ソードアートオンライン 翠玉の守護者 ~神様のミスで死んだので、SAO世界に転生して頑張りたいと思います。~ 作:灯油明太子
「はいどうもー、シュウトです。あ、ありがとうございます、今「アニールブレード」をもらいましたけどもね、こんなんなんぼあってもいいですからね。」
「......」
「なんかリアクションしてよ、スベったみたいじゃん!」
「......」
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皆さんこんにちは、シュウトです。先ほど見てもらったように、NPCに対してちょっとしたボケをしてみたんですけどね、反応がイマイチよくないんですよ。こんなん、関西人がおったら大激怒ですぜ。まあ、自分は関西とは全然関係ないんですけどね。
さっき見てもらったのはクエスト報酬をもらうときに、気分で某漫才コンビのつかみをやってみた場面なんですけども。うん、テンプレだから「なんぼあってもいい」とは言ったけどさ、あのレアエネミー狩るの面倒くさいね、ホント。だって、100体に1体くらいしかお目当てのエネミーが出現しないらしいじゃないですか。個人の感想だけど150体くらいリポップしてやっと倒せた気がしますよ。なんですか、この世界でも物欲センサーなるものが存在するんですかね?それに、他のプレイヤーもまあまあいたせいでかなり討伐に手こずりましたよ。もうやりたくない。それに、仮に無条件でもらえるとしても、この世界だと剣を2本以上同時に持つなんて、それこそキリトが修得する「二刀流」くらいでしかできないわけで、1本だけあれば十分ですわな。
というわけで、デスゲーム宣言された次の日には、原作でキリトがクラインを連れて行こうとしてた街、ホルンカに着いたんですよね。んで、早々に例のクエストを受けたんですけど、面倒くさいのなんの。まあ、何とかクリアして、「アニールブレード」を入手したんですけどね。
それからは、ホルンカ周辺のフィールドのモンスター相手に、盾を使いながらの戦闘に慣れるようにかなりの戦闘を積んでいった。
そんなこんなで、この世界に来てから1週間ほどが経過した頃の俺は宿屋でやる気を失いかけていた。なぜかって? それは飯がおいしくないからですよ。いや、ほらアニメだとそういう描写全然ないじゃないですか。せいぜい、キリトがアスナと一緒にパンにクリーム塗って食べてたり、キリトがS級食材のラグーラビットをアスナにシチューにしてもらってたり、キリトがアスナお手製の醤油もどきを使ったお弁当や手料理を食べてたり...... なんか、キリトばっかりおいしいもの食ってて、腹が立ってきたな。
この世界の食事が味気ないことを嘆きながら、俺はホルンカの宿屋で乾いたパンにかじりついていた。まあ、アニメだと2話までが第1層での話だけど、おいしそうなご飯が出てきてた後半以降は第75層付近の話だから、あんな美味しそうなご飯にありつけるのは、あと2年くらいは待たなきゃいけないの?しんどい。だれか、この世界でも二郎系ラーメンとか作ってくれる人いないのかな?
こんなことを考えていても、何にもならないので、今日もレベル上げと戦闘訓練を兼ねた狩りに向かった。最近は、このあたりのモンスターにも慣れてきて、ノーダメ撃破もできるようになってきていた。そんな時、視界の端にプレイヤーがモンスターに囲まれているところを見かけた。
「あれは、ちょっとまずいんじゃね?」
目の前で死なれてしまうのは寝覚めが悪いので、助けることにした。まあ、原作でのメインキャラじゃなかったとしても、デスゲームの被害者であることには違いないからな。
「おーい、大丈夫か!」
そう声をかけて、モンスターに囲まれているプレイヤーに近づきながら、パーティー申請を飛ばした。パーティーじゃないと、他プレイヤーのHP状況が全く分からないから仕方ないね。少し経つとパーティー申請が受理されて、俺の視界にもう1本のHPバーが現れた。そろそろイエローになりそうな体力状況だったので、一旦ヘイトを集めて、回復してもらうことにした。
「一旦、敵を引き付けておくから、その間にポーションでHPを回復しとけ。回復が終わったら、各個撃破を頼む。」
「わかった。」
そう言うと、そいつは俺の方に向かって走り出した。当然、敵も向かってきていたわけだけど。
「スイッチ!」
「おお、これが何度も聞いてた『スイッチ』か」
そんなことを思い、感動しながらも敵を食い止めることは続けていた。体力が多すぎて、敵の攻撃を受けてもそんなに痛くないんだよな。まだ、レベルは2ケタになったばかりくらいなんだけど、HPが1万ちょっともあるんだよね。そりゃあ、死にかけることもないよね。たしか、キリトがシリカとプネウマの花を取りに行ったときに、レベル80くらいでHPが1万5000くらいでしたっけ?さすがに神様のチート能力だね。
しばらくすると、回復を終えたプレイヤーが戻ってきて敵を倒してくれた。その後そのプレイヤーと、俺の耐えのスキルがすごいって話になってたんだけど、なんか見覚えのある顔してるんですよね。で、パーティーメンバーの名前を見るわけですよ。そしたら、ビックリ。なんと目の前にいるのがさっきおいしそうな飯を食っていた嫉妬で、腹が立っていたキリト君ではありませんか!
