スティレットのおはなし   作:ぺかちゅう

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#6 バトル!バトル!!

 バーゼラルドとのバトルから数日後、スティレットはFA社へと向かっていた。

 

「細かい調整を重ねて、まさに準備万端というやつなりね」

「訓練もね。この前みたいに一方的に負けたりしないわ」

 

 フレズヴェルクとの再戦に向けて気合い十分といった様子のスティレットと会話しているのは、彼女を肩に乗せた武希子だ。

 

「それにしても、源内あお様々でありんすなぁ。さすが関係者」

「たった一人の起動成功者だもんね、あれでも」

「でも、わざわざこの寿武希子を付き添いに指名してくれるとは思わなかったなり。アポ取りのついでにあおに頼むものかと」

「興味あるわよね?FA社」

「もちろん!」

「ならいいでしょ。アタシの活躍も見てほしいしさ」

 

 自分の肩の上で足をぶらつかせながら口にしたスティレットの姿に微笑みを浮かべながら、武希子は歩みを進めるのであった。

 

 

 

 FA社の応接室。

 受付を済ませて案内された二人と、バトルと聞いて──文字通り──飛んできたフレズヴェルクが対峙していた。

 

「結構時間かかったね、すぐに挑んでくるかと思ったけど。ボクの方から乗り込んじゃおうかって思ってたんだぞー?」

「ちゃんと強くなってから戦いたかったのよ。アンタ、強かったから」

「ふーん、期待させてくれるじゃん」

 

 暗に自分が強くなったと告げるスティレットを見つめ、フレズヴェルクは笑みを浮かべる。

 

「でもよかったの?会社で強くしてもらったんじゃなくて」

「いいのよ、十分強くなったからね」

「そっちの、武希子だっけ?……この人間の作った武装でほんとに大丈夫なわけ?」

 

 武希子に目をやり、心なしか心配そうに聞くフレズヴェルク。

 その理由はといえば──。

 

「フレズヴェルクちゃんの、轟雷ちゃんたちとは微妙に異なった、FA社のこだわりを感じるこの体型!たまらんでありますなぁ!それにそれに、よくよく見れば体型だけでなくボディスーツ表面の処理も若干異なっているし──」

 

 武希子が興奮を隠そうともせずフレズヴェルクを観察しているからであった。

 初対面でこうも舐め回すように観察されれば、引いてしまうのも無理はない。

 

「あー……大丈夫よ。腕は間違いないから」

「そ、そうなんだ……」

 

 フレズヴェルクに、若干目をそらし気味に応えるスティレット。

 その技術力には信頼を置いているとはいえ、武希子のハイテンションに置いていかれがちになることが多いのも事実だからだ。

 

「とにかく!強くなったアタシと勝負よ!」

 

 場の空気を戻すべく、スティレットがやや大きな声で叫ぶ。

 

「よぉし、轟雷のと違ってボクの方に情報が入ってこなかったし、焦らした分たっぷり楽しませてよね!」

 

 スティレットの言葉に心底楽しそうな、そして同時に自らの勝利を微塵も疑わない笑顔を浮かべるフレズヴェルク。

 

「武希子、頼むわ!」

「あいあいさ〜」

 

 武希子が、スティレットに応えながら慣れた手付きでセッションベースを組み立て、フレズヴェルクのセッションベースと組み合わせる。

 

「フレームアームズ・ガール、セッション!」

 

 静かな応接室で、二体のFAガールが声を上げる。

 

「見てなさい!」

「ばっちこぉい!」

「これがアタシたちの、Sparkle!」

「ボクの力で!ボクのキラキラで!ボクしか、目に入らなくさせてあげる!」

 

 呼応するように口上を叫びつつ、戦闘の準備を整えた二人はバトルフィールドへ向かうのだった。

 

 

 

「さーてと、どこから──光学武器!」

 

 バトル開始直後、バトルフィールドに選ばれた砂漠の上空で周囲を見回すフレズヴェルクに向けてビームの閃光が走る。

 

「お返しだぁ!」

 

 難なく回避してベリルショット・ランチャーの射撃を見舞うフレズヴェルク。

 肩部のブースターで小刻みに軌道を変えて反撃のビームを躱しながら、スティレットはフレズヴェルクに突進していく。

 

「いい機動性っ!」

「はあぁっ!」

 

