやズカズカと歩みを進めた。
「おい、コウメイ! てめぇの部下の一関は何処行った!?」
「敢助君。叫ばなくても聞こえていますよ」
怒鳴る敢助に溜め息を零しながらも応じたのは口元に特徴的な髭を生やした男──諸伏高明。理知的で涼やかな面持ちは、同僚の叫び声で微かに顰められた。
「聞こえてんならさっさと答えろ! あの馬鹿は何処をほっつき歩いてやがる!?」
「さて、先ほど休憩がてらコンビニに向かうと言った切りですが……」
「だろうなぁ!」
ばん! と高明のデスクに拳を叩き付ける敢助。余りにも目に余る振る舞いに高明の目付きがやや険しくなるが、続く敢助の言葉に口を噤む。
「ついさっき、所轄から連絡があった。近くのコンビニで強盗事件があったそうだ」
「それは……」
敢助の発言によって一課の面々が俄かに騒ぎ始める。強盗事件となれば一課の出動案件だ。すぐにでも出動できるよう立ち上がり始めるが──
「そのコンビニ強盗は、偶々居合わせた矢鱈と強い女がその場で鎮圧したんだとよ」
ずてん、と立ち上がりかけた刑事たちが揃ってずっこけた。その中で早くもオチを察した高明は疲れたように眉間を指で押さえ、最初から事情を知っていた由衣は困ったように苦笑いを浮かべている。
「その女は、猟銃を持った二人組の強盗犯をのして、外で待機していた仲間らしき三人組も全員しばき倒してどっかいっちまったんだとよ。現場に駆け付けた所轄の刑事たちが、事情を聞きてぇのに当人がいないから困ってんだよ!」
「随分と剛毅な女性がいたものですね」
「惚けんなよ、コウメイ。んなことできる女、あいつぐらいしかいねえだろうが!」
猟銃を持った強盗二人組を被害の一つもなく鎮圧。それどころか外の仲間も纏めて取り押さえる手腕。一般人どころか刑事であっても難しいだろう芸当だが、捜査一課の脳裏には同僚の女性の姿が過っていた。
高明も反論の余地がないと判断したのか、呆れ混じりの溜め息を吐く。すると図ったかのようなタイミングで捜査一課に能天気な声が響き渡った。
「すみません。一関、ただ今戻りました」
捜査一課の面々の視線が声の主へと一斉に向けられる。注目の的となったのはすらっと背の高い、明るい茶髪を腰まで伸ばした女性だった。
容姿は由衣に負けず劣らず整った美人。佇まいは大和撫子といった風体でありながら、名工が鍛えた刃物のような鋭さが滲み出ている。
そんな女性は浴びせられる視線の雨に気付くと首を傾げ、怪訝そうに目を眇めた。
「どうかしました? そんなに熱烈に私を見て……はっ、まさか私の美貌に見惚れて」
わざとらしく自身の身体を掻き抱く女性に対して、一課一同の大きな溜め息が零れる。確かに見た目だけは抜群に整っているが、中身が残念であるということを同僚である彼らは知っているのだ。
「何やら失礼極まりない視線を感じるわねぇ……」
あからさまにげんなりとした雰囲気に女性は目付きを刃物のように鋭くし、冷ややかな笑みを口元に湛える。それだけで部屋の温度がぐっと下がったかのような寒気が一課の面々を襲い、一同揃って下手くそな愛想笑いを浮かべて目を逸らした。
そんな空気を物ともせず女性の前に立つ男が一人。こめかみに青筋を立てた敢助はぎろりと女性を睨み付けて口を開く。
「よお、一関。随分と長い休憩だったじゃねぇか?」
「何をそんな怒ってんのよ、バカンスケ?」
「誰がバカンスケだ! 俺はてめぇより歳も階級も上だってこと忘れてんじゃねぇぞ!?」
「おっと失礼、口が滑りました。それでどうしたわけよ、大和警部殿?」
雑な態度で受け答えして女性──美羽はデスクに座ろうとする。しかし敢助の険しい眼光、同僚たちからの呆れ混じりの眼差し、そして何より直属の上司たる高明の有無を言わさぬ視線に動きを止めた。
「ええと、遅れたことに関しては申し訳ありません。ちょっと野暮用がありまして……」
遅れたことに関して咎められていると勘違いした美羽が頭を下げ始める。
「そりゃ野暮用だったろうな。コンビニ強盗犯をぶん殴って、何も言わずに姿を眩ませてりゃなぁ?」
「ぎくっ」
「ぎくって自分で言っちゃうのね……」
隠す気があるのか分からない美羽の態度に思わず由衣が呟いた。
すすーっと視線を明後日に向ける美羽を見下ろし、敢助は被疑者を詰めるような口調で続ける。
