嗚呼、なんと素晴らしき自由(強制)   作:なめなめろう(旧名:ELDERSIGN)

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気づいたらもう20話です。案外毎日投稿できるもんですね。これからも読んでくださるとありがたいです。次は目指せ10万字!




強さに犠牲はつきもの

 

 

「弟子カイン。そもそも【起源(オリジン)】とは何か知っているか?」

 

 カインはその言葉に首を振った。【起源】。デーモンとの戦いの最中、一度だけ使うことのできた魔術。果たしてなぜ使えたのか、【起源】励起、と口をついて出たのはなんだったのか、そもそもその正体はなんなのか。その全てに関してカインは答えを持っていなかった。

 

「一度だけ。一度だけデーモンとの戦いの最中、使う事ができました。いきなりある魔術式が頭に浮かんで、気づいたら【起源】励起、と言いながらその魔術式を起動していました」

「ああ、もう既に【起源】を励起させた事があったのか。なら、ツラい目には会わないで済む。よかったな」

 

 リゼは再び銀の指輪を光らせると、いつのまにか鎌は消えていた。

 

「【起源】とは、魂の形だ。そして全ての生物が個々に持つ、最も自然な魔素の流れが【起源】を励起させる【起源】魔術式となる。だからどんなに複雑な魔術式であっても、それが【起源】魔術式であれば容易に扱うことができる」

「一人一人が持つ唯一無二の魔術。それが【起源】……ってことで良いですか?」

「その認識で構わない。ちなみに、初めて使う時に自然と【起源】励起と唱えたのは、魂が使い方を知っているからだ」

「なるほど。でも、今使おうとしてもなぜか使えないんですよね。魔術式に従って魔素を動かそうとしても途中で制御できなくなるっていうか……」

「初めて使った時、君はどんな状況だった?」

 

 ふと、あの時のことを思い出す。デーモンの手の中で身動き一つ取れない。鳥籠に閉じ込められた小鳥のように、どこにも行けない。惨めで、ひたすらに怒りが湧く。自由。自由だ。自由が必要だ。

 

「【起源(オリジン)】励起」

「ふむ、飲み込みが早いな」

 

 あの時と同じように、魔術式が起動する。身体に全能感が満ちる。

 

「『自由(フリーダム)』」

「『自由』か……君らしい【起源】だ」

「は、はは。使えましたよ、師匠」

 

 たった一つの簡単なこと。自由を強く望む。ただそれだけであっさりと魔術式はカインに応えた。

 

「君も理解したと思うが、【起源】の励起には魂に刻まれた強い感情が必要になる。だから大抵は死の淵にいる時に【起源】を自覚することになる」

「ああ、ツラい目ってそういうことですか」

「そうだ。君が【起源】を自覚するまで半殺しにし続ける予定だった。その必要はなかったが」

「ひぇっ」

 

 あまりにも恐ろしい。【起源】を自覚させてくれてありがとう、デーモン。カインは初めてデーモンに感謝した。

 

「君の『自由』が一体どんな魔術なのか、少し調べてみるとしよう。参考までに言うと、私の『蒼穹』は空を飛ぶ補助と高速移動が主だ」

「シンプルながら強力な魔術ですね」

「ああ。とても気に入っている。まあそもそも【起源】は己の魂の具現と言うべきものだ。気に入らない方がおかしい」

 

 自身の【起源】を話すリゼはどこか誇らしげだった。よっぽど気に入っているのだろう。

 

「……俺の『自由』はどんなものでもすり抜けることができる。そういう魔術、だと思います」

「面白いな。相当強力な魔術に聞こえる。確かめさせてもらう」

 

 リゼは訓練所にある適当な剣を一振り手に取り、そのままカインに振り下ろした。

 

 剣はするりとすり抜ける。何度斬ろうとしてもその結果は変わらなかった。

 

「なるほどな。立っている以上、地面はすり抜けていないはずだが、何を考えてその魔術を使っている?すり抜けようと思ってすり抜けているのか?」

「いえ、どちらかと言うとすり抜けないものを選んでいます。だから今いきなり矢が死角から飛んで来たとしてもすり抜けるはずです」

「……ほぼ無敵だな。カイン、今すぐ『自由』を解除しろ」

「あっはい。わかりました」

 

 『自由』の励起を止める。すると途端に全身に痛みが走る。

 

