「さらわれてた、って……。大丈夫だったわけ?」
「はい。ちょっとしたメンテナンスでしたから」
暴走するフレズヴェルクを轟雷が倒した次の朝。
目を覚ましたスティレットは、轟雷がFA社に回収され、すぐに帰ってきたことを教えられていた。
「スティレットちゃん、特別にお寝坊さんだったものね〜」
「うぅ……しょうがないでしょ、疲れてたの!」
シロに言い返すスティレットは、暴走するナノマシンの影響を受けたバトルフィールドで戦う轟雷に装備を届けるために力を使い果たして気絶した他のFAガールたちよりも、起きるのが遅れていたのである。
「たしかに激戦だったからな」
「同意。暴走状態だったフレズヴェルクと長時間戦い続けて、特に故障がないのは驚異的」
「頑丈に作ってくれた武希子に感謝だねー」
アーキテクトたちが言う通り、スティレットの実力に加えて武希子の技術力の高さも、無事に戦い終えることができた要因なのは間違いない。
「分かってるわよ。後でお礼言っとかなきゃね」
髪飾りを撫でながら、そう呟くスティレットであった。
それから数日後。
あおの部屋に、FA社の人間が、フレズヴェルクを伴って訪れていた。
フレズヴェルクの暴走で迷惑を被ることになった、あおに対しての謝罪のためである。
無理な強化だけでなく、フレズヴェルクに対しての情操教育の欠如など、今回の事件の原因について事細かに説明をし、逐一頭を下げていた。
それを聞かされたあおの方はといえば、今後は同じようなことが起きないようにしてくれと求めるに留めていた。
バトルの直後には、落ち着いた後に自らFA社に赴いて苦言を呈するつもりだったようだが、反省をしている以上、それを受け入れて解決ということにしたようである。
玄関から聞こえてくるあおたちの話し声を、FAガールたちはリビングで聞いていた。
「やっぱさ、あおっておかーさんみたいだよねー。あの心の広さ!」
「そうですね」
「アホっ子だけどね」
バーゼラルドの言葉に、轟雷とスティレットが同意を示す。
「ふいー、偉い人とのお話って緊張するねー」
「あお!お疲れ様です!」
そんな中、玄関からリビングに戻って来るあおと、もう一人──。
「あのー……」
フレズヴェルクである。
「フレズヴェルク!もう大丈夫なんですか?」
「うん、色々直してもらったから」
「……なんか元気ないんじゃない?バカみたいに元気なのがアンタでしょうに」
「失礼な、ボクだってそこまでじゃないぞ!……いや、うーん?なんか自信無くなってきた……」
「調子が狂うわね……。今日は何しに来たのよ、バトル?」
テンションが乱高下するフレズヴェルクに面食らった様子を見せつつ、話を進めようとするスティレット。
「あー、なんていうか……」
「言いづらいことなのですか?」
「ん……。ちょっとさ……。でも……、うん……」
促すような轟雷の言葉をきっかけにしてか、俯いていたフレズヴェルクの顔に決意が宿る。
「その、……みんな、今までごめんなさい!」
クリスマスの雪空の下、あおは同居するFAガールたちと行うパーティーに使う卓上クリスマスツリーを買いに出かけていた。
「んで、あおの部屋に悪の組織の幹部がやってきたと」
「いや悪者ってわけじゃないから!」
はち合わせた武希子と、ベンチに座って話しているあお。
「ジョーダン、冗談なりよ。フレズヴェルクちゃんは無事だったんだ?大変だったってスティレットちゃんから聞いたでありますぞ?」
「無事だった。そんで、会社の人ももう酷いことはしませんって言ってたから、もういいかなって」
「さすがの包容力、母性の人でありんすなぁ」
「まだそういう歳でもないんだけど……」
話題はやはり、武希子としても気になっていた、フレズヴェルク暴走の後のこと。
「FA社との和解が済んだってことは、今まで通りあおの部屋に乗り込んできてバトルしたり~って感じなりか?」
「別に敵対してたわけじゃないんだけど……。フレズはね、今はうちに住んでるの」
「あおの部屋に?」
「そう。みんなのことを気に入ってくれたみたい、特に轟雷とかスティ子とか」
「多分あおのことも気に入ってると思うけど。しっかしまぁ、青春でありんすなぁ」
「青春かはよく分かんないけど……。フレズも変わったんじゃないかな、謝ってたし」
「フレズヴェルクちゃんが?」
驚いたような様子を見せる武希子。
