長野県警の女関羽   作:長野組推し

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 昔のコナンから見直してます。初期のコナン君は顔が丸いなぁ……。


昼下がりの長野組

 昼時で賑わう食堂の一角。ごく当たり前のように席を共にする男女が四人いた。長野県警軍師コンビこと敢助と高明、そしてその部下の由衣と美羽だ。

 

「じゃあ美羽姉さんも昇任試験受けたの?」

 

「ええ。隣の孔明被れは一足先に警部に昇進したみたいだけど、私はどうかしらねぇ……」

 

 由衣からの問い掛けに美羽はやや自信なさげに苦笑う。転生で授かったチートは身体能力にほぼ極振りであり、頭の中身に関しては自前なのだ。優秀な頭脳を持つ幼馴染の高明に引き摺られて前世よりは真面目に勉強しているものの、側にいる軍師コンビと比べてしまうとどうしても不安が拭えない。

 

「美羽姉さんならきっと受かってるわよ」

 

「ふふっ、お世辞でも嬉しいわ。まったく、そこで呑気に蕎麦を啜っている男共も、由衣ちゃんの優しさの欠片でも見習えばいいものを……」

 

 話題に上がった高明と敢助は澄ました顔で蕎麦を啜っている。敢助は既に警部である以上言わずもがな、高明も今回の試験で一足先に警部に昇任済みで涼しい顔付きだ。

 

「はっ、優しくして試験に合格できるんならいくらでもしてやるがな。ま、心配するなよ。落ちていたらその時は、教師役のコウメイ共々笑い飛ばしてやるからよ」

 

 挑発的に敢助は吐き捨てる。言動こそ乱暴だが、その言葉の裏には美羽と高明の実力に対する信頼が滲んでいた。

 

「人事を尽くして天命に()かす。君がベストを尽くしたのであれば、不安を覚える必要もないでしょう。まあ、私は天に任せる余地も早々なかったので気持ちは分かりかねますがね」

 

「あん? それは私に対する嫌味かしらねぇ、ん? ん?」

 

 やや喧嘩腰に美羽が突っ掛かる。人事を尽くしたとはいえ不安が残る美羽にはクリティカルで突き刺さる言葉だった。

 

 ぐりぐりと肘で小突く美羽とされるがまま気にした様子もない高明。子供みたいなやり取りに敢助は馬鹿馬鹿しいと白けた目を向け、由衣が苦笑しながら姉貴分を宥めにかかる。

 

「おら、いつまでも馬鹿やってねーでさっさと仕事に戻るぞ。行くぞ、上原」

 

「あ、待ってよ敢ちゃん!」

 

 一足先に席を立つ敢助を由衣が慌てて追いかけていく。この二人は二人で上司と部下の関係だけにしては随分と近い距離感だ。

 

 早くくっついてしまえばいいものを、などと他人事のように呟く美羽を高明が呆れ混じりに見下ろしながら溜め息を零した。高明のスマホに着信が入ったのはその直後だった。

 

 高明は懐からスマホを取り出して通話の相手を確認すると僅かに目を丸くする。普段からポーカーフェイスを貫く高明にしては分かりやすい表情の変化に、美羽は電話の相手が誰なのか気になった。

 

「失礼、少し席を外します」

 

 一言断ると高明は足早に食堂の隅、人気のない場所へと向かいそこで通話を始めた。

 

 ずずっと湯呑みのお茶を飲みながら美羽は上司の背中をじっと見つめる。電話の相手は誰だろうと考えていると、高明の様子が変わった。

 

 離れていても分かるくらい動揺した様子で通話相手に呼び掛けるが、強引に通話を切られてしまったのか石像のように硬直する。すぐに掛け直しを始めるも繋がらないのか、何度かの試みの後にスマホを懐に仕舞い込んだ。

 

 食堂の隅で小さく嘆息を零した後、高明が席に戻ってくる。何事もなかったかのように常のポーカーフェイスを装っているが、付き合いの長い美羽には何かを隠しているのが丸分かりだった。

 

「すみません、戻りました」

 

「いいえ。電話の相手を聞いても?」

 

「それは……」

 

 高明は答えるか否か少し考え、美羽の物言いたげな眼差しに負けて口を開く。

 

「弟の景光からでした」

 

「ヒロから?」

 

 高明の弟である諸伏景光。長野在住の親戚に引き取られた高明とは違い、東京の親戚に引き取られた、美羽にとって弟のような存在だ。

 

 姉ちゃん姉ちゃんと慕ってくれた景光のことを、美羽はそれはもう可愛がっていた。離れ離れになった今でも、高明越しとはいえ手紙のやり取りを続けていることからも、その可愛がり振りが窺えるだろう。

 

「電話をしてくるなんて珍しいじゃない。元気そうだった?」

 

「どうでしょう。警察を辞めたとだけ言って、碌に会話もせず切られてしまいましたので」

 

「……は、え?」

 

 予想だにしない返答に美羽は言葉にならない声を上げる。よもや昼時に可愛い弟分が警察を辞めたなどという情報爆弾を食らうとは思ってもいなかったのだ。

 

 理解が追い付かず混乱する美羽とは対照的に、実の兄である高明は表面上こそ平然とした様子だ。

 

「警察学校を卒業して、頑張っているって言っていたじゃない。それが、どうして……」

 

「さて。理由を尋ねる間もなく、電話を切られてしまいましたので」

 

「他には何も言ってなかったの?」

 

「別の仕事に就いたから心配は要らない、と」

 

「えぇ?」

 

 納得がいかないとばかりに表情を歪め、美羽は苛立たしげに頬杖を突いた。その視線は澄ました顔で蕎麦を啜っている高明に向けられている。

 

