偽約 とある魔術の分岐世界(パラレルシフト)   作:LIMITER

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何とか年内に投稿できました!
……年末は何かと忙し過ぎる。



世界の実情 Cursed_Children.

 

1 (Apr.30_AM11:30)

 

東京エリアには『外周区(がいしゅうく)』と呼ばれるモノリスと隣接し、一○年経った現在(いま)でもガストレア戦争の傷跡が残る地域がある。

其処は人気(ひとけ)も無く、倒壊した建物と半壊した家屋が散見する廃都だ。

 

「しつこいっ!!」

 

そんな場所で上条当麻(かみじょう とうま)は追われていた。

周りの建造物と不釣り合いな『綺麗に舗装(ほそう)された大通り』を激走する上条に追い(せま)るは、一台のパトカー。

両者の距離は二○○メートルを切り、このままでは確実に上条はパトカーに追い付かれる。

 

「お前、この辺の地理に詳しいか?」

 

「分かりません」

 

その声は上条の両腕に抱えられた少女からだ。

 

「……一か八かに賭けるか」

 

上条は呟きと共に進行方向を右に変える。 駆け込んだ先は裏路地に繋がる細い道。

大通りと違ってアスファルトがひび割れ、何らかのコンクリート片やペットボトル、空きカンなどのゴミが散在(さんざい)している。

それらに足を取られぬよう上条は突き進む。

当然、そのような道を車が通れる筈もなく、パトカーに乗っていた警官二人は降車して上条を追いかける。

 

もしこの部分だけを見た者が居たならば、少女を誘拐した上条を警官が追ってる構図として目に写るだろう。

それは間違いだ。

そもそも上条は何故、警官に追われているのか。

 

事の発端(ほったん)は数時間前に遡る。

 

 

2 (Apr.30_AM08:00)

 

「当麻ちょっと頼みたい事があるんだけど」

 

「どうしたんだ急に?」

 

上代と一方通行(アクセラレータ)が防衛省(正確には聖天子から)の依頼を受けた翌日の朝。

休日で民警(みんけい)の仕事もなく暇を持て余した上条はリビングのソファーで寛いでいた。 するとそこへ、普通の黒いコートに見えるが実際は防刃防弾仕様の特製コートをカジュアルな服の上に羽織(はお)った上代が頼み事をしてきた。

大抵の事なら何でも(こな)せる(但し面倒くさがり)刀牙が頼み事をするなんて珍しいと思いつつ理由を尋ねると、

 

「生徒会長から受け取る物があったんだけど、急用ができて取りに行けないんだ。 だから代わりに行ってくれないか?」

 

「生徒会長って……未織(みおり)さんのことか。 別に良いけど急用ってなんだよ?」

 

「ウロチョロしてる『ネズミ』を追い払わなきゃいけなくてな」

 

「ネズミ?」

 

「場所は勾田(まがた)高校の生徒会室だからよろしくな!」

「あっ、おい! ……行っちまいやがった」

 

上条が()き返すも上代は取り合わず、言うだけ言ってこの場から姿を消した。

大方、『空間移動(テレポート)』系の能力で移動したのだろう。

 

(……引き受けちまったからキッチリこなすか)

 

上代の強引さに多少呆れながらも、外出準備に取り掛かる上条。 といっても勾田高校の制服(普段着にしようと思っている)は既に着用しているため、財布と携帯をポケットに突っ込むだけで準備が完了する。

その時。

ガチャっ! とリビングの扉が開いた。

 

「当麻さん、おはようございます」

 

「おっはよ〜!」

入ってきたのは二人。

金色の長い髪に碧眼、白い無地のワンピース姿の少女と、黒色のフィールドジャケットの上からコルセットに似た太い革ベルトを胸下辺りに巻きつけ、白いショートパンツ姿の烏羽色(からすばいろ)の髪をした少女。

前者が上条達の案内役(ガイド)で上条と同じく上代民警の雑務を担うニケ。 後者が上条のイニシエーターである黒羽霊華(くろばね れいか)だ。

 

「おう。 ニケ、霊華おはよう」

 

「当麻、今日も一日ガンバろ〜!」

 

「霊華は元気だな」

 

拳を高らかに突き上げて快活(かいかつ)に笑う霊華。

この少女とは国際イニシエーター監督機構(IISO)を仲介して、一月(ひとつき)程前に出会った。

その頃は感情を出さず、何を話しても「はい」か「いいえ」しか口にしなかった。 それでも上条は根気良くいろんな話題を振り続けた。

それが功を奏したのか霊華は少しずつ心を開いて感情を見せるようになり、今では社交的で溌剌(はつらつ)とした少女になった。

 

