スティレットのおはなし   作:ぺかちゅう

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戦うおはなし



#1 VSフレズヴェルク

「コイツら全員、轟雷に負けたんだろ?あっは、なっさけな~い!」

 

 東京都立川市に建つマンション。その一室に響く少女の声。私立若葉女子高等学校一年生である源内げんないあおの部屋に乗り込んできた、FAファクトリーアドバンス社で開発された手のひらサイズの少女型ロボット、FAフレームアームズ・ガールの一人であるフレズヴェルクから留守番中のFAガールたちに向けられた言葉である。

 あおの部屋で暮らすFAガールたちやフレズヴェルクには、人工知能である高性能AIを搭載したFAガールとは異なり、人工自我であるASアーティフィシャル・セルフが搭載されている。そして、その中でも更に特殊な成長型ASを搭載した轟雷ごうらいの敗北データを得るために、フレズヴェルクが戦いに来たのだという。

 フレズヴェルクの傲岸不遜な物言いに、轟雷と、轟雷とバトルを行ったFAガールたちがむっとした表情を浮かべる。

 そして、フレズヴェルクの挑発に乗せられるがままに轟雷がバトルを受けようとした時──。

 

「待ちなさいよ!」

 

 バトルを始めようとする二人の間に、轟雷が初めてバトルを行った相手であるスティレットが割り込みをかけた。

 

「スティレット……?」

「なんだよ~。ボク、これから轟雷と戦うところなんだけど?」

 

 轟雷が驚き、フレズヴェルクは不満そうに口を尖らせる。

 そんな二人の反応をよそに言葉を続けるスティレット。

 

「先にアタシと戦いなさい!」

「ふーん、これから轟雷をやっつけるボクに勝つつもりなの?ボクと違って轟雷に負けたのに?」

「アンタが轟雷より強いかなんて知らないけど、アタシがアンタに負けるかなんて分かんないでしょ!いいからバトるの!」

「……へぇ」

 

 スティレットの啖呵にフレズヴェルクの表情が変わった。

 勝利を確信していることには変わりがないが、轟雷とのバトルを邪魔をされたことによる不機嫌さは無くなり、代わりに好戦的な光が瞳に宿る。

 

「負けたくせに会社で強くしてもらうわけでもなく負けた相手と一緒に過ごし始めるなんて、よっぽどの腑抜けが揃ってるのかと思ってたけど……」

「なによその言い方!アタシたちは一回負けただけで諦めて帰るような腑抜けじゃ──」

「いいよ、バトルしてやろうじゃん。ボク、やる気がある相手を倒すのは大好きだよ」

「……言ったわね?後悔させてみせるんだから!」

 

 あくまでも格下を相手にする態度のフレズヴェルクに苛立ちながら、スティレットは自分用の充電ユニットである充電くんと共にセッションベースを準備する。

 バトルの準備を進めるスティレットに、他のFAガールたちが話しかけてきた。

 

「スティレットちゃん、あの子は誰にでもあんな感じなんだから怒るだけ無駄だと思うわよ?壊れるくらいに痛めつけたくなっちゃう気持ちは分かるけど」

「そうね~、怒ってもしょうがないわ。アーキテクトちゃんもそう思うでしょ?」

「肯定。フレズヴェルクのあの言動は悪意からくるものではなく、あくまでも自然体のもの」

「うーむ、悪意がなくてあれというのも問題の気がするが……。ところで、三人は彼女と面識があるのか?」

 

 姉妹型FAガールであり、それぞれクロとシロの愛称で呼ばれるマテリア姉妹、そして彼女たちと同じく初期に開発されたFAガールであるアーキテクトの、フレズヴェルクを知っているかのような口ぶり。それを聞き、轟雷と同じ部署で開発され、ASに関してを除けば轟雷の姉妹機である迅雷じんらいが問いかける。

 

「ええ、FA社でちょっとね」

「あなたたちと轟雷ちゃん、それからバーゼちゃんの元になった子も、あの子とは知り合いよ」

 

 姉のシロがその問いに答え、妹のクロが迅雷とスティレットに向かって付け足す。

 フレズヴェルクと同じく新しい型のFAガールであり、今は昼寝をしているバーゼラルドの元となったFAガールも同じのようだ。

 

「成程。……ならば割り込んでまで戦う必要はないのではないか?あの様子では、戦ったところでこちらへの振る舞いを反省したりもしないだろう」

「悪意とか反省とか関係ないわ。アタシの気がすまないのよ」

「気がすまない?」

「そう」

 

