長野県警の女関羽   作:長野組推し

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動転する黒い闇

 三枝の首が発見されたのは松代大橋に置かれたモニュメントの台座の上だった。

 

「まさか三枝警部が殺されるなんて……」

 

 規制線で囲われたモニュメント付近を眺めながら、美羽が何とも言えない複雑な表情で呟いた。

 

 これから悪事を暴こうとしていた相手が、よもや殺されてしまうとは思いもしなかったのだ。しかも胴体は行方不明、首だけが発見されるという凄惨な有様である。

 

「首を発見したのは橋を通り掛かった通行人。角膜の濁り具合から、死亡推定時刻は昨夜の七時から十時ごろ。首を切断したのは切れ味の鋭い、恐らくは日本刀に準ずる刀剣類とのこと」

 

「首だけこんな目立つ場所に置いたのは誰かに発見させるためだとして、胴体は何処にやったのかしら……」

 

「橋の近辺を捜索していますが、未だ見つからず。犯行に及んだ現場に残されているか、何らかの理由があって隠されているか。何れにせよ、人の形を保っているか怪しいところですが」

 

「そんなに酷い状態だったわけ?」

 

 美羽の問い掛けに高明は無言で写真を差し出す。鑑識が撮影した発見当時の現場を撮影した写真だ。

 

 写真を受け取り目を通した美羽は、うっと声を上げ顔を引き攣らせた。

 

 写真に写っている三枝の首は酷い有り様だった。瞼こそ閉じているが顔中太刀傷だらけの血塗れ。特に額の部分には目立つような斜め十字の切り傷が刻まれている。刑事として凄惨な現場に慣れている美羽でも夢に見そうな惨状だ。

 

「酷い有様ね……」

 

「首から上だけでその惨状ですので、胴体はもっと悲惨な状態になっていると考えるのが自然かと」

 

「仏様にこんなこと言うものじゃないけど、どんな恨みを買えばここまでされるのよ」

 

「さて、それは調べてみない限り何とも言えませんが……」

 

 高明が血で濡れたモニュメントの台座を見やる。常のポーカーフェイスを崩し、切れ長の目をより一層鋭く細めた。

 

「どうやら我々は不覚を取ってしまったようですね。それも──」

 

「──何処ぞの誰かに、まんまと漁夫の利を取られちまったわけだ」

 

 背後から響いた聞き慣れた声に美羽と高明が反射的に振り返る。そこには色黒で厳つい顔付きの敢助がいた。

 

「敢助!? なんでここに? 由衣ちゃん放ってきたの!?」

 

 血相を変えて美羽が詰め寄る。敢助は掴み掛からんばかりの美羽の頭を片手で抑え、しれっと答える。

 

「容態は安定しているから心配いらねぇよ。意識は戻っていないがな」

 

「そうじゃなくて! いや、それもだけど!?」

 

「落ち着けよ、一関。状況が変わったんだ。俺も、何時迄も上原の側でじっとしているわけにはいかないだろうが」

 

「でも!」

 

「それに、連中に上原を付け狙う余裕なんざもう残っちゃいねぇよ」

 

 由衣の身の安全を心配する美羽を宥めつつ、敢助は横目に竹田班の様子を伺う。

 

 竹田と鹿野は昨夜の挑発的な態度とは打って変わり、美羽たちを警戒するように距離を取っていた。何やらコソコソと言葉を交わしているようだが、どんな会話をしているかまでは分からない。

 

 ただ、二人の目には何かに対する怯えや恐れのような感情が滲んでいた。

 

 そんな竹田班の様子を軽蔑するように敢助は鼻を鳴らした。

 

「連中は俺たちにやり返されたとでも思っているだろうからな。迂闊に手を出せば、次は自分が殺されるとでも思ってんじゃねぇか?」

 

「……まさか()っちゃった感じ、敢助?」

 

()るわけねーだろ、馬鹿が!」

 

 ポカンと殴られて美羽が頭を抑えて呻く。場の空気を和ませようという冗談であったが、流石に度が過ぎてしまったようだ。

 

 足ばかり動かして頭を動かす気のない美羽に溜め息を吐き、敢助は自分と同じ結論に至っているだろう高明へと目を向けた。

 