武希子からも、フレズヴェルクは反省とは無縁な性格に見えていたのだ。
「会社の人に色々教わったり自分で今までのことを思い返したりして、思うところがあったんじゃないかな」
「雨降って地固まる、ってやつなりねぇ」
「多分そんな感じ。みんなも許してたよ。まぁ勝ち気な性格はあんまり変わんないけど」
「そこは個性ってやつでしょ。で、一緒に住み始めたんだ?」
「そゆことー」
「じゃあその紙袋は、クリスマスパーティー兼歓迎会!って感じぞなもし?」
「当たり!じゃあ、みんな待ってるだろうから。またね~!」
「みんなにもよろしくなり~」
あおが帰宅すると、リビングでパーティーの準備が進められていた。
フレズヴェルクも混ざって部屋の飾り付けをしている光景を目にして、笑みを浮かべるあお。
「ただいまー。みんな、おつかれー」
「あお!おかえりなさい!」
「おかえりー」
駆け寄ってくるFAガールたちの前で、あおが紙袋からクリスマスツリーを取り出す。
「じゃじゃーん、みんなへのクリスマスプレゼント!」
「わぁ、かわいい!」
喜ぶスティレットの声を皮切りに、ツリーに駆け寄るFAガールたち。
彼女たちによって、クリスマスツリーの飾り付けが行われるのであった。
飾り付けが出来上がり、始まったパーティー。
マテリア姉妹の漫才やアーキテクトによる歌唱など、かつての決起集会と同じように、各々が得意とする出し物を披露することとなった。
そんな中で行われたのが、主役でもあるフレズヴェルクの出し物だったのだが──。
「ちょっと、フレズヴェルク!」
「なになにー?」
「アンタ、空中でダンスを見せるって言ってたわよね!?」
「言った。だからスティレットに手伝ってもらってるんだもんね」
「これダンスじゃないでしょ!」
スティレットの言う通り、フレズヴェルクが見せているのは、ダンスというよりもじゃれ合いに近いものだった。
「二人の挙動を分析。あれは演舞──文字通り、ダンスのようなもの」
そう告げるアーキテクト。
だが、その口角は上がっており、本気で言っているわけではないのは明白。
「それ冗談よね、アーキテクト!?」
「そーそー、えんぶえんぶー」
「アンタも、適当言いながら隙を見てひっついてくるのはやめなさい!」
「えっへへー、スティレットのほっぺたやーらかーい」
「むぐぅ、まぁアンタの方も……。──って、違う!頬擦りすんなー!」
フレズヴェルクがスティレットに懐いているのには理由があった。
FA社で修復を進める中で、彼女は自分が暴走したバトルでのことを思い出していたのである。
あの時スティレットが口にした、自分の意志でフレズヴェルクを救ってみせるという言葉。
誰かに与えられた使命ではなく、フレズヴェルクを救うと自ら決め、起こした行動。
──暴走以前から──独りよがりに動いているばかりだった自分をなんとかしようと、ボロボロにされながらも叱咤までしてくれた。
あのバトルの最中、スティレット自身にそこまで考える余裕があったのかは定かではない。
だが、フレズヴェルクの心には、その言葉や行動が間違いなく響いていたのだ。
かつて武希子の言った、バトルを通して気持ちを伝えるという理想。
それが叶った結果なのかもしれない。
とはいえ──。
「略奪愛ね」
「轟雷ちゃんに夢中だったフレズヴェルクちゃんも、今となっては……うふふ……」
マテリア姉妹の言葉に、轟雷が首を傾げる。
「略奪愛……とは?」
「あっはは……。轟雷にはそういうのは早いんじゃないかなぁ……」
──周囲の目には、微笑ましいじゃれ合いとしてしか映っていないのだった。
パーティの後、自分だけのマスターを探す旅に出ると、FAガールたちはあおと轟雷に告げた。
轟雷とあおの関係に、FAガールとマスターの理想の関係を見いだし、自分たちもそんな関係を紡げる相手を見つけたいと考えたのだ。
それを告げられた二人もそれを受け入れる。
彼女たちは残された時間を、掛け替えのない同居人たちとの思い出づくりのために使うのであった。
「行っちゃったね」
「そうですね」
FAガールたちが旅立ち、二人だけの生活を始めることになったあおと轟雷。
しかし二人は、数時間前までたくさんのFAガールと共に過ごしていた部屋に、妙な寂しさを覚えてしまう。
「うーん……」
「あお?」
