嗚呼、なんと素晴らしき自由(強制) 作:なめなめろう(旧名:ELDERSIGN)
遂に書き溜めがなくなりました。ここからは根性の毎日更新が始まります。
ギルドに着くなりリゼは受付嬢に話しかけ、何やらコソコソと言葉を交わした後、受付の中へと入っていった。流石についていくわけにはいかないので、カインは大人しくギルド内の酒場にある椅子に座って待つことにした。
実のところ、カインは酒場にはあまり居たくない。めんどくさいおっさんたちが暇つぶしに絡みにくるからだ。特に今は、前代未聞の第九階層への落下と奇跡の生還を果たしているせいで、いつにも増してうざったいことだろう。だが、今日はほとんど人がいない。みんな迷宮に潜っているのだろう。
「静かな酒場っていうのも珍しいな。まあこっちの方が好きだね」
何も頼まないのも悪いと思って、エールを片手にギルドを眺めるカイン。そんなカインに一つの影が忍び寄る。
「よお坊主。お前が酒を飲むなんて珍しいなぁ。どれ、付き合ってやろうか」
ゾルガだ。静かな酒場だなんて言った自分の口をカインは恨んだ。口は災いの元とはこういうことなのだろうか。
「あんた、絡み酒がすぎるんだよ。勘弁してくれ。今は師匠を待ってるだけなんだから」
「シショーだあ?俺の弟子になるのを断っておいて、一体誰の弟子になりやがった」
ゾルガがカインに詰め寄る。圧がすごい。
「私だ。せっかくできた初めての弟子なんだ、あまりいじめてくれるなよ」
ゾルガの側には、いつの間にか戻ってきていたリゼが呆れた顔で立っていた。
「うお、毎度毎度いきなり横に立つのやめろよ」
「気づかない方が悪い。酒を飲むと注意散漫になるのがお前の悪い癖だ」
「酒ってそういうもんだろ……」
リゼの横暴な意見にゾルガはゲンナリした。
「というか『蒼穹』がカインの師匠になったのか。まあ、相性はいいだろうとは思っていたが、まさかお前が弟子を取るなんてな」
「別に弟子を取りたくなかったわけじゃない。ただ今までは唆られる奴が一人もいなかった。それだけだ」
「その点カインは見込みがあるだろ?いい戦いのセンスをしてる」
「……ほう?まだ弟子が戦うところは見ていないからな。ゾルガが認めるのなら少し楽しみになってきた」
「なんだよ、戦ってるところを見たことねえのか。じゃあなんで弟子にしたんだ?」
リゼはそう聞かれると少し笑った。
「ふふ、思い出すだけでも笑えてくるな。この弟子はな、空を飛んでいた私に会うなり一言目が弟子にしてください、二言目が空を飛びたい、だ。素晴らしいバカだと感心してな。あんまりにも面白いもんだから弟子にしてしまった」
ゾルガは信じられないものを見る目でリゼとカインを見た。どうやらリゼの気持ちを理解できないらしい。これだから浪漫のわからんやつはダメなんだ。カインはゾルガを鼻で笑った。
「……そんなしょうもないことで師匠になったのか」
「「は?しょうもないだと?」」
「……随分と仲がよろしいことで」
二人の逆鱗に触れたことを察知したゾルガは、どこかへそそくさと逃げていった。
「次あいつを見かけたら蹴り殺すとしよう。師匠の私が許可する」
カインは敬礼した。
「さて、ギルドに報告すべきことも終わった。ということでカイン、今から君を鍛える」
「一体何をするんです?」
「まずはどれだけ動けるのかを見たい。それから何をするかを判断する。その後は【起源】について教えよう。気になっているようだしな」
【起源】。正体不明の魔術式。『蒼穹』の弟子になったのはある種の偶然だったが、彼女が【起源】を使用することができ、そんな彼女から教えを請えるというのは何か必然性を感じるものがあった。
「とりあえずは訓練所に行く。行ったことはあるか?」
「はい。そこでゾルガと手合わせしました」
「そうか。なら今回は私と少し模擬戦をしよう。同じ金級であっても、戦い方にはかなりの差がある」
リゼの実力に関しては疑うべくもない。『二つ名』を冠している時点で探索者の頂点に位置している。あの空の旅も実力あってのものだ。そんな相手と手合わせできる。カインの身体が期待感に震えた。
果たして、ゾルガとの戦いから自分がどれだけ成長しているのか。金級との距離はどれほどあるのか。それを確かめることができる機会は貴重だ。
訓練所に向かう間、カインはふととある疑問を思い出した。
「師匠。そういえば、前回の迷宮探索から帰ってきてからいきなり魔力の出力が高くなったんですよね。なんでかわかります?」
「例の第九階層事件か。確かデーモンを一人で殺したらしいな」
「そうですね。ほぼ奇跡みたいな勝ち方でしたけど」
「勝ちは勝ちだ。……なぜ魔力出力が高くなったのか、心当たりは一つある。中々あることではないから断定はできないが」
リゼが一度言葉を切る。幾ばくかの逡巡。どう説明するか言葉を選んでいるようだった。
「……私は魔法学者ではない。だから間違っているかもしれないが、おそらくデーモンの魔素濃度と君の魔素濃度の平均化が行われたのだろう」
「魔素濃度の平均化?」
「生物が死ぬ時、体内にある魔素が周囲に逃げていく。この時、魔素はより魔素濃度の低いところへと移動する。これによってデーモンの魔素が最も魔素濃度が低かった君の体内へと流れ込み、君の体内の魔素濃度が上昇したのだろう」
「うーんなんだか難しい話ですね。……あれ?でも多分俺の身体よりも空気中の方が魔素濃度は低いと思いますけど」
「曰く、生物が持つ魔素と非生物が持つ魔素は違うらしい。魂の影響がどうとか魔法学者共は言っていた気がする」
「なるほど?」
相槌とは異なり、カインは首を傾げていた。あまり理解できていない。
「魔素濃度の平均化は日常的に行われているが、今回は君とデーモンとの間にあまりにも大きな魔素濃度の隔たりがあったせいで、はっきりと自覚できる程に魔素濃度が上がった、と考えるべきだろう」
「とりあえず強いやつを倒したから強くなったってことでいいですか?」
「……」
何も間違ってはいないのでリゼは否定するのを諦めた。
「いやー結構意味わかんなかったから不安だったんですけど、それならよかった〜」
「魔素濃度が高まるのは基本的に得しかないからな。おや、こんな話をしていたらもう訓練所に着いたな」
訓練所も今日はほとんど人がいない。思い切り戦うには都合が良い。
「よし。じゃあ早速、やろう。すぐに準備しろ、私の弟子」
そう言っていつの間にかカインから距離をとっていたリゼは、左手の中指につけられている赤い小さな宝石が輝く銀の指輪を一撫でした。
「
宝石が一瞬、鋭く光り輝く。それと同時に、彼女の左手にはその高い身長よりも大きな鎌が握られていた。
その鎌からは、死の気配がする。
Tips: 魔術のことを魔法と呼ぶと、学者にとても怒られる。魔術とは魔素を扱うための技術のことであり、魔法とは魔素が振るまう法則のことだからだ。よって学校では魔術学科と魔法学科に分かれており、魔法学科は必ずしも魔術を扱えるわけではない。