「おい、コウメイ。分かってんだろうな?」

 

「勿論。この殺人は始まりに過ぎず、犯人は次の標的を虎視眈々と狙っている。一課の面々に送られたメールの内容からしても、間違いないかと」

 

「そうだ。早いところホシを確保しないと、ごろごろと死体が転がる羽目になるかもしれねぇぞ。それこそ、戦国乱世の戦場(いくさば)のようにな」

 

 敢助の低い呟きに高明が同意するように頷く。側で耳を傾けていた美羽は殺人が続く可能性に顔付きを険しくした。

 

「連続殺人だとしたら、次の標的は誰?」

 

「標的に関しては、確証はないが目星がついてる。本人たちも、命を狙われる心当たりがありそうだしなぁ?」

 

「三枝警部──いえ、犯人から送られたメールの内容に関しても、何かしら心当たりがあるやもしれませんね」

 

 そう言って敢助と高明は視線を同じ方向に流し、はっと目を見開く。警戒するように敢助たちから距離を取っていた竹田の隣にいたはずの鹿野が、ほんの少し目を離した隙に居なくなっていたのだ。

 

「おい、鹿野さんの姿が何処にも見当たらねぇぞ!?」

 

「……拙いですね」

 

 敢助が慌てて周囲を見回し、高明が険しい顔付きで呟く。二人の傍にいた美羽も鹿野の姿を探すが影も形もない。

 

 美羽がきょろきょろと周囲を見回しているとその肩が後ろから叩かれる。振り返るとそこには不思議そうな顔をした油川が立っていた。

 

「どうしたんです、一関刑事? みなさんも、そんなに怖い顔して」

 

「油川君……」

 

 油川に話しかけられた美羽はその顔を見つめ、はっと目を見開くとその両肩を勢いよく掴んだ。

 

「油川君、鹿野警部補が何処に行ったか知らない?」

 

「鹿野さんですか? それらならさっき、調べたいことがあるからって車に乗っていきましたよ。多分、本部の資料室に向かったんじゃないですかね」

 

「なんだと? そいつは本当か?」

 

 美羽の肩越しに敢助が身を乗り出す。険しく歪められた敢助の悪人面のアップに油川は反射的に身を引き、若干顔を引き攣らせながらも肯定した。

 

「は、はい。焦った様子だったので声を掛けたら、そう言ってましたよ……」

 

「ちっ。コウメイ、一関。俺は鹿野さんの後を追う。お前たちは竹田の親父を見張っておけ!」

 

「承知」

 

「任されたわ」

 

 鹿野の後を追って敢助も本部へと戻っていく。その後ろ姿を見送り、美羽と高明は決して目を離さまいと竹田を睨むように見据える。二人からの視線に気づいた竹田は居心地悪そうに首を竦めながらも捜査を続けた。

 

 その後、県警本部に戻った敢助から美羽と高明に連絡が入る。鹿野は県警本部に戻っておらず、行方が分からなくなってしまったと。

 

 事態を重く見た美羽と高明は警戒されていることも承知の上で竹田に班員である鹿野の行方を問い質すが、竹田も油川と同じく調べものに戻った程度しか知らず、鹿野の行方は不明のまま。連絡を試みるも電話は繋がらず、行方が分からないまま焦燥ばかりが募り続けた。

 

 行方不明となった鹿野の居場所が判明したのは昼過ぎのこと。行方を追って彼方此方探し回った敢助が、自宅の書斎にて首に縄を掛けられて無残な絞殺体となった鹿野を発見したのだ。

 

 首を縄で吊られた鹿野の額には、三枝と同様に斜め十字の傷がくっきりと刻まれていた。

 

 

 ▼

 

 

「三枝警部に続き、鹿野警部補まで……」

 

 床に下ろされた物言わぬ鹿野の骸に手を合わせ、美羽は忸怩たる思いで呟く。銃の横流しに関わっていた可能性はあれど、三枝も鹿野も同じ職場の仲間だったのだ。その死を悼む心はあった。

 

 美羽と同じく手を合わせていた高明がすぐそばに立つ敢助を見上げる。遺体の第一発見者となった敢助は悔しげに顔を歪めて佇んでいた。

 

