ワイの名前は三木自綱   作:アネコジマン

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※注意!※
このSSは「信長のシェフ」が原作です!
「太閤立志伝5dx」が原作ではありません!


幕間 其の壱

 永禄三年(1560年)──秋。

 美濃より北にある飛騨の地に二人の男が訪れた。

 一人は貴人を思わせる服装の老人、そしてもう一人は僧の恰好をした偉丈夫である。

 

 二人がここ松倉の城下町で出会ったのはまったくの偶然。意図したものではなかった。さらにいえば初対面である。

 初対面ではあるが互いに相手のことを知っていた。これも何かの縁であるとし、二人はこの町に滞在する期間限定で行動を共にすることとした。

 

「いやはやまったく見事なものですな。山国でありながらこうも賑わいをみせるとは」

「都ではこの地をどう呼んでいる」

「小京都──と。最初は何を大袈裟なと思うておりましたが、こうして足を運んで見てみればなるほど確かにと頷けますなぁ」

「ふむ……」

 

 小京都。それは本来“京都に似た風情を持つ町”に付けられる一つの称号である。

 しかしこの時代においてその称号は“京の都に劣らぬ素晴らしい町”という意味を持つ。

 京とは当時の日ノ本の中心。その京に劣らぬという評価はその地を治める大名にとって大きな誉れだ。そして同時に「そういう町を我らは作れるのだ」という国力の高さの証明ともなった。

 

 老人──松永久秀は僧の男へ振り返り訊ねた。

 

「これから私は町を一回りしてこようと思いますが、貴殿はいかがなさいますかな?」

 

 僧の男──上杉政虎は久秀の問いに答えた。

 

「我は知らねばならぬ。三木の人となりを。そのためにここへ来た」

 

 三木 自綱。三木家の現当主である若き大名。

 自綱は当主となってからわずか一年で所領である松倉の地を小京都と呼ばれるほどに開発、発展させた。

 そして去年。自綱は越中富山と能登七尾を落とし支配下に置く。この二つの地は現在凄まじい勢いで開発されており、いずれは松倉と同様の賑わいを見せるようになるだろう。

 山国の町とは思えないほどの賑わいを見せる城下町を歩きながら政虎は思う。三木 自綱とはいったい何者なのだ、と。

 齢15で当主となった若き大名。これといった実績を持たぬ文字通りの若造が当主である飛騨三木家は、早晩に他国に飲み込まれるだろうと思われた。しかしそうはならなかった。飲み込まれるどころか越中神保、能登畠山を征服し、今や北陸の一大勢力へと至っている。

 

 出店で購入した水菓子(果物)を頬張りながら、久秀は笑う。

 

「人となりですか。義将というのはなんとも不便ですなぁ」

「何が言いたい」

「気に入らんのでしょう? 三木の小僧のことが」

「……思うところがあるのは事実だ」

 

 老人の言葉に目を伏せる。気に入らない──それは政虎の正直な気持ちであった。

 ……三木にはある噂が流れている。神保と畠山、両家への攻込名分を朝廷より銭で買ったという噂だ。

 名分を、錦の御旗を銭で買う。朝廷を重んじる政虎にとり、銭の力で朝廷を意のままに操るその行為は許されざる“悪行”そのもの。

 もしその噂が真実であるならば、政虎はあらゆる手段をもって三木を討つつもりだった。

 

 しかしその強い覚悟はここ松倉を見たことによって大きく揺らぐ。

 城下町にある酒場から、商店から、果ては民草が住まう長屋から。そこかしこから賑わいの声が聞こえてくる。

 この世に極楽があるのならば、まさにこの地がそうではないか──そう錯覚してしまうほど、ここは平和だった。

 朝廷を銭で操る愚者にこの町を、小京都と呼ばれ広まるほどの町を作れるのだろうか。

 

 松倉の地を見たことにより政虎の決意は「本当に討ってよいものか」と揺らいでしまった。迷いを覚えてしまった。

 

 迷える軍神から視線を外し、新たに購入した水菓子を頬張りながらこれからのことを久秀は考える。

 

(足利は激昂した六角に殺され、今川は準備を整える前に上洛を強行したあげく織田相手に敗死。武田は“兵糧不足”ゆえに動けず、上杉には迷いあり。……ほっほっ)

 

 ここ数年、日ノ本は混沌とした状況が続いている。その最たる例は後世に“永禄の変”と呼ばれるようになる将軍殺害事件だろう。

 

 永禄元年。六角家当主の六角義賢は、敵対していた三好家と和解し中央へと戻ることが許された将軍足利義輝を自らの領地へ招いた。

 しかし翌年、義賢はほぼ全ての領地の来る“米不足”の対応に追われることになり義輝に自由を許してしまう。

 監視が緩み、自由となった義輝は動いた──六角家を乗っ取るために。

 その事実を“忠臣”の報告により知った義賢は激昂。百人の足軽を連れて義輝の屋敷を強襲し、そのまま殺害してしまった。

 

 六角義賢は知らなかった。

 

(剣豪将軍は哀れよな。偽報一つであっさりと死によったわ)

 

 “忠臣”の正体が三好家が潜り込ませた“草(スパイ)”であることを六角義賢は知らなかった。

 

(目障りな将軍だけではなく今川の義元も死んだ。武田はあの地から動けんじゃろ。故に……)

 

 隣に歩く男──上杉政虎が邪魔だった。この男は久秀の主を討てる可能性を持った男。何としても排除しなければならぬ存在だ。

 久秀には忠を誓った男が居る。その男の名は三好長慶。現在京を中心とした近畿一帯を支配下に置いている三好家の当主である。

 久秀には野望があった。それは主君長慶を天下人へと押し上げ自らはその右腕となること。天下の大宰相になることが彼の野望であった。

 

(三木……貴様も邪魔じゃ)

 

 近年、京にて名を高めている大名がいる。それが三木 自綱だ。

 自綱は京にて隠居している父を通して毎月寄進を行っていた。その額…三千貫文。

 城一つ建造出来るその額を、自綱は当主就任から毎月欠かさず寄進し続けた。さらに年末には一万貫文もの額を必ず寄進している。

 これには帝も大層お喜びになられた。三木の忠勤に対し恩賞を与えねばと口にするようにすらなった。

 

 京に、朝廷に影響力を持ち始めている三木自綱の存在を、久秀は危険視した。

 

(上杉に三木。こやつらがぶつかるように立ち回らねばならんか)

 

 決して表情には出さず、腹の中で笑う。すべては主君長慶のために。

 久秀は竜虎相搏の計により両家を潰そうとこの時決意した。

 

 しかし数年後、その決意は野望と共に久秀の手からスルリと抜け落ちてしまう。

 この時久秀は忘れていた。人は死ぬのだと。

 剣豪将軍がただの偽報計略で死んだのと同じように。人はアッサリと死ぬのだ。

 

 久秀がそれを思い出すのは主君長慶が病で倒れそのまま亡くなってからである──




次回も幕間です。
そして主人公の行動によって多大な被害を受けた「被害者の回」でもあります。
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