偽約 とある魔術の分岐世界(パラレルシフト) 作:LIMITER
「……チッ。 帰りたけりゃァ要求を飲めっつーことかよ。 まンま脅迫文じゃねェか」
「端的に言えばそうなるよな」
リビングにある食卓を囲む椅子に座る三人。
その一人である濁った白髪に白い肌の端整な顔立ち、それとは対照に赤い目をした齢一五、六の少年、
上代は一方通行の横に座っている黒髪のツンツン頭に冬用学生服を着た同い年の少年、
あれから少しして目を覚ました二人に上代が現状の説明をしているところである。
「でも、具体的になにをすればいいか分かんねぇよな。 誰々を救えなんて書いてないし、仮に『世界中の人達を片っ端から救え』とかだったら、どんなに頑張っても俺達だけじゃあできないし……」
手紙をひらひらと揺らし呟く上条。 彼の言うように〈『不幸な結末』を『最高な結末』に変えてくれ〉とは書いてあるが具体的な事は一切書かれていない。
手紙によれば『ガイド』とやらが付いてる筈なのだが……それらしきモノは依然として影も形もない。
「……『
「『最強の精神系能力』で読み取って、それに『嘘は一つもない』って出た。 あと俺は『多重能力者』って名前じゃないからな」
「……そォかよ」
一方通行の言う『多重能力者』とは、複数の超能力を扱える者を指す言葉で、超能力は一人に一つだけ(それ以上は脳への負担が大きいため)と定義されている『学園都市』のどこかに居るのではないかと噂されている迷信だ。
上代の能力は『多重能力者』とは違う……のだが、それを見た者(科学サイドの者)が『多重能力者』と勘違い、それが広まって異名になってしまった。
その所為で散々な目に遭ってきた上代はそう呼ばれる事を極端に嫌う。
実際、そう呼ばれて顔を顰めている。
そこに上条が「なんにしても……」 と前置きして話題を転換する。
「この他は『ガイド』に訊けって事なんだろうけど、……『ガイド』って人工知能(AI)積んだ機械か、それとも人か? っつーかその『ガイド』とやらはどこに居んだよッ!」
無駄にテンションを上げて叫ぶ上条。 彼はこの雰囲気を変えるためにそうしたのだろう。
果たしてそれは叶った、
「ここに居ますよ〜」
第三者の出現によって。
その音源は上条の斜め前、一方通行の真向かい、上代の横……誰も座っていなかった椅子から。
そこからの行動は速い。
一方通行は首元に巻かれた黒いチョーカー型電極のスイッチを入れ立ちあがって距離を取り、上代はアクロバットな動きで食卓を飛び越し、未だに目をまん丸として驚いている上条の襟首を掴み、多少引き摺って一方通行の横に着地する。 上条は急に上代に襟首を掴まれた事で首が締まり「ぐへぇッ!」とカエルが潰れたような声を洩らして一人だけみともない様を披露しているが気にしない。
上代と一方通行は学園都市の暗部とそれなりに因縁がある。 そのため常に周囲への警戒を怠っていない。
しかし、何者かが感ずかれず自分達の近くに現れた。
普段なら例え不意を突かれてもやられる事はそうない上代と一方通行。
だが、ここは何があるか分からない『未知の世界』。
用心が足りなかったと自身を叱責しつつ件の椅子に目を遣る。
そこに居たのは、
「お、女の子……?」
「ふっふん〜! ドッキリ大成功です!!」
ご丁寧に『ドッキリ大成功!』とデカデカと書かれたプラカードを掲げて、無い……慎ましやかな胸を張って誇らし気にしている一○歳前後の金髪碧眼少女であった。
その少女を目の当たりにして上代は警戒を解いた。 彼の目が断片的に彼女がどんな存在なのか『理解した』からだ。
よくよく思い返すと先の上条の発言とそれに対する彼女の言葉からも彼女が誰であるか判ったはずであった。
警戒しすぎだなと先程とは真逆の事を考えている自分に苦笑し上代は少女に問う。
「君が『ガイド』で間違いないな?」
「はい! 私が貴方達のガイドを務めさせていただきます、ニケと申します!」
少女、ニケは笑顔で応えを返して三人に一礼した。
*
女神・ニケ。 ギリシャ神話に登場する勝利の女神で、ティターン族の血族パラースと
