ワイの名前は三木自綱   作:アネコジマン

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第二章開幕(※ただしすぐ終わる)


第二章 天下一統編
第一話


 1570年 春 山城国 二条城

 

 

 

 永禄十三年。その日、日ノ本の歴史に残る偉業が誕生した。

 織田家嫡男 織田信忠。武田家四女 松姫。両名の祝言(結婚式)に時の帝と上皇が臨席。さらに五摂家すべての当主が参加。それは正しく偉業であり、そして事件だった。

 

 参加した武家の面子もまた豪華だ。上杉家当主 上杉謙信、武田家()()() 武田信玄とその子 諏訪勝頼、北条家()()() 北条氏康、伊達家次期当主 伊達輝宗と伊達家宿老 中野宗時、毛利家()()() 毛利元就とその子 小早川隆景、四国三好家当主 三好康長、島津家()()() 島津貴久とその子 島津義弘等々。武家ではないが石山本願寺からあの本願寺顕如まで参加した。

 織田の同盟国である徳川家、そして四国の長宗我部家なども来ているが、現状敵対関係にある武田家や北条家、四国三好家などに配慮し別館にて待機。彼らが帰国後改めて席を設けるとのことだ。

 

 婚礼の儀式はつつがなく終わり、そのまま祝宴が始まる。その祝宴は皇室・公家衆と武家衆の二つに分かれて開かれた。貴族側が武家側に配慮したため会場が二つに分かれたのだという。

 貴族側には姉小路頼綱(三木自綱)が、武家側には織田信長と本願寺顕如がそれぞれ担当し、祝宴を進めていく。

 出された料理は貴族側武家側どちらも甲乙つけがたい豪華絢爛なものであった。

 

 その男──足利義昭は武家側の祝宴に参加していた。

 義昭はまだ将軍という立場にあるため、本来なら皇室・公家衆側に参加しなければいけない。しかし彼はあえてこちら側に参加した。

 

(うむ。余のお役目もやっと終わりがきたの)

 

 義昭の役目。義昭が()()()()()()()()役目。それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というもの。

 誰かに滅ぼされ奪われるのではなく。自らの手で幕を引き、後を託す。それが最も美しい終わり方だと彼は考えた。

 そして次に託すのは織田だ。その織田家嫡男の祝言に皇室が、五摂家が、有力大名が、果ては地方の覇者までが参加した。それを知れば誰しもが“足利の後継者は織田だ”と思うだろう。さらに義昭が『後は織田に託す』と将軍職返上及び隠居の発表でより完璧なものとなる。

 

 義昭が将軍家を再興した理由。それは足利の名誉を取り戻すためだった。

 烏帽子親を務めた六角義賢の手によって前将軍 足利義輝は押殺された。そこで名誉は地の底まで落ち、足利一族は完全に終わってしまった。

 その終わった一族を再興する。それは生き恥を晒すということに他ならない。が、義昭はその生き恥を晒すことを選択した。

 

(義治。余はやりきったぞ。そして兄上。足利の名誉は確かに取り戻しましたぞ)

 

 兄 義輝が死んだその日の夜。義昭は六角義治の手により保護された。拉致でも監禁でもない、保護だ。

 義治は語った。「父は何者かに嵌められた」「相手はおそらく三好」「義昭様、どこか有力な大名と協力して上洛して欲しい。そして我ら六角をその手で滅ぼしてほしい」「一族の滅びは回避出来ない。ならば我々は足利縁者である貴方に討たれたい」「貴方がこの地へ来るまで、貴方の手で討たれるまで、我々はどんな手段を使ってでも生き延びてみせる」

 地に額をこすりつけ、涙ながらに語った義治のことを今でも覚えている。その時見た彼の姿は間違いなく足利の忠臣そのもの。故に義昭は応えたくなったのだ。忠臣の望みに。

 

 過去を思い出しながらちびちびと酒をやっていると、その男が義昭のもとへ訪れた。

 

「義昭殿」

「おお、信長殿」

 

 信長は他の大名をすべて無視して真っ先に義昭のもとへと来た──手に酒瓶を持って。

 この男との付き合いも随分長くなってしまったな、などと思いつつ隣に座ることを許す。それを受け信長は ドサッ と勢いよく座った。それは二人の関係性を知らない者が見たら将軍相手に無礼極まりないと思われる行為だ。義昭は「この者はこういう男よな」と苦笑する。

 信長は持ってきた酒瓶を傾けて徳利へと酒をそそぐ。義昭はそそがれた酒をひと息で飲み「くはー!」と至福の息をもらした。

 

「うむ。美味し! 信長殿、これはどこの酒か?」

「清洲で作られたものだ」

「ほほぉ、なるほどのぉ」

 

