偽約 とある魔術の分岐世界(パラレルシフト)   作:LIMITER

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話の進展速度早めた方がいいのかな?


魔術と科学の異端者 Imagin_Reactor.

 

4

 

上代は異世界で行動するに於いて、条件を二つ自分に課していた。

一つは、『異能の力を無闇矢鱈(むやみやたら)に行使しない』。

これは異能が一般的でない世界はもちろん、一般的であってもそうしようと考えている。

もう一つは、『誰かを守るためならば、異能も行使して全力を尽くす』。

一つ目の条件に反しているが仕方ない。

これだけは何があっても譲れない『約束』であるから。

 

だから。

 

「ガストレア! 少し本気でいくぞッ!!」

 

上代の取った行動はシンプルだった。

手で押さえている巨大グモの脚を払い除け、巨大グモの前に行き、握り拳で頭部を殴る。

ただし、その動作を音速の二倍で行った。

 

グシャァアッ! という凄まじい轟音と共に殴られたガストレアの体が地面と平行して吹き飛んばされて、突き当たりの石塀に激突、破壊して粉塵を巻き上げる。

数十秒して粉塵が晴れた頃、ガストレアは多脚を揃えて天に伸ばした状態で死亡していた。

 

(これで一件落着……とはいかないよなぁ。 イニシエーターでもないのにガストレア(推定六○キロ)を吹っ飛ばしちまったし)

 

先程上代がガストレアの脚を止めたり、音速の二倍で行動したのは彼の身体能力ではなく異能のチカラである。

『ナンバーセブン』。 超能力者(レベル5)の『第七位』の能力だ。

これは第七位にも言える事だが、この『ナンバーセブン』という能力を上代は理解していない。 どういう原理で音速駆動やカラフルな爆煙を上げたりしているのか一切分からない。

だが『幻想模倣(イマジンリアクター)』は目で見たなら勝手に理解し、異能を模倣する。

そこに上代の理解・不理解は関係ないのだ。

 

閑話休題。

 

『ナンバーセブン』は理解してないが音速駆動に限れば、身体強化系の能力と同じで目に見えた変化が起きるモノではない。

つまり、他人には異能を使っていたとは分からないはず。 ただ、それだと上代は身体能力だけでガストレアを吹っ飛ばした怪力ちゃん、と見られる訳で……。

 

上代がどう説明しようかと頭を悩ませながら、後ろの三人の方に振り返る。

すると、多田島は案の定口をパクパクとさせて驚愕していたが他の二人、蓮太郎と延珠はあまり驚いていない様子。

これには上代が逆に驚いてしまった。

 

「あれ? 驚かないの」

 

「アンタみたいな奴は見慣れちまったからな。 それと、延珠を助けてくれてありがとな」

 

嫌な事を思い出したような顔を少しの間していたが、蓮太郎は上代に頭を下げて感謝の意を示す。

上代はその言葉に「あれ? この世界って意外と普通じゃない?」 などと思っていた。

ガストレアがいる時点で普通ではない事に気付かない上代。

 

「そういえば、延珠ちゃんは?」

「あっ、しまっ――!」

 

「蓮太郎っ!!」

 

クモの糸に絡まった状態で放置されご立腹な延珠。 それに慌てて糸を取ろうと蓮太郎が頑張る。 しかし、粘着質に加えて鋼鉄の五倍を誇ると言われる強度とナイロンの二倍の伸縮率を持つクモの糸に梃子摺っている。

 

「蓮太郎君、少し離れてて」

 

「おいちょっと待て! 刀なんか持って何する気だッ!」

 

蓮太郎の言うように上代は『草紙断ち』を抜き身に構えていた。 その上代の肩を抑えて、睨む蓮太郎。

彼は延珠の事を大切に想っている。

言動からその想いが伝わってきて上代は、彼がイニシエーターを道具の様に扱う人間じゃなくてよかった、と内心で安堵した。

だから、上代は構えを解いて蓮太郎に言う。

 

