その為の右腕 作:オリジナル生徒が曇るの楽しいね
――ツグ、貴女に頼みがあるの
――そうね。……普通に考えたら、貴方にではなくネルに頼むべき案件ね
――でも、ヒマリとも話して貴方に頼むべきだと判断したわ
――貴女にこれを託すわ
――ええ、そうよ。これは念の為。この反抗作戦が失敗した時の保険、最後の手段が入ってるわ
――そうね。らしくないかもしれない
――だけど、貴女なら任せられる
――だから、お願い
――この狂って捻れてしまった世界から、そうでない世界を救って
「未来から来た?」
「えー、そうなんですか~」
「いやいや、そんな訳ないじゃん! あんた、テキトー言ってんじゃないわよ!」
まあ、そうなるよね。アタシだって、こんな怪しい奴がこんな事言い出したらそうなる。
でも、黒見。これは現実なんだ。これは現実で、これから起きる事も現実なんだ。
「ちょっと、何か言いなさいよ」
「セリカ、落ち着いて」
「でも、先生……!」
「……未来で何が起きたの?」
「先生、皆。今から話すのは、私達の世界で本当に起きた事で、この世界もそうなるかもしれない」
話したくない。思い出したくない。
でも、伝えなきゃ。皆にあんな風になってほしくないから。
「皆、落ち着いて聞いてほしい。私達の未来では最初に……、アビドスが崩壊する」
「は? どういう意味だよ、それ」
「ホシノ先輩、落ち着いて!」
「小鳥遊、アタシを殴ってもいいから聞いて。まず先生が撃たれて、黒見が誘拐される事から始まるんだ」
「わ、私が誘拐?! てか、先生が撃たれる?!」
「え、私撃たれるの?!」
「はい、そしてまず意識不明の重傷になります」
アビドスからの救援依頼を受けて、先生はアタシを連れてアビドスへ向かう。
そこで皆と出会ってアビドスの現状を知り、借金をどうにかする為の行動を始める。問題はこの借金をどこからどう借りたか。
アタシの世界だとカイザーからの借金で、皆はバイトや賞金稼ぎでこの借金を返していた。
黒見は柴関のバイトをしているらしいから、ここでも多分それは変わらない。
なら、まず伝えるべきなのは先生の危機と黒見の誘拐阻止だ。
「えっと、ちょっと待ってね? 先生が撃たれるって、アビドスで?」
「うん、アビドスで戦闘中に撃たれて意識不明になって、アタシは一度シャーレに戻る。そして、連邦生徒会にアビドスの借金の調査を依頼する。その間に黒見が誘拐される」
「待って待って、情報が多いわよ! なんで私が誘拐されるのよ?!」
「分からない。誰が誘拐したのかも、結局分からなかった。でも、そこからアビドスの崩壊が始まるんだ」
小鳥遊は喋らない。十六夜も普段通りにしているけど、眉間に皺が寄ってる。
奥空は何か言いたそうな黒見を宥めて、砂狼は小鳥遊に引っ付いて、先生は何かを考えてる。
大丈夫、大丈夫だ。
何が起きるのかを伝えて、誰かが欠けなければどうにかなるんだ。
「……ツグ。まずって言ったよね。まだ何かあるんだね」
「はい、先生。黒見の誘拐の2日後、捜索隊が派遣される直前に奥空が黒見の捜索に出て、そのまま行方不明に。そして……、アビドス砂漠の廃墟で……っ!」
「ツグ?!」
耐えろ。耐えろ耐えろ耐えろ耐えろ。
吐くな。思い出せ、伝えろ。その為にお前は生かされたんだ。
お前の役目は皆を守る事だ。だから、自分の辛さなんて無視しろ。皆の方が辛いんだ。
耐えろ。伝えろ。そして、皆を守れ。
「ツグ、辛いなら休んで」
「いえ、これがアタシの役目です。役立たずの役目です。……アビドスの廃墟、そこで黒見の左足だけが発見され、砂漠の中央部で奥空の拳銃が見付かりました」
「は? 私の左足だけ? アヤネちゃんも……?」
「セリカちゃんが……」
ごめん、二人共。でも、アタシがどうにかするから。
その為に来たから。
「……まだ続きがある。二人の捜索が続けられ、借金の関係からカイザーにも捜査が入った。だけど、カイザー側もPMC理事がアビドス砂漠で行方不明の後、カイザー所有基地の爆発事故現場から遺体が発見される」