 酒が再びそそがれる。それをまたひと息でグビリ。

 幾度かそのやり取りをした後、義昭はポツリポツリと語り始める。

 

「兄の仇は死んだ。畿内は平定され、足利の名誉は回復した。余の仕事はここまでじゃ」

「うむ」

「後は……任せてもよいな?」

「任されよう」

 

 義昭は酒瓶を受け取り、今度は逆に信長の徳利へと酒をそそぐ。

 それはさながら天下を移譲する儀式のようでもあり……。

 

「では信長殿。天下を──日ノ本を任せたぞ」

「確かに受け取った。貴殿の名に泥を塗らぬことを誓う」

 

 晴れ晴れとした顔で天下を譲る義昭と、不敵な笑顔でそれを受け取る信長。

 ここに新たな天下人が誕生した──。

 

 

 


 

 

 

 天下は織田の手に委ねられたか。

 離れた場所から信長と義昭の様子をうかがっていた本願寺 顕如は、用意された茶菓子を口の中へ運びつつ新しい時代の到来を予感する。

 

(…この砂糖菓子、姉小路家の料理衆が用意したものですね。実に素晴らしい。ケンが作る料理に比肩すると言って良い)

 

 ()()()の砂糖菓子を味わいながら、彼はこれまでのことを振り返る。

 永禄八年 五月。京にいる僧から「三木 自綱が単身で上洛している」と急報があった。

 真っ先に出たのは「それは本当に事実なのか?」だった。自綱ほどの重い身分を持つ大名が供回りをつけずに単身で? それは有り得ない話だ。

 それが事実か否かを確かめるために、顕如は己の腹心を京へと送った。

 

 状況が急変したのはその日の夜──それも深夜だった。

 もう数刻すれば夜が明けようという時に腹心が帰ってきた。信じがたい情報を持って。

 

 松永久秀の二条城襲撃。それを単身で返り討ちにした三木自綱。

 

 腹心は語る。あの時二条城には明智の兵が千人、浅井の兵士が三百ほどいたにも関わらず、三木自綱はそれらを頼らずに己が身一つで松永軍に挑み──そして滅ぼしたと。

 顕如は正気を疑った。誰の? もちろん腹心のだ。しかし夜が明け続報が次々と入ってくるようになるとその話が真実であるということが分かった。分かってしまった。

 

 滅茶苦茶にすぎる。出鱈目にすぎる。

 しかし──ああ、だからこそ! 顕如の思いは、そして想いはより強いものへと昇華されてしまう。

 飢餓、賊、病を領地から無くし、日ノ本の象徴である朝廷を重んじ。さらには大陸では伝説となった呂布や項羽もかくやという強さを見せる。

 彼は思う。三木自綱が将軍となれば日ノ本は必ず良くなると。民草は()()()()()極楽浄土に住めると。

 だからこそ残念でならない。三木自綱には天下人になる気が一切ないという事実に。

 家臣であり石山の料理衆筆頭であるケンの話。そして僧が集めた情報の数々。それらを併せて考えた場合その結論以外出てこない。本当に残念な話だ。

 

 二条城襲撃から翌日の昼。顕如のもとへ京から使者が訪問した。使者曰く「戦死者を弔って欲しい」とのこと。

 京に近い比叡山の僧に頼むべきではないかと疑問に思ったが、続く使者の言葉で顕如は京へ向かうことを決定した。

 

 ──すべての弔いが終わった後、三木様が門跡との会談の場を設けたいという言葉を預かっております。

 

 使者の話によれば戦死者の数は二千にも及ぶという。顕如は健康ですぐに動かせる三百人の門徒衆を率いて京へと向かう。

 二条城へと到着後、明智軍、浅井軍の協力体制のもと、およそ七日もの時間をかけて遺体を供養。それから戦地に残された血痕などの除去にさらに時間を取られる。会談の場が整ったのはそこからさらに五日後のことだった。

 

 やっと三木殿とお会いできる。何故天下人になることを拒絶するのか、その真意を知ることが出来る。

 そう思い勇み足で用意された部屋に向かえば──

 

『おう。来たか』

『こんにちは、顕如殿。私の隣に座るこの人は──まあ、言わなくても分かりますよね』

 

 その部屋にいたのは三木自綱と。

 今では天下人にもっとも近い男と呼ばれる織田信長の二人だった。

 

 三人の会談は三日間にも及んだ。

 その三日間で自綱と信長が目指すものが何なのかを理解した。自分と違う視点を持つ二人が語る話に彼はやっと得心したのだ。

 顕如が彼らの説得に応じた理由は他にもある。

 

(世界分割条約。……“でまるかしおん”ですか)

 