「なんか、一発ぶん殴りたいな」
「何でだよ、突然すぎるって!」
しまった、声に出てしまっていたか。冷静に考えると、デスゲームで通りがかりに助けて出したやつを殴りたいって、相当なサイコパスじゃん。とりあえず、弁明をしなければ。
「お前を助ける前の話なんだけど、お前によく似た『キリト』って名前のやつが、女の子と一緒にパンにクリームを塗って食べてたり、その女の子の家に転がり込んでS級食材を使った手料理を食べてたり、迷宮区での休憩中に手作りのお弁当を食べてたり、そんな光景が頭によぎりながら、乾いたパンを食べてたから腹が立っててな。」
「いや、全く身に覚えがないんだけど、濡れ衣?」
「あぁ、濡れ衣っちゃあ、濡れ衣だし、事実っちゃあ、事実だな」
「どっちだよ!」
「まあ、一旦忘れて忘れて。とりあえず自己紹介かな。俺はシュウト、よろしくな。」
「俺はキリトだ、よろしく。」
ということで早々に相互にフレンドになりました、はい。まあ、予想してないタイミングではありましたが、キリトとフレンドになれたので、ヨシッ!ってことで。あ、そうだついでにアルゴとのつながりが持てないか、それとなく聞いてみるか。
「そういえば、このゲームで情報屋みたいなことしてるプレイヤーと連絡とれたりしない?」
キリトは俺の質問に、少しだけ考えながら答えた。
「知り合いにいるにはいるんだけど......」
「いるけど? 何か問題でも?」
そう返答しながら、一つ大事なことを忘れていた。キリトはβテスターでありながら、自分の保身のために次の街へ早々に出発した側の人間だ。おそらく、あまり自分の素性を知られたくはないだろう。だから、俺がキリトのことをβテスターだと思っていないように見られる必要があるだろう。慎重に言葉を選ばなければいけない。
「いや俺、βテストには参加できなかったんだけど正式サービスが楽しみすぎてさ、ネットの掲示板とかでβテスト期間中の情報を集めてたんだ。だから、情報屋みたいなプレイヤーの存在は知ってるんだけどさ、いかんせんパイプがなくてな。ゲーム開始からもうここにいるキリトみたいな計画的に進めてるプレイヤーだったら、フレンドにそういうやつもいるのかなって思ってさ」
結構難しいね。普通に、察しのいい奴ならβテスターだと疑ってることに気づかれそうだよね。特に、ヒースクリフが茅場晶彦だって見抜いてたキリトとかだと。というよりも、それ以上に転生したっていう特大地雷があるんだし、それに気づかれたくはないけど。
「ああ、なるほどな。俺の知り合いの情報屋にアルゴってのがいるんだけど、あいつ、ぼったくりだぞ」
「大丈夫だ、コルならそれなりに持ってるからな。それに、このゲームは命がかかってるんだ。情報料をケチって、自分の命を危険にさらすくらいなら金を出すよ。」
「わかった。ただ、会えたとしても、シュウトの求める情報が手に入るかどうかはアルゴ次第だ。それでもいいなら、俺からアルゴに伝えとく。」
「助かる、こういうゲームは情報が命だからな。」
なんとかキリトには、疑われていないみたいだ。いやぁ、何とかなったかな。アルゴとかが作るガイドブックは始まりの街で配布されてたらしいけど、アルゴから買うこともできるかな?
