嗚呼、なんと素晴らしき自由(強制)   作:なめなめろう(旧名:ELDERSIGN)

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本日二回目の投稿です。評価と感想、お待ちしております。




地獄へようこそ

 

 

 どこまでも続くように思える暗闇も、やがて終わりを迎える。地面が見え始めた。

 

「ッ!身体強化!」

 

 全力の身体強化。それと共に、カインは最後の一本となった鉄棒を強く握り、地面に向けて投擲する。鉄棒はぐしゃぐしゃに潰れた。

 

 投擲による反作用によって、カインの殺人的な落下速度が緩まる。それのおかげか、身体強化を行なったカインは、大きなダメージもなく着地することができた。

 

「ハア、ハア……最悪だ。大部屋に罠はないはずだろ、クソ」

 

 悪態をつきながら周りを見渡す。あたりは豪華な装飾が至る所になされており、城の中のようであった。

 

「これは……死んだかもな」

 

 カインは第五階層までの情報を知っている。しかし、この城のような光景に心当たりはない。つまり、カインは第五階層よりも下の階層にいることになる。

 

 第六階層であるならばまだなんとかなるかもしれない。しかし、これが金級の認定条件である第七階層よりも下の階層であった場合。魔物との遭遇は死を意味する。

 

 探知の魔術を使用して、周囲の様子を探る。カインの探知の範囲はかなり広い。第一階層であれば、時間さえかければ階層の半分程度まで把握することができる。

 

「ハ、ハハ。これは、ヤバイな」

 

 探知の範囲に魔物が一体引っかかる。それが一体なんの魔物なのか、カインにはとんと見当がつかなかった。しかし、その身体に満ちている魔素の濃度は明らかに異常だった。

 

「十中八九、ここは迷宮の最下層近くだな」

 

 背中に冷や汗が流れる。カインの人生において、ここまで死が身近に迫ったことは一度もなかった。

 

 それでもカインは進むしかなかった。これが、命と浪漫を天秤にかけた結果なのだ。自分の選んだ選択を後悔したくはなかった。

 

「とりあえずは上に登る階段を探すか。その後の門番をどうやって倒すかはわからんが」

 

 魔物に遭遇しないように慎重に進む。曲がり角や小部屋の前では、必ず探知を行ってクリアリングをした。カインの所感ではあるが、この階層は魔物の数が少ない代わりに、魔素の濃度から一体一体の脅威度が高いように思えた。

 

「よし、ここの部屋には何もいないな」

 

 部屋に入ると、そこは書斎だった。床には古ぼけてはいるが、高級感のある赤いカーペットが敷かれている。

 

「迷宮にこんな場所があるなんてな。一体迷宮はどうやってできたんだ?」

 

 ふとサイエルの顔が思い浮かぶ。彼は迷宮の成り立ちを知っているだろう。けれどそれを知ろうと彼に質問しても、きっと曖昧に笑って「それを伝えてなんかメリットある?」と誤魔化して終わりだろう。

 

 書斎の本を手に取る。中を覗くと、見たことのない言語がずらずらと書かれていた。全く読むことのできない本を前に、諦めて本を閉じようとする。そこで視界の端にどこか見覚えのあるものを見つけた。

 

「見覚えがある……探知の魔術か」

 

 本の右端には探知の魔術を使用する際の、魔素の循環模様が描かれていた。ちなみにこの魔術ごとにある魔素の循環模様のことを正式には魔術式、あるいは魔術陣と呼ぶらしい。ナフト古本屋の目眩のするような専門書にはそう書いてあった。

 

「ということはこれは昔か外国の魔術書か?……だいぶ状態もいいし持って帰ったら結構な価値になりそうだな」

 

 ナフト古本屋の店主にプレゼントしたら喜ぶかな、なんて呑気なことを考える。

 

 書斎のその他の本も、どれもこれもが訳のわからない言語と魔術式ばかりが描かれていた。カインに理解できるものは一つもなさそうだ。

 

 次は机をちらと見る。

 

「これは……」

 

 机の裏には剣を抱え、鎧を身に纏った白骨死体があった。

 

 迷宮は構造が変わる。しかしそれは並べ替えのようなもので、通路の形状が変わることはよくあるが、部屋の中などが変わることはない。

 

 つまるところ、この死体はおそらくここで命を落とした探索者のものだろう。部屋の外にいる魔物に怯えて部屋に閉じ籠り、そのまま生き絶えた。カインはこの死体に自身の未来を幻視した。

 

「出るとするか。この部屋に留まっていたら気力が萎えそうだ」

 

 この部屋は安全であろう。しかしその安全さは、緩やかな死へと誘うのみだ。

 

 探知を行い、安全を確かめてから部屋を出る。探知には先ほどと変わらず魔物が一体のみ確認できた。

 

 その魔物を避けるようにして迷宮を進む。結局どの方向に行っても何があるかわからないなら、魔物から逃れられる方に進めばよいのだ。

 

 カインの足取りは重かった。心臓の鼓動は常よりも早い。探知で周囲を探ってもなお拭いきれぬ不安があった。

 

 それでも、カインはこの状況を楽しんでいた。いつ死ぬかわからないスリルは、確かにカインが渇望したものだったからだ。カインはその性根からして、探索者に向いているらしい。

 

「探知。ん?これは……階段だ」

 

 探知の範囲の一番端に階段を見つける。カインは少し安心して息を吐いた。

 

 それと同時にカインはより注意深く、より警戒心を持って行動し始めた。油断の恐ろしさは身に沁みて味わっている。

 

 しかし。本当の脅威とは、そんな警戒や心構えもお構いなしにやってくる。

 

 カインの真横に黒い霧が漂ったかと思うと、突然その中から魔物が顔を出す。

 

 その魔物は異形というほかなかった。

 

 人型でありながら、カインが見上げるほどの巨体。全身は赤黒く染まっている。背中には蝙蝠の巨大な羽が生え、尻尾は蛇。頭は歪に捻れた角をもつ山羊であった。そして、横に伸びた瞳孔からはなんの思考も感情も読み取ることができない。

 

 カインの全身が震える。呼吸は乱れ、鳥肌が立つ。足が動かない。

 

 目の前に現れたものは、邪悪であった。それは理屈ではなかった。心がそう断定した。魂が軋んだ。

 

 黒い霧からそれはようやく全身を露わにした。そしてゆっくりと、カインの方へと首を回す。

 

 

 

 悪魔が、カインを見つけた。

 

 

 

 

 





Tips:悪魔はずっとカインの存在に気づいていた。
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