『ティタノマキア(主神・ゼウス率いるオリンポスの神々とゼウスの父に当たるクロノスが率いた巨人族ティターンとの戦い)』ではステュクスの命でオリンポス側につき、ゼウスに賞賛されたという。
その容姿は一般に有翼の女性として表され、英雄達の導き手であるアテナに付き従う神であるが、一説にはアテナの化身とも考えられている……と、ここ数ヶ月間で身につけた神話知識を広げてみたは良いが、それが横の椅子に腰掛けてそわそわしている少女、ニケに関係あるのかは不明。
その『解決策』は有るがあまり使いたいものではない。
だから。
今はすべきことをしよう。
そう考えを纏めて両手の平をピタッと合わせる上代。
「それじゃあ、頂きます!」
いただきま〜す! と上代の号令とともに始まった昼食。
食卓には牛肉、豚肉、鳥肉を材料に塩胡椒で味付けて最後にデミグラスソースがかけられたステーキやポタージュスープにロールパン、色取り取りな魚の刺身、味噌汁と炊き立ての白米といった和洋折衷入り乱れた料理が食欲を唆る匂いを漂わせて並べてあった。
それらの料理に目を輝かせて「美味しい〜!」と次々に料理を口に運んぶニケ。 上条も一方通行も各々のペースで料理を口に運んでいく。
その様子を横目に上代はこれまでの経緯を思い返していた。
*
「ニケ。 早速で悪いけどこれからする質問に答えてくれ」
「はい! そのためのガイドですから」
再び椅子に座りなおした三人。 それぞれが聞き入れる体制が整った所で上代が会話を切り出して、ニケは了承の意を示した。
「最初に……この世界は俺たちの居た世界とは違う世界。 これはあってるな?」
「はい。 ここは貴方達が住んでいた世界とは全く別の世界です」
「じゃあ次は、この手紙の差出人の神様とやらは具体的に俺たちに何をして欲しいんだ?」
「(やっぱり、あれだけじゃ抽象的すぎると散々言ったのに)……あっ」
独り言だったのだろう。
しかし、物理的に距離が近い上代は聴こうとしなくてもニケの愚痴が聞こえてくるわけで……。
困った表情の上代を見て、愚痴が訊かれたと気づいたニケは こほんッ、とわざとらしい咳ばらいを一つ。
先程のことが無かったかのように表面上は毅然とした態度で話を進める。 が、やはり恥ずかしさは拭えずにその頬がほんのりと赤みを帯びていた。
「えーっと、ですね。 上代様の質問に答える前に『世界の性質』について教えておく必要があります」
「世界の性質?……なンだァそりゃあ?」
「簡単に言いますと、『世界は強いチカラの影響を受け易い』というものです」
いまいちピンと来ない三人にニケは説明を続けていく。
「貴方達はそれぞれ常人が持ち合わせない『チカラ』というものがありますよね」
問いかけ……というより確認に近いそれに上条は言葉を返す。
「……俺の『
上条の『それが異能ならば打ち消す右手』。 一方通行の『触れているありとあらゆるベクトルを操作する能力』。 上代の『眼で見た他人の異能や異常な特技・特徴を理解し模倣する能力』。
様々な能力者がいるなかで一際特異な彼らの『異能』。
これの事かと自分の右手を指差して訊く上条にニケは首肯する。
「そうです。 あとはお金や地位、名誉、信仰などもチカラに含まれています。 そしてそれらは『世界』へと影響を与えているんです」
そこまで言われて理解した。
例えば、大富豪。
例えば、大統領。
例えば、ノーベル賞受賞者。
例えば、宗教。
これ以外にも多々挙げられるが、『世界』を動かしているのはそういったモノである。
「その中でも異能の力は最も強力なチカラで、影響が大きいものです。 何せどんな微弱な異能でも使い方によっては世界を滅ぼす可能性があるのですから。 と言っても大抵は使い方を間違えたり、それより強い能力を持った『
世界の抑止力という奴でしょうか?、とぶつぶつ言っているニケ。
そこで上代はふと疑問に思った。
「……結局コイツに書いてる事と、どォ関係する?」
上代より先に一方通行がそう呟く。
世界の性質については理解した。 だが、それが(帰るために)自分達のしなければならない事と関係があるのか?