「……よし!食後の休憩もおしまい!ってことで、武希子のとこにアフタヌーンティーでもしにいこっか!」
「はい!」
思い立ったらすぐ行動。
武希子に襲来予告のメールを送るあおであった。
武希子の家の前に着いたあおたち。
「おっ邪魔っしまーっす」
「お邪魔します」
あおが挨拶と共に入り、轟雷もそれに倣う。
部屋にいたのは武希子。
そして──。
「うーん……。グレーの装甲もいいけど、髪の毛の色も変えないと合わないかもね。グリーンなんかは──あら。ふたりとも、いらっしゃい」
「待ちわびたなり〜」
グレーに塗装された装甲を身に纏ったスティレットであった。
「スティレット!?」
「こんなとこにいたの!?」
「あお、こんなとこ扱いはひどいでありんすよ〜」
「いやぁ、ははは……ごめーん」
驚くあおたちに笑いながら答える武希子。
そんな中、スティレットの陰からもう一人のFAガールが姿を現す。
「ボクもいるぞ!」
「フレズヴェルクも!?」
「っても、ボクはここに住んでるわけじゃないけどね〜」
かくして、あおたちが想像していたよりも賑やかなお茶会が始まるのであった。
「なんにも知らせてもらってなかったからビックリしたよ、もう」
「旅に出るって言った後すぐくらいにはもう決めてて、準備もしてたの。でもどうせならサプライズにしたほうが楽しいって言ってたのよね、武希子が」
「ビックリしたでしょ?」
「そりゃねぇ」
部屋の中でくつろぎながら少女たちは会話を弾ませる。
主な話題は、スティレットと武希子の同居について。
「でも、なぜスティレットは武希子といっしょに?」
「……なんとなく?」
「ふーん。で、ホントは?」
みんなの前で聞かれている照れくささからか、轟雷の問いにそっけなく返すスティレットだが、フレズヴェルクがさらに突っ込んでいく。
「……一つのことにのめり込めるのってかっこいいな、って思って」
「なるほど」
「ボクもなんかわかるかも!」
「ここまで突き抜けるといっそかっこいいのは分かる」
「それは褒めてるなりか?あお~?」
やや躊躇いがちに口を開いたスティレットの答えに納得した様子を見せるあおたち。
そして、話題はすぐに変化していく。
「フレズはなんでここに?」
「一緒に住んでいるわけではないのですよね?」
「ん?すぐに相性の良い人間が見つかるわけでもないしさ、休憩がてら来てみたんだよね」
あおたちの質問に、思い返すように語り始めるフレズヴェルク。
数刻前。
「そっかぁ、武希子もボクのことで怒ってくれてたんだ。……えっへへ~」
バトルでもしようと言いながら武希子の家に入ってきたフレズヴェルクは、そこに住み始めたスティレットから知らされた情報に、喜びをあらわにしていた。
「FAガールを苦しめるのは言語道断なり!ま、あおが許したからごちゃごちゃ言ったりはしないけど」
「別に向こうもフレズヴェルクに悪いことをしようとしてたわけじゃないしね」
「そういうことなりね」
スティレットからフレズヴェルクの暴走について聞かされた際、珍しく怒っていたという武希子。
冗談交じりとはいえ、FA社を悪の組織扱いしたのもあながち無根拠ではなかったのかもしれない。
「……そっか、あお以外にもこういう人間はいるんだよね」
「どうしたのよ?」
「んーん!で、今は何してんの?」
フレズヴェルクが、スケッチブックに絵を描いている武希子に問いかける。
「アタシの新しい衣装案だって」
「衣装?」
「せっかく一緒に住むんだから、いろんな格好をさせてあげたいと思ったのでありんすよ」
色鉛筆を走らせながら答えを述べた武希子。
「フレズヴェルクちゃんみたいな意匠もいいなりね。もっとスポーティな感じで……こんなのとか」
「筆早っ!」
話しながらも絵を描きあげた武希子が、新たな衣装を身に着けたスティレットの絵を二人に見せる。
「不肖武希子めとしては、スティレットちゃんにはスピード感のイメージがあるので……。競泳水着風であります!」
「おー、かっちょいいー!」
「よくこういうのをぱっと思いつくわねぇ」
描かれていたのは、水着姿のスティレット。
よく見てみると、持っている武器も少し違うようだ。
「これ、アタシのスマートガン?ちょっと違うわよね、色とか」
「よくぞ聞いてくれました!水着といえば水鉄砲!というわけで液体カートリッジ仕様の新型を制作するつもり!他にも専用のハンドマシンガンとか色々作る予定ですぞー!」
