ワイの名前は三木自綱   作:アネコジマン

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ゲームシステムによる被害を分かりやすく説明

米転がし→米転売屋による米買い占めと価格のつり上げ、米不足。セクシーが動くまで待とう!

小京都云々→田舎の山奥にたった一年で大阪とか仙台とか札幌規模の街出来たら「あ、やべー」とか思いません?つまりそういうことです。


幕間 其の弐

 永禄三年(1560年)──冬。

 とある屋敷の一室、そこに屋敷の主と主に仕える二人の将が居た。

 上座にあるのは屋敷の主──武田信玄。そして下座には信玄の嫡男である“武田義信”と、信玄の忠臣“秋山信友”の二人。

 

「昨日、京に放った間者が戻った」

 

 碁石の黒を手に取りパチリと盤へと打つ。

 信玄は若き頃より碁を嗜んでいる。ただしそれは彼の趣味というよりも、思考能力を鍛えそれを維持するという意味合いが強い。

 

「六角めが将軍を押殺したのは事実であるようだ」

「なんと……!」「な、何故……!?」

 

 義信と信友の二人は驚愕に顔を歪ませる。

 さもありなん。武家の棟梁たる将軍の死というのはそれほどの衝撃を与えるものなのだ。

 

「六角義賢は将軍の行いに憤激、そのまま家臣を伴い押殺に至ったという話だ。……腑に落ちぬ」

「腑に落ちぬ、と申されますと?」

「六角と足利の繋がりは深い。あれの父が将軍の烏帽子親を任されたことからもそれは明らかよ」

 

 義信の問いに、信玄は自らの考えをよどみなく口にする。

 烏帽子親とは元服の際に烏帽子を被せる役割を持つ者を差す。“親”に選ばれた者は“子”の後見人となることが許されている。その後見人となったのが六角義賢の父“六角定頼”だ。

 足利家の元服式で烏帽子親を務めるのは、本来なら細川家のはずである。しかし足利家はそれを良しとせず、半ば強引に六角に烏帽子親を務めさせた。このことから足利は六角を非常に重要視していることが分かる。

 

 だからこそ信玄は納得が出来なかった。

 

「足利と三好の和睦、父が築いた朝廷への影響力の拡大。それらの成果から義賢は堅実かつ現実に即した判断が出来る大名であることが分かる。そのような男が感情に任せて将軍押殺などするものか?」

「それは……」

 

 父の言葉に義信は続くことが出来なかった。彼も「さすがに何かがおかしい」と思ってしまったのだ。

 信玄は迷いの感情を抱いた子を視界の隅に置き、白の碁石を盤へと打つ。

 

「間者からの報告はまだある。ここ数年、南近江では常に“とある物”が不足しているそうだ」

「南近江? ……六角の領地にございますか?」

「義賢はそれをどうにかするために奔走していたという話だ。家督を子に譲ってまでな」

「六角殿自ら動かねばならぬほどの非常事態だったと。そうしなければならぬほど重要な………信友?」

 

 義信はここで信友の異常に気付く。彼は両の拳を強く握りしめ、顔から脂汗を流していた。

 

「の、信友!? そなた身体の調子でも──」「秋山。何に気付いた」

 

 信玄は義信を制し問いかける。信友は一度拳の力を緩め、主君の問いに答えた。

 

「大お館様。南近江で不足しているのは米でございますか」

「然り。味噌やら塩やらも不足しておるようだ。……身に覚えがあろう?」

 

 その言葉に義信は思わず立ち上がる。

 

「そ、それは!? それはまるで──!!」

「東海は駿河や遠江、関東は周防を始めとした大小様々な国々。そして……甲斐や南北信濃。恐ろしいほどに状況は一致します」

 

 戦慄が走る。絶望的なまでの物資不足。それは彼らの現状と一致していた。

 甲斐、関東、東海。そして南近江。ここまで来るともはや偶然ではない。意図的に引き起こされたものと考えるべきだろう。

 

 沈黙が場を支配した。そんなことがあり得るのかという考えは圧倒的な現実によって否定される。自分達こそがその被害者であるために。

 信玄は幾度か盤に石を打った後、二人に命を下す。

 

「義信。親睦の使者として松倉へ向かうことを命ず。秋山、おぬしは義信の補佐だ」

「松倉──三木家でございますか?」

「うむ。あの家は今や北陸の一大勢力。あらゆるものが不足している今、あの家との関係を強め、新たな取り引き先とせねばならん」

「はっ! お任せください! ご下命、必ずや果たしてみせまする!」

 

 義信は居住まいを正し、平伏する。

 信玄は一つ頷いたあとに視線を信友へと移し……

 

 ──秋山、分かっておるな?

 ──御意。

 

 それぞれの意思を確認した後、信玄は二人を退室させた。

 部屋に残ったのは信玄のみ。パチリ、パチリと碁石を打つ音が響く。

 

「……三木自綱」

 

 信玄は碁石を並べながら情報を整理していく。

 天文23年(1554年)に父である三木良頼を松倉から追放し当主となる。

 そして僅か一年で飛騨松倉を小京都と呼ばれるほどに発展させた神童。

 

「……あの国の発展に対し、我らの現状は苦しい」

 

 妖術か何かを使ったのではないかと思われるほどの松倉の発展とは対照的に、甲斐や関東、さらには東海までもが歴史に類を見ないほどの物資不足に陥った。

 銭さえ出せば何もかもが手に入る松倉と、銭を出しても何一つ手に入らない国々。

 

「……偶然か?」

 

 間者の報告によれば、三木が手に入れた越中富山と能登七尾は凄まじい勢いで開発、発展しているという。遠からず新たな小京都が生まれるだろうともあった。

 三木の繁栄の裏には常に他国の……他家の衰退がある。果たしてこれは偶然なのだろうか?