上代も彼と同じ事を考えていた。
それに対して言い難そうな顔をしているニケが渋々と応える。
「……世界の性質を説明しましたのはですね、貴方達三人が強力な異能を持つが故に世界に多大な影響を与えていると理解して戴くためで、そういった影響力がある人には自然と『事件』が集まってくるわけでして……」
「……簡潔に言いやがれェ」
煮え切らないニケに痺れを切らした一方通行が低い声でそう言い実質的に言い逃れを出来なくした。
逃げ場を塞がれたニケは複雑な表情を浮かべて告げる。
「影響力を持った貴方達はその場にいるだけで『事件』が向こうから勝手にやってきます。 貴方達はそこで“最善”を尽くして頑張ってほしい。 だそうです……」
ニケは神様に言われた通りの言葉を伝える。
自分達はこれから先『事件』に関わりがあろうがなかろうが巻き込まれるのは確定。 だからその『事件』の結末を『最高の結末』にしてくれ、というのが神様からの頼み事である……と。
解釈の仕方を少し変えてみる。
自分達は“エサ”だ。
『
ニケはこう解釈出来るため……いや、実際にその通りなので言い難かった。
彼らを元の世界に要求が達成されるまで帰さないと脅迫し、利用しようとしているのは紛れもない事実。
だが。
それでは“彼女”の真意が伝わらない。
幾つもの『
これは我儘だ。
彼らに“彼女”を悪く思わないで欲しいという自分の我儘である。
だから、ニケは口止めされていた彼女の本心を三人に打ち明けようと口を動かした。
「……神様はですね。 本当は――――――」
「……一ついいか?」
それを遮って声を出したのは上代。
「俺は……というか当麻も一方通行もだろうけど、他人に何かを強制させられるのは嫌いだし、気に入らない」
それは上代が感じた気持ちで、他の二人も否定しないからそうなのだろう。
誰しも束縛されるより自由な方が良いに決まっている。
そこに上代は、「けどな……」と付け加えた。
「そんな事がこれから起こる『事件』を見過ごす理由にはならないよな」
「……えっ?」
思いもよらぬ言葉に困惑した表情でニケは上代を見上げる。
「っていうかこんなの普通に頼めば、そこのお人好しが引き受ける……というより頼まなくても勝手に首を突っ込むだろうなぁ」
「……なぜそこで上条さんをみて飽きれたような溜息を吐くのでせうか? 困ってる人を見捨てる理由なんかないから協力するのは確かだ。 けど一つ言いたい! 勝手に首を突っ込むのはお前もだろッ!!」
人差し指をビシッと突きつける上条を
「……まぁ俺は最初から協力するつもりだし、一方通行はどうすんだ?」
「……最低限の事ァしてやるが、悲劇がどォのってのは興味ねェ。 だが、俺の知ってる領域にまで届くってンなら話は別だ。 それに、利用されるなンざ学園都市では当たり前すぎて怒るのもバカらしい」
「……それって肯定と同義じゃないか?」
まあ何はともあれ、他二人も協力してくれるみたいだ。
その三人の様子に驚いたのはニケである。
「……本当にいいのですか」
ニケは、ぽつり と消え入りそうな声で呟いた。
「本当にそれでいいのですか? だって私達は貴方達を利用しようとしてるのですよ? 勝手に異世界に連れて来て! 帰りたいなら協力しろと脅迫して!! そのくせに私達は世界への影響があるからとサポートしか出来ない……それでも協力してくれますか」
戸惑い。
躊躇い。
疑念。
嫌悪。
期待。
懇願。
それは様々な感情が混じったニケの問い掛けだった。
「当たり前だろ」
その問いに上代は即答する。
「さっきも言ったけど、そんな事で『事件』を見て見ぬ振りをするほど俺は人でなしじゃないつもりだ。 それに、結局は巻き込まれるんだろ? だったら自分から巻き込まれに行って手遅れになる前にその『
それと、と付け加え。
「神様に『頼むんだったら本心を隠さずに書け』って伝えてくれ」
「気付いていたのですか!?」
手紙に書かれた事は本当だが本心ではない、と上代が気付いていた事にニケは心底驚いた。
それに対して上代は当然だと言わんばかりに。
「俺は『
『心理掌握』。
学園都市最強の『
その『第五位』が扱う能力で、記憶の読心・人格の洗脳・離れた相手と念話・想いの消去・意思の増幅・思考の再現・感情の移植など多種の能力を使いこなす精神系能力の頂点。
上代はその能力者である少女と、それなりに面識がある。
そのお蔭で手紙から記憶情報の抽出することが出来た。
「神様がずっと悲劇を回避させる方法がないか考え悩んだことも。 そして思いついたこの方法で良いのかと葛藤したことも。 その上で苦しんでる人を、涙を流している人を助けたくて俺たちを頼ったことも! こんなの読み取っちまったら俺は断れないしな。……見ているしかなくて助けられなかった辛さは俺にも分かるから……」
悲しそうに呟く上代は今年の夏。
七月二八日。 その日、上代は『自分を救ってくれた幼馴染み』を失った。