「敢助君。君はどういった経緯で此処へ来たのですか?」

 

「県警本部に鹿野さんが戻ってないことを知って、他に行きそうな場所ってことで自宅を訪ねたんだ。鹿野さんは捜査資料の予備を自宅に保管していたからな。本部じゃなく、こっちに戻ったんじゃねぇかと考えたんだ」

 

 敢助の視線が壁際に置かれた本棚に向けられる。そこには複数の本棚が置かれており、中にはファイリングされた大量の捜査資料の予備が保管されていた。

 

「なるほど。そして絞殺体となった鹿野さんを発見したと……」

 

「ああ。まんまと犯人に先を越されちまった」

 

 不甲斐なさと己への怒りに震える敢助。鹿野が狙われる可能性が高いことを知りながら、みすみす犯人の手で殺されてしまったのだ。明らかな失態である。

 

「それにしても、鹿野警部補はなんだって一人で自宅に戻ったりしたのよ。今朝のあの様子からして、自分が狙われる可能性には気付いていたっぽいのに……」

 

 不思議そうに美羽は小首を傾げる。的外れな警戒ではあったものの、鹿野は美羽たちに命を狙われているかもしれないと身構えていたのだ。にも関わらず竹田と別れて単独行動し、果てに犯人の手に掛かって殺されてしまった。

 

 余りにも不用心な鹿野の行動が理解できず美羽が小さく唸りながら頭を悩ませていると、今まで美羽たちを警戒して距離を取っていた竹田が声を上げた。

 

「それは三枝をやった犯人に目星が付いたからだ。そうだろう、大和?」

 

「あ? 急に何を言ってやがる」

 

 喧嘩腰に敢助が問い返すと、竹田はその手に持っていたスマホを突き付ける。竹田のスマホではない。状況からして鹿野のスマホだろう。

 

「書斎のデスクの下に落ちていた鹿野のスマホだ。見てみろ。着信拒否リストにお前の名前があるだろう。鹿野はお前が三枝を殺した犯人だと確信し、居場所を探られないように着信拒否にしていたんだ」

 

「おいおい、そんな不確かな証拠だけで俺が犯人だと? 笑わせるなよ、竹田班長。だいたい、なんだって俺が三枝さんと鹿野さんを()なくちゃならねぇんだ。動機がないだろ、動機が」

 

「動機ならあるぞ」

 

 そう言って竹田は一つのファイルを開いて突き出す。開かれたファイルに綴じられていたのは五年前に起きた銃乱射事件の捜査資料だった。

 

 突き出された捜査資料を見て敢助はあからさまに目を見開いて驚愕した。その反応から形勢の有利を悟ったのか、竹田が強気な態度で続ける。

 

「覚えているだろ。拳銃を持った薬物中毒者が銃を乱射した事件。俺が現場判断で被疑者を射殺したあの一件」

 

「……忘れるわけねぇだろうが。何せその被疑者は俺の親友(ダチ)で、目の前で脳天をブチ抜かれたんだからな」

 

 苦々しげな声音で敢助はその捜査資料を睨み据える。竹田班の一員として、当時の現場に敢助も居合わせたのだ。忘れられるはずもない。

 

 被疑者は敢助の幼い頃からの友人だった。その仲の良さは子供の頃の由衣が嫉妬して美羽に泣きついた程のもの。腐れ縁といっても過言ではない高明にも次ぐ、敢助にとっては大切な親友だったのだ。

 

「お前はあの事件で親友を射殺した俺と、それを止められなかった同じ班員の三枝と鹿野を恨んでいた。だから殺したんだろう?」

 

「確かに、あいつを射殺したことに関して思うところがないとは言わない。だが、現場に駆け付けた時点で一般市民に死傷者が出ちまっていた。射殺もやむなしの状況だったのは重々理解している」

 

「だが納得はできなかった。だから三枝と鹿野を殺した。親友が撃ち抜かれた額を暗示するように、ご丁寧にバツ印まで刻んでな」

 

「────!」

 

 竹田の自信満々な推理に敢助は何かに気付いたように目を見開き、次いで口元に不敵な笑みを浮かべる。殺人の疑いを掛けられているにも関わらず、その表情は全てを見透かしたように得意げなものだった。

 