「刀の扱いには自信がある。 絶対に延珠ちゃんは傷付けないで糸だけを切る、だから信じてくれないか?」

 

真剣な眼差しで蓮太郎の瞳を見る上代。 それに嘘がないと蓮太郎は感じたようだ。

 

「分かった。 さっきアンタは延珠を助けてくれたから信じる。 けど! もし延珠を傷付けたら俺はお前を赦さない」

 

「ああ、肝に銘じておく」

 

蓮太郎の言葉に上代はそう答え、蓮太郎が離れたのを確認して糸に捉われた延珠と向き合う。

 

「さて、延珠ちゃん。 少し恐いだろうけど我慢してほしい」

 

「蓮太郎が信じたのだ。 当然、妾もお主を信じるぞ刀牙!」

 

ペアの両方に信じると言われたのだ。 それに応えなければ『上代刀牙』ではない。

 

上代は再び『草紙断ち』を正眼に構え、すっと目を閉じる。

切るのはクモの糸、鋼鉄の五倍程度の強度であればそのままでも切れる。

問題はあの粘着性だ。

どんなに切れ味が良くても刀の側面(平地)に糸が付着したら刀の動きが阻害され、延珠を傷つけてしまうかもしれない。

蓮太郎にも言ったが剣術には自信があるためそのままやってもいいのだが、絶対に傷つけないために、この刀の本来の使い方で切る。

 

「……(蜘蛛に関する伝承『土蜘蛛草紙』を参考に『蜘蛛切り』の属性を付与)」

 

上代が誰にも聴こえない声量でそう呟くと、一瞬だけ『草紙断ち』がほんのりと輝く。

 

平安時代中期の武将・源頼光が名刀・『膝丸(ひざまる)』で妖怪土蜘蛛(大蜘蛛の怪物)を討ち、その名を『蜘蛛切り』と改名したという伝承がある。 その伝承を上代は、『蜘蛛切りは、蜘蛛に対して絶対の強さを誇る刀』と解釈を変えて『草紙断ち』を『蜘蛛切り』とする対蜘蛛用術式を組み上げ、『草紙断ち』に付与した。

つまり、彼は魔術を行使した。

普通、超能力を扱う者が対極に位置する魔術を行使すると体に拒絶反応が出て、最悪死ぬ可能性もある。

だが、上代の能力『幻想模倣(イマジンリアクター)』は超能力でも魔術でもない異能である。

だから彼は、超能力も魔術も使えるため魔術師からは『異端者』と呼ばれていた。

 

それはさて置き。

準備が整った上代は目を開き、正眼から上段へと構え、息を止めて視認が不可な速度で振り下ろした。

振り下ろされた『蜘蛛切り』は糸の表面をなぞるように切り裂く。

その直後、延珠の体に纏わりついていたクモの糸が全て取り払われた。

本当なら『蜘蛛切り』を当てるだけで事は済むのだが、それだと不自然に思われるため、高速で糸を切り裂いたという風に思い込ませるためにそうした。

 

「おおっ! 糸がきれいに吹き飛んだ! 感謝するぞ刀牙」

 

「悪ぃ、アンタのこと疑って」

 

延珠は嬉しそうに、蓮太郎は申し訳なさげに上代に言ってきた。 それに上代は刀を鞘に収めて答える。

 

「別に気にしなくていいよ。 俺は俺がやりたいことをやっただけだから」

 

「そう言ってくれると助かる。 そういやアンタって名前なんて言うんだ? 延珠は刀牙って呼んでるけど」

 

「ああ、自己紹介がまだだったね。 俺は上代刀牙、民警になって二週間の駆け出しで、ついでに『上代民間警備会社』の社長もしてる。 気軽に刀牙って呼んでくれ、歳も近いだろうし」

 

「に、二週間!? しかも社長で刀使うって……(木更さんみたいなのが他にいるとは……)」

 

