嗚呼、なんと素晴らしき自由(強制)   作:なめなめろう(旧名:ELDERSIGN)

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グルメとか料理タグをそろそろつけた方がいいかもしれない。




お邪魔します

 

 

 リゼが機能停止してから10分。彼女はようやく再起動した。

 

「はあ……今日はもうやめだ。帰る」

「し、師匠。新しい手袋を買う時は自分がお金を出しますから……」

「弟子にお金を出してもらう情けない師匠がどこにいるんだ……それにこれは私の失態だ。なぜ私は保護の魔術をかけなかったんだ……」

 

 意気消沈。カインの目にはリゼがどんどん小さくなっていくように見えた。

 

「……あの、師匠。実は自分、ウサギを狩ってきたんです。それで、せっかくならシチューにしようかなって思ってたんです。よければ振る舞いますが……」

「ウサギのシチューか……いいな、それは。うん、気持ちを切り替えるとしよう。カイン、元気の出る美味いシチューを頼む」

「わかりました!」

 

 手によりをかけて作った料理で師匠を喜ばす。これぞ弟子の本懐。全身が痛みに苛まれていても、カインはなんだかやる気が出てきた。

 

「じゃあ、帰るか」

「帰るって、どこにです?」

「何を言っているんだ?私の家に決まっているだろう。さっさと着いてこい」

 

 ツカツカと歩いて行くリゼ。自分が泊まっている宿屋の台所を借りてシチューを作る気でいたカインは、いきなりリゼの家にお邪魔することが決まって動揺した。

 

 カインの村は閉鎖的で、特に付き合いのある女の子もいなかった。いつかは隣の村などから許嫁がやってくる予定だったが、その前に村は空に消えた。カインにまともな女性経験はないのだ。

 

 そんなカインがいきなり女性の家に足を踏み入れるというのはかなりハードルが高い。心臓がバクバクと鳴り始めた。しかしリゼは待ってはくれない。どんどんと遠のく背中。カインは追いかけることしかできなかった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 リゼの家はラークルの近郊にあった。そのため、彼女の家に着く頃にはすっかり日が落ちていた。

 

 周囲には彼女の家以外に建物はなく、豊かな自然がそのままになっている。

 

「これが師匠の家……広いですね」

 

 屋敷、とまでは言えないもののかなり大きい家。そして何よりも目を引くのは、外から眺めるだけでもわかる規格外の広さを誇る庭である。手入れが大変そうだ。

 

「ここらは土地が安い。そして私は曲がりなりにも金級探索者だ。ともすればここならいくらでも広い家を作れる。それに庭が広いと色々と都合がいいのさ。まあ今は関係ない。さっさと家に入るぞ」

 

 重そうな鉄の扉でできた正門。それをリゼはあっさりと一人で開けた。

 

 庭に足を踏み入れると、老年の男が草木の手入れをしている。

 

「いつもありがとう、じいじ。ただいま帰った」

「お帰りなさいませ、リゼ様。その方は御客人ですかな?」

「似たようなものかもしれないな。私の初めての弟子だ。名をカインという」

「よろしくお願いします」

「これはこれは、どうもご丁寧に」

 

 その男は、穏やかな笑顔が似合う男だった。きっと誰もが優しそうだと思う、そんな笑顔だった。

 

「私めはもう少し草木の手入れをいたしますが、それでもよろしいですかな?」

「ああ。こちらのことは特に気にしないでいい。それと台所を使わせてもらうぞ」

「おや、何とも珍しいことです。リゼ様が料理をするとは」

「はは、違うぞ。弟子が私に自慢の手料理を振る舞ってくれるそうだ。ではな」

 

 リゼは手をその男にヒラヒラと振って、その場を後にする。そんなリゼの後ろ姿に向けて、男は綺麗なお辞儀をして見送った。

 

「あの、師匠。あの方は誰なんです?」

「昔から世話になってる庭師だ。私の親も彼の世話になっていたが、私がラークルに来た時に、心配だと言ってついてきた。有難い話さ」

「あんなに広い庭をあの人一人で手入れしてるんですか?」

「そうだ。彼は例えどれほど庭が広くなろうとも完璧に手入れを終える。彼以上の庭師を私は知らないな」

 

 あの穏やかそうな老人が、機敏に動きながら毎日庭を手入れする様子をカインは想像した。……老人虐待の匂いがする光景だ。

 

 家の玄関扉を開けると、適度な生活感の漂う暖かい空間が広がっている。清掃も行き届いており、ほとんど埃もない。

 

「そこそこ大きい家なのに、ここまで綺麗なのはすごいですね。メイドとか執事を雇っているんですか?」

「そんな堅苦しくて面倒なものには頼らない。世の中には便利な魔術があるのさ。部屋の隅々まで勝手に風が吹いて埃を集めてくれる魔術とかな」

「それ、めちゃくちゃ教えて欲しいんですけど」

「いつかな。君が空を飛べるようになる頃には、きっと教えてるはずだ。……さて、ここが台所だ」

 

 台所も非常に綺麗に整えられていた。一つの油汚れも見当たらない。

 

「ほとんど台所を使ってないんですか?」

「私が使ったことはないな。じいじはよく使っているが」

「それじゃあいつもご飯はどうやって食べてるんです?」

「じいじが私の分まで作ってくれる時もあるが、大抵はラークルの適当な飯屋で食べてるな。それが一番楽だ」

「さすが金級。節制という言葉を知らなさそうな食生活ですね」

「……君もかなり鋭い毒を吐くものだな」

 

