嗚呼、なんと素晴らしき自由(強制)   作:なめなめろう(旧名:ELDERSIGN)

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課題に追われています。この小説は現実逃避です。




その男、最強

 

 

 目の前のデーモン二体に対して、カインができることはもう何もなかった。体を少し動かしただけで、全身がズキズキと痛む。

 

 (まあ、鳥籠はぶっ壊せたし、やることはやったかな)

 

 カインの怒りの熱はもう引いていた。あのデーモンを殺したことで満足してしまったのだ。

 

 デーモンの手がカインへと伸びていく。それをカインはただ諦めたように眺めていた。

 

 しかし、その手がカインを掴むことはなかった。

 

 二体のデーモンが唐突に後ろへと飛び退く。彼らは焦っているようにも、怯えているようにも見えた。

 

「一体、どうしたんだ……?」

 

 カインはデーモン達がじっと見つめる方向へと視線を向けた。

 

 通路の奥から、足音を立てながらゆっくりと歩いてくる男がいる。その姿は、果てしなく眩しかった。

 

 男は黄金の軽鎧を身にまとい、足の先から頭に至るまで、豪華にすぎる装飾品をいくつもつけていた。歩くたびにそれらがジャラジャラと音を立てる。

 

 そして、何よりも目を引くのはその顔であった。

 

 彼の顔は信じられないほどに光り輝いていた。物理的に。あまりにも輝きすぎていて、どんな顔をしているのかがわからない。

 

 彼の顔から放たれる光がデーモン達を照らし出している。カインはなんだか少しいたたまれない気持ちになった。

 

 もはや説明されなくとも、カインは理解した。この男こそが、『黄金』。

 

「そこの青年。よく頑張ったね。僕の助けはいるか?」

「もう指一本動かせないですね。助けてくれるならめちゃくちゃ助けて欲しいです」

「了解した」

 

 光が二体のデーモンの間にいきなり現れる。その光は『黄金』である。誰も、どう移動したのかを見ることはできなかった。

 

 気づけば二体のデーモンの足が同時に両断されていた。彼の手には黄金に輝く剣が握られている。

 

 悲鳴と共に足を失った二体のデーモン。逃げ込むように黒い霧に隠れる。正面から戦うにはあまりにも分が悪いと判断したようだ。

 

「閃光」

 

 周囲に光が満ちる。その光は一瞬で黒い霧を打ち払い、デーモンの姿を引き摺り出した。

 

 二体のデーモンは、無様に地面を這いつくばることしかできない。カインは気づかなかったが、いつのまにかデーモンの羽も斬り落とされていた。

 

「デーモンを倒す上で大切なのは、仲間を呼ばれないことだ。奴らは命が尽きる前に叫び、その声が仲間を呼ぶ。今回は呼ばれて来たデーモンだから、関係ないけどね」

 

 カインに話しかけるその声は、なんでもない雑談をしているかのようだった。デーモンは彼にとって、そこらの虫と変わらない。

 

「対処法は、一瞬で殺すこと。頭を一撃で吹き飛ばすのがベストだね。お手本を見せてあげよう」

 

 倒れ伏したデーモンの二つの頭。その直線上に『黄金』が立つ。

 

 彼が剣を両手で握り込むと、その剣に光が集まり始めた。剣を頭の上へと振り上げる。

 

「極光」

 

 眩く光り輝く剣が振り下ろされ、その剣から七色の極光が打ち出された。

 

 その光は直線上の全てを消滅させながら突き進む。それは迷宮の壁すら例外ではなかった。

 

 光が収まる頃には、頭を失ったデーモンの死体と、果てしなく続く穴だけが残された。

 

「うん、こんな感じかな」

 

 カインは、この男が自分と同じ人類であることが疑わしく思えた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 あれから少しして、カインと『黄金』は焚き火を囲んでいた。

 

「自己紹介をするとしよう。僕は金級探索者、二つ名は『黄金』のエクサ。さっきは危ないところだったね」

 

 エクサは爽やかに笑う。輝いていて顔は見えないが、そんな気がした。

 

「俺はカイン。鉄級だ」

「鉄級!?なんでこんなところにいるんだ?それに、とても鉄級の動きには見えなかったけど」

「……」

 

 正直、カインはこの男が怪しく見えて仕方がなかった。今の発言にもおかしなところがある。

 

「なあ、エクサ。あんたなんで俺の動きを知ってるんだ?見てたんだろ?俺を助けにくるタイミングも狙ったようだったしな」

「おっと口が滑った。……そうだね、僕は君を見ていたよ」

「いつからだ?」

「君が部屋から出てきた時からだね。デーモンとの戦いは全て見ていたよ」

 

 カインはぞっとした。何度も探知をしたはずだ。なぜこの男は探知にかからなかったのだろうか。

 

「迷宮の宝箱にはたくさんの魔道具が眠っている。そのうちの一つに、隠れ身の羽衣というのがあってね」

 

 エクサがひらりと一枚のマントを取り出す。裏生地は普通のマントだったが、表から見るとマントの向こう側の景色が見える。いわゆる透明マントであった。

 