どんなに強力な力を持っていても手が届かなければ助けることが出来ない。 それを嫌というほど痛感した上代は神様の本心が分かった時点で利用されていたとしても協力すると決意していた。
「それにサポートしてくれるんだろ?」
「行く先々の世界の知識を教えたり、アドバイスができるだけですが……」
「なら問題なし! 俺たちは俺たちの意志でやる。 だからニケが気に病む必要はない」
「あの、その……ありがとうございます!」
「どういたしまして」
ようやくニケに笑顔が戻り、一区切り着いたところで上代は皆にある提案をする事に。
それは。
「そろそろ休憩入れて昼飯にしないか?」
「このタイミングでそれかよッ!」
時刻は正午を過ぎたあたり。
確かにランチタイムであるが……。
そんな上代にツッコミを入れる上条と呆れている一方通行。
上代は上条の反応に何となく腹が立っただから反撃をする。
「……当麻は昼飯要らないっと」
「すみませんでした。 上条さんの分も作ってくださいお願いします」
お前のプライドは何処に行ったと思いながら上代は言う。
「……お前はそんなに必至にならなくても、自炊出来るだろうが」
「美味しい方が食べられるならそっちの方がいいに決まってる! っつーか、使う食材は普通なのにどうやったらあんな高級料亭にでてくる料理の味が出せるんだよッ!」
ちなみに上条は高級料亭に行った事などない。
「知らねーよ。 どっかで異常に料理が上手い奴でも見て勝手に覚えたんじゃないの。 そういう能力だし」
「……やっぱ便利だよな 『幻想模倣』って。 同じ『幻想』ってついてるのにこっちは異能を打ち消すだけしかできないのに」
「隣の芝生は青いって諺があるだろ? ……お前のは間違っても羨ましいとは思わないけどな」
「ぐっ……言い返したい。 けどその通り過ぎて言い返せない」
両手両膝を床に着いて打ち拉がれている上条は放置して、次に一方通行へ声をかける。
「一方通行はリクエストとかあるか?」
「……肉料理で美味しけりゃあなンでもイイ」
アバウトだな〜と思いつつ、了解と返して最後の一人、ニケに注文を訊く。
「ニケは何か食べたい料理ある?」
「私ですか!? 私は別に……」
「遠慮しないでいいぞ? ガイドってことはこれから一緒に暮らすんだろうし、それとも違うのか?」
「いえ、そうではないですが。 ……和食というものを食べてみたいです!」
「了解。 食材があるのは確認したし、一時間ぐらい待っててくれ」
*
そう言ってキッチンに向かった上代が作ったのがこの料理たちだ。
「そういえばさ」
自分の作った料理を食べていた時、唐突に頭を過ぎったことを上代は口にした。
「俺らの世界ってどうなったの?」
異世界に飛ばされたことですっかり忘れていたが自分達の世界は第三次世界大戦の最中であった。
まだこっちに来て数時間しか経過していないが気になった上代は、ニケに訊いてみた。
それは上条と一方通行も気になったようで箸を止めてニケに顔を向ける。
すると、
「それでしたら心配しなくても大丈夫ですよ。 貴方達が居なくなった瞬間にその世界の時間の流れを止めましたから!」
「………………ハァ?」
第三次世界大戦はまだ続いてるのかな? ぐらいのつもりで聞いてみたら時間を停止させましたと元気よく笑顔で返答された。
あまりの事に上代は勿論、上条や一方通行も絶句する。
その中で最初に再起動したのは、毎日のように不幸に見舞われた事でアドリブに強くなった上条だ。
「待て待て待てッ! 神様だから時を停める事も簡単なんだろうけど、世界の性質云々は何処へ行きやがったッ!!」
世界全体の時間を停止するなど影響がかなりあるのではないか、と上条は心配する。
そう言われて三人が絶句した理由にやっと得心が行ったニケは、問題ないですと言わんばかりに答える。
「世界に認識している時は影響が出ます。 なら認識させなければ良い、その一つが時間停止です。 時間停止されてる間、世界は時間停止されてる事も認識出来ないですから影響もないという訳ですよ。 その代わり、停めている間その世界に対して何も出来ませんが……」
「とにかく、俺たちが異世界でどれだけ長い時間過ごしても、向こうは一秒も時間が経過しないって事でいいのか?」
そう呟いたのは上代。
彼と同時に一方通行も再起動した。
「それであってますよ! その関係で貴方達の世界の時間が動き出すまで貴方達は老いなく成りました……」
「……つまり不老者って事か」
「はい!」
人は驚き過ぎると一周回って冷静になると聞くが、それは本当のようだ。
その後、昼食を食べ終わってからも自分達が居るこの世界についての質疑応答やらが続いていく。
彼らが異世界にどの様な影響を与え、どの様な結果が生まれるのか。
それはまだ誰にも分からない。
だが、一つだけ言っておこう。
『この時より世界を構成する一つの歯車が狂い始めた』、と。
これで序章は終わりです。
次話からようやく他作品に介入していきます。
感想、アドバイス、こうして欲しいなどの意見がありましたら感想欄にお書きください、それでは〜。