「ただいまー。しっかし、一度使うのをやめた形の武器に戻って来るってのも不思議なもんよね。前のより軽くて使い易いから良いけど……ん?」
FA社でバトルを行った数日後。
武希子のもとで新たな装備の調整を進めていたスティレットが独言しながら帰ってきたとき、部屋の雰囲気が張り詰めていることに気付く。
見回すと、ちゃぶ台の上の空間にバトルフィールドの様子が映し出されていた。
「バトル?轟雷?誰と──フレズヴェルク?」
先日バトルしたフレズヴェルクが、あおの部屋でバトルをしていたのである。
その相手は、当然轟雷。
「む、帰ってきたのか」
「おかえり、スティ子」
迅雷がスティレットに気づき、あおも声を掛ける。
だがあおの声色は、いつもの底抜けに明るいものではなかった。
「ただいま。──どうして?それに……」
バトルの理由も気になるが、スティレットは轟雷のことを疑問に思う気持ちを隠せずにいた。
轟雷が浮かべていた表情が、それまで彼女の見せたことがない、まごうことなき怒りのそれだったからである。
そんなスティレットにマテリア姉妹が歩み寄った。
「スティレットちゃん」
「あなた、彼女とどんな蜜月を過ごしていたの?」
「蜜月って、アンタねぇ──」
クロの言葉に対して答えを言い終える前に、スティレットはマテリア姉妹の真剣な表情から真面目な質問だと察する。
「この前のあなたとのバトルが楽しくて、待ちきれなくなっちゃったって言っていたのよ〜」
「アタシとの……。じゃあ、まさか……!」
シロからそう言われて来訪の理由を知ったスティレットは、フレズヴェルクの幼さの残る性格と、あおを大切に思う轟雷の性格を鑑みて、考えたくもない状況を想像してしまう。
轟雷がバトルしなくてはならない状況にするために、フレズヴェルクがあおを──。
焦りながら確認すると、ちゃぶ台の上に置かれていたのは、セッションベースと立川伊勢屋のいなり寿司。
そして──へし折られ、容易に人を傷つけられるほど先端が鋭利になった割り箸。
「っ!あお!」
血の気が引いた様子で、悲鳴のような声を上げながらあおの肩に飛び乗るスティレット。
「大丈夫!?怪我は!?」
「してないよ、大丈夫。ありがと」
「──そっか、よかった。……よかった」
よかった。
その言葉が二度、スティレットの口から漏れた。
一度目のそれは、あおに怪我がなかったから。
二度目のそれは、フレズヴェルクが取り返しのつかないことを仕出かしていなかったから。
しかし、スティレットの心は晴れない。
あおの答え方は、スティレットの予想が的中していることを確信させるに足るものだったから。
フレズヴェルクがあおを傷つけようとしたことを証明するものだったから。
「なんでこうなっちゃうのよ……。なんでこうしちゃうのよ……!」
純粋にバトルをしたいだけのはずなのに、どうして相手の感情を逆なでするやり方を取ってしまうのか。
無論、スティレットも理解はしていた。
フレズヴェルクの内面は見た目以上に幼く、相手を慮ることの必要性に気づいていないだけだと。
相手の逆鱗に触れていても、自分が楽しいバトルをできるようになるのだから問題ないと思っているのだと。
だが、納得はできなかった。
そして、見放す気にもなれなかった。
バトルを通して、スティレットはフレズヴェルクを知ってしまったから。
「スティレット……」
楽しげにバトルしているフレズヴェルクと怒りを隠そうとせずバトルしている轟雷を、これ以上ないほど辛そうに見つめるスティレット。
それでも目を逸らすことだけはせずにバトルの行く末を見届けようとする彼女の名を呟きながら、あおはスティレットの頭を静かに撫でるのだった。
バトルは唐突に終わった。
二人の高出力攻撃のぶつかり合いの負荷に耐えきれず、あおの部屋のブレーカーが落ちてしまったのである。
「ちゅーと半端な結果だなぁ……。でもまぁ、おもろかった!また来るから!……ん?」
嬉しげにそう告げて帰ろうとするフレズヴェルクが、スティレットに気づく。
「スティレットも、またバトろうねー!じゃ、ばいびー!」
バトル後の高揚感からなのか、スティレットの悲しげな表情には気づかないまま飛び去っていくフレズヴェルク。
「どうしてよ……」