「ぐっ……また、魔力痛か……」

「やはりな。魔術も当然、等価法則に則っている。そこまで強力な魔術であれば、使用に必要な魔力も膨大なものになる。戦闘中はあまり多用をすべきではないかもな」

 

 全身の神経に浅く針を刺されるようだった。疼きにも似た、けれど鋭い痛み。この痛みに耐えながら戦闘をするのは避けたい。

 

「毎日の生活で多用しろ。魔力痛が治った瞬間にな。幸い、周囲に被害が出るようなものではない。何度も繰り返し使えば、自然と長い間使えるようになる」

「わかり、ました」

 

 憂鬱だ。魔力痛って結構痛いんだよな……。

 

「そういえばもう一つ気になったことがある。痛いだろうが、もう一度『自由』を使え」

「う、うおおおお!【起源】励起!『自由』!」

 

 痛みに耐えながらなんとかもう一度使用する。さらに痛みが強くなる。神経が切り刻まれているようだ。

 

「し、師匠。これだいぶキツイです。何すれば良いのか早く教えて……」

「今からお前の腕をこの剣で斬る。ただし、剣を途中で止めるから、その時に『自由』を解除してみろ」

「なる、ほど。それって最悪俺の腕が消えますよね」

「そうだな。だが最高級のポーションは有り余っている。すぐに処置すれば簡単に元通りだ。やれ」

「鬼だ……」

 

 リゼは剣の腹をカインの左腕にすり抜けさせたまま、静止させた。丁度、剣の先と根本だけがカインの腕の外にある形だ。カインは励起を止めた。

 

 カン、と金属音が一つ響いた。足元を見ると剣の先端が落ちている。

 

「綺麗に君の腕に埋まっていた部分だけ、剣が消し飛んでいるな。なるほど、転移の罠と同じ現象か。上手く使えば防御不可能の攻撃になりそうだ」

「それってめちゃくちゃ強くないですか?」

「強い。断言するが、私が見てきた【起源】の中でも一二を争うほどに強い。ただ、今のは格上相手には通用しないと思った方がいい」

「それはまたなんで?」

「……もう一度使え。これで最後だ」

 

 カインは泣きながらもう一度『自由』を使った。今日はもう動けないだろう。

 

「おお〜ほんとにすり抜けてるな。空気と変わらない」

「あ、遊ばないでくださいよ……維持するのマジで痛いんですから」

 

 リゼは自分の右手をズブズブとカインの身体に埋めて遊ぶ。そしてカインの胸の辺りで手を埋めたまま静止させた。

 

「よし、解除しろ」

「え、師匠、このままだとあなたの手が消えますよ?」

「そうかもな。だがやれ」

 

 渋々カインは言われた通りに励起を止める。その瞬間、バチンと大きく弾ける音と共にリゼの手がカインの胸から弾き出された。

 

「な、何が起きて……」

「今のように、より魔素濃度が高い相手であれば、消し飛ばずに弾かれ合うだけで済む。これが戦闘中に起きると大きな隙になる。よほど格下じゃない限り、すり抜けている最中に励起を止めるのはやめておけ」

「ちなみに、転移の罠もこれと同じことが起きるんですか?」

「ああ。だから魔素濃度が高ければ転移の罠で即死するリスクも減る。あの『黄金』のバカは、転移の罠を見つけたら運試しに引っかかりにいくからな。それで隣国とトラブルになったんだから、ある意味ツイてる」

「それはなんとも、流石『黄金』と言うべきですかね」

「少なくとも私は真似する気にはならないな。……ん?」

 

 リゼはふと自分の右手を見た。真っ白で綺麗な手だ。次に左手を見る。黒い革手袋が大人の魅力を引き出している。また右手を見る。お手本のような二度見。つけているはずの黒い手袋がない。

 

「あ、ああ、あああ。お気に入りの手袋が……私のてぶくろが……」

「し、師匠!師匠!しっかりしてください!」

 

 リゼの魂が抜けた。金級探索者ここに死す。黒い革手袋はカインのために犠牲となったのだ。

 

 

 

 

 

 





Tips: 【起源】は魔術の起源でもある。複雑な【起源】魔術式から一部分を写し取り、誰にでも扱えるように落とし込んだのが魔術の始まり。そのため今も【起源】魔術式の研究は活発であり、【起源】の劣化とも言える現在の魔術を【起源】に近づけるのが魔術学者の目的である。

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