「ん? なんか言った」

 

上代が民警になったのはつい二週間前だ。 それに今日何度目かの驚きを顕に、独り言を呟く蓮太郎。 気になった上代が訊くが「い、いやなんでもない」とはぐらかされてしまった。

 

「俺は里見蓮太郎(さとみ れんたろう)。 『天童民間警備会社(てんどうみんかんけいびがいしゃ)』のプロモーターで、イニシエーターはそこにいる延珠だ。 俺も呼び方は蓮太郎で構わない」

 

自己紹介し互いに握手する二人。

そこへ延珠が嬉しそうにしながら蓮太郎を手招きする。 それに仕方なさそうに屈み込む蓮太郎。

と、その瞬間を狙っていたのだろう。 延珠は素早く蓮太郎の首に手を回し、不意打ちで唇を彼のそれに押し当てた。

蓮太郎が体を強張らせていると、パッと離れた延珠は、両手を後ろに組んではにかんでいた。

 

「ふふ、ありがとうな蓮太郎。 妾のパートナーとしてはまだまだだが、妾のために刀牙を止めて言ってくれた蓮太郎の言葉、嬉しかったぞ」

 

「お、お前……」

 

「なんだ、もっとしたかったのか? 蓮太郎にならもっと色んな事してもいいのだぞ」

 

延珠の誘惑に蓮太郎は頬を紅潮させた。

 

「ア……アホ! 冗談でもンな事言うな。 誤解する奴らがいたらどうす――」

 

唐突に悪寒を感じた蓮太郎は後ろに振り返った。

そこには二人の人物がいた。

一人は彼らを見て面白いモノを発見したという風にニヤニヤして手にカメラを持っている上代刀牙。

もう一人は、腰から手錠を抜いて蓮太郎ににじり寄っていく多田島。

 

「……いい趣味してるな豚野郎」

 

多田島はじっと蓮太郎を睨み上げ、蓮太郎はブワッと脂汗を流している。

 

「最近ここらで少女にイタズラする馬鹿がでてな。 背格好はお前くらいなんだが……どう思うよ?」

 

「……ざ、ざけんじゃねぇよ。 誤解だッ、冤罪だッ、無罪を主張する!」

 

「蓮太郎君。 俺は君と出会った時に冗談で『ロリコン』と言ったがまさか本当だったなんて。 あっ、刑事さん、コレさっきのを一部始終捉えた証拠映像です」

 

上代が多田島に差し出したのは手に持っていたデジタルビデオカメラ。 上代は延珠が手招きをした瞬間に面白いことが起きると確信し、神速でカメラを取り出し録画していたのだ。

 

「ご協力感謝する。 あとの話は署で聞こうか」

 

「ちょ、ちょっと待て、盗撮は犯罪じゃねぇのかよ!」

 

「いやー、ここらの街並みを撮ってたらこんなのが撮れて驚いたよー」

 

しれっとした顔で棒読みする上代。

 

「……だそうだが?」

 

「こ、この野郎!」

 

そこから始まる犯罪者里見蓮太郎と刑事多田島の追いかけっこ。

延珠と上代の周りをグルグルと。

 

「え、延珠、頼む、お前からも何か言ってくれ!」

 

一縷の望みを込めて蓮太郎は延珠を頼る。 それによくぞ聞いてくれたとばかりに胸を反らす延珠は、

 

「とても一言では言い表せない深い仲だ」

 

爆弾を投下した。

多田島は無言でリボルバーの撃鉄を起こす。

上代は延珠の隣りで腹を抱えて笑っていた。

 

「こいつは居候なんだ!」

 

「いつも夜は凄くて妾を寝かせてくれないのだ」

 

「俺は寝相が悪ぃんだよ!」

 

「将来を誓い合った仲だぞ?」

 

「ねぇよ!」

 

多田島は立ち止まりしばらく蓮太郎と延珠を交互に見比べ、やがて手錠をしまって舌打ちをした。

 