「当麻さんは今からお出掛けするのですか? それに刀牙さんも不在のようですし……」

 

リビングを見回してニケがそう(たず)ねてくる。

 

「ああ、刀牙に頼まれて勾田高校に行ってくる。 頼んだ本人はどっか行っちまったけどな」

 

「そうですか、まだ感染源ガストレアが見つかっていませんから気を付けて下さいね」

 

「だったら私が当麻に着いて行けば安心だね!」

 

上条に注意を喚起(かんき)するニケ。 そこに被せて自信満々に告げた霊華。

 

「いやいや、それくらい上条さんだけでも大丈夫ですのことよ」

 

「いっっつも! 不幸な目に遭ってる人が言っても説得力ないよ」

 

「ぐっ、一○歳児にまでそんな事言われるなんて……」

 

「それじゃあ、レッツゴー!!」

 

「ちょっ!? いきなり引っ張んな!」

 

 

3 (Apr.30_AM09:30)

 

という訳で勾田高校に到着した上条と霊華。

閑散としたリノリウムの廊下に二人の靴音と話し声が響く。

 

「当麻、未織さんってどんな人なの?」

 

「そういや霊華はまだ一度も会ったこと無かったな。 つっても俺も一月前に上代の紹介で会ったばかりだから詳しく知らないけど……この勾田高校の生徒会長でいつも和服を着てる美人さん。 そして、上代民警の後援者(パトロン)を務めてくれてる人だ」

 

「パトロンってなに? まーじゃん用語?」

 

「それはロン。 パトロンっつーのはだな、民警や自衛隊と契約を交わして装備を無償で提供して支援してくれる武器会社のことだ。 イリスの使ってる武器とか刀牙が羽織ってるコートなんかも未織さんが提供してくれたやつなんだ」

 

「どうしてそんなことしてくれるの? 無償だと利益がないよ」

 

「いいやそうでもない。 例えば有名なモデルやアイドルが同じ会社のバッグを持ち歩いてたら皆そのバッグに注目するし、中には買う人もいるだろ? それと同じで強い民警が持ってるってだけで注文が入る場合がある。 そういったキャンペーン効果で利益が生まれるから無償でも提供してくれる。 まぁそれだけじゃなくて新製品のテスターとか色々協力しなきゃなんねぇけどな」

 

「へぇ〜、そうなんだ」

 

上条が説明をしている内に、生徒会室前へと着いた。 上条が扉を軽くノックすると「入ってええよぉ」と、中から女性の柔和な声が上条達の入室を許可した。

 

「失礼します」

 

「失礼しまーす!」

入室した生徒会室はブラインドが降ろされて薄暗かった。 部屋の壁際にあるホワイトボードや中央の長机は生徒会役員達との会議に使うのだろう。

その長机の上座にウェーブのかかった長く艶やかな黒髪に、明るい色の和服を着た少女が座っていた。

 

「いらっしゃい、上条ちゃんは久しぶりやな。 それでその子が霊華ちゃんか? めっちゃ可愛ええなぁ。 ウチは司馬未織(しば みおり)。 よろしゅうしてや」

 

青い髪をした(元?)クラスメイトのエセではない本物の関西弁で挨拶する彼女が司馬未織。

「うん! よろしくね未織さん。 ……ん?『司馬』ってどこかで聞いたことがあるような??」

 

何処かで聞いた覚えのある単語に頭を(かし)げる霊華に上条が教える。

 

「そりゃあCMとかで有名だからな。 未織さんは『司馬重工』の社長令嬢なんだよ」

 

「ええーーっ!! 司馬重工!?」

 

『司馬重工』と言えば世界に名だたる巨大兵器開発会社である。 そこの社長が高校生である事実も驚愕に値するが霊華が驚いた理由はそこではなくて、

 

「なんでそんなスゴイ人が出来たばかりの民警に武器提供してるの!?」

 