「これを羽織ると探知にも引っかからずに隠れることができる。魔力は必要だけどね。これを使って君を見ていたんだ」

「……目的はなんだ」

「正直に言うとただの暇つぶしかな。僕はだいたいこの階層でぶらぶらしているんだけど、この階層に人が来るのはだいぶ珍しいからね」

 

 暇つぶし。その理由はあまりにも嘘っぽいものだったが、なんとなく本当なんだろうなとカインは思った。

 

「ちなみに、ここは何階層なんだ?」

「第九階層。知らないってことは、転移か落とし穴にでも引っかかったのか」

「ああ、第三階層の大部屋に落とし穴があった」

「なんだって?……イレギュラーすぎる。大部屋に落とし穴があるのも、六階層も下に落ちる落とし穴も異常だ」

 

 エクサは何か考え込んでいる。しかし、それどころではない、切迫した問題がカインにはあった。

 

「あ〜『黄金』。すまないが直視できないくらいにあなたの顔が眩しい。なんとかできないか?」

「ん?ああ、ごめんごめん」

 

 カインの目は既に潰れかけていた。

 

 エクサから放たれる光になんとか適応しようと、瞳孔が限りなく小さくなっているが、それによってただでさえ暗い迷宮の道をほとんど視認できなくなっていた。

 

 エクサは懐から、これまた金で作られたどこにも穴の空いていないのっぺりとした仮面を顔につけた。顔から放たれていた強烈な光が収まる。しかし今度は仮面のせいで顔が見えない。というか呼吸は大丈夫なのだろうか。

 

「野暮かもしれないが、なんでそんなに顔が光ってるんだ?」

「んはは、まあ、僕ほどになるとね。あんまりにもイケメンだから輝いて見えるのさ。常人なら目が潰れてしまう程にね。恋は盲目ってやつかな?いやー困ったねみんなを恋に落としてしまうだなんて」

 

 エクサは急に早口になった。自分で言っているくせになんだか恥ずかしそうだ。

 

「まあ、そんなことは置いといてさ。カイン君。君はこれからどうする?」

「漠然としすぎていてよくわからないな。もっと具体的に言ってくれ」

「どうやって地上に戻るのかってことさ。何かあてはあるのか?」

 

 あてはない。しかしそれを正直に言うのも憚られた。

 

「その顔を見るに、あてはなさそうだね」

 

 仮面をつけているのに、何が見えているのだろうか。カインは少し怖くなってきた。

 

「……ああ、そうだな。正直行き詰まってる。上の階層を目指し、"門番"を倒して帰還するのが一番現実的だと思っていたが、ここが第九階層だっていうのなら無謀だろうな」

「なら、取引をしよう」

 

 エクサが腰につけていた装飾品を一つ外す。

 

「これは回帰の宝玉といってね、砕くことで一度だけ迷宮から無条件で脱出できる。第八階層の宝箱に稀に入っている魔道具なんだが、これをあげよう」

「取引なんだろ?俺に、何を望んでいるんだ」

「いつかでいい。とある事に協力してほしい。その時になったら君に会いにいく」

「それは犯罪行為か?」

「いいや違う。ただ、命の危険はある」

 

 考えるまでもなかった。この提案を拒否すれば、今すぐに命を落としてもおかしくない。であれば、例え死の先延ばしに過ぎなくとも、この提案を飲まざるを得ない。

 

「わかった。その時になったら、あなたに協力することを誓おう」

「助かるよ」

 

 カインは『黄金』が自身に頼むようなことがあるのか、少々疑問に感じた。

 

 エクサがカインに宝玉を手渡す。

 

「あ、そうだ。カイン君。これを忘れているよ」

 

 エクサはいきなり立ち上がって、地面に落ちていたとあるものを拾った。

 

「デーモンの角。君の槍、折れてしまっただろう?これを使って新しい槍を作るといい。デーモンの角は、デーモンの肉体において最も硬い部位の一つだからね」

 

 エクサはブンとその角をカインへと投げ渡した。捻れ曲がった角の先端にはデーモンの血がついている。この角が、デーモンを殺したのだ。

 

「君の殺したデーモンだ。しっかりと使ってあげるといい」

「……言われなくとも、そうするさ」

 

 その角をカインは握りしめる。カインにとってこの角は、打開と敗北の象徴となった。

 

「じゃあな、『黄金』。またいつか」

「その時を楽しみにしている」

 

 宝玉を砕く。青白い光が宝玉から漏れたかと思うと、その光はカインを包み込んだ。次の瞬間、カインの姿は消えていた。

 

「カインか。彼は、有望だね。早く強くなってくれるとありがたいけど」

 

 エクサが焚き火を見つめながら独り言をこぼす。

 

「その時まで、ゆっくりと待つとするかな」

 

 その言葉を最後に、彼は仰向けになりその場で寝始めた。

 

 第九階層ですら、彼を傷つけられるものはいない。迷宮内で平然と寝るその行為こそが、彼が最強である証であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





Tips: エクサは禁足日も第九階層にいる。部屋でのんびり寝て過ごすのが好きらしい。

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