「オシャレなブレスレットを両手に嵌めてやったのになぁ」

 

「人生何事も経験だよ? 蓮太郎君」

 

「か、勘弁しろよ警部、冗談キツいぜ。 あと、刀牙。いい事言ってる風にしてるがなぁ、逮捕経験なんて人生に必要ねぇぞ」

 

怒る気も失せたのか、げんなりした様子の蓮太郎。

 

「そういやぁ、上代だったか? お前も民警だったな、ライセンス出せ」

 

色々ごった返して遅れたが、多田島は現場の最高責任者として確認しておく義務があるため上代にそう言った。

上代もそれに素直に従ってロングコートの下に着た制服から目当ての物を取り出し多田島に見せた。

その制服を見て蓮太郎がある事に気が付く。

 

「刀牙、お前も勾田高校だったのか」

 

「ああ、そうだよ。 といっても明日転入する予定。 行く気は無かったんだけど後援者(パトロン)が入れと煩くて。 ちなみに二年生だ」

 

「お前の所のパトロンもそんな感じなのか」

 

「じゃあ蓮太郎君も?」

 

「……お互い苦労するな」

 

二人は辟易した様に言っているが、彼らの後援者が同一人物だと気付くのはまだ先である。

 

上代はふと空を見上げる。

見上げた先には遥か遠くに佇むモノリス群が一望できた。

縦一六一八メートル、横一○○○メートルもある長方形の巨大な黒い壁が一定の間隔で点々と置いてある。 あれと同じ物が元東京都、元神奈川県、元千葉県、元埼玉県の関東平野の一部にまたがるように囲んでいる。

バラニウムで構成される、それが出す特殊な磁場が天然の結界の役割を果たすおかげで、その内側であるここ『東京エリア』は大規模なガストレアの襲撃を免れている。

それを眺めながら上代は太陽の位置を確認した。

 

「俺はそろそろ行くよ、被害者の言葉を伝えなきゃならないしさ」

 

今日も徹夜か〜、とサラリーマンみたいな事を溜息と共に呟く上代。

 

「ああ、そうか。 それじゃあいつか……って同じ学校で同じ学年だから近いうちに会うかもな」

 

そこに延珠が思い出した事を蓮太郎に告げる。

 

「ぬ、そんな事よりタイムセールの時間はいいのか?」

 

「え? ……ああッ」

 

いま重要な事を思い出しましたと言わんばかりに慌ててポケットからチラシを取り出す。

そして、ダッと走り出した蓮太郎の顔は少しだけ血の気が引いていた。

 

「お、おいもう行くのか?」

 

それに慌てたのは多田島だった。

 

「ああ、また仕事あったら回せよな。 今回は何もできなかったけど、次は必ず俺たちでガストレアを倒すから。 刀牙もじゃあな!」

 

「またな。 蓮太郎、延珠ちゃん」

 

「うむ、またなのだ!」

 

去って行く少年と、その後ろをじゃれつく子犬のようについていく小さな少女を見送りながら多田島は呟く。

 

「あいつら報酬受け取らずに帰りやがった。 ……いや、この場合はガストレアを排除したお前に渡すのが正しいのか?」

 

「人の獲物を横取りしたようなものですからいりませんよ。 ……それにしても報酬をほっぽり出して一袋六円のモヤシを買いに行くなんてあいつみてぇだな」

 

「モヤシ……だと?」

 

「ええ、モヤシです。 それでは多田島警部。 二○三一年、四月二八日一六三○、イニシエーター藍原延珠とプロモーター里見蓮太郎ペア、プラス、プロモーター上代刀牙。 ガストレアを排除しました。 ……なんてね、それじゃあまた」

 

上代は戯けながら多田島に言って、岡島純明の最期の言葉を伝えに走り去っていった。

 

 




次回はあの人の視点で物語を動かします。

気が早いですが次の作品はどこにしようかと考えている今日この頃。
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