 カインをジト目で睨むリゼ。しかし言われたことに心当たりがあるせいか、それだけにとどまる。

 

「さて、早速ウサギのシチューを作りますから、師匠は適当に休んでいてください。ここにある食材は勝手に使っても?」

「好きに使え。じいじもすでに夕飯を食べているだろうし、どんなに食材を使ったところで困ることはない」

「いやあ、料理をするには最高すぎる環境ですね」

 

 カインのやる気を見て、自分がここにいても邪魔になるだけだとリゼは判断し、さっさと台所から出て行った。

 

 リゼが台所からいなくなると同時に、カインは腕を捲る。料理開始。まずは下処理を終えたウサギを捌いていく。

 

 シチューで食べやすいよう一口大にカット。この際に骨は外しておく。外した骨とアバラは適当に焼いた後に、水を張った鍋の中に入れてダシをとっておく。灰汁をとるのを忘れずに。

 

「リゼ師匠~時短でそれなりに美味しいのと、結構時間はかかるけど凄い美味しいの、どっちがいいですかー」

 

 すでに別の部屋にいるであろうリゼに聞こえるよう、大声でカインは叫んだ。しかし返事はない。聞こえなかったのかと思い、もう一度叫ぼうとする。だがその前に、光る何かがカインのいる台所に飛び込んでくる。それは魔素で書かれた文字であった。

 

 美味ければ美味いほどいい。時間がかかるようなら私は風呂にでも入ってくる。出来たら呼べ。

 

 「……うんと美味いのを作るか」

 

 どうやってシチューを作るかの算段をつけたカインは、台所にある冷蔵庫から必要な食材を取っていく。

 

 まずはベーコン。どうやら燻製されているようで、食欲のそそる芳しさが漂っている。それを適当に細かく切ってフライパンで炒める。ベーコンの旨みの強い脂がコクになる。しっかりと脂がパチパチと跳ねるまで焼き切る。

 

 カリッとしてきたら一旦ベーコンを取り出して、ウサギの肉をその脂で炒める。ウサギの脂はベーコンとは異なって甘みがある。この甘みのある脂はやはりウサギでないと出せない味だ。

 

 ウサギからも脂がしっかりと出たらこちらも取り出してオーブンでじっくりと焼いていく。次は野菜。玉ねぎとニンニクを炒める。しっかりと焼き目をつけると、味に深みが増す。焦げを恐れずにしっかりと炒めよう。この辺りでにんじんも入れる。

 

 ある程度火が通ったら、大きな鍋に移し替えて、ここにベーコンと、オーブンでホロホロに焼いたウサギ肉を戻す。

 

「お〜高そうな葡萄酒ばっかだ。まあこれだけあるし好きに使っちゃうか」

 

 カインは数十本ある葡萄酒の中から適当な一本を手に取り、それをウサギの骨から取ったダシや数種類の香草と共に鍋に入れた。この状態で1時間ほど煮込む。

 

「さて、時間もあるしマッシュポテトでも作るか」

 

 煮込んでいる間に添え物のマッシュポテトを仕込む。幸い、良いバターとミルクがある。どう足掻いても美味しいマッシュポテトができるだろう。

 

 ひたすらポテトをマッシュし、とことんなめらかに。もちろんその間もチラチラと鍋の様子を伺う。特に問題なさそうだ。

 

「マッシュポテトもいい感じだし、煮込むのもそろそろいいかな」

 

 鍋に塩を軽く振り、黒胡椒はたっぷり入れる。想像の倍くらい。そっちの方が美味しい。

 

「味見味見っと。……うん、美味いね」

 

 最後に味の微調整をし、香草を取り出す。

 

「盛りつけて……これでよし」

 

 皿に綺麗に盛りつけて、横にマッシュポテトを添える。少しだけ残しておいたカリカリのスモークベーコンをポテトに乗せて、シチューにクリームを回しかけたら完成。ちなみにシチューと一緒に食べるバゲットとオリーブオイルも準備した。

 

「出来ました〜今から持っていきますね〜」

「おーご苦労。もう食べる準備は済んでるぞ〜」

 

 少し持っていく料理が多いので、配膳車に乗せて声のする部屋へと向かう。

 

 カインが部屋に入る。

 

 部屋の中では、風呂上がりで髪が少し濡れているリゼが足を組んだまま椅子に座っていた。透明感のある彼女の白い肌は、少し赤らんでいる。テーブルには葡萄酒とチーズが置かれており、彼女はすでに飲み始めていた。

 

 だがそんなことは問題ではない。問題なのは彼女の服装である。

 

 上は薄い肌着一枚に、下はパンツのみ。程よくついた筋肉で引き締まった太ももが惜しげもなく晒されている。しかも肌着は風呂上がりの水滴で少し張りつき、肌が透けている。

 

 この女はアホなのだろうか。弟子とはいえ、仮にも男の目の前で何という服装なのだろうか。

 

 当然カインはその光景を見て、顔を真っ赤にしてすぐに目を逸らした。

 

「ん〜〜?はは、私の弟子。もしかして恥ずかしいのか。まさか、そこまでウブだとはな。はぁ〜〜これが楽なんだがそうやって顔を赤くされると食事に集中出来ないし、着替えるとするか」

 

 リゼはそう言って部屋から出ていった。

 

「勘弁してくれよ……」

 

 ぽつんと一人取り残されたカイン。シチューから立ち上る湯気が、どこか寂しかった。

 

 

 

 

 

 

 





Tips:リゼは27歳。身長は172cm、体重は70kg。
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