当たり前だがキャンペーン効果の期待出来ない民警に武器を提供する企業など皆無。

ある程度実績があり、厳しい審査基準を通過した民警でないと武器を提供してくれない。

司馬重工のような大企業なら尚のこと……のはずなのだが、未織は起業したばかりの上代民警のパトロンを引き受けてくれた。

上代はその理由を知ってるらしく、前に興味本位で訊いてみたら「お前いつか誰かに背中刺されるぞ」と不吉な言葉だけ返して教えてくれなかった。

かと言って未織本人に訊くのは気が引けたため上条は理由を知らない。

霊華にどう言ったものか。

上条が答えあぐねているその間に、霊華の思考はある可能性に辿り着いた。

 

「まさか! いつものように当麻が未織さんを手篭めに……」

 

「よーし、霊華さん。 アナタが日頃どういう風に上条さんを見ているのかちょっと話し合おうか? っつーかお前は『手篭め』って言葉をどこで覚えたっ!?」

 

「えー、だって……はぁ〜」

 

「何故、そこで嘆息するんですかねぇ!?」

 

「なんでもな〜い」

 

上条と霊華がやいのやいのと騒ぐ。

それを眺める未織がぽつりと(かす)かな声で、

 

「(……ウチはそうしてくれてもええけどなぁ)」

 

「未織さん何か言いました?」

 

「な、なんも言うてへんよ。 それより上代ちゃんに頼まれて上条ちゃん達は『コレ』を受け取りに来たんやろ」

 

何故か動揺した様子の未織が長机の下から取り出したのは銀色の拳銃。

 

「……『デザートイーグル』」

 

マッシブな外見とマグナム弾を使うという存在感が好まれてか映画や漫画、アニメなどのフィクションにも登場する有名な自動式(オートマチック)拳銃だ。

 

「正確には、デザートイーグルMark XIX .50AE。 それを司馬重工(ウチ)が改良を重ねて作った特注品なんよ。 五○口径で使用銃弾はバラニウム製の.50AE弾、装弾数一二発、有効射程距離は一○○メートル。 ただ色々やってるうちに重さが少し増えてしもうてなぁ。 そこは堪忍してや」

 

「刀牙が使うんだろ? だったら重さとかは気にしなくてもいいぜ。 ああ見えて結構な力持ちだし」

 

「なら問題あらへん」

 

と、未織は生徒会室から続く隣室に行き普通より大きめのウエストバッグを手にして帰ってきた。

 

「これに.50AE弾の弾薬箱とウチからのおまけでイリスちゃん用の武器も入れといたから」

 

デザートイーグルを仕舞ったバッグを未織は、両手を前に差し出し受け取るポーズの上条……の脇をすり抜けて霊華に手渡す。

 

「……、未織さん?」

 

どうしてだ? と上条が見ると、未織は困った顔で、

 

「上代ちゃんからな『当麻と銃の組み合わせは危険しかない! あいつの不幸でいつ暴発するか分かったもんじゃないからな。 だから多分ついて来る霊華に渡してくれ』って今朝方(けさがた)頼まれたんよ」

 

未織に手伝って貰いバッグを腰に装着中の霊華は上代の言伝に同意してか、うんうんと頷いている。

 

(……倫理的に子供に銃を持たせたくないけど、俺の不幸を(かんが)みればそれが正しい、か……)

 

そうだと納得出来てしまう自身の不幸具合を再確認した上条は、「不幸だ…」と呟き、ガックリと肩を落とすのだった。

 

 

4 (Apr.30_AM10:30)

 

司馬重工で緊急の会議が入った。

とのことで未織と世間話もそこそこにお(いとま)した上条、霊華。

二人は家電量販店のデパートに居る。 というのも霊華が買いたい物があると言って来た次第。

 

「家電に興味があんのか?」

 

「コッチ!」

 

霊華に腕を引かれて連れられた先はワンフロアをまるまる使った大規模なおもちゃ屋。

家族連れで賑わう一画にポップな文字で『天誅(てんちゅう)ガールズ』と書かれたアニメグッズのコーナーがあった。

 

「私の目的はココだよ!」

 

「やっぱり『天誅ガールズ』か」

 

天誅ガールズというのは、忠臣蔵で有名な赤穂浪士を基盤にした魔法少女達の復讐譚を描いた長編アニメのことだ。

霊華に勧められて視聴した時、魔法少女なのに魔法を一切使わずに野太刀で敵に斬りかかる戦闘シーンを観て、「魔法要素どこ行った!?」とツッコミを入れたのは記憶に新しい。

 

(……インデックスもこんな感じのアニメ、『超機動少女(マジカルパワード)カナミン』だったかを観てたな)

 