「強盗犯五人を素手で鎮圧、拘束した後に110番通報。サイレンが聞こえるやその場を後にした謎の女はてめぇのことで間違いないな?」
「身に覚えがないわね。通りすがりの親切で美人な格闘家でもいたんじゃない?」
「銃持ってる強盗犯を丸腰で制圧できるような女の格闘家なんざ早々いるわけねえだろうが!」
「もう少しまともな嘘を考えられないものですか……」
部下の醜態を見ていられないと高明が嘆く。決して頭が悪いわけではないのだが、時折知能指数が著しく下がってしまうことがある。馬鹿ではないが時々阿呆になるのだ。
「お前が行方眩ましたせいで現場の所轄が混乱してんだよ! 分かったらコウメイと一緒に現場へ戻りやがれ!」
「はいはい、了解しましたー」
「分かりましたよ、敢助君」
同僚たちの生温かい眼差しと、敢助の剣幕に追い立てられるように美羽と高明は現場へと向かう。
肩を並べて廊下を歩いていると、見計らったように高明が口を開く。
「何故現場から逃げたのですか?」
「休憩時間を過ぎていたから。遅れて何処かのインテリちょび髭に嫌味を言われたくなかったのよ」
「なるほど、所轄の刑事に手柄を譲り、自分に失点を付けたいがためではないと?」
「……なんだってそんな回りくどい真似をする必要があんのよ」
意味の分からない指摘に美羽はしらっとした目を向けた。対する高明は理知的な双眸でその視線を受け止める。
「ここ最近、課長から昇任試験を受けるよう勧められていましたね。ですが君はその勧めを断っていた。理由は定かではありませんが、君には昇任したくない訳があった。違いますか?」
「今のままでは試験に合格する自信がなかった、それだけのことよ」
「理由はともあれ、課長の勧めを避けたい君はこれ以上の実績を積みたくなかった。故にサイレンが聞こえるや否や、名乗ることもなくその場を辞した」
「…………」
「沈黙は金なり。肯定の意と取りますが?」
「……まったく、全て読めている癖に尋問まがいなことするんじゃないわよ、嫌味な人」
むすっとした顔で高明を軽く睨み、降参とばかりに美羽は肩を竦めてみせた。
「悪うございました、現場を放棄するような無責任な真似をして。おまけに後始末にまで付き合わせちゃって」
「そうですね。どんな理由があれ、現職の刑事が強盗の現場を放棄するのは職務怠慢も甚だしい。せめて駆け付けた刑事に引き継いでいればよかったものを……」
高明の尤もな指摘に美羽は返す言葉を持たず、罰が悪そうに目を逸らす。敢助たちの前では悪びれた様子もなかったが、内心では悪いと思っていたのだろう。
「後でちゃんと頭下げて回るわよ。始末書もきちんと書くし」
「それがいいでしょう……ああ、それと余談ですが。私は次の昇任試験を受験する予定です。課長にも既にその旨を伝えましたので」
「はぁ!? それを先に知っていれば、こんな無駄なこと……」
大袈裟に驚き、疲れたように溜め息を零す美羽。その様子を具に観察していた高明は何かを察したように口元に微笑を浮かべた。
「やはり、君が昇任を避けていた理由は私にあったようですね」
「まさか、鎌をかけて──」
「試験を受験するのは事実ですが」
ずてん、といっそ見事なまでのずっこけを披露する美羽。芸人ばりのリアクションだが、高明はそれに大した反応を見せることもなく流した。
美羽はすぐに気を取り直すと持て余した感情を吐き出すように息を吐き、やがて拗ねたように唇を尖らせ肩を落とした。
「貴方がさっさと昇任すればこんな回りくどい真似をすることもないんですけどねぇ、諸伏高明警部補殿。私は今のところ、コウメイ以外の下に付く気はないんだから」
美羽は現時点で巡査部長、高明は警部補。階級的にも年齢的にも美羽が部下で、高明が上司の立ち位置だ。美羽はその関係性に何か拘りがあるようだった。
「なるほど。では、君に一言」
高明は呆れ半分の眼差しを美羽に向ける。
「火中の栗を拾うような真似はやめなさい。君に気を遣われなくとも、何も問題はありません」
「はいはい、そうですかー。余計なお世話を働いてしまいましたねー、じゃあ私も大人しく受験させて頂きますよ」
ふんと鼻を鳴らして美羽はずかずかと足早に廊下の先へと消えていく。分かりやすく不貞腐れた態度だ。
高明は美羽の不機嫌な背中を見送り、ふっと微苦笑を零すと置いていかれまいと歩みを早めた。
コウメイ、難しい。難しい言い回しばっかりで大変……。