 あまりフレズヴェルクと関わりたくないのか、迅雷もスティレットがバトルすることに乗り気ではないようだが、スティレットは譲らなかった。

 

「戦ってもいないアイツに、アタシたちがバカにされたままなんて嫌なの!」

 

 そこまで言うとバトルの準備に戻るスティレット。

 

「……よし。割り込んじゃって悪かったわね、轟雷」

「いえ、大丈夫です。……スティレット、頑張ってくださいね」

「──当たり前でしょ!」

 

 近くで話を聞いていた轟雷に応援され、なんとなく自分らしくない振る舞いをしていたことに気づいたスティレットは、気恥ずかしさを隠すかのように強気な返事を返す。

 

「おっ、準備できた?」

「ええ。始めるわよ!」

 

 二つのセッションベースが繋ぎ合わされる。

 

「フレームアームズ・ガール、セッション!」

 

 二体のFAガールの声が、部屋に響く。

 

「見てなさい!」

「ばっちこぉい!」

 

 口上こそ違えど、同じように気合を入れるスティレットとフレズヴェルク。

 

「今この瞬間が、Sparking!」

 

 スティレットが飛行機能の付与された装甲を身に纏い──。

 

「ぶっ飛ばすぞぉ!ぶん回すぞぉ!そんでもって、ピカピカドッカンの、ボクのビクトリー!」

 

 フレズヴェルクは、武器とスラスターを追加するための装備といった趣が強い装甲を、主に背中に装着する。

 準備を整えた二人は、バトルフィールドへと赴くのであった。

 

「それにしてもアタシたちは腑抜けじゃない、ねぇ……。うふふっ」

「スティレットちゃんは、ああいうところが可愛いのよね~」

 

 スティレットがバトルフィールドへ行ったのを見計らい、マテリア姉妹が話し始める。

 

「一体何のこと──あぁ、そういうことか」

「?……どういうことですか?」

 

 二人の会話の意味を理解した様子の迅雷に、轟雷が質問する。

 

「スティレット殿は、自分が勝つためというよりも我々のために戦う決意をしたということだ」

「みんなのプライドを背負って戦った、なんて指摘してあげたら恥ずかしくて真っ赤になっちゃうでしょうね」

「うふふ、試してみましょうか?」

「学習モード、プライド──データ取得完了。誇り、自尊心、自負心、自らを誇る気持ちのこと。みんなのプライド、すなわち私たちの誇りの為にスティレットは戦っていると思われる」

「みんなの、誇り……」

「本人は照れて認めないでしょうけどね〜」

 

 そこまで話したところで、FAガールたちはバトルフィールドに意識を向けることにした。

 

 

 

 バトルフィールド内。

 スティレットはフレズヴェルクと会敵すべく、青空の下を飛んでいた。

 

「さて、どこからくるのかしら……」

 

 警戒しつつフィールドを飛行するスティレット。

 そこへ、各部のスラスターを思い切り吹かしたフレズヴェルクが飛び込んでくる。

 

「おっ、いたいた!」

「来たわね!」

 

 二丁のベリルショット・ランチャーからビームを発射しながら全速で突っ込んでくるフレズヴェルクに対して、スティレットは回避行動をとりつつガトリングガンで応戦する。

 当たれば僥倖。

 その程度の気持ちで発された弾丸を、フレズヴェルクは飛行のベクトルをほんの少し変えるだけで躱してみせる。

 攻撃を躱したことでフレズヴェルクは軌道を逸らし、スティレットとすれ違う。

 すれ違った直後、速度を出さずに飛行していたスティレットは、うまく体勢を崩さずに振り返る。

 狙い通り、スティレットがフレズヴェルクの後ろをとった形だ。

 

「これでどう!?」

 

 真っ直ぐに飛び去っていくフレズヴェルクへ向かって、後ろからハンドミサイル──かつて轟雷に対して使ったものとは違う、空対空ミサイルである──を発射するスティレット。

 命中を狙って放たれたミサイルは、しかしフレズヴェルクの背中のユニットに装備されたスラスターの出力にモノを言わせた機動で回避される。

 

「へぇっ、なかなか考えてるじゃんっ!」

「……そう簡単には当たらないか」

 

 スティレットはマテリアたちのとの会話を経て、フレズヴェルクが自分よりも遥かにバトルの経験を積んでいるであろうことは分かっていた。しかし、その幼さすら滲む言動に、どこか油断していたのも確かだった。