 距離を詰めると同時に、スティレットが左腕を振り上げる。

 その先端に展開されたブレードを見逃すはずもなく、フレズヴェルクはベリルショット・ランチャーを水平に構える。

 左腕を振り下ろすスティレット。

 鍔迫り合い。

 

「へぇっ、面白いじゃん!」

「まだまだ、こんなもんじゃない……わっ!」

 

 そう言いながらスティレットは左腕に力を込めて振り抜き、その反動で距離を取りつつスマートガンを発射する。

 

「ビームの精度も高い!……いいねぇ、こういうの!」

 

 隠そうともせずに楽しげな表情を浮かべるフレズヴェルク。

 しかしそれは油断ではなく、回避行動は冷静だ。

 それを示すかのように、被弾自体は一度もしていない。

 

「もっと楽しませてくれるよね!?」

「負けを楽しめるならね!」

 

 挑発の応酬と共に、互いに移動しながらの射撃戦が始まった。

 

 

 

「今度はクリア成型の武器も作ってみたいなりねぇ」

 

 激しい撃ち合いをしつつも戦況に変化がない、膠着状態とも言える状況。

 それをバトルフィールドの外から観戦しながら、武希子は今後の改造プランを練り始めていた。

 インスピレーション元は、フレズヴェルクの使っている武装だ。

 

「クリアにするのは……やっぱり近接武器の刀身なりね。あの複合兵装でもそうだったし」

 

 スティレットの所持するメガスラッシュエッジを思い出しつつ、独りごちる武希子。

 

「色も同じ感じかな?スティレットちゃんの水色にクリアグリーンはすごく映えるし……ま、独自性を求めすぎるよりも似合うかどうかが最優先でありんすな」

 

 ビームを撃ち合い、時折すれ違うように接近戦を行う二人を見つめつつ、武希子はアイディアを練り上げていく。

 

「んでんで……造形のモチーフは日本刀かな。前に使ってたわけだし慣れてるでしょ。それを機動戦に向いた感じにデザインして……おっ?」

 

 バトルフィールドで動きがあったことに気づき、構想に向いていた意識をそちらに向けなおす武希子だった。

 

 

 

「さぁ行くわよ、新兵器!」

「おっ、隠し玉!?なになに、どんなの!?」

 

 バトルフィールド内でスティレットが口にした言葉にフレズヴェルクが期待の声を上げ、ほとんど同時にスティレットの上腕部からブースターが分離される。

 切り離されたブースターは、細かく軌道を変えつつ飛行するスティレットに置いていかれ──直後にバーニアを吹かし、ドローンとしての機能を発揮し始めた。

 

「遠隔操作だ!」

「予習も練習もバッチリよ!」

 

 スティレットから独立した軌道を見せるドローンに目を輝かせるフレズヴェルク。

 言葉に自信を乗せつつ、フレズヴェルクに突進して行くスティレット。

 

「やあぁっ!」

 

 気合の叫びと共にブレードで斬りかかるスティレットだが、二度目ともなれば不意打ちにはならない。

 フレズヴェルク側も余裕を持ってベリルショット・ランチャーを収め、ブレードダガーを構えていた。

 

「へへっ、同じ手は──っと!」

 

 鍔迫り合いを演じていたブレードダガーを強引に薙ぎ払い、距離を取るフレズヴェルク。

 直後、横合いからドローンの機関砲から発射された弾丸が撃ち込まれる。

 

「避けられたか!」

「いいね、いいねぇ!」

「でも、まだまだこれからよ!」

 

 距離を取られたままスマートガンを構えるスティレット。

 

「ビーム砲で狙撃……違うか!」

 

 スマートガンの銃口に目をやったフレズヴェルクの横から、ドローンが射撃。

 

「そう簡単には当たらないぞ──いや、ドローンも囮!」

 

 ドローンによる射撃を避けると、それを狙ってスティレットが狙撃。

 射撃戦のために取り出していた二丁のベリルショット・ランチャーのうち一丁を犠牲にして防ぐことで、スマートガンによる本体へのダメージを回避するフレズヴェルク。

 

「銃を盾にされた……!」

「すごいすごい!ボクのランチャーをぶっ壊すなんて!」

「憎らしいほど能天気ね!」

 

 そう言いつつも、スティレット自身の口元にも笑みが浮かんでいた。

 強敵に追いつく感覚は、これまでにない達成感や高揚感を彼女にもたらしていたのである。

 

「はぁっ!」

「今度は突撃か!牽制を欠かさないのは偉いけどさぁ、そんな速度の突撃なんて簡単に見切れちゃうよ!」

「なら見切ってみれば!?」

 