「ほへー、すごいこだわり。ボクも新しい衣装が欲しくなってきたかも……。ところで、あっちのは?」
フレズヴェルクが指さしたのは、塗装を施されて乾燥中のパーツ。
「FA社から送られてきたパーツよ」
「会社から?」
「一緒に住むって言ったときにね、参考としてアタシの改造データを送ったの」
「そしたら一式送られてきたなりよ」
武希子から提供されたスティレット用の自作武装のデータは、FA社にとっても有益なものだったらしい。
その返礼として、同性能のレプリカパーツが提供されたのである。
「あー。ボクといい勝負をしたもんねぇアレ」
「いやぁ、自分の作った部品がこんな形で認められるとは。オタク冥利に尽きるでありますなぁ」
「で、予備として眠らせておくのももったいないし、別の色で塗装したってわけ」
「ふーん、2Pカラー的な?」
「そんな感じね」
「オリジナルはスティレットちゃんカラーだから、新しいのはグレーなり」
「へぇ、なんで灰色なの?」
「うちで作った武器に合わせてでありんすよ」
「武器ってなんとなくグレーの印象があるでしょ?ここにあるのもそういうのが多いのよ」
そう教えられたフレズヴェルクが部屋を見てみると、確かにジャーマングレー──濃いグレー──で塗装された武器がたくさんあった。
それらと合わせることも考えてか、スティレットの灰色は通常のグレーで塗装されており、一色になるのを避けつつ、色調を揃える工夫が施されているようだ。
「そういや多いね、灰色の武器」
「でしょ?」
「寵愛する色だからというのもあるなりねぇ」
「……ちょ、寵愛?」
さらりと放たれた武希子の言葉に、思わず聞き返すフレズヴェルク。
「そう!ジャーマングレーこそ我が愛を捧げるに足る至高の色!可能ならば入籍したい!」
「……そういうことらしいわ」
「えぇ〜……。ん?でもそれって……」
「なによ?」
「い、いや。なんでもない」
それほど愛するジャーマングレーと相性の良いカラーをスティレットに与えるのはかなり重い感情なのではないかと感じたが、ややこしい話になりそうなので言わないでおこうと決めたフレズヴェルクだった。
──武希子からすれば、大量に作った武器と相性のいいカラーの装甲を仲の良い同居人に与えるという以上の意味合いは一切ないので、全くの杞憂だったのだが。
「それより……。あ、もう乾いてるみたいだし、早速装備してみたら?」
話題を変えようとしたフレズヴェルクが、武装の塗料が乾いていることに気づいて提案する。
「そうなりね、じゃあ早速装備してみる?」
「おっけー。いつでもいけるわよ!」
あおたちが来訪するまでの事を話し終えるフレズヴェルク。
「で、そん時に二人がここに来たってわけ」
「なるほどねぇ、それでスティ子はグレーだったんだ」
「そういう事。まぁ髪の毛との相性もあるし、やっぱりアタシはいつもの色のほうが落ち着くわね」
素体状態に戻りつつ、スティレットが感想を述べる。
「うん、ボクもスティレットっていえば水色だと思うよ」
「そうですね」
フレズヴェルクと轟雷も、それに同意。
「仲良しさんなりねぇ」
「ねー。そういえば最初にフレズに突っかかっていったのがスティ子だったらしいよ、轟雷が言ってた」
「ほほう、これもまた運命、というわけでありんすね……」
「それっぽいこと言いたいだけ?」
「うん」
「やっぱりねー」
FAガールたちのやり取りを、微笑ましげに見守っているあおと武希子。
人間とFAガールという別の存在が、無理に絡んだり気を遣ったりするのでもなく自然な形で共存している不思議な光景がそこにはあった。
「話してばっかなのも飽きちゃうし──。轟雷、ボクとバトルでもする?」
「受けて立ちます!負けませんよ!」
生来のバトル好きからか、フレズヴェルクが轟雷にバトルを挑み、轟雷がそれを受け入れる。
そんな中、待ったをかける声が上がった。
「待ちなさいよ!」
フレズヴェルクはもともと自分を目当てに訪ねてきたのに、轟雷にバトルを挑むのはおかしくないかと思い、叫ぶスティレット。
「なんですか、スティレット?」
「なになに?」
振り向く二人に、スティレットが言葉を続ける。
「先にアタシと戦いなさい!」
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