 敢助は一瞬だけ高明に目配せを送る。目配せを受け取った高明はその意図を正しく察し、今にも竹田に飛び掛かりかねない様子の美羽の背後に立った。

 

「ちょっと待ちなさいよ、竹田警部。いくらなんでもその推理は無理が──むぐっ!?」

 

「しばし静観を、美羽」

 

 背後から唐突に口を塞がれた美羽は目を白黒させる。反射的に口を塞いでいる上司を床に沈めようと身構えて、後ろから何事か耳打ちをされると大人しくなった。ただ高明を見上げる眼差しは不満たらたらであったが。

 

 高明から解放されても美羽が騒がないことを横目で確認して、敢助は改めて竹田と対峙する。

 

「いいぜ、竹田さんよ。そんなに俺を犯人扱いしたけりゃすればいい。取調べだろうと尋問だろうと受けてやるよ。あんたが納得するまでな」

 

 吐き捨てるように言って敢助は書斎を後にする。その後に続くように竹田もその場を辞した。残されたのは鑑識と現場検証に従事していた油川含む一課の刑事と所轄の刑事たち、そして美羽と高明だ。

 

 美羽は己の上司を見上げると開口一番に不満と疑問をぶつける。

 

「それで、部下の口を無理やり塞いだ軍師殿はどんな考えを持っているわけ?」

 

「これ以上、犠牲者を増やさないため。敢助君は次の標的になる可能性の高い竹田警部を釘付けにするため、自ら取調べをさせるように仕向けたんです」

 

「……なるほど。取調べなら県警本部に留まることになり、他の刑事たちも立ち会う。これ以上に安全な場所はないってことね」

 

「いかにも。同時に、竹田警部から情報を得る絶好の機会でもある。故に敢助君は穴だらけの推理に異を唱えることもなく、唯唯諾諾と従った」

 

 高明の説明に一応の納得はしたのか、美羽は不満の矛先を納める。とはいえ消化しきれない感情は残っているようで、むすっとした顔でそっぽを向いた。

 

「理屈は分かったわよ。つまり、私たちは敢助が竹田警部を抑えている間に真犯人を捕えなければならない。そういうことね?」

 

「ええ。ここからは時間との戦い。これ以上の狼藉を認めるわけにはいきませんので」

 

 高明の言葉に美羽は力強く頷く。同じ職場の仲間である警察官を二人も殺されてしまったのだ。それも銃の横流しに関わっていたかもしれない、重要な情報を持っていただろう人物をだ。これ以上の犯行を見逃すわけにはいかない。

 

「コウメイ。私は一度車に荷物を取りにいくわ。そのあと、近隣住人の聞き込みに回ってくるから」

 

「分かりました」

 

 高明に一言断りを入れ、美羽は現場を後にする。するとややあってから油川が思い立ったように声を上げた。

 

「じゃあ、自分も聞き込みに回りますね。数を掛けたほうが、犯人らしき人物の目撃情報を得られる可能性も上がるでしょうし」

 

 では、と少し慌ただしい様子で油川も現場を出ていった。現場に残った鑑識や他の刑事たちは油川の妙な態度に首を傾げたものの、数秒後には忘れて職務に戻った。

 

 ただ一人、高明だけは油川が出ていった扉を睨むように見据えていた。

 

 しばし扉を見つめていた高明は徐にスマホを取り出すと電話を掛け始める。呼び出しのコールが耳元で響く中、高明の視線が書斎のデスクに置かれた捜査資料のファイルに留まった。

 

 スマホを耳に当てながら高明は資料のページを捲る。

 

 五年前に起きた薬物中毒者による拳銃の乱射事件。当時現場に駆け付けたのは竹田班──竹田、鹿野、三枝、そして敢助の四人。四人が駆け付けた時点で拳銃の乱射による死傷者が出ており、竹田の現場判断により被疑者は額を撃ち抜かれて死亡した。

 

 竹田が敢助に見せつけたページには額を撃ち抜かれた被疑者の写真が貼付されていた。そして今、高明が見ているページにはその事件で被疑者が乱射した拳銃の流れ弾によって命を落とした犠牲者の写真が貼付されている。

 

 奇しくも竹田によって射殺された被疑者と同様、額を撃ち抜かれた哀れな犠牲者。その名前は──

 

