その為の右腕 作:オリジナル生徒が曇るの楽しいね
――ねえ、ツグちゃん
――君は自分のせいだなんて言うけど
――君は悪くないよ。ただ、君も間が悪かっただけだよ
――ただ、ひたすらに間が悪かった。それだけなんだよ
――だから、皆をお願い
――この最初から狂ってしまったお話を、今度は助けてあげて
「あ……」
目を覚ます。外、ではない。何処かの廃墟の様だ。どうやら、気絶していたらしい。
まだ体は軋むが、そんな事はどうでもいい。
前と同じならあれは第一波、次は本隊が来る筈。なら、本隊が動く前に叩く。
そう決め、体を起こす。
「お、気がついた?」
「え……?」
その声は、もう聞けない。
その姿は、もう見えない。
もう二度と会えない。
そう思っていた友がそこに居た。
「皆ー、目を覚ましたよ」
「た、かなし……?」
「ん? そうだよ、おじさんだよ。っと?」
何かを言おうとした。
何を言おうとしたのか分からない。
だって、それよりも早くに体が動いていたから。
義手で体を支える様にして立ち、生身の左腕でホシノを抱き締める。
嗚呼、本当だ。これは現実だ。
「生きてる……」
「え? おぉ? そりゃあ、生きてるよ。おじさんだからね」
本物だ。
小鳥遊ホシノが生きている。
命の暖かさと小柄な体に不釣り合いな力強い鼓動が、確かに友の生存を教えてくれる。
そうだ。まだ〝この時〟は、ホシノはアビドスに居て、まだ対策委員会の一員だったのだ。
あの日、忘れてしまっていた日々。それをまた手離したくなくて、一層強く抱き締めた。
「う、うへ~。皆~、ちょっと助けて~。おじさん、潰されちゃ……」
「……っ! ご、ごめん!!」
慌てて離れる。
また会えた嬉しさで、力が入りすぎた。
「ホシノ先輩、大丈夫? というか、そっちの人も」
「黒見」
「え? 何処かで会った?」
「ん、会ったかもしれない」
「砂狼」
「あら~、二人の知り合いだったんですか?」
「十六夜」
『セリカちゃんの友達ですか?』
「奥空」
アビドス対策委員会全員が健在。
一番最初に居なくなったセリカ、それを追う様にして戻らなかったアヤネ。取る必要の無い責任を取る為にアビドスを去ったノノミ。
そして、アビドスを守る為に戦い続け最後は狂い成り果てたホシノと、そのホシノを止める為に本当に成り果てきったシロコ。
皆が生きている。まだそれが起きる以前だから当たり前だけど、皆が生きている事が嬉しくて、誰も助けられなかった事が悲しくて、どうやっても涙が止まらない。
「ち、ちょっと大丈夫なの?!」
『まさか、どこか痛めたんでしょうか?!』
「大丈夫ですよ~。今はヘルメット団も居ませんから」
「うへー、やっぱり無理してたのかな?」
「ん、もう大丈夫。心配ない」
やっぱり、どの世界でもアビドスの皆は変わらない。
自分達が大変なのに、誰かを気遣える。
そんな優しい皆を心配させてはいけない。
立ち上がれ。憧れたヒーローになれなくても、それでもと立ち上がれ。
「……ごめん」
「いいよ。でもさ、どうしておじさん達を知ってるのかな? はじめましてだよね?」
「それは、先生と一緒に……。先生は?」
「先生なら、情報を集めるって外に……」
「なんで?!」
「え? タブレットの通信が遅いからって……、待ちなさいよ!」
ダメだ。ダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだダメだ。
今、先生を一人にしちゃダメだ。
急げ。もうあんな事は起こさせるな。
「先生……!!」
「びっくりした……。どうしたの? というか、体は大丈夫なの?」
「先生、どうして一人で行動したんですか?」
「え? いやぁ、タブレットの調子が悪くてさ。外なら電波入るかなって」
「ダメです。最低でも一人は護衛を付けてください」
良かった。まだ何も起きていない。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
歯噛みする。この人は優しくて、アタシ達の事をちゃんと見てくれる大人だ。
でも、致命的に危機感が無い。
「今は情報より、先生達の安全です。急いで、アビドス高校に戻りましょう」
「いや、まだヘルメット団達の動きが気になる」
「いいから! ヘルメット団もカイザーも、アタシが探りますから先生は皆と一緒に居てください!」
左腕じゃダメだ。右腕で先生を担ぐ。
「わっ! ちょっと待って! あ、でもこの腕、カッコいいね」
「……でしょうね。デザインは先生も噛んでますから」
「え? 私が?」
「ん、先生をどうするつもり」
「砂狼。どうもしない。ただ、場所を変えたい。ついてきてくれない?」
「なら、先生を降ろして」
「判った。先生、降ろすよ」
「あ、うん」
なんでちょっと残念そうなのかは理解出来ない。
まあ、この腕をデザインしたのは先生と黒服だから、やっぱりこの辺りは通じるものがあるのだろう。
「シロコちゃん、大丈夫そう?」
「ん、大丈夫。あの子がついてきてほしいって」
「ごめん。面倒だけどついてきて。そこで今話せる事を話すから」
「分かったよ。じゃ、皆行こうか」
大丈夫、大丈夫。もうあんな事は起きない。皆がちゃんと居るんだ。
だから、大丈夫。
「で、学校まで戻る必要あった?」
「ごめん、黒見。奥空も一緒に聞いてもらいたいから」
さて、この子をどう見るべきかな。
背はシロコちゃんより頭一つ低くて、髪は白髪だね。元は黒かな。ほぼ白の灰色になってる。
そして、一番はあの義手。ローブを脱がせた時に見たけど、右肩からごっそりいかれてる。
キヴォトスで何があったらそうなるのか。ちょっと想像がつかない。
「……黒見、柴関のバイトは続けてる?」
「は? なんであんたが知ってるのよ。もしかして、来た事あるの?」
「あるよ。こっちでは無いけど」
「は? それどういう意味よ」
それに、私達の学校を迷わず歩いてる。
ここまで来るにも迷わなかった。
事前の下調べ、じゃない。どんなに調べてもアビドスの地理上、必ずどこかで迷いが出る。
なら、本当に来た事があるのかな。
「ねえ、名前くらいは教えてくれるかな?」
「それも、対策委員会室に着いてから」
隠し事というより、話すタイミングが重要みたいだね。
じゃあ、そこで聞かせてもらおうかな。
君が何者で、何をしにアビドスに来たのか。
「あ、皆さん。お帰りなさい」
「うへー、ただいま。アヤネちゃん」
「お帰りなさい、ホシノ先輩。それで、そちらの方が……」
「……守家ツグ。はじめまして、奥空」
「じゃ、話してもらおうかな。君は何者なの?」
「うん、話すよ。でも、信じてもらわなくて構わない。それだけの話だから」
「はぁ?」
さて、信じてもらわなくて構わない話か。
どんな話なんだろうね。
「はっきりと言う。私はこことは違う未来のキヴォトスから来た」
すっごいエキセントリックな事言い出したよ?