 自らの周辺に展開したドローンで牽制しつつ、ブレードを展開しながら突撃するスティレット。

 ドローンの展開中は本体の速度が落ちることに気づいていたフレズヴェルクにそのことを指摘されるも、彼女はそのまま前進する。

 ある程度二人が接近したところで、スティレットはドローンでの牽制を中止し、上腕部に接続し直す。

 スティレット自身を飛行させるブースターが増えたことにより、必然的に高まる飛行速度。

 

「加速っ!?」

「いけぇっ!」

 

 予想外の方法で速度を変化させつつ行われた突撃は、狙い撃ちによる迎撃を行おうとしていたフレズヴェルクの予測とは違うタイミングでのぶつかり合いを生んだ。

 咄嗟に防御の構えに入ったフレズヴェルクのベリルショット・ランチャーと、勢いよく振るわれたスティレットのブレードが、何度目かの鍔迫り合いを見せる。

 

「やるじゃん!ここまで強くなってるなんて思わなかった!」

「ほんと、余裕ね……!」

 

 口調からも興奮が伺えるフレズヴェルクに、スティレットが応じる。

 

「じゃあ、ボクもとっておきを見せちゃおうか……なっ!」

 

 空いた腕でブレードダガーを取り出し、乱雑に振り切るフレズヴェルク。

 それを避けるために、スティレットは咄嗟に距離を取る。

 スティレットが離れていったのに合わせて──正確には、スティレットに距離を取らせたのに合わせて──ベリルショット・ランチャーとブレードダガーを収納し、腕を振り上げるフレズヴェルク。

 

「ベリルスマッシャー!」

 

 自らの名を呼ぶその叫び声に応えて巨大な鎌状の武器が現れ、フレズヴェルクの手のひらに収まる。

 

「さぁ、いっくぞ──おっと!」

 

 ベリルスマッシャーを大きく振りかぶろうとしたフレズヴェルクに向かって間髪入れずにスティレットがブレードを展開しつつ突撃する。

 振りかぶる間もなく防御に使われた大鎌と、突撃の勢いを加えて振るわれた短刀による鍔迫り合いが始まった。

 巨大なベリルスマッシャーで勢いをつけて攻撃されれば一気に勝負がつきかねない。

 ならばいっそ、先に自分の方から勢いをつけてブレードで突撃する方が良い。

 そう考えたが故の行動だった。

 

「ま、止めたいよね!」

「素直に斬りつけられてやるわけないでしょ!」

 

 内心かなり焦って行動したスティレットだったが、見かけほど勢い任せの突撃というわけではなかった。

 以前のフレズヴェルクとの戦いで轟雷のナイフが折られた時のことを思い出しての、武希子によって作られた強度の高いブレードの、特に頑丈な根元部分による競り合い。

 それにより、辛うじてブレードを破損させずにベリルスマッシャーと拮抗して見せていた。

 

「いつまでもつかな!」

「もたなくたって!」

「ボクに勝てればいいって!?」

「その通り!」

 

 言葉どおりに勝利を得るため、スティレットは各部のブースターの出力を上げて押し切ろうとする。

 

「こんのぉっ!」

「力押し?いいよ、付き合ってあげる!でもさすがに無茶なんじゃない!?」

 

 フレズヴェルクの言う通り、拮抗できていたのは突撃の勢いが残っていた僅かな時間だけ。

 もともとの推力の差によって、徐々に押されていくスティレット。

 

「くうぅっ!」

「へへっ、そろそろトドメにしちゃうよ!」

 

 スティレット側の推力が弱まったことに気づいたフレズヴェルクが、好機とばかりにそう言い放つ。

 それまでは、自身の飛行とスティレットとの鍔迫り合いを両立するためにバランスよく操作されていた、複数のスラスター。

 それらの大部分をスティレットに押し付けるために使い、飛行能力を減らしてでも一気に押し切ろうとする。

 

「ま、まだよっ!」

「ここまでだ、ってぇ!」

 

 やがて力尽きたのか、背部ブースターのみを残してスティレットが落下していく。

 

「──背中の!?しまっ──ぐあぁっ!」

 

 肩部のブースターではなく、背部ブースターの独立飛行こそがスティレットの隠し玉だった。

 全力で押していた影響でわずかに体制を崩したフレズヴェルクに、単独飛行用に変形した背部ブースターが突撃する。

 想定外の衝撃に、フレズヴェルクが弾き飛ばされる。

 