商品棚に置かれた柄がステッキっぽくデフォルメされた刀(日本刀のようなもの)を手に取ってみる上条。

 

「当麻は天誅レッドが好きなの?」

 

「天誅レッド? 色があんのか」

 

「うん! 四七人の魔法少女はそれぞれ色がバラバラなの。 その中で私は天誅イエロー、イリスは天誅ブルー、マリアは天誅グリーン、他の子達も違う色の天誅ガールが好きなんだよ。 ちなみにそれは主人公(ヒロイン)の天誅レッド・大石内蔵助良子(おおいしくらのすけよしこ)の武器、ステッキブレードだよ」

 

霊華はそう言うと幾何学的な模様が彫り込まれたブレスレットを手にしてレジに向かった。

それと同じ物を確認した上条は唖然とする。

 

「アルミにメッキを施しただけのがこんな値段すんのかよ……」

 

「たっか! 俺の二ヶ月分の食費じゃねぇか」

 

割と近くで聞き覚えのある声が耳に入る。

上条がそちらへ顔を向けると、

「あれ、里見?」

 

「……なんで疑問系なんだよ」

 

つい最近スーパーのタイムセールで知り合った里見蓮太郎が居た。

 

「お前がここにいるなんて思わなくて。 何してんだ」

 

「延珠の付き添い」

 

そう言って蓮太郎が指差したのは天誅ガールズのコーナー。

天誅ガールズは相当に人気があるようだ。

 

「そういう上条こそ何してんだよ」

 

「俺も里見と同じで付き添いだ」

 

「お前、妹でもいたのか」

 

「あー違う違う。 親戚の子を預かっててな」

 

兄妹(きょうだい)と言うには上条と霊華は顔が似てないので、霊華が最近通い始めた小学校や蓮太郎のように親しくなった者には親戚だと言っている。

そうでもしないと霊華のような『呪われた子供たち(イニシエーター)』は受け入れて貰えないのがこの世界の実情だ。

 

「つーか、里見は学校でいつもああなのか」

 

「学校って、そういやお前勾田高校の制服を着て……昨日の転校生って上条だったのか!?」

 

「気付いてなかったのかよ……」

 

初めて知ったという表情の蓮太郎に上条は心底呆れた。

蓮太郎はバツが悪そうにソッポを向く。

 

「悪かったな。 俺は『契約』で学校に(かよ)ってるだけで、ほんとは行きたくねぇんだ」

 

「その『契約』とやらが何なのか知んねえけどさ、もうちょいクラスメイトに愛想良くしとけよ。 昨日のアンケート回収にお前んとこにやって来た学級委員の子とか無視されて可哀想だったぞ」

 

蓮太郎も罪悪感があったようで「うっ」と(うめ)き声を上げる。

 

「俺なんか土御門(つちみかど)が持ってくる事件の所為で行きたくても行けねえのに。 ……出席日数大丈夫かなぁ」

 

元の世界で通っていた学校は諸事情(魔術絡み)でなかなか登校できず、『進級できるかなぁ』と心配する上条。

勿論そんな事を知る由もない蓮太郎は『四月のこの時期に上条は出席日数を気にしているのか?』と疑問に思った。

 

「――蓮太郎!」

 

蓮太郎の名を呼んだのは延珠だ。

ツインテールをぴょこぴょこさせて蓮太郎に駆け寄ったことで延珠は蓮太郎の隣にいる上条に気付いた。

 

「当麻ではないか!」

 

「久しぶり……って程でもないけど元気そうだな」

 

「うむ! お主も壮健そうで何よりだ」

 

「延珠〜! 置いてかないでよ〜〜!!」

 

レジ袋を手にした霊華が少し遅れて合流した。

 

「そうであった! ごめんなのだ霊華ちゃん」

 

「いいよ、気にしてないから」

 

友達と接するように話す二人に上条は驚いた。

 

「霊華って、延珠と知り合いだったのか」

 

「うん! 同じクラスで席も隣同士なんだよ。 当麻も延珠と知り合いだったの?」

 

「ああ、タイムセールに行った時にな。 ……にしても霊華は転校した先で延珠に会って、俺は転校した先で里見に会うって奇妙な縁もあるもんだ」

 

 

5 (Apr.30_AM11:00)

 

蓮太郎と霊華の紹介を済ませてデパートを出た一行(いっこう)は、スーパーのお買い得情報や天誅ガールズについてなど雑談をしていた。

 