そして、
「三ヶ月、意識が戻った先生がどうにか伸ばした捜査も打ち切りになる。だけど、次は十六夜が居なくなる」
「私、ですか……」
「うん、十六夜は取る必要の無い責任を取る為にアビドスを去り、ハイランダーの生徒会長になり、アビドスの債権は一時ネフティスとハイランダーが所有する事になった」
「ノノミがどうして?」
「砂狼、十六夜はネフティスの令嬢だからだ。そこからはアタシもアタシも報告書でしか知らないけど、ハイランダーはある事件で壊滅。十六夜もそこで……」
「報告書でしかって、何があったの?」
「その少し前にアビドスに出現した機械の怪物〝ビナー〟に右腕を肩ごと持っていかれて、意識が戻ったらそうなってた」
「あの……」
十六夜だ。
疑問はよく分かる。なんだって本人だ。何が起きたら自身がその選択をするか。一番理解している筈だ。
「思い上がりかもしれませんが私がそうなる時、先生はどうしたのでしょうか?」
「先生は十六夜をどうにか説得しようとあちこち駆け回って、その最中にゲヘナとトリニティ間で起きた事件で瀕死の重傷を負った。アタシは病院のベッドで管だらけになって、機械に囲まれた先生を見る事しか出来なかった」
「そんな……」
先生はそれでも辛うじて動く顔で笑いかけてくれた。
それがアタシには辛かった。守る、助けるって決めたのに結局何も出来ず、出来たのは右腕を無くす事だけ。
こんなアタシに何が出来るんだ。
「……一つ聞きたいけどさ。私とシロコちゃんはどうなったの?」
「小鳥遊、砂狼の二人は最後までアビドス復興の為に動いた。だけど、ある事件が起きた」
「事件? 何が起きたの?」
「小鳥遊はある組織と契約し、砂狼とは別の方法でアビドス復興へ動いた。そして、あれが起きた」
思い出したくない。思い出しだそうとするだけで、体が震える。
あれはそれだけの存在だった。
「あれが何だったのかは、アタシは今もよく分かってない。だけど、ミレニアムのビッグシスターが言うには古代の遺産らしい。それとの戦いで小鳥遊は暴走、連邦生徒会が全自治区中からかき集めた部隊と交戦。そして……」
ごめん、ごめんなさい。何も出来ない役立たずでごめんなさい。
次は、今度はアタシが代わりになるから許して。
「そして、最後に小鳥遊と同じ状態になった砂狼が、小鳥遊のヘイローを破壊。砂狼も何処かへ消えた。これがアタシが見たアタシの世界のアビドスでの出来事」
「ん、嘘ばっかり」
「シロコ……」
「いいよ、それでも」
嘘吐き呼ばわりされても、敵だと言われても、どうだっていい。
皆を守れれば、アタシはどうなろうがどうでもいい。
「先生、これ」
「アタシの連絡先。何かあったら呼んで、身代わりにでもなんでもなるから」
「ツグ、君に何があったのかまだ分からない事だらけだけど、そんな事は言わないで」
「……役立たずにそれ以外何が出来るんだよ」
立つ。アタシは皆の仲間じゃない。いきなり現れて、よく分からない事を言う怪しい奴でしかない。
それでいい。
「……何処に行くのかな?」
「アビドスには居るよ。だけど、アタシはここに居ない方がいい。あと、小鳥遊。何かを決める時は必ず誰かに相談して」
弾はまだある。義手も少し手入れすれば大丈夫、そういう風に造られてる。体力も少し休めば動ける。
「ごめんね、皆。気持ち悪い話して。今はまだ大丈夫だから、皆は普段通り過ごして。あと、黒見は絶対に誰かと行動して」
「なんでよ?!」
「誘拐の可能性が一番高いから。あと、もう一つ。先生」
「これはUSB?」
「そこに調月……、ビッグシスターと全知が纏めた内容が入ってるから、時間があったら見て」
「待って、何処に行くの?」
「アビドスには居るよ、先生」
だから、役目を果たせ役立たずのポンコツ。まだ問題はアビドスだけじゃないんだ。
お前にそれ以外の存在価値なんて無いんだ。