 だが、後方から飛来するミサイルをスラスターの性能を十全に活かした機動で強引に回避し、それでいて姿勢すら崩さずに飛行を続ける技量。

 たった一度の攻防は、勝ち気な笑みを浮かべるフレズヴェルクが強大な敵だとスティレットに認識させるには充分すぎるものだった。

 

「ミサイルはあと一発、ね……」

「よーっし、続けていくぞぉ!」

 

 険しい表情になるスティレットと、自信満々に突っ込むフレズヴェルク。

 両者の表情は対象的だった。

 

 

 

 一方、他のFAガールが観戦するフィールド外。

 

「これがFAガール同士の空中戦……」

「そういえば、轟雷は初めて空中戦を見るのか」

 

 バトルを見つめる轟雷に、迅雷が話しかける。

 

「はい。地上戦よりもさらに激しく動き回って戦うものなんですね」

 

 轟雷の言う通り、スティレットとフレズヴェルクは互いに牽制しつつも足を止めることなく、動きながら戦っていた。

 

「そうね、飛んでいるときというのは地面に足をつけていないから体勢を崩したくないものなの」

「相手の体勢を崩すには、やっぱり後ろや横合いからの攻撃が有効なのよ。スティレットちゃんの場合は武器がそこまで強力じゃないから尚更ね~」

「なるほど……」

 

 マテリア姉妹の解説を受け、改めてフィールド内を観察する轟雷。

 解説の通り、互いに相手の死角に回り込もうとしている二人が映っている。

 そして観察を続けるうちに、轟雷には別のことが見えてきていた。

 

「でも、スティレットのほうが苦しめられているように見えますね」

「うむ。フレズヴェルクは余裕の表情と言った感じだが、スティレット殿の方は随分と……」

「肯定」

 

 轟雷と迅雷が述べた感想に、アーキテクトが同意を示す。

 そのまま解説を続けるアーキテクト。

 

「初期に設計されたスティレットと新しい型のフレズヴェルクでは、素の性能に差があると言わざるを得ない」

「それでも二人が同じような戦い方をしているというのは──」

「敢えてフレズヴェルクがスティレットに合わせて戦っている、ということでしょうか?」

「スティレットちゃんに付き合ってあげている、といったところかしら」

「バカにされちゃってるわね~」

 

 話を続けつつも、轟雷たちはバトルフィールドで戦う二人を見守り続ける。

 

「スティレット……」

 

 心配そうな轟雷の声が、あおの部屋に小さく響く。

 

 

 

 バトルフィールド内で苦い表情を浮かべるスティレットも、フレズヴェルクが自分に合わせて戦っていることには気づいていた。

 

「でも、このままじゃ勝てないわね……」

 

 同じ戦い方であれば、性能が上の方が勝つのは自明だ。

 派手な動きとは裏腹にジリジリとした戦況の中、フレズヴェルクがスティレットに話しかける。

 

「ねぇねぇ、スティレット」

「なによ?」

「戦うのがそれなりに上手いのは分かったけどさぁ……。もっとこう、ズバー!って感じの秘密の必殺技とかないの?」

「……なんでそんなこと聞くわけ?」

「そういうのがなきゃボクには勝てないでしょ?」

 

 フレズヴェルクのこの言い方はスティレットというFAガールを知り尽くしているが故。

 FA社にいたスティレットも、自身の性能を十分に引き出していた。それを幾度となく打ち負かしてきたのがフレズヴェルクなのだ。

 フレズヴェルクにとっては慢心でもなんでもない単なる指摘の言葉に、しかしスティレットは強い苛立ちを覚える。見下された言い方だというのもあるし、何よりも、このままでは勝てないという危機感はスティレット自身も抱いていたものだからである。

 

「──こうなったら!」

 

 フレズヴェルクとの会話をきっかけに、スティレットは勝負に出る決意を固めた。

 残り一発のミサイルをフレズヴェルクに向けて発射し、間髪入れずにガトリングでも攻撃。自ら発射したミサイルにガトリングの弾丸が命中し、爆発が起こる。

 

「いっけぇ!」

 

 爆発での目くらましでフレズヴェルクの視界が奪われた一瞬を見計らい、腰に携えた日本刀の内一本を引き抜きつつ突撃するスティレット。

 だが、勝負を決めるべく振るわれた日本刀は、ブレードダガーに防がれる。

 