その時だ。

いつの間にか大通りに出来ていた人垣の中から怒号が聞こえた。 人垣を形成する人々は皆一様に殺気染みたものを発している。

 

――そこに近づくな。

 

数々の事件で培われた上条の第六感とも言うべきモノが警鐘(けいしょう)を鳴らしている。

だが、そういった場所に助けを求める人が居ると経験してきた。

だから上条はそこへ向かう。

 

「お前らはここで待っててくれ」

 

「上条!?」

 

人垣の中へ進まんとする上条を蓮太郎が制止する前、上条がその場へ一歩踏み込もうとした瞬間。

 

「――そいつを捕まえろぉぉ!」

 

人垣から大音声(だいおんじょう)で響く蛮声(ばんせい)、そこから少女が飛び出してきた。

少女は食料品でいっぱいになったスーパーマーケットのカゴを持って走るが、上条達の立ち位置が少女の進行路を(ふさ)ぐ位置だったため、立ち止まった。

服装は汚れと染み、修繕(しゅうぜん)跡が見て取れる皮ベルトのデニムスカートにチュニック。 端正な顔は(すす)で汚れており、瞳は深いワインレッドの色。

外周区(がいしゅうく)』で暮らす『呪われた子供たち』だと一目で分かった。 少女が抱えている食料は窃盗した物だという事も……。

 

その少女は因縁でもあるのか延珠を睨むように見ていた。 その終止符を打ったのは、少女を追いかけていた大人達だ。 追いついた大人三人が少女の背に手を掛けて荒々しく地面に押し潰して取り押さえる。

少女の骨が軋む音がはっきりと聞こえ、『一人分にしては量が多い』野菜や果物がカゴからこぼれ落ちて上条達の足元に転がる。

 

「放せぇ!」

 

少女は犬歯を剥いて暴れる。 その恰好を見ればどんな劣悪な環境にいて、なぜ万引き行為に及んだのか想像に(かた)くない。

だが。

 

「泥棒め、貴様等は東京エリアのゴミだ」「よしよくやった! ざまぁ見ろガストレアめ」「喚くなうぜぇんだよ、この人殺しが」「貴様ら『赤目』が俺の親戚を皆殺しにしなければ」「くたばれ、『赤鬼』!」

 

それを憐れむ者など居らず、観衆は口々に罵声を浴びせる。

観衆の年齢層から見て大半は戦争で家族や親戚、知人をガストレアに殺された『奪われた世代』という人達だ。 その『奪われた世代』のほとんどは、『呪われた子供たち』とガストレアを同一視していると言っても過言ではない。

彼らはガストレアに対して並々ならぬ恨み憎しみを抱いている。

 

――それで少女を責めるのは間違ってる。

 

そう思った上条は少女を拘束している大人達を突き飛ばした。

観衆は上条の行動に愕然(がくぜん)とし、先程の喧噪が嘘だったかのように静まり返る。 休日の街中の大通りから音が消失して険悪な雰囲気がその場を支配される中、上条は地面に伏している少女を抱え起こして、少女の顔に付いた汚れをハンカチで拭ってやる。

 

「せっかくの可愛い顔を汚したままにしてちゃダメだろ。 ……よし! 綺麗になった」

 

何が起こったか分からない少女はポカンと惚けた顔をしている。

それに上条が苦笑していると、

 

「君! いきなり何をするんだッ!?」

 

怒気を孕ませた声を発する、少女が抱えていた買い物カゴのロゴと同じロゴが入ったエプロンとネームプレートを身に付けた中年の男性。 上条に突き飛ばされた一人で、その恰好から少女が窃盗を行った店の店長だろう。

上条は男に面と向かって叫ぶように言う。

「アレは幾ら何でも度が過ぎてんだろっ!!」

 

「『ガストレア』が盗みを働いたのだぞッ!?」

 

「この子は人間だ!! それに盗み(そんな事)をしなけりゃ食べる事も満足に出来ねぇ状況を生み出したのは、テメェらが外周区に追いやったからじゃないのかっ!!」

 

「黙れ!! ソイツらが東京エリア内に居ること事態、目障りだと言うのに……!」

 

「テメェ……っ!」

 

「貴様等一体何をやっている!」

 

上条と男の言い争いがヒートアップしかけたそこへ割って入ったのは、眼鏡を掛けている痩せこけた男と、ガタイの良い角刈りの二人組みの警察官だ。

上条は警官の登場に安堵した。

これで少女が危険に晒される事はない、と。

それは否定される。

 

『――当麻!! 早くその子連れて逃げろ!』

 

(――――!!?)