「……コウメイは、それで納得しているわけ?」

 

「思うところはあれど、私も景光も自立した大人。それに、景光は自分自身の手で私たち家族の因縁にも決着をつけた。私が心配するまでもないでしょう」

 

「その割に、納得できないって顔にくっきり書いてあるけど?」

 

 美羽の指摘に、蕎麦の器に口を付けていた高明の動きが止まる。高明らしからぬ分かりやすい反応に、美羽はくすくすと笑みを零した。

 

「なによ、ちゃんと心配しているじゃない──高明にーちゃん」

 

「…………」

 

 美羽の揶揄い混じりの物言いに高明は半目で隣を睨む。物腰穏やかな高明だからイラッとしても手を出さないが、これが敢助なら普通に引っ叩いていたところだろう。

 

 高明の苛立ちを察しながら、美羽は特に気にした素振りも見せずに続ける。

 

「それじゃあ、直接会いに行くとしますか。今週は急だし、来週か再来週の土曜ね。新幹線なら日帰りでいけるでしょう」

 

「……は?」

 

 突拍子もない美羽の提案に高明は柄にもなく間の抜けた反応を返す。頭の回転が早い高明をもってしても、この急展開は予想できなかった。

 

「それは、いくらなんでも急が過ぎます。景光も突然押し掛けては迷惑でしょう」

 

「思い立ったが吉日って言うじゃない。前もって連絡すれば、ヒロも怒らないだろうし。東京観光がてら顔を見に来たって言えば、言い訳も立つ。どう?」

 

「その連絡が取れなければ?」

 

「連絡が取れないなんてむしろ探しに行かなきゃならない案件でしょうが。音信不通ってことよ、それ」

 

 美羽のど正論に然しもの高明も黙り込む。折り返しが繋がらなかっただけなのでまだなんとも言えないが、以降も連絡が取れない状況が続けばそれ即ち音信不通であることに変わりはない。

 

 とはいえ、電話に応じてもらえないだけで大の大人が長野から東京まで出向くというのもどうかと思うが、電話越しの景光の態度に不自然なものを感じたのも事実だ。

 

 逡巡する高明に対し、美羽はその背中を押す意味合いも込めて口を開く。

 

「コウメイが行かないのなら、私一人で出向くけど……あぁ、きっとヒロは寂しがることでしょうね。血の繋がりのない姉貴分は来てくれたのに実の兄は来てくれない、なーんて」

 

 わざとらしい身振り手振りに泣き真似まで加え、美羽はちらちらと高明を見やる。

 

「……強引なところは変わりませんね」

 

「あら、知らなかったの?」

 

 口元を手で隠して美羽は悪戯っぽく目を細めた。

 

「いいえ、昔からよく知っていますよ。全く……」

 

 やれやれと首を振りつつも、高明はその口元に薄らと微笑を浮かべる。美羽なりの乱暴な気遣いが、高明には心地良く感じられた。

 

「故に兵は拙速なるを聞くも、未だ功久なるを睹ざるなり」

 

「なんて?」

 

「作戦を練るのに時間をかけるよりも、少々拙い作戦でも素早く行動して勝利を得ることが大切という意味です。兵は拙速を尊ぶ、なら分かりますか。少々性急ではありますが、東京へ向かうのは来週の土曜にしましょう」

 

「最初からそう言えばいいじゃない、分かりづらい……」

 

「ところで……」

 

 高明はすっと隣に視線を流す。

 

「当然のように私と二人旅をするつもりのようですが、君は構わないので?」

 

「何を今更? 今までも二人で張り込みすることもあれば、二人きりで他県に出張することもあったじゃない」

 

「……いえ、そうでしたね」

 

 頭痛を堪えるように眉間を抑える高明に、何を苦悩しているのか理解できず美羽は首を傾げた。

 

 子供の頃からであったが、美羽は異性との距離感がバグっている。特に付き合いが長い高明に関しては、同じく幼馴染である敢助と由衣でも突っ込みを入れたくなるくらいには色々とおかしい。

 

 しかし今更指摘したところで美羽の態度が直るとも思えない。振る舞いに関しては初対面と目上の相手に対しては猫を被れるように、由衣と高明の二人がかりで()()()()矯正できたものの、それでも中身が残念美人レベルなのだ。

 

 あの頃は大変だった、と高明は遠い目で過去に思いを馳せる。中学生になっても男児に混じって野山を駆け回り、口の悪さは敢助とタメを張るレベルのじゃじゃ馬だった。

 

 呂布の赤兎馬でももう少し大人しいのでは? と当時の高明は本気で思ったものである。

 

 この幼馴染を野生児のまま成長させては四方八方に迷惑を振り撒きかねない。そう危惧した高明は当時から美羽を姉さんと慕っていた由衣と共謀し、あの手この手を尽くしてどうにか自身が女性である自覚を持たせたのだ。性格がひん曲がり気味になってしまったのは矯正の弊害だろうが、そこまでは高明の与り知るところではない。

 

 美羽の両親が涙ぐみながら感謝の言葉を告げたあの日のことを、高明は未だに忘れられない。

 

 美羽も高明も知らない。地元の名士である美羽の実家が、野生男児同然だった美羽を辛うじて一般女性にまで矯正した高明を密かに身内に引き入れようと画策していることを。それを知ることになるのは、まだ先の話である。

 

「朝一の新幹線が取れたわ。遅れたら置いていくからね?」

 

 高明が遠い過去に思いを馳せている間に美羽は東京行きの計画を推し進めていたらしい。こうと決めたら一直線の幼馴染に呆れつつも、高明は頷きを返すのだった。

 

 

 

 

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