 デマルカシオン体制。それはスペイン、ポルトガルが結んだトルデシリャス条約、サラゴサ条約から成るもの。

 これを大雑把に説明すると日ノ本は自国の占有地であると主張することが可能な条約である。

 

(我々が相争っている間に世界は大きく動いていた。そしてそれに気付いたのはあの二人だけ……)

 

 南蛮の手はすでに呂宋ルソンまで届いている。さらに日ノ本内では九州を中心に南蛮の宗教が広まりつつある。時間はそれほど多く残されていないのではないか。

 信長もそう考えているのか天下一統を急いでいる節がある。地方の大名に対して戦争ではなく外交によって従属させようとしているのがその証拠だ。

 

 この時代、国といえば“地元”を意味していた。

 例えば清州の住民にとっての国は尾張国、松倉の住民にとっては飛騨国が“国”といったように。自らの住まう地元こそ国というのがこの時代における認識であり常識だった。

 それを変えようとしているのが信長と自綱である。彼らの()()()()()()()()()はそこからが始まりなのだ。

 

 信長達は未来に向かって進んでいる。翻って自身はどうなのか。

 自らの名誉、矜持を守る──その盤面はとうに過ぎている。それを自覚したが故に顕如は頼綱(自綱)と信長の手を取った。そのことに後悔はない。

 

(南蛮……いえ、“外”との交流は彼らに任せましょう。代わりに私は“内”に目を向けなければいけませんね)

 

 織田は外との外交・交流に全力をそそぐだろう。そうなると内側への注意力がどうしても下がる。恭順した他大名家が織田の目が向いていないのを良いことに野心を見せる可能性は充分あった。

 顕如は自らの役目をそこだと定めた。内側──日ノ本国内の監視。それが本願寺門跡たる自分に向いてる新たなる役目だと彼は考えた。

 

(諸行無常──変わらぬものなど決してない。そしてこの変化は乱世の果てに生まれる必然なのでしょう。……まだこの先、楽しめることがありそうですね)

 

 信長と義昭が酒を飲みかわす様を肴に茶を嗜む。その茶はこれまで飲んできたものの中でも一番といっていいほどに旨い茶だった。

 

 

 


 

 

 

 場所は変わり、皇室、公家衆の祝宴会場。

 公家衆は用意された美食の数々に舌鼓を打つなか、そこから二部屋ほど離れたもう一つの会場は重苦しい空気に包まれていた。

 その会場にいる貴族は帝と上皇、そして五摂家。すなわち日ノ本の最高権力者達である。

 

 帝は声にならぬ声を漏らし、たった今知らされた情報を反芻する。

 

「でまるかしおん……世界領土分割体制……!」

「南蛮国──スペインとポルトガルの間で結ばれた二つの条約を指してそう呼ばれます」

 

 「何を勝手なことを!」「日ノ本は我らが国ぞ!」「南蛮人どもめ…!」

 その場にいた誰もかれもが怒りに顔を染める。普段は飄々としている近衛卿ですら歯ぎしりをしてしまうほどだ。

 比較的冷静に事を眺めていた上皇が手を軽く叩き場をおさめた後、平伏する男に問いかけた。

 

「参議。其方は我らに何を望む」

「申し上げます──」

 

 参議──姉小路 頼綱は平伏したまま“計画”を話し始めた。

 

 

 


 

 

 

本編に書ききれなかった番外編

 

軍神と一緒に越後に帰る時に寄った飛騨国を見て

義昭「ねーねー、こいつら(三木)従えて上洛すれば良くね?」

軍神「駄目。無理。アキラメロン。」

 

完全開発された越中・能登・加賀とその軍勢(30万人)を見て

軍神「あんたコイツ(三木)従えられる?」

義昭「こんなん無理じゃん……下手に関わったらうちが乗っ取られるじゃん……」

 

能登で開かれた砂糖座を聞いて

義昭「金満大名なのに砂糖でさらに稼ぐのか(ドン引き)」

軍神「砂糖菓子うめー」(酒グビッ)

 

二条の戦いを見て

義昭「こわいこわいこわい」

光秀「なんだあれはたまげたなぁ」(二千人以上殺した自綱を見て)

長政「すげーしちょっと憧れるけど若いモンに見せられねーわ! あれを真似しようとするの絶対に出る!」

 

犠牲者を供養するために来た顕如と他ネームド

顕如「なんだこれはたまげたなぁ」

光秀「首を切ったあとが綺麗すぎる」(ドン引き)

長政「これ墓より塚作った方がいいッスね。将軍さまー?」

義昭「あ、はい。それでいいっすよ(祟られたら怖いし)」

二条の三好塚 誕生の瞬間である。

 




今章は他国から見た織田・姉小路(三木)の描写が中心となります。なので短いです。
そして最後にノッブから見たイッチの描写を挟んで最終章へ、といった流れに。
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