 

声を出さなかった自分を誉めてやりたい。

上条を呼んだ……正確には彼の頭の中に『念話』で語りかけたのは上代だ。

 

(刀牙! いきなり『ソレ』を使うなって前に言ったよな! っつーか居るんだったら加勢しろよ! ああいう手合いを丸め込むのはお前の得意分野だろうが!)

 

『俺は『透視能力(クレアボイアンス)』を使って見てただけでその場に居ない。 ってそんな事言ってる場合じゃない!? そこからさっさと離れろ!』

 

(……そういやさっきも言ってたけど、どういう意味だ? 警官が来たんだからもう大丈夫だろ?)

 

『その警官が問題なんだ』

 

流石に警官の前で事を仕出かす奴は居ないだろと上条が訊くと、上代は衝撃的な事を上条に伝える。

 

『手短に言うぞ。 警官達はその子を殺そうとしている』

 

「冗談だろ」と一瞬思うが、上代はこの手の冗談は言わない事を上条は思い出す。

顔といわず全身から血の気が引くのを感じた。

上条が件の警官達に目を遣ると、警官は状況を周囲の人間に確認もせず、少女の両手首に手錠を掛けてパトカーへ連行している最中であった。

チラッと窺えた警官の表情はヒドく冷淡だったが、少女に向けられた眼差しは侮蔑が籠められていた。

(――くそっ! どうすりゃいい!)

 

パトカーに乗られたらアウトだ。

だが、強行手段に出たとして剣道や柔道などの護身術を習っている警官を二人も相手に少女を助け出すのは難しい。

焦りと苛立ちが募る上条へ上代がある提案をした。

 

『俺の能力で、警官達の注意を逸らしてやるからその子を連れて逃げろ。 出来るよな?』

 

(……ああ!)

 

『生憎と俺はソッチに行けない。 だから、知り合いの刑事にお前の携帯のGPSを追跡して向かって貰うように連絡した。 撒けなくてもその刑事が到着するまでは持ち堪えろよ! じゃあ、やるぞっ!!』

 

上代の掛け声と同時。

警官達は立ち眩みがしたかのように態勢を崩し、少女を捕えていた腕が離れる。

そこを突いて上条が警官に両脇を挟まれていた少女を抱えて逃走する。

「ま、待て!」

 

後ろから警官が上条を呼び止めるが、待つわけない。

学園都市で日夜、不良達との鬼ごっこで鍛えられた脚力を活かして走る上条が目指すは外周区。

 

 

6 (Apr.30_AM11:30)

 

そうして、話は冒頭部分に戻る。

 

「はぁ……、はぁ…」

 

体力に自信のある上条だが、少女を一人抱えた状態で悪路を長時間走り続けるのは、かなりキツく息が上がってきていた。

背後では依然として警官が上条達を追っている。

 

右折。 左折。 また右折。

碁盤の目のような裏路地をジグザグに駆け抜ける上条。 如何にか警官を撒こうとするも警官はそれに喰らい付いて来る。

その執念を他所(よそ)に向けろ! と怒鳴ってやりたいが、そんな余裕もない。

上条が道を左折した直後、想定していた中で最悪の事態が起きた。

 

道が無い。

 

そこは開けた場所で、地面はアスファルトから土に変わっていた。 赤錆びて子供が乗っただけで崩折(くずお)れてしまいそうなブランコやシーソー、蔓科の植物が巻き付いたベンチがあるから、ここは公園だったのだろう。

公園は四方をビル群に囲まれ、上条が通って来た道が唯一の出入り口であった。

 

「こんな時に『不幸』が発動しなくてもいいだろ!?」

 

上条は学園都市で不良に追われた際、裏路地を使って撒いていた。

それを可能としていたのは、一重に土地勘があったから。 土地勘が無い以上、袋小路に行き当たってしまうかは賭けであった。

上条はその賭けに敗れた。

 

「貴様、よくも梃子摺らせてくれたな!!」

 

上条を追い詰めた警官が息を荒げて言う。

警官達は憤怒に染まった表情で腰のホルスターから拳銃を取り出した。

 

「なっ……!?」

 

上条は咄嗟の判断で少女に覆い被さった。

その直後。

パンッ!! と銃声の乾いた音が公園に鳴り響いた。

 

 




上条さんの運命や如何に!

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