「あおと……お別れ……?」
スティレットは感情をどこにもぶつけられないまま俯くことしかできず、轟雷も、バトル中にフレズヴェルクよって齎された、自分が負けたらFA社に回収されるという情報を不安げに呟くことしかできない。
停電して暗くなり、月明かりで照らされたあおの部屋の中に、二体の影が頼りなさげに伸びていた。
フレズヴェルク来訪の翌日、轟雷とスティレットによるバトルが行われていた。
タクティカルナイフを構えて突撃してくる轟雷に合わせて腰に差した灰色の刀を抜き、居合い切りのような動作でスティレットが反撃する。
下がる轟雷。
「──ここまでね」
小さくため息をつき、武希子の試作した一振りの日本刀──サムライマスターソードの試作品──を簡素な鞘に収めながらスティレットが告げる。
「え……」
「集中できてないわ、これじゃ意味がないと思う」
「そんな、ことは──」
「アンタだけじゃない、アタシもよ。ちょっと……のめり込める気持ちじゃないの」
「……わかりました」
フレズヴェルクに負けることであおと引き離されたくないと焦る轟雷だったが、スティレットの言葉を受けて渋々ながらバトルの中止を受け入れる。
「悪いわね、引き受けておいて勝手に切り上げたりして」
「いえ、気にしないでください。ありがとうございました」
「ふたりともお疲れー、かっこよかったよ!」
「あお!……いえ、まだ足りません。もっと強くなって絶対に負けないようにならないと!」
バトルが終わったのを見計らって轟雷とあおが話し始め、スティレットの方には数体のFAガールたちが近寄ってきた。
「集中できていないというのは先日のバトルのことで、か?」
「ん?まぁね。あの子と──フレズヴェルクとどう関わっていけばいいのかなって」
「スティレットの表情から、心痛の感情を検知」
「そっかぁ。フレズヴェルクを心配してるんだね」
「そういうんじゃ──。……うん、そうかも」
迅雷とアーキテクト、そしてバーゼラルドの指摘で、気持ちを自覚したスティレット。
独りよがりではいけないと教えたい。
だけど、どうすればそれを伝えられるかが分からない。
目標は定まっているのに、道筋が見えない。
「次の調整のときにでも、相談してみようかな……」
自宅でプラモデル作りに精を出しているであろう武希子のことを思い浮かべ、小さく呟く。
フレズヴェルクに対して比較的バイアスをかけていない彼女に相談することを決めるスティレットだった。
数日後、武希子の家。
相談を持ちかけたスティレットに、武希子から解決方法が提案された。
「この前決めた通りでいいんじゃないなりか?」
「この前?」
「バトルを通じてもっと知りたい、知らせたいって話」
何のことかと疑問を呈するスティレットに、FA社でバトルした後に行った会話のことを話す武希子。
「フレズヴェルクちゃんにとってバトルが一番大事なものなら、それを通して気持ちを伝えてあげるのが一番だと思うぞなもし」
「アタシの気持ちを……」
「スティレットちゃんのことを教えたいって言ってたでしょ?そこに、あなたのことを心配していますって気持ちも乗せてあげればいいでありんす」
「そ、そんなことできるのかしら?」
半ば夢物語のような解決策を提示されたスティレットが困惑した様子を見せるも、武希子はそのまま言葉を続ける。
「まぁ戦いながらエスパーみたいに分かり合うのは多分無理だけど。ただ単純に話をしてもフレズヴェルクちゃんには聞いてもらえないだろうし、バトルしながら語りかけてみるとかね」
「ファンタジックというか夢のある話から、急に地に足がついた話になったわね……」
「真面目な話、なんとかして言葉を伝えるっていうのは大事なことだと思うなりよ。それに、この前のバトルの後は良い雰囲気で話せてたように見えたし、フレズヴェルクちゃんの好きなことに寄り添ってあげるのは効果的だと愚考するであります」
「寄り添ってあげる、か。それにしたって一蹴されたら伝えるも何も無いし、強くなるのは必要よね。……よし!どんどん進めましょ!」
フレズヴェルク相手には、並び立てなければ気持ちを伝えるなど夢のまた夢。
そう結論付けたスティレットは、より気合いを入れて武希子との作業に臨む。