「それでシュウト、お前はこれからどうするんだ?また、この辺りで狩りをするのか?」
キリトの問に、俺は首を振った。
「いや、そろそろ次の街に行こうかなと思ってな。ここら辺の敵はある程度動きに慣れてきたから。どうせなら、キリトもパーティー組んで一緒に行かないか?」
「あ、いや。俺はあんまりパーティーとかは......」
キリトはソロにこだわるかもしれないが、このタイミングを逃すとキリトとの接点を得るタイミングがなくなりそうなので、
「さっき、敵に囲まれてピンチだったくせに。一人より二人の方が安全に次の街に行けるだろ。さっき助けた借りを返すと思って、付き合えよ」
「......わかったよ、シュウト。俺もそろそろ次の街に行こうと思ってたところだ」
ということで、明日の朝に次の街に出発することになった。だけど、その前にクリームがどこでもらえるかを聞いてみた。確か、あれは第1層で食べてたはずだからそろそろ手に入れてそうなんだよな。
「そういえばさ、キリト。クリームってどこで手に入るか、知らない?確か、『逆襲の牝牛』みたいな感じのクエスト名らしいんだけど」
俺がそう聞くと、キリトは呆れた顔をして指をさした。
「そのクエストなら、この街で受けられるぞ。俺は一度クリアしてるから、どこで受けられるかもわかるけど......」
「マジで!やるわ!......いや、待てよ。キリトもそのクエスト、もうやったんだろ?じゃあ、さっき助けたから、そのクリームをもらえばいいか。決定な!」
「お前のものは俺のもの、俺のものも俺のもの」というわけですな。うん、実に素晴らしい名言だよジャイアン!それに、アニールブレードのために面倒なクエストをやった身としては、また面倒なクエストだとたまったもんじゃないから、一石二鳥だな。
「はぁ!?お前、俺のクリームを堂々とネコババする宣言をしてる自覚あるのか!?」
「ホント、キリト君ってば器が小さい!(女声)」
「おい、その声やめろよ、気持ち悪いぞ」
俺がわざと高い声を出して揶揄すると、キリトは本気で嫌そうな顔をした。しかし、その表情からはどこか諦めのようなものが滲み出ていた。
「わかった、わかったよ。お前がそこまで言うなら、クエスト、付き合ってやる。ただし、報酬は山分けだ。で、クリームは……お前の分も、俺がもらってやるからな!」
そう言い放ち、キリトは腕を組んだ。
「なんて横暴だ!ドラえもんに言いつけてやる。『助けて、ドラえも~ん!!』」
俺は思わず声を上げたが、キリトの視線が「文句があるのか?」と雄弁に語っていたので、仕方なく引き下がる。まあ、それでもクエストをソロでやるよりは遥かにマシだろう。
翌日の朝。クエストをクリアして、十分な量のクリームを手に入れた俺たちは、ホルンカの街の門に集まっていた。パンにたっぷりクリームを塗って頬張ると、その素朴な甘さが乾いたパンの味を劇的に変化させた。
「うん、やっぱこれだよな! キリト、お前も食えよ。ほら、たっぷり塗ってやるから」
「俺は自分で塗るからいい!」
キリトは若干引き気味だったが、パンにかぶりつく様子はどこか嬉しそうにも見えた。
「さて、今日こそ、次の街に出発するか。昨日はなんかキリトが反対したからな」
「それは、お前が俺のクリームを堂々とネコババする宣言をしたからだろうが!」
俺たちの軽快なやり取りは、まだデスゲームの始まりの混乱の中にいる他のプレイヤーたちには、どう映ったのだろうか。そんなことを考えながら、俺はキリトと共に、ホルンカを旅立ち、第1層の迷宮区にほど近いトールバーナの道を歩き始めた。