「なっ!?」

「いいねぇ。ボク、そういう思い切った攻撃は大好きだよ!」

 

 最後のミサイルを目くらましに使った時点でスティレットが接近戦で勝負を決めにくることを読んでいたフレズヴェルクは、ベリルショット・ランチャーを収納してブレードダガーを構え、接近戦の準備を整えていたのである。

 

「じゃあここからは切り合いだぁ!」

 

 言うが早いか、フレズヴェルクが両手に持ったブレードダガーを振るう。

 スティレットも二本目の日本刀を引き抜き、二刀流で応戦するが、取り回しに勝るブレードダガーを使うフレズヴェルクが徐々に押していく。

 

「──く、うぅっ!」

 

 このままでは押し負けると感じたスティレットは、力を振り絞って一瞬フレズヴェルクを押し戻す。

 そしてそのまま回転し、左手の日本刀をブレードダガーに思い切り叩きつける。

 無理な力のかかった日本刀はへし折れてしまうが、フレズヴェルクの手からブレードダガーを一本失わせることには成功する。

 

「へぇ、やるじゃん」

「こ、のぉっ!」

 

 それでも余裕の表情のフレズヴェルクに向かって、残った日本刀を両手に持ち、回転した勢いのまま振るうスティレット。

 しかし──。

 

「へへっ、残念!」

 

 回転の力を加えた斬撃も、スティレットと同じようにブレードダガーを両手持ちしたフレズヴェルクに受け止められる。

 どうしようもないほどに圧倒的な出力の差。

 

「そんな……!」

「そろそろ決めるぞぉ!」

 

 フレズヴェルクが力を込め、それによりあっさりと弾き飛ばされるスティレット。

 

「これでトドメ!」

 

 吹き飛ぶスティレットに対し、腰に携えたキャノンを両手で構えるフレズヴェルク。

 その砲口から放たれたビームがスティレットを襲う。

 

「きゃあぁぁ!」

 

 バトルフィールドに響くスティレットの悲鳴。

 二人の対決は、スティレットの敗北で幕を閉じたのであった。

 

 

 

 その後、スティレットに続いて戦った轟雷すらも打ち負かしたフレズヴェルク。

 スティレットの戦いを見ていた轟雷は、フレズヴェルクに武器を持ち替えさせないために遠距離で戦いつつ一瞬の隙をついて高速で接近、タクティカルナイフで攻撃した。しかし、フレズヴェルクは近接武器としても使用できるベリルショット・ランチャーで受けて対応。それにより轟雷はナイフを破壊され、そのままフレズヴェルクが押し勝ったのである。

 

「へへっ、やっぱりボクが勝った!二人とも装備がしょぼすぎるんじゃない?会社に戻ってちゃんと強くしてもらったら?」

 

 頽れる轟雷とその横に立つスティレットに向かって勝ち誇りながら、フレズヴェルクはアドバイス──煽っているようにしか聞こえないが──を送る。

 

「次は……」

「ん?」

「次は負けないんだから!」

 

 呆然としている轟雷の分も言い返してやると言わんばかりに、フレズヴェルクに向かってスティレットが叫ぶ。

 

「ま、再戦はいつでも受け付けてるから!じゃあねー!」

 

 スティレットのにらみつけるような視線を受け止め、楽しそうに答えた後に飛び去っていくフレズヴェルク。

 

「ふわぁあ……おはよ……。あれ、どしたのみんな?」

 

 起き出してきたバーゼラルドが、暗い雰囲気の周囲に対して疑問を投げかける。

 

「轟雷が、負けたのだ……」

「えぇっ?」

 

 答えた迅雷の言葉に驚くバーゼラルド。これまで連戦連勝だった轟雷が負けたとなればそれも当然と言えた。

 

「……」

 

 初めての敗北にうつむくばかりの轟雷。

 

「轟雷……」

 

 轟雷がバトルしている最中に帰ってきていたあおも、心配した様子を見せる。

 

「あと、スティレットちゃんもね」

「轟雷ちゃんと違って負けたことがあるから、そんなに凹んではいないみたいだけど」

「うるっさいわね!」

 

 場の空気を和らげるためなのか、それともただスティレットをからかいたいだけなのか──。茶化した言い方をするマテリア姉妹に言い返しつつも、スティレットはフレズヴェルクの飛び去った方を見つめ続けるのであった。

 




次回もセッション!

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