「お任せなり!今度は鞘の方を試してみるでありんす!」
「鞘の方?たしかに、この前のよりゴツくなってるけど……」
「この武器の肝はその多様性だから。鞘から抜いたのが軽量で切れ味抜群の日本刀なのは、もうテストしてもらったから知ってるよね。で、残った鞘の方は大きめの剣──シースブレイドとして使えるのに加えて、ガンとトンファーブレイドの二つの武器に分離させて使うことも可能なり」
「ふむふむ」
「そして、日本刀を鞘に収納した状態では巨大なソードとして全ての敵を薙ぎ払う──は盛り過ぎか……。まぁ、ちょっと重いけど、バラで使うときと比べて破壊力が倍増するのであります!」
「なるほど、刀から鞘まで含めて多機能な複合兵装ってわけなのね。アタシのメガスラッシュエッジに近いのかしら」
「あれをちょっと接近戦重視にして、取り回しを良くした感じなりね。色合いは似た感じにする予定でありんす」
「これも専用装備って感じになりそうね。……っし!絶対使いこなしてみせるわ!」
そして──。
「いくわよ!」
「いきます!」
街中のバトルフィールドで、あおや武希子、そして共に暮すFAガールたちの尽力で悩みの晴れた轟雷と、完成したサムライマスターソードを手に入れたスティレットが、改めてのバトルを行っていた。
「一旦、距離を──っと!」
「逃がしません!」
接敵して何度か轟雷との切り合いを演じた後、比較的開けた場所からビル街へと飛び、轟雷の砲撃を躱しながらビルの陰に身を隠したスティレット。
当然、轟雷も警戒しつつビル街に近づいていく。
「きたわね……」
ビルの影から、青とクリアグリーンで仕上げられたサムライマスターソードをガンモードにしたスティレットが射撃する。
致命的なダメージにはならないと判断し、あえて動かずに前腕部の装甲で射撃を受け、どこからそれが発射されたのかを見極めようとする轟雷。
「ん……そっちですね」
レールガンを携えた轟雷はビルの密集する地点へと足を踏み入れ、与えられた牽制射撃からスティレットの位置を予測して近づいていく。
「待ってたわ!」
そう口にしつつ、轟雷が警戒していた通りにスティレットがビルの影から飛び出し、トンファーブレードで斬りかかる。
ただ、予想と違っていたこともあった。
スティレットは、轟雷が予測していたよりも近くに立つビルの陰から飛び出してきたのである。
「なっ!?」
「やっぱり、まっすぐな相手だとやりやすい!」
その手口は単純明快。
轟雷に自分の位置を予測させるために牽制射撃を行った後、素早く別のビルに移動しただけ。
見当違いの場所を警戒させることで、自分が潜む場所への警戒が薄くなるように仕向けたのだ。
優秀で素直な轟雷を信頼しているが故の作戦とも言えるだろう。
「くっ!」
「……外したか!なら!」
横薙ぎにされたトンファーブレードを、しゃがんで避ける轟雷。
躱されたスティレットの方はといえば、追撃のためにトンファーブレードとガンを接続してシースブレイド状態にし、質量を増した斬撃を繰り出そうとする。
「──やらせません!」
右腕に装備されたレールガンをスティレットに向けて振るうことで、轟雷は攻撃を止めさせようとする。
「おっと!面白いじゃない……のっ!」
叩きつけられたレールガンをシースブレイドで防ぎ、ジャンプして上空へと跳び退くスティレット。
跳躍しながら日本刀とシースブレイドを接続し、大剣状態のサムライマスターソードを上段に構える。
「はあぁっ!」
スティレットの気合いの声と共に、落下の勢いも加えてサムライマスターソードが振り下ろされる。
轟雷に攻撃がクリーンヒットすると確信したスティレットだったが、しかし轟雷は脹脛に装備された履帯を活用してしゃがんだまま後退して斬撃を躱す。
仕切り直しの形になり、向かい合う二人。
轟雷はタクティカルナイフを構え、スティレットはソードを腰に収めていつでも抜けるように日本刀に手を添える。
「やるわね」
「そちらも!」
バトルの中、心地よい緊張感からか自然と笑みを浮かべる彼女たちの瞳に、迷いの色は残っていなかった。
次回もセッション!
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