 

 ▼

 

 

「ええ、はい。分かったわ──」

 

 鹿野の自宅付近に停めていた車に凭れ掛かりながら美羽は電話をしていた。真剣な顔付きで相手の言葉を一言一句聞き逃さまいと耳を傾けている。

 

 しばし通話を続けていた美羽は近付いてくる人の気配に気付く。見れば鹿野の自宅から出てきた油川が妙に慌てた様子で向かってきていた。

 

「話は大体分かった。後はこっちで上手くやるわ」

 

『────』

 

 電話口からやや焦り気味の声が響くも美羽は一方的に通話を切断。スマホを懐に仕舞うと油川に向き直った。

 

「どうかした、油川君?」

 

「あ、一関刑事。実は、ちょっと見てもらいたいものがあって……」

 

「見てもらいたいもの?」

 

 唐突な申し出に美羽は怪訝な顔をする。しかし続く油川の言葉に顔色を変えた。

 

「上原刑事を轢き逃げした犯人に繋がるかもしれない証拠を見つけたんです」

 

「本当に!?」

 

 目の色を変え美羽は油川に掴み掛からん勢いで詰め寄る。

 

 捜査を担当していた竹田班の三枝と鹿野が殺され、由衣の轢き逃げ事件に関しての捜査は停滞してしまっていたのだ。そこに轢き逃げ犯に繋がるかもしれない証拠が出てきたとなれば、美羽が過剰反応してしまうのも無理はない。

 

 凄まじい剣幕の美羽に油川は驚きながらもこくこくと頷きを返した。

 

「轢き逃げの現場付近で住人が撮影していた写真なんですけど、一関刑事にも見てもらいたくて。ただ、スマホを車に置き忘れちゃったので……」

 

「分かったわ。すぐに油川君の車に向かうわよ」

 

「は、はい。こっちです」

 

 油川の案内で美羽は鹿野の自宅から離れていく。閑静な住宅街の道をしばらく歩いていると、人気のない路地に油川のものらしき車が停まっていた。

 

「またどうしてこんな場所に車を……」

 

「あはは、鹿野さんの家の場所を勘違いしてしまって……」

 

 恥ずかしそうに頭を掻きながら油川は助手席のドアを開き、助手席側のダッシュボードに置き忘れられていたスマホを手に取る。その時、グローブボックスを開いて何かを一緒に取り出した。

 

「ええと、見て頂きたい写真は……これです」

 

 スマホを操作して該当の写真を呼び出すと油川はスマホごと美羽に差し出す。受け取った美羽は画面に表示された写真に視線を落とし、愕然と目を見開いた。

 

「この写真は……!?」

 

 写真にはフロント部分が激しく損壊した車と、そんな車を置き去りにして逃走しようとしている人物の姿が写っていた。車は由衣を轢いたものに間違いない。

 

 では、その車を置いて逃げようとしている人物は誰か。答えは美羽もよく知っている人物だった。

 

「三枝警部……まさか、彼が由衣ちゃんを轢き逃げした犯人?」

 

 写真に写っていた人物は今朝方無惨な有様で発見された三枝守その人だった。

 

 写真の中の三枝は酷く焦った様子で、周囲を気にしながら走り去ろうとしている真っ只中だった。恐らくはこの写真を撮られたことにも気付いていないだろう。

 

 尋常ではない様子の三枝と轢き逃げ犯の車の組み合わせ。三枝が由衣の轢き逃げの当事者であることは誰が見ても一目瞭然だ。

 

「油川君。この写真をいったいいつ、何処で──」

 

 写真の出所を尋ねようと顔を上げた美羽は、唐突に距離を詰めてきた油川に目を見張る。そして次の瞬間、青白い火花を散らすスタンガンが美羽の腹部に押し当てられた。

 

「ぅあ──」

 

 小さな呻き声を上げて美羽の華奢な身体が崩れ落ちる。意識を失い力なく地面に倒れ伏した美羽はぴくりとも動く様子がなかった。

 

 スタンガンを手に持った油川は無機質な瞳で職場の同僚である美羽を見下ろす。その口元には普段の気の抜けそうな笑みではなく、酷薄な薄笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

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