 

「……わしは、我らは三木に勝てるか?」

 

 武田や他家の衰退の原因が三木にあるとして。ならばどうする? 連合を組み滅ぼすか?

 それは可能かと問われれば難しいと迷いなく答える。三木は堅城で知られる七尾城を僅か十日で落としている。しかも搦め手を一切使わず、正面からだ。

 間者の報告によれば、七尾城は武田の精鋭軍であろうと落とすのに最低三ヶ月はかかると言われている。その堅城を彼らは十日で攻略した。少なくとも戦下手ではあるまい。

 

「……まったく。織田といい三木といい……わしはここまでか」

 

 桶狭間で今川を相手に勝利した織田信長は史実よりも七年早く美濃国を平定し、大大名へと成長した。

 その信長の正室である濃姫は、自綱の正室である胡蝶と姉妹の関係にある。織田と三木の両家はいつ繋がってもおかしくはない“縁”を持っていた。そして信長はその縁に気付かないはずもなく、美濃平定直後に三木へと使者を送っている。

 美姫で知られる市姫を側室に送るのではないかという噂も一時期流れた。もっとも、市姫は浅井家との婚姻同盟に使われたためそれはただの噂で終わったが。しかしそういう噂が流れてしまうほどに織田は三木を重要視しているのも確かだ。

 織田と三木の同盟は間違いなく成るだろう。だからこそ信玄の夢はどうあっても叶わない。

 

「……時代は動くか。わしを、我らを置いて。悲しいものだ」

 

 パチリ。白の石を打つ。

 義信の補佐である信友には“三木自綱を見極める”という役割をあたえた。信玄は自綱がどういう人間なのかを理解する必要があった。理解しなければ武田は動けないと判断したのだ。

 現在武田は存亡の危機に立たされている。甲斐では食料不足が今なお続いている。三国同盟のおかげで今川や北条から食料を融通してもらっているが、それもいつまで続くか不明だ。何故なら彼らもまた苦しい状況にあるからだ。回復の見通しは未だに来ない。

 故に決断する必要があった。武田の道、武田の未来を。他ならぬ信玄の手で。

 

「……織田か、三木か」

 

 織田家と三木家。織田信長と三木自綱。この二人は間違いなく“時代”の中心となる。天下は彼らを中心に動くのは間違いないだろう。

 そしてその時に、どちらかの片腕に武田がなれたとしたら──

 

 

 


 

 

 

 美濃国 稲葉山城

 

 

 美濃の新たなる支配者である男──織田信長は、城の最上階から城下町を眺めていた。

 彼は何かを考えるとき、こうして高いところから景色を鑑賞するという癖がある。そしてその癖を知る者はほんの一握りのみ。

 

「殿。こちらにおられましたか」

「うむ」

 

 背後からかかる女の声。信長は振り返ることなくそれに答える。彼女こそがその一握りの者の一人──濃姫だ。

 

「よき風にございますね」

「悪くはない」

 

 冬とは思えないほどの穏やかな風をその身で感じながら、二人の眼は同じ方向へと向いていた。その先にあるのは飛騨国。

 

「胡蝶からの返事が届きました」

「そうか。先方はなんと?」

「松倉にて使者殿の到着を心よりお待ち申し上げる、と」

「ふっ……」

 

 少しだけ身を乗り出し、目を細め、口角を上げる。信長は自分でも気が付かないうちに笑っていた。

 それを指摘するのは無粋と考えたのか、濃姫はそのまま話を続けた。

 

「殿自らおいでになるおつもりで?」

「無論。三木には筋を通す」

 

 義龍が謀反を起こし美濃国を手に入れたあの時、これを討伐する権利と正当性を三木は持っていた。何故なら三木の正室は濃姫の妹……即ち斎藤道三の娘。その娘を旗印に謀反人義龍を討伐することは出来たし許される立場だった。

 それに待ったをかけたのが信長だ。三木が動く前に使者を出し、道三が残した遺言の内容を伝えた。美濃国は我のモノであると伝えたのだ。これは相手に宣戦布告と受け取られても仕方がないレベルの失態。

 そう、これは信長らしからぬ失態だった。もし過去に戻れたのならあの時まで戻り「未熟者!」と過去の自分を殴り倒すぐらいの大恥であると彼は思っている。

 

 理由は不明だが三木はその申し出を受け入れ静観、美濃国に一切手を出さなかった。

 故に信長は三木に対し頭を下げなければならない。そうしなければ彼は“先”へ進めない。

 

「帰蝶。共に来るか」

「はい。お供します」

 

 ……先に進むために、というのは嘘ではない。しかし信長が直接足を運ぶのには他にも理由はあった。

 飛騨松倉。小京都と呼ばれる城下町。それを僅か一年で作り上げた男──三木自綱。信長は自分より六つも年下のその若者に会いたかった。もしかしたら……という思いがあった。

 

 二人が初顔合わせとなるのは翌年の永禄四年(1561年)。この時より日ノ本は歴史の転換期へと入る。




原作キャラがやっと出たよ!
そして次は掲示板甲斐だー!
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