「喰らいなさい!最大出力!」

 

 調整と訓練の成果を発揮し、上腕部のブースターで器用にバランスを取ったスティレット。

 右腕に固定されたスマートガンを左手で支えてフレズヴェルクに狙いをつけ、必中の構えを見せる。

 

「さ、せるかぁ!」

 

 咄嗟にベリルスマッシャーを捨ててベリルショット・ランチャーを手に取るフレズヴェルク。

 スラスターの大出力で強引に静止し、無理な体制になりつつもその銃口をスティレットに向ける。

 

「いっけぇっ!」

「このぉっ!」

 

 二人の叫び声が重なる。

 互いのビームが同時に発射され、そして激突。

 ビーム同士の干渉が巨大な爆発を起こす。

 吹き飛ばされ、地面へと叩きつけられる二体のFAガール。

 その衝撃によって両者がダウン。

 スティレットとフレズヴェルクの再戦は、引き分けという結果で終わるのだった。

 

 

 

 バトルの後、二体のFAガールは応接室へと戻ってきていた。

 

「つ、っかれたぁ……」

「お疲れ様でありんす〜」

 

 そう言いつつ疲れ切ってテーブルに座り込むスティレットと、それを労う武希子。

 そんな二人のもとに、元気いっぱいな様子のフレズヴェルクが駆け寄り、目を輝かせながら話しかけてくる。

 

「スゴいスゴい!引き分けに持ち込まれるなんて思わなかった!それに、すっごいワクワクしたし!」

 

 心底楽しそうに語るフレズヴェルク。

 

「ワクワクした……か」

「どったの?」

 

 呟いたスティレットに、フレズヴェルクが聞き返す。

 

「ん……勝つことはできなかったか、ってね」

「ふーん。ボク相手なんだし仕方ないんじゃない?」

「ったく、相変わらずの自信ね。……でも、まぁ──」

 

 フレズヴェルクの瞳を見つめながら、スティレットが言葉を続ける。

 

「追いついたわよ」

 

 それを聞き、驚いたかの様に目を見開いたフレズヴェルク。

 ほんの少しの間のあと、口角が上がる。

 

「次はボクが完璧に勝つよ!」

「アタシが勝つわよ、次こそね」

 

 花の咲いたような笑顔で告げるフレズヴェルクと、ちいさく微笑みながら返すスティレットだった。

 

 

 

「いやぁ、燃えるバトルだったでありんすなぁ」

 

 バトルを終え、家路につくスティレットと武希子。

 

「ま、勝てはしなかったけどね……」

 

 悔しさの中に、協力者である武希子に対しての申し訳無さそうな気持ちを滲ませながら口にするスティレット。

 その様子に気づいた武希子だったが、スティレットが慰めの言葉を求めているわけでないことも、彼女は理解していた。

 故に、何も言わずにスティレットの言葉を聞き続ける。

 

「あいつ、バトルがほんとに好きなんだ」

「フレズヴェルクちゃん?」

「そ。話したりしてるうちに一番好きなことがバトルなのが伝わってきた。バトルの後だって、引き分けでも嬉しそうにしてた。何でそんなに好きなのかまでは分かんないけど」

 

 強いのだから自分が勝つのは当たり前。

 しかし好きなのはバトルそのもの。

 フレズヴェルクが傲慢とも取れる価値観を持っていることに気づいたスティレットだが──。

 

「もっと強くなりたいな」

「強く?」

「うん。それで、勝ったり負けたりして、もっとあの子のことを知りたい。アタシのことを知らせたい」

「そんなに?」

「ええ。先にあの子に向かって踏み込んだのは、アタシの方だから」

 

 バトルで交流することで、スティレットにとってフレズヴェルクは、放っておきたくない相手に変わっていた。

 見上げて追いかける相手ではなく、同じ高さにいたい存在になっていた。

 

「だから──」

「お任せなり!フレズヴェルクちゃんのバトルを見たりして、この武希子の脳内では新たな武装のアイディアが駆け巡っているであります!」

 

 改めて要請する必要も、顔色を伺う必要もなかった。協力理由は趣味全開のままで、だからこそ頼もしい。

 武希子の頭を椅子にしたまま、彼女と同じ方向を見つめたまま、スティレットは短く口にする。

 

「頼むわね」

「心得た!」

 




次回もセッション!

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